2008年03月17日

一億三千万人のための小説教室

・一億三千万人のための小説教室
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私は小説を書くのが子供の頃からの夢である。でもまだひとつも書いていない。いいガイド本はないものかとずっと探しているわけだが...。

高橋源一郎が書くのだから並みの内容ではあるまいと予想して読んだが冒頭から「実際、わたしの知っている限り、「小説教室」や「小説の書き方」を読んで小説家になった人はひとりもいません。」と読者を突き放す。

「真実というものは、知ってみると、たいていガッカリします。身も蓋もない、という感じだからです。この「小説家」の代わりに、「音楽家」や「数学家」や「建築家」ということばを入れてみてください。みんなあてはまっちゃう。ほんとに、真実って味気ない。」

とはいいつつも、もちろん高橋源一郎なりのアドバイスがある。「つかまえる」「口まねする」という二つの方法が小説家になる近道だと教えている。

つかまえるというのは、生きていればいろいろなボールが飛んでくる、ボールの中にはきっと小説も含まれているのでつかまえなさい、という意味。古今東西の名作の一節を引用して、ほら今何か飛んできたでしょ?あなたわかった?という風なケーススタディが続く。

「ふつう、人は、なにかを考えて、それから、おもむろに、その考えたなにかをことばで表現する、と思われています。しかし、それは、まったくの誤りではないでしょうか。ほとんどの「小説教室」で、まちがったことを教えるようになったのは、そのせいではないか、とわたしは思ったのです。まず、口まねがあるのです。」

好きな小説家の文体を真似してみなさい。そうすればそれを書いた人の感覚で世界を見る練習をしていれば、自分のオリジナルの視線と融合して、やがて自分自身の小説も書けるようになるよ、と高橋源一郎は言う。キャラクターが自然に動き出すという状態に近いのだろうか。

「小説家は、小説の書き方を、ひとりで見つけるしかない」。小説家志望の孤独な挑戦を、もしかすると近道になるかもしれないヒントを提示することで勇気づけてくれる本である。

・物語の作り方―ガルシア=マルケスのシナリオ教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005281.html

・2週間で小説を書く!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004901.html

・人生の物語を書きたいあなたへ −回想記・エッセイのための創作教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001383.html

・小説の読み書き
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004878.html

・書きあぐねている人のための小説入門
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001082.html

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2007年10月25日

CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ

・CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ
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小寺信良と津田大介の二人がキーパースンとコンテンツの未来を探る対話集。

登場するのは以下の顔ぶれ。

土屋 敏男(第2日本テレビ エグゼクティブ・ディレクター)
草場 大輔(東京MXテレビ 報道制作局ディレクター)
椎名 和夫(音楽家、実演家著作隣接権センター運営委員)
遠藤 靖幸(価格.com マーケティング部)
江渡 浩一郎(産業技術総合研究所 研究員)
西谷 清(SONY ビデオ事業本部長)
長谷川 裕(TBSラジオ「Life」プロデューサー)
中村 伊知哉(国際IT財団 専務理事)
松岡 正剛(編集工学研究所)

松岡 正剛の「プロセスがコンテンツになる」というやりとりが、ふだんネットを使っていて感じていた私自身の問題意識と重なって、参考になった。

「松岡 PCの世界じゃないところでは、例えばゴールデンウィークに旅をする。するとどこか観光地に行くのはいいけど、その間はみんな疲れて車を運転しているわけですね。それを何とか忘れて「楽しかった」と言っている。ところがPCの世界ではそれがなくて、その手続き上で何があったか全部消えているわけです。そこを増やせば、情報社会というか、情報世界にもうちょっと何か実際に体験した身体的なものが蘇るはずです。」

小寺 そういう意味では、アマゾンで本を発注して、本が宅急便で届くていうのは、多少アフォーダンスがあるような気がしますね(笑)。買うときは、書店に行って買うのよりも便利は便利ですけど、本が届くまでのタイムラグがあるから(笑)。

松岡 その「行ったり来たり」をウェブにも入れて欲しいわけ。そういうプロセスにおいては梱包を解くとか、どーんと届いて、「え?こ、こんなに買ったっけ?」って驚いたりすることが残るんだけど、ウェブではそれがなくなってしまっている。だから、それを手がかりとして本来ならば編集が始まるものが、始まりにくいんですわ」

テクノロジーによって人間は高い山の頂上へいきなりヘリコプターでいける時代になったが、それでは登山者の心身の変化ってないと思うのである。あらかじめ準備をして、訓練をして身体を慣らし、緊張しながら仲間と助け合いながら上っていくプロセスがあるから、頂上で大きく感動すると思うのだ。人生観も変わるかもしれない。

先日、ニュースで取り上げられていた比叡山の千日回峰行、9日間断食不眠の修行者の話だって同じだと思う。千日回峰行はこの堂入りの前後に1000日間で地球一周分の約四万キロを歩く荒行。達成できない場合は自殺しなければならない掟がある(この現代に、驚きである)。その途中のクライマックスが「堂入り」であった。

・9日間断食不眠の難行達成 比叡山中の「堂入り」
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200710210156.html

無事、この修行者は難関を達成した。悟りを開くこと、ある究極的な境地に達することを目的としているのだろう。長いプロセスが重要であって堂入りだけ達成しても無意味なのだ。そういえば、この発言者の松岡 正剛氏は、千日で千冊の書評(毎回4000字以上)をブログで公開する荒行の成就者である。プロセスが大切というのは自身の最近の経験もあっての発言なのかもしれない。

・千夜千冊
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/toc.html

情報やコンテンツとの見合い結婚が増えているってことだと思う。検索やSNSは強力な仲介サービスとして機能している。すぐに最適な属性の情報がみつかってしまう。「勇気を出して初めての告白」まで悶々とするってプロセスが失われているのである。コンテンツとしての醍醐味や人間的な価値は、本来はそういう最適化できないプロセスの中にこそ存在しているはずなのに。この本にでてくるキーパースンたちの多くは、デジタル化された現場で取りこぼされているアナログ的なプロセスの重要性を、再度見直すべきと訴えているように読めた。

他の論点では江渡 浩一郎氏の創作性と著作権法に関する考察も鋭い指摘と思った。

「ただ重要なこととして、創作性って謎な部分が多いくせに著作権法では明確に規定された概念だってことなんです。著作権法的に書かれていることによれば、著作物とは「思想を創作的に表現したもの」ですよね。<中略>でも実際には、これが著作権法を支える根本的な概念でもあるはずで、現実の世界では裁判官がそれを最終的にジャッジするということになっている。僕はそれが著作権法内に潜む矛盾だと思うし、現実的に一番処理に困る瞬間じゃないかなと思ってます。」

長い間、コンテンツとメディアそして流通方式は不可分で三位一体だったのだろう。だから、音楽業界が法律によって守ろうとしてきたのは、音楽とCDと流通網の利益分配システムだった。決して著作権者の権利でもなければ、作品の中の創作性でもなかっただろうと思う。それらが分離解体されて、純粋に創作性を評価しなければならなくなったが、既存の法律では記述があやふやなわけだ。

最小の創作性ってなんだろうか。

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2007年10月01日

日本語の作文技術

・日本語の作文技術
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1982年初版、文章術の古典的名著。ジャーナリスト 本多勝一氏が「読む側にとってわかりやすい文章を書くこと」を目的とした作文技術を披露している。言語学的に正しい文法を講釈するのではなく、現場のノウハウを徹底的に理論化している。

特に「修飾の順序」と「句読点のうちかた」は、文章を書く人すべてが一度は読んでおくとよさそうな内容である。こうするとわかりやすくなるという説得力のある推敲例を多数示した上で、原理原則を抽出していく。

「修飾の順序」

1 節を先に、句を後に
2 長い修飾語ほど先に、短いほどあとに
3 大状況・重要内容ほど先に
4 親和度(なじみ)の強弱による配置転換

「句読点のうちかた」

第一原則 長い修飾語が二つ以上あるとき、その境界にテンをうつ
第二原則 原則的語順が逆順の場合にテンをうつ
#この他に筆者の考えをテンにたくす場合として、思想の最小単位を示す自由なテンがある

文章を書いていて迷った時、これらのルールを知っていれば、救われる黄金則だと思う。
前半で実践的な文法論が語られた後に、後半では表現論や日本語論が熱く展開されている。避けるべき表現法として「紋切型」、「繰り返し」、「自分が笑ってはいけない」、「体言止めの下品さ」、「ルポタージュの過去形」、「サボリ敬語」を挙げている。個性がなくて、手抜きの文章は美しくないということだと思う。日本語はこうあるべきという著者の思想が感じられる。

特に共感したのが、読者の感情を動かしたいならば、文章が感情的になってはいけないというアドバイスである。漫才師と同じで、笑わせるものは笑わないのが鉄則なのだ。「読者を怒らせたいとき、泣かせたいとき、感動させたいときも「笑い」と同様である。筆者自身のペンが怒ってはならず、泣いてはならず、感動してはならない。」。

笑わせてやろう、泣かせてやろうと思って文章を書くとき、人は作為の文章を書いてしまいがちである。その作為性が、無粋であったり、下品であったり、くどい印象などを読み手に与えてしまう。逆説的であるが、そうした作為を排して、自然に流れる文章を書けるようになるための技術や修行法を、この本は教えている。

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2007年08月26日

現代語訳 風姿花伝

・「現代語訳 風姿花伝」
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すべてのクリエイターにオススメしたいのが「現代語訳 風姿花伝」(PHPエディターズ・グループ)である。風姿花伝はご存知のように、600年前に能を極めた世阿弥が書いた芸能指南の書。明治になるまで一子相伝で伝えられてきた。この書の中でも最も秘匿性が高い「口伝」で語られた「秘すれば花なり。秘せずは花なるべからず」というフレーズは有名である。この現代語訳は古い言葉で書かれたその奥義が、誰にでもわかる言葉に翻訳されている

世阿弥によると花とは、面白くて珍しいもののことである。見るものの心を動かさなければ花ではない。そして、どんなに洗練された表現でも、ありふれたものは花ではない。だから、表現者はたくさんの持ちネタを修得し、場の雰囲気に合わせて、最適なものを繰り出せるようになりなさい。それが花のある芸人ですと伝えている。

私流に超訳してしまうと、こんなことも言っている。

・開演は会場が静まるのを待ってから始めなさい。
・昼の公演では穏やかな出し物から少しずつ盛り上げていきなさい
・夜の公演ではいきなりテンションを高く始めなさい
・練習中の芸は地方巡業で磨き、ここぞという東京ドーム公演で完成形を見せなさい
・若い芸人は若さゆえの輝きを持つが、それは一瞬のことなので根気よく精進しなさい
・35歳で世の中に認められないなら一流は諦めたほうがいいかもしれない

まだまだあるが、ずいぶん実践的で、芸能全般に応用できそうなノウハウである。幽玄、去来花、物真似という言葉もこの本から出たもの。長く秘密になっていたものが、こうして読みやすい形で読める現代は幸せだ。

さて、なぜ花は秘すべきなのだろうか。なぜ風姿花伝は一般の目から500年以上も隠されてきたのだろうか。答えが最終章に書いてある。

風姿花伝の極意は、「珍しいものが花だと思って演じていることを周囲に悟られるな」ということだったからなのである。珍しいものが見られると期待する観客の前では、何を出してもびっくりさせることが難しい。つまりネタバレ厳禁ということなのだ。

Web2.0、オープンソース、集合知の時代になってあらゆる知識が万人に共有されている。消費者にとっては便利で快適な時代だが、作り手にとっては「秘すれば花なり」が難しくなってきたともいえる。

世阿弥は芸能は人々を面白がらせ幸せにするものだと語っている。その価値を守るためにクリエイターは、これからも舞台裏は隠すべきなのかもしれない。しかし、隠すものは、隠していることを悟られてはいけない。見るものに不便や無粋を感じさせることなく、舞台裏を秘するは花なり。それがインターネット時代のクリエイティブの目指す理想なのではないかなと考えた。

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2007年04月05日

デザインにひそむ〈美しさ〉の法則

・デザインにひそむ〈美しさ〉の法則
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工業デザインの入門書。

これを読むと「ご祝儀のお札はなぜ3つに折るのか?」なるほどと納得する。

・トランプ
・クレジットカード
・ハイビジョンの画面
・新書
・デジカメIXY digital
・名刺
・iPod
・マルボロの箱

これらの共通点は黄金比(1:1.618)の長方形であるということ。デザインの世界で黄金比は神話化されているが、その意識的な利用はルネサンス時代くらいからだそうである。写真の世界ではフレーミングの理論として画面を縦横に三分割し、4つの交線上におもな被写体を配置する「三分割法」があるが、これも結果的に黄金比に近いレイアウトを得る手法である。

・黄金比はすべてを美しくするか?―最も謎めいた「比率」をめぐる数学物語
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004272.html

黄金比と並んでよく使われるのが白銀比(1:ルート2)で、A4、B5などの紙のサイズに使われているという。現代の人気キャラクターの全身は白銀比に収まるものが多いと紹介されている。「しっくりくる」「かわいい」という主観的な印象も、実はこうした客観的な数学が作り出している可能性があると著者は説く。

この本が扱うのは形だけではない。

「日本の子供たちが大好きなアンパンマンも、シンプルさの法則に忠実です。実は日本語には色を表す形容詞が、「赤い」「青い」「白い」「黒い」の四つと、江戸時代に追加された「黄色い」「茶色い」の六つしかありません。この六色は日本の伝統色、いわば日本版の「原色」だということができます。アンパンマンにはこの六色のうち五色だけで表現されています。そして残りの青は適役バイキンマンの基本色です。」といった色の秘密もある。

質感をデザインする造形技法である「角アール」「面取り」「ハマグリ締め」などについても教えている。私たちが日常使っているモノのデザインの定石がたくさん語られていて非常に勉強になった。

そして、著者の結論的な一節にこういう文章があった。

「そして、現在の工業デザインの流行は、素材感や質感の追求になっています。これからの市場は、本物指向に向かっていきます。そのような市場の要求に、色や形だけで応えるには限界があります。本物が持っている高級感を表現するための素材感や質感の開発と研究が、現在の工業デザインの大きな課題になっているのです。」

ここでは、本物ってなんだろうか?と考えさせられた。

ブランドの偽物はあるが、本質的には、存在するものに本物も偽物もないから、ここでいう本物とはみんなが本物と思っているモノのことだろう。新素材で作った方が安くて高機能にできるモノでも、木や鉄や布という伝統的な素材でつくると本物っぽかったりする。
Webデザインにも本物っぽさってあると感じている。レイアウトやインタフェースがイケているかどうかの印象のことである。写真アルバムであればFlickr、地図であればGoogleマップ、検索であればYAHOO!やGoogleのインタフェースデザインを踏襲すると、本物っぽかったりする。しかし、これらも実は既にあったパーツの組み合わせなのでもある。

まったく新しいものなのだけれども、どこかに過去のイディオムを再利用していることが本物っぽさの正体なのかもしれない。伝統と断絶したデザインは、斬新だけれども使いづらく感じることが多い。新しいイディオムは一度、ユーザに受け入れられると、クラシックになり、次の世代のイディオムの要素になるのだろう。そう考えると、クリエイターの創造性の魔法のように思えるデザイン技術も、歴史学や社会心理学的な理論で検証できる体系があるのかもしれないと思えてくる。

工業製品の「美しさ」について考えるきっかけになるいい本だなあと思った。

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2007年03月26日

脳は直感している

・脳は直感している
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「素人にとっては、とくにそれが自分の問題であれば、頼ることのできるのは自分の直感だけであり、当然真剣に取り組むだろう。それが「ビギナーズ・ラック」を呼び起こす要因であると思われる。」

「なぜある異性が、それほど魅力的に見えるのか?そう問われると、たいていの人は自分でも説明できない。「直感で」と答えたりするわけだが、実はその異性を選んだ理由は、「進化論的な意味での正解」だからなのだ。」」

人間の直感は無根拠なものではなく、人類が進化させてきた極めて優秀な知覚システムで、「脳の声」を聞くことで誰もが直観での正しい判断を上手にできるようになるという。この本には直感の機能する仕組みと鍛え方が書かれている。

身の危険を事前に察知する、魅力的な異性を瞬間的に選ぶ、儲かりそうな商売のにおいを雰囲気でかぎわける。相当に複雑で難しい総合的な判断が必要な事柄であっても、当事者として真剣な問題についての直感は、素晴らしい威力を発揮することがある。

人間は完全な論理的判断で動くことは1〜2割程度で、ほとんどの事柄は直感で判断している。日常生活の多くの判断は、言葉ではうまく説明できなくても、なんとなくそう思うからそうするという方がスムーズに進むものだ。

直感の法則として著者は次の3つを挙げている。

・直感は「そのときその場でその人に」発揮される
・直感は「非言語的なメッセージである」
・経験を積めば積むほど、直感力は増大する

直感は言語に先行して状況を判断する。だから「虫の知らせ」のように未来を予知することもある。これは人間の顕在意識がはたらくよりも0.5秒はやく、脳がその行動の準備を始めているという、リベットの準備電位説でも裏付けられている。

たまに私にも驚くべき直感が働くことがある。クジに当たるかどうかの直感である。実はこの前の日曜日にもあった。私は通常はクジ運がよくない。当たる気がしないから引かないのだが、稀にこれは自分が引いたら確実に当ると直感する。そういうときは大抵当たるのだ。

東京ビッグサイトで開催されていたPhoto Imaging Expoを見学していたのだが、あるブースで簡単なアンケートとクジを実施していた。その当たりの直感がきたので、速攻で答えてクジを引かせてもらい、数千円のカメラを当ててしまった。こういう当たりの直感の勝率は極めて高い。

これを後から、冷静に分析してみると、クジの当たり確率を、展示ブースの店構えや雰囲気から、直感で判断しているから、当たりやすいのだと思う。それは一般的な知名度は小さいが、知る人ぞ知る小さな会社が、隅っこに出したブースだった。こういうブースはクジも商品も、ある程度数を用意するが、クジの数はあまり用意しないはず、なのである。ベンチャー経営者として、小さなブースを出す側の心理を知っているから、なんとなく勘が働いて「脳の声」がしたのだと、後から考えて、思った。

この本には、こうした「脳の声」を素直に聞くには雑音を消さねばならない。そのための訓練方法が7つ紹介されている。直感を鍛える方法が、瞑想や禅の方法とたくさんの共通点を持っていることがとても興味深い。

直感についての考察とトレーニング方法、どちらも説得力がある良い内容。

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2007年03月23日

Make: Technology on Your Time Volume 02

・Make: Technology on Your Time Volume 02
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4873113180/daiya0b-22/
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・Make: Technology on Your Time Volume 01
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004714.html

ものづくりハック雑誌 Make:日本語版の第2号。
「作れる物は決して買ってはならないし、探すことのできる物は決して作ってはならない」

地上30メートルの樹上に家を建て3年間暮らした経験をこの本に投稿した科学史家の言葉である。

今回の第一特集は「生物をハックする」。「生物学なんてそんな難しいものじゃないですよ。つつきまわしてどうなるか見てればいいんですから」。キッチンで自分のDNAを抽出し、カタツムリを凍結して蘇生させ、接木や受粉で植物をカスタマイズするのが趣味の人たちが、その魅力とノウハウを熱く語っている。バイオテクノロジーって身近なんだなと思えてくる。

セグウェイの発明者ディーン・ケーメンのロングインタビューもある。「極端に成功する人、逆に極端に失敗する人は、どちらも学校では非常によくできるか、まったくだめかのいずれかだと思います。学校というのは、この世界でどうしたらまずまずうまくやっているかを教えるところじゃないでしょうか。」。発明家・思想家を増やすための非営利団体を立ち上げて、普通じゃない人達の育成にも力を入れている。

パソコン周りの記事としては、PalmPilotを分解し、中身をくり抜いた厚い本の中へキーボードと一緒に埋め込んで、Palmのノートブックを作る記事が面白かった。電源が何日も持つので便利なのだそうだ。

ページをめくるたびに意表を突かれるのは第1号と同じ。空き缶でスターリングエンジンを、ジャム瓶でジェットエンジンを作る。ハムスター発電機まである。コンピュータ万能の時代に、敢え手を動かしてモノを作る世界は憧れる。参入ハードルが低いWebのマッシュアップよりも、ユニークなモノを作りやすいかもしれないと思ったりする。

この本の投稿には遠く及ばないが、私は最近、ピンホールカメラの撮影にはまっている。自分であけた小さな針穴を光が通ってフィルムに像を結ぶ。デジカメならば簡単にもっとキレイな写真が撮れるわけだが、ピンホールで現像された写真を手にしたときの感動は何百倍である。人に語りたくなる(今後ブログで語る予定)。そういう語りたい人たちの思い入れいっぱいの投稿記事でこの雑誌はできている。面白い。

・水蒸気ロボ
http://www.crabfu.com/steamtoys/rc_steam_rover/

・自宅をスタートレックに改造
http://www.24thcid.com/

・15人乗りバス
http://busycle.com/

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2007年03月13日

「金のアイデアを生む方法 ”ひらめき”体質に変わる本

・「金のアイデアを生む方法 ”ひらめき”体質に変わる本
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アイデアマラソンの開祖 樋口先生の最新刊。私も日々実践中で信者の一人。

アイデアマラソンは、毎日テーマを決めずに、自由に発想をノートに書きだす発想力トレーニング。アイデアを1000個出せば3つは貴重な発見が必ず含まれているというのが樋口さんの持論である。冒頭に一般書として異例の返品保証が宣言されている。

「本書を読んで、1000個の自分の思いを書き続けた後、貴重な発想を発見できなかった人、自分に発想の自信がつかなかった人には、著者として本書の代金を返済する。樋口健夫 http://www.idea-marathon.net/

ネタが尽きない人は、ネタ切れを恐れないものだと思う。仕事のプロというのは新発想を年中求められるから、常にネタ切れの状態からネタを生み出している。逆にアマチュアは持ちネタから離れられない。発想の幅が狭い。

教室で学生に自由にアイデアを書き出すブレインストーミングをやらせると、時間内に数が出せる人と出せない人がいる。観察していると、典型的なパターンがあることにきがつく。

出せる人に共通するのは初速が速いことである。最初におもいつきを全部書き出してしまう。そこで詰まるが、思考モードが変わるとまた猛スピードでいくつか書き出す。そういうスタートダッシュを何度も繰り返している。裏返すと、発想によく詰まるのである。

逆に出せない人は、なかなか書き出さない。なぜ書き出さないかというと、自分のアイデアがつまらないと思っているからなのだ。いきなり金のアイデアを生もうとして、結局、平凡なアイデアのリストも作れないで終わる。こちらは発想が詰まることさえないのだが、文字通りつまらないのである。

重要なのは、ネタ切れして煮詰まった状態の先に金のアイデアがあると信じられるかどうか、だと思う。そのためには経験しないと信じられない。私の仕事の経験では、フリーランスの人は発想が豊かであることが多い。実際、企画プロデュースの大物はフリーである。

