Books-Creativityの最近のブログ記事

名文を書かない文章講座
51MKmx7EpiL._SL500_AA300_.jpg

芥川賞をはじめ文学賞とりまくりの小説家 村田喜代子による文章術。

自分にしか書けないことを、だれが読んでもわかるように書く。それがこの本の良しとする文章だ。そして「散文とは誠実に言葉数を費やして、自分の前にある事象に迫るものだ」といい、「豊満な体。熟れた若い女の肉体」などという語彙のみをもって最小限の言葉数で語る不誠実な文章を書くなという。かっこをつけた名文は不要、文章は口から。書くときにはモグモグいいながら、自分の言葉で語りなさいという。

何かの拍子にさらっといい一行が書けることがあって、それをベースに文章を仕上げていくということはよくあるが、その一行が名文だと勘違いしてはいけないという指摘に、私はうなった。推敲では鬼にならねばならない。

「削除には多大な勇気がいる。名文なんか惜しみなく捨ててしまおう。ここであらためて名文の定義をすると、真の名文とは、用途に合った表現の文章をさすのである。テーマに沿って効果的な働きをしている文章のみが名文というに値する。 たった一行のいかにも気の利いた文章や、格好の良い表現を名文と思い込んで、愛憎のあまり削ることができず、苦しんでいる人がいる。一行や一句の名文なんてあるはずがない。文章は前後と連結してこそ機能を果たすもので、そこだけ独立しているのではない。」

前半は文章術の基本と応用編。テーマや構成のつくりかた。導入部の書き出し方、地の文のかき分け、描写、セリフ、タイトル、推敲などについてノウハウがまとめられている。後半は質問編、独習編、鑑賞編。インパクトのある文章の書き方やですます調の使い方など、物書きが一度は突き当たる具体的な疑問点に、作家がわかりやすく答える。

ところどころにどきっとすることがある。たとえばこんなことはなかなか教えてもらえない。

「まず作者の意識の問題としては、自分のことを書く際は少し貶めるというのも、常識でわかることだ。」

これは私が原稿を書く際によく気になっていたことだ。最初に読者との距離や上下関係が決まると書き出せることは多い。次書き出しで困ったら、このアドバイスを思い出そう。メモメモ。

著者が考える、書くに値する文章、読むに値する文章とは、

1 誰もが心に思っている事柄を、再認識させ共感させる
2 誰もが知りながら心で見過ごしている事柄を、あらためて再認識し実感させる
3 人に知られていない事柄を書き直して、そこに意味を発見し光を当てる

というもの。書いた文章にあてはめてどれにも該当しないものは価値がないということ。名文とは何かに実践的に迫る、学びの多い本。

村田喜代子のおすすめ作品

・蕨野行
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/05/post-1437.html

・龍秘御天歌
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/04/post-1426.html

・アーティストのためのハンドブック  制作につきまとう不安との付き合い方
41JfPOB0pyL._SL500_AA300_.jpg

アーティスト = 美術作品、音楽、文学、写真など作品を制作する人

アーティストとして生きていく不安にどう対処したらいいか?
才能とは何か、自分に才能があるのかどう見極めたらいいか?
優れた作品とは何か?成功とは何か?アイディアと技術とどちらが大切か?

といった問題に対して2人のベテラン・アーティストが答える。全米で20年間読み継がれた古典の翻訳。アーティスト指向の人が読むと、自分の抱えた論点がいっぱい言語化されているのをみるだろう。

この本では一度も創造性という言葉が使われない。著者らはその言葉をファ○クという言葉と同じように忌み嫌っている。アートを職業として生きていくには、当てにならない天才の創造性よりも、継続的に作品を作り続けていく継続性、生産性を大切にしている。まずは質より量なのだ、と。

こんな実験もでてきた。

「陶芸の先生が授業の初日に、教室をふたつのグループに分けると発表しました。そして教室の左側半分の学生は作品の「量」によって、一教室の右側半分の先生には作品の「質」によって、それぞれ成績がつけられることが言い渡されました。」

量グループ:制作した陶器の総重量で成績をつける。数は何点でもOK。重いと高成績。
質グループ:制作するのは1点だけ。1点の質で評価される。

量グループ、質グループで提出されたすべての作品を、質で並べ直したところ、最高と評価された作品はどれも量グループから出たものだったそうだ。量のグループは山のように作品を制作しつづけたことで、失敗から学んだ。質グループは完璧さにこだわり、理屈をこねたりするばかりであった。

作品の量をつくること。作品制作を生活習慣化できているかどうかが重要な問題だと著者は指摘する。。多くの美大出身者にとって卒業制作展が最後の展示会であり、そこで作品制作を止めてしまう。提出期限のような作品を生み出すインセンティブ、評価し合い励まし合う環境がなければ続かない。

「作品制作の細部には、苦労の末に身につけた実践的な制作上の習慣や、何度も頼りにしてきた形式的な反復が宿っています。」。作品とは「生産的な様式をもって生活することから生まれた表層的な表現」なのである、という。

ノらない日でもとりあえず○○から始めるという日常の作品制作の手順、クセをつくるとうまくいくと実践的なアドバイスもある。そして競争のエネルギーを他のアーティストではなく、自分の内側に向けること。「自らの心の声を唄えば、いずれ世界は受け入れるようになり、その本物の声は報われる」などという考えは捨てること。

