初夜

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・初夜
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喜劇のような悲劇、あるいは、悲劇のような喜劇。イアン。マーキュアン作。

「彼らは若く、教育もあったが、ふたりともこれについては、つまり新婚初夜については、なんの心得もなく、彼らが生きたこの時代には、セックスの悩みについて話し合うことなど不可能だった。いつの時代でも、それは簡単なことではないけれど、彼らはジョージアン様式のホテルの二階の小さな居間で、夕食のテーブルに着いたところだった。隣の部屋には、ひらいたドア越しに四柱式のベッドが見える。幅はやや狭めだが、ベッドカバーは純白で、しわひとつなくピンと張り、人の手で整えたとは思えないくらいだった。」

という出だしから始まる。

1962年、まだ保守の空気が濃厚だった英国で、ある夫婦の結婚初夜の事件について、ゆっくりと語られて、それだけで一冊が終わる。歴史学者志望の夫エドワードとバイオリニストの妻フローレンス。新潮クレストなので終始、上品で優美さは失わないのだけれど、あまりに深刻に童貞と処女の悩みが語られるものだから、吹き出しそうになる。

初体験であるがゆえの焦りや過剰反応のもたらす滑稽さ。それが二人の人生に致命的な結果をもたらしてしまう。若いときの深刻な決断って性に限らず、往々にして、はたから見たら滑稽なのだけれど、それが分かる頃にはもう若くない。青春のままならなさを描いた作品ともいえるわけですが。

純文学×恋愛×官能×喜劇×悲劇×歴史×... ユニークな作風が強く印象に残って、面白かった。ストレートじゃない独特な恋愛小説を読みたい人におすすめ。読みやすい。

・誕生!中国文明―伝説から歴史へ
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週末に東京国立博物館で開催中(~9月5日まで、その後、九州、奈良へ)の誕生!中国文明 特別展へ出かけてきました。とてもよかったです。ちょっとピンポイントですが、諸星大二郎の中国古代史系漫画が好きな人は絶対に観に行くべきでしょう。金縷玉衣や神獣など作品に登場するあれらが間近で見られます。

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展示には王朝の誕生、技の誕生、美の誕生という3つのテーマが設定されています。私は音声ガイドを借りました。20の展示についての解説を聞けるものですが、"親子セット"の子供用は別収録のやさしい内容になっています。一緒に行った小学1年生の息子も、その音声ガイドに沿って、ゆっくり鑑賞してくれたのが助かりました。

神権政治の商王朝時代の骨占いにつかった卜骨。「鼎の軽重を問う」の鼎。爵位の由来の爵。知識としては知っているけれども、実物はこれか、と思う展示が多くありました。私のお気に入りベスト3は、迫力系の金縷玉衣(夜動きそう)、七層楼閣(重力に逆らった建築)、九鼎(周王以外は9つつくってはいけないはずの土器)。

この本は代表的な展示物を解説しています。新石器→夏→商(殷)→西周→春秋戦国→秦→漢→三国→南北朝→隋→唐→五代十国→北宋という流れの中で、各展示物が時代区分のどこに位置しているのかが明確になります。


・誕生!中国文明 特別展
誕生!中国文明展

・古代中国の虚像と実像
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/12/post-1131.html

・スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則
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この本は「現実歪曲フィールド」の異名をとるジョブズの伝説的なプレゼンの数々を徹底分析した著者が、その極意を一般人にやさしく解説する本だ。

イベント発表用プレゼンなのに情報を盛り込み過ぎて印、刷用文書のようなスライド=「スライデュメント」をつくってしまう失敗は、誰もが経験したことがあるのではないだろうか。その対極にあるのがシンプルに研ぎ澄まされたスティーブ・ジョブズのプレゼンである。

あの驚くべきわかりやすさと強烈なインパクトはどこからくるのか。この本にはジョブズとゲイツのプレゼンを平均単語数、語彙密度、難解語、難読指数、言葉の複雑度で比較するという興味深い試みと納得の結果が示されている。ジョブズのプレゼンのキレはデータ解析でも示せるものだったのか。

ジョブズ流の基本は

・計画はアナログでまとめる
・一番大事な問いに答える
・救世主的な目的意識を持つ
・ツイッターのようなヘッドラインを作る
・ロードマップを描く

という5つの方法。それらを実現するためのたくさんのテクニックが紹介される。プレゼンの作り方、話し方ももちろん大切だが、アイコンタクト、しゃべる姿勢、手振りなどノンバーバルコミュニケーションも重要な要素だ。

