情報デザイン入門―インターネット時代の表現術

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・情報デザイン入門―インターネット時代の表現術 平凡社新書
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この本の著者はセンソリウムのプロデューサの一人だ。と書いただけで興味を持ってくださる方もいらっしゃるはず、と思う。

Sensoriumは、日本を代表するインターネット上のメディアアートのひとつ。1996年のインターネット1996ワールドエクスポジション(IWE96)」の日本代表パビリオンとして制作された。制作チームは、「生きている世界をビビッドに感じ取ることができる情報の道具」をセンスウェアと定義し、そのデモンストレーションサイトをオンラインに公開した。国際的な章も受賞し、日本のネット草創期の伝説のひとつとなった。

・センソリウム
http://www.sensorium.org/all-j.html
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世界で発生している地震のデータに合わせて、該当地域をデコボコと動かす地球のビジュアライゼーション「Breathing Earth」であるとか、パケットの流れを世界地図上に表現した「Web Hopper」、ネットワーク上を流れるデータを音楽として聴く「Net Sound」など、今見ても新しさを感じるメディアアートのオンパレード。当時の状況を考えると、技術的にも、かなり高度な実装が行われていた。

この本は情報デザインの知識の全体像をつかむのに最高の書である。リチャード・S・ワーマン、松岡正剛、ドナルド A.ノーマン、ヤコブニールセンら、情報デザインや編集業界の重鎮たちの仕事を、分かりやすく解説してくれる。自身がクリエイターなので理論だけでなく、実践の視点も忘れず記述されている。何より、図表も多く平易で、読みやすい。

この本で紹介される情報リソースをあたって、私は芋づる式にたくさんの情報デザインや編集関連の本を読んだ。大きな体系の全体像を整理し、何が面白いかを伝えてくれる入門ガイドとして、最初にこの新書を読んでよかったと思う。

著者は最終章「社会に開かれていく情報デザイン」の中で、最新の関心として地域コミュニティの情報デザインを取り上げている。主に大家の仕事を要約している他の章と違って著者の考えが最も前面に出ていて興味深い。

ここではEUの知的情報インタフェース研究の資金を使って大手家電のフィリップスが実施した地域情報プロジェクト「リビングメモリー」のケースが紹介されている。このプロジェクトは、

・LivingMemory
http://www.design.philips.com/smartconnections/lime/index.html

(1) 地域にとって、最も豊かな情報資源は、そこに住んでいる人々自身にある
(2) 地域には情報活動の核になる結節点がいくつか既に存在している
(3) 人が情報にアクセスするにはそれ相応の物語がある

という3つの基本原理の思想のもとに、学校、病院、ショッピングセンター、パブの4つを地域コミュニティの結節点と考え、家庭や公共施設にマルチメディア端末を設置して情報交換を行わせることをゴールとした試みだ。著者は住民に情報を与えてやる式の、日本のニューメディア構想と比較して、住民から情報を引き出す手法を高く評価している。住民は情報の消費者ではなく生産者だということだ。

この3つの基本原理は、地域コミュニティに限らず、ネットコミュニティとそのビジネスモデルにも参考にできそうだ、。例えば、この3つの原理に私が思うのは、

インターネットで世界に情報発信が出来るようになったからといって、本当に世界に情報を訴えたい人は何パーセントくらいいるだろう?多くの人は特定の場所(結節点)で、近しい知人や友人に、1日に発する大半の情報を発信、交換しているはずだ(1)。既に結節点は存在しているのに、無理に新しく作ろうとして失敗するコミュニティプロジェクトは多い(2)。便利や高機能を訴求するばかりで、生活のシーンのどこで使えるのか、満たすべき大きなウォンツやニーズは何なのか結局分からないITツールもよく見る(3)。

などということ。なぜ大手企業のコミュニティが失敗して2ちゃんねるが成功しているのか、という疑問にもヒントが得られそうに思えてくる。

情報デザインの本質はGUIの設計やディレクトリ構造の作り方といった小手先の話でなく、生きた使い手の場をどう捉えるか、という思想の重要性を、この本の後半は語ってくれている。コミュニティやエンドユーザ向けのITサービス設計者必携の入門書。

評価:★★★☆☆

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このページは、daiyaが2003年11月 7日 23:59に書いたブログ記事です。

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