そして、

「決定的に重要な作品は、制作者を取り囲む歴史の基本構造に直接加わっています。」

世界に評価される作品を生み出し続ける人のためのハンドブックである。

・柴田さんと高橋さんの小説の読み方、書き方、訳し方
51ThDwFS2xL._AA300_.jpg

作家 高橋源一郎と翻訳者 柴田元幸の対談。小説を書く、訳すプロであると同時に、確固とした文学論をもった二人なので、雑談が深い。二人で海外の小説60冊+αと日本の小説60冊+αのリストをつくって、それについてしゃべりまくる第3章、第4章の「小説の読み方」はブックガイドとしてもすばらしく充実している。

高橋源一郎は近代文学は何か大きな敵と戦うことがテーマだったという認識で、現代文学の現状を語る。

「大文字のテーマというものは何でも「これに対して抵抗するぞ」というふうに否定形で語られるテーマなんです。で、それがなくなってきた時作家の側は、結局個別に対処するしかなくなったんだと思います。それまでは戦闘が集団戦だったんですね。だから○○派だとか○○軍団みたいになっていたけど、いまやもう全部ゲリラですよね。だから、文章・才覚でそれぞれの場所で好きなように戦いなさいって(笑)。とすると武器は文章しかない。」

ちなみにこれは『リトルピープルの時代』より前に出た本だ。これに対して翻訳者の観点から柴田元幸は、こんなふうに返す。

「柴田 中原昌也は実際の翻訳をみて、意外に訳せるなと思いましたね。やっぱり紋切り型っていうのはどこににでもあるから、その面白さを伝えればいい。でも、町田康、古川日出男、ああいう日本語はどうしたら訳せるんだろうと思います。そういうことを考えると、小説よいうものはそもそも思想で読ませるのではなくて文章で読ませるものなんだと実感します。学校教育では「この小説は何を言わんとしてるか」とやっているけれども。」

何を語るかよりどう語るか、文体が改めて焦点になってきたということだろうか。近年の文学賞をみていても、新しい文体が売りの若手が目立つ。

「書き方」編では、高橋源一郎は純粋に自分の詩を書くことが本当にできないという告白が興味深い。創作をするには、作品の種類によって異なるモード、ノリが必要であるという意味のようだが、小説家の頭の中をのぞけた気がした。

「高橋 詩だと意識し出した途端、想像力がまったく働かなくなるんです。でも、小説の中に登場する詩だってことにすると書けるんですね。ある詩人の生涯を書けって言われて、彼が書いた詩であれば平気で書ける。自分でも謎なんですよ。」

で、人間の脳にコピーガードみたいなものがかかっていて、本人の意思ではなくて、ふっと解けることがあれば、誰でも小説や詩を書けるようになるという話。ちなみに、たくさんの小説を翻訳している柴田氏も小説は書けないそうだ。

文章はいっぱい書くのに、小説を書けない私としては、具体的なコピーガードのはずし方を知りたいところだが、ヒントをもらった気がする本だった。

・ゲームストーミング ―会議、チーム、プロジェクトを成功へと導く87のゲーム
51dKWU0yTiL._SL500_AA300_.jpg

あまりに内容が濃くて熟読していてレビューが遅くなってしまった。

この本は現代の知識創造のバイブルといっていいと思う。「共創」とか「創発」という言葉は概念レベルでよくつかわれるが、それを具体的にどうやって実現するかを書いた本をはじめて読んだ。なるほど、こうやるのかという方法(ゲーム)が80種類も紹介されている。いくつか試してみたが、私の周囲では大好評で成果を挙げている。

「ゲームストーミングはゲームのアルゴリズムと視覚的効果および効用を利用してグループワークを促進させる手法・技術・行為の総称です。ブレインストーミング、ファシリテーション手法、アイスブレイキングといったテクニックと同様、ゲームストーミングも会議、セミナー、ワークショップなど協働において優れた効果を発揮します。」

この本はビジネスの会議で使えるゲーム的なワークショップ、ファシリテーション技法のマニュアル集だ。主要なゲーム、参加者の心を開き発想を拡げる開幕のゲーム、深く掘っていく探索のゲーム、収束させる閉幕のゲームの4パートで合計80以上のゲームの進め方が紹介されている。

3つほど簡単なゲームを紹介してみると、

「ペチャクチャナイトとイグナイト」。限られた時間で、たくさんの発表を、たくさん公開できるアイデア。

「ペチャクチャナイトのコンセプトは単純で、プレゼンテーションに使う「スライド(画像)の枚数と1枚あたりの表示時間を制御することによって情報を素早く簡潔に伝えるというものです。具体的には20×20、つまりスライドはひとり当たり20枚、1枚あたりの表示時間は20秒です。スライドの切り替えは自動的に行われ、発表者は制御することはできません。ペチャクチャナイトに触発されて生まれたイベント「イグナイト(ignite)」も同様にペースが決められています。」

