2004年02月11日

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大人のための文章法
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今、一番欲しいスキルは、考えていることをもっと短い時間で文章化する能力である。願わくば、誰にでも分かりやすく書く能力である。

超本格会議で私は、自分の書く速度を計測した実験の成果をお話した。商業媒体への完成原稿の作成能力は、私の場合は1時間に1200字から1400字程度。原稿用紙で1時間に3,4枚といったレベル。1日ではその10倍強くらいだろうか。もちろん中身にもよるし、テーマと勢いがあればその数倍で書ける時もある。平均すればの話。

会議に参加していたプロのライターの方々から休み時間に「私は1日4万字(原稿用紙100枚)くらい書ける」と教えてもらった。なるほど、文章の作成速度にはだいぶ個人差があるらしい。

■なんでこの人は年間50冊も出版できるのか?

著者は精神科医で、受験と学習術のカリスマライターとして出版界に登場し、年間50冊のペースで本を出す人である。ハズレも少なくないらしいのだが、数十万部のベストセラーを何冊も書いており、熱烈なファンも多い。「書く」を生業にするという点では、著者は大成功者だ。

アマゾンのユーザレビューに失望の書き込みが散見されるのであるが、この本にはタイトルから期待する、目のの覚めるような文章術や技法はこれといって紹介されていない。プロットをしっかり考えてから、とにかくいっぱい書け、書かねばならない状況になれば書ける、みたいなノリである。

だが、この本は役に立たない、面白くないか?というと、そうでもない。書店で立ち読みしていた段階で既に、ノウハウに目新しさがないことは気がついていた。それでも買って読んだ私にとって、参考になったポイントを書いてみる。

まず、作者の文体である。書く文章そのものに量産できる秘密があるのではないか、と思っていた。著者は1日原稿用紙1000枚を著述するという。驚異的だ。私がこの本の文体や流れを見て、その秘密と理解したのは次の要素である。

・自明に思えることもすべて説明する
 (「もともと私の話は説明が長いようだ」)
・説明に論拠を多く明示する(特に体験、事例の多さが目立つ)
・論理展開に跳躍がない
・主語、述語や言葉の省略が少ない
・幾つかのパターン化されたロジックの多用

自分の文章は文豪のような名文ではないと本人も述べている。

著者の文章は、少々、冗長に思えるのだけれど、ベストセラー作家であることを考えれば、冗長と感じる私の感性の方が市場ニーズ的には間違っていて、著者の方が恐らく正しいのだ。名文ではないが、商業レベルでマスマーケット向けに書く文体としては、このあたりが適切だという按配が著者の文章から分かる。

■著者の自己分析と戦略開示の終盤が面白い

一般的な心構え論の多い中盤まではともかく、終章の「終章 書ける人間が生き残る時代」は個人的には強烈に面白かった。なにしろ見出しに「量産することと市場の評価」「和田秀樹は生き残れるか?」という題が並ぶ。クライマックスなので中身は引用したりしないが、つまり、この著者は自分のやり方のメリット、デメリット、批判のすべてを、完全に認識している人だということが最後に分かる。著者の悩みと、なぜ今の方針を取るのかの解説は人間的で面白い。著者は精神科医ということもあり自己分析にも長けている。

味のある文体で売る作家になりたいのであれば、この本は役に立たないと思う。伝わる文章、売れる文章で、商業媒体に物を書く人や、指示を明文化して周囲に伝える必要のあるマネージャーには、入門書として役に立つ本だと思う。


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Posted by daiya at 2004年02月11日 23:59 このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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