これは自由人だから自由な発想ができるというだけでもないと思う。明日の仕事を取るために、生活レベルで強烈に煮詰まった経験があるからだと思う。会社員のネタ切れとフリーランスのネタ切れは深刻さが違う。フリーはどうにかしなくてはいけないから、なくても出すのである。

樋口さんのいう1000という数は、ちょうどいい数字だと思う。誰でもウンウンうなれば100くらいは書きだせる。1000というと何度も停滞を経験せざるを得ない。ウンウンうなるくらいでは勘弁してもらえない状況が金のアイデアを産む境地をつくる秘訣なんではないだろうか。

本書は、樋口さん自身の23年間のアイデアマラソンの、煮詰まり体験とその脱出成功例の本だとも言える。脱出の肝は発想に何らかの制約を課す発想ゲームであることが多いようだ。そういうノウハウがいっぱいある。

たとえば、アイデアマラソンの練習問題が最後に掲載されている。

・「過去の大笑い」を3つ考えなさい
・「過去に得したこと」を3つ考えなさい
・「過去にびっくりしたこと」を3つ考えなさい

これらの問題に答えると、自分にとって刺激的な意味作用を持つ9つのアイデアが得られそうだ。それを他のアイデアと結びつけることで、たくさんの新発想を産みそうである。まず9つ書いてみるかどうかが、できる人とそうでない人の分かれ目になりそうだと思った。

アイデアマラソンって何?という初めての人にもおすすめ。

・企画がスラスラ湧いてくる アイデアマラソン発想法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000904.html

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2007年02月08日

小説の読み書き

・小説の読み書き
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小説家の佐藤正午が岩波書店の月刊誌『図書』に連載した「書く読書」というエッセイ24本に手を加えた新書。川端康成、志賀直哉、森鴎外、永井荷風、夏目漱石、芥川龍之介、太宰治など各章で偉大な小説家のひとつの作品を著者が読んでは感想文を書いていく。小説家が他人の小説家を評論するときの目の付け所は、やはり普通とは違うなと思った。自分が同じものを書くとしたら、という前提があるからだ。

たとえば、川端康成の「雪国」の章では、有名な書き出し「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった」に対して、なぜ川端は「夜の底」と書いたのか、考察する。わざわざ隠喩を使うわけだから、考えて書いたのに違いないというのである。自然にでてくるわけがない、書き直しもあっただろうというのである。自身も書く人間でなけければ、こういう問題は立てないだろう。

ディティールにこだわる。三島由紀夫は耳がいい、音にこだわる。開高健は目がいい、見たものについての表現が多い、など、そういう読み方もあるのかと気づかされる。小説家たちの文体を書き手の視点で句読点を見て、ここは推敲して書いたはずだ、こちらは推敲していたらそうはならないはずだ、なんてことも見抜いている。

そして、ただの文体研究に終わらないのがこの本の読みどころである。一見、文学部の先生みたいな文体論なのだが、興味が無い作家については、途中で分析は中途半端に投げてしまって余談へ流れていったり、連載時に誤読を読者に指摘された部分に延々と追記をしているが、情報の補足訂正というより、言い訳で上塗りする感じであったり。

真面目に書いている風なのだけれど、どこかおかしくなって笑ってしまう。開高健は細部を観察した表現が多くて女性の肛門の皺について書いているが、そんなに見えすぎるからロマンチックでなくなって、恋愛小説が書けなかったんだろう、という大胆な結論をしてみせたりする。特に、著者の論理展開がまとまらずに、とりとめのなくなった回ほど面白いのだ。著者の地が見える。それが作家としての著者の力であり、個性なのかもしれない。

私もいつか小説を書いてみたい。小説を読みながら、もしこの一行を自分が書くとしたらどう書くかを意識しながら読むというのは、小説作法の本を読むよりも、ずっとスキルの向上に役立ちそうだなと確信した。

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2007年01月13日

「視聴率男」の発想術

・「視聴率男」の発想術
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「エンタの神様」「24時間テレビ」「投稿!!特ホウ王国」「速報!歌の大辞テン!!」「マジカル頭脳パワー!!」「クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!」など視聴率20%超の番組を次々に作り出し、ハズレがほとんどないヒットメーカーの本。

1000万人が求めるものをコンスタントにつくる人の持論が展開されている。


あえてヒットを生むための肝心な要素を挙げるとすれば、まずは世の中でいちばん多い、いわゆる”普通の人”のことをよく理解しておくことだと思う。常日頃から自分の中に、世の中の最大公約数的な”普通の人”を住まわせておくようにすることが何よりも大事なのだ。この後に続く本書の主要なテーマも、まさしくそこにあるといえる。


スタンダード的要素の割合が多いヒットというのは、わかりやすく言えば、すでに世の中に「ありそうでないもの」を生み出す作業、ということになる。

できあがってみれば「なーんだ」と言われるくらいに当たり前で、誰からもまんべんなく支持されるものでありながら、それまではどこにもなかったもの。

普通の人に受け入れられるヒット番組、ヒット商品とはそういうことだと思う。


普通の人が潜在的には誰もが感じているけれど、誰も気づいていないニーズにうまく応えることができればヒットにつながる

自分の中でつくりあげた普通の人の部分=「100のレベルの自分」に対して「200のレベルの自分」が新しい答えを見つけ出していってあげることが発想の基本だとする。そのためには自分の頭に1000万人を住まわせ、日本一普通の人になることが大切だという。

「まったく新しい何か」を生み出そうとしてその結果、マニアックだったり奇をてらったモノをつくると失敗するということらしい。

テレビの場合は1000万人が見るという前提は常に存在していて、その枠組みの中で、何を売るかという考え方になる。「視聴率は親切率」だとし、とにかくわかりやすさを心がけろとアドバイスしている。外さないことが重要で、アバンギャルドは常に傍流だと切り捨てる。

究極的にマス相手のマーケティングの極意は参考になった。実績が示すようにこの著者は時流に乗った天才なのだと思う。

と同時に疑問も生じる。

「エンタの神様」「24時間テレビ」「投稿!!特ホウ王国」「速報!歌の大辞テン!!」「マジカル頭脳パワー!!」「クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!」

私はこれらの番組が面白いと思えない一人だからだ。

「最大公約数の面白いと思うもの」という発想は、逆に言えば、そこから外れた人たちにとっては「つまらないもの」にもなりうる。インターネットはよく使うけれどテレビはあまり見ない人たちというのが私の周りには、随分多くなってきた。そうした層の多くは多様なこだわりや趣味を持っていることが多い。多様な最小公倍数のニッチ集合が、画一的なマスとは別に増えてきているのではないだろうか。”ロングテール”はネットだけでなく、テレビでも進行しているのではないか。

「1000万人向けの感動」をしらじらしく感じながらも視ている視聴者はきっと多いはずである。放送の限界を通信が突き破り、コンテンツの世界でも革新が起きるとしたら、新しい世界では、1000万人が浅い感動をするのではなくて、数万人の異なる集団が異なる内容に対して、深い感動をするようになる気がする。


・誰がテレビをつまらなくしたのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003903.html

・テレビの教科書―ビジネス構造から制作現場まで
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003734.html

・テレビのからくり
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002987.html

・テレビの嘘を見破る
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002377.html

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2006年10月12日

ぐっとくる題名

・ぐっとくる題名
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「週刊ファミ通」でビミョーでオモシロいコラム「ブルボン小林のゲームソムリエ」を書いている著者のブルボン小林は、本名 長嶋有。そちらの名義では小説「猛スピードで母は」で芥川賞を受賞した作家として知られている。音楽、小説、映画をやっている芥川賞作家の辻仁成とか、パンクロッカーで直木賞作家の町田康みたいである。逸脱系マルチタレント。

・ブルボン小林のゲームソムリエ
http://www.ecodec.com/jegame/

・長嶋有公式サイト
http://www.n-yu.com/

ぐっとくる題名を研究するこの本の最初に挙がったのが「ゲゲゲの鬼太郎」。

「やぶから棒ですまないが『ゲゲゲの鬼太郎』のゲゲゲとはなにかを、説明できる人はいるだろうか。」。「ゲゲゲな鬼太郎」でも「ゲゲゲに鬼太郎」でもなく「ゲゲゲの鬼太郎」が印象が深いのは、つげ義春の「無能の人」が「無能な人」ではないからと同じで「の」の持つ機能をうまく使っているよね、と解説している。

ゲゲゲは音の持つインパクトで使ったはずだが、「の」で結ぶことで、「ゲゲゲの意味なんてものは知っていて当たり前というか、ああ、ゲゲゲね、分かります分かります、といわなければならない感じ」を与えているのだという。

「無能な人」については私は英語で有能な人を表す「man of ability」の逆の直訳なのではないかと思っていたのだが、つげ義春がそんなことは考えそうもない、著者の分析の方がずっと深かった。曰く、「無能な人」でなく「無能の人」にすることで「どうしようもなくそうなってしまった」感じになって「無能な人には苛立つだけだが、無能の人には会ってみたいではないか」。

「の」の使い方と前後の二物衝突効果によって、力のあるタイトルを作ることができるというわけである。著者は俳人でもあるらしく短い言葉に込める思い入れが深そうだ。ビジネス書として読むと、かなりふざけた調子で書かれているが、その遊び心こそ本質なのだと思う。考察とノウハウがたくさん含まれており、題名をつける仕事の参考になる。

この本もタイトル買いした一冊だったが、立ち読みができないネット上では特にタイトルで買う人が増えているのではないだろうか。最近狙ってる感ありありで増えている気がするのが「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」式のなぜ系タイトル。この本でも取り上げられていた。

そろそろ飽きてきたのだがアマゾンで書名で「なぜ」を検索したところ3332冊もあった。

なぜ系は「なぜ、社長のベンツは4ドアなのか?誰も教えてくれなかった!裏会計学」「わたしと仕事、どっちが大事?」はなぜ間違いか―弁護士が教える論理的な話し方の技術 」「若者はなぜ3年で辞めるのか?」など、言われてみればなんでだろう?と気になる問いかけがポイントらしい。昔は「君たちはどう生きるか」なんていう本が売れていたけど、時代が変わったのだなあと思う。

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2006年10月05日

もしも、シンデレラの行動がすべて計算ずくだったら? 考える脳の鍛え方

・もしも、シンデレラの行動がすべて計算ずくだったら? 考える脳の鍛え方
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著者は人気番組の制作をてがける古舘プロジェクト所属放送作家。

表題はアングルを変えると企画が生まれるという意味。

たとえば、実はシンデレラが計算高い、したたかな娘で、他の登場人物は不遇な環境の演出に利用されていたとしたら、物語の印象はだいぶ変わってしまう。王子様の視点で考えたり、魔法使いの視点で考えたりしても、別の物語をつくれそうだ。

ベースとなるおとぎ話をゼロから発想するのは難しいが、アングルを変えるだけなら、発想は考えやすい。著者曰く「0から1を生むのではなく、すでにある1から1’を作る。そして、それを磨いて2を生む」べきだという。

できた企画を輝かせるには「フリ・オチ・フォロー」。一番伝えたいこと=オチだけあってもダメで、前フリとフォローの1パッケージをつくれというアドバイスがある。話を聞いてもらう空気を作って、ネタを披露し、フォローで後押しするという意味。番組制作に限らず、プレゼンの基本でもあるかもしれない。

企画発想ノウハウがいろいろと語られているが、強調されているのは、企画のプロセスを楽しむこと。「○○になったらがんばるという人で○○になってがんばる人はいない」と書かれているように、○○になるプロセス自体が好きで楽しいことが、いい企画を出す出発点なのだ。本番だけではなく常に「となりの人を楽しませることができるか」を試すと企画発想のいい練習になるそうだ。

簡潔に番組制作の実例がいろいろ挙げられていて、番組やイベントの企画を仕事にする人にとって参考になるノウハウがたくさんある。

・アングル
http://www.furutachi-project.co.jp/angle/
著者らが主宰するアイデアマン養成セミナー。


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2006年08月30日

すばらしい思考法 誰も思いつかないアイデアを生む

・すばらしい思考法 誰も思いつかないアイデアを生む
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天才の創造性は「ランダムな変異から、優れたものを選択して残す」やり方にあると著者は自論を展開している。ダーウィンの進化論、自然淘汰の仕組みと同じである。


自然界が手当たりしだいに新たな可能性を生むように、天才はバラエティ豊かな代替案をいくつも思いつき、いくつもの推測を生みだす。そこから最良のアイデアを選り分け、さらに発展させたり改善するのに使う。


驚異的にクリエイティブな天才は、二、三の限られた偉業を行ったと広く思われているがこれは誤解だ。トーマス・エジソンは白熱灯と蓄音機の発明で知られているが、彼は1093もの特許を取得した。エジソンは創造をただの地道な努力の結果と見ている。電球が長持ちするフィラメントを作るのに何千回も失敗したのに、なぜあきらめないのかと助手に聞かれ、エジソンは質問の意味がわからないと答えた。彼にしてみれば失敗は一つもなかった。ただ、うまくいかない方法を何千も発見しただけだ。

もちろん、普通は多数のアイデアを生み出すこと自体が難しい。

この本は、ひとつのアイデアが別のアイデアをうむような連鎖反応を起こすための視点変換術、斬新な組み合わせを作る方法、集団で発想する方法、素晴らしいアイデアの作り方といった思考方法の理論とテクニックがテーマだ。

テーママップ、MY法、システムマップ、SCAMPER法、フィッシュボーン・ダイアグラム、真北思考法などなど、何十もの思考法とその使い方が解説されている。すぐに実践できそうなもの、やってみたいものが、いくつか見つかった。

「質問の仕方を変える」というのは簡単だが効果がありそうだ。トヨタで「どうしたらもっと創造的になれるか?」と従業員にアイデア募集しても提案はなかったが、「もっと仕事を楽にするにはどうしたらいいか」に言い換えたら洪水のようにアイデアが寄せられたという。「どうしたら売り上げが伸ばせるか」「どうしたら受験に合格するか」と悩んでいるより、どうしたら楽に○○できるか?と問い直してみたら、根本的な原因や解決の糸口がみつかりそうである。

そしてなにより、追い求めるテーマに対する情熱的なしつこさが最終的には重要みたいだ。

アインシュタインは彼自身と平均的な人の違いを尋ねられて「干し草の山から針を探せと言われたら、普通の人は針を一本見つけた時点でやめるだろうが、私はほかにも針がないか、干し草の山全体をしらみつぶしに探す」と答えたそうである。

情熱的でいられることが、才能の本質なのかもしれないなと思った。

・発想法―創造性開発のために
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003913.html

・企画がスラスラ湧いてくる アイデアマラソン発想法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000904.html

・創造学のすすめ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000846.html

・分かる使える思考法事典―アイディアを生み出し、形にする50の技法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000725.html

・デスクトップ発想支援ツール
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000139.html

・アイデア・ブック スウェーデン式
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004203.html

・ひとつ上のアイディア。
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004030.html

・発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000275.html

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2006年08月29日

Make: Technology on Your Time Volume 01

・Make: Technology on Your Time Volume 01
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これは面白い!。

モノを作る個人のクリエイティビティを次々に紹介していく本である。

スーパーマーケットのショッピングカーにエンジンを取り付けてゴーカートを作る人、アフリカの巨大ゴキブリを頭脳とするロボットを作る人、自宅で低温核融合の実験を続ける学者、中古マウスを自律センサーで動き回るロボットに作り変える人、VHSビデオを猫の給餌マシンに作り変える人、などなど。

クリエイティブで、少しクレイジーなものづくりの現場のドキュメンタリがカラー写真と解説で数十本。

時間があったらやってみたいと思ったのが「カイトフォト」と「ドロイドビルディング」。どちらも見ているだけでワクワクする趣味だ。

カイトフォトは凧に自動撮影機構つきカメラを取り付けて、上空へ飛ばして、航空写真を撮影するもの。飛行機に乗らなくても、上空から見下ろすパノラマが撮影できる。気持ちが良さそう。

・日本カイトフォト協会
http://www.interq.or.jp/japan/jkpa/

ドロイドビルディングは、スターウォーズのロボットを自作で再現する趣味。世界中に制作者がいて、R2D2の頭のドーム部分などは、皆が必要としているので、売られているそうである。映画に登場するR2D2を忠実に再現すると、三本目の足をおろすことはできても、引っ込められなくなるそうだ。だからビルダーの間では、オリジナル設計者よりも踏み込んで可動部のデザインをしなければならないことは常識らしい。

・Astromech Gallery - Astromech.net
http://www.astromech.net/Lists/Galleries/astromechs/Default.htm

なお、この本は米国の雑誌「Make」日本語版で、年に2,3冊出版されるとのこと。これはその日本第一号である。出版社はオライリー。ソフトウェアエンジニアの関心もくすぐるように、ハードウェアハッキングの楽しさが紹介されている。

・makezine.com: MAKE: Technology on Your Time
http://www.makezine.com/

必ず次号も買うと思う。

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2006年07月09日

パワポ使いへの警告

・パワポ使いへの警告
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パワーポイントで企画書をつくる人のための企画力養成本。

まず、「パワポ使いが陥る6つのワナ」はどれも大変に納得。

1 パワポで企画書を書きながら、企画そのものを考える
2 企画の全体像を考える前にディティールばかりに目を向けてしまう
3 ”いつもの”企画書を使いまわす
4 パワポの機能でできないことは諦めてしまう
5 「カット&ペースト」でデータを切り貼りして企画の流れを見失う
6 アニメーション機能など演出に凝りすぎて、企画の本質を忘れてしまう

企画を考えることと、企画書を作ることは別であり、いきなりパワポに向かっても、いい企画のストーリーは作れない。だから、企画を考えるときは、パワポやパソコンからいったん離れろとアドバイスがある。

白紙に向かったときが一番クリエイティブになれるということ。

しかし、まったく自由形式では難しいので、企画作業の”規格”をベースに考えよう、とすすめている。

企画作業の規格:

・目標 最終的にどうなりたいか
・現状把握 それに対して、自分は今どういう状態にあるのか
・課題 なりたいものになるためには、何が阻害要因なのか
・解決案 その阻害要因を打ち破るには何をすればいいのか

これは一枚企画書に似ている。

・鉄則!企画書は「1枚」にまとめよ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000575.html

パワポのスライドの使いまわしはダメだが、企画の骨組みだけは、こうした起承転結的なテンプレートを使ったほうがよいということ。説得するストーリーをつくるには、むしろワードの方が向いているという。脱パワポの本なのだが、ワードのすすめもあるのが意外な展開もあって面白かった。

大手代理店に所属の企画のベテランの言葉なので、企画発想作業について、参考になる部分が多かった。技術的にパワーポイントを使いこなせるようになったら、パワーポイントを使わない方法を考えるべき、なんだなあ。

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2006年02月23日

ぶっちぎり世界記録保持者の記憶術―円周率10万桁への挑戦

・ぶっちぎり世界記録保持者の記憶術―円周率10万桁への挑戦
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著者は円周率暗記の世界記録を3回更新している記憶の達人。

記憶力の強化についてさまざまな書籍がでているが、円周率8万桁超を暗唱するのに成功した実績を持つのはこの原口式だけである。方法はやはり数字の語呂合わせなのだが、独自の数字と文字変換表をつくり、物語に翻訳することで、記憶に見事に定着させている。富士山ろくにオウム鳴く式の語呂合わせであるが、8万桁の内容は「北海道松前藩の武士の旅立ちからなる壮大なストーリー」になっている。

円周率暗唱の第2位の記録保持者も日本人だが4万桁台なので、著者のやったことは書名どおりぶっちぎりの記録である。驚くべきは記録達成時の年齢が59歳で、思い立ってから4年しかたっていない。それまでの人生でも特に際立った記憶力の人ではなく、普通のキャリアの技術者だったらしい。相当の努力があったのかと思いきや、いきなり、がんばったらできなかっただろう。がんばらないからできたという持論が語られる。

この人は日々の練習も”適当”で切り上げる習慣を持っていた。やりたいときだけやっている風である。あまり真面目に取り組んでいない。お酒を飲んだ日は気持ちよく寝てしまうとか、順調に進んでいてもほどほどで切り上げてしまう。

常に腹八分目に抑えておくことで物足りない感じを残すのがコツなのだという。もっとやりたいのにやらなかったから、またやるの連続で未踏の高峰を制覇せよと述べている。

「続けるのが大事なのではない。続けられるのが大事なのだ」

「楽しくやることが肝心なのではない。楽しくやれるのが肝心なのだ」

根性や努力はまったく不要で、続けられる方法、楽しくやれる方法こそ大切だという。

前半は8万桁達成までの時間を追ったドキュメンタリ。後半は原口式記憶術の内容が詳細に語られている。著者曰くこの方法なら誰でもできるはずという。円周率だけでなく、人の名前や電話番号、誕生日や歴史年表の記憶への応用例も示される。

歴代の円周率暗唱記録保持者は第3位まで日本人で、みな語呂合わせで記憶したようだ。原口式の仕組みもそうなのだが、音と文字の組み合わせが多様に作れて、漢字のような少ない文字数で情報量が多い文字を持つ日本語の構造と関係がありそうである。

この本は二桁の九九の覚え方も教えてくれるのだが、もし日本語が暗記に有利に働くことが事実なら、もっとこの人のやり方を教育関係者は研究して、応用すべきだと思う。コンピュータ・外部記憶の時代とはいえ、記憶の容量が大きい人はまだまだ役立つ。

ところで、この著者の記録は偉業だと思うしメソッドの効果も十分にあるのだと思う。しかし、普通の人間は円周率を何万桁も覚えようという意欲がそもそも湧かないのではないだろうか。


円周率は、私にとって御仏に奉じる読経のような効果があります。どこまでも唱え続けるほどに心が癒され、身体の中の力が自然に抜け去ってリラックスの状態が延々と続くことになるのです。

だから、ついつい毎日やってしまう。暗唱の本番でも緊張で失敗しない。これがこの人の秘訣でもある。幸せな人だなあと羨ましくなった。

何かに心底惚れ込む、天命とめぐり合ったと信じる邂逅の体験は、望んだからできるものではない気がする。やりたいことは”見つける”のではなく”見つかる”が本当だと思うし、ヒトでもコトでもFall In Loveなのであって、惚れようと思って惚れるわけじゃないと思うのである。

・記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003024.html

・記憶する技術―覚えたいことを忘れない
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002369.html

・「3秒集中」記憶術―本番に強くなる、ストレスが消える、創造力がつく
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001014.html

・記憶力を高める50の方法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000974.html

・なぜ、「あれ」が思い出せなくなるのか―記憶と脳の7つの謎
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000470.html

・図解 超高速勉強法―「速さ」は「努力」にまさる!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002998.html

・上達の法則―効率のよい努力を科学する
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000645.html

・記憶のマジックナンバー7±2とドメイン名の考え方
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000330.html

・あたまのよくなる算数ゲーム「algo」
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001072.html