参加者の理解度を確認する「5本指コンセンサス」。

「進行役は参加者に、議題についてどのくらい合意が取れているか5段階で評価するように依頼します。完全に合意が取れていると思う」場合は5本の指を上げ、「まったく合意が取れていないと思う」場合は5本の指を閉じます。これは特にその場で作られたグループの場合には効果的です。同時にいろいろな話題が議論されがちだからです。指が1本、2本、3本というように、いろいろなレベルの人がいるグループは進め方をもう少し検討する必要があるでしょう。」

問題の根本的下人を見つけ出す「なぜなぜ5回」

参加者に5枚の付箋を配って「なぜこれが問題なのか自問してみてください。そしてその答えを付箋1に書いてください」「付箋1に書いた答えがなぜそうなのか自問して、その答えを付箋2に書いてください。」「付箋2に書いた答えがなぜそうなのか自問して、その答えを付箋3に書いてください」...。全員の5枚の答えを縦に並べて、共通点と相違点を話し合う。

ゲーム的なセッションはアウトプットが曖昧に終わりがちであるが、この本のゲームを組み合わせて閉幕のゲームを後半に配置していけば、上司への報告も可能な創造的なミーティングができると思う。

監訳者の野村恭彦(富士ゼロックスKDIシニアマネージャー)は日本に「フューチャーセンター」という未来探索の方法論を紹介している国内有数の凄腕ファシリテーター。所属する会社での実践例が日本語版には収録されている。

デジタルの時代は、ツールの使い方に習熟するだけでは他人と差をつけることが難しい。こうしたアナログでアイデアを引き出す、チームで創発するやり方を知っている人こそ、クリエイティブなリーダーになれる。来年は"ゲーミフィケーション"より"ゲームストーミング"だ。

・ぼくは閃きを味方に生きてきた
51lo21OyrJL._SL500_AA300_.jpg

「60年代はロックの時代、70年代はデザインの時代、80年代はアートの時代、そして90年代は、宗教の時代。 その次は、この世の終わり、だね。でも、終わりは始まりだからね。いろいろと終わりが近づいてきて、次が始まるなという感じがびんびんする。」

画家 横尾忠則によるエッセイ集。60年代回想、偶然と必然、精神世界論、女性減ると芸術、直観力の探究、夢と感性、ビートルズ論、寺山修二、三島由紀夫、唐十郎らとの出会い、映画論、現代美術の落とし穴など、芸術と人生を中心に幅広い話題が取り上げられている。

UFOを見て、幽体離脱し、異次元の何かとチャネリングができる人で、スピリチュアル系の話題も多くでてくる。60年代、70年代の米国ドラッグ文化の延長にあるクリエイティビティ。

「ドラッグによって、人間が宇宙の一部であり次元を超えたところに本来の自分、超自我が存在するということが認識できたということは大きかったと思う。またそれがメディアの発達にも大きく関与したと思うなあ。ドラッグ体験がなければ、視聴覚メディアはこんなに発達しなかったと思うし、コンピューター技術には目を見張るばかりだ。」

この本の閃きのコツ、普通は、幽体離脱はできないし、UFOも降りてこないし、ドラッグをやるわけにもいかない。実践できるとすると、夢の記録くらいかなと思った。

「夢を記録することはじつは非常に重要なことだ。夢を語ったり記述したりすることは、無意識と意識を統合させることになるからね。そうすると何が起こるかというと、共時性というのが起こるわけ。シンクロニシティが、つまり偶然が起こるわけ。なぜそういうことが起こるかというと、常に顕在意識と無意識というのは裏腹というか、水面下で繋がっているわけだからね。」

夢で見たことが現実に起こる予知夢、正夢という言葉があるが、夢を記録していくと、偶然が発生するという考え方が、すでにユニーク。


・ヒトはなぜ、夢を見るのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001062.html

・デザインのデザイン
31FR5H8JAEL__SL500_AA300_.jpg

2004年にサントリー学芸賞を受賞した武蔵野美術大学 原研哉教授のデザイン論。

デザインとは何かという問いに対して、著者は単一の答えを出すのではなく、戦後の世界や日本のデザインの歴史を振り返って、産業革命からバウハウス運動を経てポストモダンまでのデザインのさまざまな考え方を示す。それは「不器用な機械生産に対するアンチテーゼ」であったり、生活という「生きた時間の堆積」が磨きあげるカタチであったり、独創的な省略であったり、情報の建築であったりする。

デザインを考える中で「欲望のエデュケーション」というキーワードがでてくる。これはデザインにおいて、悪化が良貨を駆逐する現象のことだ。発展途上国からデザイナーズブランドが生まれない理由でもあるなあ。

「センスの悪い国で精密なマーケティングをやればセンスの悪い商品がつくられ、その国ではよく売れる。センスのいい国でマーケティングを行えば、センスのいい商品がつくられ、その国ではよく売れる。商品の流通がグローバルにならなければこれで問題はないが、センスの悪い国にセンスのいい国の商品が入ってきた場合、センスの悪い国の人々は入ってきた商品に触発されて目覚め、よそから来た商品に欲望を抱くだろう。しかしこの逆はない。ここで言う「センスのよさ」とは、それを持たない商品と比較した場合に、一方が啓発性を持ち他を駆逐していく力のことである。」