そして何より納得したのはジョブズが5分間のデモのために数百時間の練習をしていること。そこに書かれた文字を読み上げるようなプレゼンをしてはいけない。そのためには台本を捨てる、徹底的に頭に叩き込む、だからシンプルなスライドになる、ということなのだ。

実践すれば誰でもジョブズとはいかないが、とりあえずプレゼンのキレのよさを身につけたい人にはよい本だ。だいたいジョブズ流のコツが形式知としては理解できた。あとはMac、iPod、iPhone、iPadのような製品を連発できる会社のCEOになるだけだ。

・ザッポスの奇跡 The Zappos Miracles―アマゾンが屈したザッポスの新流通戦略とは
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これは今年初めに読んで、感動して「いいよ」と何冊も周囲に配った本です。

2009年に米国アマゾンに900億円で買収された靴のオンラインストア ザッポスの伝説。同社はCEOをはじめ500人以上の社員がツイッターでコミュニケーションをしているソーシャル戦略の会社としても有名ですが、この本はもっとザッポスにとって本質的な"人の力を主電源とする感動サービスの仕組み"を描いている。ツイッター戦略はその戦略からでてくるものだ。

CEOのトニー・シェイは90年代後半バナー広告交換コミュニティとして大成功を収めてマイクロソフトに買収されたリンクエクスチェンジの創業者でもある。私は最盛期のリンクエクスチェンジの米国オフィスを訪問したことがあるが、ユーザーからの熱烈なファンレターをオフィスにたくさん貼りだしていた様子を思い出した。顧客満足に重心を置いた経営は出発点から変わらない。

お客様に感動を与えるために「顧客を満足させるためなら、ほとんど何をやってもよい」ほど大きな裁量権を与えられたコールセンターのメンバーたち。彼らが作りだすドラマは、ソーシャルネットワークに紹介されて増幅される。

「「ザッポスのCLT社員は、もし仮に顧客が求めている靴が、ザッポスに無かった場合に、必ず他社のサイトを最低三個はチェックして、その靴を入手できるところがないかどうか調べるように、教育されています。」とCEOのトニー・シェイは言う。」

顧客は今回は他のサイトで買っても、次回も必ずザッポスに電話をかけてくる。目先の利益ではなく、長期的に熱烈に顧客に愛されることを優先する。ザッポスではコールセンターが会社のコアを形成している

徹底したカスタマーフォーカスと同時に徹底した従業員フォーカスも特徴だ。企業は本来、運命共同体であるはずなのに、経営トップや投資家ばかりが甘い汁を吸って、社員に還元されないこれまでの企業とはまったく異なる。従業員が幸せでなければ、お客様を幸せにできない。

ザッポスはコミュニティ的な企業だ。どんな会社を作るのかということを全員で考え続ける企業だ。考え続けることが経営戦略なのだ。そうすることで共同体としての企業の力を引き出している。「カルチャーを創造できれば、ルールをゼロにできる」のだ。

"企業文化が強み"というのは本来は日本の大企業のお家芸でもあったはずだが、成果主義やリストラを濫用して、すっかりその強み、信用が失われてしまった。当面の失地回復は難しそうだ。むしろ、皆でオールを漕いでいる感覚のでるベンチャー企業の方が、企業風土は信憑性を持ちやすいと思う。トニー・シェイみたいに、コミュニティ型リーダーシップで経営センスを持った人が日本でもそろそろ登場してくるのではないか。

翻訳ではなくて日本人が書いているのも驚き。

・Trend Viewer Lite
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Googleの急上昇キーワードのランキングを見るソフトウェア。

他にもトレンドを見るアプリはいくつもあるが、Trend Viewer Liteの特徴は、キーワードを画像で見せてくれること。人名ならば顔がわかるし、モノならば商品画像が表示される。キーワードが"コト"の場合も関連する場所などの画像が表示されたりして、流行りもののの中身が具体的にわかるようになっている。

使ってみて、文字だけではなくて、画像があるからこそ興味を持つキーワードって結構多いなと思った。気になる情報はGoogleやGoogleニュース、WikpediaやAmazonで検索して、結果を内蔵ビューアで見たり、Twitterに投稿することもできる。

