2007年11月11日

俺たちのガンダム・ビジネス

・俺たちのガンダム・ビジネス
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ガンダムのプラモデルはいかにして生まれたのか。

30代から40代でガンプラファンならば、懐かしいエピソードとカラー写真も満載でページをめくるのが本当に楽しい本である。バンダイ模型の元社員で、ガンプラブームの仕掛け人と設計者の二人が、ガンプラ絶頂の栄光の日々を振り返る。

以前にも書いたが、私も小学校時代にかなりのガンプラ・ファンだった。

・ガンダム・モデル進化論
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003091.html
この本はデータブックとしてもよかった。

・機動戦士ガンダム THE ORIGIN、MGアッガイ、ターゲット イン サイト
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004854.html
そして今年の正月にはアッガイをつくった。

テレビ放送の「機動戦士ガンダム」は当初は不人気だったことはよく知られている。しかし、実際の番組を見てヒットの可能性を予感した二人は、当時は競合他社がおさえていた版権の獲得に乗り出し成功する。半信半疑の設計開発。そして視聴率低迷で番組打ち切りになった半年後にガンプラの第1弾が発売された。当時キャラクターものとして異例の144分の1、100分の1という統一スケールを採用した。

「万人向け」にとらわれず、投書や電話をしてくるマニアの意見を丁寧に聞いて、短期間で製品にフィードバックする。たとえば足首が動かなかったザクを出荷分のモデルでは動くようにする。当初はなかったビームサーベルのおまけをつけるなど、マイナーチェンジにもこだわった。

ファンの熱い支持により、それまでの業界の常識では考えられないほどの大ヒットとなり、現在までにシリーズは900点に及ぶモデルを発売してきた。世界的に見てもプラモデルのここまでのヒットは例がないようである。

「好きな仕事をしているからヒット商品が生まれるのではない。その仕事を好きになるほど熱中しているからこそヒット商品は生まれるのである。」その後のビジネスで経営者として成功を収めた著者の二人は、当時を振り返って、そう成功哲学を総括している。

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2007年10月14日

統計でウソをつく法

・統計でウソをつく法
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「この本は統計を使って人をだます方法についての入門書のようなものである。どちらかといえば、サギ師のための手引書のようなものであるが」とまえがきにあるように、統計にだまされないために、だます方法を教えた本。原著は1954年出版、邦訳は1968年出版だから半世紀のロングセラー。

「統計というものは、その基礎は数学的なものであるが、科学であると同時に多分に技術でもあるというのが、本当のところである。」。たとえば「平均」には平均値(算術平均)、中央値(中位数)、最頻値(並み数)の3種類がある。どれも「平均」として使うことができるが、大きく数字が異なることがあるという基本や、グラフ化することで差異を拡大して印象づけるテクニックなど、実例をたくさん使って説明している。

「米西戦争の間、米軍の死亡率は1000人につき9人であった。一方、同期間のニューヨーク市における死亡率は、1000人につき16人であった。さて、米海軍の徴募官たちは、最近、この数字を使って、海軍に入隊した方が安全だと宣伝していた。」

軍隊には頑丈な成人男子しかいないが、都市部には老人や赤ん坊がたくさんいる。なにもなくても都市部では人が亡くなっている。

「今日では、次のような事柄のどの二つをとってみても、その間にプラスの相関関係を認めることは容易にできるのである。それらはすなわち、大学生の数、精神病院の収容者数、タバコの消費量、心臓病患者数、義歯の生産量、カリフォルニア州の学校教師の給料、ネバダの賭博場の儲け。」

風が吹くと桶屋が儲かる式の三題噺がいくつも作れそうだ。

統計を見るときには

1 誰がそういっているのか?
2 どういう方法でわかったのか?
3 足りないデータはないか?
4 いってることが違ってやしないか
5 意味があるかしら?

というポイントに気をつけよとまとめられている。著者が取り上げた事例は、新聞やテレビ、政府や大学が発表する数字が多かった。権威の発表する数字を鵜呑みにしてはいけないわけだ。

ところで最近、統計で疑問を持ったのが、新聞社発表の、この記事である。

・大学発VBの経営厳しく、55%が経常赤字・06年度日経調査
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20071010AT1C0900409102007.html

「 大学発ベンチャー企業の経営が厳しさを増している。日本経済新聞社が9日まとめた大学発ベンチャー調査では、回答企業の55%が2006年度の経常損益が赤字で、7%は「3年内に会社を売却する可能性がある」と回答した。政府が2001年に1000社育成計画を打ち出した大学発ベンチャーの数は1500社を超えたが、社員や営業ノウハウの不足から事業を採算に乗せられない姿が浮き彫りになった。(詳細を10日付日経産業新聞に)」

詳細な記事を読んでいないので恐縮だが(これは同じ発信者による要約記事)、この記事は統計を使ったミスリードではないか。

一般的に大学発ベンチャーは技術開発系であろう。営業系と違って初年度は赤字になるのがふつうである。また、そうしたベンチャーの多くは大企業への「売却」が目標である。「3年以内に売却」見込みがある企業の中には、成功が見えている会社も含まれているのではないか。さらに言えば、55%が赤字を裏返せば、45%もの企業が黒字なのである。ベンチャーキャピタルの投資成績として考えたら、悪くない数字であろう。そもそもベンチャー市場は多産多死、競争淘汰の中から、少数の大きな成功者がでてくる世界である。平均成績が悪いからといって、全体が悪いと言うことは言えないと思う。

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2007年09月27日

スタバではグランデを買え! ―価格と生活の経済学

・スタバではグランデを買え! ―価格と生活の経済学
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「日本でふつうに暮らしているような生活者が、自分なりに楽しく生活するためには、経済のしくみをどう理解したらいいのか」を、経済学者がスターバックスのメニュー体系のような、身近な事例を使って解説する本。

ソフトバンクに携帯を乗り換えたばかりの私は、第4章の「携帯電話の料金はなぜ、やたらに複雑なのか」と最終章のケーススタディが、特に面白かった。店頭では絶対に教えてもらえなさそうな携帯電話各社のサービスモデルの背景が書かれている。

私の携帯乗換えの直接の決め手は、特定のソフトバンク利用の家族間が無料の割引になるからだった。トータルで見ると家族や親族間の通話がほとんどだったので、一族郎党で一斉に切り替えた。なぜソフトバンクはこれが実現できて、ドコモはできないのか。それはソフトバンクのシェアが低いから、大半のユーザの通話は、他社携帯との有料通話になるからだ、と著者は指摘する。シェアが高いと実現しにくい割引というものが存在するわけだ。規模の経済を逆手に取ったような戦略なわけで、後発参入者の攻め方の例として興味深いと思った。

携帯電話の料金体系が異様に複雑になった原因は、利用者が料金プランを変更する際の取引コストが高くなると、利用者は料金プランを最適化せずに放置するので、携帯電話会社にとって利益をもたらしやすなるから、らしい。取引コストとはすなわち情報を調べる手間のことだ。

この本には多数のビジネスのしくみが紹介されているが、ほとんどは取引コスト、情報コストが最終価格差の原因になっている。消費者はしくみを知っていれば得をする、というケースが増えているということでもある。

あとがきでは「つまり、他人と同じ好みや行動パターンの人は、産業の技術進歩や経済のしくみの変化によって、取引コストを節約しやすいのです。この点だけをみると、他人と異なる好みや行動パターンの人は、取引コストの節約の面で損をする可能性があります。」と著者は書いている。

特に人と異なるパターンの人ほど、経済のしくみを勉強する価値があるということである。

サービスの料金設計を考えるビジネスマンにもおすすめ。

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2007年08月28日

美徳の経営

・美徳の経営
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知識経営論の生みの親の野中郁次郎教授とナレッジマネジメントの大家 紺野登教授の共著。このペアの著書では他に「知識経営のすすめ」などがある。

・知識経営のすすめ―ナレッジマネジメントとその時代
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001734.html

「分析的アプローチでは、戦略は限定された事実や過去の事実に基づかざるをえないし、また客観的である反面、どうしても同質的になるために、不確実で複雑な環境では、他社との差別化が生まれにくくなる。もちろん競争上の脅威を分析し、それにしたがって内部資源の確保を行うことは重要なことではあるが、それだけでは戦略は決定されない。一方で、サプライズのあるような独自性が顧客からは求められている。そういう多元的な、創造性が求められる戦略の時代にわれわれはいる。」

著者は知識経営のエキスパート。現場経験を持たず分析的な形式知に偏重しているMBA流の経営はもはや時代遅れであり、これからは人を動かす力としての美徳を重視した経営の時代だと宣言する。

「もはや論理分析的な判断や意思決定ツールだけでは成り立っていかないのである。これからの社会や経済、企業の未来を読み解く必要がある。そのためには将来的な返還に対する感受性(センスメーキング能力)や、未来に対する知的方法論あるいは価値をデザインする「綜合力」を持たねばならない。知識社会・経済に基礎をおく知識経営へと時代はすでに変化しつつある。知識経営とは人間を基点に置いた経営である。知識を起点にした経営では、成員の「志」を具現化するような新たな知の仕組みや組織が要請されるのである。」

美徳とは「共通善(Common Good)を志向する卓越性(Excellence)の追求」と定義されている。日本的経営の礎を築いた本田宗一郎や松下幸之助の目指したのも美徳の経営であったし、貧者のための金融に徹して成功しているグラミン銀行も美徳の追求である。その追求のために知や力を賢く使う「賢慮型リーダー」が最終的には勝つという、経営の王道を説いている。

「賢慮型リーダー」の要素としては、次の6つが挙げられている。

(1)善悪の判断基準を持つ能力
(2)他者とコンテクストを共有して共通感覚を醸成する能力
(3)コンテクスト(特殊)の特質を察知する能力
(4)コンテクスト(特殊)を言語・観念(普遍)で再構成する能力
(5)概念を共通善(判断基準)に向かってあらゆる手段を巧みに使って実演する能力
(6)賢慮を育成する能力

哲学なき経営は破綻する時代になったことは、企業の不祥事事件を見れば明らかだ。好調な企業をみても、たとえばグーグルなら技術者の理想を掲げた組織風土、アップルならデザインの重視、など、売り上げや利益以外の価値に最適化する成功企業が多い。経営学は経営哲学であるべきで、経営者は哲学を持つべき時代になった。いや、そうなるべきなのだ、もともと。そう確信した、書いた人にも、書かれていることにも志のある本だった。

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2007年06月19日

経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには

・経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには
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とにかく面白い視点が満載でいっきに読めた。

経済学を使って、世の中の仕組みをひもとく。副題の「お金がない人を助けるには」だけではなくさまざまな話題がある。

・16歳の時の身長が現在の賃金に影響している「身長プレミアム」の理由
・重役の美男美女度が高いほど企業の業績がよいのはなぜか
・「イイ男は結婚している」のか、「結婚してイイ男になる」のか
・プロスポーツチームは強ければ強いほど儲かるのか?
・野球の勝敗における監督の力ってどれほどあるのか?

などなど。

気になる俗説の真偽究明や、意外な事実の深追いという導入が多いので、興味を持って読みやすい。そして、ちゃんと最後は経済学的な説明をつけて読者を納得させる。

年功賃金と成果主義について真正面から考える部分が特に個人的には勉強になった。「年功賃金はなぜ存在するのか」について、著者は4つの仮説があるという。

1 人的資本理論
 「勤続年数とともに技能が上がっていくため、それに応じて賃金もあがっていく」

2 インセンティブ理論
 「若い時は生産性以下、年をとると生産性以上の賃金制度のもとで、労働者がまじめに働かなかった場合には解雇するという仕組みにして、労働者の規律を高める」

3 適職探し理論
 「企業のなかで従業員は、自分の生産性を発揮できるような職を見つけていくのであり、その過程で生産性が上がっていく」

4 生計費理論
 「生活費が年とともに上がっていくので、それに応じて賃金を支払う」

5 習慣形成理論
 「人々は賃金の増加を喜ぶ」「生活習慣に慣れてしまって、その後生活水準を下げることがつらいことを知っているから、生活水準を徐々に上げていくことを選んでいる」

この年功賃金は実は世界共通の傾向でもあり、日本企業だけの制度ではない。労働者にアンケートを取ってみると、賃金がだんだん上がっていく年功賃金が好まれたという報告もある。総合的に考えると多くの職場で年功型賃金が与える満足度はとても大きなもので、年功賃金を単純に廃止すれば労働意欲を大きく損ねることになるという分析があった。

これに対して、成果主義が機能するケースとして、

1 どのような仕事のやり方をすれば成果があがるかについて企業がよくわからない場合2 従業員の仕事ぶりを評価することが難しいが成果の評価が正確にできる場合

の2つがあげられている。成果主義を見直す良い材料になるパート。

この本の面白さは「ヤバい経済学」に似ている。経済学だが、需要と供給の話はほとんどでてこなくて、インセンティブや人々の生活思考を研究の対象にしている。新書だが単行本なみに内容が詰まっている。

・ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004611.html

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2007年05月07日

未来を変える80人 僕らが出会った社会起業家

・未来を変える80人 僕らが出会った社会起業家
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「自覚と決意をもった人々が集まれば、どんな小さなグループでも世界を変えられる。それを疑ってはならない。それだけは絶対に信じなくてはならない。」マーガレット・ミード。

この本の著者である若い二人は、2003年6月、440日間に渡る世界旅行に出発した。「自覚と決意を持った」を訪ねるために。そして、彼らは113人の社会起業家と対面し、そこから選り抜き80人のプロフィール紹介とインタビューを書籍にまとめた。

バングラデシュ人の経済学者ムハマド・ユヌスは貧者のための銀行、グラミン銀行を設立した。「多くの場合、貧困の原因は、個人の問題や、怠慢、能力不足ではなく、わずかな元手すら手にできない状況にある」というのがユヌスの経済学者としての持論である。グラミン銀行は、貧困にあえぐ人たちに低利で小額の融資を行い、自主性に任せた返済の約束をしてもらう。担保も保証も取ることがなかった。返済が滞っても取り立てはしない。
彼の銀行は、そんな性善説の仕組みがうまく機能するはずがないという金融界の常識を覆した。貧者を救う助け合いという趣旨を深く理解した借り手たちは、融資をもとに生活を立て直し、責任を持って期限内に返済をした。返済率は一般行を上回り、銀行として大きな利益さえ出してしまった。ユヌスは1千2百万人の生活を救うと同時に、4万6千600の支店を持つ一大勢力に成長させた。ユヌスはこうした成功を背景に、次は安価な携帯電話と自家発電システムを貧困層に提供しようとしている。

フランス人のトリスタン・ルコントはフェアトレードのリーダーだ。不利な立場の小規模なコーヒー生産者たちと契約して、コーヒーを販売した。国連の規定する取引条件を守り、従業員の教育、住居、医療のための費用を上乗せした「正当な価格」で同社のアルタエコ・コーヒーは販売される。製品ラベルには「ようこそ、消費が行動につながる時代へ」と書かれている。

良き意図を持つアルタエコの仕組みは、クチコミが機能するので、巨額の広告費が不要であった。意外にも最終価格は、競合製品と比較しても高くならなかった。何より同社のコーヒーは質が高かった。製品として魅力的であった。ルコントは「幸せな生産者が美味しい食材をつくる」と確信している。

生産性を維持しつつ、環境にやさしい農法を広める合鴨農法、地球にやさしいハイブリッド車両、企業の社会性を指標に投資する社会責任投資ファンド、自然にかえるプラスチック素材の開発など、80人の社会起業家たちは社会性と市場性を同時に満たすビジネスを創造し、人々を幸福にしながら、大きな利益を出している。

今まで、社会起業家は特殊な事例というイメージがあったが、読み進めるうち、これが企業のあるべき姿なんじゃないか、と思える話がいっぱいあった。需要と供給のメカニズムを最適化する利益追求のみの企業よりも、そこで働く従業員や経済基盤としての社会の未来のことまで考えた持続可能な企業が、最終的に勝つのは、当たり前なのでもある。

インターネットによって社会や経済の仕組みは一層透明になってきている。製品も会社も市場のグローバル化によって選択肢は増える。消費者や従業員に選ばれるサービスをつくるものが勝つという新ルールでの、最先端の勝ち組みがこの80人なのだろうなと思った。

日本人も何人か取りあげられている。

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2007年04月10日

1万円の世界地図

・1万円の世界地図
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日本の格差、世界の格差を多数の統計データを使って解説する。世界と国内の経済状況を把握するための、とても有益な情報源。

国際比較というと気になるのは購買力平価である。マクドナルドのビックマックの価格を比較する、有名なビックマック指数というのがある。日本のビックマックは280円、米国では3.1ドル。この本の執筆時点でビックマック指数で為替レートをつくると、1ドル=90.3円になる。ビックマックで経済をはかると、東京は一人当たりの可処分所得でトップになる。

しかし、より広い商品・サービス(2500品目)で比較した場合、日本は10位に後退する。世界の可処分所得1位はスイスのチューリヒ、最下位がインドのデリーだそうで、そこには16倍の格差がある。住宅や教育などの支出も大きな差がある。これらの国々でのお小遣いとしての1万円の使い手は、何十倍も違いそうである。

国際間と同時に国内にも格差はある。所得の分配における不平等さを表す指数「ジニ係数」が紹介されている。発展途上国の多くはジニ係数が極めて高い。この係数は0〜1の間の値をとる。1は一人がすべての富を独占している状態で、0は全員が平等な状態だ。1位のナミビアは0.7を超える。0.2〜0.3が普通の所得分布らしい。0.3を超えると格差の大きい社会に分類される。現在の日本は0.314。まさに格差社会に突入していることが国際比較でも明確になった。