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2006年02月16日

アイデア・ブック スウェーデン式

・アイデア・ブック スウェーデン式
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1時間もあれば読めてしまうが考え始めると根っこの深い、発想についての30のエッセイ集。

アイデアに詰まったときに、机の上においてあれば突破口になりそう。

たとえば、こんな話が載っていた。

ある心理学者が、第二次世界大戦中、アメリカ空軍の依頼で、爆撃機パイロットを選ぶ仕事をした。現場の司令官も別に候補者を選んでいた。戦争が終わってみると、心理学者が選んだパイロットはこどごとく撃墜されていた。司令官の人選は生き残った。

心理学者のパイロット選びの敗因は「敵機に遭遇したらどう対処するか?」という質問に対して「上昇します」とマニュアル通りに答えたものばかりを採用していたから。現場の司令官が選んだのは「その場になってみないとわかりませんが...」「ジグザク飛行してみます」「左右に機体を揺らしてみます」などマニュアルに頼らない操縦をしようとした候補者たち。

マニュアル通りの対応は、敵からも予測されやすかったのだ。現場の柔軟な発想で対処できる人が勝つという端的な事例である。また、そういう人をどう選ぶか、マネージャーの知恵についての話でもある。短いが深い。

こういう話が30ばかり。

この本の目次から内容を想像するのも発想の練習になる。

1 針を探す
2 はてなタクシー
3 世界初の創造性テスト
4 メタファーで表現する
5 エジソンのアイデア・ノルマ
6 組み合わせの妙
7 いつものやり方
8 アイデアは潰されやすい
9 満腹病
10 メキシコ・オリンピック
11 バグを探す
12 囚人用ベビーフード
13 混ざらないものを混ぜる
14 失敗するほどいい
15 裸の王様
16 「絶対」はない
17 「もし・…・・」と考える
18 アイデアメーション
19 「メトロ」の裏話
20 考える人、考えない人
21 青いライトと赤い車
22 創造性の4B
23 発想のもと
24 それ、捨てるんですか?
25 暗黙の掟
26 チャレンジャーになる
27 テレポーテーション
28 「イエス」より「ノー!」
29 将来のシナリオ
30 素晴らしき未来


この本を知ったのは、大手広告代理店出身で最近Google社への転職でも話題になった有名プロデューサ高広さんのインタビューから。クリエイティブの現場のプロが推奨する本。

・プロデューサー列伝-vol8.高広伯彦氏
http://www.protama.net/interview/08/1.html

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2005年12月02日

ひとつ上のアイディア。

・ひとつ上のアイディア。
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CMプランナー、コピーライター、クリエイティブディレクター、アーティスト、建築家など、アイデアを仕事にするプロたち20人が、アイデアづくりのノウハウを語る。企画の仕事にかかわる人間にとって参考になる意見がたくさん。

キムタクと岸部一徳の富士通「FMVシリーズ」CMなどをてがけた多田琢氏の後味発想はいいなと思った。今度試してみたい。


だいたい、いつも扱う商品について「自分にとって理想的なCMをいま見た」と仮定することからはじめます。それを見た自分はどういう感覚になって、どういう気持ちになるのか、その後味だけをまず思い浮かべてみる。それから、その後味を味わうためには、どういうCMを見なければならないかと考えます

後味を判断基準に考えるというやり方、まるでアスリートのイメージトレーニングのようだ。

思いついたアイデアを話す作法を語ったのは、サントリーの「ボス」「モルツ」JR東海「そうだ、京都、行こう。」をつくったクリエイティブディレクターの佐々木宏氏。アイデアだしの会議では、思いつきをドンドン話すことが重要だとし、

まずは、

「全然関係ないんだけどさ」
「それって逆に言えば」(続けて、逆になっていない、言いたいことをいう)

と切り出して、言いたいことを言いあいなさいとすすめている。おもいつきを喋ることを許さないのが、日本の会議の悪いところだと指摘している。

クリエイティブの仕事において、アイデアの価値が日本では不当に低いとし、その原因を業界の構造にあると指摘したのは、「南アルプスの天然水」などをてがけた岡康道氏。


欧米ではメディアコミッションが日本の3分の1くらいしかないため、媒体をとったからといって、必ず広告会社が儲かるわけではありません。そのぶん、クリエイターがつくる広告のクオリティがフィーの多寡としてはね返ってくる。つきつめればアイディアの優劣で広告会社の利益が決まるわけです。

最初に大きなメディアの枠を電通・博報堂が買い占めてしまう、寡占市場の日本とは違う状況が、海外の広告市場にはあるようだ。


この本には実に多様なアイデア発想のノウハウが語られている。発想を生み出し続けるには、思考のバリエーションをいくつか持っていることも有効だろう。その素材が発見できる本。


・発想法―創造性開発のために
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003913.html

・企画がスラスラ湧いてくる アイデアマラソン発想法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000904.html

・「超」整理法―情報検索と発想の新システム
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003283.html

・「超」時間管理法2005
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002584.html

・創造学のすすめ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000846.html

・情報検索のスキル―未知の問題をどう解くか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000616.html

・分かる使える思考法事典―アイディアを生み出し、形にする50の技法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000725.html

・それは「情報」ではない
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000510.html

・デスクトップ発想支援ツール
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000139.html

・文書アウトライン作成支援ツール iEdit
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000317.html

・理想のアウトラインプロセッサを求めて
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000360.html

・現場調査の知的生産法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001804.html

・「挫折しない整理」の極意
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001794.html

・知識経営のすすめ―ナレッジマネジメントとその時代
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001734.html

・広告の天才たちが気づいている51の法則
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000686.html

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2005年10月17日

発想法―創造性開発のために

・発想法―創造性開発のために
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初版は1967年。読まれ続けて第80版を数える発想法の古典。この本に登場する当時の最新テクノロジーは”ゼロックス”(コピー機)である。データ整理にはパンチカードをうまく使えとも書かれている。隔世の感があるが、発想法の核となる思想はまだ読み応えがある。

KJ法の考案者である著者 川喜田 二郎氏は、科学を書斎科学、実験科学、野外科学の3つに大別した。文献と推論に依存する書斎科学、実験室での検証に重きをおく実験科学に対して、現場や現実を観察するのが野外科学である。この場合の野外とは、場所が屋内、屋外に関わりなく、ものごとが起きている現場を扱っているという意味だ。社会問題やビジネスの課題を解くプロセスも多くは野外科学の範囲となる。

野外科学の方法論として、問題提起→内部探検(頭の中)→外部探検(情報集め)→観察→記録→分類→統合というプロセスを著者は提唱している。問題提起と頭の中でのまとめが終わったら、フィールドへでての野外観察による情報集めが始まる。野外観察とは現地調査であったり、インタビューであったり、アンケート調査であったりする。

野外観察の4条件として、集める情報には、

(1)とき、(2)ところ、(3)出所、(4)採集者

という項目をつけることを徹底せよという。

そして発想法の古典KJ法に集めた情報を持ち込む。

KJ法に必要なもの

1 黒鉛筆とサインペン
2 赤・青などの色鉛筆
3 クリップ多数
4 ゴム輪を多数
5 名刺大の紙片多数
6 図解用の半紙大の白紙
7 文書を書くための原稿用紙
8 紙を広げる場所

KJ法に必要な正式用具がわかったのは収穫だった。集めた情報を紙片に書き出す。意味を圧縮してほどほどの大きさの意味単位に分割する。量的には約2時間のブレインストーミングで紙片数十枚から百数十枚を書き出せという。

次にグループ化。「この紙きれとあの紙きれの内容は同じだ」「非常に近いな」と親近感を覚える紙きれを一箇所に集めていく。5枚程度の小チームを編成して中チームをつくり、同様にして大チームをつくる。チームの次元をわかりやすくするために赤や青で色分けする。小チームはクリップで、中・大チームは輪ゴムで束ねるのがよい。

1 離れ小島は無理にまとめずおいておく
2 小チームから大チームをつくる、逆はだめ

がコツ。

複雑すぎず、相互に親近感を持ちながら、ある程度質的に異なるグループは、独創的解釈を引き出す鍵になる。このようなアイデアの基点となるグループは「基本的発想データ群」でありBAD(ベーシック・アブダクティブ・データ)とも呼ばれる。

図解化、文章化にあたっては、最初にとっかかりとなるBADをみつけ、そこから隣接するグループへとつなげていくのが正しいそうである。離れた島へ飛んで図解化や文章化を行うと全体の関係の説明が破綻しやすいということのようだ。

KJ法で難しいのはグループ化の後のプロセスであると思う。A型とB型、そして複合型のAB型、BA型がある。

KJ法A型 グループ編成した材料を図解化する
KJ法B型 グループ編成した材料を文章化する
KJ法AB型 図解化したものを文章化する
KJ法BA型 文章化したものを図解化する

図解化と文章化の長所、短所を次のようにまとめている点がとても参考になったのでそのまま引用してみる。


まず文章化は図解のもっている弱点を修正する力をもっている。もっと平たくいえば、その誤りを見破って、発見し、かつ修正の道を暗示する力をもっている。これが一つの経験的に重要な点である。図解と文章化とを対比してみると、図解の長所は、瞬時に多くのものごとのあいだの関係が同時的にわかることである。この長所は文章とか会話にはない。しかし他面、図解のなかのものごとのあいだの関係は、「関係がある」ことはわかっても、その関係の鎖のメカニズム(たとえば因果関係)、性質、強さなどは、かならずしもあきらかではない。もちろんこれらの関係のメカニズム、性質、強さなども、わかってからあとでは図解上に表現することはできる。それにもかかわらず図解化という手続きは、それを鮮明にあきらかにするためには最適の方法ではない。すくなくとも文章などに劣るのである

それでは一方的に、文章化の方が図解化よりもものごとの関係認知の方法としてすぐれているかといえば、けっしてそうではない。文章化は今のべた点で図解化にまさるかわりに、ものごとを前から後へと鎖状にしか関係づけられないのである。

日本人は理論よりも、日常体験を重視するので、現場の事実や声に密着したところからスタートするKJ法が向いているが、根気のいる組み立て作業である文章化では日本人は不利になるだろう、と国民性と発想法の適性まで分析されている。確かに日本人は雰囲気を把握するのは得意だが、論理的にそれを説明する能力は不得意である気がする。

発想法の古典を読み返して意外な発見もあった。KJ法というのは、そのスタイルから純粋に帰納法的方法論であると思っていたが、当初からアブダクションの要素を強く織り込んだものであったということ。そしてアブダクションは職人芸であるがゆえに、できる人はできるが、できない人が大半という事実が、古典KJ法の限界だったのではないかと感じた。

KJ法は改良が重ねられ、コンピュータも利用できる時代になった。今も有効な手法だとは思うが、グループ化後の解釈プロセスは依然、「才能のある○○さんだからできる」という側面は否定できないように思われる。

そうした人材を組織内につくるための習慣強化技法として、私はこのブログで何度か取り上げているアイデアマラソン法が有効なのではないかと考えている。またIT(ネットワークとデータベース)が、発想を生み出すための人と人、人と情報のセレンディピティを創発するきっかけとなる気がしている。

関連情報の紹介。

・企画がスラスラ湧いてくる アイデアマラソン発想法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000904.html

・「超」整理法―情報検索と発想の新システム
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003283.html

・「超」時間管理法2005
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002584.html

・創造学のすすめ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000846.html

・情報検索のスキル―未知の問題をどう解くか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000616.html

・分かる使える思考法事典―アイディアを生み出し、形にする50の技法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000725.html

・それは「情報」ではない
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000510.html

・デスクトップ発想支援ツール
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000139.html

・文書アウトライン作成支援ツール iEdit
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000317.html

・理想のアウトラインプロセッサを求めて
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000360.html

・現場調査の知的生産法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001804.html

・「挫折しない整理」の極意
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001794.html

・知識経営のすすめ―ナレッジマネジメントとその時代
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001734.html

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2005年09月26日

1年で1000件の発想を書こう ポケット・アイデアマラソン手帳’06

・1年で1000件の発想を書こう ポケット・アイデアマラソン手帳’06
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新しい手帳は1年間、これを使うことに決めた。

アイデアマラソンの樋口さんが考案した手帳。

・アイデアマラソン
http://www.idea-marathon.net/

「この手帳に1000件の発想を書き込めば、あなたの人生は変わる!」

1 毎日、領域を決めないで、最低1件、オリジナルな発想を思いつく。
2 簡潔に手帳に書き込み、できれば絵を描く。
3 同僚、友人、家族に話し、さらに発展させる

初日には決意を書くことと指示があったので「今日から開始1000個など簡単である」と書いた。

この手帳は10月末から日付が始まっているが、私は既に使い始めている。これはスケジュールを管理するのではなく、発想を豊かにするツールなので、まったく問題ない。むしろ早く使い始めて都合がよい点もある。

1日に2つアイデアを書く欄がある。1日に3つ以上のアイデアを発想した場合、翌日の日付のアイデア欄にどんどん書いてしまってよいらしい。だから、発想数が多いと、今日の日付と記入欄の位置はどんどんずれていく。私の場合も既に10月中旬の欄に突入した。この「先を行く」感が快感なのだ。

1日2つの発想がノルマになるのは嫌である。逆に軽々とノルマをクリアして伸び続けるというのは楽しい。目標の上方修正を日々行っている気分になる。考案者の樋口さんは自らに発想数のノルマを課して、何十年もアイデアマラソン生活を続けている人である。アイデアを連番管理する発想ノートには「+100」とか「+200」という数字を書いていると聞いた。本来、その日までに書いているべき数字をどれだけ上回ったかの表示だそうで、これが継続の秘訣だという。このバランス数の欄が手帳にもちゃんと用意されている。

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1週間が見開きで構成されていて、毎週「アイデアのヒント」という課題欄がある。たとえば第一週目は「スリッパに付ける新しい機能を考えてみる。【例】ダイエット中の人向けの万歩計付きスリッパ」」。これで発想のトレーニングができる。発想にまつわる「今週の格言」もアイデアがでないときの参考になる。樋口さん自身の活用例もサンプルとして最初に例示されている。

ポケットに入る大きさで、ビニールカバー、ペンホルダーがついている。移動中はカバンのサイドポケットやスーツのポケットに携帯できる。透明な「簡単スケッチスケール」や、手帳を楽しくする「活用シール」、朝昼晩と自由に数字が書ける「自主記入欄」など、この手帳自体が発想の仕掛けでいっぱいである。

・企画がスラスラ湧いてくる アイデアマラソン発想法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000904.html

・デジハリ大学「リサーチ&プランニング」 第6回講義録
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003521.html

・パフォーマンスアートとしてのアイデアマン
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003751.html

その他手帳関連:

・人生は手帳で変わる フランクリン・プランナー トライアルセット
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002651.html

・「超」時間管理法2005
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002584.html

・文房具を楽しく使う ノート手帳篇
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002137.html

・メモが上手になる技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001388.html

・手帳200%活用ブック
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002677.html

・ミリオネーゼの手帳術―8ケタ稼ぐ女性に学ぶサクサク時間活用法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002714.html

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2005年09月08日

3Dコピーライティング

・3Dコピーライティング
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Sound(音味)
Mean(意味)
Look(形味)

のSML3つを兼ね備え、立体的に人の心に訴求する上手なコピーライティング方法は何かを探る本。パターンと実例がまとめられており、読み物というより、ネーミングやコピー、詞をつくる際の参照本として使える。

煮詰まったときにパッと開くと手法が見つかる。たとえば「畳語」というネーミング方法。紹介されている事例は以下のようなもの。

コカコーラ
パラッパラッパー
Orange Range

○○の○○という形も手法のひとつであるらしい。この手法がジブリのアニメ作品に共通しているとははじめて気がついた。

天空の城ラピュタ、となりのトトロ、魔女の宅急便、紅の豚、千と千尋の神隠し、もののけ姫、ハウルの動く城、風の谷のナウシカ

私が心を強烈に揺さぶられたコピーと言うと、やはりアップルコンピュータの「ThinkDifferent」キャンペーンのコピーだ。はじめに聞いたときは震えがきた。今も読むたびに力が湧いてくる。


クレージーな人たちがいる。

反逆者、厄介者と呼ばれる人たち。

四角い穴に、丸い杭を打ち込むように

物事をまるで違う目で見る人たち。

彼らは規則を嫌う。彼らは現状を肯定しない。

彼らの言葉に心をうたれる人がいる。

反対する人も、賞賛する人も、けなす人もいる。

しかし、彼らを無視することは、

誰にも出来ない。

なぜなら彼らは物事を変えたからだ。

彼らは人間を前進させた。

彼らはクレージーと言われるが、

私たちは彼らを天才だと思う。

自分が世界を変えられると

本気で信じる人たちこそが、

本当に世界を変えているのだから。

そして、年に一回はヤラれてしまうのが、公共広告機構のCM映像。サイトでも最近のCM映像を見ることができる。

・社団法人 公共広告機構 ACオフィシャルサイト
http://www.ad-c.or.jp/index.html

いまこのサイトで視聴できる作品としては、博報堂制作の、


「あなたが大切だ」

命は大切だ。
命を大切に。
そんなこと、
何千何万回
言われるより、
「あなたが大切だ」
誰かが
そう言ってくれたら、
それだけで
生きていける。

公共広告機構です。

は、いい。グッときた。そうだよ、わたしが大切だ(違)。

ACで歴代で一番記憶に残っているCMは2002年の「IMAGINATION」。

妙なサイトで映像を発見した。

・pya! 心に浮かんだことを、そのまま書けばいいんだからね
http://pya.cc/pyaimg/pimg.php?imgid=1922


コピーの検索エンジンではコピラが充実している。

・東京コピーライターズクラブ コピラ
http://www.tcc.gr.jp/index_main.html

過去40年の広告コピーを13業種、「新聞」「ポスター」「ラジオCM」「TVCM」「パンフレット」「ネーミング」などのジャンルや、広告主別に検索できる。

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2005年08月14日

頭がよくなる本

・頭がよくなる本
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1974年に初版が出版されて以来、世界中で100万部以上売れたベストセラーの最新改訂版。原題は"Use Your Head"。脳の使い方を変えることで、潜在能力を最大限に発揮する学習法を教えている。

著者は学校教育では肝心のことが教えられていないと批判する。記憶の働き、記憶術、目の認知機能、注意の集中、動機づけ、キーワードやキー概念、思考そのもの、創造性、学習技術について、通常の教育は素通りしている。

この本は、学ぶ前に学ぶ必要があった脳の使い方についての素晴らしい指導書。

■本を読む技術

学習の基本に読書がある。本の読み方ではまず次の先入観は間違いだから忘れろと書かれている。

・一度に一語ずつ読まなくてはならない
・毎分五百語以上読むのは不可能だ
・速く読むときちんと理解できない
・速く読むほど集中力は落ちる
・平均的な速度で読むのは自然なことであり、それゆえ最善だ

目が文章を追う上下(左右)運動を科学的に分析すると、眼球は一直線になめらかに文章の線を追っているのではなくて、ある間隔で静止と移動を繰り返している。一度の静止でいくつの単語を読むことができるか、静止時間をいかに短縮するか、が読書のスピードを握る鍵になっていると指摘する。

速く読む練習法も示されているが、面白いのは大切なのは速く読む動機づけだという話。「運動が苦手な人が牛に追われて百メートルを10秒きっかりで走ったり、二メートルの塀を飛び越えてしまうようなものだ。」とちょっと無茶とも思えるたとえで説明される。

10秒、2メートルという数字はともかく、普通の読書速度の人間が動機づけで速く読めるようになるということは、無茶ではないようだ。人は試験の時間など、集中して早く読まなければいけないと思っているときは実際、速く読めているのだから。メトロノームを使って読書をする訓練も効果的だという。頭脳がそれを当たり前と感じるような、知覚の高速化を体得せよと説いている。

これは私も日常、長時間の通勤電車で本を読んでいるときに経験している。あと10分で目的地に到着という状況で、本が読み終わるまで残り30ページから50ページということがある。普通時の私の読書速度では無理である。だが、到着までに終わらせようと強く集中すると、理解度を落とすことなく、読み終えることができてしまう。この不思議は動機づけパワーなのだと思う。

■記憶する技術

記憶術についても詳しい。学習開始後20分から50分が記憶の定着度が高いから、その時間を勝負にし、こまめに休憩を入れるのが学習のコツだそうだ。記憶を長く保つには、何らかの関連づけが有効であるとし、特に次のようなイメージと結びつけて覚えると忘れないという。

言葉を結びつけるイメージ
 共感覚・感覚的なもの
 動きのあるもの
 関連のあるもの
 性的なもの
 こっけいなもの
 想像力をかきたてるもの
 数字を使ったもの
 記号を使ったもの
 色彩の豊かなもの
 順序・並べ方
 前向きなもの
 誇張されたもの

具体的にイメージと結びつけて記憶するやり方が例示されていて、大変、参考になる。

キーワードで記憶するには、記憶のためのキーワードと創作のためのキーワードを区別せよというノウハウも興味深い。内容を正しく想起できるようなキー概念を上手に選んで、キー概念同士の関係を記憶することが大切なのだ。そのためには多義的で拡散するキーワードではなく、内容を絞り込んでいくためのキー概念をみつける必要がある。

■頭脳地図でノートをとる

キー概念をみつけるにはノートの取り方に工夫せよという。普通の学習者のノートは先生の講義の内容を、話の順序や構造通りに文章化している。これでは、見直す際にも時間がかかるし、キー概念がみつけにくくなる。こうした一般的なノートの90%の言葉は記憶に必要がない無駄な情報であるとしてばっさり斬る。

キー概念を中央において、関係するキー概念を放射線状に伸ばして線で結ぶ頭脳地図(いわゆるマインドマップ)で、ノートを取ることが推奨される。キーワードは線上に書く。こうすることで無駄な言葉を書かずにすみ、見直す際にも、講義内容を正確に想起しやすくなるという。

そういえば私たちは学校でノートのとり方をほとんど教わっていない。ノートは先生の話の内容をその順序で余すところなく書くものだと思ってしまう。あるいは黒板をそのまま移す作業に終始してしまいがちだ。だが、ノートは結局、自分で後で想起の補助に使うためのツールであることを考えれば、想起に必要な情報だけを、効果的に記録することが重要なのだと気がつかされる。

頭脳地図ではまず学習前に知っていることを2分間で書き出せという。2分で思い出せないような事柄は、想起のベースにならない。学習はこの初期の頭脳地図に枝葉を伸ばす拡張する内容として学んでいくとよい。なるほど。


この本は学習法について示唆に富む名著だと思った。短時間でたくさんの学習が必要な場で有効なノウハウが多い。最近の学習術のノウハウのベースになっているようなので、学生にはとくにおすすめ。

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2005年07月26日

新しいものを次々と生み出す秘訣

・新しいものを次々と生み出す秘訣
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先日、お台場の科学未来館で動くASIMOを間近で見ることができた。これはそのとき撮影したデジタルビデオからキャプチャ。テレビでは何度も見ていたが、動く実物がそこまで迫ってくると思わず声をあげそうになった。二足歩行はぎこちないのだが、そのぎこちなさが人間っぽいのだ。