米国アップルやグーグルが、モバイル端末や情報サービスのデザイン力で日本メーカーを押しのけて、世界市場を席巻しているのは、日米のデザイナーの能力差ではなくて、情報サービスに対する両国の消費者の情報リテラシーが違うということなのかもしれない。個人が情報を積極的に求めて自分なりに活用したいと思っている度合いが、米国の方が強い気がする。それがセンスの良さにつながるのではないだろうか。

デザインのもたらす「情報の美」へのアクセスルートとしては「分かりやすさ」「独創性」「笑い」の3つが挙げられている。笑いは精度の高い理解が成立していることを示すバロメーターだという。ニヤリとさせるデザインは、かなりの上級者によるデザインなのだな。

・横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力
41RsZbc0TgL__SL500_AA300_.jpg

長い絶版時期にはオークションで8万円の値をつけた名著の復刊。

任天堂といったら宮本茂と並んで、横井軍平。「枯れた技術の水平思考」という有名な言葉でも知られる。ウルトラハンド、光線銃と数々のおもちゃでヒットを飛ばし、任天堂が電子ゲームの方向へ向かう「ゲーム&ウォッチ」をつくり、「ドンキーコング」をつくり、さらには「ゲームボーイ」をつくった伝説のゲームデザイナー。

任天堂への就職から次々に開発した商品を時系列で、本人の談を交えながら紹介している。花札メーカーの任天堂に設備の保守点検係として就職した横井は、大学で学んだ理系の知識を持てあましていたそうだ。あまりに暇な日常業務の日々に、旋盤を使いにゅっと伸びるマジックハンドを自作して会社で遊んでいたら、それを見た社長の「商品化しろ」という命令が横井の人生を大きく変えた。

横井軍平は技術者でなくプロデューサーであることに徹した。

「私の仕事のやり方は、「私はこれ以上詳しいことはわからないから頼む」とまかせてしまうんです。で「結びつきは私にまかせてくれ」という持ち場の分担をするわけです。そうすると各グループなんとかしようと最高の知恵を出してくれるんですね。これが「こうやれ」と高圧的に命じてしまうと、そのグループは動かない。」

職人的なクリエイターかと思っていたが、そうではなくて、人を用いる、育てることにも熱心な人だったのだ。ヒット商品をうみだすにあたっては、常に技術的な面よりもマーケティング的な面を強く意識している。

「私が商品開発をしているときも、技術者にユーザーが何を求めているかを伝えることは簡単です。しかし、「ユーザーが何を求めていないか」を探し出すのは非常に難しい。例えばモノクロとカラーのどっちがいいとなったら、誰でもカラーがいいと言うに決まっている。「そのデメリットは電池が早くなくなって、製品価格が高くなって」と説明できる人は少ない。それを自分なりに判断して、「ユーザーはこう言っているけど、本当のニーズはこうなんだ」ということを技術者に説明するインターフェイスの役目をする人間が絶対必要なんです。」

お客様の声を聞いているだけでは、イノベーションは生み出せないのだ。

ヒット商品開発の現場での成功や失敗が赤裸々に公開されていて、ものづくりをするひとに勇気を与えてくれる素晴らしい本。クリエイター必読。

・視覚デザイン
shikakudesign01.jpg

「デザイナーには誰でもなれる。今は優れたパソコンソフトがあるので、ある程度のものは容易に制作できる。しかし、視る人にとって見やすいものであるかどうかは、別物である。デザイナーを目指す方は将来の基礎を作るために、ぜひ絶対基礎である視覚デザインを習得してほしい。」

視覚の原理、視覚デザインの歴史、視覚構成、視覚心理、デザイン基礎技法の5章からなる視覚の教科書。著者はデジタルクリエイターを育成するデジタルハリウッド大学でトップクラスの人気を誇る南雲 治嘉教授。

ラスコーの洞窟画からWebまでカラー写真の資料満載で図鑑のようだ。眼の構造や知覚の仕組みの説明から始まっている。視ることと視せることのベーシックを学生にわかりやすく伝える。

51Zl2B8wy1AL__AA300_.jpg

「見かけはカッコいい作品でも、ベーシックがないと、どこか粗悪な匂いがする。また若いデザイナーが2~3年で壁にぶつかり、悩むことがある。多くの場合、その原因はベーシックの欠如である。結局ベーシックがなければ、前に進むことができなくなる。大きく育つ人材はベーシックができているものだ。」

この本にはデザインの具体的なの技術はのっていない。だから、これを読んでもデザイナーになれるわけではないが、こういった知識を学ばずに、良いデザイナーになることはできない。デザインにはどんな分野やキーワードが広がっているか、教養を育てる内容である。デザイン系の授業の副読本として重宝しそうだ。

教科書的であるが、視る人を笑顔にする、幸せにするのがデザインの仕事だという南雲先生のメッセージが秘められていて温かい。

・46年目の光―視力を取り戻した男の奇跡の人生
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/10/46.html

・視界良好―先天性全盲の私が生活している世界
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/07/post-616.html

・眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/05/post-380.html

・美を脳から考える―芸術への生物学的探検
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/06/post-777.html

・脳は美をいかに感じるか―ピカソやモネが見た世界
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-742.html

・形の美とは何か
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005144.html

・美について
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005145.html

・デザインにひそむ〈美しさ〉の法則
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004944.html