世界のGNI(国民総所得)を見ると日本は第2位の経済大国である。しかし国民一人当たりのGNIを出すと11位に転落する。日本人は勤勉で労働時間は国際比較でも長い。にもかかわらず、一人当たりGNIが低いということは、労働生産性が低いということである。OECDの労働生産性を調べたデータでは加盟30カ国のうち20位に位置する。

ホワイトカラーの生産効率を高めるIT化は日本は世界のトップクラスである。研究者も数は多くて世界第3位。研究費もそこそこある。しかし、実績評価のレベルでは日本の研究者は自慢できる状態にない。つまり、恵まれた労働環境にあり、いっぱい働いていているのに、生産性が悪いのである。

だらだら働いている日本の会社、最適化されていない経済構造が、日本の伸び悩みの最大の原因であると、データで再認識することになった。

この格差データブックを読んで、可能性を感じるのが今、大人気の仮想世界セカンドライフである。セカンドライフでは、世界中のプレイヤーが仮想通貨リンデンドルでバーチャルな不動産や動産を売り買いしている。労働して稼ぐこともできる。そしてリンデンドルを実世界のドルや円に交換するサービスがある。

考えてみるに、日本人の1万円が途上国の数十万円に相当するのであれば、仮想世界内での労働は、圧倒的に途上国のプレイヤーに有利である。セカンドライフで必死に働いて一万円を得ても日本ではお小遣いに過ぎないが、途上国のプレイヤーにとってそれは一か月分の生活費に相当してしまうのだ。これからは仮想世界へ出稼ぎという発想も生まれてくるかもしれない。

逆に考えれば、日本のプレイヤーは手持ちの1万円をセカンドライフへ投資することで、数十倍の労働力(ゲーム内の、だが)を手に入れることができるのだとも言える。アウトソースの場としてのインターネットという発想は、仮想世界でこれから盛んになったりするかもしれない。

しかし、結局のところ、このモデルでも途上国は出稼ぎができて助かるが、手持ちの金額の初期設定が多い先進国プレイヤーが最終的には儲かるという格差拡大の図式は変わらないわけで、世界の格差の解消にはつながっていかない気もする。

セカンドライフに限らず、インターネットこそ、世界の格差解決の手段になりうると思うのだが、そのためには市場メカニズム以外の発想が求められているのだなあ。この本にも何項目がでてきたが、生活の質、幸福感、価値観といった要素がカギを握っているような気もするのだが。

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2007年04月02日

なぜ株式投資はもうからないのか

・なぜ株式投資はもうからないのか
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団塊の世代の大量退職やITブームの再燃で株式投資に手を出す人は増えている。「まだ株をやっていないってヤバくないですか?」と証券会社出身の著者にマジメ顔で話す人がいたらしい。株で大損するほうがヤバいですよと著者は冷静に答える。

一般人の株式投資が当たり前のイメージがある米国でも、株式投資に充てられる個人の金融資産は3割だそうだ。7割はより安全な手法(預金、債券、投信)で運用されている。世界的に見ても、個人資産の運用で株式投資が3割を超えるのは高すぎる。

3割の資産を必死の株式投資で10%増やすことに成功しても全体では3%増加するにすぎない。国債や社債の購入でも年率1.5%〜2%程度の利回りはあるので、株式投資に一生懸命になるのは考えものであるという。

そもそも一般投資家と機関投資家では情報の格差があり、個別銘柄の発掘方式で一般投資家が大儲けするのはかなり大変であると著者は繰り返し語っている。何がどのように違うのか、証券会社や機関投資家の優位性の中身が説明されている。

「以上、さまざまな形で一般投資家の不利益を見てきたが、「証券村」は、証券会社とプロの投資家だけが住むことを想定されていなかった。ゆえにどうしても割を食う存在になっている。」

「負けてくれる人がいないと市場は活性化されない。業界関係者は、一般投資家に株式投資は大して儲からないものだと見破られることが実は一番怖いのである。」

「まず、根本的な話になるが、毎回推奨株が当たる営業マンが存在するなら、そんな人が営業をし続けるわけがない。さっさと自分で株式投資を始めるに違いない。」

コンピュータやインターネット使った情報処理、情報共有によって、一般投資家が機関投資家との情報格差を埋める可能性があるという、著者のアイデアが面白い。たとえば一般投資家は感情に左右されて非合理的な取引をして失敗することが多い。自分や他人の投資行動を分析して、冷静なアドバイスを言うソフトウェアがあれば効果的かもしれないとのこと。

機関投資家はどのくらいのリスクでどのくらいのリターンを得るかをあらかじめ決めて行動している。だから損切りも即座に決断する。一般投資家は、リスクもリターンも設定していないので、毎日の値動きに一喜一憂し、泥沼にはまるのである。

一般投資家の不利を知った上で、あえて投資をするならば、投資ファンド追随型、TOB追随型などが大儲けはできないが確実性は高いだろうと述べられている。せいぜい損をしないレベルの投資が現実であるということか。

株式投資に夢中になるリスクとして、他のことをもっと考えるべきなのに株のことばかり考えてしまう機会損失ってかなり大きいんじゃないかと思う。本来は自社株を買って業績向上に夢中になるのが本筋だと思う。

株式投資の情報というのは、共有メリットが小さい上に、広く共有されると無効になる。本当に儲かっている人は秘密を明かさない。市場には他者の追随を誘うことで儲けようとする扇動者がいる。アマチュアがうかつに手を出しても厳しい戦いになるというのは当然なのだろう。

近年の株式投資ブーム。これが続きそうという見込みはある。やはり、起業して株を発行する側に回るのが一番、可能性があるんじゃないかなあ、と思って自分の会社をがんばっている私である。

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2007年03月15日

千年、働いてきました―老舗企業大国ニッポン

・千年、働いてきました―老舗企業大国ニッポン
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意外な事実がたくさんあって、とても面白い経営学の本。日本版エクセレントカンパニーとは何かがテーマである。

日本には創業100年を超える老舗企業が10万社以上あるのだという。世界最古の会社は日本にある。西暦587年創業で1400年の歴史を誇る金剛組という建設会社だ。寺や神社の建築と修復を請け負う会社で飛鳥時代から今日まで存続している。この本でも取材されていたが、検索したらホームページまで見つかった。

・世界最古の企業 金剛組
http://www.kongogumi.co.jp/

100年以上続く店舗や企業はお隣韓国には1社もなく、中国やその他のアジア諸国にもほとんどない。ヨーロッパでさえ老舗の数は日本に及ばず、最古の企業の歴史は600年程度である。日本の老舗企業の多さは世界で飛びぬけた現象であると書かれている。

ただ歴史が長いというだけでなく、そうした老舗の中には、携帯電話の開発やバイオテクノロジーの研究へ転進して成功し、現代でも成長を続けている企業がある。事業の継続という観点からみたとき、超優良企業は日本に集結している。

この本では著者が多数の老舗企業の経営者にインタビューしてまわり、老舗の歴史や経営哲学をまとめている。共通しているのは以下の5つのポイントであった。

1 同族企業だが外部の優秀な人材の登用を躊躇しない
2 時代の変化に対応して事業内容は変化させてきた
3 創業以来のコア家業は譲らない
4 分をわきまえ好景気でも投機をしない
5 「町人の正義」を実践してきた

1の代がわり問題について

「日本の老舗企業にも、一族経営は多いのだが、血族にさほどこだわらない融通性をあわせ持っている。たとえ長男でも、娘婿が経営者として優秀であれば跡継に選んだり、養子や赤の他人に家業を任せる場合も珍しくない」

と述べられている。そして中国や他のアジア諸国の商人文化は家族とカネしか信用しないので、優秀な人に経営を譲る発想がなかったのではないかと分析されている。これに対して日本人は長い間、国家(お上)を信頼してその庇護の元に、職人文化を発達させることができた。老舗10万社のうち4万5千件は製造業なのである。儲け主義の商人発想ではなく、職人発想であったことが、事業の長期の継承を可能にしていたと著者は述べている。

日本人の精神性と企業経営の関係を歴史的に実証しているきわめて面白い新書。

大量発生しているITベンチャー企業はどれくらい長く続くのだろうか、とふと思う。私の会社は創業7年目。今年度決算はおかげさまで黒字で好調です。70年とか700年とか続く、かなあ。

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2007年01月29日

ニッケル・アンド・ダイムド -アメリカ下流社会の現実

・ニッケル・アンド・ダイムド -アメリカ下流社会の現実
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「はたらけど はたらけど 猶わが生活楽にならざり ぢつと手を見る」 石川啄木

フリーター、ニートが社会問題になって久しいが、職を得たら幸せなゴールとも言えない現実がアメリカにはあった。働いても働いても貧しい生活から脱出できないワーキングプアという階層が近年、大きな問題として浮上している。

著名な女性コラムニストである著者は、米国の低賃金労働を体験するために、身分を隠し僅かな生活資金だけを持って、長期潜入取材を敢行した。「頂点から20%の階層」から「底辺から20%の階層」へ。時給6〜7ドルの劣悪な長時間労働の環境で、食費や医療費も切り詰めながら、土日も働く日々を体験した。

低賃金労働とはいえ職を得るのに一苦労する。性格的問題がないことを証明するために馬鹿馬鹿しい数十の質問リストに答え、従順な従業員になることを経営者にアピールしなければならない。麻薬をやっていないことを示すために、担当者の目前での尿検査まである会社もある。

単調な労働に創意工夫は期待されない。一人がちょっと頑張ると「みんながそうしろって言われちゃうでしょ」と同僚から叱られる。できる従業員は酷使されるだけ。仕事ができたからといっても1年後に時給が1ドル上がるくらいの将来しか用意されていないのだから、専門の技能を伸ばすことなど考えられはしないのだ。

最低水準の生活を維持することに精一杯な状況では、よりよい職場へ転職することもできない。貯金が無いので職探しのために仕事を休めないからだ。人間関係も職場に閉じているので天職のための情報や人脈もない。

ウェイトレス、掃除夫、スーパーの店員として会社の奴隷のように、身を粉にして働いた著者だったが、どの職業でも生活の向上など実現できなかった。安売りで有名なウォルマート(大手スーパー)の労働者の給料では、ウォルマートのシャツが買えないのである。
米国でおとな一人とこども二人の家族の生活に必要な実質的な年収は3万ドルで、それは時給にすると14ドルだそうである(これには健康保険や電話料金などを含むが娯楽の費用は入らない)。しかし、米国の労働者の60%は時給14ドル以下で働いている。ブルーカラーの労働に対して企業は前述のように6,7ドルで雇用しているわけだから。

多くの先進国では企業が負担できない費用を政府が健康保険や各種の補助金、税金の控除でカバーしているから、国民の生活は成り立っている。自助努力が原則の米国ではそれが期待できない。自力で3万ドル全部を稼ぐしか生きる道は無いのだ。「通勤用の車まで持っている健康な独身者が、額に汗して働いているにもかかわらず、自分一人の生活を維持するのさえままならないというのは、どこかが間違っている」。

著者は、自らの取材体験やそれらの職場での同僚たちの実態をレポートし、貧困から這い上がれない低賃金労働者の不幸の原因も指摘した。彼らは技能がないから、やる気がないから、低賃金労働をしているわけではないのだ。そこから抜けられない社会構造があるのである。そして貧困の再生産構造は強化され、持つものと持たざるものの格差は年々大きくなっている。

低賃金労働の多くは、いわゆる3K労働であるが、これらは中流や上流の階層が快適を味わうためのサービスである。誰かが掃除をして、誰かがお茶を運び、誰かがマーケットの棚を整理しているから、快適な消費が促進されるのである。

「私たちが持つべき正しい感情は恥だ。今では私たち自身が、ほかの人の低賃金労働に「依存している」ことを恥じる心を持つべきなのだ。誰かが生活できないほどの低賃金で働いているとしたら、たとえば、あなたがもっと安くもっと便利に食べることができるためにその人が飢えているとしたら、その人はあなたのために大きな犠牲を払っていることになる」と著者は訴える。

日本でも格差社会の問題が取り上げられているが、こうした本で、アメリカの暗い現状を知っておくことは、課題の解決に役立つかもしれない。能力主義や資本の論理は経済を最適化するものであるが、バランスを考えない施策では、人間に最適化ができないということなのかなと思った。

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2007年01月18日

ブランドの条件

・ブランドの条件
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ブランド文化論の専門家が書いたブランド入門。ルイ・ヴィトン、エルメス、シャネルについて創業から現在にいたる栄光の歴史を紐解くことで現代消費のキーワードのブランドを解題する。

ルイ・ヴィトン、エルメスをはじめ多くの高級ブランドは、起源においては顧客にフランス皇室を持つロイヤルブランドであった。ナポレオン三世の奢侈産業振興政策を背景に、ルイ・ヴィトンは貴族のドレスを鉄道輸送するための高級な木箱をつくった。それはひとつずつ手作りの特注品であり、貴族が召使いに持たせるものであった。顧客のオーラを受けてブランドは輝いた。

馬具商エルメスは自動車の時代、大量生産の時代になることを理解し、だからこそ逆にハンドクラフトを「少なく、高く、売る」、つまり「売らないことによって売る」の戦略が大切になると考えた。希少性の戦略の前提には大量の消費がある。安物、贋物が多く出まわれば、むしろ少数の本物の価値があがると考えて、過剰生産の陳腐化を避けてきた。ひたすらに永遠に変わらないものを追い求めた。

皇室のオーラと少量生産のロイヤル・ブランドの時代に革命を引き起こしたのがシャネルであった。シャネルは皇室のオーラをまったく必要としなかった。孤児であった創業者自身の成功と華やかな生活が、メディアで取り上げられ、彼女自身の姿や生き方のオーラがブランドパワーの根源となった。ココ・シャネルは晩年、ジャーナリストの取材に対して「彼女たちが私の真似をしたのは、私が素敵に見えたからよ。もし時代のなかで何かはやったものがあったとしたら、それはショートカットじゃないわ。流行したもの、それは私よ」と答えたという。

シャネルは本物主義さえ否定した。自分のデザインがそっくりコピーされることを許した。型紙を買っていった業者たちはシャネルの名前を使って自分達の服を世界中に大量に売った。デザインは機能性を重視し、流行(モード)をつくりだした。ロイヤルブランドの永遠に変わらないものの価値を否定した。

シャネルの偽者主義はイミテーション・ジュエリーを自らデザインし販売したことにも現れている。本物の宝石と偽者の宝石を混ぜて使い、ココ・シャネル自身が身に着けて見せた。だが価格は高額のままであった。これは本物の宝石だから高いのではなく、シャネルだから高いのだと言った。

そして王家の血筋よりも有名性がブランドパワーの根源となり、メディアが伝説を作り出す時代になった。モード(流行)とブランドは本来は対立するものであったが、現代はモードなブランドの時代である。ルイ・ヴィトンは「ファッショナブルであってもファッションブランドにはならない」と宣言している。貴族の贅沢がストリートに降りてきてバッグを働く女性に売っている。

女性向け高級ブランドについて名前は知っていても、それぞれがどういう位置づけや価格帯なのかは私はよく知らなかったのだが、この3社が高級御三家で、ルイ・ヴィトンとシャネルはまるで違うものだと基本がわかってまず勉強になった。

・ブランド王国スイスの秘密
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004359.html

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2007年01月17日

おまけより割引してほしい―値ごろ感の経済心理学

・おまけより割引してほしい―値ごろ感の経済心理学
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経済学の教授が書いた値ごろ感、経済心理学入門。

値ごろ感の方程式が前半のテーマである。

それは、

値ごろ感= 価値 ÷ 費用

というもの。

価値がわかりやすい商品であれば、おまけと割引では基本的に割引の方が効用が高い。

おまけ付値ごろ感= 価値(500円+100円) ÷ 費用(500円) = 1.2
割引の値ごろ感 = 価値(500円) ÷ 費用(500円-100円)  = 1.25

「つまり、同じ財源を使うとすれば、値ごろ感という視点からは、おまけよりも割引に使った方が有効であることが分かる。しかし、この簡単な値ごろ感の分数式からいくつかの重要な視点も導き出される。それは割引と同等の値ごろ感1.25を作り出すには、分子には500円×1.25=525の価値を作り出さねばならない。つまり、100円の割引に対して、125円のおまけでやっと釣り合うわけである。
 この単純な事実から、おまけをつける場合は相当なものでなければ有効でないことが分かる。そもそも割引には価格という最も明確な費用を差し引いてくれるという実感もあるし、お金が戻ってくるようなものだから、ただでさえ好ましい側面がある。

無論、効用関数の計算だけではないと思う。手数料無料の戦略や、衝動買い、ついで買いのポイントなども解説されている。値決めについて考えたい人、売り手の思惑を見抜く賢い消費者になりたい人に基本的な知識を与えてくれる本である。

値ごろ感について最近考えることがあった。

先日、地元のデパートで物産展をやっていた。ミニたい焼きという実演ブースがあった。いろいろな餡子を入れたとても小さなたい焼きである。おいしそうなので買うことにしたのだが、閉店間際だったこともあり、値引きをしてくれた。定価は1個50円である。それを10個で500円のところが350円になった。3割引である。

お金を支払い商品を受け取ると店主が「ちょっとまって、おまけもあるよー」といって、いま買ったのと同じ分量10個をおまけで追加してくれた。本来20個1000円のところを350円で買ったことになる。65%オフである。