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その未来館のショップで購入したのがこの本。ホンダのロボット開発創始者で基礎研究所の所長、常務が引退後に書いた新しいものを次々と生み出す秘訣。

このぎこちなさの秘密も本に書いてある。こんな研究所でのやりとりがあったらしい。

「衝撃の大きさが問題なら、ゴムを入れて吸収したらどうでしょう。後は制御でなんとでもなります」

「ゴムなどいい加減なものを、制御系に入れたら、ますます不安定になってしまう」

ゴムの採用を提案した研究者は密かに”ヤミ研”を続ける。上司も黙認する。結果的にはゴムの利用で転倒が減った。

テレビの体操選手が着地してからバランスを崩し、一歩足を前に出す動作を観たことが、更なる改良につながる。「どうせ踏み出すなら転倒力に逆らわず、むしろその力を利用して踏み出したほうが姿勢の回復が早いし美しいんだ」

こうして、転ばせまい、転ばせまいとしていたロボット二足歩行の研究は、倒れそうになったときには積極的にその方向へ加速させ、それによって継続的な歩行を可能にするという発想が生まれた。20世紀中には無理と言われた二足歩行がこうして実現されていった。私が見たぎこちないけれど人間っぽいASIMOの動作は、転びそうな力を逆に利用して継続歩行する設計思想が関係しているのかもしれないと思った。

機器個体の機能を最適に制御しようとするインディビジュアル・インテリジェンスに対して、ネットワークでつながった機器が自律、協調、調和するネット・インテリジェンスの時代になると著者は技術の未来を語っている。ASIMOもまたネット・インテリジェンスのかたまりでもあるようだ。

こうした知恵が創出される自由でありながら理念を持った研究組織をどのように作り出したか、がこの本の主要テーマである。理念なき行動は凶器、行動なき理念は無価値というホンダ創業者のDNAを受け継ぎながら、一人一人が自由に活き活きとした活動ができる「ゆるやかな縛り」を大切にせよという。ASIMOを生んだ”ヤミ研”活動も、理想的動作を諦め転倒力を利用して自然な動きを実現したアイデアも、緩やかな縛りの中で生まれてきたものといえるのだろう。


「要するに君たちに鉄腕アトムを造ってほしい」と切り出すと、みんなすぐに理解してくれた。イメージや目標を共有したいとき、適切なメタファを見つけるやり方は、非常に効果的だ。

そして研究テーマは個人提案という形を取る。言いだしっぺにやらせる。ノッてるときは水を差すな。未来像からやるべきことを考えよ(フューチャー・プル)。そしてビジョンを持て。


「先が見えないからビジョンが描けない」というのがおかしい。ビジョンは先が見えるから描くというものではない。自分たちは将来こうありたい、という姿を描くのがビジョンですから、先が見える見えないは関係がない。むしろ見えないときこそ描かなければいけない

経験知として次の言葉も感銘した。

「先送りされた不都合は必ず未来に存在し、将来、何倍にもなって我々の前にたちはだかる」

開発でも経営でも、不都合の先送りは問題を解決しないどことか、将来の脅威を育ててしまうことが多いと思う。システムの開発でも、技術的な壁にぶつかったとき、難しいからという理由で安易な代替案に逃げていると、やがて大きなトラブルの種になってしまう。
最後に10の法則がまとめられている。

・新しいものを次々と生み出す10の法則

1 企業理念不易の法則 決してブレない
2 ビジョン=旗の法則 総力結集の秘策
3 本質認識の法則 点でなく線や面で見る
4 現状肯定の法則 未来は現在の中にある
5 現状否定の法則 従来の延長線上に未来なし
6 不都合是正の法則 先入観を打破する
7 フューチャー・プルの法則 発想は将来最適で
8 プレゼント・プッシュの法則 問題はさっさと片付ける
9 共創マネジメントの法則 異質な人を集める
10 TDCの法則 踏み出す勇気を持て

新しいものを一度生み出すのではなく、”次々に”生み出す現場のマネジメント論として面白く読めた。

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2005年07月09日

1分間でやる気が出る146のヒント

・1分間でやる気が出る146のヒント
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著者はオレゴン大学で組織経営学を学び、博士号を取得した後、小学校、中学校、高校の教師と校長を30年間つとめた人物。世界の有名な偉人の名言やエピソード、著者自身の人生哲学が織り込まれている。ひとつのヒントは1ページにまとめられていて、読みやすい。

146あるヒントのうち、個人的に強く感銘したメッセージのベスト10を作成してみた。

1位 考えすぎて複雑にしない
「人間には、他人が思いついたアイデアをひねくり回して複雑なものにしてしまう習性がある。あなたはそのことに気づいているだろうか。この奇妙な習性のために、簡単で合理的で実行しやすい計画のはずが、悪夢のようにひどく複雑なものになってしまうのだ(以下略)」

どうも自分は、考えすぎてアイデアを台無しにすることが多いと常々思っていたのでこれが1位。自分でも他人でも、最初に直感するアイデアというのが、知識や経験をまっすぐ反映した意味のある発想であることが多い気がする。

2位 自分の能力を人のために使う
「人間は得ることで生計を立て、与えることで人生を築き上げる(チャーチルの言葉)」
深い。

3位 プレッシャーを歓迎する
「プレッシャーのない仕事はいい仕事ではない」

確かに能力的に余裕でこなせる”朝飯前”の仕事は、実際にやってみると完璧になるはずが、無難な結果にしか終わらないことが多いなと思う。

4位 「あなたには無理だ」と言われたことをやる

5位 お互いにほめ合って元気を出す
「私は一つの言葉で二ヶ月生きられる(マーク・トウェイン)」

6位 笑って健康を保つ
「ポジティブな感情は、体内におけるポジティブな化学変化と直接的な関係がある」

7位 人の重荷を軽くする
「他人の重荷を軽くできる人は、みな有能な人である」

8位 どんな思いつきでも人に話してみる

9位 わからないことは質問する

10位 つらいときこそ、上を向く
「私の親友が「あるオフィスの天井に面白いことを書いた貼り紙を見つけたよ」と言ってきた。それには「将来の見通しが暗いときには上を向こう」と書かれていたというのだ」」


ざっと私のベスト10を紹介してみたが、読む人によって、ベスト10はまったく変わったものになるだろう。オンラインで名言、格言の選ばせ、性格診断ができたら面白いサービスになりそうだと、ふと思いついたので、話してみた(第8位)。

関連?:

少し前のベストセラーでこれは面白いと思っていたのがこの本。書物占い。ランダムに開いたページに書いてあることがあなたへのお告げ。不思議と意味を感じてしまうのがうまいところか。

・魔法の杖―THE ORACLE BOOK
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「古来からの由緒正しい占い「ビブリオマンシー(書物占い)」を現代向けに再現。悩んだとき、迷ったとき、自分のたましいを見失いかけているとき…そんな時にあなたの心の奥底から浮かび上がってくる魔法のメッセージ」

たとえば、

・直感の光である月が第一印象を大事にするようにすすめています
・ペンタクルスのキングが出ました知識のある専門家に相談を
・サイキックの意見をききましょう!“いまこそ絶好のとき”
・十字紋は挑戦すべき課題を表すものさあ、立ち向かって

といった感じ。

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2005年05月23日

すごい会議−短期間で会社が劇的に変わる!

・すごい会議−短期間で会社が劇的に変わる!
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文字通り”すごい”面白いと思った。

この本は薄くて文字量が少ない。だが手抜きというより、相当手をかけて意味と価値を短く圧縮している。短時間で会議の成功ノウハウのエッセンスだけを吸収できる。著者のシリコンバレーでのドタバタ&成功物語がドキュメンタリタッチで描かれて、その中でマネジメントコーチと出会い、魅了され、自らコーチの会社を創業するに至るまでの体験談の形式を取っている。ベンチャー起業に関心がある人は引き込まれる。

前に書かれた「すごいやり方」と同様に、この本も何かを起こすインタラクション、コミュニケーション術が中心である。会議したけれど何も起きないのは最悪、すごいことが起きるのが最高。その最高な状態のための秘訣がリストとしてまとめられている。巻末にはすごい会議実践のためのシートが付録としてついている。経営幹部で一度、読んでから実際に使ってみると面白そう。早速やってみようかと思った次第。

・すごいやり方
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001597.html

「会議では「提案」「リクエスト」「明確化のための意見」以外の発言は、99%無駄な意見です」で、リクエストの内容は、

1 インパクト
2 作業ではなく、すばらしい成果を求める
3 コミットメント

であるべきと規定している。

逆に、フツーのすごくない会議は、当たり前の目標を達成するための作業の割り振り確認に終わっているなあと思う。いまどき、官僚組織でもない限り、できることをできる範囲でやっているだけでは、ビジネスは沈んでしまう。

この本が書いているのは、つまり、そうならないための、ドラマとニュースの連続のような組織を作ることとそのノウハウなのだと思った。

対面の技術だけでなくてすごい会議、すごいやり方のネット版はできないものだろうか。
インターネットはコミュニケーションのすごいチャネルを開いたわけで、そのチャネルを使って、他人からナレッジやアクションをいかに引き出すか、がこれからのビジネス組織のテーマになるのではないかと思った。次はすごいメール、とか、すごいグループウェアとか、読んでみたいのだけれど。

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2005年05月15日

数学的思考法―説明力を鍛えるヒント

・数学的思考法―説明力を鍛えるヒント
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■論理と背景で説明力を鍛える

世界のソフトウェア企業ランキング上位100位の半数近くがインド系企業だという数字とその理由が考察されている。日本では9×9までの掛け算の暗記を、数学大国インドでは20×20まで覚えさせるという有名な話がある。だが、単に暗記量が多ければよいということならば、数学者は皆、桁数の多い掛け算を暗記しているはずだし、暗算が得意なソロバンの使い手もインドのように優れたソフトウェア開発者になっていておかしくない。
インドの教育では、たくさんの計算結果を暗記させると同時に、その理由や説明もたくさん考えさせているのが、数学教育で成功した理由なのだとする。日本の教育では、できるだけ少ない計算例から「やり方」だけを抽出しようとしている。インドでは多数の計算例から「論理」や「背景」を学習させている。だから日本人は「やり方」を忘れてしまうと問題が解けなくなってしまうが、インド人はやり方を忘れても一から考えて答えを出すことができるようになる。

「ゆとり」の確保のために暗記量を減らして少数の結論だけ暗記させても、自分で考えることはできるようにならない。暗記や計算練習を通して目指すものは計算力ではなくて、それがどうしてそうなるのかを説明できるようになることだというのが著者の見解である。

日本では1と2とnの場合で考える。しかし、1と2と3とnくらいまでの場合を常に考えてみるのが、説明力強化につながるのではないかという。

■ひらめきの法則

ひらめきについてなるほどというまとめがあった。


結局のところ、他人には偶然性を強調して格好良く話している「ひらめき」でも、実際のところはさんざん考え抜いた蓄積のほんの少し上に、ふっと気がつく一瞬のことを言うようである。

思わぬ出会いや失敗から何かを偶然に発見したというセレンディピティも、本当は偶然ではないはずだという指摘。日常試行錯誤を繰り返している人が、単純なミスや人との出会いという決定的な刺激を得て、大きな発明や発見を達成している。ただ偶然を待っていてもひらめきは訪れない。「しばらく考えた経験」があると点や線が面として見えるようになるから、大切なのはできなくても考えておくことなのだという説。

■じゃんけんをするとき、人間が出すのはグーが多くチョキが少ない

著者が実験室で725人の学生に延べ1万1567回のじゃんけんをさせて作成した統計では、

グー  4054回
パー  3849回
チョキ 3664回

という状況であったらしい。じゃんけんでは有意水準1%でグーが多くてチョキが少ないのだ。

理論上はじゃんけんの統計はグー、チョキ、パーが3分の1ずつ出されるはずである。だが実際にやってみると違う。人は他人を目の前にすると警戒して拳を作る傾向があることや、チョキの形の手はグーやパーよりも作りにくいことなどが影響しているのではないかと理由が挙げられている。

こうした現象を説明する際、数字のデータ(証拠)と、その理由(論)はどちらも大切で、必ずしも「論より証拠」ではなく「証拠より論」が有効なときもある。データだけ分かっていても本質的な対策が講じられない。論と証拠の両方から面として説明することが重要である。

他にもたくさんの数学的な思考の応用が紹介される。

要旨は試行錯誤と説明力が大切だということ。

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2005年05月09日

超」整理法<3>

・「超」整理法<3>
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中公新書の超整理法シリーズの第3巻。第2弾は時間管理術だったが、今後のテーマは捨てる技術。

■50年で24倍、1日数百枚の紙を使う現代の知的ワーカー

この本が書かれた90年代末の、日本製紙連合会の統計が冒頭で引用されている。紙の年間生産量は世界で3億トン、日本で3100万トン。日本人一人当たり231キログラム。家族5人当たりで見ると1.5トンで24万枚。1日当たり3.2キロ、A4コピー用紙で660枚。(これには前生産量の半分を占める包装用紙やちり紙も含まれる)。

こうした数字から、知的作業に携わる人は1日数百枚の紙を消費していると指摘する。多いように思えるが、よく考えると本や雑誌を一冊買えばすぐ100枚、200枚分を使うわけだ。毎日の新聞紙も量的には多い。数百枚の紙を使うというのは妥当な線だろうと、少し考えて納得した。

50年前は紙の消費量は24分の1だったそうだ。コピー機やプリンタの出現で安易に印刷ができてしまうので、近年、加速度的に紙の消費量が増えたと嘆かれている。毎日数百枚の紙がワークスペースに流入するのだから、どんどん捨てないと大変なことになる。

捨てる理由として、

(1)置き場所がない
(2)不要な書類は雑音になる
(3)脳の活性化

の3つが挙げられている。情報が多すぎると思考が乱されるから大切なのは進歩のための忘却なのだと指針が示される。

■受け入れと破棄二つの「バッファー」で情報フロー制御

「明日以降、新しいものが入ってくる。重要なのはそれを収納する仕組みのことだ」

超整理法の肝は情報を流れでダイナミックにとらえていること。捨てる技術についても、情報というのは日々流れ込んでくることを前提と考えている。だから、年末の大掃除や効率の悪い厳格な分類キャビネット方式を否定する。

特に知的ワーカーは、マニュアル遵守的仕事ではなく非定型な「マゼラン的仕事」に従事することが多いと著者はいう。こうした仕事では、

(1)新しいものに直面する
(2)最初は重要度がわからない
(3)やり直しが発生する
(4)どこが最終段階なのか分からない
(5)いつ不要になったのかも分からない
(6)形式も一定しない

などの特徴がある。入ってくる紙の明確な分類や要・不要の区別はほとんど不可能である。

そこで、著者が考案したのが「バッファー」という発想、保存ごみという考え方。一時的に受け入れるバッファーと、一時的に破棄するバッファーをおこうという方針。具体的には、スミと書いた封筒と、本当に廃棄する前に一時的に保存しておく箱をいくつかつくるというやり方。

(1)一応の処理が済んだと考えられる書類を「スミ」封筒に入れる
(2)古い「スミ」封筒は「バッファーボックス」に格納する

つまり、PCの「デスクトップ」(受け入れバッファー)と「ゴミ箱」(破棄バッファー)に相当するものをリアルの世界に作り出そうということだ。受け入れバッファーはすぐに置けて常に見えてアクセスできる。破棄バッファーは目の前から消せる、取り戻せるという利点がある。

■電子情報は捨てる必要がない、検索と自動分類がカギか

後半は電子情報がテーマになる。紙と違って電子情報は捨てる必要がないし、整理する必要がないと断言する。ゴミ箱と電子ファイリングはナンセンスだと書かれている。この方針は、デスクトップ検索や、アプリケーションの検索機能の高機能化でますます真実になってきていると思う。

電子メールのアドレス帳など作成する必要がないと書かれているが、これは私も同感で、作成していない。年間で何千人とメールをするのにその一覧を作成するのは手間がかかるばかりか、1年で3割、4割のアドレスは変更で死んでしまう。文書も最近ではデスクトップ検索の高機能化で、検索すればすぐに出てくるようになった。

ハードディスクは年々容量が増えている。一人当たり数十ギガバイトが当たり前だし、数年でテラバイトになるだろう。こうなると、スペース確保のためにファイルを捨てる意味はほとんどない(個人情報保護法の対象は別)。

情報のデータベース化だとか、フォルダ整理がパソコンの活用だというのはもはや嘘だろう。そういうことができるのは余程暇な人だ。これからは検索やメタデータによる自動分類といった機能の活用が、今後のパソコン中心の情報整理術のテーマになると思う。

今は文書とメタデータを一括作成・管理する良い方法がないのだが、たとえばパワーポイントの保存機能は気が利いている。ファイルを作成して保存しようとした場合、1行目がファイル名に初期設定で候補提案される。現状、文書メタデータは有効なものがない(MS Officeはファイルに埋め込まれているようだが活用は困難)ため、ファイル名がメタデータ代わりのはずである。だが、現状の保存ダイアログはモーダルダイアログ(他の動作を停止させる)であるので、心理的にすぐファイル名を入れよとせかされる。その場で思いつくいい加減なファイル名を入れるとせっかくのメタデータ付けがうまくいかないことが多い。一行目、タイトル、日付連番などが自動挿入されるのは使い勝手がいい。他のアプリケーションも採用してほしい。

実は「ファイル」や「保存」という概念を失くせばさらに便利になると思うのだが、それは次世代ファイルシステムの頃の話になってきそうだ。

デスクトップの自動分類という点では

・Passion For The Future: 無敵会議第10回 検索会議 満員御礼に感謝 報告第1弾
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002418.html

で紹介した

・Aduna AutoFocus 2005.1
http://aduna.biz/products/autofocus/index.html

は面白い。文書の内容からファイルを自動分類し、可視化する。こうした技術はブックマークの整理にも応用できる。

・ブックマークの技術と可能性
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000634.html

結局、手作業でキレイに分類していく方式は情報量が増えてしまうと、PCでも役に立たない。こうした検索やメタデータを使った自動分類の支援を受けることで、さらにデスクトップの生産性はあがっていくと思う。超整理術の3連作を読み終わったが、どれも深い洞察にもとづいていて、古いようでいてPCでの応用の効く新しさも感じるシリーズだった。

・「超」整理法―情報検索と発想の新システム
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003283.html

・続「超」整理法・時間編―タイム・マネジメントの新技法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003325.html


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2005年04月25日

知の編集術

・知の編集術
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編集工学の大家、松岡正剛著。

入門書の体裁をとる割に懇切丁寧な説明は少ない。だが編集とは何かについて考えたことのある人なら、深めるヒント、素材に満ち溢れている本だと思う。

■遊び、編集

編集について冒頭でこんな定義をしている。

編集は遊びから生まれる
編集は対話から生まれる
編集は不足から生まれる。

と生まれる場所をまず並べ、その特徴として

(1)編集は「文化」と「文脈」をたいせつにする
(2)編集はつねに「情報の様子」に目をつける
(3)編集は日々の会話のように「相互共振」をする

を挙げる。

編集とは照合であり、連想であり、冒険である。

という。

この本のいう編集とは編集者の仕事だけではなく、旅行の計画を立てることや、デザインをすることや、対話をすること、あるいは生きることそのものを含めた大きな意味での編集行為である。

短い言葉だが深さを感じる要約だ。

著者によれば、生まれる場所として最初に出てきた「遊び」こそ編集の本質である。遊びには「自己編集性」と「相互編集性」があるからだ。非常に興味深いカイヨワの4分類が紹介されている。世界中の遊びの要素を4つに分類したもの。

・カイヨワの遊びの4分類

(1)アゴーン  競争
(2)アレア   運と戯れる
(3)ミミクリー ごっこ遊び
(4)イリンクス 眩暈、痙攣、トランス状態

こうしたやり方で、自分や他社と戯れることに編集の基本があるのだと説明されている。
■編集の極意のリスト

この本の面白さは箇条書きになっているこうしたリストにあると思う。

たとえば、情報を要約編集するモードには以下の6つがある。

エディティングモード

重点化モード ダイジェスト
輪郭化モード アウトライン
図解化モード 2,3枚の図
構造化モード 考え方の関係
脚本化モード 別のメディアに変換
報道化モード ニュースとして伝える

「らしさ」を伝える略図的原型には

ステレオタイプ(典型性)
プロトタイプ(類型性)
アーキタイプ(原型性)

の3タイプがある。(これも深い)

プレゼンのスタイルには、

言明型のプレゼンテーション・スタイル
暗示型のプレゼンテーション・スタイル

という2種類があるし、

ジョージ・ルーカスの定番プロットは結局、

原郷からの旅立ち
困難との遭遇
目的の察知
彼方での闘争
彼方からの帰還

なのだと看過する。

圧巻は、「編集8段錦」、「12の編集用法」に続く「64の編集技法の作法」。この64項目に及ぶ編集技法はおよそ情報に対して人間が行える操作のすべてを網羅していると思った。ちょっと感動して長時間眺めていた。こうしたリストもつまりは遊びなのかもしれないが、何かを生み出すための知識として貴重だと思う。

この本はあまりに多い情報量を新書の紙幅で提示したため、編集の神様の仕事とはいえ、理解しやすい教科書としては完璧とは言いがたい気はする。だが、懇切丁寧に教わるより、ヒント、素材を受け取って、あとは自分で考える方が実りが多いということ、なのかもしれない。

そうか、これは問題集なのだと途中で気がついた。課題提示も多い。

各章で気づきがあり、結局30枚以上のポストイットでマーキングだらけにしてしまった。編集や企画で悩んだことのある人ならば、ピンとくる内容が散りばめられていると思う。
緻密で大きな編集工学の体系をそのまま受け取るのではなく、自分なりに編集して学ぶことができるように著者が深い配慮で編集した、なんていうのは、ちょっと傾倒、深読みしすぎであろうか(笑)。

・ 書評「千夜千冊」、新書マップ、Amazon Search
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001824.html

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2005年04月24日

続「超」整理法・時間編―タイム・マネジメントの新技法

・続「超」整理法・時間編―タイム・マネジメントの新技法
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この本の続編。

・「超」整理法―情報検索と発想の新システム
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003283.html

■スケジュール一覧と文書連絡

超整理法的タイムマネジメントとは、以下の2つのノウハウに要約できる。

1 スケジュール表を一覧性のあるものとし、数週間から数ヶ月にわたる時間を目で把握すること

2 連絡を文書で行うこと

人間は7つくらいの要素しか記憶できないので1週間以上のスケジュールはスケジュール表やメモのような外部記憶を使った工夫が必要だという。そこで編み出されたノウハウから作られたのが超整理法手帳である。逆に分刻みで動く大統領でもない限りは時間区切りの1日のスケジュール表は不要とも言う。