・黄金比はすべてを美しくするか?―最も謎めいた「比率」をめぐる数学物語
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004272.html

・美の呪力
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005223.html

・13日間で「名文」を書けるようになる方法
51cZPc2BFyxL__SL500_AA240_.jpg

高橋源一郎の明治大学大学院における「言語表現法」講義の書籍化。全13回の授業が学生とのやりとりを含めて収録されている。とてつもない名講義。言葉で語らず、インタラクションで考えさせるという高度な教授法を、毎回繰り出す。

初日、スーザン・ソンタグの「若い読者へのアドバイス」という名文が配られる。死期が近いことを悟った思想家が若者に向けて「心の傾注」という言葉をキーワードに真摯な忠告を短い手紙のように書きつづったものだが、「読み終わったら、その紙から目を上げ、窓の外を眺めてみてください。なんて美しい風景でしょう。このキャンパスのいいところは、こういうものが見られることです。すぐ横に、そんなに美しいものがあるのに、活字ばかり追いかけてはいけません。読んだものは忘れて、見ることに、傾注してください。」と先生。

オバマ大統領の演説、斉藤茂吉のラブレター、しょこたんのブログなど、古今東西の名文を取り上げて読ませる。私は毎回それだけで感動してしまった。読ませた後、その解説講義が始まるのかなと思っていると、この授業では大抵はそうではない。何が大切なのかを考えさせる対話が始まる。考えることが、書くべきことを生みだすのだ。

よく出される宿題もユニークだ。カフカの『変身』と日本国憲法前文を読ませた後に、『変身』の国に憲法があったらどういうものか、次回にみんな書いてこい、と異界の憲法前文を書かせる。一般に詩として認められていないが、あなたが詩だと思うものを集めてきなさいという出題には意外な傑作が日常の中から採取されて集められる。

そして1日だけ休講がある。この日、著者は深刻な人生の困難に見舞われるのだが、それさえも授業の題材として、その次の回で題材に取り上げる。教授と学生の間のライヴな緊張感が伝わってくる。学生から引き出される言葉にも、「本当に君、ただの学生?」と問いたくなるような、名文が飛び出してきたりして、驚きだ。結局、自己や他者との真剣でライヴな対話からこそ、名文も生まれてくるのだと、この授業自体が教えている。

この大学の学生がうらやましい。


・言語表現法講義
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/01/post-1144.html

・文章をダメにする三つの条件
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-860.html

・文章は接続詞で決まる
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-856.html

・文章読本 (三島由紀夫)
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-837.html

・自家製 文章読本
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/07/post-797.html

・文章のみがき方 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-737.html

・自己プレゼンの文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004915.html

・日本語の作文技術 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/10/post-641.html

・魂の文章術―書くことから始めよう - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/05/post-564.html

・「バカ売れ」キャッチコピーが面白いほど書ける本
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004702.html

・「書ける人」になるブログ文章教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004805.html

・スラスラ書ける!ビジネス文書
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004499.html

・全米NO.1のセールス・ライターが教える 10倍売る人の文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004488.html

・相手に伝わる日本語を書く技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003818.html

・大人のための文章教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002489.html

・40字要約で仕事はどんどんうまくいく―1日15分で身につく習慣術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002286.html

・分かりやすい文章の技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001598.html

・人の心を動かす文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001400.html

・人生の物語を書きたいあなたへ ?回想記・エッセイのための創作教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001383.html

・書きあぐねている人のための小説入門
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001082.html

・大人のための文章法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000957.html

・伝わる・揺さぶる!文章を書く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002952.html

・頭の良くなる「短い、短い」文章術―あなたの文章が「劇的に」変わる!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003740.html

・世界を変えるデザイン――ものづくりには夢がある
51aSEMrYoAL__AA240_.jpg

「ほとんどの現代デザイナーの仕事は、世界の大多数の人には何の影響も与えない」

メディアで話題の新型のiPodや高級車のデザインは世界の10%にすぎない豊かな人たちだけのものだからだ。世界の90%を占める人口は、生活に必要な基本的な製品を十分に買うことさえできていない。6人に1人にあたる11億人は1日を1ドル以下で生きている。

一部のデザイナーたちは、真に世界を変えるのは、貧しい90%のためのデザインであることに気がついた。そして貧困層のライフスタイルを革命的に変える製品のデザインに積極的に取り組み始めている。電気も電話もない場所で使われることを前提とせねばならない。手頃な値段、小型化、拡張性など、求められるデザインは先進国市場のニーズとはまったく異なる。貧困層は物を買うお金がないわけだから、それを持つことで稼げるようになる製品である必要もある。

社会的責任デザイナーの多くが世界を救う意欲に燃えているが、無償で慈善事業をするつもりはない。何十億人という貧困層を未来の巨大市場ととらえ、持続可能な発展を目指している。まずは経済的自立をサポートするための製品が中心になる。

この本は今起きている「デザイン革命」のレポートだ。本書にはたくさんのの先駆的なデザインプロジェクトが写真入りで解説されている。どれも日本ではまず見ることがない製品ばかりである。だが、これらが世界の何億、何十億人を救おうとしているデザインなのだ。