だが、私は90%オフ以上の物凄い値ごろ感を感じた。店主の値引き+予想外のおまけの二段階サービスが、65%オフをそれ以上の効果へ増大させたのである。投売りにしても、やり方はあるものなのだなと感心した。

正月にも値ごろ感事件はあった。家族で近所のミスタードナッツへ行ったのだが店頭で福袋を売っている。キャラクターの弁当箱や手帳などのグッズがいくつか入っているそうである。お客は満員なのに、この福袋はあまり売れていなかったし、グッズだけでは買う気がしなかったのだが、売り子がぼそっと大変な事実を述べた。「ドーナツ10個の引換券も入っています。すぐでも使えます」。

福袋コーナーにはドーナツ10個の引換券について表示が無かった。ドーナッツの平均単価は100円を超える。家族で10個は簡単に消費する。どう考えてもお得なのである。3人以上で来ている場合、事実上、タダでグッズ類が手に入るようなものなのである。満員のお客たちはこの事実を知ったら、ほとんどのテーブル席の客が買っただろう。10個くらい食べているんだから。

売り子はダメ押しに「この1000円にはポイントもつきますよ」。妻はミスタードーナッツのポイントカード利用者、貯めてグッズと引き換えるのを楽しみにしていたのである。買わないわけがない。

そしてドーナッツ10個を引換券で注文してグッズを楽しめた。たいへんな値ごろ感であった。わたしたちだけが知っていて得をしているという気分が効用関数をさらに引き上げていた。帰りにもう一袋買おうか?という案まで出ていた。

現代の流通システムには販売奨励金や補助金などのさまざまなインセンティブ制度が働いているから、あの手この手の割引やおまけが店頭で展開されているから、そういうものに対して消費者は麻痺しがちである。ミニたい焼きのように割引の後におまけを提示する戦術や、ドーナツのように、一見割高だけどよく聞いてみるとお得というサプライズ感の演出が有効なのではないだろうか。

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2007年01月10日

帝国ホテル 伝統のおもてなし

・帝国ホテル 伝統のおもてなし
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「コーヒーカップと口の角度で、残量がわかる。残り少なくなればカップの角度が垂直に近くなる」

お客様のお代わりのタイミングを見計らうために帝国ホテルの従業員はそう教えられるそうである。バーテンダーはお客様がグラスを置く位置を記憶してお代わりの二杯目をその場所に置く。客室のゴミはお客様出発後1日おいてから捨てる、お客様専用金庫室には鏡を置く。電話オペレータはお客様が名乗ったら一瞬間をおいてから「○○様ですね」と確認する。

「サービスは声高にするものではない。控えめに。それが上品だと教えられてきました。「控えめ」でさりげないサービスを徹底すると上品になるということです。」

簡単な作業書以外にマニュアルは存在しないが、帝国ホテル行動基準というカードを全スタッフが携帯している。この本にはそのコピーが全文掲載されている。挨拶・清潔・身だしなみ・感謝・気配り・謙虚・知識・創意・挑戦の9項目。当たり前を積み重ねて上質なサービスを実現する。

社内には「さすが帝国ホテル推進運動」というサービス向上運動があるそうだ。社員以外のホテルハイヤー運転手、靴磨きスタッフ、氷彫刻師などの仕事も表彰されている。表彰理由になったお客様対応のエピソードが多数紹介されている。

ホテルマンの行動基準というとリッツカールトンのクレドも有名である。ザ・リッツカールトン東京は六本木の防衛庁跡地「東京ミッドタウン」に2007年3月開業予定である。7月にはザ・ペニンシュラ東京が帝国ホテルの近くで改行する。

・ザ・リッツ・カールトン東京[THE RITZ-CARLTON TOKYO]
http://www.ritzcarlton.co.jp/

・Tokyo Hotels: The Peninsula Tokyo
http://www.peninsula.com/tokyo_jp.html

・驚きより「顧客感動」〜帝国ホテル・小林社長の戦略
http://job.yomiuri.co.jp/news/jo_ne_06032419.cfm

外資系高級ホテルの進出で、帝国ホテルも厳しい競争環境におかれているはずだが、1880年創業で2005年に115周年を迎えた帝国ホテルは「アーケード」「バイキング」「ホテルウェディング」などをうみだした革新のパイオニアでもある。

「さすが帝国ホテル」で検索してみた。お客の感想がいっぱい出てきた。

・「さすが帝国ホテル」 の検索結果 約 1,350 件
http://www.google.co.jp/search?sourceid=navclient&hl=ja&ie=UTF-8&rls=GGLD,GGLD:2005-14,GGLD:ja&q=%e3%81%95%e3%81%99%e3%81%8c%e5%b8%9d%e5%9b%bd%e3%83%9b%e3%83%86%e3%83%ab

「さすが○○」と言われるブランド力でどう外資ホテルを迎え撃つかが2007年の課題のようだ。

・ホテル戦争―「外資VS老舗」業界再編の勢力地図
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004068.html

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2006年11月28日

新世代富裕層の「研究」―ネオ・リッチ攻略への戦略

・新世代富裕層の「研究」―ネオ・リッチ攻略への戦略
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金融資産1億円〜5億円の「富裕層」81万世帯のプロフィールと彼らの資産運用の考え方を徹底分析し、特に新興の「新世代富裕層」に対する金融サービスの戦略を考察した本。野村総合研究所アナリストの著。


極端にいえば、旧世代富裕層が金融機関と付き合う選択肢は「金融機関を信頼して『情緒的に依存する』」か「金融機関を信頼せずに、自分がわかる範囲のことしかしない」のどちらかである。

昔からのお金持ち層は保守的なのだ。これに対して少子高齢化による相続と団塊世代の大量退職によって誕生する新たな富裕層=新世代富裕層は、資産運用の知識と相談相手を持たない突然の金持ちである。この層を金融機関はどう取り込んでいくべきなのか。

情緒的な旧世代富裕層と比べて、新世代富裕層は能動的で合理的である。インターネットも駆使して自ら納得できる資産運用サービスを探す。実は富裕層のインターネット利用率は63%で、準富裕層(5000万円〜1億円)の37%、超富裕層(資産5億円以上)57%よりも高い。新世代富裕層にいたっては72%であるという。

しかし、情報収集能力に自信がある新世代富裕層には、単純に情報ページや「マイページ」機能を提供しても受け入れられない。ネットの裏に担当者や専門家が存在して相談に乗ってくれる「気の利いた執事」レベルが求められているという。

新世代富裕層への金融商品設計アプローチとして以下の4つの条件が提案されている。

1 フックをかける
  興味を持つきっかけをつくる
2 夢をわかちあう
  人生観の共有
3 質にこだわる
  すべてにおいて上質なサービス
4 ファミリーにアプローチをする
  家族・親族単位でアプローチ

新世代に特有の価値観とは「自分らしさ」、「自由」、そして「独創性」。これは他業種のサービス設計にも使えるキーワードだと述べられている。

この層には自らベンチャー事業を起こして財を成した人も多いので、何事にも、他人と同じであることを好まず、自分らしいやり方を探している人が多いようだ。老舗ブランドの信用や窓口担当者の誠意だけでは、選ばれるサービスにはならない、というわけだ。

合理的に大金を動かす層が増えるというのは、ビジネスとして大変魅力的な市場が登場するということ。ベンチャー投資にここらへんの層の資金が回るようになるといいなと思う。なにか強烈な特徴がある投資ファンドなどがいいのかもしれない。

今後が注目される富裕層向けサービスについて重要なデータがたくさん入っている本だった。

・日本のお金持ち研究
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003412.html

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2006年09月27日

投資事業組合とは何か

・投資事業組合とは何か
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ライブドア事件の際にニュースによくでてきたキーワード。投資事業組合、投資ファンドは、一般にはその正体はよく知られていない。同事件でこの仕組みが悪用されたために、よくない印象を与えてしまったが、本来は経済活動を支える重要な役割をになう。


あれほど長い間苦しんだデフレの苦境から脱することができたのは、実は投資ファンド・投資事業組合の貢献があったから、といっても過言ではありません。

にもかかわらず、投資ファンド・投資事業組合は、上場会社のように情報開示を広く一般に向けて行うことはありませんから、その活躍ぶりが大々的に報道される機会はありません。

したがって、悪いところが指摘されることはあっても、投資ファンド・投資事業組合の素晴らしさが伝えられる機会は限られていたのです。

投資事業組合には、任意組合、匿名組合、投資事業有限責任組合の3つの形態があること、ジェネラルパートナーと呼ばれる運営者とリミテッドパートナーと呼ばれる出資者がいること。課税は組合に対してではなく、組合員に対してなされる「パススルー課税」という経営メリットがあること。組成は株式会社より簡単で、登記が不要であったこと。運営者の手数料は2.5%程度が一般的であること。運営者と出資者のよくある取り決めの例など、投資事業組合と投資ファンドの基本的な仕組みが、誰にでもわかる言葉で説明されている。

日本版LLP、日本版LLPとの違い、新しい法規制、コンテンツファンドなど、最新事情も具体例を挙げて記述がある。これまでは監督当局が存在しなかった投資事業組合だが、証券取引法が金融商品取引法に改正されたことに伴い、金融庁に登録・届出が必要になったそうだ。

わかりやすさに定評のある著者が書いている。ベンチャー企業家と投資家におすすめ。

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2006年07月17日

プロファイリング・ビジネス~米国「諜報産業」の最強戦略

・プロファイリング・ビジネス~米国「諜報産業」の最強戦略
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とても興味深い現実が書かれている。

9.11同時多発テロ以降の米国で、急成長している民間の「諜報」産業の実態に肉薄したレポート。主役はこんな企業たちである。企業ごとにひとつの章で語られており、新しいがグレーゾーンのニーズに目を付けた経営者のベンチャー物語としても面白く読める。

・Acxiom Corporation
http://www.acxiom.com/

・ChoicePoint
http://www.choicepoint.net/

・LexisNexis
http://www.lexisnexis.com/

・Seisint, Inc.
http://www2.seisint.com/

・Identix
http://www.visionics.com/

アクシオム、チョイスポイントなどの企業は、全米の2億人の個人情報をあらゆる手段で収集している。その巨大データベースを使えば、電話番号などの個人情報の一片を検索キーに、その人物の住所、氏名、年齢はおろか、家族構成、裁判記録、犯罪歴、クレジットカードの利用履歴、保有する車、最近の顔写真にいたるまで、あらゆる情報を引き出せるという。米国の政府や警察組織が大口の顧客リストに並ぶ。テロリストや凶悪犯の割り出しに、威力を発揮している。

強力な個人情報検索システムは、テロ対策の強力な武器になる一方で、個人のプライバシーを蝕む危険な存在でもある。間違った情報がプロフィールに登録され、飛行場などの個人情報照会の場で「テロリスト」「重大な犯罪者」扱いされてしまう事例が続出しているそうだ。一度、登録されると本人でも、容易には情報の変更ができない。政府や警察に濫用されれば、監視社会の道まっしぐらである。

指紋、顔、声紋、DNAなどの生体認証のデータやネット利用履歴と統合されることで、近年、ますますデータの集積規模の拡大と精度の向上が進んでいる。産業と社会のデジタル化、ネット化が進めば、個人情報のデータベース化は避けられそうにない。制度的な規制はもちろん重要だが、民間企業を完全に縛ることは難しいだろう。一般のISPや大手ECサイトにだって、誰が何を見たか、何を買ったかなどのログが残ってしまうのだから。

技術に対しては技術で戦うという道もあるのかもしれない。たとえば匿名認証の技術はもっと使われてもよさそうに思う。サービス利用資格を持つことは確認しつつ、誰なのかは特定できない暗号認証の仕組み。もちろんこれに加えて通信経路の暗号化も行う必要はあるだろうが、必要のない個人情報は集めないシステムは企業サイドにとっても使いたいケースが多いはず。

・Sensu Project
http://aatoken.aitea.net/
匿名認証技術の研究事例。

この本を読んで、セキュリティとプライバシーに対する企業や政府の取り組みと監視社会化が米国では日本の何倍も進んでいそうな現実に驚いた。うかうかクレジットカードも使えないのだなあと思った。

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2006年07月04日

ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する

・ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する
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若きエリート経済学教授と気鋭のジャーナリストが書いた全米100万部のベストセラー。
米国で「2005年度に最もブログで取り上げられた本」に選ばれた。オモシロ論点満載。

「もしあなたが銃を持っていて、裏庭にはプールがあるとする。プールがあるせいで子供が死ぬ可能性は銃のおよそ100倍である。」

これはニューヨークタイムズに著者の一人スティーブン・D・レヴィットが書いたコラムの一節。彼は、普通は関係がなさそうな二つの事象に相関と因果を発見する天才である。そして、その結論が「世間的によろしくない」=「ヤバい」ほど、嬉々として語るのが好きなのだ。だから大論争を巻き起こす。

たとえば90年代のアメリカで犯罪発生率が急激に下がったのはなぜか?。一般的には警察官の増員や治安政策の成功が理由だとされている。そこへ著者は実はそんなことは関係がなくて、70年代以降に、女性の中絶が合法化され、とても増えたからだと結論する。不遇な生い立ちの人が減ったから、犯罪率が減ったという事実を、まず従来の定説をデータで否定した上で、説得力のある証明をしてみせる。

中絶を増やせば犯罪発生率が減るという結論は、中絶反対論者からは当然、悪魔のように言われて攻撃される。しかし、その説明ロジックは正しそうに思えるから論争は果てしなく続く。

この本で扱われるテーマは、以下のような話題。

・日本の大相撲、7勝7敗の力士の8戦目の、異常に高い勝率の、本当の理由は?
・ヤクの売人がママと住んでいるのはなぜ?
・不動産広告の「環境良好」は周りの家はいい物件だがこの物件はイマイチという意味
・子供を有名大学に進ませる方法は?
・子供の名前でわかってしまう、親の教育水準が高さ、低さ

これらを経済学的な観点から統計分析し、ヤバい結論を導き出す。面白いのはどの論点も背景に、偏見や差別、貧富の差、人間の欲望の渦巻きなど社会学的要素があり、ポリティカリーインコレクトな要素が満載であること。そして、おもしろいだけの三面記事とは違って、著者の鋭い因果関係の分析が用意されていること。

データの相関だけだと「へー、そうかな」と思うだけだが、この著者らのように、さらに因果関係を、世の中の仕組み、人々の物語として語ってくれると「なるほどその通りだ」と思う。

経済学は、抽象化度の強い学問のように思えるが、スティーブン・D・レヴィットは人々の日常を具体的に説明するために、その優れた頭脳を使っている。もう一人の著者でジャーナリストのスティーブン・J・ダフナーは、その分析内容を一般読者向けに分かりやすく書き直している。経済社会学あるいは経済社会学の傑作。

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2006年05月25日

・ライフサイクル イノベーション 成熟市場+コモディティ化に効く 14のイノベーション

・ライフサイクル イノベーション 成熟市場+コモディティ化に効く 14のイノベーション
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ハイテク製品を成功に導くマーケティング理論書「キャズム」から15年が経過した。

・キャズム
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著者の仮説の適切さはその期間の市場の動きで実証されてきた。企業の成長にはパターンがあり、適切なイノベーションを適切な時期に投入できるかが、企業の永続成長か破滅かの道を決めている。この本は、トレンドの急成長の分水嶺となる「キャズム」を超えて、市場の成長期にも衰退期にも、永続的に繁栄できるイノベーション戦略とは何かを語る集大成。

「コアとコンテキスト」、そして「慣性力」は今回のキーワードだ。


タイガーウッズにコアとコンテキストの間でどのように時間配分をすべきか問われたら、あなたはどのようにアドバイスをするだろうか?。

「自分の時間をすべてコアに集中させて、コンテキストは誰かを雇って任せればよい」

と助言するだろう。だが、ウッズが反論する。

「僕の収入の90%はコンテキストからのものなんだ。コアからではない。それでもコンテキストには時間を使うなというのかい?」

あなたは自信を持って言うだろう。

「もちろんだ。コンテキストから得た収入で、よりコアにフォーカスすべきだ。それが最終的に最も効率的な道だ」フォーカスと優先順位、これが差別化のためのイノベーションの課題だ

ウッズのコアとは天才的なゴルフの技能とその世界でのプレゼンスのことだ。コンテクストとは彼のCM出演や彼の名前を冠したゴルフ用品ブランドビジネスなどを指す。前者があっての後者なのだから、ウッズはゴルフの天才ぶりにこそ力を入れるべきだ。決して後者に注力すべきではない。これは誰でもわかることだ。

しかし、多くの企業がコンテキストに注力して失敗している、と著者はいう。競合優位性への貢献度ではなく、収入の比率に従って資源を配分してしまう。見かけ上、儲かっている部門に注力すればよいと思い込んでしまうのだ。

市場の変化によって、コアだったものがコンテキストになることがある。競合優位性の源泉であったものが、競合企業が模倣することで中立化し差別化要素ではなくなる。だから、企業は常にコアとコンテクストを見直し、適切な時期に次のコアを作り出さなければならない。

もうひとつのキーワード「慣性力」はその意思決定に影響を及ぼす。成熟した企業組織が過去のやり方を踏襲しようとする保守の力のことだ。この力は当初の戦略がぶれないように助けてくれる成功の源であると同時に、変革が必要な時期にそれを妨げる抵抗力ともなる。

