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高橋源一郎の明治大学大学院における「言語表現法」講義の書籍化。全13回の授業が学生とのやりとりを含めて収録されている。とてつもない名講義。言葉で語らず、インタラクションで考えさせるという高度な教授法を、毎回繰り出す。
初日、スーザン・ソンタグの「若い読者へのアドバイス」という名文が配られる。死期が近いことを悟った思想家が若者に向けて「心の傾注」という言葉をキーワードに真摯な忠告を短い手紙のように書きつづったものだが、「読み終わったら、その紙から目を上げ、窓の外を眺めてみてください。なんて美しい風景でしょう。このキャンパスのいいところは、こういうものが見られることです。すぐ横に、そんなに美しいものがあるのに、活字ばかり追いかけてはいけません。読んだものは忘れて、見ることに、傾注してください。」と先生。
オバマ大統領の演説、斉藤茂吉のラブレター、しょこたんのブログなど、古今東西の名文を取り上げて読ませる。私は毎回それだけで感動してしまった。読ませた後、その解説講義が始まるのかなと思っていると、この授業では大抵はそうではない。何が大切なのかを考えさせる対話が始まる。考えることが、書くべきことを生みだすのだ。
よく出される宿題もユニークだ。カフカの『変身』と日本国憲法前文を読ませた後に、『変身』の国に憲法があったらどういうものか、次回にみんな書いてこい、と異界の憲法前文を書かせる。一般に詩として認められていないが、あなたが詩だと思うものを集めてきなさいという出題には意外な傑作が日常の中から採取されて集められる。
そして1日だけ休講がある。この日、著者は深刻な人生の困難に見舞われるのだが、それさえも授業の題材として、その次の回で題材に取り上げる。教授と学生の間のライヴな緊張感が伝わってくる。学生から引き出される言葉にも、「本当に君、ただの学生?」と問いたくなるような、名文が飛び出してきたりして、驚きだ。結局、自己や他者との真剣でライヴな対話からこそ、名文も生まれてくるのだと、この授業自体が教えている。
この大学の学生がうらやましい。
・言語表現法講義
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/01/post-1144.html
・文章をダメにする三つの条件
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-860.html
・文章は接続詞で決まる
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-856.html
・文章読本 (三島由紀夫)
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-837.html
・自家製 文章読本
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/07/post-797.html
・文章のみがき方 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-737.html
・自己プレゼンの文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004915.html
・日本語の作文技術 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/10/post-641.html
・魂の文章術―書くことから始めよう - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/05/post-564.html
・「バカ売れ」キャッチコピーが面白いほど書ける本
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004702.html
・「書ける人」になるブログ文章教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004805.html
・スラスラ書ける!ビジネス文書
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004499.html
・全米NO.1のセールス・ライターが教える 10倍売る人の文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004488.html
・相手に伝わる日本語を書く技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003818.html
・大人のための文章教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002489.html
・40字要約で仕事はどんどんうまくいく―1日15分で身につく習慣術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002286.html
・分かりやすい文章の技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001598.html
・人の心を動かす文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001400.html
・人生の物語を書きたいあなたへ ?回想記・エッセイのための創作教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001383.html
・書きあぐねている人のための小説入門
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001082.html
・大人のための文章法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000957.html
・伝わる・揺さぶる!文章を書く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002952.html
・頭の良くなる「短い、短い」文章術―あなたの文章が「劇的に」変わる!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003740.html
「ほとんどの現代デザイナーの仕事は、世界の大多数の人には何の影響も与えない」
メディアで話題の新型のiPodや高級車のデザインは世界の10%にすぎない豊かな人たちだけのものだからだ。世界の90%を占める人口は、生活に必要な基本的な製品を十分に買うことさえできていない。6人に1人にあたる11億人は1日を1ドル以下で生きている。
