2004年02月10日

「精霊の王」、「古事記の原風景」このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加


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建国記念日的な2つの書評。

「聖は性なり、然るに生なり」というページがある。いや、先ほど確認したらサイトが消えていたので、あったというべきか。Webアーカイブのサービス上にコピーが残っていたので、変則的だが、そちらへリンクしてみる。

・「聖は性なり、然るに生なり 祭りと性神探訪」
http://web.archive.org/web/20030619144422/www.os.rim.or.jp/~charan/seitan-index.htm

民俗学研究のサイトで、作者の方は、日本全国の性神について実地で調べていた。日本の神社や祠の御神体が、このように男性や女性の性器をかたどったものであるケースはまったく珍しくない。ほとんどの性神は、記紀(古事記、日本書紀)に現れる著名な神社の神々よりも、遥かに古い起源を持つ土着の神々である。だが、その実態はほとんど分かっていない。

以前、私がインドネシアのバリ島へ旅行したときに撮影した写真がある。名前を忘れてしまったが、洞窟の遺跡で最奥に祭られているのはこんな御神体であった。南方系の民族も日本に流れてきたらしいので、何かつながりのある神かもしれない、と思った。

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■精霊の王

宗教学者で思想家、中沢新一の近著「精霊の王」は、石の性神「シャグジ」をてがかりに、記紀以前の古層の神々を掘り起こし、日本人の精神史に新たな視点を持ち込む本である。

・精霊の王
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東京にも石神井(しゃくじい)という地名がある。これは諏訪大社の祭神「ミシャグチ」に由来すると言われる。諏訪大社は表向きは記紀の世の神々である、建御名方命・八坂刀売命の二人を祭っているが、それ以前の古いミシャグチ信仰も残っている。この二重性は、全国でよく見られる。

・参考:漫画「石神伝説」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4160900232/daiya0b-22/
大和、熊野、常陸…霊石の力を解き放ち、各地で惨劇を巻き起こす白鳥の狙いは現代版・国生み神話だった。

記紀の神々が祭神と表書きに書かれているのに、御神体は性神の形であったり、敷地内に別の祠があるような例だ。この本で語られるのは、まず、この二重性である。これは権力者の持ち込んだ天皇系の神々が、土着の古い神々を奥へ追いやった歴史の構造である。

だが、この古い神々、追いやられはしたものの、民間信仰では、その後も長く祭られてきた。石器時代からの数万年間、信仰の拠り所となっていた、その豊穣な力は、決して失われたわけではないと、いう。

著者は、この二重性が日本人の精神形成に与えた影響を、今作でもトポロジー論で、見事に説明して見せた。表の神に対して、宿神(シャグジ)を「後戸」の神と定義する。シャグジは、神話学の言葉で、永遠に循環する神の世の時間感覚を表す「ドリームタイム」の世界から、表の神に生命力を照射する力の源である、とし、この構造の生成とはたらきを、説明するのが、この本の大意である。

中沢新一は、丁寧に古い資料を紐解き、その新たな思想を、鮮やかに裏付けていく。カイエソバージュでも同種のテーマが論じられたが、トポロジー論を前面に打ち出すスタイルのせいで、とかく形而上学的になりがちだった。だが、この本では、著者は膨大な量のフィールドワークと古文書研究により、論拠を多数用意して、丁寧に語り、今までに、ないほどの説得力ある立論に成功している。

著者も幼少の頃よりの関心を遂にまとめることができたという集大成感が、行間ににじみ出ている。この人の研究人生の中での記念碑的大傑作と呼んで良さそうだ。民俗学、人類学、構造主義に関心のある人ならば、夢中になること請け合いの一冊。

・関連:同じ著者のカイエソバージュ「神の発明」の過去に書いた書評
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000314.html
今日の書評だけでは舌足らずかもしれません。気になった方はこちらもどうぞ。

・私の好きな漫画たち
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000741.html
上位3位は記紀をテーマにしています。漫画で興味を持ちたい方はこちらの書評もどうぞ。


■古事記の世界の写真集

・古事記の原風景―神々が宿る悠久の大地
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素晴らしい!。

古事記の物語の要約とともに、日本の幻想的な風景や美術が並べられたカラー写真集。イザナギが禊をした稲佐の浜、天岩戸を演じる高千穂神楽、舞台となった天安河原、出雲大社、熊野の深い森。すべてのページに荘厳で、静謐な原風景が広がる。枕元に「精霊の王」と並べて交互に読んでいたら、私自身がドリームタイムに吸い込まれそうだった。

こういった写真集で思い出したのは、2000年に休刊になってしまった写真誌「月刊太陽」のこと。

月刊太陽は、写真のクオリティも文章も超一流だった。日本の雑誌史に残る、指折りの名誌だったのではないかと私は考えている。日本の写真に関しては「ナショナルジオグラフィック」も太陽には及ばないだろう。気になるテーマのバックナンバーが書店があると、入手している。

・平凡社 月刊太陽
http://www.heibonsha.co.jp/catalogue/exec/query.cgi?series=taiyo

(写真集は書評が難しいことに書きながら気がつく)


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Posted by daiya at 2004年02月10日 23:59 このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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