大切なのは今、企業や技術や市場が、ライフサイクルのどの位置にあるかを正しく見極めることだ。新しいテクノロジーは最初は熱心なテクノロジー信奉者に受け入れられ小さな市場を形成する。この初期市場がマスメディアやクチコミによって増幅され、普通の人たちもテクノロジーを使いはじめる。この分水嶺がキャズムであり、前著のメインテーマであった。

・テクノロジー導入ライフサイクル
初期市場→キャズム→キャズム越え→ボーリングレーン→トルネード→メインストリート
本書では、さらに視野を拡大し、より大きな市場のライフサイクルから、企業の栄枯盛衰を説明している。たとえばカテゴリー成熟化ライフサイクルという大きな流れだ。

・カテゴリー成熟化ライフサイクル
成長市場→成熟市場→衰退市場→ライフサイクルの終わり

こうした市場の各ライフサイクルの中で、求められるイノベーションは異なるものになる。この本では100社以上のケース分析から、14のタイプのイノベーションをひとつずつ解説していく。適当なイノベーションによって、コアとコンテキストの配分、慣性力を最適化させるものこそ長期的な勝者になるということである。

「イノベーションのジレンマ」3部作のクリステンセンや、競争戦略論の古典のマイケル・ポーターなどと一緒に読むと、さらに深く理解できる。ITマーケティングに関わる人におすすめの一冊。

・明日は誰のものか イノベーションの最終解
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004017.html

・イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002943.html

・競争戦略論〈1〉
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001165.html

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2006年05月06日

USEN宇野康秀の挑戦!カリスマはいらない。

・USEN宇野康秀の挑戦!カリスマはいらない。
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この本は、動画配信サイトGyaO事業のほか、個人の資本でライブドアを買収したことでも話題の、USEN宇野社長を、元記者のフリーライターが取材して、タイムリーな内容にまとめている。

先日、動画配信サイトのGyaOは1周年を迎えている。ユーザ登録数は900万人。

・完全無料ブロードバンド放送「GyaO」が、開局1 周年を迎え
視聴登録者数900 万人を突破
〜携帯電話向けサービス「モバイルGyaO」も本放送を開始〜
http://www.usen.com/admin/corp/news/pdf/2006/060425.pdf

「株式会社USEN(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:宇野康秀、以下 USEN)が
運営する完全無料ブロードバンド放送「GyaO」(ギャオ URL:http://www.gyao.jp/)の視聴登録者数が4 月22 日に900 万人を突破し、本日開局1 周年を迎えましたので、お知らせいたします。また、3 月27 日より試験放送を行なっていた携帯電話向け無料動画放送サービス「モバイルGyaO」も、本日より本放送を開始いたしました。」

GyaOはこの本でもそのような記述が出てくるのだが「なんてことはない」サイトである。ブロードバンドで動画を配信するサイトなんて珍しくもなかった。昔からあったが、ネット向き低予算の番組や、あまりもの、間に合わせ的な内容ばかりだったから、ヒットしなかった。GyaOがユーザの心をつかんだのは、アカデミー賞受賞作を含めた人気の映画や、韓国トレンドのテレビ番組など、”本物”の映像を流したから、である。

USENの財務状況のサマリーがある。売上高600億円の放送事業で「安定的な収益を確保」し、500億円に近いカラオケ事業で「安定的な伸び」を得て、240億円のBB・通信事業で「増収増益」、そして150億円のGyaOとGagaの映像・コンテンツ事業が「今後、期待する事業」とされている。安定した財務基盤があったからこそ、GyaOのコンテンツの無償提供が可能になった。

ブロードバンド参入時に蓄積していた著作権処理のノウハウもある。十数種類もの契約書を著作権処理に使い分け、契約をスピードアップして他者に差をつける。番組を編成するプロを呼んで、放送と同じように局づくりを行っている。

既にカリスマのイメージがある宇野社長だが、本人はカリスマ性がないと考えているらしい。カリスマが統率するのではなく、一つのボールを追いかける子供のサッカー的な経営をしている様子が紹介されている。買収したライブドアの、強烈なカリスマであったホリエモンとは対照的な人物であるようだ。

GyaOの登録者数が1千万に達するのはもうすぐだ。次は収益化がいつ達成されるのか、買収したライブドアをどうするのか、業界の注目が集まっている。

GyaOを含めて、動画配信サイトの動向は、「テレビとネットの近未来」でも追跡しているのでご参考まで。

・テレビとネットの近未来 ブロードバンド・ニュースセンター:
 動画配信サイト のカテゴリ
http://www.tvblog.jp/tvnet/archives/cat159/cat160/index.html

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2006年04月25日

ヒルズ黙示録―検証・ライブドア

・ヒルズ黙示録―検証・ライブドア
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こういう本を待っていた。とても面白い。

朝日新聞でライブドアを担当していた記者の本。

創業黎明期から、株式公開し、M&Aを繰り広げての急成長、そして球団買収、フジテレビ、選挙戦、強制捜査まで、ライブドアの実態を、新聞記者らしく取材メモと事実ベースで客観的に解明していく。暴露本ではない、検証本である。

堀江社長以外のライブドア経営陣や、村上ファンド、楽天、フジテレビ、リーマンブラザーズなど、各時代の当事者の生々しい肉声も多数公開されている。あの人はそんなことを言っていたのか、と驚きも何箇所かあった。知り合いも数人登場していて、あらあらとも思った。

私は堀江さんとは、そう深くはない面識があった。

1999年ごろ、ニュースサイトのホットワイアードに、NewsWatcher'sTalkという企画が始まり、私は10数人くらいの業界パネリストの一人に選ばれた。その後、数年間、この企画に参加した。同じパネリストの一人として堀江さんがいた。

・News Watchers' Talk ご利用ガイド : Hotwired
http://hotwired.goo.ne.jp/nwt/guide.html
(この企画は今も続いているのだが、当時はもっと活発に議論が交わされていた。)

毎週、IT業界の時事ネタを編集部が選び、パネリストがメーリングリストで議論する。議論した内容はまとめられて翌週にWebで公開される。堀江さんの会社は当時のホットワイアードのシステム構築をてがけていたと記憶している。そういう理由もあってか、堀江さんは、メーリングリストで、しばしば意見を投稿されていた。

私はテーマが提示されると、じっくり考えたり調べてから、長文の意見投稿をしていた。堀江さんは即座に数行の断定的な意見を投稿するスタイルだった。ビジネスの話題でも、技術の話題でも、ばっさり斬る。衝突を恐れず、自分の意見を簡潔に述べていた。私の長文もばっさり一行で斬られたりもした。それに長文で反論すると、また1行で斬られてしまう。

同じ原稿料なのに随分、文字数違うよなあ、効率いいな、堀江さん、などと可笑しくなったりもしたのだけれど、こういう人がいると議論は面白い。この企画での堀江さんの存在感は大きかった。特に技術については鋭い意見が多くて参考になった。ハッカーのワンマン経営者という印象であった。

その後、ホリエモンとして有名になり、次々に世の中をハッキングする堀江さんに、内心では、エールを送っていた。堀江さんの有名なブログのコメント欄が荒れていたときには何度か匿名で応援のコメントを書きさえしていた。規模は違えど同じベンチャー企業経営者として、体制に豪快に切り込んでいく様子は見ていて痛快だった。だから、強制捜査以降の堀江さんの状況は大変、残念だなと思っている。

この本は客観的な検証本なので、著者は敢えて主観的な判断を前面には出していないが、全体的には堀江氏に同情的である。あれは国策捜査であったという見方も取り上げている。まだまだこの国は出る杭が打たれる国だということかもしれない。

この本によれば熊谷取締役が発案した株式100分割で買いやすくなったライブドア株は、20万人以上も個人株主がいたそうである。私の身近にも損をした一般投資家がたくさんいる。株式投資は本来は自己責任のはずだが、集団訴訟も起きている。有罪無罪よりも、これが本質的問題だと思うのだけれど、ライブドアの事後処理をしてから、再起業して、この人たちに2倍返し、3倍返しで儲けさせるような、ドラマをまた見せてくださいよ、堀江さん。


・国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004269.html

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2006年04月06日

実験経済学入門~完璧な金融市場への挑戦

・実験経済学入門~完璧な金融市場への挑戦
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統計データを解析する計量経済学に対して実験経済学がある。実験室で被験者集団に市場を模した取引を行ってもらい、どのような現象が起こるかを調査するような研究手法をとる箱庭経済学である。モデル化された経済は現実の経済とは異なるため、長い間、本流の経済学からは軽視されてきた。普遍性に疑いがあると考えられていた。

しかし、実験経済学では、平均的な人間の普遍的な行動だけではなく、人間の個人的な「選好」を対象にすることができる。個別のモノやモノの組み合わせに対する個人の相対的な価値のことだ。「ブランド」や「オプション」、そして「知識・情報」が経済において持つ意味を、個人の選好から光を当てることができる興味深い研究領域である。市場実験による金融市場分析を行ったヴァーノン・スミスが2002年度のノーベル経済学賞を受賞するなど、近年、再評価が進んでいる。

需要と供給は自由市場に任せておけば、自動的に最適な均衡に落ち着く。経済学の常識であるが、被験者同士が交渉で売買を行う実験を行ってみると、理論値よりも少し低い価格に均衡した。なぜか?。

「ほとんどの人は売り手の経験よりも買い手の経験の方が多く、価格を引き上げる交渉よりも引き下げる交渉の方が得意であるからだ。」。交渉のルール、当事者の知識、交渉の能力が、この取引ゲームに大きな影響を与えている。

株式市場では「サンスポット均衡」と呼ばれる不思議な傾向がある。これは太陽の黒点移動と景気の変動がたまたま似たような周期を持つため、太陽の黒点が景気を左右するという理論があることに関係がある。この理論は根本的に間違っているのだが、信じているトレーダーが少数だが存在するために「自己実現的予言」として機能してしまっている例だ。トレーダーには自分の持つ情報を無視して「群れの後追い」をするものも多いため、さらに傾向は強化されてしまう。「テクニカル分析」も似たような存在である。

従来の経済学は、平時の市場の均衡や景気循環を説明できても、突発的なバブルや暴落を十分に説明することができなかった。実験室での株式取引ゲームやオークションゲームでは、主観を持つ人間だからこそ取り得る非合理な選好がたくさん発見されている。そして人間同士の関係性が、情報カスケード効果を促進し、予測不能な大きなバブルを生じさせたりもする。

「この世は皆オプション」とも述べられている。オプションとは市場に参加するプレイヤーたちがとりえる選択肢のことである。私たちはモノの価値だけでなく、潜在的に取りえる取引上の選択肢までをも考えに入れて行動している。期待と不安、錯覚、知識といった個々の人間のバラバラな選好が、経済全体の大きな流れにカオスとバランスを発生させる。計量経済学が平均的、普遍的、連続的な市場を分析するツールだとすれば、実験経済学は、個人的で、特異で、非連続な市場を分析するのに有効な新しいツールといえそうである。

こうした実験経済学の環境として、早稲田情報技術研究所は、カブロボというサービスを運営している。既に数千種類の株式取引プログラムが開発されている。

・カブロボ・コンテスト KabuRobo
http://kaburobo.jp/indexpage.do

株の売買をロボットが自動で行うカブロボのサイトです。
プログラミング知識のある方も、ない方も、それぞれに
楽しんでいただけます。株の銘柄と株価はリアルのものを
使います。 手持ち資金は、500万円(仮想マネー)からスタート。
自動運用で、どれだけ増やせるかが勝負です。

・ 登録・参加費など一切無料です。
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・ あなたのロボットの稼動はwebで日々更新され参照できます。

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2006年03月23日

ブランド王国スイスの秘密

・ブランド王国スイスの秘密
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スウォッチ・グループ オメガ ブランバン ブレゲ リシュモン・グループ カルティエ ロレックス パティックフィリップ ネスレ・グループ ABB 航空スイス クレディ・スイス UBS ロンバー・オディエ・ダリエ・ヘンチ チューリッヒ・ファイナンスサービシズ スイス再保険

これらはすべてスイス企業のブランドである。高級時計、金融、食品会社、保険など内容は多彩だ。

スイスの人口は730万人であるが、スイスの株式市場に上場する企業の株式時価総額を人口で割ると、12万8千ドルで世界第1位になるという。この数字は米国では5万8千ドル、日本は5万9千ドルであり、スイスがいかに資本主義を濃縮しているかがわかる。ブランドがスイスという小国の経済を世界トップクラスにのしあげてきた。

スイスの数々のブランドの成功は偶然ではない。これら成功したスイス企業は傘下に数多くのブランドをそろえる「ポートフォリオ型」のブランドマネジメントを採用してきたことに特徴がある。たとえば、オメガ、ブレゲ、ラドー、ロンジンといった高級時計ブランドはすべてスォッチグループである。スォッチグループは18のブランドを傘下に持つ。カルティエ、ピアジェ、アルフレッド・ダンヒル、モンブランはリシュモングループのブランドだ。コーヒーのネスカフェ、調味料のマギー、パスタのブイトーニ、飲料のミロ、ミネラルウォーターのヴィッテルはネスレの傘下のブランドである。

日本型ブランドマネジメントでは、企業は他のブランドを持つ企業を買収すると、多くの場合、統一ブランドに統合してしまう。その結果、元のブランドが持っていた価値を失うケースが多い。

日立や富士通やソニー、パナソニックやナショナルなどは、世界的知名度を持つブランドであるが、あらゆる製品を扱っているために、ブランドの中身のイメージが湧きにくい。超高級品もあれば廉価な普及品もひとつのブランドに収まってしまっている。最近では、セブンイレブンとイトーヨーカドーとデニーズが「セブン&アイ」というブランド名に統一されてきている。看板を見ただけではさっぱりわからない状態になっている悪い例として、この本でも挙げられていた。

スイス企業のポートフォリオ型ブランドマネジメントは、個々のブランドが持つイメージや顧客を維持することを考える。ブランドの特徴を明確にし、ブランド同士が競合にならないように巧妙に差別化を行っている。スイスのビジネスマンは、こうした創意工夫によって、少ない人口でも、現在の経済的豊かさを築いてきた。いまやスイスは国旗さえもブランドの一部となっている。

この本ではブランドマネジメントの他に、特に詳しく銀行守秘義務制度によるスイスの銀行の繁栄が分析されている。この制度によって、匿名性を守りたい世界の資産家から巨額のマネーがスイスに集まってきている。マネーロンダリングや脱税といった犯罪の温床と批判されながらも、EU統合に際しても、スイスはこの制度を強行に守り通してきた。スイスの高付加価値型経済の実現は偶然ではないのだ。

著者は日本の進むべき未来がスイスにあるのではないかと自論を展開する。日本企業はこれまでは「良いものを安く大量に」をモットーに製品・サービスを提供してきた。しかし、価値観が多様化しニーズが変化した今日ではスイス流の「良いものをいかに高く売るか」に路線を変更すべきではないかと提案している。

スイスという国は一般に永世中立国で美しい自然に恵まれた観光国というイメージがある。だが、歴史的には天然資源に乏しく、国境を接する国が多いために侵略もされやすく、厳しい状況に置かれた貧しい国だった。スイスは、そうした否定的な要素を逆手にとってプラスに変えるアイデアと、それを実行に移すための独特の政治制度や社会制度を持っている。

日本はコンテンツ、知的財産を活用して経済再生すべきだという意見があるが、スイスのブランド立国政策は確かに見習える部分が多そうだなと感じた。

・模倣される日本―映画、アニメから料理、ファッションまで
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003155.html

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2005年12月15日

ホテル戦争―「外資VS老舗」業界再編の勢力地図

・ホテル戦争―「外資VS老舗」業界再編の勢力地図
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高級ホテルの予約サイト 一休.comは、ときどきチェックしている。メディアで話題の一流ホテルに、1万円台という格安のプランがみつかったりして嬉しくなる。

一泊5万円、6万円というクラスになると手が出ないが、この価格帯の宿泊が、いま市場で急成長しており、多数の外資系ホテルが東京へ進出し、サービス競争を繰り広げているようである。

・[一休.com]高級ホテル・旅館予約
http://www.ikyu.com/

日本のホテルには暗黙の格付けがある。

【御三家】

帝国ホテル
ホテルオークラ東京
ホテルニューオータニ

は私も知っていたが、新しく新御三家も成立している。

【新御三家】

フォーシーズンズホテル椿山荘 東京
パークハイアット東京
ウェスティンホテル東京

そして、この本の著者によると2005年以降に開業する新しいホテルによって新々御三家まで誕生しようとしているそうである。

【新々御三家】

マンダリン オリエンタル 東京(2005年開業)
ザ・リッツカールトン 東京(2006年開業)
ザ ペニンシュラ 東京(2007年開業)

旧来の御三家やそれに準じるクラスの国内資本系では、圧倒的なブランドと資金力の帝国ホテル以外は、外資の進出に相当の苦戦を強いられているようだ。

外資が一斉に東京に参入を始めたのは、

・海外観光客の増加
・東京の地価の下落による外資の参入意欲高まる

といった理由があり、地方都市では先行して外資ホテルが次々に成功をおさめてきた。東京はその内外対決の最終決戦の場となっているらしい。

高級ホテルは生き残りをかけて、

1 スモールラグジュアリーホテル
2 グランドホテル
3 老舗ホテル

といったポジショニングを明確にし、差別化をはかっているそうである。ホテルの要は一流のサービスを行うことの出来る人材。ホテルマンの人材獲得合戦も盛んになっている。お客の要望にきめ細かに応えるという部分では、国内資本のホテルは定評があったというが、経営とのバランスを取る点では外資の方が強いという。

この本は最近話題の高級ホテルの内情(客室稼働率、平均単価、経営状況)や、業界地図が説明されているのが参考になった。ウェスティンとシェラトン、ザ・リッツカールトンとマリオット、コンラッドとヒルトンは、それぞれ経営母体が一緒の系列関係にあるなどは知らなかった。各グループの成り立ちの丁寧な説明もある。ホテルについての薀蓄が語れるようになってうれしい一冊。

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2005年11月28日

起業バカ 2 やってみたら地獄だった!