一部のデザイナーたちは、真に世界を変えるのは、貧しい90%のためのデザインであることに気がついた。そして貧困層のライフスタイルを革命的に変える製品のデザインに積極的に取り組み始めている。電気も電話もない場所で使われることを前提とせねばならない。手頃な値段、小型化、拡張性など、求められるデザインは先進国市場のニーズとはまったく異なる。貧困層は物を買うお金がないわけだから、それを持つことで稼げるようになる製品である必要もある。
社会的責任デザイナーの多くが世界を救う意欲に燃えているが、無償で慈善事業をするつもりはない。何十億人という貧困層を未来の巨大市場ととらえ、持続可能な発展を目指している。まずは経済的自立をサポートするための製品が中心になる。
この本は今起きている「デザイン革命」のレポートだ。本書にはたくさんのの先駆的なデザインプロジェクトが写真入りで解説されている。どれも日本ではまず見ることがない製品ばかりである。だが、これらが世界の何億、何十億人を救おうとしているデザインなのだ。
3つほど気になったモノを紹介すると、
・Qドラム
http://www.qdrum.co.za/
アフリカ諸国では、貧しい人々は毎日、頭の上に水の容器を載せて長い距離を運んでいる。そのためしばしば首を痛めてしまう。Qドラムはドーナツ状の容器に水を入れて、子供でも転がして運ぶことができるようなデザインにした。
・ライフストロー
http://www.vestergaard-frandsen.com/lifestraw-claims.htm

ライフストローは泥水でも濾過して飲めるようにするストローである。700リットルの水の中の99.9999%のバクテリアと98%のウィルスを除去することができる。飲料水を確保するための水道がない地域でも、これがあれば生きていける。
・OLPC
http://laptop.org/en/

1台100ドルの超低価格PC。発展途上国の貧困層に政府が配布する。辺境にすむ子供たちに教育を与える一大プロジェクト。MITメディアラボ創設者ニコラス・ネグロポンテらが取り組む。手動充電やラップトップ自体が無線基地局となって無線スポットを拡大していくメッシュネットワーク機能などを搭載。
人々に心から喜ばれながらモノをつくることができる仕事。90%のためのデザインはさぞかしやりがいのある仕事だろうなあ。
・十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。

遠藤周作が昭和35年に書いた原稿が、46年後に発見されてこの本(元は単行本)になった。手紙や文章の書き方をやさしく教える内容。病人への見舞いの手紙、彼女を上手くデートに誘うラブレター、告白されて断るときの心得(女性編)、お悔やみ、など、
軽い読み物なのだが、遠藤周作がいかに人と違う文章、凡庸でない文体を確立することを大切にしていたかがよくわかる。文章力を鍛えるための「ようなゲーム」を日常的にバスに乗りながら行っていたそうだ。これは誰でも簡単に取り組めるが、うまくやるのは難しいゲームだ。
「ようなゲーム」とは、眼に見えたもの、耳に聞こえたものを形容する言葉を、
(1)普通、誰にも使われている慣用句は使用せず
(2)しかもその名詞にピタリとくるような言葉を
見つけるというゲームである。
夕日のことを
「燃える火の玉のように」
というのは慣用句的で避けなければならない。代わりに、
「大きな熟れた杏のように」
「赤くうるんだ硝子球のように」
などという有名作家達の名文が挙げられる。
文章の極意(文脈的にはラブレターの極意なのだが)は抑制法(当たり前のことをぜんぶ書くな)と転移法(ナマではなく別の言葉で)だと看破する。実体でなく影の方を描くと、効果的に情景が立ち上がるという話、わかりやすいが実践は結構難しい話だ。
「つまり夏の暑さを描写するのに「太陽がギラギラ」とか「樹木はまぶしく」とかいう表現は誰もが使う手アカによごれた形容です。だからそれを読む人も、こういう形容には食傷しています。むしろ、そういう場合は太陽の光には触れず、白い路に鮮やかにおちた家影、暑さの中で微動だにしない真黒な影を書いた方がはるかに効果的なのです。」
慣用句的なもの、形式的なものをいかに脱して、個性的で心のこもった文章に仕上げるか。大作家の鍛錬法や心構えが垣間見える読み物。
ところで本書、「十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。」というタイトルだが、文庫本だと本文は11ページ目から始まる。なんかちょっと可笑しい。
・あなたも詩人 だれでも詩人になれる本

漫画『アンパンマン』作者で童話作家で詩人のやなせたかしによる詩の表現論。
詩人と名乗ることは誰にでもできる。でも、他人から「あの人は詩人だ」と言われるから本当なのであって、詩人を目指してしまうと妙なことになるぞ、と、まず読者のアタマに水をかける。詩人の作為性や職業性を真っ向から否定する。
「だから詩人なんてあんまりならないほうがいいので、お医者さんとか学校の先生とか、パン屋さんとか、そういうほうがいいのです。そして、仕事に疲れて、その時何かが頭脳のひだひだの中に浮かんできたなら、それをノートにかきとめればいいので、もしかしたら、それを第三者が読んで「これはいい詩ですね」というものがかけているのかもしれない。」
大変に共感する。小学校の国語の時間に詩や俳句を書かされた記憶があるが、詩なんて思い浮かぶのを書き留めるからいいのであって、作為が入り込んだ途端、偽物だよなあと当時のませた私は考えていた。
そして表現論、「いい詩」「完成された詩」を書こうとすると陥る2つの罪
1 自分だけ感動する罪
2 他人に媚びる罪
を犯すことなく、「他人がまだうたったことのないところを、ごくさりげなく自分の言葉で話さねばならない」。そしてそれは「真に最高の作品は通俗とスレスレの境地にあるとぼくには思えます」とくる。詩だけでなく、あらゆる表現の極意のように思える。
本書には有名詩人の作品と、同人系無名の詩人の作品がいっぱい散りばめられている。著者が選んだ素人の詩が、しばしば著名な詩人の作品以上に生き生きとしていて、感動的に感じられる。要するにリアリティが大切ということみたいだ。職業詩人より天然詩人の方が、オーガニックな思いから言葉を発しているからリアルなのだろう。
さりげない言葉というのもリアリティである。当事者の視点のユニークさが、技巧や経験を上回ることを著者はこう説明している。
「たとえば百メートル競走のレースを見るとします。そこを映画に撮る場合、普通にうつせばニュース映画になる。一着何某君、何秒、それでおしまいですが、一番ビリのひとをうつせば、悲しみになり、二番をうつせば悔しさになる。あるいはコーチ、応援団、補欠選手というふうに見ていくと、いくらでも視点はちがっていくわけで、ちいさな技巧よりも、どこに自分が焦点をあわせてかくのか、そして、それをよく見ているかというところがたいせつになります。」
最後まで「詩の作り方」が書かれていないのだが、詩が書けそうな気になる、書いてみたくなる創造的な本である。やなせたかしという一流の表現者の芸術論として読んでもいい。