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電車待ちなど、iPhoneでひまつぶしがてら、トレンド情報をアップデートができるアプリ。

Trend

横道世之介

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・横道世之介
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読み終わってページを閉じたとき、思わず本を抱きしめたくなる、いい本です。

現在40歳前後で80年代後半に東京で大学生だった人に特におすすめです。

横道世之介はこれといった取り柄のない普通の大学生(おそらく法政大学)。長崎から上京して一人暮らしを始めた1年生の12カ月が毎月1章で語られ、計12章でこの小説は構成されています。

一人暮らし(東久留米)、アルバイト(高級ホテル)、サークル活動(サンバ愛好会)、夏休み、旅行、学園祭、自動車教習所...。友情と恋愛もいくつも経験します。世之介の大学生活はそれなりにユニークなものですが、当時の大学生ならどこか自分の体験に似た懐かしさを感じさせるシーンの連続でもあります。

大人になって学生時代の思い出を振り返るとき、あいつはいい奴だったなあ、でも今どうしているだろうかと、みんなに思われるのが、世之介です。草食系のおひとよし。周りに人は集まってくるし、女の子だって寄ってくるのですが、淡い交わりでよしとしてしまうから、記憶に薄くしか残らない。

横道世之介は、20年前の思い出の中に、忘れものを取りに行くような体験ができる小説です。多くの初体験の不安や期待を思い出させてくれて、懐かしさがこみ上げてきます。そして、当時は自分のことばかりに必死で見逃していた細部にも、きっと多くのドラマがあったのだということを教えてくれる作品です。

いい本読んだなあとしみじみ。

・学問
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/12/post-1130.html
感動青春小説としてはこの作品が好きな人におすすめ。

・Civilization Revolution for iPad - 2K Games
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文明発展シミュレーションのシヴィライゼーションがiPadで遊べるようになりました。英語版ですが、かつて遊んだことがある人ならプレイは余裕でしょう。難易度を細かく選べるのがうれしい。

プレイヤーは、ユニットを動かして町を作ったり占領して、経済力を高め、文化や産業の振興を通じて、数千年間という期間に文明を最大限まで発展させることが目的のゲームです。他国との戦いや同盟、発展競争という要素もあります。

文明が発展していくにつれて生産できるユニットが頼もしくなっていきます。最初は古代の歩兵だったのが、次第に近代的な戦闘ユニットに進化。選べるユニットが増えたり、アップグレードされます。

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そしてこのゲームの最大の魅力はテクノロジー・ツリーの選択の画面。どんな発明発見を行って、文明を発展させていくかを決定します。アルファベットを発明すると、法律や文学が生まれて、やがてそれが民主主義やコンピューターに進歩していきます。

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電車通勤で、本を忘れた日は、これやっています。

Civilization

・裸はいつから恥ずかしくなったか―日本人の羞恥心
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ペリーの日本遠征に随行した画家の「下田の公衆浴場」という絵には、全裸の男女が秘所を隠すこともなく混浴の浴場でくつろぐ様子が描かれている。若年や中年の男女が多いが、誰も互いの裸体に欲情していないし、恥ずかしさも感じていないことがみてとれる。この絵を見たアメリカ人は日本人を「淫猥な人たちだ」といい、フランス人は「日本人に羞恥心はない」といい、オランダ人は「男女の性別を気にしていない」といって驚き、そして軽蔑した。

150年前の日本では「男女が無分別に入り乱れて、互いの裸体を気にしないでいる」のは普通だったのだ。江戸時代の日本人にとって、裸体は顔の延長のようなものであり、現代人の我々がスッピンの顔を見られても恥ずかしくないように、裸を見られても平気だった。

江戸時代の日本人がいかに裸に対しておおらかだったか、具体的な記録から明らかにされる。若い娘が道端で裸で行水をしているのを見て度肝を抜かれた外国人の日記や、坂本竜馬が妻(お龍)と男の友人の3人で京都の混浴浴場へ出かけた記録など、現代人の感覚とはかなり異なる意識が常識だったことがよくわかる。

ところが開国によって西洋文明の視線にさらされたとき、明治政府はこの風習を西洋に劣るものとして改めなければならないと考えて「裸体禁止令」を法律で定めた。また登場したばかりの写真技術が裸体を日常品の裸から、鑑賞の対象物としての「ハダカ」へ移行させた。