・起業バカ 2 やってみたら地獄だった!
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起業が失敗した成れの果てを起業地獄と著者は名づけた。


ある会社は、会社をたたんで自己破産、夜逃げ、一家離散と奈落の底に転がり堕ちる。ある人間はタガが外れて銀行強盗、コンビニ強盗、放火、殺人、幼児誘拐に突っ走る。また、ある人間は、すべての負債を一身に背負い自殺に追い込まれ無残な最期を遂げる。父親の借金のカタに、風俗に堕ちる娘だって少なからずいる。

地獄を見た体験者の実例が多数、取材されて収録されている。著者自身が倒産の修羅場をくぐった実践者でもある。

・起業バカ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003465.html

のパート2。

続編の方が面白くなっていると珍しい例だと思う。

紹介される実例の中で一番魅力的だったのが、1980年代にウィークリーマンションで大富豪となるも、バブル崩壊時に1000億円の負債を負い、しかし、諦めずに新事業で復活を果たした川又三智彦社長の章。

・川又三智彦公式ホームページ
http://www.222.co.jp/president/
このホームページは面白い。

1000億円の負債の話は、

・毎日連載!1000億円失って:バックナンバー
http://www.222.co.jp/president/daily/

で詳細が読める。

「社長になっちゃいけないヤツがなったから失敗する」というのが川又社長の結論で、とにかく、気が遠くなるほど諦めない人間以外は社長は向いていないということになる。

ところで前作で起業詐欺の例としてナマナマしい実態が書かれていて面白かったのだが、案の定、著者は、書いた先から訴訟を起こされているらしい。今回もそれ書いちゃって大丈夫ですか?と心配になる体験談がいくつか書かれている。

ブームに乗った安易な起業に、強烈な警鐘を鳴らす本であるが、起業家にとっての試金石みたいな本であるとも思う。この本の裏テーマが、実は起業のススメであることは間違いないようにも感じる。

とりあえず、この本を読んで少しでも怖いと感じた人は起業は諦めた方が賢明だろう。そもそもこの本を読むような人間は起業に向いていないからやめておきなさいと書いてあったりもする。やる人は読む前にやってしまっているはずだからという。こういう警告の本はもっとあってもいいと思った。


・逆風野郎 ダイソン成功物語
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003886.html

・成功前夜 21の起業ストーリー
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003020.html

・ 起業人 成功するには理由がある
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000712.html

・図解 株式市場とM&A
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003975.html

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2005年11月27日

明日は誰のものか イノベーションの最終解

・明日は誰のものか イノベーションの最終解
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『イノベーションのジレンマ』『イノベーションへの解』に続く破壊的イノベーション論の集大成。「ハイテクのマーケティングを理論的にやりましょう」という内容で、情報通信業界では教科書の如く引用されるようになった。ケース満載。

マーケットリーダー企業は、要求の厳しい顧客の声に耳を傾けて、自社の製品・サービスを進化させる。その「生き残りのイノベーション」企業は、より利益率の高い金持ちマーケットに積極的に進出していく。一方で、新興企業は彼らが狙わないローエンドで新たなマーケットの創出を狙う。その武器が破壊的なイノベーションである。

・イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002943.html
詳しくは前作の書評を参照。

破壊的なイノベーションは、

・非消費に挑み全く新しいマーケットの確立を目指す
・ローエンドにおける攻撃(非金持ちマーケット)

という特徴を持つ。

本作でも、破壊的イノベーションに関わるたくさんの企業ケースが丁寧に解説されている。そこから抽出された、以下のような教訓が掲げられている。

1 破壊はあるプロセスであって、結果ではない

2 破壊は相対的な現象だ。ある企業にとっては破壊的なことが、他の企業にとっては生き残りに役立つということもあるだろう。

3 今までとは違っているテクノロジー、あるいは過激なテクノロジーが、そのまま破壊的だということはない

4 破壊のイノベーションがハイテクのマーケットに限定されているわけではない。破壊はどんな製品やサービスのマーケットでも起こりえるし、国家経済間の競争を説明するのにも役立つはずだ。

破壊的イノベーションが市場を席巻するまでには

1 変化のシグナル

2 競争のための戦い

3 戦略的な判断

という3つのプロセスがある。

大企業のマネージャーにとっては、ベンチャー企業の話題の新製品をまめにチェックし、自社の品質基準で比較したときに見くびらないこと、それが異なる評価軸で新しい顧客を開拓しているかもしれないと疑ってみること、が大切な心構えになる。ベンチャー企業にとっては、大企業同士がハイエンド向けの開発中心の生き残りフェイズに入った市場を発見したら、ローエンド対象に、まったく違う需要を満たす低価格帯製品の開発にアイデアを絞っていけということになる。

時代は動いている。常に眼を光らせて、破壊的イノベーションで勝利する側にまわれ、そのためには、この本を読んで理論を勉強せよ、という本である。一冊目から順に読んだほうがわかりやすいのだが、これは集大成本なので、巻末の資料も読めば、この本一冊でも著者の理論の全体像を理解できるようにまとめられている。

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2005年11月13日

図解 株式市場とM&A

・図解 株式市場とM&A
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縁があって、著者の保田さんと私は毎週顔を合わせて一緒に仕事をしている関係なのだが、この本を偶然みつけて読み終わるまで、実のところ、よく知らなかった。読み終わって一気に尊敬モードに以降。来週の会議からは先生と呼ばせていただきます。いや本当に。

・ちょーちょーちょーいい感じ
http://chou.seesaa.net/
保田さんのブログも発見。最新の株式市場に対する解説記事が参考になる。

身内だからほめているので決してなくて、アマゾンで第三者がたくさん絶賛してもいます。「株式・社債の部」1位にもなったそうです。投資銀行時代の経験と自身の起業体験を活かして、株式市場とM&Aについてやさしく書かれています。

私も学生時代に起業してから10社ほどのベンチャー企業の創業や役員就任を経験しています。株価、株主、出資、議決権、増資、ストックオプション、M&A、配当、デューデリジェンス、上場(これはやったことないけど)は、一通り経験したり、身近でみてきました。この本のキーワードで知らなかった単語はありません。

しかし、この本のおかげで、知っていること同士の関係が、1段階上のレベルでわかった気がしました。創業者の視点で体験する順序で、各キーワードの意味が説明されているのが、わかりやすさの秘密でしょう。

内容は、一人の若者が友人らの出資を受けてカフェを創業し、複数店舗展開した末、株式を公開、他のカフェの買収や、逆に敵対的買収(TOB)を仕掛けられるまでになるという、青春熱血起業物語です。小説形式なのが教科書と違います。

ドラマとしても演出が効いていて、最後のエピソードでは本当に目頭が熱くなりました。ベンチャーに対する見方が、投資銀行業務出身なのに、暖かでさわやかです。カネのためだけではなくて、自分の夢、みんなの夢のために会社を作る、育てることの楽しさと苦労がよく伝わってきます。

もちろん、実際の起業では、こんなにキレイに物事が進んだり、判断要素がクリアなことはないのですが、経営の基本知識の適切な要約になっています。突っ込んだ細かい事柄はばっさり省略されていますが、社長自身が知っておくべき事柄はこれで十分だと思いました。細かいことは、現場で著者のような専門家に聞けば良いわけですからね。

この本、著者は身内ですが、内緒で自腹で買いました。その価値がある本だと思いました。起業を考えている人、創業以来突っ走ってきたけれどもここらへんで知識を整理したい現役経営者にうってつけの良書。

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2005年11月03日

大型店とまちづくり―規制進むアメリカ,模索する日本

・大型店とまちづくり―規制進むアメリカ,模索する日本
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大型店とまちづくりの日米比較。

1990年に大型店は全国に2358店舗あり、2003年には4111店舗に増えた。この間に店舗数は1.7倍に拡大した計算になる。特徴としては大型スーパーが増えており、逆に百貨店はやや減っている。そして大型店は増えたにもかかわらず、その全体の売上高は1997年から2003年の期間で7%以上も減っている。店舗が増えたのに全体の売り上げが減っているのだから、一店舗あたりで計算すると27%の売り上げ減という深刻な状況にある。

小売の全国の売り場面積に占める大型店の面積比率は2002年に44%。売上高比率では32.4%に達するという。地域社会の生活や経済に多大な影響力を持っている。特に最近の出店は郊外、ロードサイドに集中している。

大型店は売り上げが落ちた店舗は即刻閉店し、閉店数を上回る数の新規出店を続けることで収益を確保しようとする(スクラップアンドビルド)。大型店が郊外、ロードサイドに開店すれば地方都市の中心市街地の商店街は客を奪われ大打撃を受ける。

地方都市郊外や周縁部、そして中心地でも大型店が閉店したまま建物が放置されている「グレーフィールド」が増えている。私も関東と関西でいくつか事例を知っている。建物を壊した空き地のままの数も入れると閉店店舗例の40%を超えるらしい。

売り上げが落ちると閉店し、別の場所へ出店する大型店の「焼畑商業」が街のイメージダウンや失業者の増加、治安の悪化、経済の落ち込みの大きな原因になっている。スプロール開発(低密度土地利用による土地浪費型、かつクルマ依存の郊外開発)も、地域社会にとってマイナスになる。

大型店を誘致する地方自治体には「雇用機会の増加」「買い物機会の拡大」「市税の増収」の3つの期待があるとされる。しかし、実際には郊外出店により中心地の商業の壊滅による地価の下落、固定資産税の減収につながってしまう例が続出。閉店によって失業者増加、利益は域外の本部に吸い上げられ地元経済には落ちないなどの見込み違いが起きる。
米国のシンクタンク、シビックエコノミクスの調査によれば、域外商店に比べて地元商店のほうがはるかに地域経済に貢献することがあきらかにされている。試算では地元商店で1ドルの消費があると、平均73セントの地域経済効果がある。これに対して域外商店で消費があっても平均43セントの効果しか得られない。

そこで米国では「小さな町」コンパクトシティの計画が積極的に各地で展開され、一定の成功をおさめはじめている。米国の多くの街はロードサイドに同じような大型店舗が並び、均質的な街並みが多いが、さすがにそれでは

米国の地域自立研究所による「我々の小売店」論は、大型店に変わる3つのモデルを提唱している。

・食料品を中心にした消費者共同組合
・地元起業家によるコミュニティ・ビジネス
・州民を対象に株を発行し、プロが経営する店舗

そして、ウォルマートのような低所得者層、失業者、年金暮らしの高齢者の多い地域に大型店を出店し、低賃金で住民を雇用することで、低所得のままにしておき、納入先にも無理な低コストを要求するひどい仕組み「毛沢東理論のウォルマート版」だと強く批判したジャーナリストもいる。

この本の最後では、日本における大型店の規制条例の制定や、街づくりをみなおして地域の活性化で成功し始めた自治体の事例がいくつも紹介されている。経済的費用だけではなく、社会的費用まで考えると、トータルでは大型店よりも、地元商店を活性化させたほうが住民にとって恩恵が大きいということを考えさせられる本であった。

理屈ではわかるのだが、地方都市に住んでいる一消費者としては、地元商店街を応援したい気持ちもありつつ、魅力的な店舗が少ない現実があるなと思う。イトーヨーカドー、ダイエー、トイザラス、郊外のショッピングモールなどは、品揃えや集積メリットなどを総合すると便利であり、やはり足がそちらへ向いてしまう。

昨年、気になった地元の活性化企画にこんなビジネス発想コンテストがあった。藤沢市は全国的に見れば悪くない方だと思われるが、「商店街にある休眠中の店を、斬新な発想と感性で再生させる新ショップ開発の部」という項目があり、グレーフィールド問題は身近でも問題であるようだ。

・湘南藤沢商店街活性化・アイディア大募集!ビジネスコンテスト 結果発表!!
http://www.cityfujisawa.ne.jp/~shouren/busicon/

実は私も一夜で書いたおもいつきを応募していたのだが入選はならずであった。結果発表を見ると、古着のリメイクショップが入選。私の案はちょっとひねりすぎていたらしい。今年もあったらわかりやすいアイデアでまたチャレンジする予定。

こうした発想の取り組みの中からこの本にでてきた「我々の小売店」の魅力の具体例が示されれば、大型店とまちづくり問題の解決につながっていくのかもしれない。

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2005年10月10日

逆風野郎 ダイソン成功物語

・逆風野郎 ダイソン成功物語
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とにかく強烈。面白い。

デザイン性の高い、紙パック不要の、サイクロン(遠心分離)掃除機で、革命的な大成功をおさめたイギリスの天才デザイナー ジェームズ・ダイソンの自伝。

・Dyson サイクロンクリーナー DC-12
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変な話だけど、ダイソン・デュアルサイクロンはやっぱり僕の思った通りになった。最初からわかってたんだ。こうなるってことは。

あっさりした書き出しだが、それは、まったく平凡な道のりではなかった。

ダイソンは、たった一人で5126台の試作品を自宅の馬車置き場の部屋に閉じこもり開発した。苦闘の末、プロトタイプが完成するが、売り込み先の大手メーカーはほとんどが門前払い。その上、プレゼンしたデザインは盗用されまくる。契約先でも思うようには開発が進まない。ダイソンは借金と訴訟まみれになりながらも、革新的な掃除機を世に出すため、情熱的に自分の信念を貫き続ける。

成功までの20年間、ダイソンは常識や保守的な人々と徹底して戦い続ける。思うようにいかないと感情的に爆発する人のようだ。話の半分くらいは揉めごとのような気がした。


僕はこれまで狼狽させたり怒らせたりした多くの人から、不遜、無礼、強情、自己中心的とみなされてきた。いまになってみれば、自分は正しかったんだし、こうした欠点もたいしたことはないと思える。あるいは、それが「ビジョン」というものなのかもしれない。万事うまくいったときでないと、支配勢力からバカにされ続けても自分を貫いた男が「ビジョンを持っていた」と言われることはないんだろうね。

この本自体が訴訟のタネになるのではないかと思うくらい、辛辣に競合会社を担当者の実名入りで批判している。過激な発言と凄まじい行動力。破天荒な人生を自ら呼び込んでいる、まさに「逆風野郎」である。

2003年までにイギリスの4世帯に1世帯がダイソンの掃除機を所有するようになった。設立十年で会社は世界に一千万台を超える製品を送り出した。たった一人の発明家が保守的な家電業界に立ち向かい、市場に一大勢力を誕生させるまでの死闘。

思い込んだらどこまでもの一途さが世界を変えることがあるという事実に、励まされる。起業に興味のある人は必読。

・ダイソン株式会社:デュアルサイクロンクリーナーなどの開発、製造、販売
http://www.dyson.co.jp/

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2005年08月15日

日本人の行動パターン

・日本人の行動パターン
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終戦記念日。

50年間で100刷を超えて230万冊以上が売れたベストセラー「菊と刀」の著者ルース・ベネディクトは、それに先立つ1945年の終戦間際に原型となる一本の報告書を書いていた。米国国務省 戦時情報局 海外戦意分析課に提出された、その「レポート25 日本人の行動パターン」には、敵国の日本人の国民性を研究し、心理作戦の戦術を考える狙いがあったという。

この本はこのレポート及び後年のベネディクト研究者の解説が内容である。後に書かれた一般向けの本「菊と刀」と内容が当然似ているが、原型を読み、解説を読むことで、一層、当時のベネディクトの仕事の意味がよく分かってくる。ベネディクトは日本についに一度も訪問することがなかったらしい。文献や米国内での聞き取り調査だけで、ここまで深く正確な洞察を働かせたのは驚異だ。そして、日本を訪れたことがないにも関わらず、敵国の日本人も、米国人と同じように高度に理性的な人間であり、理解しあえる存在だという結論に達しているのも凄い。逆に言えば向こうに、こうした賢い人たちがいたから、日本は戦争に負けてしまったのだろう。

日本人の精神構造を恩や義理といった責務体系から分析している。

日本人の責務体系には、恩と恩の反対責務(義務即ち忠、孝、任務、そして別系統に義理)があるとされる。恩は人から受けたら返さないといけないのだが、頑張っても万分の一も返せない。親や教師の恩は返しきれない性質を持つ。義務は天皇の臣民として、家族の一員として生を受けたために自動的に負う務めだった。どの程度の義務を果たすかは個人の判断ではなく、強制される。これに対して、義理は受けた好意に等しい分だけ返せばよい。返せないのは「恥」であり、日本人はこれを最も不名誉な事態と感じ、時に命をかけて義理や義務を果たした。

こうした研究から、ベネディクトは、日本人を侮辱するな、天皇の責任を問うな。敗戦した日本に敗北の侮辱を与えると取り返しがつかないことになる。実態はどうあれ、天皇の責任を問うのではなく、「天皇の意に沿わなかった」軍部を裁け、という戦後復興の施策まで提言している。そして、この日本人の複雑な心理を理解し、逆に利用していく方が、戦後に両国にとって実りのある関係が築けるとベネディクトは考えたようだ。