たとえ落語に興味がなくてもぜひとも「買い」の大傑作である。おすすめ。堀井憲一郎、『ディズニーリゾート便利帖』でただものではないライターだと思っていたが、ほんとに凄いよこれは。教えてくれた友人のshikeさん、ありがとうございます。
落語を通して他者を魅了する芸とは何かの本質を論じている。芸人だけでなくプレゼン機会の多いビジネスマン、講師・教員、コンサルタントは必読の書である。ライヴの極意が書かれている。
ただし究極のそれは技術ではないのだ。
「東京ドームの舞台に、たった一人で立つ美空ひばりの気持ちをおもいうかべればいい。 たった一人の声だけでこの数万の客を取り込もうという、その気合いがなければ、成功しない。ただすんなりと歌をうまく歌っただけでは、客を巻き込めない。それは芸能ではない。お歌の発表会だ。すべての客の心に、美空ひばりを届けないといけない。いま、この目の前にいる客を、とにかくどうにかするんだ、という強い気持ちだけが、音をすみずみの客にまで届かせる。」
自己の面子にかけて、今この場をとにかくどうにかするんだという気迫。ビジネスの会議やプレゼンの場でも、こういう姿勢は本当に重要だと思う。ポジション、能力にかかわらず、一緒に仕事をしたいと思う人はそういう人だ。(往々にしてその手の人はポジションも能力も既に高いのだが。)。もちろんそれは才能でもあるのだが。
落語は歌だと言い切る。言語分析やオチによる分類を否定する。言葉より音なのだ。
「音は「いつもすべて心地よく」だされているのが、一番いい。知らず知らずに観客の身体が演者のほうへ反応し、好意的に受け容れる体勢を作る。心地いい音が出されると、動物はまずそちらに近寄っていく。動物的につかんでおいて、それから言葉を発すればいいのである。」
音の高低でメロディを作り、強弱でリズムを作れ。もっとも心地よく聞こえる声を把握しておくことが大事。自分の息の都合でブレスをするな。いい落語の要素を著者は次のようにまとめた。
「声の高低をきれいに使って、人心を見事に掴むメロディラインを作って喋っており」
「声の強弱によってきちんとリズムを作って噺を心地よく前に進め」
「ときにブレスしないシーンを作って客の緊張を逃がさず」
「また予想外の高い声で客を緊張させ」
「声を分けて人の違いを出さず、どの人物も声の高低をきちんともっている」
これが聞きやすくて良い落語だそうだが、スピーチや話芸全般の基本ともいえるだろう。
落語の噺家は客を切らないというのもいい指摘だ。客全員を覆う気を持つ。おれは俺の芸をやる、分からないやつにわかってもらわなくてもいいなどとは決して言わない。客との共同作業で、その場の全員が共同幻想を抱き、自他の区別がなくなるのが落語の理想なのだと説く。
「落語は和を持って貴しとなす。ただその和はその場でさえ納得できればいい。人類の発展に何も寄与しなくてもいい。人類の発展を阻害してもいい。いま、そこにいる人たちだけの和を貴いものとする。そしてその考えかたはおそらく日本の芯とつながっている。」
この著者の文体は、ひとりでボケとつっこみを繰り返しながら読者と一緒に熱くなっていき、行き過ぎの手前でスッと落とすのが特徴。文章自体が落語のような話芸として見事でもある。
評論家の発言の原動力を演者への嫉妬だと看破する、とか、メモを取ると「今までの自分が変われる可能性のある言葉をとりこぼす、とか落語論と関係のないところでの深い洞察にも感心しながら読んだ。1ヶ月半で書き上げたとは思えない読みどころ多数。話芸、場の演出、コミュニケーションなどヒントが次々にみつかる名著だ。
・東京ディズニーリゾート便利帖
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/07/ix.html
楽しい発想ツールのカタログ本だ。ファシリテーターに特におすすめ。
「創造手法の専門家たちは、これまでに、さまざまな「アイデア創出方法」を見いだしています。つまり「発想装置」を起動するための「スイッチ」が、実は存在しているのです。おもしろいことに、このスイッチには複数の種類があります。「即効系」のものは短時間で次々と発想させてくれますし、「深考系」のものはステップを踏んで確実に創造的なアイデアを発想させてくれます。」
前半で即効系、後半で深考系のツールが紹介される。
・10分間で3つ以上のアイデアを引き出す「Scamper」
・技術的な視点からアイデアを引き出す「USITオペレータ」
・多様な観点でアイデアを引き出す「6観点リスト」
・多様なひねり方でアイデアを引き出す「12変化リスト」
・「それ、どうやって実現するか」を発想する「智慧カード」
・ノート一つで100以上のアイデアを引き出す「エクスカーション」
・アイデア創出専用の「はちのすノート」
・TRIZ系の発想ツール「9Windows」
・新事業発想法「531ストレンジ」
など、ツールが満載。
発想法というのは新鮮な気持ちで真剣に取り組むときに一番の効果がでるものだと思う。逆に方法に慣れてしまうと効果が薄れたりもする。アイデアマンは多様な発想法を知っていると良い。これ一冊分で数年は持つだろう。
初めて知った発想法では新規事業の発想法「531ストレンジ」は早速試してみた。これは「基本的な用件を取り除き、新たな可能性を作り出す」というものだ。まず既存事業の基本用件をリストアップして、重要な要素を取り除く。
たとえば新聞社のビジネスを考えるときには「記者がたくさんいる、そして日々取材し情報を得ている」という基本用件をなしにして成立する事業を考えてみる。その事業が意味をなすとしたら、どのようなものかを想像するのだ。
48の問いかけにより発想を生み出す「SCAMPER」と、マインドマップとマンダラートの良いとこどりの「はちのすノート」は、ツールが製品化されているようだ。早速注文してみた。
SCAMPERは「代用可能な部分は何か?」「そのままで、何か他へ使えないか」「頻度をどれくらい増やせるか」など48の質問項目に次々に反射的に答えていくことで、脳に短時間で強制的にアイデアをはき出させるツール。
頭の中のもやもやを、はちのす状に広がるマス目に書き出していく。アイデアを考えるときメモを書くのが苦手な人でも、適当に書き出すと、自分が考えていることの全体像や構造が見えてくる仕組み。
と、こんなツールが多数紹介されていて新鮮だった。長期的にアイデアが出やすい体質を作る「アイデアマラソン」と組み合わせて利用するとよさそうだ。
・仕事ができる人のアイデアマラソン企画術
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-967.html
・「金のアイデアを生む方法 "ひらめき"体質に変わる本
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/03/post-538.html
・企画がスラスラ湧いてくる アイデアマラソン発想法
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/01/eaexxnae-acfaz.html
文才がなくても書ける小説講座
身も蓋もないタイトルに思わず噴き出した。
文才がないのに小説を書く意味があるのか?