1では、長期の時間管理ツールとして超整理手帳、中期の管理ツールとして「To-Doボード」、短期の管理ツールとして「すぐやるメモ」が紹介されている。超整理法の一冊目で紹介された「押し出しファイリング」と同様、どれも机の上ではなく、時間軸を整理することで、仕事の効率を高めようとするノウハウである。

2では「文書を作るには時間がかかるから、時間節約のために口頭で連絡する」というのはウソで、「時間がないから文書で連絡する」が正しいのだというノウハウ。FAXのススメが主な内容だった。ただし、この本が書かれたのは10年前であるので、今なら電子メールということになるかもしれない。

■仕事の進め方5原則と限界効用均等化の定理

スケジューリングの技術として次の5原則が示されていた。

1 中断しない時間を確保する
2 現場主義と応急措置(その場ですぐやる)
3 拙速を旨とせよ
4 ときには寝かす
5 不確実なことを先にやる

とにかく仕事が発生したら現場で手をつけよ、そして8割を完成させたら、他の仕事に回れ。

これはたくさんの異なる仕事を同時進行で進めるタイプの忙しい人向けのノウハウとして、まさにそのとおりだと思った。8割終わっていれば、完成は容易だし、状況報告しやすい。仕上げを他人に頼むこともできる。

そして、最も参考になったのが、限界効用均等化の定理。「一般に、いくつかの対象の限界効用が等しくない場合には、限界効用の高い対象に資源を振り替えることによって、全体の効用を高めることができる」という経済学的な考え方。

例えばAとBという2つのゲラ刷りをチェックする場合、ゲラAだけを2時間読むと120字の誤字を発見できるとする。誤字の分布が同じなら、ゲラAを1時間、ゲラBを1時間読めば総計で200字を発見できる。ゲラチェックというのが、そういう性質の仕事だからである。

ゲラAだけを2時間読むと、Aは完璧かもしれないがBは手がつけられない。大抵はAもBも8割できている状況の方が好ましい。

■拡散と収束のタイムマネジメント

タイムマネジメントで個人的に考えたこと。

私は以前、あるシンクタンクの依頼で、半年に一回、50社の有望な海外IT先端技術企業を見つけては各企業のプロフィールと特徴について、レポートを提出する仕事をしていた。この仕事は数年間に及んだ。毎回、提出時期が近づくと有望企業のリスト作成と個別の分析記事を書くことになる。

この仕事で学んだのは、

「拡散系の思考と収束系の思考を交互に繰り返すと効率が悪い」

という法則。

この仕事をするには、以下の2種類の作業が必要だった。

(1) 拡散の作業

まず50社を絞り込む作業は拡散思考から始まる。ある企業に注目したら、競合や類似した事業内容の企業を探す。最初に見つかった企業が必ずしも最有力ではないことが多いからだ。似た内容の企業が10社〜20社程度集まるまで候補リストアップを続ける。まったく同じ内容の企業はないので、ある程度テーマを広げて探索することになる。これを50社分、行う。

(2) 収束の作業

そして、その中で最も有望な企業を50社の最終候補に絞り込み、各企業の分析記事を書く。今度は収束系の思考である。この段階で新たな情報を広げて探索してしまうと、作業が終わらなくなることが多い。

この仕事を引き受けた頃は、私は50社のレポートを書くのに、(1)と(2)を50回繰り返していた。これには大変な時間と労力がかかっていた。拡散と収束が混在してしまって、個別記事を書いているうちに、新しい情報が出てきてしまい、まとめがつかなくなるのだ。拡散思考の直後に収束思考モードに移れないので頭が混乱する。

2年目くらいからは要領が分かってきた。まず1週間はひたすら(1)に集中し、500社から1000社を最初にすべてリストアップしてしまう。拡散に集中することで、情報はどんどん見つかる。そして少し休んで(2)のフェイズに入る。今度は、もう新しい情報は探さない。十分な時間を使った(1)でレーダーに引っかからなかった情報は大して重要ではないと割り切って、手持ちの情報だけで50社に絞り込んで個別分析を書く。

この作業手順の変更だけで、初回は1社に1日かけて全部で50日以上かかっていた作業時間が10日程度に短縮された。精神的にも作業が楽になり、革命的な変化だった。広げて探すときは徹底的に広げる、絞るときは絞るに専念することで、精度も高まっていたと思う。
一見、一社一社、関連情報を調べてはレポートを書いていった方が丁寧に思えるが、実際はそうではなかった。

この本の仕事の進め方5原則に当てはめると、

1 中断しない時間を確保する
4 ときには寝かす
5 不確実なことを先にやる

という部分が新しいやり方で改善されたのだと思う。

情報を広げて探すというのは、いつ有力なネタが見つかるか分からないし、終わりも見えない不確実なことだった。だから先にまとめたのが正解。その後、分析を書くまで結果的に寝かせたことで考察を深められたし、各作業を中断せずに行うことで能率が上がったのだと思っている。

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2005年04月11日

「超」整理法―情報検索と発想の新システム

・「超」整理法―情報検索と発想の新システム
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■時間軸とコンピュータ活用で分類しなくても検索できる超整理法

初版を読んだのは10年前の学生時代。当時はそれほど感銘しなかったのだけれど、ビジネス経験を少しは重ねた今、読み返してみると、素晴らしい洞察にあふれた内容だったと再認識。1993年出版でインターネットも普及していなかった時期なのでパソコンを使った情報整理に関する記述は古いが、根本の思想は色褪せていない。

超整理法は、情報を分類する従来の整理法への批判から始まる。論点は二つ。

(1) こうもり問題

情報を整理する際、どの分類に入れてよいか分からない情報が発生する問題。複数属性を持つ情報、境界領域にある情報、タテヨコ分類(分類軸が複数ある)の要素を抱える情報。

(2) その他問題

どの分類項目にも入らない情報。

そして仮に分類したとしても検索不能になる危険が伴う。誤った分類に入れてしまう「誤入問題」、仕事の進展で項目再分類をする際の「在庫引き継ぎ問題」、分類名を忘れてしまう「君の名はシンドローム」などの可能性があるからである。よって「分類はムダだ」という結論に至る。

そして「分類しなくても検索できる方法」が超整理法である。

■押し出し整理法、ポケット一つ原則、平均アクセスタイム

基本コンセプトは二つ。

1 時間軸で整理する
2 コンピュータの力を活用する

時間軸と言うのはこうもり問題もその他問題も、分類後の危険とも無縁の、ほとんど唯一の分類軸なのだ。

この考え方の応用が「押し出しファイリング」。著者はとにかく仕事の書類はA4の大きな封筒に入れろという。入れたら棚に横に並べる。使ったファイルは常に一番左に置く。ただそれだけで、よく使うファイルはすぐに見つかるし、その他のたまに使うファイル(神様ファイル)も比較的短時間で見つけ出せる情報検索システムができあがるという。

これはその後、コンピューティングの世界で出現してきた「適応型インタフェース」の先鞭だったといえそうだ。オフィスソフトの「最近使ったファイル」表示みたいなものである。確かに普通の仕事スタイルでは最近使ったファイルほどよく使う気がする。「平均アクセスタイム」の視点からも、8割くらいのケースでこの単純な方法論は有効だと思った。

一箇所にすべてを入れるというのも「ポケット一つ原則」と呼ばれる秘訣。情報が見つからないのは多くの場合、どこにしまったかが分からないからだというのは単純なようでいて、真理だと思う。しまった場所が分からないとどこを検索すればいいのかが分からない。

無論、超整理法や押し出しファイリングが通用しないケースもある。これはむしろ個人の情報整理法であって、組織や図書館の共有データベース構築では当てはまらないこともあると断り書きもある。

■ディレクトリの使い方ノウハウ

著者のハードディスクの使い方は参考になる。次の3つのディレクトリを作成しているという。超整理法的な使い方だ。

(1)J(事務用)ディレクトリ

連絡法の案内、略歴、海外旅行のチェックリスト、手紙の雛形、その他頻繁に使用するファイル

(2)R(日誌)ディレクトリ

年度のディレクトリ別に日誌を収録

(3)DB(住所録、論文リスト)ディレクトリ

住所録や論文リスト

これは自分ののデスクトップの使い方と共通部分が多かった。私は放っておくと、デスクトップにアイコンを100個以上広げてしまう乱雑派なのだけれど、たまにディレクトリを作って整理する。それが良く考えると著者のディレクトリの切り方とほぼ同じだった。

デスクトップが一杯になると、050410(2005年4月10日)のようなディレクトリを作って全部を入れてしまう。頻繁に使うファイルは「最近」「マイドキュメント」フォルダに入れている(Jディレクトリ相当)。日々の日誌記録はChangelogを使ってテキストファイルで時期別に整理している。結局、著者が10年前に発見した上記のディレクトリ分類は、普通の仕事をする人にとって今も普遍的に有用な分けかたなのかもしれない。

これに加えて、GoogleDesktopSearchやサーチクロスのようなデスクトップ全文検索ツールがあるので、これらはすべて検索が容易だ。この本の執筆時点ではハードディスク全文検索に15分もかかるツールが紹介されていたが、今は遥かに技術が進歩して、著者の理想スタイルが実現できるようになっていると感じた。

■アイデア発想法とコンピュータソフト

後半は整理法から発想法がテーマになる。著者の歯に衣着せぬ意見が鋭い。


世に「発想法」や「発想術」と銘うった本は多い。そこには、フローチャートやマトリックス、あるいは点検表や系統樹などを使ったさまざまな方法が提案されている。

しかし、私はこうしたものを基本的に信用していない。このような定型的な方法に縛られねばならぬのなら、発想とは、何と窮屈な作業だろう。アイディア生産はもともと、精神の自由な活動であるはずだ。それがいくつものルールに規定されねばならないというのは、どこかおかしい。

立花隆の文章を引用してのKJ法批判もなるほどと思った。

KJ法の原理は非常に重要なことだということはわかっていた。しかし、それは、......昔から多くの人が頭の中では実践してきたことなのである。......KJ法のユニークなところは、これまでは個々人の頭の中で進められていた意識内のプロセスを意識の外に出して、物理的操作に変えてしまったことにある。

これが利点となるのは、頭が鈍い人が集団で考えるときだけである。......意識の中で行われる無形の作業を物理的作業に置きかえると能率がガタ落ちする。

ナレッジマネジメントというと権威の偉い先生のいうことを鵜呑みにしがちだが、現場で生産性の高い人が実際には何をしているか、の方が重要である。新人研修や発想セミナーなどで用いられる「理論的に正しい」メソッドも、「実践的に正しい」かどうかは疑ってみる価値があるなと思う。

■便利な情報処理ソフトとは?個人的意見

私はこのブログで過去に120以上のソフトウェアをレビューしてきた。大半は個人の情報処理を支援するツールである。レビューを書かなかったものも含めて数百本を使っての感想は、3つの原則としてまとめることができる。

それは、

・便利なツールの3大原則

1 シンプルなツールほど便利だ
2 多様な使い方ができるツールほど便利だ
3 導入ハードルが低い(分かりやすい、安い or タダ )ほど便利だ

である。

設計者の押し付け思想やユーザに分類作業を求めるツールは長続きしない傾向がある。

ベスト3を挙げるなら、

・全文検索ツール GoogleDesktopSearch、サーチクロス
・入力支援ツール ZakuCopy、
・メモ記録ツール 紙COPI、MS OneNote、Changelog

といったところ。どれもユーザの自由度が高いツールだ。

Windowsのウィンドウメタファーに引きずられすぎてもいけないと思う。エンジニア、研究者で生産性の高い人はUNIXのコマンドラインのフィルターアプリケーションを複数組み合わせて、複雑な処理を簡単に行っていることが多い。またUNIXの世界ではこうした情報処理のプラットフォームとしてEmacsのような万能エディタがあるのも大きい。

GUIはCUIに比べて連携機能が弱いと感じる。Windowsでも、簡単な処理プログラムを、自在に連携させて、一つのプラットフォーム上で情報を処理できるようにするツールがもっと充実すると、整理法も発想法も、より進化するだろうと考えている。

個人的には、情報処理(検索)の未来には二つの「引き出す技術」がカギなのではないかと考える。

1 情報を外(記録と他者)から引き出す「インタラクション」技術
  
2 情報を内(記憶と想起)から引き出す「インタフェース」技術
  
この5年での情報処理分野での大きな革新はGoogleだ。情報の重要度をリンクのつながり方から数学的に計算することで、ハイパーリンク文書については相当便利になった。そしてその核心はPageRankであり、系統としては「アルゴリズム」技術だったと考えている。
私は、

情報検索力 = アルゴリズム × インタフェース × インタラクション

という式が成り立つと考えている。

メタデータの利用(RSSやFOAF)や自然言語処理(形態素解析、構文解析、辞書)、コンテクスト認識(音声、イメージ、生活の文脈の取得)、類似関連検索(数学モデルを背景にしたランキングアルゴリズム、クラスタリング)のなどの技術進歩は、アルゴリズムのパラメータをもう少し向上させるような気はする。だが、アルゴリズムだけではこの式全体に対して限界があるのではないかとも考える。こうした人工知能的アプローチでは、「パっとしたもの」が出ないからだ。(先日の「脳と創造性」の書評に言いたいことは近い)

最近の技術トピックでは、コミュニティベースでの知識集約(フォークソノミーなど)や、画面遷移のないインタフェース(Ajax、ライタブルWeb)、ユビキタスコンピューティングなどがある。これらは上の3要素のインタフェース、インタラクション分野での革新に分類できると思う。アルゴリズム技術が苦手とする創発やセレンディピティ的な、人間固有の創造力を発揮するのは、むしろ、こうした引き出す技術なのだと考えている。

おっといつのまにか持論展開になってしまった。

書評に戻ると、これは10年前の本であるが、再読しただけで、いろいろと刺激があった。終章に「分散型情報処理のインパクト」という項目があったが、一人ひとりが自由に発想して創造的になることが、結局は組織にとっても、知識資産の総和を増やすことにつながるのだと思う。サーバよりもデスクトップにこそ知恵はあるように思う。超整理法はまさにデスクトップの方法論だ。

超整理法は続編があるので読んでみよう。

・「超」時間管理法2005
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002584.html
著者、野口悠紀雄氏が超整理法メソッドを手帳に実装

関連情報:情報整理、発想、創造性、支援ツール

・創造学のすすめ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000846.html

・情報検索のスキル―未知の問題をどう解くか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000616.html

・分かる使える思考法事典―アイディアを生み出し、形にする50の技法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000725.html

・それは「情報」ではない
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000510.html

・デスクトップ発想支援ツール
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000139.html

・文書アウトライン作成支援ツール iEdit
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000317.html

・理想のアウトラインプロセッサを求めて
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000360.html

・現場調査の知的生産法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001804.html

・「挫折しない整理」の極意
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001794.html

・知識経営のすすめ―ナレッジマネジメントとその時代
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001734.html

・パーソナルナレッジベース、新しいデスクトップ操作方法、紙2001
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000310.html

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2005年02月09日

図解 超高速勉強法―「速さ」は「努力」にまさる!

・図解 超高速勉強法―「速さ」は「努力」にまさる!
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記憶の達人としてテレビ出演歴のある、イメージ療法心理カウンセラーの勉強術。

学習の努力と効果は必ずしも比例しないから、コツをつかんで短時間で効率よく学習しましょう、そのノウハウはこうです、という内容。奇をてらった方法はあまりなくて、正攻法な短時間集中学習の手法が幾つか紹介される。

■一夜漬けのノウハウ

人間の集中力の持続時間はせいぜい20分から30分程度であるというのが著者の持論。

そこで50分単位で英語と数学を学習する場合なら、

時間割:

01:00-01:50 英語1回目 Aページ → Bページ
02:00-02:50 数学1回目 Aページ → Bページ
03:00-03:50 英語2回目 Bページ → Aページ
04:00-04:50 数学2回目 Bページ → Aページ

という風に、各教科を入れ替えて、1回目と2回目では逆から学習していきなさいというアドバイスが参考になった。似たような工夫は、学生時代に私も試したことがあり、効果があったことを思い出した。

これがうまくいくのは、各回とも前半20〜30分しか集中力が働かないため、もし2回目もAページからBページの順で覚えようとすると、常に後半の定着が悪いからである。2回目を逆順で行うことで集中力低下による記憶量の低下を防げるという仕組み。科目を入れ替えることで飽きることも少なくなる。

学習で重要なのは記憶プロセスよりも、想起プロセスであるというのも、なるほどと思う。30分のうち25分を記憶に使い、5分は内容を思い出すのに使うべきだというノウハウ。
そうしないと勉強したのに何も覚えていないというありがちな罠に陥ってしまう。

■毎日十五分間を繰り返すのが効果的

集中力の続く10分、20分という単位は、学習にとって、効果的な長さであることになる。

たとえば英語の勉強を、一週間に二時間する人と、一週間毎日十五分間するひととでは、どちらが英語力がつくでしょうか?もちろん、後者ですね

短く、毎日繰り返すのが学習の秘訣だということになる。

電車通勤の時間など、細切れの時間がある場合、これをいかに効果的に使えるかが課題になる。まとまった時間がとれないから勉強ができないは言い訳に過ぎないと著者は断ずる。むしろ、期限のある短い細切れ時間をうまく設計することで、多忙な毎日の中でも、学習はできるという話。

問題はそうしたシンプルな反復学習にいかに耐えるかなわけだが、著者はその勉強の動機づけを紙に書き出せと勧めている。直接的で具体的であるほど良いらしい。例として「世間を見返してやる」「合格するとかっこいいから」などというのが出ている。よそいきの言葉でなく、自分に火をつける言葉を選び、はっきりさせなさいという精神論。

■速読の技術

ところで、昨年の今頃、私は速読練習に励んでいた。イベント「超本格会議」では当時の成果報告までしていた。

・超「本」格会議に行ってきました [絵文録ことのは]04-01/30
http://kotonoha.main.jp/2004/01/30books.html
その件に詳しい報告ページ

・速読トレーニング―すぐに役立つ実践10ステップ
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当時、最も参考にしていた本。

その後も速読は続けている。向いている本と向かない本がある。科学系は読み飛ばすと肝心の論理が把握できなくなるので向かないが、この本のようなノウハウ本はちょうど良い。200ページのこの本なら、だいたい1時間で読めるようにはなった。

重要なのは正確な眼球の上下運動と、滞留時間の短縮、視野の拡大(2行をいっぺんに読める)の3つの練習だなと1年後の今、結論している。この本には1行を3ブロックに分けて、3回の眼球移動で読めとアドバイスされている。そんな感じだなあと思う。

・速読・速解の技術―やっぱり使える「ポスト・イット」!!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000990.html

・「10分刻み」ニッチタイム(すきま時間)超勉強法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000836.html

・あなたもいままでの10倍速く本が読める
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000539.html


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2004年12月20日

ミリオネーゼの手帳術―8ケタ稼ぐ女性に学ぶサクサク時間活用法

・ミリオネーゼの手帳術―8ケタ稼ぐ女性に学ぶサクサク時間活用法
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妻が読んでいたので、私も読んでみた。著者はイーウーマン社長の佐々木かおり氏。

小型ノートタイプのスケジュール帳の活用を推奨しているが、フランクリンプランナー、熊谷式夢手帳、超整理手帳などと違って、特定の手帳を推奨しているわけではない。むしろ、普通の手帳をどう使うか、のノウハウが中心である。

・□を書いてチェックボックスにする
・仮の予定をどんどん書いてしまう
・やりたいこと「友人と月1回食事」などは未定でも日付を書いてしまう
・「いつでもできること」も手帳に日付入りで書いてしまう
・1時間を6分で10分割して1日の予定の進行管理をする

など。

まず手帳に詳細が未定だろうと書いておけ、できる時間をみつけたら即チェックボックスを埋めよ、というノウハウ。

全体の構成としては、

・24時間を有効活用するスケジュール管理法
・簡単に「成功する人」「信頼できる人」になる方法
・スラスラ論理的思考の実践方法
・スケジュール帳にお任せ法
・ハッピー人生の作り方

という内容で、スケジュール法を中心にビジネスマネジメントのアイデアがちりばめられている。

そうそう、これはよくあると膝を打ったのが、


スケジュールの管理が上手かどうかは、相手の時間を確保するための会話でわかる。「今日のご予定はどうなっていますか?」とか「今週のご予定はどうですか?」という質問と、「今週のどこかで三〇分ほど時間をいただけませんか?」という質問の違いである。「今日のご予定は?」という質問を文字どおりに解釈すると、聞かれた側は、朝から夜までの予定を開示することを求められていることになる。そんな漠然とした会話は成果をつくり出さない

という考察。

私も週に一回は前者のような言い方をしてしまうし、されているような気がする。確かにこの言い方まずいのである。今週のどこかで30分ならば簡単にスケジュールが決められる。

これに次いで私周辺でありがちなのが「○月○日の○時から会議」という終了時刻のないアポイントメント。これは2時間+移動と準備時間を割り当てないといけない暗黙の了解(誰と?)があるのだが、これだと午前と午後レベルで時間をおさえられてしまう。改善の余地がありそう。

この本には女性を感じる。他の男性的なスケジュール管理と比べて柔軟性がある。「与えられた時間」をどう楽しく管理するかがテーマとなっている。男性原理で管理職のオレの時間はすべてオレが管理するのだ方式と違うのが現実的な気がする。予定の聞き方の考察も女性らしい気配り視点だと思う。実際、余程の大企業のお偉いさんでもない限り、すべての時間を自分の思うままに管理などできないはずだ。こちらの方がほとんどの人にとって役立ちそうな気がする。

育児や家事との両立にも触れられていて、子供相手に30分刻みの行動計画など成立しないことも書かれている。そうした中でうまくスケジュールを作るには、やりたいこと、いつでもできること、も、どんどん予定に書いてチェックボックス化しておいて、柔軟にこなしていくのが大切だというのがこの本の要旨だろうと思った。

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2004年12月14日

手帳200%活用ブック

・手帳200%活用ブック
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また手帳の本。

■手帳の達人大集合にノウハウを聞く

日本の主にベンチャービジネスに詳しい先生や社長が次々に登場して、自らの手帳論のサマリーを語る。実際に使われている手帳の中身が写真で紹介されるのが貴重だと思う。

達人の顔ぶれは以下の通り。

・「ほぼ日手帳」開発に隠された思いとは?
コピーライター 糸井重里
・世界No2セールスウーマンの意外な手帳の使い方
 営業コンサルタント 和田裕美
・三色ボールペン手帳術
 明治大学教授 齋藤孝
・夢が詰まった手帳公開!
 GMO・グローバルメディアオンライン会長兼社長 熊谷正
・寿夢に日付を入れる
 ワタミフードサービス社長 渡邊美樹
・一元管理がムダを省く
 イー・ウーマン社長 佐々木かをり
・嫌なことから片づける
 DeNA代表取締役 南場智子
・「ポスト・イット」手帳術
 経済評論家 西村晃
・長いスパンで見渡す
 宮城大学大学院教授 久恒啓一

ただし、この本の半分以上は熊谷氏の提唱する夢手帳の話である。

■夢の実現に一直線の熱い手帳

熊谷式の夢手帳は、系統としてはフランクリンプランナーに似ている。どちらも自分の大きな目的を明確化し、それを達成する中間目標を達成していくプロセスを管理するツールである。熊谷式はプロセス管理よりもモチベーション管理に重点をおいていることが違うところだろうか。大きな企業の管理職はフランクリンプランナー、野望に燃えるベンチャー企業家は夢手帳という棲み分けになっていると思う。

それいいなと思ったのは熊谷氏の実践ノウハウ。将来手に入れたいモノの写真、憧れの経営者と並んだ写真を、雑誌から切り抜いたりして、手帳に挟んで、毎日眺めなさいというアドバイス。非常に簡単な話だが、効果は高そう。

世界ナンバー2の営業マン 和田裕美氏の営業管理法も面白かった。例えば毎月10件の営業ノルマがあったら、今の時点での達成件数を

達成件数:3

とか書いていてはだめだそうだ。

達成件数:●●●○○○○○○○

のように最初に○を10個書いておき、達成するたびに塗りつぶせというわけである。情報を一目瞭然にし、さらに行動を促すような手帳のメモ術が、行動系手帳においては大切だということのようだ。

■GMOは手帳メーカーなのか?

