Misc: 2003年10月アーカイブ

・アフォーダンス-新しい認知の理論
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情報デザインの世界で「アフォーダンス」というキーワードはデザイナーやマーケターに一時流行した。言葉は広く使われるようになると意味が多義化されてしまう。認知科学における本来のアフォーダンスの意味を知りたくなって、この薄い本を読んだ。

分かったこと。

アフォーダンスは、米国の知覚心理学者ジェームズ・J・ギブソンによって1960年代に完成された理論である。空間内で何らかの作業をしてドアから出る動作をするロボットをプログラミングしたいとする。古典理論では、部屋の全体の地図や配置された物体のデータを予め擬似環境モデルとして、記憶させておくのが定石だ。だが、この方法では、モデルにないドアを開けることはできないし、足が滑ったなどの予測不能の事態には対応できない。単純化された擬似環境ではなく、現実の環境の中でおきうる、すべての状況の組み合わせをプログラムに組み込むのは、ほとんど不可能なことである(フレーム問題)。

ヒトは部屋が傾こうが、ドアが壊れていようが、目的を達して部屋から容易にでてくることができる。ギブソンは、錯視がなぜ起きるのか、光のはたらき、敵機を撃墜するパイロットの認知能力などを研究した結果、新たな認知理論を確立する。ヒトは擬似ではなくリアルな環境の情報を探索し、「すり抜けられる隙間」「登れる段」「つかめる距離」というアフォーダンスを発見する。ヒトの器官は自律的に、これらのアフォーダンスを帯びた対象に働きかけながら、自らの次の身体動作を連続的に協調補正していく。だから予めの擬似環境モデルを持たなくても、さまざまな行為を極めて柔軟に行うことができる。フレーム問題は起きる余地がない。

「動物にとっての環境の性質」であるアフォーダンスは、世界に満ちていてヒトに発見されるのを待っている。「座る」アフォーダンスを見つけられれば、椅子でもコンクリートブロックの上でも座ることができる。新聞紙でも請求書でも破ることができる。そして異なる視点からみても椅子は椅子とみなすことができる(不変項の認知)。私たちは擬似モデルの世界でもなければ、網膜に映るそのままの世界に生きているわけではなく、発見したアフォーダンスの世界をリアリティとみなしているのだ。

とまあ、ざっと自分なりのこの本の解釈はそんな感じであろうか。

評価:★★☆☆☆

今日は、三次元のオーグメンテッドリアリティ(拡張現実感)の技術の研究者と、あるバーチャルリアリティ(VR)システム実用化の案件で長々と話す機会があり、VRとアフォーダンスについていろいろ考えた。(拡張現実感というのは、仮想空間の上にさらに情報を投影し、例えば壁の裏側の配管が透過されて見えたり、誰も座っていない椅子の上にキャラクタを座っているかのように見せたりする技術のことだ。)

バーチャルリアリティは、主に実世界の見栄えに近い擬似空間をいかに表現するかが、主題だが、このオーグメンテッドリアリティは、擬似空間+αである。実用化にあたっては、αの部分を何にするかが問われる。彼との対話の中で、この+αの部分はアフォーダンス情報が適していそうだ、と思った。曲がれる角、食べられるもの、動かせるもの、クリックできる場所、そういった情報こそ、アフォーダンス理論によればヒトにとって重要なリアリティの本質であるからだ。

バーチャルリアリティや、情報の3D可視化の技術は最近妙に増えてきた。例えば最近では、

・Windowsデスクトップを3D仮想空間で操作 エポケ
http://www.epoche.ne.jp/apinfo.htm

・Goo3Dウェブ検索(NTTの研究Infoleadの実験サービス)
http://goo.ntt-infolead.net/

・BitMusic 仮想空間で音楽ショッピング。
http://bit.sonymusic.co.jp/bb_index.html

などは話題になったが、果たして三次元可視化にどの程度の意味があるのか、私には、よく分からなかった。

アフォーダンス的だなと思ったのはドラグリだ。これはもっと使われても良い3D(?)技術と思う。動かせる場所、アクションが開始される場所をホットポイントとして表示する。

・ドラグリ
http://www.dragri-fan.com/

また、MITのTangibleBitsの研究も、仮想世界とアフォーダンスのつながりに近いなと思う。

・Tangible Bits:情報の感触/情報の気配(このPDFは要約として最強!)
http://tangible.media.mit.edu/papers/Tangible_Bits_IPSJ98/Tangible_Bits_IPSJ98.pdf
「TangibleBits は,bits(オンライン・ディジタル情報)の世界からatoms の世界(物理世界)への回帰と融合を目指すものであり,tactility(感触)とperipheral sense(気配)を基軸とした,新しいインタフェース・デザインを展開している」

・複合現実感で“体感ゲーム”も 「Tangible Augmented Reality」
http://www.zdnet.co.jp/news/0301/22/nj00_tangible.html

今日は帰ったのが午前12時を回ってしまった。専門の研究者の方と、VRやARを使った、より便利なインタフェースを作る作業は考えていて、時を忘れるほど、とても楽しかった。今日の成果が実用化されるとよいのだけれど。

今日のコラムはそういうわけで帰宅後、勢いで長く書いたけれど結論がない。私もまだまだ考えていることころ。