3つほど気になったモノを紹介すると、

・Qドラム
http://www.qdrum.co.za/

アフリカ諸国では、貧しい人々は毎日、頭の上に水の容器を載せて長い距離を運んでいる。そのためしばしば首を痛めてしまう。Qドラムはドーナツ状の容器に水を入れて、子供でも転がして運ぶことができるようなデザインにした。

・ライフストロー
http://www.vestergaard-frandsen.com/lifestraw-claims.htm
lifestraw-personal-product.jpg

ライフストローは泥水でも濾過して飲めるようにするストローである。700リットルの水の中の99.9999%のバクテリアと98%のウィルスを除去することができる。飲料水を確保するための水道がない地域でも、これがあれば生きていける。

・OLPC
http://laptop.org/en/
220pxLaptopOLPC_a.jpg

1台100ドルの超低価格PC。発展途上国の貧困層に政府が配布する。辺境にすむ子供たちに教育を与える一大プロジェクト。MITメディアラボ創設者ニコラス・ネグロポンテらが取り組む。手動充電やラップトップ自体が無線基地局となって無線スポットを拡大していくメッシュネットワーク機能などを搭載。

人々に心から喜ばれながらモノをつくることができる仕事。90%のためのデザインはさぞかしやりがいのある仕事だろうなあ。

・十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。
41myhxZJDJL__SL500_AA240_.jpg

遠藤周作が昭和35年に書いた原稿が、46年後に発見されてこの本(元は単行本)になった。手紙や文章の書き方をやさしく教える内容。病人への見舞いの手紙、彼女を上手くデートに誘うラブレター、告白されて断るときの心得(女性編)、お悔やみ、など、

軽い読み物なのだが、遠藤周作がいかに人と違う文章、凡庸でない文体を確立することを大切にしていたかがよくわかる。文章力を鍛えるための「ようなゲーム」を日常的にバスに乗りながら行っていたそうだ。これは誰でも簡単に取り組めるが、うまくやるのは難しいゲームだ。

「ようなゲーム」とは、眼に見えたもの、耳に聞こえたものを形容する言葉を、

(1)普通、誰にも使われている慣用句は使用せず
(2)しかもその名詞にピタリとくるような言葉を

見つけるというゲームである。

夕日のことを

「燃える火の玉のように」

というのは慣用句的で避けなければならない。代わりに、

「大きな熟れた杏のように」
「赤くうるんだ硝子球のように」

などという有名作家達の名文が挙げられる。

文章の極意(文脈的にはラブレターの極意なのだが)は抑制法(当たり前のことをぜんぶ書くな)と転移法(ナマではなく別の言葉で)だと看破する。実体でなく影の方を描くと、効果的に情景が立ち上がるという話、わかりやすいが実践は結構難しい話だ。

「つまり夏の暑さを描写するのに「太陽がギラギラ」とか「樹木はまぶしく」とかいう表現は誰もが使う手アカによごれた形容です。だからそれを読む人も、こういう形容には食傷しています。むしろ、そういう場合は太陽の光には触れず、白い路に鮮やかにおちた家影、暑さの中で微動だにしない真黒な影を書いた方がはるかに効果的なのです。」

慣用句的なもの、形式的なものをいかに脱して、個性的で心のこもった文章に仕上げるか。大作家の鍛錬法や心構えが垣間見える読み物。

ところで本書、「十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。」というタイトルだが、文庫本だと本文は11ページ目から始まる。なんかちょっと可笑しい。

・あなたも詩人 だれでも詩人になれる本
41ADlO5KQ9L__SL500_AA240_.jpg

漫画『アンパンマン』作者で童話作家で詩人のやなせたかしによる詩の表現論。

詩人と名乗ることは誰にでもできる。でも、他人から「あの人は詩人だ」と言われるから本当なのであって、詩人を目指してしまうと妙なことになるぞ、と、まず読者のアタマに水をかける。詩人の作為性や職業性を真っ向から否定する。

「だから詩人なんてあんまりならないほうがいいので、お医者さんとか学校の先生とか、パン屋さんとか、そういうほうがいいのです。そして、仕事に疲れて、その時何かが頭脳のひだひだの中に浮かんできたなら、それをノートにかきとめればいいので、もしかしたら、それを第三者が読んで「これはいい詩ですね」というものがかけているのかもしれない。」

大変に共感する。小学校の国語の時間に詩や俳句を書かされた記憶があるが、詩なんて思い浮かぶのを書き留めるからいいのであって、作為が入り込んだ途端、偽物だよなあと当時のませた私は考えていた。

そして表現論、「いい詩」「完成された詩」を書こうとすると陥る2つの罪

1 自分だけ感動する罪
2 他人に媚びる罪

を犯すことなく、「他人がまだうたったことのないところを、ごくさりげなく自分の言葉で話さねばならない」。そしてそれは「真に最高の作品は通俗とスレスレの境地にあるとぼくには思えます」とくる。詩だけでなく、あらゆる表現の極意のように思える。

本書には有名詩人の作品と、同人系無名の詩人の作品がいっぱい散りばめられている。著者が選んだ素人の詩が、しばしば著名な詩人の作品以上に生き生きとしていて、感動的に感じられる。要するにリアリティが大切ということみたいだ。職業詩人より天然詩人の方が、オーガニックな思いから言葉を発しているからリアルなのだろう。