ところでこのGMOの熊谷社長、最近、やたらと夢手帳の普及活動に熱心である。GMOは手帳メーカーなのかと勘違いしてしまうほど。自らのノウハウを集約した手帳の販売も始めた。

・夢手帳☆熊谷式(クマガイスタイル)スターターパック
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価格が高いがフルセットになっている。

・図解 一冊の手帳で夢は必ずかなう
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・一冊の手帳で夢は必ずかなう - なりたい自分になるシンプルな方法
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最近、紙の手帳はブームのようだが、逆に電子手帳、PDAの類は人気が凋落しているように感じる。IT企業の社長が紙の手帳を勧めているのだから、生産性向上においては紙の手帳に軍配が上がったということかもしれない。携帯の高機能化でも、ますますPDA需要はへこんできているはずだ。デジタル化のゆり戻しで現実的なところに落ち着き始ているということ、だろうか?。

・Passion For The Future: 人生は手帳で変わる フランクリン・プランナー トライアルセット
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002651.html

・Passion For The Future: 「超」時間管理法2005
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002584.html

・Passion For The Future: 文房具を楽しく使う ノート手帳篇
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002137.html

・Passion For The Future: メモが上手になる技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001388.html

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2004年12月09日

人生は手帳で変わる フランクリン・プランナー トライアルセット

・人生は手帳で変わる フランクリン・プランナー トライアルセット
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2100万人のユーザがいる手帳フランクリンプランナーがノウハウ本とセットになって売られている。この手帳とノウハウは気になっていたので読んでみた。

■第4世代手帳の4つの条件

フランクリンプランナーは第4世代の手帳と自らを定義している。その意味は以下のような手帳の進化史観があるようだ。

第1世代 単純にメモをする
第2世代 スケジュールを管理する
第3世代 目標設定と優先順位付けをする

第4世代 行動を管理する

第4世代がそれまでと異なるのは、時間を管理するのではなく、行動を管理する点。80歳を寿命とすると人間の一生は約70万時間である。時間は現在から未来へ流れるだけなので管理することができない、管理できるのは行動だけだと、フランクリンプランナーは定義している。

「行動を管理する」第4世代の手帳の条件は4つあると書かれている。

1 一線化
   最も大切なこと実現に向けて行動計画を一線化する

2 役割のバランス
   仕事、家庭、地域など複数の役割

3 優先事項をスケジュール化する
   自分にとって優先的な課題をスケジュールに入れる

4 人間関係のより一層の重視
   自分の行動計画達成だけでなく人間関係作りを重視する

■最も大切なことを実現するためのツール

行動を管理するのは「最も大切なこと」を実現するためである。フランクリンプランナーが通常のスケジュール管理手帳と違うのは、目的を持って行動を管理するためのツールとして設計されている点である。

最も大切なことを達成するためのステップは4段階だとされていて、

1 価値観を明確にする
2 目標を設定する
3 週間計画を立てる
4 日々の計画を立てる

この4段階の「生産性のピラミッド」のベースは価値観の明確化である。

価値観の設定基準はSMARTとして定義されている。

S Specific     具体的
M Measurable    計測できる
A Action Oriented  行動を促す
R Realistic     現実的
T Timely      タイムリー

価値観の明確化のための質問も多数、用意されている。たとえば「今、あなたに十分な時間があれば誰と何をしたい?」「あなたの理想とする人生とは、どのようなことを成し遂げた人をイメージする?」など。

■ノウハウとセットになって完成されたツールという印象

フランクリンプランナーには、こうしたノウハウと共に、月間カレンダーやデイリーノート、タスクリストなど、多数の入れ替え可能なリフィルが実現ツールとして用意されている。ひとうひとつがよく考えられて作られているのが分かる。これを使って生産性をあげたユーザが多いのも本当だろうと思う。

ただ、逆に言うと、完成度が高いということは自由度が低いということでもありそうだ。「7つの習慣」などを読んで、フランクリンプランナーの設計思想に心底惚れ込み、信頼しているユーザは熱心に使うだろう。だが、自分流もある程度完成している場合、どう融合させていくかが課題になりそうだ。

・7つの習慣―成功には原則があった!
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ビジネス書ベストセラー。1000万部。フランクリンプランナーの中心的ノウハウ本。

私の場合、今はメインの情報管理はPCで行っておりChangelogと全文検索ツール。紙のメモはリーガルパッド、確認系の手帳として超時間管理手帳を使っている。ツールは時々入れ替えて最適な連携を探している。ツールとノウハウを探すこと自体が楽しみになっている。単体で完成度が高すぎると面倒になってしまうことがある。

だが、大きな目的実現のためのツールという設計思想はこの本を読んでかなり面白く思えた。しばらく使ってみることにしたので、また数ヵ月後、報告したい。

・Passion For The Future: 「超」時間管理法2005
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002584.html

・Passion For The Future: 文房具を楽しく使う ノート手帳篇
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002137.html

・Passion For The Future: メモが上手になる技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001388.html

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2004年09月14日

キッパリ! たった5分間で自分を変える方法

・キッパリ! たった5分間で自分を変える方法
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なんとこの本、発売一ヶ月で30万部を売った大ベストセラー。著者は無名の主婦イラストレーター。出版社も大手ではない。これは出版不況の中で、ほとんどありえないこと。奇跡が起きたのはこの本の内容が正しかったということかもしれない。

5分でできる自分を変える方法が60個も紹介される。

例えば私が気に入ったアイデアは、

・処分したい新聞雑誌は中身を見ずにさっと束ねる
・光るものを磨く
・迷った時は勇気がいる方を選ぶ
・急いでいる時こそ字を丁寧に書く
・「疲れた」と思ったら、とにかく眠る
・夜空を見上げる
・「遅い」「今さら」「どうせ」は禁句にする
・キレイな水を1日2リットル飲む

ひとつひとつは小さな気分転換だけれど、60個のうち50個を実行すれば、本当に自分が変えられますよというのがこの本の趣旨。実行容易で気持ちの良いことを、いくつも積み上げていくことで、大きく自己を変革するという戦略。

先に身体を動かしてみると、気分が変わることって、確かにあるなあと思う。代表的なのはこの本の表紙になっている天高くコブシを突き上げるポーズ。著者曰く、この本の執筆時に煮詰まった際、何度もこのポーズをとったら力が湧いてきたとのこと。

うまくいく人生って、きっと理屈ではないのだ。落ち込むことがあっても、コブシを突き上げて「やるぞ、オー」と先へ進んでいれば、勇気がでてくる。その結果、夢に近づいていけるのですということを、著者の自身が行動で、証明している。

著者は1965年生まれ、一級建築士で建設会社勤務の後、イラストレータに転職。34歳で柔道を始めて1年後に黒帯取得の、パワフルな主婦、二児の母。経歴と文章からは、普通であると同時にとても有能な女性であることが分かる。お気楽なのだけれど、やることはキッパリ。ついに30万部のベストセラー作家になってしまった。恐らく、売れた理由のひとつは表紙の元気なイラストだと思うのだけれど、これも彼女が描いたものだから実力に納得してしまう。

どうしたら、そうなれるか、その秘訣を、90分もあれば読めるこの本で読むことができた、気がする。早速いくつか試してみようと思った。

・トメ.COM
http://www1.ocn.ne.jp/~tomesan/

著者のサイト。

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2004年09月13日

文房具を楽しく使う ノート手帳篇

文房具を楽しく使う ノート手帳篇
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楽しい一冊。

■海外のノート、手帳の徹底レビュー

ロディア、クォバディス、モールスキン、エルコ、クレールフォンテーヌ、アムパッド。この本で紹介される海外のノート・手帳メーカーの名前である。マルマン、無印、3M(ポストイット)、ツバメノートなど、日本でも良く知られたメーカーももちろんでてくる。紙や表紙の質感がよく伝わるカラー写真を多用して、それぞれの製品の魅力や著者の思い入れ、使い方ノウハウが語られる。

ノートには固定綴じ、バインダー式の大きく2分類があり、固定綴じは糸綴じ(一段綴じ、多段綴じ)、ワイヤー綴じ(シングルワイヤー、ダブルワイヤー)、ステープル綴じ、無線綴じの4種類があり、バインダー式にはリング綴じ(金属リング、プラスティックリング)、パイプ式、ひも綴じの2種類があるとまず、分類が説明される。この分類で優れた製品を次々に紹介する。

著者は文房具情報サイトを運営していて、とにかくたくさんの文房具を日々、試している。店頭で眺めるだけでは、知りえない各製品の長所と短所、活用シーンがとても参考になる。

・ステーショナリープログラム TOP
http://www.pluto.dti.ne.jp/~sprg/sprg.html
著者のサイト

■多ノートのつながり

この本は特定の使い方、○○式を推奨するものではない。むしろ、著者は文房具が大好きで日々新しいノート、手帳を”味わいたい”人のようだ。自ら”多ノート”であると宣言している。複数のノートをTPOにあわせて、組み合わせる”つながり”を熱く語る。携帯して使う小さな手帳と、オフィス・自宅においておく大きなノートの組み合わせや、家計簿と写真アルバムの組み合わせなど、著者周辺の事例がいくつも取り上げられている。

後半では、パソコンやPDAとの連携についても軽く触れられている。ちょっと感心したのが、ロディアのCLIC BLOCというメモ用紙で、上質の紙質のメモであると同時に、マウスパッドにもなる。電子デバイスとパルプの上手な連携と言える。

■「余白」「使わない」も「使っている」

著者はサイト運営の過程でたくさんのユーザのノート、手帳を実際に見る機会があったそうだが、「皆さんの手帳を見てもそれほど蜜に書いているわけではないのですね。余白のほうが多いかたもたくさんおられます。そういった経験から、手帳の紙面を埋める必要はないのだと楽な気持ちになることができました。簡単に言えば「使わない」ことも「使っている」ことに。」と書かれている。

これ、卓見のような気がした。例えばオフィスのプリンタ印刷用の紙やインクにしても、大量に買い置きがあると、気軽に紙に出してみることができる。そうした出力から生まれるインスピレーションもある。残り枚数を気にしていては、こうした実験的な印刷を躊躇してしまう。

私の知人でとてもクリエイティブなプロデューサがいる。彼は、文房具ではなく、画材用の大きなキャンバス用紙をメモ代わりにしている。持ち運びが大変そうだが、大きな用紙を贅沢に使うとアイデアも形になりやすいようだ。

メモには私もA4サイズの黄色いリーガルパッドを使っている。昨年からの習慣なのだが、大きな用紙はアイデアを書き付けるのに自由度が高くていい。一度書いたメモに後から追記することも容易だ。余白や余剰にはアイデアを書かせる「アフォーダンス」があると言えそうだ。

■思い入れも大切な文具選び

この本を読んでの感想は文房具選びは思い入れが、大切なのではないかということ。文具はいくら上質で機能的であったとしても、それが好きでなければ、毎日携帯して使う気にならないと思う。ペンとの相性、書き心地の重要性も指摘されている。それを使う体験全体、質感全体に対して愛着を持つことが、活用の第一歩なのではないかと思う。

この本の場合、大きな文具屋でないと扱っていないであろう、海外の製品が多く紹介されている。無論、世界で選ばれた逸品という理由があるわけだけれども、同時に普段目にしないモノ、他人が使っていないモノは、愛着を持ちやすいということでもあるのだろう。
私は電子メモも多い。以前、紹介したChangelogというアプリケーションを自分なりにカスタマイズを加えて使っている。もともと相当便利なアプリだが、自分なりに少し工夫をできる余地があったことが、愛用の理由になっているなあと思う。


・Passion For The Future: メモが上手になる技術
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2004年08月08日

ツイてる!

・ツイてる!
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著者は斉藤一人氏。銀座まるかん創業者。2003年度全国高額納税者番付第1位。累積納税額日本一。93年度から11年間連続で10位以内に入った、ただ一人の人物。その収入の内容も、他の長者番付上位者と違っていて、土地売却、株式公開などは一切なし。ただひたすら地道な商売による事業所得だけで儲けている。商売人としては、ソフトバンクの孫社長も、ライブドアの堀江社長も、この人にはかなわない。

話す内容は面白い。変わっている。

・実力よりもツキの方が上
・成功するために苦労はいらない
・成功は目と足です

などなど。

勝負に強い人というのは自分がツイてると思っている人だと著者は言う。ツイてる人間になるには「ツイてる」と言うことが大切で、自分はツイてないと思っている人はツイているひとにはなれない。だから、何がおきてもとにかく「ツイてる」と言いなさいと読者にアドバイスしている。

一応、商売のノウハウについても触れられるのだが、実に当たり前のことしか言わない。お客様を喜ばせなさいとか、いいところを真似しなさいなど。

著者はマスコミ嫌いだそうである。顔写真がネット上にも見当たらない。なぜか本はずいぶん出している。なぜ書いたのかは、弟子が出版社と約束してしまってやむを得ずなのだとの説明があるが、真意は謎である。

この人、本気で成功の秘訣のメッセージを伝えたいのか、とらえどころのない話で世の中を煙に巻く作戦の一環なのか、よく分からない。ひとつ確実に言えるのは、本もよく売れていて儲けの一部になっているということ。読むと斉藤一人が何者なのか、いっそう不思議さが増すこと。

ところでこの本にはCDがツイてる!。斉藤一人氏の肉声が聞ける「上級の話」。ちょっとしわがれた声でこの本の文体と同じように話す。決して雄弁でも、パワフルでもない。が、どこか惹きつけられる。

とらえどころのなさ、ミステリアスな深みをつくることが、人やお金を引き寄せるコツなのかもしれないと思った。少なくとも私はこの本とCDで、斉藤一人の正体や真意を考え込むことになった。また本を買ってしまうかもしれないし、店に偵察にいきたくなっている。

とらえどころがない書評になってしまいましたが、本格的な書評は、この分野の専門家のサイトにおまかせします。ココより早くこの書評を書くのが今日の目的でした。達成。ツイてる。

・専門家のサイト
【中間発表】成功本を読んで成功するか?【8ヶ月目】
http://blog.zikokeihatu.com/archives/000363.html

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2004年07月01日

現場調査の知的生産法

現場調査の知的生産法
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フィールドワークベースの仕事をする人の為の知的生産術の本。

■現場とのインタラクション、引き出す技術の大切さ

国内5000工場、海外1000工場を踏破した”歩く経済学者”による現場調査の方法論。

大手マスメディアの記者でさえも、インターネットで情報が引っ張れるのを良いことに、当事者と合う、現地に行くという、取材の基本姿勢を忘れている感がある。スピード時代のメディアの変容であって、それもある程度は仕方がないことなのかもしれない。だが、それでは失ってしまうものがいっぱいある。この本には、そうしたアナログ的で、関係性を重視した、取材や調査の方法論が述べられている。

・現場に利益を与えることを意識して取材せよ
・現場と一生つきあう覚悟を持て
・報告書は読者へのラブレターのつもりで書け
・本は「書くもの」ではなくて「売るもの」(でなければ続かないから)
・フィールドを育てよ

シンクタンクによるアンケートばらまき方式では、本当のことなど聞けない。現場にあたって仕事をするってのはこういうことだ、と、その道何十年の学者が力強く語る本。徹底したアナログ派で、執筆時点ではデジタルカメラさえも使われていないようだ。それが、むしろ新しく感じた。

■知的生産性の高さと秩序だった分類整理は無関係?

著者の資料整理術は大変、参考になった。メモや写真など膨大な資料を整理する時間はないので、プロジェクトごとに大きな紙の手提げ袋に入れて、”そこら”に山積みにしている。手提げ袋にはマジックで日付と場所だけ書いている。立花隆と同じ整理法らしい。著者の部屋の写真も公開されていて、見た目は大変、乱雑に見える。

そもそも、この方法では過去の資料を容易に探すことは難しいと認めている。著者曰く「資料には足が生えてい」て、放っておくとどこかへ行ってしまう性質があるという。


資料管理が危ういほうが、仕事を早くする秘訣でもあると指摘しておきたい。整理がきちんとしていれば、いつでもとりかかれるとの安心感があり、結局、仕事をしない場合が少なくないが、資料を探せなくなるのではないかという不安が大きいと、必死に仕事をはやく片づけようとするのである。

多分、これは言い訳ではなくて、知的生産性の方法として正しいのだと思う。

パソコンの中のファイルやディレクトリへのユーザアクセスの数を集計すると、べき乗則が成り立つという研究報告がある。ごく少数のファイルが頻繁に使われるが、大半のファイルはほとんど使われないということになる。使われない情報の整理に時間を使っても仕方がない。時間の無駄である。リアルの世界でもほぼ同じことが言えるのだろうと思う。
新聞や雑誌の編集部を訪問して、呆れるくらい乱雑な資料の山に囲まれて仕事をしている記者、編集者は多い。いや、むしろ、その方が普通な気がする。大量の情報をフローとして扱う現場はその方が効率が良いのだ。

事実、著者も、すでに取材内容を18冊もの書籍として発行している。その他何十冊もの書籍を書いている。生産性という点ではきわめて高い。こうしてみると、知的生産性と秩序だった分類整理は無関係なのではないか、と思う。

先日の本にもあったが、情報をストックではなく、フローとして扱う整理術こそ、スピードの時代、デジタルの時代に適した術であると思う。超アナログな現場主義の仕事の中に、そうしたノウハウがたくさん隠されていることが分かった。

調査や取材が仕事でなくても、この本で語られる、”訪問先の企業から何かを読み取る技術”は、普通のビジネスマンにも役立つノウハウだと思う。前半はアジアの中小企業の取材ドキュメンタリ、後半は日本の地域振興のドキュメンタリで、それ自体も読み応えがある。アジアへの出張の多い人には旅行術としても参考になることが多い。

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2004年06月11日

ひらめきはどこから来るのか

ひらめきはどこから来るのか
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■ひらめきの4段階

素粒子物理学者のマレイ・ゲルマン曰く、ひらめきにいたる道には4つの段階があって、
没頭期
潜伏期
啓示期
証明期

と展開していくという。好きなことに没頭し、壁にぶち当たりながらも、考え続けていると、やがて啓示が訪れて、ブレークスルーが起きる。

著者は、以前書評した「複雑系とは何か」の著者でもある。ひらめきは、複雑系になぞらえると「自己組織化臨界」なのだという。テーブルに無造作に砂粒を落とし続けていると、円錐形の山ができ、いつか、なだれが発生する。なだれがひらめきにあたる。だが、それがいつなのかは予測することができない。

大切なのは、砂粒を落とし続けることと、円錐形の山ができるような落とし方をするということにある。少なくともテーブルの上に落ちるように意識していなければ、努力が無駄になる。問題の解決を常に意識しながら考え続ける、手を動かし続けることが大切だという。技能の学習や上達とほぼ同じパターンが、ひらめきにもあるといえそうだ。

ひらめいたと思っても、よく考えると間違っていることもある。

キリスト教の聖遺物(キリストの血痕だとか聖骸布だとか)が目玉商品の西欧の大聖堂では、年中、奇跡が目撃されたそうだ。だが、この奇跡の発生時間を統計的に分析すると、休日や寺院への参詣者が多い日に奇跡の発生が集中していたという。「意味への期待」が、偽の奇跡を引き起こしていたのではないかと著者は推測している。答えを追い求めている過程で、無理な意味付けをしてしまう人間心理があるということか。意味への希求はひらめきの源泉でもあるはずで、諸刃の剣と言える。

■情報糖尿病

「多すぎる情報はマイナスになる」、「脳は少ない情報の活用に向いている」、「現代人は情報糖尿病にかかっている」という指摘は、鋭い。情報化社会では、情報は栄養と同じように積極的に摂取されることが良しとされてきたが、過剰な栄養が糖尿病を招くのと同じように、情報過多によって、ひらめきをうまない脳がつくりだされている可能性がある。

大量の情報を表示しているパソコンの画面を前にして、ひらめくことって少なくないだろうか?。ひらめきの訪問は、一息入れているとき、散歩しているとき、誰かと会話をしているときだったりが、多い気がする。

この本では、多くの天才たちが夜の時間を思考にあてていたことが紹介されている。「歴史は夜つくられる」などという言葉があるけれど、夜は静かで物事を考えやすい。暗いから、目に入る情報量も少ないし、社会の動きも飛び込んでこない。情報を遮断する。周囲を取り巻くノイズをどうマネジメントするか、情報糖尿病を脱する、環境の技術が重要なようだ。

この本は、全編にわたって、ひらめきがテーマではない。もうすこし広い意味での考える力についての哲学的考察が真のテーマといえる。著者自身、長い潜伏期にあったようだ。そのせいなのか、少し話が拡散気味で読みやすいとは言えないのだが、いろいろ考える素材を提供してくれている。

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2004年05月19日

考える道具(ツール)

考える道具(ツール)
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考える道具というタイトルから、以前書評した「考具」に似た本が連想されるのだが、内容的にはまったく異なる教養本。ビジネス実践の知恵ではなくて、古今東西の哲学者たちの、思想の中心となる考え方=ツールを紹介する。ソクラテス、プラトンからベーコン、デカルト、カント、そしてチューリング、ドーキンス、デリダ、古代から現代まで登場人物は多彩。哲学者というのは、根源的なことを考えるプロである。この本はそのエッセンスを抽出した「突き詰めて考えると現れる思考パターン集」と言えそう。

同じことを説明するのならば単純な理論のほうが良いとする「オッカムの剃刀」や、道徳を計量的に考える指針「ベンサムの最大多数の最大幸福」、異なる見方の衝突から高いレベルの総合解決を見出す「ヘーゲルの弁証法」など25の道具が登場する。各章ではそれらの道具を作った哲学者たちの生涯が語られ、どのような文脈の中で生まれた思想なのかも明らかにされているのが良い。ひとつの章が10ページ程度なのも読みやすい。