「明治政府によって強制的に隠された裸体こそが「見るなの座敷」であった。そしてこれが正しいとすると、神話や昔話が説くように、隠された裸体は覗きたくなり、やがて約束は破られる───。明治から現代に至る日本人の裸体は、まさに神話や昔話と同じストーリーをたどることになる。」

隠されれば見たくなる。そしてハダカは性と結びつき欲望の対象へと変化した。見られる方も、隠すことが常識になった途端、人前にさらすのが恥ずかしくなる。それまでのオープンさの反動のように、明治の日本政府は裸体に対して敏感になり、禁止や検閲を厳しくする。人々の意識は大きく変容し、明治も26年にもなると画家 黒田清輝が女性の水浴びを描いた「朝妝」が風紀を乱すものとして物議をかもした。政府ではなくメディアと世論が裸体画に異を唱えていたのだ。

性が再び解放された現代でもアダルトビデオでは秘所をモザイクで隠している。そもそもハダカが商品になること自体が、この明治政府の西洋化政策の影響の延長にあるといえるだろう。私たちは、異性のハダカに欲情してしまうことを、自然の摂理だと思いがちだが、実はこの日本においては、つい150年前まではそうではなかったという意外な事実がわかる啓発的な本だ。ハダカヘの欲情は文化発祥なのだ。

子供への性教育でもこれを教えたらいいのではないだろうか。

・裸体とはじらいの文化史―文明化の過程の神話
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/09/post-1064.html

・セクシィ・ギャルの大研究―女の読み方・読まれ方・読ませ方
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/02/post-1151.html

・セックスと科学のイケない関係
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/05/post-987.html

・性欲の文化史
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/07/post-1020.html

・日本の女が好きである。
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/06/post-1010.html

・ナンパを科学する ヒトのふたつの性戦略
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-972.html

・ウーマンウォッチング
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-958.html

・愛の空間
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/oso.html

・性の用語集
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004793.html

・みんな、気持ちよかった!―人類10万年のセックス史
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005182.html

・ヒトはなぜするのか WHY WE DO IT : Rethinking Sex and the Selfish Gene
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003360.html

・夜這いの民俗学・性愛編
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002358.html

・性と暴力のアメリカ―理念先行国家の矛盾と苦悶
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004747.html

・武士道とエロス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004599.html

・男女交際進化論「情交」か「肉交」か
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004393.html

・小さいおうち
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古き良き昭和モダンの設定+メタレベルの仕掛けがよく効いている。面白かった。

「わたしが奉公に上がった時代、昭和の初めになれば、東京山の手のサラリーマン家庭では、女中払底の時代になっていたのだから、「タキや」と呼びつけにされるようなことは一切なく、かならず「タキ」さん」と、「さん」づけで呼ばれ、重宝がられていたものだ。東京のいいご家庭なら、だいたいそうであろう。わたしがその仕事についた時代は、「よい女中なくしてよい家庭はない」と、どの奥様だって知っておられたものだ。」

昭和初期、赤い三角屋根の小さなおうちで住み込み女中をしていたタキが、60年後に遠い昔を振り返る回想録がこの作品の大半を占める。とてもお上品な「家政婦は見た」。この家の女中であることに満足し、終の棲家とまで考えていたタキは奉公先で大切にされて、家族同様に暮らす。

だが、美しい奥様、玩具会社常務の旦那様、手のかからないおぼっちゃまと4人で過ごした幸せな日々に、やがて戦争の暗い影が忍び寄る。小さなおうちの一家にも激動の時代が訪れ、そのうねりの中で、やがてタキは、幸せそうな家族が内に秘めていた感情を知ることになる。

女中タキの長い昔話。よく再現された昭和モダンの懐古作品としても非常に味わい深いものがあるのだが、最終章でこの語りの本当の意味が明かされる。最終章がなくても80点の小説だが、メタレベルのラストが作品に奥行きを与えて、見事100点となる。納得の直木賞受賞作。

・日本語作文術
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「本書は、高望みはせずに定型的な文章を書くことでよしとする。一定の言い回し(表現の型)を踏まえれば、誰にもそこそこの文章が書ける。文章を書くとは一定のマニュアルに従って定型表現をつなぎ合わせることだ。世の文章指南書のお勧めやタブーにあちらこちらで異を唱えながら、本書が説くのは「型」を重視する「パッチワーク的文章術」だ。」