さりげない言葉というのもリアリティである。当事者の視点のユニークさが、技巧や経験を上回ることを著者はこう説明している。

「たとえば百メートル競走のレースを見るとします。そこを映画に撮る場合、普通にうつせばニュース映画になる。一着何某君、何秒、それでおしまいですが、一番ビリのひとをうつせば、悲しみになり、二番をうつせば悔しさになる。あるいはコーチ、応援団、補欠選手というふうに見ていくと、いくらでも視点はちがっていくわけで、ちいさな技巧よりも、どこに自分が焦点をあわせてかくのか、そして、それをよく見ているかというところがたいせつになります。」

最後まで「詩の作り方」が書かれていないのだが、詩が書けそうな気になる、書いてみたくなる創造的な本である。やなせたかしという一流の表現者の芸術論として読んでもいい。

落語論

| | トラックバック(0)

・落語論
31kS65FkDzL__SL500_AA240_.jpg

たとえ落語に興味がなくてもぜひとも「買い」の大傑作である。おすすめ。堀井憲一郎、『ディズニーリゾート便利帖』でただものではないライターだと思っていたが、ほんとに凄いよこれは。教えてくれた友人のshikeさん、ありがとうございます。

落語を通して他者を魅了する芸とは何かの本質を論じている。芸人だけでなくプレゼン機会の多いビジネスマン、講師・教員、コンサルタントは必読の書である。ライヴの極意が書かれている。

ただし究極のそれは技術ではないのだ。

「東京ドームの舞台に、たった一人で立つ美空ひばりの気持ちをおもいうかべればいい。 たった一人の声だけでこの数万の客を取り込もうという、その気合いがなければ、成功しない。ただすんなりと歌をうまく歌っただけでは、客を巻き込めない。それは芸能ではない。お歌の発表会だ。すべての客の心に、美空ひばりを届けないといけない。いま、この目の前にいる客を、とにかくどうにかするんだ、という強い気持ちだけが、音をすみずみの客にまで届かせる。」

自己の面子にかけて、今この場をとにかくどうにかするんだという気迫。ビジネスの会議やプレゼンの場でも、こういう姿勢は本当に重要だと思う。ポジション、能力にかかわらず、一緒に仕事をしたいと思う人はそういう人だ。(往々にしてその手の人はポジションも能力も既に高いのだが。)。もちろんそれは才能でもあるのだが。

落語は歌だと言い切る。言語分析やオチによる分類を否定する。言葉より音なのだ。

「音は「いつもすべて心地よく」だされているのが、一番いい。知らず知らずに観客の身体が演者のほうへ反応し、好意的に受け容れる体勢を作る。心地いい音が出されると、動物はまずそちらに近寄っていく。動物的につかんでおいて、それから言葉を発すればいいのである。」

音の高低でメロディを作り、強弱でリズムを作れ。もっとも心地よく聞こえる声を把握しておくことが大事。自分の息の都合でブレスをするな。いい落語の要素を著者は次のようにまとめた。

「声の高低をきれいに使って、人心を見事に掴むメロディラインを作って喋っており」
「声の強弱によってきちんとリズムを作って噺を心地よく前に進め」
「ときにブレスしないシーンを作って客の緊張を逃がさず」
「また予想外の高い声で客を緊張させ」
「声を分けて人の違いを出さず、どの人物も声の高低をきちんともっている」

これが聞きやすくて良い落語だそうだが、スピーチや話芸全般の基本ともいえるだろう。
落語の噺家は客を切らないというのもいい指摘だ。客全員を覆う気を持つ。おれは俺の芸をやる、分からないやつにわかってもらわなくてもいいなどとは決して言わない。客との共同作業で、その場の全員が共同幻想を抱き、自他の区別がなくなるのが落語の理想なのだと説く。

「落語は和を持って貴しとなす。ただその和はその場でさえ納得できればいい。人類の発展に何も寄与しなくてもいい。人類の発展を阻害してもいい。いま、そこにいる人たちだけの和を貴いものとする。そしてその考えかたはおそらく日本の芯とつながっている。」
この著者の文体は、ひとりでボケとつっこみを繰り返しながら読者と一緒に熱くなっていき、行き過ぎの手前でスッと落とすのが特徴。文章自体が落語のような話芸として見事でもある。

評論家の発言の原動力を演者への嫉妬だと看破する、とか、メモを取ると「今までの自分が変われる可能性のある言葉をとりこぼす、とか落語論と関係のないところでの深い洞察にも感心しながら読んだ。1ヶ月半で書き上げたとは思えない読みどころ多数。話芸、場の演出、コミュニケーションなどヒントが次々にみつかる名著だ。

・東京ディズニーリゾート便利帖
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/07/ix.html

・アイデア・スイッチ 次々と発想を生み出す装置
41ORJQE6dxL__SL500_AA240_.jpg

楽しい発想ツールのカタログ本だ。ファシリテーターに特におすすめ。

「創造手法の専門家たちは、これまでに、さまざまな「アイデア創出方法」を見いだしています。つまり「発想装置」を起動するための「スイッチ」が、実は存在しているのです。おもしろいことに、このスイッチには複数の種類があります。「即効系」のものは短時間で次々と発想させてくれますし、「深考系」のものはステップを踏んで確実に創造的なアイデアを発想させてくれます。」