翻訳はインターネットの哲学サイトポリロゴスの運営者。内容を理解して翻訳しただけでなく、日本語版独自の読書案内が章ごとに追加された。各哲学者についてもっと知りたいときにはこの和書を読みなさいという案内で、よくできている、見事。

・Polylogos
http://nakayama.org/polylogos/

こういう本を読むと、それぞれの哲学について深く学んでみたいと思うが、現実はなかなか、難しい。最近の書籍の売れ筋のひとつに古典を要約した「あらすじ本」があるが、この本もそうした系統の一冊である。知のサプリメント。サプリメントで栄養素だけを補充して健康を維持するのと同じように、多忙な現代人は、要約本で教養を維持したいと思う人が多いから、売れるのだと思う。自然に食物で摂った方が栄養のバランスが良いように、本当は、真面目に勉強したほうが身につくのだろうなあと思いつつ、「飲まないよりは良い」ということで、サプリ本にまた手を伸ばしてしまう今日この頃。

最近、私の弟は企業を辞めて大学院に戻ったらしいのだが、ちょっと羨ましい。ああ、まとまった勉強がしたいなあ。

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2004年03月23日

集中力

・集中力
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「火事場の馬鹿力」という言葉があるが、身体的に危急な状況に置かれた場合にも私たちは通常の能力を超えた働きをする。集中力が高まるからである。

知的作業のパラメータとしても「集中力」は重要な係数であると思う。

興味があること、やる気があることに対しては、私たちは特別な力を発揮できるものだと思うからだ。同じ仕事をするにしても、特に知的作業は、集中力のあるなしによって、アウトプットの質と量は変わってくる。この本は、認知心理のさまざまな実験データを使って、集中力の秘密を解き明かしていく。

■内発的動機と外発的動機

著者によると、集中力の動機づけには、内発的動機と外発的動機の2種類があるという。内発的動機とは、自分自身の中から発する目標達成への動機づけであり、以下の3つに分類できる。

内発的動機
  感性動機
    環境刺激を求める
  好奇動機
    感覚的に環境を経験しようとする
  操作動機
    自己の行為を通じて環境を知ろうとする

内発的動機は、単純な刺激に対する欲求(刺激のなさを嫌う気持ち)や、好奇心、こうしたらどうなるだろう?という探究心等から発する。

これに対して外発的動機とは、達成することにより報酬(金銭や賞など)が与えられる場合に起きる動機づけのことである。

心理学の実験では、内発的動機の方が一般に優勢で、報酬による外発的動機の成果を上回ることが多いと、この本では述べられている。

例えば、被験者集団にパズルを解かせるという実験(E.L.ディシ)で、成果に対して報酬を与える、与えないという実験群と統制群を使って、外発と内発の効果を計った。すると、意外にも、内発的動機に一貫した方(完全無報酬)が、そうでない方(1日目は無報酬、2日目は有報酬、3日目無報酬)を上回る成果をあげた。報酬があるせいで、逆に内発的な動機を失わせてしまう効果があると結論されている。

確かに報酬体系だけで集中力が引き出せるのであれば、すべての組織が能力に応じた報酬体系になっているだろうし、企業ならストックオプション制度を使ってスーパーカンパニーとなることができるはずだ。だが、実際には必ずしもそうならないのは、報酬が集中力やモチベーションを、むしろ、減少させることがあるという事実と関係があるのかもしれない、と思った。

■高次レベルの欲求と集中力の関係

有名なマスローの要求5段階説も集中力と関係すると言う。

第一段階 生理的欲求
第2段階 安全を求める欲求
第3段階 所属と愛の欲求
第4段階 自尊の欲求
第5段階 自己実現の欲求

人間は5つのレベルの欲求を持ち、前の段階の欲求が満たされると、次の高次の欲求を求めるという、よく知られた説。自己実現にはその前のすべての段階の充足を必要する。

ローゼンサールのピグマリオン効果の実証実験の話も興味深い。

「各学校からランダムに二割の児童を選んで、担任教師に「この児童は急激に伸びる可能性がある」という情報を伝えた。そして八ヵ月後、再び知能検査を実施したところ、有望であるという情報を与えられた児童の得点が、図17に示すように明らかに向上していたのである」。人は期待されていると認知すると、それに応えようとする、それが集中力を高める効果があるということ。

このほか、気がのる、気が乗らない、気になる、気が散るの意味や、疲れる、飽きるとはどういうことか、記憶力と集中力などのテーマが、認知心理学アプローチで説明が続く。やる気という曖昧な事象が数字やグラフで解明されていくのが面白い。

「やってみせ、言ってきかせて、させてみて、誉めてやらねば人は動かじ(山本五十六)」「好きこそ物の上手なれ」「三つ子の魂百まで」など、一般に使われている格言、名言が、人間心理の特性をかなり正確に言い当てているのだなとわかる。

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2004年03月16日

偶然からモノを見つけだす能力―「セレンディピティ」の活かし方

・偶然からモノを見つけだす能力―「セレンディピティ」の活かし方
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■セレンディピティ

Gooの英和辞書で検索してみると、

・Serendipity
http://dictionary.goo.ne.jp/search.php?MT=serendipity&kind=ej
ser・en・dip・i・ty
━━ n. 思わぬ発見をする特異な才能.
三省堂提供「EXCEED 英和辞典」

という説明がでてきた。れっきとした英単語として存在するセレンディピティ。この本では「当てにしていないものを偶然にうまく発見する才能」「偶察力」などと紹介される。流行語のイメージがあるが、語源は古く18世紀に遡る言葉で、スリランカの寓話「セレンディップと3人の王子」に由来するとのこと。

ニュートン、アルキメデス、メンデル、ジュール、アインシュタイン.......。歴史上の発見が偶然の産物だったという逸話はよく聞くし、近年では、ノーベル賞受賞の報がある度に受賞者や評論家がセレンディピティを口にする。

・「ノーベル賞への道 白川英樹さん 高山から世界へ」
セレンディピティー 目的外の偶然見逃さず
http://www.jic-gifu.or.jp/np/newspaper/kikaku/nobe/nobe2.htm

■偽のセレンディピティ、本物のセレンディピティ

セレンディピティは能力であると定義されている。能力であるならば意図的に磨くことができるし、この本の後半は、感動や観察、ファイリングや記録、行動範囲の拡大、連想などをテーマに、その能力を育てるアイデアが紹介される。

一読して思ったのは、世の中には本物と偽者のセレンディピティが存在し、厳密に切り出して考えるには、ふたつを区別しておく必要があるのではないかということ。

・社会心理的に生み出される偽のセレンディピティ

大きな成功を収めた場合に、特に日本社会は、偶然や他者との出会いに起因することにして、その成功を説明した方が、社会的に受容されやすい。話題としても物語性があるので、メディアが取り上げ、話が伝播しやすい。

つまり、意図的にせよ、無意識にせよ、成功を物語化するプロセスで、セレンディピティを発見、作成、拡大してしまっている可能性を感じる。これもセレンディピティに含めても広義では問題はないが、育てる能力として見るならば、偽者として排除しておくべき例だと考える。

本物のセレンディピティは、私は次のようなものではないかと考えている。

・性格や行動特性、ツキとアウェアネス情報によるセレンディピティ

偶然の発見が高確率で発生するにはふたつの条件が必要なのではないかと思う。ひとつは経験の豊富さであり、もうひとつは経験から意味を見出す能力である。この2要素の積を常時高い値に保つ能力がセレンディピティなのではないか。(この本も要旨はそのような方向性で語られていた。)

ツキを科学する経営本が最近売れているようだ。これらの本もセレンディピティの能力を高めることと同義のような気がしている。ポジティブシンキングというのは、状況を肯定し気分による機会損失を最小にすることにあるのだとしたら経験の豊富さの技術である。

・斎藤一人のツキを呼ぶ言葉―日本一の大金持ち!
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492041834/daiya0b-22/
・オレと100冊の成功本
http://blog.zikokeihatu.com/
ツキと成功、経営などのテーマを語らせたら日本一のサイト

社会関係の技術としては、以前に紹介したアウェアネス情報による機会拡大が有効なのではないか。自分の関心や行動を他者の目に触れるようにしておくことで、予期せぬ展開の確立が高まる。

強い関心を持ち続けることで、状況から意味を見出すことが多くなるということも重要な要素だと思う。脳は無意識のうちに情報処理を行っている。脳は、雑踏の中で呼ばれた自分の名前を認識するカクテルパーティ効果のように、関心のあるテーマには認知レベルで敏感に反応することができる。

■パラダイムシフトか通常科学か

この本のコラムには、セレンディピティの反対語も紹介されている。

Japanity セレンディピティの反対語。「誰もがやっていることを追いかけて、必然のところで発見する能力」

海外の学者が日本人研究者を揶揄した言葉らしいが、「パラダイム」を発明したトーマスクーンの科学論でいうなら、Japanityは「通常科学」の技術である。これはこれで重要で、パラダイムシフトを起こすような「イノベーション」ばかりでは科学もビジネスも動かないと考えられる。むしろ、セレンディピティで語られるような成功の土台はJapanityによって築かれているようにも感じる。

人間の機会の増大や人脈拡大に役立つインターネットはセレンディピティ技術だと言えると思う。今話題のOrkutなどのソーシャルネットワーキングは、まさにその先端なのではないだろうか。

ソーシャルネットワーキングについては、PC雑誌の来月号に特集を書いたので,発売されたらお知らせしますので、これまたよろしくお願いします、とセレンディピティを期待した宣伝で本日のコラム終了。

・果報は寝て待て〜セレンディピティのすすめ
http://www.toyama-cmt.ac.jp/~kanagawa/essay/serendipity.html
深い考察。

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2004年03月12日

ビジネスチャンス発見の技術

・ビジネスチャンス発見の技術
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私たちはデータの山に埋もれて暮らしている。

ECサイトの商品の購買履歴、コミュニティの投稿ログ、Webサイトのアクセスログ、過去数年分のメール、ブラウザーに残ったWeb閲覧履歴など、普通に働いて生活しているだけでも、膨大なデータの山が身近に幾つも見つかる。

個人や会社が保有する膨大なデータやテキストは、コンピュータで徹底分析したら、実はとてつもない有益な知識が発見されるのではないか?。そんな予感を多くの人が持つようになった。ハードやソフトも廉価になったことで、データマイニングやテキストマイニングに関心を持つ人が増えている。

例えばWebサイトのアクセスログを分析すれば、ナビゲーションの不備がみつかって、経路誘導を改善することでページの閲覧数が増える。ECサイトで商品Aを買うお客は、高い確率でBも買っていることが分かれば、Aを買ったお客にBを薦めることで売り上げを伸ばす。掲示板のログを分析することでコミュニティで一番話題になっているテーマが見つかり、マーケティングに取り入れる。そういったことがデータマイニングやテキストマイニングを行うことで実現できる、ということになっている。

実際にはそれを達成するには幾つもの壁がある、ときちんと専門家は言うべきだと、私は感じている。

分析処理の過程で統計計算や社会学の知識が求められたり、高い値段のツールが必要だったりする。分析した結果の相関や分布マップが、どのような現実的意味を持っているのかを読み取るためのノウハウや発想も求められる。そもそもマーケティングは創造行為であって、過去の分析ができれば未来のヒット商品を開発できるとは限らない。こうした壁に次々に遮られてマイニングに取り組んだ人の多くは、途中で諦めたり、結果に失望して終わることも少なくない。

データを放り込めば思いもよらない結果が自動的にでてくるブラックボックスとして、データマイニングを考えるのは、無理がある。マイニングはツールであって、それ自体がソリューションではないからだ。他のビジネスプロセスと同様に、自分がやっていることを理解できていなければ、結果が出ることはほとんどないし、仮にまぐれ当たりがでても、繰り返し成功することはない、はずなのだ。ツールとノウハウがセットではじめて機能するものだと思うのだが、ノウハウの方はあまり語られることが少ない。これはその数少ない本のひとつ。

この本は、まずマイニングの目的をビジネスの「チャンス発見」とした点が興味深い。従来のマイニングは、計算の目的ではなくビジネスの目的が明確でないものが多かったからだ。

著者は本の前半で以下のように述べる。


実際に起きたさまざまな事象の中から、珍しいけれど重要な事象を見出して自分にとっての価値を理解するためにはどうしたらよいだろうか。事象を観察して集めたデータを解析すればそれでよいのか?つまりチャンス発見を自動化できるだろうか?

この問いにははっきり「ノー」と答えておきたい。人が強く介在しないとチャンス発見は不可能なのだ。

著者は、アカデミズムの世界では著名なデータマイニングの研究者で、テキストからキーワードを抽出し、文書に含まれるキーワードの発生パターンから、潜在ニーズを発見するソフトウェア「KeyGraph」の開発者として知られている。この本もKeyGraphを使った分析画面例が多数使われている。こうしたツールの分析結果から何を読み取っていくべきか、どのような態度で望むべば結果が出やすいか、著者の企業との共同研究の体験を中心に語られる。

この本の経験では、分析する人とツールが対等の関係にある。繊維業界の展示会来場者の声を分析し、関係地図にする話では、生地の名前の部分に実際の生地を貼り付けて、分析者が手触りを確かめられるようにした。そのようにして、はじめて本質が見えたという。そこには「きれい目系」「着古し系」というふたつのクラスタがいるように見えたが、実は同じお客が、ふたつのスタイルをTPOに応じて着替えたいという変身願望を持っていることに気がついたのだ。この他にも、ホワイトボードを使った分析のアイデアだし、分析の会議にはどのように臨めばよいのかの成功例などが次々に紹介される。

アイデアや発想の発見のためのデータマイニングは、まだ始まったばかりの試み。どこまでをツールは自動化でき、人間は何をすればよいのか、という切り分けが、最も重要な知識になると思う。この本は、その分野の最前線のドキュメンタリとして大変興味深く読めた。

・チャンス発見コンソーシアム
http://www.chancediscovery.com/チャンス発見のための研究を行うコンソーシアム

・著者の大澤 幸生氏のサイト
http://www.gssm.otsuka.tsukuba.ac.jp/staff/osawa/Japanese.html

・KeyGraphコミュニティ
http://www2.kke.co.jp/keygraph/link.html
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KeyGraphのダウンロード、販売情報など

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2004年01月27日

企画がスラスラ湧いてくる アイデアマラソン発想法

企画がスラスラ湧いてくる アイデアマラソン発想法
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■17万6千個のアイデアを書いた超人の本

この本には「有効発想密度の法則」という言葉が出てくる。アイデア1000個のうち、現実に使えるアイデアは3個程度という意味で、よくマーケティングの世界で言う「千三つ」とほぼ同じである。このメソッドは、アイデアは数を出し続けることに意味があるという考え方に基づく。著者は毎日発想をノートに書くという作業を、1984年1月に開始して2003年11月末までの20年間で、276冊のノートに17万6000個以上の発想を記録しているという。

著者は1946年生まれで三井物産カトマンズ事務所長。バリバリのビジネスマンであり、書かれていることも学者、研究者のアカデミックな発想学とは一味もふた味も違う。ビジネスの現場と生活の中での実践的発想術として活き活きとしている。

・著者樋口健夫氏によるアイデアマラソンシステム(IMS)公式サイト
http://www.idea-marathon.net/ja/index.html
アイデアマラソンについて説明やFAQ、プレゼンテーション、著者の書籍の紹介などがある。

アイデアマラソンは、言ってしまえばただノートに毎日アイデアを綴るだけ、である。だが、それを毎日続けて何万件も蓄積することは普通は不可能だ。この本は、ビジネスシーンや生活シーンの中で著者が、どのようにモチベーションを高め、習慣化しているかのディティールと、このメソッドの広い効用が熱く語られる。著者はこの本の燃料を使えば一ヶ月は無着陸飛行ができるはずと書いている。読み終わってそれは強く感じた。メソッドは簡単でも、この本はスタートダッシュのブースターとして価値があると思う。

■アイデアを人に話す

アイデアマラソンのルールのひとつは「アイデアは人に話せ」。

ちょうど、そのくだりを読んでいる間に、パートナーの田口さんから、連絡が来た。「橋本さん、今度のイベントで、パナソニックさんが電子書籍のシグマブックのデモ機、貸してくれることになりました!」。え、発売前のあの話題の端末の実物が会場に出せるの?。イベントのひとつの売り物として参加者にも喜んでもらえる。とても嬉しかった。

・無敵会議 Σブックも登場だ!
http://www.project-on.com/archives/000386.html
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・シグマブック関連過去記事:ブック革命―電子書籍が紙の本を超える日
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000837.html

田口さんに聞いてみると、パナソニックさんのこの部門と直接のつながりがあったわけではないらしい。たまたま、最近別件での訪問先で面識を作ったご担当者に、今回のイベントのアイデアをメールしてみたらしいのだ。これなどまさに、「アイデアは人に話せ」である。アイデアが拡張され、連鎖され、実現した良い例だなあと思った。

もうひとつ、私もこのイベントのアイデアを話した方がいる。いわゆる成功ノウハウ本を100冊読んで成功できるか検証するというサイトの主催者の方。面識はないが、あまりにユニークなサイトコンセプトに感動して、今回のイベントにきてお話いただけないか、一か八かでメールしてみた。

すると、こういう展開になった。

・俺と100冊の成功本
http://blog.zikokeihatu.com/archives/000105.html

イベントの内容にひとつ何か(私もうかがっていないので)楽しいことが加えていただけそうな気がしてワクワクしてきた。アイデアを人に話す目的は、言語化によりコンセプトを精緻化すること、他者の視点で正当性を検証評価してもらうこと、だけではないのだなと思った。アイデアを人に話すとコトが実現に近づくということなのではないかと思う。この本の著者もアイデアを話すことは「ツキ」を呼ぶと書かれていた。

■ネタ切れがアイデア発想のチャンス

特に感動したのが、ネタ切れこそチャンスと考える著者の言葉だ。20年間で17万件以上考えたアイデアの達人が言うのだから、励まされる。

ネタ切れと言えば、私にとって原稿が連想される。

このブログでも仕事の原稿執筆の仕事でも、連載は最初のうちは簡単である。蓄積したファーストアイデアの在庫があるから小出しに使う。小出しにする本当の理由は長期連載で何度も分けて使えるから、ではない。ファーストアイデアは思い入れが強いから、出し惜しみをしてしまうのだ。もったいぶってなかなか全部を使わない。

1000本以上、商業媒体で原稿を書いた自分の経験からすると、ネタを隠し持っている間は、次のアイデアはでてこないことが多い。使い切ってはじめて、次の、その次のアイデアが出てくる。これは私個人の特性なのかもしれないが、アタマのアイデア格納スペースはきっと有限なのだ。抱え込んだアイデアを表現して追い出さない限り、次のアイデアはでてこない。

そういう感覚を持っていたので、ネタ切れがチャンスという言葉は心に響いた。アイデアマラソンは、ノートに書くことで吐き出すという行為なのだ。この本には脳の学習や認知モデルの話はほとんど出てこないが、アイデア発想の大先輩の暗黙知に溢れている。

この本を半分まで読んだ時点で、別のコラムを書いた。ひとつのソースでアイデアを広げてみた。この話題にご関心のある方はこちらもどうぞ。

・パフォーマンスアートとしてのアイデアマン
http://sentan.nikkeibp.co.jp/mt/20040127-01.htm

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2004年01月21日

百式2冊同時出版と管理人への7つの質問

百式2冊同時出版と管理人への7つの質問

■百式発の2冊同時出版、2月3日発売、予約開始

2月4日に友人であり、仕事のパートナーであり、ライバルの百式田口さんが書籍を2冊出版する。説明不要と思いつつ、説明すると、百式はドットコムのドメイン名を持つWebサイトを、田口さんの独自の発想の切り口で、土日も休むことなく一つずつ紹介しているサイトである。ちなみに百式は100の様式、さまざまなスタイルという意味らしい(ガンダムのネタではないのだ)。

校正前の原稿をちょっと見せてよと頼んだら、気前よく全部読ませてくれた。感謝。

・百式本特設サイト
http://book.100shiki.com/index.html

1冊目は、アイデア×アイデア
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『アイデア×アイデア』のご紹介

あの『百式』が本になりました!

海外のビジネスアイデアを紹介する人気サイト『百式』から100例を厳選して掲載。奇抜なアイデアから、なるほど!と小膝を叩く絶妙なアイデアまで。やっぱり海外の発想はおもしろい!

人とは違った発想は、人とは違った情報源から。海外のユニークな事例を読みこなして他の人と差をつけよう!

という宣伝文。

百式サイトで紹介された厳選サイトが書き下ろしの解説と発想、図解と共に100連発。毎日Web版をマニアックにチェックしている人にも売れるように、付加価値がつくように念入りに設計されている。感想としては、百式Pro版。ビジネスのマーケティングに使えそうな話題が満載。身近に著者がいる私でも買いの判断。


2冊目は「起業・企画・営業・雑談のネタは日常の諦めている不便利から」。長いタイトル。
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『起業・企画・営業・雑談のネタは日常の諦めている不便利から』のご紹介

あの『百式』の人気コーナーが本になりました!

海外のビジネスアイデアを紹介するサイト『百式』の人気コーナー、『起業のネタは諦めている不便利から』に寄せられた投稿から150のアイデアを一挙掲載。

世の中の人は何を欲しているのか?何に不便を感じているのか?全国から寄せられた生の声にそのヒントがある。ビジネスの企画からデートの話題まで。あなたをクリエイティブな人にするアイデアがここにある!

こちらは読者投稿の諦めている不便利に大して田口さんが、ビジネスも意識した提案コメントをびっしり書き込んだ本。仕事のネタ帳としてコンサルタントの虎の巻になりそう。面白い。こういう濃い投稿者がたくさんいるサイトってどう作っているのだろう?