ベネディクトのこうした提言がGHQの判断にも影響を与えた可能性があるようだ。ベネディクトはその後高度成長を遂げた日本にとって恩人といえるのかもしれない。

こうした責務体系の複雑さは、忠臣蔵のような複雑なドラマを生んだ。日本の大河ドラマの面白さはこうした古い責務体系にこそあるような気がしている。ただ個人の幸福を追求する現代ドラマにはない切なさが感じられる。忠を立てれば孝が立たず、孝を立てれば忠が立たず、義務はあったが義理を優先する、義理が恩と対立する、義理と人情が対立するなどの、西洋人にはあまり見られない複雑な状況が発生するからだ。

ベネディクトも当然のように忠臣蔵を例に挙げている。私がこうしたテーマで感動したのは山本周五郎の「樅の木は残った」。君主の命に反して逆臣として死ぬことで、君主に報いると言う、とてつもなく複雑怪奇な責務ドラマである。だが、主人公の心理に読者の日本人は今でも深く共感できるところがある。ベネディクトが60年前に見ていた日本人の精神構造は、近代化、西洋化が進んでも、いまだ奥底に生きている証なのだろう。

・樅ノ木は残った (上)
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「仙台藩主・伊達綱宗、幕府から不作法の儀により逼塞を申しつけられる。明くる夜、藩士四名が「上意討ち」を口にする者たちによって斬殺される。いわゆる「伊達騒動」の始まりである。その背後に存在する幕府老中・酒井雅楽頭と仙台藩主一族・伊達兵部とのあいだの六十二万石分与の密約。この密約にこめられた幕府の意図を見抜いた宿老・原田甲斐は、ただひとり、いかに闘い抜いたのか。 」

戦後60年で日本人は古い恩や義理の追求から、個人の幸福の追求へと価値観を変えてきている。今だったら樅の木は...残らないだろう。

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2005年07月31日

勝つためのインターネットPR術

・勝つためのインターネットPR術
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インターネットPRの入門書。

第1部はライブドア社長の堀江貴文氏によるインターネットPRの思想編。
第2部はニューズ・ツー・ユー社長の神原弥奈子氏によるインターネットPRの実践編。

第1部の要点は経営者自らが会社のPRマンになり、PR対象として「インベスタマー=投資家+消費者を想定せよ」ということ。このインベスタマーとは堀江氏の造語で、投資家と消費者を合成した概念。特に一株あたりの価格が安く、大勢の個人株主に投資機会が開かれたライブドアでは、顧客の利益=株主の利益という構図が成立しているという。

インベスタマー的な考え方は、先日書評したバリュープロフィットチェーンの理論とも似ている。

・バリュー・プロフィット・チェーン―顧客・従業員満足を「利益」と連鎖させる
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003630.html

顧客、従業員、株主などステイクホルダーがひとつの価値を共有し、それを最大化するような組織を作れという内容だった。

ブログを続ける秘訣として堀江氏は、

1 毎日更新すること
2 日記のつもりで書く
3 自分をつくらず、淡々と書く
4 コメント欄の批判、悪口は格好のマーケティング材料と思って謙虚に読む

の4つを挙げている。

「インターネットは定食屋、テレビは高級フランス料理店」だとして、立派に着飾ったデザインのホームページよりも、毎日更新するブログの方が、企業広報にとっていかに価値が高いかを力説している。

第2部では、この「消費者と投資家を同一視せよ」思想を受けて、IRとPRはシームレスである、として社長ブログが推奨される。

とても面白いと思ったのが、神原社長の会社が提供している社長ブログサービス。

・News2u.net 社長ブログ 企業の社長向けのブログサービス
http://blog.news2u.net/

社長が開設できるブログ。利用料金は3150円/月。アクセスがゼロの自社のサイトで始めるよりも、手軽にこのサービスを使ってブログを書くのも一定の集客効果がありそう。

ここで一覧できる社長のブログはどれも面白いと思う。内容がぼやきや愚痴であっても、何かをしようとしている、本気で考えている、必死な人たちであるからだろう。同業者の経営トップの日記ならなおさら興味が出てくる。

起業家100人のブログが読めるドリームゲートブログも素敵だ。

・起業家100人挑戦日記2005/独立・起業に関するブログならドリームゲートブログ
http://dblog.dreamgate.gr.jp/100entre.php

経営への効果はともかく、コンテンツとして社長ブログは人を惹きつける何かがある。

次は少子化で差別化が求められている教育業界の広報戦略として「校長ブログ」なんてどうだろうか。まだまだ少ないようだが、校長が教育を語るブログの効果は経営方針を語る社長以上に高い可能性があるのではないだろうか。

・校長日記
http://www.sugiyama-style.tv/
今Googleで「校長」を検索すると第1位に表示されるデジハリ杉山校長のブログ。

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2005年07月25日

バリュー・プロフィット・チェーン―顧客・従業員満足を「利益」と連鎖させる

・バリュー・プロフィット・チェーン―顧客・従業員満足を「利益」と連鎖させる
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■企業の価値とは何か、誰にとってのどのような価値か

この本の大意は、顧客と従業員を満足させることと、製品・サービスの価値提供の仕組みを創出することを連動させることで、価値の連鎖を最大化する現代の企業組織の方法論である。

この本がいう価値とは顧客にとっての結果であり、結果を得るまでの過程品質である。

古いマーケティングの言葉に「顧客は四分の一インチのドリルではなく、四分の一インチの穴を買うのだ」というのがある。この言葉の意味は、四分の一インチのドリルの販売を考えている経営者は、低費用で穴を開ける優れた方法を開発している業者の競争相手にはなれない、ということである。ドリルは製品である。ドリルの修理はサービスである。「結果こそが事業である」と定義したとき、その事業は初めて利益の出るものになる。」

顧客は製品やサービスを購入するのではなく、結果を購入する。そしてさらに言えば、結果がもたらされる方法、すなわち「過程品質」をも同時に購入している。この本では(結果+過程品質)÷(価格+顧客のアクセス費用)が価値であると述べられている。

■顧客も従業員も「関係が深いほど価値に貢献する」

顧客は満足度と忠誠度が向上すると企業にとって「敵対者」→「傭兵(浮動票)」→「忠誠者」→「伝播的忠誠者」→「使徒・所有者」へと変化していく。ステップが上がるごとに顧客にとっての生涯価値もあがっていく。他の消費者に対して製品を推奨するようになる。

満足 予測していた以上のものを手に入れる

忠誠 繰り返し購入することで「予算のシェア」を大きくする

コミットメント 忠誠を示すとともに満足したことを他者に話す

伝道者的行動 高い忠誠へと発展して他社の購買を説得する

所有者意識 提供物の継続的な成功への責任を負う

多くの製品・サービスでは伝播的忠誠者や使徒・所有者レベルのヘビーユーザが15%を超えることはないが、彼らは販売額の85%を購入している。この本の試算では10年間で「伝播的忠誠者、使徒・所有者」グループは「傭兵」グループの138倍の価値があるとしている。関係が深いほど価値に貢献するということになる。

従業員のもたらす価値も顧客と同じかそれ以上に重要だとされる。特に生産性の高い従業員の離職は企業に大きな損失をもたらす。経験豊かな自動車ディーラーが新人に代わると生産性が低下し販売に30万ドル以上の累積費用が生じるという。データベースのオラクルのエンジニアが辞職すると代わりの採用と教育に数倍の費用が掛かるらしい。メリルリンチでブローカーが引き抜かれることは、クライアントを失うことにつながり数百万ドルの損失にもなる。

しかし、生産性の低い従業員を長く雇用することの負の効果もある。誰が生産性の低い10%かを見分けて、計画的に離職させていく方針をとって成功する企業もある。従業員には類は友を呼ぶ性質があり、AクラスのプレイヤーはAクラスと共に働きたいと考える。結局、従業員価値を高めるには、「より少なく、よく訓練され、よい給与の従業員が常に勝つ」組織を作ることが大切であるとされる。忠誠や生産性の高い従業員は関係性も深いことも数字で示されている。

■「リーダーシップと経営者」「ビジョンと戦略」「価値観と文化」

こうした関係性や価値を定式化して、従業員価値方程式、パートナー価値方程式、投資家価値方程式、顧客価値方程式などの計算式が示される。

そして、これらの方程式群を最大化し、価値連鎖を生み出す組織の注目ポイントとして「リーダーシップと経営者」「ビジョンと戦略」「価値観と文化」の3つを挙げ、業績の三位一体の総和を最大化せよと説く。価値連鎖を起こす方向にすべてを変革せよということである。

従業員の成功と、顧客やその他の人々の成功とを密接にリンクさせる「組織業績のハードワイアリング」が最も大切な戦略になると結論されている。具体的に取引、戦略、文化、組織の各階層でのハードワイアリングの事例も示されている。

全体的に、とてもたくさんの有名な企業ケース(IBM、セメックス、シスコ、GE、ウォルマートなど)が示されていて、理論の理解もわかりやすい。従来の経営指標では隠れてしまう顧客、従業員の関係性に着目し、それらを価値連鎖に向けて全体最適化すべきだというのが要旨となるだろう。

この本には登場しないが、SNSや社員ブログ、顧客ブログはこうした指標に密接に関わってくるようにも思った。新聞に発表されるような単純な会員数や社員数、売り上げや利益では計ることができない部分があるというのは特にネット企業の評価において、多くの人が気がついていることだろう。同じ100万人の会員を持つ100人の社員の組織でも、内実はまったく異なる。従業員や顧客の関係性の濃さ、価値創出への噛み合い方をどのように見極めるかが、これからの経営の鍵になるというのは間違いないだろうと思った。

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2005年07月05日

会社は誰のものか

・会社は誰のものか
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会社は誰のものか、タイムリーなテーマを、電通に20年勤務し数々の会社を眺めてきた著者が語る。私自身、会社の株主であり、経営者であり、実質従業員であるのでとても気になって読んだ。

・nozomu.net - 吉田望事務所 -
http://www.nozomu.net/
著者のサイト

歴史を振り返ってみると、会社のスタンスは以下の3つに分類されるという。

1 公器    会社は国家、国民のものである
2 近代組織  会社は株主のものである
3 従業員組合 会社は従業員のものである

そして、それぞれの経営者は、スタンスによって順に、

1 免許人
2 近代経営者
3 組合委員長

の3つがいるとする。

一昔前のゲームのルールでは、1,2,3の要素をうまく使って、できる三角形の面積を最大化するというものであった。それが次第に2(株主の利益)を尺度として頂に置いた上で、1と3を横の頂点とした背の高い三角形を作ることが、ルールとなったのだという。

だが、実際には2の高さを競っても、1と3の土台が広くなければ、変化のある経済の中では、脆弱な組織であると著者は指摘している。経済のグローバル化の中で、株主主権というスタンダード以外の会社は存在が難しくなってきていることを認めつつ、会社は株主のものという単純な図式の弱点をも指摘している。

思うに、もともとモノでないモノを法人というモノとして、誰のモノ?と問う最近の風潮がおかしいのではないかとも私は感じる。ライブドア問題にせよ、一連の大企業不祥事問題にせよ、最近の企業の危うさは、一元的に誰のモノと思い込んでしまった狭い視野に起因しているのではないかと考える。

そして、この本では、これからの時代の「新しい会社」の特徴を以下の7つにまとめている。

1 持ち株会社制度が進む
2 人的資本が見直される
3 社会的責任投資が論議される
4 ブランドの価値が高まる
5 大企業が産業政策を代行する
6 先祖がえりの可能性
7 最後に志が問われる

5の項ではマイクロソフトが約3.3兆円の特別配当を実施して、米国経済に有効需要を作り出してしまった例が取り上げられている。日本でこの役割ができるとしたらトヨタだと名指ししている。国家にできないことが企業にできるという一例であるが、一歩間違えば、国家体制を揺るがす危険もあるだろう。

結論の「企業は最も志の高い人のものである」(そうあるべきである)はそれにしても名言。まったくその通りだなと感銘。株を多く持つ人でなく、徳を多く持つ人が偉い徳式会社とか、よいかもしれないと考える。いや半分本気で。

特にネット企業の深い分析も多くて、とてもためになる本。

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2005年05月31日

起業バカ

・起業バカ
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中小企業白書によると日本全国で起業したい人は130万人でサラリーマンの40人に1人。何らかの準備をしている人が60万人〜70万人で、実際に起業する人は年間18万人。これらの起業家の中で株式上場というゴールにたどりつけるのは1580人に1人であると著者の計算が紹介されている。企業の設立と倒産状況を見ると、1980年代以降は設立より倒産のほうが数が多い。数字上はベンチャー起業はギャンブルに近いことになる。

学生時代からベンチャー起業をしている身からすると、この本に書かれている現実の厳しさは「当たり前じゃん」なのだが、ブームに乗ってそうした前提を知らずに起業してしまうと痛い目にあう。この本にはその痛い事例が多数収録されている。経営の勘違いによる失敗、出資詐欺、あやしいブローカーの暗躍、乗っ取り、フランチャイズ本部の半端ではない搾取ぶり、銀行の貸し剥がし事例など、どれも生々しく悲惨な現実が描かれる。

2007年から団塊の世代800万人のうち680万人が退職を迎える。退職金で経営者としての第2の人生を夢見て起業するシニアベンチャーが大量発生する可能性があるようだ。「リストラ脱藩」と「エリート脱藩」も増えており、起業時の平均年齢も2002年が41.4歳で年々高くなっている。

こうした層が特に危ないと著者は警告している。

脱サラ起業家がかかりやすい病として、次の3つがあるという。

・会社病
 在籍していた会社の信用を自分の信用と勘違いする
 出身会社や業界の常識をビジネスの常識と勘違いする

・新聞病
 新聞や雑誌に書かれている記事を鵜呑みにする

・依存病
 権威や組織に依存した心理のままである

この病気のタイプが選びやすいのが、コンビニ、弁当屋などの本部のあるフランチャイズビジネス。彼らは、すべてお膳立てしてくれる本部の指示に従えば、開業後に見込みどおりの儲けが出ると信じて投資する。だが、実際には開業時の投資の大半は本部の儲けであり、その後どうなろうと本部は気にしない。儲かればさらにロイヤリティが入ってくるし、失敗して経営者がすぐに閉店すれば、途中解約の違約金を請求できる。

フランチャイズオーナーは、単にビジネスリスクを負わされているだけなのだ。儲かったとしても通常のビジネス感覚ではリスクの対価としてはあまりにも高額なコミッションを抜かれてしまう。この本では上納金100万円、経営者の月給8万円というひどい実例もあった。大手有名フランチャイズでも、こうした状況はあるらしい。フランチャイズをやるならフランチャイズ本部そのものを創業するのが賢いと思った。

基本は知識なしにベンチャーを創業するのは危険だという論調の本だが、起業そのものの可能性や面白さは否定していない。著者自身の痛い失敗も書かれているが、いまも起業に魅力は感じているらしい。

ベンチャー創業はゼロからビジネスをすることだが、ノウハウがゼロからであるとまずいのだと思う。今なら、学生時代にスタートアップベンチャーでインターンとして働く体験をするのが良いだろうなあと思った。会社員生活の後にベンチャーをやるのではなく、ベンチャーを体験した後に、会社員になった方が、自分の適性も分かる。

・実践型インターンシップ・起業支援 NPO法人ETIC.(エティック)
http://www.etic.or.jp/
ここは大学時代の友人らが経営しているインターンシップ運営団体。設立当初の最初のホームページは私が手でHTMLを書いてお手伝いしたのでした。実績豊富。おすすめ。

・優秀起業プランに3000万円出資のネットビジネスコンテスト
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003405.html

・成功前夜 21の起業ストーリー
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003020.html

・ 起業人 成功するには理由がある
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000712.html

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2005年05月19日

日本のお金持ち研究

・日本のお金持ち研究
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極めて面白い本。

■日本のお金持ちは2タイプ オーナー経営者と開業医

著者ら研究グループは、2001年度全国高額納税者名簿から、年間納税額3000万円以上(年収1億円以上)で、前年から続いてランクインしたお金持ち6000人にアンケート回答を求めた。結果、約8%から貴重な回答データを得た。その結果をもとに日本のお金持ちの実態を徹底調査した。この層の年収は1億円で資産54億円が平均。

結論として日本のお金持ちに多い2つのタイプが浮かび上がった。

高額所得者における職業別の比率が紹介されている。

企業家(最高経営責任者) 33.3%
トップではない経営幹部  11.6%
医師           15.4%
芸能人・スポーツ選手    2.2%
弁護士           0.4%
その他          38.7%

企業家と医師で上位45%を占めている。

この国のお金持ちとは社長さんとお医者さんなのだ。

社長さんは大企業のサラリーマン社長ではなく、創業者でオーナー経営者が多い。お医者さんでは大学病院の大先生ではなく、整形外科や眼科の開業医が多い。経済的に成功している人たちというのは、意外にも子供の頃から成績抜群でエリート街道まっしぐら、ではなかったわけである。一流大学を主席で卒業して大企業幹部候補生として入社するだとか、白い巨塔の財前教授のように医局のトップへまっしぐら、という道は選ばない。

むしろ、学生時代、勉強はあまりできませんでしたというタイプがお金持ちになっている。医者であれば花形の大学病院の内科や外科にはいけなかったので、眼科や整形外科になって時流に乗ったパターンが多い。経営者の自己評価でも成功に大切なのは才能ではなくて勤勉さという答えが多い。同じことを30年やっていたらお金持ちになりましたというパターン。