読みやすい、分かりやすい、説得力がある"達意"の文章を書くための指南書。

・一文を短く書く

・使い古された言い回しを上手に使いこなす

・主観的、曖昧な日本語を、英語のように客観的、論理的に書く

・文の単位は長い順で並べる

といった指導がある。わかりやすく、誰でも実践できる方法論ばかりだ。

特に曖昧さ回避で、わかりやすくは基本だと思う。

川端康成『雪国』の「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」は、主語として「汽車」が省略されていると著者は指摘する。英訳ではちゃんと"The train came out of the long tunnel into the snow country."になっているそうである。日本語は述語以外はいくらでも省略可能なので、あいまいになりがちであるから、「和文和訳」のつもりでわかりやすくを心がけなさいとすすめる。

意味を伝達する達意の文章は、表現で感動をうむ文章とは違うから、書いていて味気なく感じる。そこで、味を出そうとして、ヘンな味になって、不味くなっているのが多くの素人の文章なわけだ。下手に味を狙わずに、まずは無味無臭で機能的な作文を心がければ、文章力の基本ができて、さらに上を目指せる。この新書はそうした基礎固めのガイド本である。

・<不良>のための文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/07/post-1275.html

・アートを書く!クリティカル文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/02/post-1152.html

13日間で「名文」を書けるようになる方法
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/01/13-1.html


・言語表現法講義
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/01/post-1144.html

・文章をダメにする三つの条件
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-860.html

・文章は接続詞で決まる
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-856.html

・文章読本 (三島由紀夫)
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-837.html

・自家製 文章読本
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/07/post-797.html

・文章のみがき方 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-737.html

・自己プレゼンの文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004915.html

・日本語の作文技術 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/10/post-641.html

・魂の文章術―書くことから始めよう - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/05/post-564.html

・「バカ売れ」キャッチコピーが面白いほど書ける本
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004702.html

・「書ける人」になるブログ文章教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004805.html

・スラスラ書ける!ビジネス文書
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004499.html

・全米NO.1のセールス・ライターが教える 10倍売る人の文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004488.html

・相手に伝わる日本語を書く技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003818.html

・大人のための文章教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002489.html

・40字要約で仕事はどんどんうまくいく―1日15分で身につく習慣術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002286.html

・分かりやすい文章の技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001598.html

・人の心を動かす文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001400.html

・人生の物語を書きたいあなたへ ?回想記・エッセイのための創作教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001383.html

・書きあぐねている人のための小説入門
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001082.html

・大人のための文章法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000957.html

・伝わる・揺さぶる!文章を書く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002952.html

・頭の良くなる「短い、短い」文章術―あなたの文章が「劇的に」変わる!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003740.html

怪、刺す

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・怪、刺す
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怪談と挿し絵で、「怪、刺す」。

『新耳袋』で有名な怪異蒐集家・木原浩勝と、ホラー漫画の伊藤潤二がタッグを組んだ怪談絵噺。テキスト6,7ページ、数枚の挿し絵があって一話という独特のスタイルで九話。短いがどれもクライマックスがゾクっと怖い。

この二人の組み合わせは相性がいいと思う。伊藤潤二単独のホラー漫画は『うずまき』みたいに、現実離れしていてファンタジーだ。自分の身におきるんじゃないかというリアルな怖さがうすい。この作品では実話を怪談作品に仕立てる名手、木原浩勝の原作を描くことで、本物の怪談になった。

私は怪談が大好きだ。子供の頃、夏休みにお昼のワイドショーで放送していた「あなたの知らない世界」をかかさずに見ていた。身近に起きそうな心霊や呪いの話にびびりながら、絶対安全な自宅の茶の間で、これまた怪談好きだった祖母と一緒に、かき氷なんかを食べながら見ていた。原体験が、そういう実体験ベースの再現映像にあるせいか、実話のクレジットがないと興味がわかない。創作だと全然怖くないし、聴く価値さえ感じないのである。

そういう実話怪談へのこだわりの人におすすめである。新耳袋に視覚要素が加わって一層よいかんじ。静かな深夜にひとりで読もう。騒がしい電車とか、おしゃれなカフェで読むべきではない。もったいない。ふと目をあげたとき暗い窓の向こうになにか見えそうで怖くなる、そんな本だから。