面白くない小説など存在価値がないではないか。
書けない人が書く必要がないジャンルなのではないか?
でも、よく考えてみると、ありである。
少なくとも書いてみたい人間にとってはオオアリクイである。
才能があるかないかは書いてみなければわからないからである。
(ダジャレも言わなきゃ受けるかどうかわからないからである。)
文学的に読む価値がある作品か否かはともかく、まず一遍の作品を完成させることを重視した講座である。著者が高校教師なだけあって、論理的で明解に指導してくれる。説明の流れに説得力がある。
まず最初に何か書く。すると「こう書いた以上は、次にこう書かないとまずいよな」という不足を埋める必要が生じる。ひらめきではなく論理で埋めていけ、というのが著者が教える基本的な書き方。
「書くことを、情緒や感性と結びつけて考える人がいます。それらが豊かでなければ、すなわち特別な才能がなければ、書くことはできないというのです。これは誤りです。書くことに必要なのは不足を見きわめる目と、それを慎重に埋めようとする論理の働きです。書くことは私たちが思う以上に、即物的な行為なのです。」
有名作家の絶妙な例文を用いて、文豪の文章でさえ案外に論理的な生成の働きで綴られていることが示される。これなら自分でも書けるかなあと思えてくる。文章術の本にはやり方を示すと同時に、書ける・書きたいというその気にさせる要素も大切だろう。その点、この新書はかなりの高得点である。
最初の一作をものにするための手ほどき本だ。
何を書いたらいいかわからない、書きたいことがないという人でも大丈夫だとフォローする。「書きたいことが事前に想定されていなくても、書き継ぐことによって、書きたいことは見えてきます。」。文才がなくて書きたいこともなくても大丈夫だという、ハードルの低い小説家への案内本。
万年小説家志望の私としては、やはり何か書いてみよう、とまたしても思った。
・一億三千万人のための小説教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/03/post-721.html
・物語の作り方―ガルシア=マルケスのシナリオ教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005281.html
・2週間で小説を書く!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004901.html
・人生の物語を書きたいあなたへ ?回想記・エッセイのための創作教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001383.html
・小説の読み書き
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004878.html
・書きあぐねている人のための小説入門
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001082.html
デジタルハリウッド大学教授で先端色彩研究室室長の南雲治嘉氏と同大学学長の杉山知之氏の共著。写真と図解を豊富に使いフルカラーでヒット商品の色彩をレビューしていく。
家電・機械、食品、生活用品、これから来る商品デザインの4パートに約60個の最近のヒット商品が並ぶ。1商品につき見開きで右側に大きく商品写真、左に配色のポイントを語るカラーチャート、南雲先生尾解説本文、杉山学長のひと言がある。メーカーの協力で入手したそうだが、商品の写真が改めて見るとこんなに美しいモノだったのかと思うくらいきれい。
収録商品はeneloop、iPhone3G、Vaio、Tenori-on、ポッキー、コカコーラ、雪見だいふく、カップヌードル、カロリーメイト、ブルドッグソース、お茶づけ海苔、お~いお茶、TSUBAKI、バファリンA、ジャポニカ学習帳、櫨ディア、金鳥の渦巻、マイルドセブンなど定番から新製品までバリエーション豊富。

eneloopの解説では、100%のエネルギーを表す白の配色とクリーンさを表すパッケージの青について、白は光の3原色すべてを含む最高のエネルギーを秘めた色であるとし、青は「また、クリーンエネルギーという意味で、最近はエネルギーを表す色は赤系ではなく、青系が使われることが多いのです。静かだけれど力を秘めているようなイメージです。一般的に電池は赤や金などが多く、ここまで真っ白な配色はなかったと思います。」という。そして右下のオレンジのワンポイントが補色でアクセントになっていることを指摘。各商品デザインの配色の持つ特徴やパワー、最近のトレンドを解説している。
「ヒット商品が生まれないのには理由があります。不景気の時代に、景気が良い時のままでは商品は動きません。つまり、景気の良い時の考え方で色を決めている限り、ヒットは不可能なのです。」。南雲先生に直接聞いたところでは、配色やデザインには周期性があって今は「赤」で「角張ったもの」が流行るらしい。
汎用的な発想術のメソッド"アイデアマラソン発想術"を発案者の樋口氏が、ビジネスシーンに応用する方法を解説した新書である。
企画アイデアマラソンとは、
1 自分のノートを決める
2 毎日、何かを考える。その内、一個はできるだけ仕事の企画ネタを考える
3 ノートに書き込み、常に見直す。できるだけ絵を描く
4 まわりに話す
5 最良の企画ネタを企画化する
というもの。
アイデアマラソンでは何よりも毎日続けることが大切。瞬発的に素晴らしい企画案を出すためには日常的な助走が必要なのだ。
アイデアマラソンの実践者の私は「バランス数」の工夫が素晴らしいなと思っている。毎日1つ以上のアイデアを記録するわけだが、それぞれのアイデアに、
バランス数 = 総発想数ー(現在の日ー開始日+1)
という数をつける。
「なぜバランス数を付けるかという理由は、バランス数のプラスが増えると、発想状況が非常に好調であると分かること。バランス数のプラスが、総発想数の半分以上だと、企画アイデアマラソンは非常に好調であるといえる。逆に中断したり、企画ネタや発想を出すのを忘れると、バランス数のプラスは、毎日1個減っていく。」
1日1つ出すのは義務のようなものだが、それ以上は予定以上に進捗している分だから増えれば増えるほど気分が良い。自然と加速度がつく。逆に"借金"は背負いたくないからマイナスは必至に防ごうとする。この方法は発想だけでなく、継続したい習慣に応用が広そうだ。
そしてこの数字はインプットとアウトプットのバランス数でもあるなと思う。生きていると自然にインプットはあるが、意識的にやらないとアウトプットは出ないものだ。優れた企画発想脳には情報I/Oのバランスが大切だと思う。