前半で即効系、後半で深考系のツールが紹介される。

・10分間で3つ以上のアイデアを引き出す「Scamper」
・技術的な視点からアイデアを引き出す「USITオペレータ」
・多様な観点でアイデアを引き出す「6観点リスト」
・多様なひねり方でアイデアを引き出す「12変化リスト」
・「それ、どうやって実現するか」を発想する「智慧カード」
・ノート一つで100以上のアイデアを引き出す「エクスカーション」
・アイデア創出専用の「はちのすノート」
・TRIZ系の発想ツール「9Windows」
・新事業発想法「531ストレンジ」

など、ツールが満載。

発想法というのは新鮮な気持ちで真剣に取り組むときに一番の効果がでるものだと思う。逆に方法に慣れてしまうと効果が薄れたりもする。アイデアマンは多様な発想法を知っていると良い。これ一冊分で数年は持つだろう。

初めて知った発想法では新規事業の発想法「531ストレンジ」は早速試してみた。これは「基本的な用件を取り除き、新たな可能性を作り出す」というものだ。まず既存事業の基本用件をリストアップして、重要な要素を取り除く。

たとえば新聞社のビジネスを考えるときには「記者がたくさんいる、そして日々取材し情報を得ている」という基本用件をなしにして成立する事業を考えてみる。その事業が意味をなすとしたら、どのようなものかを想像するのだ。

48の問いかけにより発想を生み出す「SCAMPER」と、マインドマップとマンダラートの良いとこどりの「はちのすノート」は、ツールが製品化されているようだ。早速注文してみた。

・ブレイン・ペーパー04 【SCAMPERボード】
51IDvYBEmJL__SL500_AA280_.jpg

SCAMPERは「代用可能な部分は何か?」「そのままで、何か他へ使えないか」「頻度をどれくらい増やせるか」など48の質問項目に次々に反射的に答えていくことで、脳に短時間で強制的にアイデアをはき出させるツール。

・ブレイン・ペーパー05 はちのすボード A3
41MiHWcYbhL__SL500_AA280_.jpg

頭の中のもやもやを、はちのす状に広がるマス目に書き出していく。アイデアを考えるときメモを書くのが苦手な人でも、適当に書き出すと、自分が考えていることの全体像や構造が見えてくる仕組み。

と、こんなツールが多数紹介されていて新鮮だった。長期的にアイデアが出やすい体質を作る「アイデアマラソン」と組み合わせて利用するとよさそうだ。

・仕事ができる人のアイデアマラソン企画術
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-967.html

・「金のアイデアを生む方法 "ひらめき"体質に変わる本
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/03/post-538.html

・企画がスラスラ湧いてくる アイデアマラソン発想法
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/01/eaexxnae-acfaz.html

・文才がなくても書ける小説講座
51JK4tYyzHL__AA240_.jpg

文才がなくても書ける小説講座

身も蓋もないタイトルに思わず噴き出した。

文才がないのに小説を書く意味があるのか?

面白くない小説など存在価値がないではないか。

書けない人が書く必要がないジャンルなのではないか?

でも、よく考えてみると、ありである。

少なくとも書いてみたい人間にとってはオオアリクイである。

才能があるかないかは書いてみなければわからないからである。
(ダジャレも言わなきゃ受けるかどうかわからないからである。)

文学的に読む価値がある作品か否かはともかく、まず一遍の作品を完成させることを重視した講座である。著者が高校教師なだけあって、論理的で明解に指導してくれる。説明の流れに説得力がある。

まず最初に何か書く。すると「こう書いた以上は、次にこう書かないとまずいよな」という不足を埋める必要が生じる。ひらめきではなく論理で埋めていけ、というのが著者が教える基本的な書き方。

「書くことを、情緒や感性と結びつけて考える人がいます。それらが豊かでなければ、すなわち特別な才能がなければ、書くことはできないというのです。これは誤りです。書くことに必要なのは不足を見きわめる目と、それを慎重に埋めようとする論理の働きです。書くことは私たちが思う以上に、即物的な行為なのです。」

有名作家の絶妙な例文を用いて、文豪の文章でさえ案外に論理的な生成の働きで綴られていることが示される。これなら自分でも書けるかなあと思えてくる。文章術の本にはやり方を示すと同時に、書ける・書きたいというその気にさせる要素も大切だろう。その点、この新書はかなりの高得点である。

最初の一作をものにするための手ほどき本だ。

何を書いたらいいかわからない、書きたいことがないという人でも大丈夫だとフォローする。「書きたいことが事前に想定されていなくても、書き継ぐことによって、書きたいことは見えてきます。」。文才がなくて書きたいこともなくても大丈夫だという、ハードルの低い小説家への案内本。

万年小説家志望の私としては、やはり何か書いてみよう、とまたしても思った。

・一億三千万人のための小説教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/03/post-721.html

・物語の作り方―ガルシア=マルケスのシナリオ教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005281.html

・2週間で小説を書く!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004901.html

・人生の物語を書きたいあなたへ ?回想記・エッセイのための創作教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001383.html

・小説の読み書き
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004878.html

・書きあぐねている人のための小説入門
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001082.html