この二人には続編を毎年夏に出してほしい。

スペシャルとして、巻末に伊藤潤二の読切り漫画もついている。

・実話怪談「新耳袋」一ノ章
http://www.ringolab.com/note/daiya/2005/10/post-298.html

・ブルーカラー・ブルース
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労働者の悲哀と呻き。まさにブルース。実体験ベースの劇画。

著者、渾身のデビュー作。

理系大卒で工事の現場監督に送り込まれた主人公(24歳)の悲惨な日常が描かれる。

慢性的な睡眠不足、失敗、職人の罵倒、暴力、土下座...。

精神的にも肉体的にもボロボロだが、ひとつの仕事を3年は続けないと転職が難しいと思って、主人公は耐え続ける。なんのために働いているのかわからないから、自分の不遇のなにもかもが、不合理と悪意にみえてくる。

作者の体験がもとになっているだけに、主人公の不安や怒りが生々しく伝わってくる。何度かある修羅場では、読みながら思わず拳を握りしめてしまったほど。主人公は安易な気持ちで就職活動をしていた自分をくやむ。

だが、この漫画は『蟹工船』のような資本家に対する抵抗のプロレタリアート文学ではない。自分が変われば、世界が変わるという自己改革思想の作品である。主人公は悪戦苦闘の末に、自分なりの働き方、生き方をみつける。後半の転職活動の展開は、ブラックな職場に入って出口が見えなくなっている人に希望を与えるものでもある。

ブルーカラーにせよホワイトカラーにせよ、内発的な動機で働かない限り、どんな仕事もブルースだ。逆にいえば、かなりの逆境でも人はそれを糧にして成長、成功できるということでもある。この著者が凄いのは、過酷な体験を、漫画作品に昇華して、人々に支持され、賞を取ったことだ。(第一回ネクストコミック大賞の期待賞を受賞)。

期待賞。まさに次回作に大変、期待してしまう。この著者ならば、まだ描くネタを使い果たしてはいないはずだと厚みを感じる。

通話

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・通話
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「『通話』―スペインに亡命中のアルゼンチン人作家と"僕"の奇妙な友情を描く『センシニ』、第二次世界大戦を生き延びた売れないフランス人作家の物語『アンリ・シモン・ルプランス』ほか3編。『刑事たち』―メキシコ市の公園のベンチからこの世を凝視する男の思い出を描く『芋虫』、1973年のチリ・クーデターに関わった二人組の会話から成る『刑事たち』ほか3編。『アン・ムーアの人生』―病床から人生最良の日々を振り返るポルノ女優の告白『ジョアンナ・シルヴェストリ』、ヒッピー世代に生まれたあるアメリカ人女性の半生を綴る『アン・ムーアの人生』ほか2編。 」

ラテン・アメリカの知る人ぞ知る小説家ロベルト・ボラーニョの短編集。

ボラーニョという作家を知りたくて読んだが読んだ後の方が、果たしてどういう作家だったのかわからなくなった。作風がバリエーションに富んでいて、どれも濃密。「ウディ・アレンとタランティーノとボルヘスとロートレアモンを合わせたような奇才」と評されたいたそうだが異能の複合体である。

ボラーニョは1949年にチリのサンティアゴで生まれて、メキシコへ移住、その後エルサルバドル、フランス、スペインなどを放浪して過ごした後、1984年小説家デビュー。90年代後半になって文学賞をいくつか受賞して、作家として注目を集めたが、2003年に50歳の若さで亡くなった。

この短編集は作風が雑多な印象があるが、敢えて言えば常にマイノリティの側に立った描き方をするのが特徴だ。無名の売れない作家や迫害される亡命者など、主人公たちはメジャーに対するマイナーの視点ででてくる。だが、彼らは不遇や権力に抵抗するというわけでもなくて、境遇を受け入れたうえで、そこに生きる意味を見出そうとする。マイノリティのしたたかな生きざまの文学である。

・横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力
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長い絶版時期にはオークションで8万円の値をつけた名著の復刊。

任天堂といったら宮本茂と並んで、横井軍平。「枯れた技術の水平思考」という有名な言葉でも知られる。ウルトラハンド、光線銃と数々のおもちゃでヒットを飛ばし、任天堂が電子ゲームの方向へ向かう「ゲーム&ウォッチ」をつくり、「ドンキーコング」をつくり、さらには「ゲームボーイ」をつくった伝説のゲームデザイナー。