後半では企画書の書き方や道具術が濃い。
企画術では「どんなに素晴らしい企画書も、突然提出されるべきではない。また直属の上司の反対を押し切って、上層部に出されるものでもない。さらに直属の上司を無視して飛び越して上層部に出されるものではない。」として、根回し、用紙と形式、タイトルと1行目が重要だという。大手商社出身の著者の企画と組織論は含蓄がある。
道具術ではノート、ペン、PC、バッグ、時計、ICレコーダー、デジカメなど樋口氏の情報武装の標準装備が明かされる。圧巻は数々の自作デバイスやマニアックなノウハウである。
「風呂に入るならば、どんなことを考えようかと、思考の課題を持ち込めば、驚くほど解決策を得ることができる。ところが、せっかく、風呂やシャワーで発想やネタを思いついても、書き留めなければ忘れてしまう。そのために、私は古いICレコーダーを2重のジップロック(ファスナー付き密閉プラスチックバッグ)に入れて、風呂に浮かせておく。すでに5年以上も続けているが、ICレコーダーに異常は見られない。シャワーも同じである。」
5年ですよ、5年。
24時間臨戦態勢の企画脳をつくるための必読書。
・一冊のノートで始める力・続ける力をつける―人生も仕事もうまくいくアイデアマラソン発想法
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/05/post-747.html
・感動する科学体験100 世界の不思議を楽しもう
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/08/100-2.html
・普通の手書きメモがデジタルに エアペン アイデマアラソン
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/07/post-608.html
・「金のアイデアを生む方法 "ひらめき"体質に変わる本
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/03/post-538.html
・1年で1000件の発想を書こう ポケット・アイデアマラソン手帳'06
http://www.ringolab.com/note/daiya/2005/09/11000-06.html
・住んでみたサウジアラビア アラビア人との愉快なふれ合い
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/07/post-109.html
・企画がスラスラ湧いてくる アイデアマラソン発想法
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/01/eaexxnae-acfaz.html
文章術の類書は多いが、こうすると文章がダメになるという作文の「べからず」という視点で書かれているのが本書の特徴だ。著者は元読売新聞社のデスクで、大学や文化センターで作文を教えるベテラン。豊富な授業経験から学生たちが陥りがちな悪い傾向を3つみつけたという。
1 文章の意図がつかめない事実や印象の羅列
2 読み手が退屈する理屈攻め
3 読み手の興味をひかない一般論
私も学生時代は作文はあまり得意ではなかった。今思えば、授業という文脈では、書く動機が弱すぎるのだ。提出した作文にはそもそも書く意図などなかった。だから、原稿用紙を埋めるために理屈と一般論を展開していた。
こうした傾向を避けるためのコツとして、書くポイントをひとつに絞ること、書き手の特異な個人的体験に逃げ込むこと、細部の観察にこだわること、など多くのポイントが、学生の作文例を肴にして明解に語られている。
著者の特異体験である新聞記者時代の経験談がやはり光っている。
「記者時代に先輩からこういわれたことがある。「取材が完全にできたときは、できるだけ易しく書け、どこか腑に落ちない取材のまま書かなければいけないときは、理屈っぽく難しく書いておけ」と。理屈は不完全な取材をごま化す一つの手法であり、逃げの一手でもあるのだ。」
材料が十分でなくても書かなければいけないという事態は、新聞記者でも学生でも一緒といえる。そんなときは高度な名文のコツよりも、まずはダメにしないコツの方が、多くの作文シーンで役立つものであると思う。
特異な体験をベースにせよという指摘はやっかいであるが肝である。
「よく"お役所仕事"という言葉が悪いイメージで使われる。これは"前例がないのでできません""人が一般的にやらないことなので、できません"といった消極的な態度を指していうのだが、作文では"前例のないこと""一般的でないこと"を掘り下げて書いてこそ、読むに耐えるものとなるのだ。」
著者の生徒には、自身の堕胎体験を綴った人がいたということだが、人生経験の棚卸しと同時に、内面をさらけだす勇気やノリが大切ということだろう。だからよく書かれた文章には自然と人柄がにじみ出てしまうのだ。
後半で、著者は、自分にはできないがと前置きした後、実は主語が明確に出ていない文章こそ、日本語の非論理性を自然に表した文章であると述べている。ただしそれは文章の巧みな人にのみ許される高度な技である、とも。
私もこのブログで、なるべく文頭が「私」にならないように書こうと日々気をつけていたりするのだが、かなり難しい。主語を隠すと文章の骨格がぐずぐずに崩れてしまうのだ。こればかりは天賦の才能か、相当の練習努力が必要なのだろうな。このブログは1900日を超えたがまだまだ私の文章修行は続く。
「「てか」を好んで使う人は、すぐに新しい話題に移りたがる飽きっぽい人かもしれませんし、「ようするに」が口癖の人は、結論を急ぎたがるせっかちな人なのかもしれません。「でも」をよく使う人は、他人の言うことを素直に受けいれるのが苦手な頑固な人である可能性があります。「だから」を使いたがる人は、自分の主張を人に押しつけたがる押しの強い人かもしれませんし、「だって」を好む人は、言い訳が癖になっている、自己防衛本能が強い人かもしれません。」
接続詞の使い方を見ると隠れた性格がわかるという話。特に講義のような独話では接続詞は書き言葉の2,3倍も多く使われるそうだ。シーン別によく使われる接続詞ベスト5の比較が面白かった。文章のらしさは接続詞が決めている部分も多そうだ。
新聞:しかし、また、だが、一方、さらに
小説:しかし、そして、それで、だが、でも
講義:で、それから、そして、つまり、だから
著者は、対話では接続詞の多用はリスクが高いと注意する。相手の発話権を奪う、言い方を訂正して気分を逆なでする、逆接の使用で無用な対立を生む、自己正当化を目立たせる、という危険性に気をつけて使うべきだと説いている。(私は気をつけていないと「要するに」「つまり」「絶対に」を多用してしまう癖があるなあと自覚した。この注意は耳が痛い)。
