Books-Sociology: 2007年2月アーカイブ

・ウェブが創る新しい郷土 ~地域情報化のすすめ
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「地域情報化 認識と設計」の共著者であり、シンクタンク出身で地域情報化のエキスパートである丸田一氏がWeb2.0と地域情報化の接点にスポットライトをあてる。

近年の地域活性化の大きなトピックが「こどもの安全」と「2007年問題」(団塊の世代の引退)であるそうだ。こどもを守るには地域コミュニティによる監視と協力が不可欠であるし、会社を引退して家に居る高齢者が増えることも間違いない。人は人生の最初と最後で地域に戻ってくるわけだ。

長い間、多くの日本人にとって地域を出て、地域へ戻ることは典型的な人生のモデルであった。

「郷土は、自分を育てあげてくれたたくさんの人の顔や、生活環境、自然風土に関する実態的な記憶で構成されたイメージである。「故郷」が書かれた大正時代と、私の幼少期の昭和40年代とでは社会環境が大きく異なるが、幼い自分に関する個人イメージが郷土を形づくっていることに変わりない。
「故郷」の三番に「こころざしを果たして、いつの日にか帰らん」という一節が登場する。この故郷に帰るという心情は、洋の東西を問わず、故郷を捨てて「都市」を目指した近代人に付きまとってきたものである。ここに現れている、郷土(出現)→都市(突破)→郷土(成熟)という人生ゲームが広く一般化したことで、人生ゲームの始めと終わりを飾る郷土が、都市に彷徨える現代人にとって確実な自己証明書になってきた。」

ところが現代の若い世代の多くは「兎追いし かの山 小鮒釣りし かの川」のイメージを持たない。リアル郷土のイメージが希薄な世代である。錦を飾る郷土が見えにくくなってしまっていた。

そこへ、こどもの安全の確保、引退者の大量出現への対応という時代の要請と、ITという道具の普及が変化をもたらした。新しい地域活性化の試みがこの本にはたくさん紹介されている。たとえば地域SNSが次々につくられて数千人規模にまで成長したケース。誰もが講師になれる生涯学習プログラムの熱気。NPO法人が情報化の仕事を受注し地域コミュニティ内のSOHOが請け負う仕組みで事業を創出したケースなど。成功例または成功の兆しがたくさん解説されていた。

地域は信頼性の高い情報プラットフォームになる可能性を秘めている。国領二郎慶応大学教授の意見が引用されている。

「外部効果の強い、つまり貢献に対するリターンが外部に流出しやすく、参加の貢献のインセンティブが弱くなりやすいネット上の情報共有も、地域(物理的近接)のバインドのなかであればメリットを可視化、内部化しやすく、持続可能な誘因と貢献のモデルを構築しやすい」

生活空間の関係性があれば、おかしなことはできないというわけだ。

私は社会人になって5年くらい東京で暮らしたが、結婚を機会に地元へ戻ってきた。定住すると決まって、さらに、こどもが生まれると特に地域のことは考えざるをえなくなる。しかし、昔ながらの隣近所の濃いつきあいは自分に馴染みそうにない。だから地域の掲示板を眺めていて、どうしても何か言いたいときに書き込むくらいの関係性がしっくりくる。私と同じ世代もそう考えている人が多いのではないかと思う。


閉じつつ開いたコミュニティ。地域情報化はそうした時代の空気にマッチした仕組みをつくることが成功の鍵になるのではないかと思った。、


・Passion For The Future: 地域情報化 認識と設計
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004496.html