人生わからないものである。面白い結果だ。

予想とだいぶ違うのは弁護士。彼らの年収は1000-1500万円が多く、1億円以上は4%に過ぎない。よく稼ぐサラリーマンと同レベルだ。資格を取る苦労の割には儲からない仕事らしい。一部には法律事務所を組織し、大企業相手に高額の契約をまとめる高額所得者もいるが、彼らはほとんど経営者といえる。

その点では開業医も経営者と言える。日本でお金持ちになるには、結局、個人の才覚で経営をすることが近道らしい。一流大組織指向でいい大学からいい会社に入ってもこのグループにはなれない。

■一億層中流のウソと消えた上流階級

橋本健二氏のアンケート調査によると90%の日本人が自分は中流であると意識している。しかし、これは先進国はどの国でも中流意識を持つ人が90%であり、日本の特徴ではないという。同氏の実態調査では1995年時点の日本のマルクス的な意味での階級は以下のように分類できるそうだ。

資本家階級  9.2%
新中間階級 23.5%
労働者階級 45.4%
旧中間階級 21.9%

資本家階級の年収は1294万円でそう高くはないが、実物資産7541万円、金融資産3658万円でかなり平均を上回る。持ち家比率86.7%。学歴構成は高等教育36.4%、中等教育47.4%、義務教育16.2%で、多様性が高く、必ずしも資本家階級=高学歴ではない。

また、「上流」が何を指すか分からなくなったことが指摘されている。かつては名門の家柄出身で、財産を相続し、帝国大学出身で、大企業グループの経営者のような典型的上流階級が日本を支配していた。だが、この本のデータによると現在は様子が違う。身分、所得、職業、権力、支配力、などの要素の何が上流を意味するかが変わってきている。

キャリア官僚のような権力エリートは高額所得者であることが少ないので、パワーエリートと経済エリートは別の層が受け持っている。すべてを手にすることはもはや難しい。

この本では他にもお金持ちの生活行動パターンやお金の使い方の詳細な分析、人生観、乗っている車や住んでいる場所、高額所得者の課税政策の考察など、読みどころは多い。お金持ちになりたい人、お金持ちに何かを売りたい人、世の中に矛盾を感じつつも何がおかしいのかもやもやしている人に特におすすめ。

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2005年05月16日

アマゾン・ドット・コムの光と影―潜入ルポ

・アマゾン・ドット・コムの光と影―潜入ルポ
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アマゾン配送センター、倉庫内での梱包及び軽作業、時給900円、2ヶ月で契約更新のアルバイト。流通業界のフリー記者である著者は、約半年間、この仕事に潜入した。マスコミに対して秘密主義で知られるアマゾンの心臓部の配送センター。徹底的なコスト競争力維持のため極限まで機械化された労働環境。

見習いアルバイトが最初に担当するのはピッキング。カードに書かれた商品を棚を回って集める単純作業。ノルマは1分間3冊。アルバイトの作業実績はコンピュータで集計され、2ヵ月後の契約更新の参考とされる。配送会社とアマゾン正社員の監視、監督の下、黙々と作業を続けるアルバイトたち。

米国アマゾンの2004年の決算発表では売り上げ70億ドルで、アマゾンジャパンを含む国際部門はそのうち31億ドル。ジャパンの売り上げは国際部門でトップであるという。著者は朝礼で聞いた配送センターの1日当たりの出荷数と、平均客単価の掛け算で、2003年度の売り上げを500億円。2004年は1000億円を超えると著者は報道資料などと推測している。

これが事実ならば、業界トップの紀伊国屋、丸善に次ぐ書店業界ナンバー3のポジションをネット書店一店舗が占めていることになる。一般書店の平均客単価は1500円程度に対してアマゾンでは3000円前後。返品率は業界平均で30%台後半であるが、アマゾンは一桁台。何が売れるかの予測精度の確かさにもとづくバイイングパワーと、送料無料、24時間以内配送の低コスト即時配送のオペレーションがアマゾンを支えていると言われてきた。

しかし、実態は長い間秘密のベールに包まれてきた。著者は配送センターの末端で働きながら、記者としての観察眼を活かして、アマゾンを支える配送センターの労働実態を分析する。細部の数字を積み上げることで、アマゾンジャパンやアマゾン全体の規模や動向が見えてくるのが面白い。経営幹部にインタビューする他のアマゾン研究本にはない視点が盛りだくさん。

センターのホワイトボードにあったベンダーコード一覧に「BookOff」の文字があることや、ダンボールの中で見つけたベストセラー版元糸井重里事務所との取引メモ(掛け率65%、50冊、買取り)、1年間で2000万円の在庫エラーと盗難事件の関係。こうした小さな日常の出来事から、著者はアマゾンのグローバルビジネスを分析してみせる。

使い捨ての安価な労働力をシステムに組み込みフル稼働させることで、1クリック、送料無料、即時配送が実現されていることもよくわかる。1クリックの先には慌しく駆け回る幾人もの配送センターのアルバイトの労働があるのだ。アマゾン正社員、取次社員、契約社員、アルバイトという厳密なヒエラルキー。アルバイトに昇進の出口はない。著者はこの状況を資本家による搾取として批判気味。

気に入らなければ職場を移ればよいのだから、この批判が妥当かどうかは分からない(実際、著者の同僚はこの労働環境を問題としていないようだ)。少数の知識集約型エリートによる上層部と、システマチックに管理される多数の単純作業アルバイトという組み合わせは珍しくはない。ただ、日本的経営で盛んな現場知識の吸い上げはまるで行われていないようだ。そもそも配送センターで働くアルバイトはアマゾンのオンラインショップを使わない層なのだという指摘もある。

この本はアマゾンの強さの秘密という「光」と、その強さを支える工場労働者の悲哀という「影」を同時に語ろうとするIT企業分析本としては異色のアプローチ。取材ではなく潜入だから知ることができた情報が多数盛り込まれていて、大変面白く読むことができた。

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2005年04月14日

夢と欲望のコスメ戦争

・夢と欲望のコスメ戦争
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海外出張すると妻に免税店で香水をおみやげに買ってくるように頼まれる。ただそれだけが私とコスメの接点である。香水はコスメなのか?。いや、それさえもよく知らない。違うかな。そういうレベルの平均的な男性の私でも、化粧品業界がよくわかった。

まず「化粧品の分類と使用手順の一例」というフローチャートがとても勉強になった。人生ではじめて女性の化粧プロセスを知った。

このチャートを要約してみると...。

クレンジングでメイクを落とし、洗顔料で肌の汚れを落とす。化粧水で肌に水分を補いキメを整えたら、乳液、クリームで油分を補い乾燥を防ぐ。そして美容液、パックで美白・しわ対策をしたら日焼け止めで紫外線から肌を守る。ここまでが基礎(スキンケア)化粧品。本来の化粧であるメイクアップはこの後に始まる。

下地クリームで化粧のりをよくし、コンシーラーでシミ・ソバカスを隠す。ファウンデーション、パウダーで肌を明るく美しくする。マスカラ、アイライナー、アイシャドー、アイブローで目元を印象付ける。口紅、リップグロスで口元を彩り、艶を与える。チークで顔を立体的に血色よく見せる。ハイライトでもさらに顔を立体化する。

これで一例なのだから大変だ。化粧品の名前がこれだけでも大量に登場している。ひとつひとつに競合関係にある会社とブランド、商品ラインナップがある。市場規模は2兆円程度で、自動車市場の41兆円、外食市場の25兆円、アパレル市場の10兆円と比較すると小さいマーケットであるにも関わらず、激しいマーケティング競争が繰り広げられている。

国内化粧品市場の売り上げトップ10はこの本によると、以下のとおり。

1位 資生堂  3476億円
2位 カネボウ  1948億円
3位 コーセー  1206億円
4位 花王  776億円
5位 マックスファクター 550億円
6位 DHC  510億円
7位 ポーラ化粧品本舗  450億円
8位 ノエビア 
9位 ファンケル
10位 日本メナード化粧品

大手メーカーは複数のブランドを持つ。資生堂は「ザ・ギンザコスメティックス」という高級ブランドで、40グラム10万円という超高級クリームを販売している。資生堂が運営するザ・ギンザで年間1200万円以上のアパレル商品を購入する層がメインターゲットだそうだ。それが決して少なくない数売れているという。

6位のDHCといえば化粧品と言うよりは、2ちゃんねるに損害賠償を訴えている会社と言うのが私の手持ち知識だった。もともとは大学翻訳センターの略で翻訳業務の会社として始まったらしい。100円ショップで化粧品を売るなど安い価格のコスメで大成功をおさめている。

10万円以上から100円まで価格の幅が広いコスメだが、中身の原価は5〜10%程度である上に、価格が10倍違えば原価も10倍違うかと言うとどうやらそんなことはないらしい。価格は原材料費や必要経費の積み上げで決めるのではなく、ブランドイメージ戦略によって決められていることが暴露されていた。化粧で男性を化かす女性も、化粧品には化かされているのだ。

一流百貨店の入り口フロアは化粧品フロアであることが多い。日本で化粧品売り上げトップの伊勢丹新宿店では年間100億円以上を売り上げる。百貨店経営にとってはドル箱、化粧品メーカーにとってはなんとしても確保したい一等地だそうだ。で、あるが故に百貨店は一流海外ブランドを好条件で誘致したり、メーカに対しては競合店舗への出店に圧力をかけたりしているという。イメージ戦略上大切な外資系の売り場費用は70〜80%が百貨店持ちで、国内メーカーはメーカー持ちという格差もあるらしい。

あの売り場で働くお姉さんたちはデパートの人なの?メーカーの人なの?と以前から気になっていたのだが、大抵はメーカーから派遣される美容部員であるという。長時間の立ち仕事で厳しいノルマのプレッシャーがかかる割に、新入社員の年収は200万円レベル。本人の希望と関係なく転勤させられてしまう。楽な仕事ではないらしい。美容部員というのは基本的にその月のメーカーが販売強化したい推奨商品であるそうで、それをいかにお客様のために選んだかのように「コンサルティング」するのが、美容部員のノウハウ。ああ、ここでも化かしあいが、ある。

知らないことばかりで大変、勉強になった本だった。

美白、ナチュラル、機能性化粧品、CM戦略、販売戦略、業界裏事情などコスメについて幅広く説明している。この分野をよく知らない私のような一般的男性が概要を把握するのにうってつけの内容だと思う。ビジネスの会議で「コスメ」というキーワードが出てきたときに、間抜けな発言をしなくて済む。

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2005年03月14日

景気とは何だろうか

・景気とは何だろうか
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■景気は良くなっても暮らしは良くならない日本経済

今年(2005年)になってから書かれた新しい内容。

景気はこれからどうなるのか、誰しも気になるが、今は上向きなのか下向きなのか、そもそもが分からない。銀行出身の経済学教授が現代日本の景気について解説してくれる本。経済の基礎から、戦後日本の景気循環のまとめ、構造改革とは何か、不良債権問題まで、景気の見方を与えてくれる本。

2003年から2004年にかけて、GDP、企業業績、雇用などの統計指標は若干の上向きを見せた。構造改革の成果がでてきたと政治家は説明した。

だが、これは業種間、企業規模間の格差が大きい景気回復で、

業況のいい業界の大企業の調子はきわめて良い
業況の悪い中小企業の業況はきわめて悪い

であることが数字から判明する。

数の上で前者は少数で後者が圧倒的多数であるから、景気が良いと実感を持てる人はほとんどいない。国民生活基礎調査の「生活意識の状況」項目では「やや苦しい」「大変苦しい」と回答する人が増え続けている。

そもそも、この回復基調が構造改革の成果でさえないのだと著者は述べている。

この本では4つの景気循環の波が紹介されていた。

ジュグラーの波 約10年周期 企業の設備投資の循環
コンドラチェフの波 約60年周期 技術革新?
クズネッツの波 約20年周期 建築投資の循環
キチンの波 約40ヶ月周期 在庫投資の循環

景気循環の中期、長期の波で考えるならば2005年というのは次の好況への入り口であっておかしくないようだ。本来であれば2000年頃に好況があってもおかしくはなかったらしい。著者は1997年を不況の起点と考え、その原因は政府の金融政策の失敗だと説く。そしてその後の構造改革が、本来は好況に移行できるはずの日本経済に、悪影響を与えているという。

■構造改革批判、不良債権の処理は急ぐ必要がない?

小泉政権の構造改革とは、停滞分野にある経済資源(資本、労働)が市場を通して成長分野へ流れるようにする、そのための障害を取り除くことだと、要約されている。成長分野の育成と停滞分野の除去である。

しかし、成長分野に資源を流しても、それほどの成長の需要があるわけではなかった。むしろ停滞分野を除去する過程で一層景気を悪化させてしまったではないか、と批判する。
不良債権の処理は効果がないか、急いで行えば有害でしかない、という著者の主張はなるほどなと思った。1995年から2003年までに処理した不良債権は80兆円、2003年末の数字で26兆円が残った。だが、これをもともと不良債権が100兆円以上あって、10年で80億円も処理しましたと考えるのは正しくないという。実は95年度の不良債権残高は28兆円だったのだそうだ。つまり、10年で抱える不良債権残高は2兆円しか減らなかった。残りの80兆円はその10年の間に発生したとみなすのが正しいという。これでは幾ら処理しても終わらないのである。

そもそも不良債権と正常債権の区分は主観的なもので、見る人によって線引きが異なることを著者は指摘する。処理を急げば、まだ生きている、可能性のある会社まで潰してしまうことになる。

この10年は私にとって社会に出て働き始めた10年だった。IT業界はバブルがあって、反動不況があって、今また好況へ向かっている感じがする。自分が体験した10年は日本経済全体の景気とはあまり連動していなかったなと思う。この本が言うように、自分の財布(この本で言う、暮らし)と景気も連動していない。お金があったりなかったり。世の中にはもっと大変だった業界もあるだろうし、もっと笑っていた業界もあるだろう。

そういう個別ケースが増えるということがこの本に書かれている。景気が良くなれば国民全員の暮らしがよくなるという単純な関係ではなくなっている。つまり、漠然と景気が良くなるのを待っていてはダメだということだ。

暮らしをよくするための施策として、この本では所得の増大、雇用の拡大、将来への不安の3つが重要とされ、提案がまとめられている。とりあえず、暮らしも重要なのだけれど、時間の大半を費やしている仕事の世界の、景気、もっと良くなって欲しいなあ。

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2005年03月01日

未来ビジネスを読む 10年後を知るための知的技術

・未来ビジネスを読む 10年後を知るための知的技術
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■未来学の必要性

1890年のシカゴ世界博覧会で当時の頭脳100人がアメリカの100年後を予想したそうだ。著者はこの年を未来学元年とし、当時の予測のリストを紹介している。

「アメリカ人の平均寿命は150歳まで延びている」
「社会は豊かになり、男女平等の社会が実現できている」
「税金も不要なほど、経済が発展している」
「人類は自由に空を飛ぶようになっている」
「各家庭にはテレフォーテという装置が備わり、居ながらにして世界のどことでも話ができ、世界中の娯楽が楽しめる」

などなど。

外れたものもあるが、当たったものや、それ以上を実現してしまった項目もある。

著者は、日本は技術の予測はうまいが、未来を科学的に分析することが下手で、それが「失われた10年」で日米の差を広げたとし、日本にも未来学が必要だと提案している。この本は米国の未来学の歴史を辿りながら、未来学の歴史、未来予測の手法、これから有望な未来ビジネスについて論じる。

面白い。

■米国の未来研究の歴史と最前線

アルビン・トフラー(巻末に著者との対談が収録)、ハーマン・カーン、H.G.ウエルズ、アーサー・C・クラーク、エジソン、ピエール・ワッツ、ドラッカー、ピーター・シュオルツなど各分野の未来研究者たちの予測や手法がたくさん紹介されている。

個人的に目を引いたのが、ウィリス・ハーマンという研究者。ウィリスはノエティックサイエンス研究所という、意識革命を説く、精神系のちょっと怪しいシンクタンクの所長だが、「アメリカ人が願ってもなかなか得られなくなるもの」として5つを挙げた。

1 時間 Time
2 他人から認めてもらうこと Recognition
3 賢明な選択に必要な情報 Intelligence
4 影響力 Influence
5 地位や環境の安定 Stability

まさに現代において人々が求めているもののリストだという気がする。これらの欠乏と欲求に国境はないから、普遍的な対策を立てることができるとウィリスは結論している。

ネット社会でもこれら5つは強く求められているものだと感じる。人々がこれらを求め続けるとしたら、どのような変化が起きるのか、どのような対策を立てうるのか、という視点はネットの未来予測にも使えそうに思った。

なお、この本に登場する主な未来予測組織は以下の通り。

・RAND Corporation
http://rand.org/
ヒューチャーズ・グループ

・The Arlington Institute
http://www.arlingtoninstitute.org/

・GBN Global Business Network
http://www.gbn.com/

・The DaVinci Institute - Home Page
http://www.davinciinstitute.com/

・World Trends Research
http://www.worldtrendsresearch.com/

・World Future Society
http://www.wfs.org/

■ヒューチャリストの3大条件

米国の世界未来学会が選んだ未来研究者ベスト17人を観察したところ、次の3つの共通点が浮かび上がったそうだ。著者はこれを「独特のレーダー」と呼んでいる。「先見の明」の内容ということでもあるだろう。