普段は意識することがなかった文章や会話の中の接続詞について、深く考える機会を与えてくれる良書である。そもそも接続詞って何?から、「しかし」「だから」「たとえば」「あるいは」「ところが」「さらに」「また」「まず」「したがって」など多数の接続詞のひとつひとつを用例から説明する。「しかし」や「だから」の説明なんて初めて読んだが新鮮である。
接続詞の一般的な定義は「接続詞とは、文頭にあって、直前の文と、接続詞を含む文を論理的につなぐ表現である」というほどのものだが、本書では「接続詞とは、独立した先行文脈の内容を受けなおし、後続文脈の展開の方向性を示す表現である」と再定義している。接続詞は必ずしも論理的ではないということでもある。
接続詞の読み手のための機能として次の6つを挙げる。
・連接関係を表示する機能
・文脈のつながりをなめらかにする機能
・重要な情報に焦点を絞る機能
・読み手に含意を読みとらせる機能
・接続の範囲を指定する機能
・文章の構造を整理する機能
そして接続詞を論理の接続詞、整理の接続詞、理解の接続詞、展開の接続詞、の4種をさらに10類にグループ化して、それぞれに豊富な用例と効能書きが続く。こんなにあるのかというのが素直な感想。著者曰くこれだけ接続詞だけを語った本は類例がないそうだ。接続詞のすべてがここにあるといってもよいかもしれない。というわけで、つまり、だから、それで、とりあえず、まずは........これだけ読んでおけば、もう一生接続詞で困ることはない、でしょうね。
演出家 鴻上尚史が早稲田大学などで教えてきた表現力向上のレッスンを書籍化したもの。20のワークショップを紙上で体験できる。舞台出身らしく声と身体を使った表現力に徹底的にこだわる。
レッスンでは身体接触がやたらと多い。後ろのパートナーの支えを信じて倒れ込む「信頼のエチュード」に始まって、パートナーを彫刻に見立てポーズを作る、とか、目隠ししたままパートナーの姿勢を手で触って真似する、など、自分や他人の身体で遊ぶレッスンが基本である。こうした日常にない身体体験を通して、隠れていた自分の身体の表現力や感情を発見するのがねらい。
これを男女混ざった大学の授業でやっていると学生達はさぞドキドキ・ワクワクだろうなと、想像してしまった。実際、授業では過剰に意識する男女がいるので、鴻上が「異性を触りながら飢えてるぜ光線を出さないように気をつけましょう」などと注意している様子が可笑しい。
日本人の身体接触下手について鴻上は「中学生のフォークダンスの無残さ」をひきあいにこう言う。「日本人は、セックスを前提としない男女は皮膚接触しない」という文化を持ちながら、無条件にフォークダンスを輸入してしまったのです。驚愕の自殺行為です(笑)。体育の時間や運動会の時のフォークダンスが、どうしてあんなに恥ずかしく、居心地が悪かったのか、今なら分かります。」
でも、このちょっとドキドキの高揚感や楽しさがあるから効果がありそうなのである。ここに紹介されているレッスンのほとんどは真面目な顔で一生懸命やるよりも、楽しみながら生き生きとした表情で遊ぶ方が効果がありそうなのだ。生き生きとした表情や感情を見つけることが趣旨なのだから。
教育関係者から「楽しいだけでいいんですか?」と質問されて鴻上は少しムッとしたという。
「ムッとしたのは、「楽しければいいのか、教育目標はないのか?」という考え方が、日本人をどんどん表現下手にしたからです。<中略>表現とは、まず、本人が楽しむことが大前提です。楽しければ、放っておいても、本人はそのことを続けるのです。音楽が楽しければ、作文を書くのが楽しければ、放っておいても、音楽や作文を続けるのです。続けることで、どんどんと表現は上達するのです。」
鴻上のまとめたレッスンはどれも実際に試してみたくなる。ムチャクチャ語で意思疎通をはかるとかその横で勝手に通訳をするとか、ひと言も話さず目だけ手だけ足だけ胸だけで会話するとか、遊んでいるうちに表現法が自然に開発されていきそうだ。この授業を受けたかったなあ。
・真実の言葉はいつも短い
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/07/post-787.html
複雑、緻密な構成にうならされること間違いなしの大傑作。私などは読み終わって1時間くらい紙に物語の構造を図式化しながら考え込んでしまった。それがまた最高に楽しい時間だった。英国SF協会賞とアーサー・C・クラーク賞を受賞。
1999年、英国のノンフィクション作家スチュアート・グラットンは、第二次世界大戦中の記録に登場する空軍大尉J・L・ソウヤーなる人物のことが気になっていた。チャーチル首相の回顧録にその名前はあった。ソウヤーは良心的兵役拒否者であると同時に空軍爆撃機操縦士でもあったという。そんな矛盾したことはあり得ないはずである。ソウヤーの娘と名乗る女性があらわれグラットンに父の書いた古い原稿を託していく。
タイトルから推測できるように、案の定、ソウヤーの正体はジャックとジョーという双生児であった。この二人の人生が複数の記録や証言によって少しずつ明らかになるのだが、そのプロセスは一筋縄ではいかない。伏線の縄が十本、百本ある感じでそれらが錯綜している。メビウスの輪のように不思議な結び目が幾つもあらわれる。
この作品は物語りというより物騙りである。読者は少しずつずれた同時期の物語を何度も聞かされる。矛盾する語り。それは記録が虚実入り乱れているからなのか、平行世界が幾つも存在しているからなのか。根本的な疑問を抱えたまま現在と過去を何度も往復するうちに、緻密に設計された物語の重層的な迷宮構造が少しずつ姿を現していく。
とてつもないものを読まされたというのが素直な感想。
この読書体験はアゴタ・クリストフの「悪童日記」三部作に似ている気がした。このシリーズの騙り感覚が好きな人に特におすすめである。
・「悪童日記」「ふたりの証拠」「第三の嘘」
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/02/post-529.html
三島由紀夫の文章読本。そもそも最初に「文章読本」を書いたのは谷崎潤一郎だった。川端康成や三島など多くの文豪たちが追随して同名の著作をそれぞれ書き下ろしている。読み比べると面白い。文章の書き方、読み方を教える内容という点では共通しているが、作家によって実用的な文章指導であったり、高尚な芸術論であったり、個人的な感慨エッセイ集だったりする。
三島由紀夫の文章読本は、書き手の実用性という面ではほぼゼロだ。一部に技巧論はあるのだけれど、読者が到底真似の出来ないようなことを書いている。たとえば会話文をどう書くべきかについては、米国の作家の意見を引用する形で、
