言語表現法講義

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・言語表現法講義
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名著。文章を磨きたいと考えている人は必読。

著者は、物事に深く感動して書くと力強い文章が書けるとか、物事を完全に理解すればいいものが書けるという常識を否定する。

「どんなに感動が深くても、どんなに苦悩が深くても、それは、それとして、文章がいいことの保証にはならないんです。すごく苦しんだ人がすごく凡庸にすごい苦しみを書く、なんて、文章の世界ではザラです。むしろ、すごく苦しむとそれに囚われちゃいますから、余り、苦しまない人のほうがいいかな、というくらいのことさえ言われているんです。」

感動の重力から自由になれ、いったんその感動は伝達不能と思ってあきらめろ。するとヨソから書く契機がやってくる。それは実は「書けない」という抵抗や、間違いのような、一種の妨害者のようなものだと著者はいう。書けないで苦しむと、自分自身のなかではなくて、外から思いもつかぬ方向からゴミが降ってくる。それにぶちあたっていくべきだと言っている。

「話が、その時のいきおいで、ずれる。ヨットが東に行く風を帆に受け、その風で北に行こうとするときには、バタバタと震えるでしょう。そんなふうに、そういうときの文章は、力を持ちます。」

わかったことを書くだけではメッセージを伝えるメッセンジャーボーイにしかならない。立て板に水では、力のないものになりやすい。「さらに考えて、つぎのわからなさまで到達して、そこから書くことが大事です。」という極意が披露される。

まっすぐに書いても伝わらないテーマもある。社会正義のような主題は真っ向から取り組んでも説教くさくて退屈で読み手に伝わらない。この本では、仕事に貴賎はないというテーマを書く際に、その仕事に誇りを持つ父親を娘の視点からドキュメンタリタッチで書いた記事が取り上げられている。するとテーマが嫌みなく自然にはいってくるのだ。

「「ほんとう」のことは、大事だし、それをめがけてしかヒトは生きられないが、しかし、その「ほんとう」のことは、笑い飛ばされる必要があるのです。そうでないと、「ほんとう」のことは、何ものもこれを否定できない僭主のような存在になってしまうでしょう。それは、「ほんとう」のこと自身の望まないことではないでしょうか。その僭主化をふせぐもの、そこに風穴をあけるものが、僕の考えではフィクションなのです。」

この講義が素晴らしいのは、このような極意を概念的な説明に終わらせず、プロの名文や学生の作例を通して、実物で示してくれるところだ。そして多くの書き手が陥りがちな罠にも警句を鳴らす。

たとえば、終わりに美辞麗句を書くな。著者は学生に作文を読んでこう指摘する。

「皆さんの文章、いつも、終り近くになると改行になるんです。気がついているかどうか、原稿が規定の枚数に近づくと、終了モードに入る。そして、最後、だいたい、「こういう世の中は、早く変えられないといけないと思う」か「明るい明日を信じて、なんとかやっていきたいものだ」か、「そんなことを思って暮らしている今日この頃である」かで終わる。 そして、この「まとめ」が、たとえそれまで個人の声を伝えようとしていても、それを台無しにしてしまう。」」

この本は深い。大学の講義を書籍化したものだが、情報伝達のための文章指導に終わっていない。プロの書き手として読ませる文章を追究している。文章を日々書いている人が上を目指すのために効きそう。ここで駄文を日々書き続けている私なんかは、ページをめくるたびにアイタタタと反省しまくりだ。

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このページは、daiyaが2010年1月14日 23:59に書いたブログ記事です。

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