任天堂への就職から次々に開発した商品を時系列で、本人の談を交えながら紹介している。花札メーカーの任天堂に設備の保守点検係として就職した横井は、大学で学んだ理系の知識を持てあましていたそうだ。あまりに暇な日常業務の日々に、旋盤を使いにゅっと伸びるマジックハンドを自作して会社で遊んでいたら、それを見た社長の「商品化しろ」という命令が横井の人生を大きく変えた。

横井軍平は技術者でなくプロデューサーであることに徹した。

「私の仕事のやり方は、「私はこれ以上詳しいことはわからないから頼む」とまかせてしまうんです。で「結びつきは私にまかせてくれ」という持ち場の分担をするわけです。そうすると各グループなんとかしようと最高の知恵を出してくれるんですね。これが「こうやれ」と高圧的に命じてしまうと、そのグループは動かない。」

職人的なクリエイターかと思っていたが、そうではなくて、人を用いる、育てることにも熱心な人だったのだ。ヒット商品をうみだすにあたっては、常に技術的な面よりもマーケティング的な面を強く意識している。

「私が商品開発をしているときも、技術者にユーザーが何を求めているかを伝えることは簡単です。しかし、「ユーザーが何を求めていないか」を探し出すのは非常に難しい。例えばモノクロとカラーのどっちがいいとなったら、誰でもカラーがいいと言うに決まっている。「そのデメリットは電池が早くなくなって、製品価格が高くなって」と説明できる人は少ない。それを自分なりに判断して、「ユーザーはこう言っているけど、本当のニーズはこうなんだ」ということを技術者に説明するインターフェイスの役目をする人間が絶対必要なんです。」

お客様の声を聞いているだけでは、イノベーションは生み出せないのだ。

ヒット商品開発の現場での成功や失敗が赤裸々に公開されていて、ものづくりをするひとに勇気を与えてくれる素晴らしい本。クリエイター必読。

・サラリーマン漫画の戦後史
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『課長島耕作』『サラリーマン金太郎』『釣りバカ日誌』『かりあげクン』『宮本から君へ』『ボーイズ・オン・ザ・ラン』『働きマン』『ぼく、オタリーマン。』『特命係長只野仁』......。時代を写す鏡としてのサラリーマン漫画の変遷が作品の絵も交えて丁寧に語られている。漫画好きが頭の中の知識を整理し文化史に昇華できる本だ。

著者はサラリーマン漫画史における最も重要な作品として『課長島耕作』(弘兼憲史)シリーズが挙げられている。バブルとその崩壊の時代を人気を保ったまま、部長、取締役、専務、そして社長へと出世してきた。

課長島耕作の成立について、1950年代から60年代に人気作家だった源氏鶏太のサラリーマン小説に源流があると著者は指摘する。高度経済成長の日本。終身雇用、年功序列の安定した組織の中で、人柄のよい主人公が、悪徳社員と敵対して、いろいろあるが人柄力で乗り切って、最後は勝利するという勧善懲悪的な物語。その「源氏の血」を受け継いだのが島耕作だったのだという。

そしてクールにサラリーマン生活を謳歌する島耕作に対して、熱く感情的に生きる『宮本から君へ』や『サラリーマン金太郎』など従来の安定したサラリーマンの枠組みに縛られない作品が登場する。バブルの崩壊と不況の長期化、働き方の多様化で、時代の最大公約数としてのサラリーマンという前提が崩れてしまうと、『働きマン』『ぼく、オタリーマン。』のような多様な生き方を肯定する作品も広がっていく。時代の流れに位置付けて見せられると、サラリーマン漫画は、まさに日本の時代の鏡になっていることが実感できる。

正社員比率が下がり続け、その正社員でさえ長期展望が見えなくなっている今、サラリーマン漫画は、これまでのように幅広い層の共感を集めることが難しくなってしまっているようだ。紅白歌合戦の視聴率と典型的サラリーマンの率って同じような下降線をたどってきたのかもしれない。かといって、フリーや起業がボリュームゾーンになるとも思えない。サラリーマン漫画も当面はバリエーション豊かに混迷の時代に突入するのだろうか。読者としてはいろいろな路線が読めて面白いのだけれど...。

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