「小説の会話というものは、大きな波が崩れるときに白いしぶきが泡立つ、そのしぶきのようなものでなければならない。地の文はつまり波であって、沖からゆるやかにうねってきて、その波が岸で崩れるときに、もうもちこたえられなくなるまで高くもち上げられ、それからさっと崩れるときのように会話が入れられるべきだ。」
などと感動的なほど抽象論を述べているし、方言の書き方という点では、
「谷崎氏は『卍』を書くに当たっては、大阪生れの助手を使ったと言われますが、私の如きなまけ者は、『潮騒』という小説を書くときは、いったん全部標準語で会話を書き、それをモデルの島出身の人に、全部なおしてもらったのであります。」
これもエピソードとして面白いが、普通の読者にとっては実用性はほとんどない気がする。この文章読本は実用書というよりも、三島のオレサマ独断文学評論である。日本の文学とは、西洋の文学とはこういうものだ、とずばり豪快に言い切る。面白い。
「日本文学の特質は一言を持ってこれを覆えば、女性的文学と言ってよいかもしれません。」「(日本文学は)抽象概念の欠如からはじまった」「日本語の特質はものごとを指し示すよりも、ものごとを漂わす情緒や、事物のまわりに漂う雰囲気を取り出して見せるのに秀でています。」「西洋的な意味でのロマーンはまだまだ日本にはあらわれていない」
女々しい日本文学という批判的総括は、ロマンチストであると同時に行動派の三島らしい見方だなと思う。そしてアポロン的文章のお手本として鴎外、ディオニソス的文章のお手本として泉鏡花を挙げている。論理的でありながらも、日本的情緒の伝統を踏襲した文章を理想としているようだ。他にも自然描写、心理描写、人物描写、会話など各論で古今東西の小説から文章を長めに引用してお手本とする。どの項目も厳選されていて説得力がある。
何カ所か辛辣な批評もある。これなんかはかなり笑えた。何か気に入らないことがあったのだろうか。
「われわれはよく一流の外国文学者の如何にも嫌みな文学青年くさい翻訳文にお目にかかります。彼等は学者としては一流であるかもしれませんが、若い時代に小説家や詩人になろうとして、才能がなかったためにそれが果たされなかった夢を、自分の翻訳の仕事のなかにもちこんで、外国の秀れた作家たちを自分の不思議な文学癖というよりも、青くさい文学癖、同人雑誌流の嫌みな文学趣味やキザな言葉遣いなどでゆがめて汚してしまうのであります。」
付録の「質疑応答」は豪華なおまけだ。「人を陶酔させる文章とはどんなものか」「エロティシズムの描写はどこまで許されるか」「小説第一の美人は誰ですか」「いい比喩とはどういうものでしょうか」など仮想の質問に答える形で、明確な答えが書かれている。
・自家製 文章読本
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/07/post-797.html
・文章のみがき方 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-737.html
・自己プレゼンの文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004915.html
・日本語の作文技術 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/10/post-641.html
・魂の文章術―書くことから始めよう - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/05/post-564.html
・「バカ売れ」キャッチコピーが面白いほど書ける本
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004702.html
・「書ける人」になるブログ文章教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004805.html
・スラスラ書ける!ビジネス文書
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004499.html
・全米NO.1のセールス・ライターが教える 10倍売る人の文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004488.html
・相手に伝わる日本語を書く技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003818.html
・大人のための文章教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002489.html
・40字要約で仕事はどんどんうまくいく―1日15分で身につく習慣術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002286.html
・分かりやすい文章の技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001598.html
・人の心を動かす文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001400.html
・人生の物語を書きたいあなたへ ?回想記・エッセイのための創作教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001383.html
・書きあぐねている人のための小説入門
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001082.html
・大人のための文章法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000957.html
・伝わる・揺さぶる!文章を書く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002952.html
・頭の良くなる「短い、短い」文章術―あなたの文章が「劇的に」変わる!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003740.html
井上ひさしがこの本に書いたのは小手先の文章術でもなく精神論でもない。いったい文章とは何か、書き手は何をすべきなのか、そして言語の目的とは何なのか、という本質的な問題に対する答えを求めた。