というわけで、友人ということもあることを差し引いても、両者読み応えのある推薦できる本であると思います。

さて、毎日サイトを更新しながら全国を飛び回る生活の田口さん、どうやると2冊も本を書く時間があったの?といった湧き上がる疑問を7つにまとめて投げかけてみました。

■百式管理人への7つの質問

Q:ドットコムばかり毎日みていて飽きませんか?
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飽きないですね・・・毎朝5時とか6時とかに起きてネットサーフィンをするのですが、毎朝一つは「うーむ!」と唸ってしまうドットコムがあります。ビジネス的には「?」でもそこはそれ、発想として「ありえない!」と思えるものばかりです。

毎朝頭の中に変な液体注入してもらうような気分です(そんなことされたことないけど)。目が覚めます。

Q: 百式ではまだとりあげていない、最近気になるサイトを一つ教えてください。
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毎朝ネットサーフィンをしていると、ドットコムじゃないけれど、これは是非みんなに教えたい!というサイトによく出くわします。最近一番よかったのは、下のサイト。

・2004年
http://www.panoramas.dk/fullscreen3/f1.html

今年のNew Year's Day、ニューヨークのタイムズスクエアをパノラマ画像と雰囲気のある音楽で。こういうのいいですよね。

あとは真面目にビジネス、ということだったら、

・Tickle
http://web.tickle.com/

ですね。ここではいわゆる性格診断を有料で行っているのですが(無料のもあります)、すでに1800万人の会員がいて、利益を出しているというからすごいです。ここが注目したのは「自分の性格診断結果は人に転送したくなる」という心理です。これって経験ありますよね。「僕はこうだったけど、お前はどう?」というメールです。これによって口コミをひろめ、一大メディアに育てたのがTickleなのです。

Q:無人島に持って行きたいサイトはありますか?
---------------------------------------------------------------------

無人島で毎日見れるサイトが一つだけあるとしたら、というご質問でしたら下のサイトですね。

・AlwaysOn
http://www.alwayson-network.com/

業界の動向が地道に集められているので参考になる記事ばかり。特にRafeさんという人のファンですね。彼はRed Herring、Business2.0と渡り歩いている人で、かなりの業界通です。

・Rafeさんのコラム
http://www.alwayson-network.com/blogtopics/index.php?id=22

Q:情報収集したデータ、発想はどのように保存、知識ベース化していますか?
---------------------------------------------------------------------

情報収集(=毎日のネットサーフィン)で見つけたサイトは、自分宛にメモ書きとともにメールして保存しておきます。その際に役立つツールはこれです。

ZakuCopy
http://a-h.parfe.jp/zakucopy/zakucopy.html
ブラウザから右コピーで、今見ているサイトのタイトル、URLをメールに転送してくれる。

その後、なにか書きとめておきたいメッセージがあればWikiに書いておきます。Wiki、知らない人が多いのが不思議ですよね。

・PukiWiki
http://www.pukiwiki.org/

ウェブ上でページを更新していくことのできるツール。コメントを追加していく掲示板と違い、一つの文書の精度を編集することでどんどんあげていくことができる。FAQや辞書など、追加するのではなくて更新するようなコンテンツには最適。

Q:百式1日分の記事作成に費やす時間は?
---------------------------------------------------------------------

「ネタ探し」としてのネットサーフィンにだいたい45分。記事を書くのはだいたい15分ぐらいですかね。最速で7分ぐらいでかけます。調子が悪くても30分ぐらいですね。

(これは本当です。彼が目の前で書くのは何度か見た:橋本)

Q:面白いWebをみつける「てがかり」はなんですか?
---------------------------------------------------------------------

「面白い=人と違う」と思っています。そう考えるとやはり海外の人のコラムやサイトを見るのが一番ですね。日本人にとっておもしろいものがたくさんあります。海外の情報に定期的に触れるのがコツだと思います。そういった意味では『アイデア×アイデア』おすすめですよ(宣伝)。

Q:ここに手持ちの有り金全額投資しちゃうぞというドットコム教えてください
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http://www.100shiki.com/

というのは冗談として、

http://www.netflix.com/

でしょうか。日本にもある郵送DVDレンタルですが、こうした「生活習慣を変えてしまう」サービスは素晴らしいですよね。特に企業名が動詞名になるような企業は全部好きです。「これ、FedExしておいて!」とか、ですね。

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2004年01月16日

創造学のすすめ

・創造学のすすめ
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失敗学会という妙な名前の真面目な学会がある。「特定非営利活動法人「失敗学会」は、広く社会一般に対して失敗原因の解明および防止に関する事業を行い、社会一般に寄与することを目的とする」もので、失敗事例の研究を行っている。会長は東大名誉教授の畑村洋太郎氏で、科学技術振興事業団の失敗データベースも統括している。

・失敗学会
http://www.shippai.org/shippai/html/
・失敗データベース
http://shippai.jst.go.jp/

この畑村教授は本来は創造学の研究者でその近著がこの本である。失敗と創造の両方を研究しているところに興味を持った。

■科学的創造の理論TRIZ

創造学というとTRIZ理論が知られている。この本でも少し紹介されたし影響を受けているという。

・TRIZホームページによる解説
http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/jpapers/IntroJCS011104/IntroJCS011104.html


旧ソ連で1946年に, 海軍の特許審査員G.S. アルトシュラー(当時20才) が, 多数の特許の中には, 似た発想や類似の考え方が, 別の分野で, 別の時代に, 別の問題で適用されていることに気付いた。"独創的" な発明にも, 自ずからパターンがあると認識した。そこで, 優れた特許から, 発明のパターンを抽出し, それを学ぶことによって, 誰でも発明家になれるだろうと考えた。試行錯誤と偶然のひらめきに頼らなくてよくなるだろうと考えた。

250万件以上の世界の特許を分析し、創造の法則を抽出した結果、アルトシューラーは、
40の発明の原理、76の発明の標準解、技術システムの進化のトレンド、アルトシューラーの矛盾マトリックス、ARIZ (発明問題解決のアルゴリズム)などからなる一大発明理論を確立した。

このTRIZ的な発想をコンピュータ支援するソフトとしてインベンションマジックがある。米国Invention Machine社が開発した発明支援アプリケーションである。実は私、このソフトをある方から頂いて手元に持っている。

・“発明”を支援するソフト登場 科学技術原理をリンクし,複合技術を提案抗
http://nmc.nikkeibp.co.jp/kiji/c5303.html
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光や音や熱、摩擦や重力など科学技術原理が1600種類データベース化されており、ユーザはそれらの原理データを組み合わせて、回路のように、発明品を作る。各種係数を変化させて、出力の違いを検証したりすることができる。

私は科学者ではないから、よく分からなかった。結構高いソフトなので、猫に小判だったのかもしれない。この本ではTRIZの限界が語られている。TRIZの原理や発明法を組み合わせて、ある程度自動的にアイデアを得たり、構造を作れても、具体的な発明品にまで落とし込むのは極めて難しいという。ソフトだけではだめということか。

とても参考になった著者の言葉があった。引用させていただくと、


「最近私は具体化とは具体の世界から上位概念へ『登ってみる』ことだ」と考えています。たしかにプロセス上は上位概念の世界から具体の世界へ「降りる」のですが、実際には自分の頭の中にある具体の世界のものを、上位概念の世界でつくりあげた全体構造に当てはめてみるのが具体化の実体です

発明も企画の発想も、頭で考えるのだけれどそれだけではだめで、実感や経験を伴わない創造は大抵は無意味なただの組み合わせに過ぎない。そういうことと思った。

■アウトプット型創造法:思考平面図から思考括り図、思考関連図、思考展開図

著者の創造の定義は明快である。すべては要素、機能、構造の3要素から構成され、創造とは「新しい機能を果たすものを作り出すこと」である。そして、模倣、定式を経て真の創造があるとし、ベースとなる模倣や思考の定式も解説される。

理論よりも実践部分が本論と思った。思考平面図から思考括り図、思考関連図、思考展開図という順でKJ法的にアイデアをまとめた地図を作成するアウトプット型創造法が紹介される。例えば最終形である、思考展開図は要求機能、機能、機能要素、機構要素、構造、全体構造の6つの領域に横軸に並べて、対応するアイデアをこの流れに置いていく手法である。

一人一人が自分なりの思考展開図を作った上で、ディスカッションを行うことで、グループの創造性が豊かになる。一般的にグループでは、参加者が提出した、部分的アイデアを集めても、意味のある創造にはなりにくい。各自思考回路が違うからだ。展開図の構造理解を経験した参加者同士ならば、共有する知識ベースができて共創が可能になる、ということである。

創造法や思考法は、メソッドやフレームを共有したメンバー同士であるとうまく共創原理が働くと思う。さらに多数の思考法を状況に応じて繰り出せる人、メタ創造ファシリテーターというのがいるともっとうまくいく、ような気がしている。創造の技法、アイデア勝負の今の時代に求められている技術と思った。

読みやすい本で勉強になった。企画プロデューサ、商品開発に関わる人におすすめ。

#忘年会議おもしろかったよーと言ってくださる方の声に嬉しくなって今年は、創造法を試す会議イベントを連続開催しようと田口氏と企画しています。もうすぐお知らせできるのでぜひ一緒に試してください。よろしくお願いします!。

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2003年12月26日

分かる使える思考法事典―アイディアを生み出し、形にする50の技法

・分かる使える思考法事典―アイディアを生み出し、形にする50の技法
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■煮詰まった会議のブレークスルー

新規事業開発プロジェクトの会議にコンサルタントとして参加。全員でブレインストーミングをした。立ち上げ予定のサービスについて、潜在的な需要、用途をリストアップしていく。その中から有望なモデルを探すのが目的。

サービスの特性をX、Yの軸で4象限に分けたマップを作って、アイデアを配置していく。知識経験の豊富なメンバーばかりだったので、最初はアイデアが湧き出るように提案された。このまま続ければ、最後にいい成果を出せるかもしれないという期待感は高まる。途中までは調子よく、ホワイトボードが埋まっていった。

しかし、半分くらいまで進んだ段階で、これでは革命的なビッグアイデアはでないかもしれないと漠然と感じていた。一通り全員が考えをすべて喋って、ニーズのマップも9割完成したときに、やはり、全員がそう思った。どのアイデアも悪くないのだが、飛びぬけたものがない。プロジェクトリーダーも「パラダイムを変えないとだめですね。次回やりなおしましょう」と締めくくった。

こういうブレインストーミングはよくある。「ニーズのマップを埋めていく方式」では、革命的なアイデアは生まれない事が多いなあと思った。これに似た「すべての組み合わせを考える方式」も無難な結果しか生めないことが多いと感じる。発想法を次々に取り替えて議論してみるとうまくいくことがある。

それも発想法を取り替えた最初の「一絞り」にキラリと光るものが見えたりするなあと思う。(みなさんの経験はどうでしょうか?)

この本にもこんな一文があって大きく頷いた。

「薬でも同じですが、思考法も、最初はめざましい結果が出ることがあります。そのうちにたいした結果が出なくなります」

この本は発想法、思考法を50種類も紹介している。KJ法やマトリクス法、ブレインストーミング法等、比較的知名度の高いものから、シネクティクス法、NM法、MBS法、カードBS法、ゴードン法、フィリップス66法など知る人ぞ知る発想法が次々に紹介されていく。

50の技法は、

・学術研究で用いられてきた思考法
・ビジネス分野で定番となっている思考法
・1人に適した思考法
・グループに適した発想法

の4つに整理されている。事典だから、通読するよりも必要な箇所を煮詰まったときに読むと、使える発想がみつかりそうだ。会議室に置くのも効果があるかもしれない、発想法のカタログ書。

■百式田口氏から教えてもらった思考法

今年は年末の忘年会議まで百式管理人田口氏とよく仕事をさせてもらった。彼はコーチングや会議のファシリテーター技術を学んでいるので、発想法、思考法をやたらと知っている。個人の性格との相性もあるけれど、私と田口さんの会議で、毎回うまくいくやり方が最近分かってきた。

彼の提案によるもので、最初はそんなことできるわけないと思った2分間発想法。何か問題解決やアイデア出しをしたいときに、「それじゃあ、今から2分で必要なことをリストアップしてください、はい、スタート」と彼にいきなり宣言される。準備は一切出来ない。私は若干彼の能力にライバル意識を持っているので、それを超えようと必死に考える。2分後に両者が発表し、重複チェック、グループ化、ワークフロー順に並べ替える。これで大抵うまくいく。すごくうまくいくこともある。失敗しても2分しか使わない。

2分間の意味を私なりに考えてみた。次の5つの点が良いのではないかと思う。

1 1分は短すぎる、3分、5分はまとまった単位である、2分には緊迫感が感じられる

2 時間があると思うと完璧主義になったり全体を構成しようとして、アイデアがでない。2分しかないと思うととりあえず思いつくことを出してみる。

3 急いでも、最初に思いついたことというのは大枠正しいことが多い。

4 当意即妙の力を試されている感じがして創造性を刺激される

5 2分では一人で全体を決められないが故に、みんなの意見を組み合わせた内容にまとまるので、コミットメント感が生まれ、その後のプロセスに良い影響が出る。

その他、プロジェクトの成功ケースでは、

・「とにかくスケジュールから決めてしまいましょう」
・「プロジェクト完了まで毎朝、用がなくても電話で話しましょう」
・「じゃあ、それとそれ、お互い30分で今やっちゃいましょう、スタート!」

というセンテンスが使われることが今年は多かった。皆さんのベストプラクティスのためのセンテンス、あったら教えてください。

参考URL:

・コラボレ
http://clbr.jp/
たまごっちを生み出した発想法がWebで体験できる。

・思考法/発想法 N2
http://www.sge.co.jp/n2web/index.htmln2fig4.png

六角形の構造にアイデアを書き出していく発想法。ソフトウェア体験版もある。

・過去関連記事 デスクトップ発想支援ツールリンク集
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000139.html

Posted by daiya at 23:59 | Comments (0) | TrackBack

2003年12月19日

広告の天才たちが気づいている51の法則

・広告の天才たちが気づいている51の法則
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全米に広く顧客を持つ広告コンサルティング会社の代表である著者が、自分のお客や友人に向けて書いた広告についての手紙をエッセイにまとめた本。ひとつのテーマで数ページの読みきりの章が51の法則として綴られている。全米最優秀ビジネス書に輝く。

・著者が代表のWizardAcademy
http://www.wizardacademy.com/default.asp

51の法則を読んだ感想は人によって違いそうだが、私なりの理解を、各章の気になったセンテンスとともに、書いてみる。

■9割以上の割合で、衝動買い、思い込みで買う

・「五人は喜び九人はがっかり」の章
「その調査によると、目当ての品物を買って帰りたいと思って店を訪れる買い物客は全体の67%いるらしい。ところが、何と実際に買って帰るのは、そのうちのわずか24%に過ぎないという(中略)つまり、現在の来客店数のままでも、買う気になって来ているこうした来店客にきちんと買ってもらうようにするだけで、従来と比較して2.8倍の売り上げが期待できる」

つまり、お客は冷静なつもりでも、実は思い込みで衝動買いすることが多い。これは日本でも裏づけがある。関連する資料はこちら。

・店頭からのブランド・プロモーションの戦略的枠組み
http://mic.tama.ac.jp/lss/kiyo/No.1/otsuki.pdf

この論文の「図3 店頭における消費者購買行動調査」は、消費者がショッピングする際の、「店内決定」の率を調べたものだ。つまり、家を出る際に決めているものではなく、店頭で見て決める。広義の衝動買いが91.6%を占めるという数字が出ている。つまり、この本が言うように、店頭での広告の余地が大きいのだ。

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クリックで拡大

注釈:
ブランドレベル計画購入:ソニーの製品を買うと決めている
カテゴリーレベル計画購入:トイレットペーパーを買うと決めている
代替購入:本命がなかったので代わりのものを買う
非計画購入:無計画に衝動買いする

■何をしたいか、何を買いたいかを決めさせて欲しいお客

では、なぜこうも衝動買いが多いのだろうか。この本の以下の章に示唆がみつかる。

・「なぜそうするのかはわかっていない」の章
「われわれはいろいろなことをしている。しかし、なぜそうするのかは、わかっていない」(アルバート・アインシュタイン)

・「絶対にへなちょこワインはありません」の章
「われわれが納得しやすいのはどちらかといえば、一般的に言って、他人が教えてくれる理屈よりも、自分自身で見つけ出した理屈の方だ。」」

・「最高の価値と「思った」ものを買う」の章
顧客は本当に文字通りの「最高の価値(お買い得)」を買っているのだろうか。それとも顧客自身が「最高の価値」と思ったものを買っているのだろうか?

お客はどの店が一番安くて良質かを世界のすべての店舗と比較して一番を探した結果買っているのではなく、広告を見た結果、欲しい物が明確になると同時に、それは自分で選んだと思い込みながら買う。そのプロセスをうまく促進すれば、もっと売れる。

そして、そういったマーケット観を持つ著者は、効果的な広告を以下のように考えているようだ。

■効果的な広告は誰に対して発信するかではなく、何を発信するか

・「単純な変化を加えるだけで奇跡が起こる」の章
「だれに対して発信するかではなく、何を発信するか、それが勝負だ」「広告の対象を間違えたために失敗した、などという広告主に、私はこれまでお目にかかったことがない。」

・「本当に思えるウソの力」の章
ミュロンの「円盤を投げる人」は投げる瞬間の迫力のあるすばらしい造形美を見せてくれている。ただし、このフォームを取るとすれば、どんな選手でも投げられる距離はせいぜい数メートルに終わってしまうだろう」

・「自分自身にカメラを向けない」の章
「ジャッククストーの天才的才能はどんな場合にも、そのカメラを海底の洞穴やサメ、難破船に向けて撮影し、決して自分を被写体にしなかったことだ。」

確かに私たちは、最初に誰に対してメッセージを伝えるか、ターゲットを明確化しなければ広告は作れないと考えがちである。しかし、この本で著者が言うように、「誰に対して伝えるか」の特定は簡単なことだ。そこを間違えるプロのマーケターはほとんどいないだろう。

そして、裸で維持が難しそうなポーズで考えるロダンの彫刻を見ても、それは「考える人」というメッセージとして十分伝わっている。現実的ではないなどと文句はつかない。売りたいものをそのまま写した広告、「自分にカメラを向けた」広告表現はうるさく感じられる。そういうことを著者はウィットに富むコラムに仕立てて、考えるきっかけを作ってくれる。

現代のマーケットで受け入れられる広告とは何か。「何を」の部分について発想の元になるコラムが続いていく。明確な回答は期待してはいけない本ではある。帯に書かれた「米国ではアドマンやマーケッターが仕事で壁にぶつかった時に読んでいます」という推薦文の効果に期待する人にはオススメの良書。軽い。

評価:★★☆☆☆

Posted by daiya at 23:59 | Comments (0) | TrackBack

2003年10月09日

考具―考えるための道具、持っていますか?

・考具―考えるための道具、持っていますか?
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考えるための脳内ノウハウ=「考具」を紹介した本。著者は博報堂コーポレートコミュニケーション局の企画マン。

「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」
(「アイデアのつくり方」ジェームズ・ウェブ・ヤング著)

日常にあるものの中から、仕事の種を発見することの大切さを教えられる。どうやったら当たり前の毎日から、ひらめきを導き出すことができるだろうか。この本で考具として紹介されるのは、たとえば、こんなノウハウだ。

「カラーバス」
朝起きたら、今日のカラーを決める。通勤から仕事中、昼食の店や取引先などあらゆるシーンで、その色の物を探して見る。写真を撮影して並べてみる。

「マンダラート」
正方形を8つの升目に区切って、中央にテーマとなるものを書く。周囲のマスに連想されるものを埋めていく。次は周囲のマスに入れたものを中心にして別の正方形を埋めていく。

どれも、簡単で、その気になれば誰でもできるノウハウばかり。著者曰く発想を広げるには、自己にかかる「ちょっとした強制力」がポイントになると述べている。カラーバスで言えばそれは「その色のものをみつけないといけない」であるし、マンダラートなら「残りのマスを埋めなければいけない」ということだ。

私も先輩に以前教わったことがある。それは、「会議のときにホワイトボードに箇条書きしながら、アイデア出しをするときには、最初に箇条冒頭の「・」や連番を2,3個書いておけ。その方がアイデアが出やすいから」というノウハウだった。実際、この方法も「先に作ってしまった枠を埋めないと形がつかない」という強制力を活かしている。

オンラインでユーザ投稿の記事によって、世界最大の百科事典を作ろうとする試みであるWikipediaは、項目ページだけが先にあって定義がかかれていない空白ページをユーザが書いていく。何かの定義をしようとすると、別の項目の定義を参照せざるを得ないから、自然と別の空のページにも定義を埋めたくなってしまう。

・Wikipedia日本語版
http://ja.wikipedia.org/

情報系の言葉を使えば、空白や間(マ)にはそれを埋めさせようとする「アフォーダンス」があるってことになるのかな。ビジネスのチームでも、基本はデキル人なんだけど、どこか抜けた人って言うのがいて、周囲がその空白を補い、全体としてはデキル人ひとりで全部やってしまうよりも、うまく行っているケースってよく見る気がする。

埋めなくてはいけないマスを自然に発生させる考具、この本にはほかにもたくさん紹介されている。企画系の仕事が多い私には、参考になる。

(そしてこのBlogも毎日更新しているのは左上のカレンダーの日付リンクを毎日埋めたいからという、ちょっとした強制力のおかげだったりもする)。

評価:★★☆☆☆
(ちなみにこのBlogの本の評価は平均が2点になるよう意識しています。詳細

Posted by daiya at 23:36 | Comments (0)

2003年10月08日

発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法

・発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法
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世界でもっとも有名な工業デザインの会社IDEOの、創業メンバーが書いたイノベーションの方法論の書。IDEOというと、コンピュータ分野では、アップルのiMacやマイクロソフトのマウス、PDAのパームをデザインした企業として知られている(これらを同じ企業が手がけていると言うこと自体驚きであるが)。

この本はIDEOの発想する力を、敢えてエッセンスに体系化せず、イノベーションが起きた場面を、現場の視点から、IDEOの日常の事例として語るスタイルを取っている。その事例の数は100を軽く超える。彼らにとってイノベーションは日常なのだ。ホットチームを組織し、刺激を与え合い、チームの問題を短い期日で解決してしまう。しかも、そのプロセスは軽やかで楽しそうに見える。

この本を手にして一番気になったのが、IDEOでは、ブレインストーミングのプロセスをどうしているか、方法論はあるのか、ということだった。それは本の前半で答えが紹介されていた。

■よりよいブレインストーミングのための7つの秘訣

1 焦点を明確にする
2 遊び心のあるルール
3 アイデアを数える
4 力を蓄積し、ジャンプする
5 場所は記憶を呼び覚ます
6 精神の筋肉をストレッチする
7 身体を使う

■ブレインストーミングを台無しにする6つの落とし穴

1 上司が最初に発言する
2 全員に必ず順番がまわってくる
3 エキスパート以外立入禁止
4 社外で行う
5 ばかげたものを否定する
6 すべてを書きとめる

うん、これらはまあ納得だろう。が、どれも特別なルールと言うわけでないと思った。他のノウハウ本でも見ることができそうなリストだ。

答えは、方法論ではなかったようだ。回数なのだ。

アーサーアンダーセンの調査によると、70%以上のビジネスマンが自分の組織でブレインストーミングをしていると答えている。だが、ブレインストーミングを行っていると答えた76%が、回数は多くても月一回だと認めている。そして、IDEOでは「ほぼ宗教みたいなもので、ほぼ毎日、礼拝のように」行われているというのだ。

クリエイティビティというのは、日常が生むものであって、そのための習慣や雰囲気、空間を組織は持たなければいけないのだなと読了して思った。

この本は100点以上のカラー写真を使われており、眺めているだけでも発想を刺激される。ひたすら語られる発想成功の事例を読み続けると、まるでIDEOでインターンシップを体験してきたかのような気分になる。そして、なにかを始めてみたくなる。デザインに限らずプロデュースの仕事に関わるすべてのビジネスマンに強くおすすめ。

評価:★★★☆☆

Posted by daiya at 03:32 | Comments (0) | TrackBack