2003年12月07日

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・情報検索のスキル―未知の問題をどう解くか 中公新書
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「検索」といっても、GoogleやYAHOO!の使い方の本ではなく、もっと広い意味での情報検索に関する考察の本。中公新書だし表紙も題名も地味。関西から帰る新幹線の車中で読む勉強本として買った。古典的な情報検索の心構え的な話だろうと、たかをくくって読み始めたら、いきなり冒頭の「ブルックスの方程式」の節からグイグイ引き込まれ、東京に着く頃には読みきって大満足。東京駅で隣の人に情報論を語りたくなって困った(笑)。

情報探索や問題解決のモデルが多数紹介されているのが特徴である。幾つか紹介してみる。詳細な解説が事例も豊富に使って、本の中では語られている。

■ブルックスの方程式

私たちは誰かと話をするとき、情報のギブ・アンド・テイクを意識したりする。一般的には、情報をもらうことで知識が増える、と考えがちだ。「情報の蓄積」だとか、「知識がひとつ増えた」、などという言い方をする。情報や知識はアタマの中に、足し算で追加できるもの、と考えることが多い。

しかし、この本では冒頭で次のような情報の定義を紹介して論を始めている。

情報とは「メッセージの受け手の知識に変化を及ぼすモノ」である。

これは先日紹介した情報デザイナーのリチャード・S・ワーマンが「それは情報ではない」というときの意味に近い。シャノン、ウィーバーによる1984年の論文「コミュニケーションの数学的理論」の中で、「情報とは受け手が「不確かなものを削減する」ものである」とした、定義にも似ている。

受け手の知識構造に変化を与えるものこそ情報なのだ。そして、情報学者ブルックスはその影響を数学的な方程式として説明した。知識は単なる足し算ではない。情報のやりとりとは、方程式の右辺(情報)と左辺(受けての知識構造)が影響しあう、もっとダイナミックなプロセスなのだ。
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日常の感性とこの方程式はマッチする。今の私の知識を変化させてくれない情報は役に立たないという簡単な話だ。

■バンデューラの多重ゴールモデル

著者があとがきで強く影響を受けたと告白した、学習心理学者バンデューラの社会的認知理論、多重ゴールモデルの話も興味深い。引用してみる。


つまり人間の日常行動は、(1)未来の望ましい出来事(遠隔ゴール)を心に描き、(2)個々の行動の成果を評価する基準(直近ゴール)を設定して、それを実現させる可能性の高い行動を起こすことで生じている

つまり人は何かをするとき、大きな目的とそれに向かう、幾つもの小さな目標を立てるということだ。そして小さな目標達成のために現実の行動を起こす。このモデルが物理現象や一般的な社会現象と異なるのは、過去が現在に、ではなく、未来が現在に影響していることにある。そして終始一貫して同じ目的のために行動しているのではなく、とりあえずは目の前の行動に必要な情報を探している。

■クールトーの情報探索プロセスモデル

クールトーの情報探索モデルは情報探索が進むにつれての、感情の動きを意識しているところが面白い。自己効力感(モチベーションやインセンティブのこと)が、情報探索や問題解決の成功に深く関与していることがこの本では繰り返し語られる。私たちは機械ではないから、効率よく作業を進めるには、心理面をうまく制御する必要がある。

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・Information Searching Process(Carol C. Kuhlthau)
http://www.ils.unc.edu/tangr/albanycourses/602fa00/kuhlthau_files/v3_document.htm

■ウィルソンの情報探索モデル

情報学者のエリスが考え、同僚のウィルソンが8段階のフローモデルにした情報探索モデルは、私たちがネットを使って情報を探したり、問題解決を行うのに非常に近いモデルと思った。

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・ウィルソン教授のサイト
http://informationr.net/tdw/

著者は、この本で、機械的な情報処理ではなく、目的や感情を持ち、特定の文脈に生活している生身の人間の情報探索モデルを研究対象とし、立論している。各プロセスを支援する情報アプリケーションやWebサイトは、こうした生身の人間を総合的に、支援する設計になっている必要があるのだなと勉強になる。

例えば、現状の検索エンジンは、ユーザが現在どのプロセスにいるか、どんな感情を持っているか、過去に何を調べてきたかをまるで反映していない。何度同じキーワードを入れても同じ検索結果が出るということは、当たり前のように感じてしまっているが、よく考えたら変である。知識のある誰かに同じ質問を繰り返ししたら、生身の相手は、普通は別の答えや拡張した答えを返してくれるはずなのだ。

生身の人間の情報探索を支援するには、こんなアプリケーションが求められているのではないだろうか?。

・検索すればするほどヤル気がでてくる検索エンジン(結果にたまにジョークも入る)
・調べれば調べるほどあと少しで終わりそうだと分かる検索エンジン
・送受信すると気持ちのいい、気分が爽快になるメールソフト
・びっしり書き込まれると、忙しさよりも充実度を感じさせるスケジュールソフト
・知識の量に応じて、適切な用語で説明してくれるヘルプファイル

・参考:情報と知識の設計者が持つべき情報と知識
http://sentan.nikkeibp.co.jp/mt/20031202-01.htm
この記事とだいぶ重なりますが、考えをまとめたものを先日書きました。

ネットからは一歩離れて、普遍的な情報探索や問題解決を考えたい人に非常におすすめ。

参考URL:
・THE CONCEPT OF INFORMATION
http://www.capurro.de/infoconcept.html
ここに紹介される情報学者たちの理論も含めて最新の議論が読める。

評価:★★★☆☆

#なんでこんなことを最近考えているのかと言うと、会社で提供しているこの情報サービスをどう進化させていけるかを議論しているからです。4im.netについても、ご意見ご感想求む。

・マーケターのための発想支援サイト4im.net
http://beta.4im.net/index.html


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Posted by daiya at 2003年12月07日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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