三島由紀夫、川端康成、谷崎潤一郎、丸谷才一らの文章読本がしばしば批判的に引用される。そこに書かれた
・話すように書くのがよい
・透明な文章が理想とする考え方
・接続語で流れるような文章を書くとよい
・オノマトペは使うべきではない
・文末をバリエーション豊かにせよ
などという旧世代の文章読本が良しとした文章術に対し反論を加える。事例と根拠を明快に示して斬っていくのが心地よい。
井上ひさしは比喩を殊更に重視している。文の中で比喩が出ると読者の脳は一瞬ぎょっとする。謎が解けると快く感じる。文章が意識され味わいがでる瞬間だ。それこそ表現のための文章づくりに一番重要なことだというのである。
「とりわけ大事なことは、受け手は瞬時でも立ち止まるたびに言葉や文章を実感するということで、文章とは第一に言語の特別な使用である以上、これは当然すぎるほど当然だろう。「餅のような肌」ではだれも立ち止まらない。使い古された紋切り型だから透明すぎてだれひとり意にもとめないのである。だが「白い陶器に薄紅を刷いたような」(『雪国』)となると話は逆になる。これは新しくて、よい比喩だ。」
ビジネス文書や広告のような伝達のための文章は、簡潔にして透明なものが好まれる。高度な比喩は少なく接続語でスムーズへ前へ流す機能優先の文体だ。しかし、小説や戯曲のような表現の文章の名文は、ただ伝達するのではなく、読者の共感や想像力を強烈に喚起させるものでなくてはならない。読者の長期記憶を揺さぶるために比喩は強い武器になる。
「すなわち小説は「読者」という名の「同時代に生きる仲間達に向かって書かれるべきものである。<中略>つまり仲間達=読者たちは、内部にある名付けられない言葉、形をなしていない半物語をかかえて暮らしているのだが、そのもやもやに名を与え、その半物語に形を与えるのが作家の仕事である。当然作家の使用する言葉も読者たちの言葉でなければならないが、これらの仕事に成功した作家は自然に「時代様式まで高められた文体」(=共同体の実感)を持つ。」
算数の問題文、回覧板や法律文、商業文、記事や社説、随筆、小説や戯曲、そして詩。世の中には多種多様な文があるが、およそ、その順序で書くのが難しくなるという。
「使われる比喩の量と文章を書くことのむずかしさとが正比例するからである。つまりその文章が世の中の中心から外れれば外れるほど、個体的、個人的なものになればなるほど、比喩の量が増えて行き、その分だけ文章を書くことが骨になるのである。これまでにも何回となく触れたことだけれど、個人的な文章の主務は、それぞれの心の生活のなかにある「なんだかぼんやりしたもの」、そして「ぼんやりしてはいるが自分にとってのっぴきならないほど重大なこと」に形を与えるというところにある。その内的経験は個人的なものであるだけに世の中の中心からは遙かに遠い。その距離を瞬時のうちに埋めるのが比喩である。」
比喩に関する考察の部分のみ抜粋してみたが、これだけでも井上ひさしの文章論の総合性と厚みが明らかではないだろうか。文章論を超えて文化論というレベルに達している。古今東西の名文が実に的確に引用されていて、著者の背景の読書量と知識量を思うと圧倒される。
「生命おどって書いたものにのみ、文体がある。」、「鍛えあげられた短文、文章の中心思想こそ、文章の燃料にほかならない」、「文章を綴ることで、わたしたちは歴史に参加するのである」。この文章読本は、こうした極意に至るまでの説明のプロセス自体がが読み物としても完成度が高いから、なおさら説得力が増す。
伝達の実用文章術ではなく、表現の芸術としての文章術を知りたい人向けの名著。
・文章のみがき方 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-737.html
・自己プレゼンの文章術
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・日本語の作文技術 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/10/post-641.html
・魂の文章術―書くことから始めよう - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/05/post-564.html
・「バカ売れ」キャッチコピーが面白いほど書ける本
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・「書ける人」になるブログ文章教室
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・スラスラ書ける!ビジネス文書
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・全米NO.1のセールス・ライターが教える 10倍売る人の文章術
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・相手に伝わる日本語を書く技術
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・大人のための文章教室
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・40字要約で仕事はどんどんうまくいく―1日15分で身につく習慣術
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・分かりやすい文章の技術
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・人の心を動かす文章術
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・人生の物語を書きたいあなたへ ?回想記・エッセイのための創作教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001383.html
・書きあぐねている人のための小説入門
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・大人のための文章法
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・伝わる・揺さぶる!文章を書く
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・頭の良くなる「短い、短い」文章術―あなたの文章が「劇的に」変わる!
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