第1条件 科学や技術の最先端の動きに最新の注意を払うこと
第2条件 多くの人のパーセプション(認識)を変えるような出来事を敏感に察知すること
第3条件 まだメジャーになっていないが、インパクトを起こしそうな発想や常識とは違う意見にできるだけ早く注目すること

こうしたレーダーを持つ人たちを集めて、科学的手法で未来を予測すべきだというのがこの本の提唱する未来学といえる。

ここではニューヨーク州教育局が実施した未来予測の手順と各段階の手法が解説されていて参考になった。ひとりひとりの専門知を活かしつつ識者集団の全体予想を抽出する科学的なステップ。

・ブレーンストーミング法
・デルファイ法
・未来の輪
・クロス・インパクト・マトリックス

そして、最終的に予測シナリオが作成される。ここでは「エボリューション」「レボリューション」「サイクルモデル」「勝者と敗者」「挑戦と応戦」などのシナリオモデルがあるとされている。

とても具体的に未来予測の手法を概観していて、未来予測プロジェクトを実際にやってみたくなる。

さて、この本のタイトルである未来ビジネスについては終盤で2章が割かれている。ナノ
バイオ、量子コンピュータなど、日経サイエンスやニュートンの読者ならば、よく知っている種類の先端科学シーズが多いが、二つほど、面白いテーマをみつけた。

・ウォータービジネス
今世紀半ばに世界人口は93億人で70億人が水不足に直面する。

・短時間睡眠で長寿と健康を保つ研究
眠らず、ある種のカロリー不足を続けることが長寿の秘訣であるという可能性

何か、ある、かもしれない。投資する勇気はないが(笑)。


ところでこの本に出ていたのではないのだが、好きな言葉がある。

「未来を予測する最良の方法は、それを発明してしまうことだ 」(アラン・ケイ)

究極のフューチャリストは未来をつくる人のことだろう。


・二十年後―くらしの未来図
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001260.html

・歴史の方程式―科学は大事件を予知できるか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000778.html

・科学の最前線で研究者は何を見ているのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002042.html

・ビジネスチャンス発見の技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001151.html

・22世紀から回顧する21世紀全史
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000419.html

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2005年02月22日

これから情報・通信市場で何が起こるのか IT市場ナビゲーター

・これから情報・通信市場で何が起こるのか IT市場ナビゲーター
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野村総研が2000年から毎年出版しているIT市場ナビゲーターの2005年度版。2009年までのIT市場の各分野の動向予測集。現状分析と予測の根拠、たくさんのグラフがあり、IT分野の企画に関わるマネージャー、マーケター、コンサルタントならば必携の一冊。

それは本音を言ってしまえば野村総合研究所(NRI)が出版しているからだ(笑)。

企画提案において、

「NRIの調べによるとこの分野の市場規模は来年度で○千億円規模です」

と正当に使えば、とりあえず、無難である。

会議で誰もわからない数字があったらトイレでカンニングし、

「先ほどの件ですがDSL市場は2007年度で1730億世帯と予測されていたと思います」

とやればデータマンとして株を上げられる。

少しひねって、

「NRIはこう分析しているが、実態を知るものの意見としては本当はこうなんです」

と”賢いワタシ”をアピールする使い方もあるだろう。

「調べておきます」で後日、メール回答するのにももちろん便利だ。

私も買って2週間で何度も仕事に役立っており、これで2000円は安い。

書評する本ではないが、目次の各章に対して短くつぶやきを書いてみる。

【主要目次】

序章 2009年までのIT市場トレンド

第1章 携帯電話市場
 1.1 キャリア市場
 1.2 モバイルプラットフォーム市場
 1.3 モバイル系コンテンツ市場
 1.4 モバイル系ソリューション市場
 1.5 携帯電話販売代理店市場

携帯電話は2004年1月で契約数8000万。世界での利用者は12億人。2006年10月の番号ポータビリティの導入で携帯キャリアの乗換えが促進される。結果、得をするのはau、損をするのがドコモの見込み。ソフトバンク参入はかく乱要素。キャリア各社は囲い込みに必死なので、他との差別化となるサービス、コンテンツを提供するビジネスが求めれている模様。

第2章 ブロードバンド市場
 2.1 DSL市場
 2.2 FTTH市場
 2.3 ケーブルインターネット市場
 2.4 公衆無線LAN市場
 2.5 専用線・IP-VPN市場
 2.6 ISP市場
 2.7 IP電話市場

2005年にDSLは1600万世帯だが今後の伸びは緩やかに。トリプルプレイ(高速インターネット、IP電話、映像配信)で、FTTHへの移行を進めたいキャリアと、移行メリットを感じないユーザの、かみあわない日々が今後も続く見込み。個人的には”無線LANでユビキタスホーム”系の何かが市場の突破口になるのではないかと思っている。

第3章 eビジネス・ライフ市場
 3.1 インターネット広告市場
 3.2 BtoC EC市場
 3.3 ネットトークション市場
 3.4 オンラインゲーム市場
 3.5 電子書籍市場
 3.6 音楽配信市場
 3.7 映像配信市場
 3.8 eラーニング市場

2003年の広告市場規模は5兆6841億円、インターネット広告市場は2.1%の1183億円。キーワード連動型広告が市場を牽引し順調に成長。ネット通販は2003年に2.2兆円だったが2009年には5.5兆円に達する見込み。日本のコンシューマの消費には「利便性消費」「安さ納得消費」「プレミアム消費」「徹底探索消費」のマトリクスがある説に深く共感。この図式は使える。

第4章 放送市場
 4.1 地上デジタル放送市場
 4.2 衛星デジタル放送市場
 4.3 ケーブルテレビ市場

2011年地上波デジタルへの完全移行は、インフラ整備や、ユーザの受像機買い替えペースと歩調が合わず、やはり困難な模様。デジ波は難視聴区域におけるCATVを圧迫するという意見になるほど。1セグ放送は「画像の美しさ」「電池持続時間の長さ」「月額固定料金」が鍵だそうだが、ケータイでテレビを見るかな、私は半信半疑。

第5章 ハード市場
 5.1 デジタル情報家電市場
 5.2 パソコン市場
 5.3 携帯電話端末市場
 5.4 車載情報端末市場
 5.5 デジタルカメラ市場
 5.6 フラットパネルディスプレイ市場

パソコンは途上国の需要増加と先進国の2台目需要が牽引で単価下落、成長率は相当低くなるとのこと。まさにそれはiMac Mini。携帯電話端末はローエンドへシフトの見込み。高い最新の高機能携帯の時代が終わるのか。

第6章 プラットフォーム市場
 6.1 電子認証市場
 6.2 課金・決済市場
 6.3 ICカード市場
 6.4 RFID市場

RFIDの有望分野は 製造業(生産管理)、アパレル(流通)、運輸業(管理)、スーパーマーケット(実証実験レベル)と、生活者から距離。2009年度のRFID関連市場規模は1000億円。小さいと思う。2009年には次の技術が登場しているのではないか?。私たちが生活の中で利用する技術にはならないのだろうか。

第7章 セキュリティ市場
 7.1 ウィルス対策市場
 7.2 不正アクセス防止製品市場
 7.3 電磁波問題対策市場
 7.4 バイオメトリクス認証機器市場

企業システムのウィルス対策市場は2003年で310億円。2009年に440億円。コンシューマ向けは2003年に220億円が、2009年に560億円へ。携帯電話向けやデジタル情報家電向けのウィルス対策市場が潜在するという。ウィルスが勝手に電話をかけたり、ビデオ録画したりするのはPC以上に怖い。ありえる話だ。

仕事で即使える本である。

・現代消費のニュートレンド―消費を活性化する18のキーワード
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001859.html

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2005年02月13日

成功前夜 21の起業ストーリー

成功前夜 21の起業ストーリー
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ラジオJ-WAVEのベンチャー社長対談を書籍化。ベンチャースピリッツが25本。薄い本だが内容はアツい。こういう本を読むと、とっくに起業済なのにまた起業したくなる。

・J-WAVE WEBSITE : Make IT 21
http://www.j-wave.co.jp/original/makeit21/
毎週、話題の起業家を招いて成功の秘訣を聴く。Webがとても充実している。

この本に登場する21人の個性的な起業家の顔ぶれ。

高田 明(株式会社ジャパネットたかた 代表取締役社長)
和田裕美(株式会社ペリエ 代表取締役社長)
藤井孝一(週末起業フォーラム 代表)
安田佳生(株式会社ワイキューブ 代表取締役社長)
直江文忠(サンクチュアリ株式会社 代表取締役)
吉野幸則(株式会社バルチック・システム 代表取締役社長)
小森伸昭(アニコム 理事長)
平野岳史(株式会社フルキャスト代表取締役)
野坂英吾 (株式会社トレジャー・ファクトリー 代表取締役社長)
杉本哲哉 (株式会社マクロミル 代表取締役社長CEO)
福井泰代 (株式会社ナビット 代表取締役)
石橋博良 (株式会社ウェザーニューズ 代表取締役会長兼社長)
遠山正道 (株式会社スマイルズ 代表取締役社長)
川崎貴子 (株式会社ジョヤンテ 代表取締役社長)
岡田賢一郎 (株式会社ちゃんと 代表取締役社長)
堀 雄一郎 (フュージョンインターナショナル・トレーディング 代表取締役社長)
経沢香保子 (トレンダーズ株式会社 代表取締役)
野口美佳 (株式会社ピーチ・ジョン 代表取締役社長)
伊藤正裕 (株式会社ヤッパ 代表取締役社長)
梶原文生 (株式会社都市デザインシステム 代表取締役社長)
安田 久 (H.Y.JAPANグループ 代表)

顔写真とプロフィールとラジオ対談の内容

起業の動機、経緯はさまざま。かなり無茶な人たちもいる。

銀行が事業に融資してくれないので結婚資金としてお金を借りて会社を設立したバルチック・システムの吉野社長、東京都内の地下鉄250駅を歩いて出口マップを作って起業した主婦の福井社長、サラ金に500万円の借金があって普通に働いたら返せないので起業したH.Y.JAPANグループの安田社長、本気を表すために指を切って血判状をつくり出資者を驚かせたサンクチュアリの直江社長。

対談内容は十人十色。とにかく皆、ユニークでキャラが立っていることだけが共通点。その個性に周りが、魅了されたり反発したりして、化学反応が起きた結果、会社が大きくなっているのだろう。

■なぜリスクを背負って起業するのか?

なぜリスクを背負って起業するのか?

私も起業家なので自分の答えをここに書いてみると結局のところ「Regret minimizing framework」で考えた結果である。同じような答えをする社長がこの本にも多かった。この
「Regret minimizing framework」はもともとはアマゾンの創業者の言葉。

以下のコラムが参考になるので長文引用。(私の起業には、学生時代に出会ったこの西川社長の影響もあったりするので)

・第9回 人生の成功の定義をかえよう - CNET Japan
http://japan.cnet.com/column/nishikawa/story/0,2000047995,20054706,00.htm

ビットバレーの提唱者でネットエイジ西川社長の起業コラム。


Regret minimizing framework とは?

 Amazon.comの創業者のJeff Bezosは、30歳のとき早くもヘッジファンドのシニアバイスプレジデントというポストについていました。が、そのニューヨークでの羽振りのいい生活をきっぱり捨てて、1995年、ワゴン車に妻と愛犬をのせ、北米大陸を横断し、徒手空拳、西海岸のシアトルでAmazon.comを創業しました。以来10年もたたずして世界中の人が便利に使う時価総額約1兆5000億円の巨大eコマース企業、Amazon.comを確立したのです。また、Forbesによると、個人的にも2900億円程度の資産を築いています。

 余談ですが、私は1999年にシアトルにいってBezosに会ったことがあります。そのときは、この目の前にいるチノパンツに白いシャツの、よく高笑いするおにいさんが、数千億円の資産家とはとても思えなかったです。それほど、質素でラフな印象でした。

 そのBezosがなぜ裕福なニューヨークの生活を捨て、ゼロからAmazon.comをやろうと決意したのかについて、WiredやThe Motley Foolに記事がありました。彼の言葉を簡単にまとめるとこのような感じです。「インターネットが急速な勢いで伸びているのを目の当たりにしたとき、僕は『regret minimization framework』という考え方を自分に信じ込ませたんだ。つまり、自分が80歳くらいになって死の床にあって自分の人生を振り返ったとき、後悔することがもっとも少なくなるように生きようと。投資銀行での業績や期末のボーナス がどうのこうの、とかそんなことは、いまは一喜一憂するけれど、80歳になったら全く覚えているわけないんだ。ところが、もしこのインターネット革命の波に乗れたにもかかわらず、乗らずに80歳を迎えたとしたら、悔やんでも悔やみきれないほど「自分はアホだった」と後悔するに違いないと確信したのさ。そうなったらぜんぜんリスキーなんて思わなくなった。すぐ行動したよ」

 彼の「regret minimization framework」つまり、「後悔極小化思考」も皆さんの起業決意への背中をポンと押してくれるのではないでしょうか

■起業家100人がブログを開始したドリームゲート

昨日、ある場所でドリームゲートのスタッフの方とお会いした。ドリームゲートは経済産業省後援の起業支援サービスである。最近どうですか?と聞いたら、「いま起業家100人にブログを書いてもらう企画をやってるんですよ」という。

「すごい話ですね、それは」と思った。

サイトを見に行くと、

起業家100人挑戦日記/独立・起業に関するブログならドリームゲートブログ
http://dblog.dreamgate.gr.jp/100entre.php
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すごいことになっていた。

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一覧ページの100人の顔写真にまず圧倒される。

本当にベンチャー社長100人がブログを書いている。しかも、ちゃんと更新されている。素晴らしい。

起業家たちは日々、自分のビジネスに必要なものや困っていることを書いている。起業家ブログ同士のリンクやトラックバックがきっかけで、協力提携やパートナー探しもできそうだ。ただ100個もあると全部見ることは難しい。マッチングの仕掛けを追加するべきだ。

そこでちょうどいい具合に、私の会社はマッチングに使えるエンジン「といえばサーバ」を開発している。これを使うと言語処理を行ってキーワードの類似した記事を抽出できる。起業家のキーワード一覧ページも作成できたりもする。Web運営スタッフ数人分の働きができるはずだ。

(ここで揉み手)一台どうですか?ドリームゲート様。

#と、最後は起業家らしく売り込みでまとめてみました

関連情報:

・ 起業人 成功するには理由がある
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000712.html

・一人シリコンバレー創業プロジェクト
http://www.hitorisilicon.com/


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2005年01月30日

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき

・イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき
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この2年くらい、私の周囲の経営者、マネージャーが話題にする本。読んだのは1年前だが咀嚼できたのが最近なので、いまさらだが書評してみる。

基本的に名著であると思う。でも結論には少し言いたいことがある。

この本の主題のイノベーションのジレンマとは、優良企業はその優良さ故に失敗するという理論だ。

優良企業の特徴:

顧客の声に耳を傾ける
求められたものを提供する技術に積極的に投資する
利益率の向上を目指す
小さな市場より大きな市場を目標とする

優良企業はこうした特徴によって市場のリーダー、大企業になる。だが、やがて成功の要因だったこれらの特徴が”破壊的技術”の開発を妨げ、新興市場への参入に失敗し、最終的には市場を奪われる理由になる、という説である。

破壊的技術とは、既存の技術の連続的な性能向上である持続的技術と対比されるもので以下の原則がある。

破壊的技術の原則:

1 企業は顧客と投資家に資源を配分している
2 小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない
3 存在しないニーズは分析できない
4 組織の能力は無能力の決定的要因になる
5 技術の供給能力は市場の需要と等しいとは限らない

破壊的技術と持続的技術の関係を検証するため、この30年間のハードディスク市場が冒頭で分析されている。

当初は巨大なメインフレーム時代でハードディスクも大きな14インチドライブが使われていた。勝者の企業は14インチの性能改善に取り組んでいた。だが、一方で新興企業は当時は市場ニーズが不明だった8インチドライブ開発に取り組んでいた。やがてミニコン時代となり、小さなドライブのニーズが大きくなる。かつての勝者企業は慌てて小さなドライブの開発に取り組むが間に合わず、新興企業に市場の勝者の座を明け渡す。だが、その頃には新たな新興企業がニーズ不明の5.25インチのドライブを開発している。デスクトップパソコンの時代が到来し、またもや勝者と新興企業が立場を入れ替える。だが、その頃には後にノートPCで使えることが分かるさらに小さなドライブを開発する新興メーカーがいて...。

破壊的技術を生み出した新興企業が成長するのは、それを持続的技術として性能を向上させる組織力を持っているからである。企業の歴史の中で多くの時間は持続的技術によって成長する時間である。顧客の声を聴き、それに迅速且つ適切に応える。感度が高く、優秀で柔軟な組織が成功の鍵なのだ。

著者が言いたいのは、トマスクーンが科学の進歩に見た「パラダイム革新」と「通常科学」の関係とだいたい同じであると思う。当たり前の進歩を効率よく連続的に進める力がいつか仇になる。突発的で非連続な市場の特異点を切り抜けられい。予想して効率よく動く組織は、予想外の事態に対してとても脆いということになる。この本では、そのプロセスを優良企業の組織に内在する必然として多角的に検証している。その部分は、大変内容が濃く、ビジネスマン必読の一冊であると思う。

もちろん市場はカオスであり、特異点は、誰にもいつ発現するかは分からないが、必ずそれは現れるのもルールである。著者は既存の優良企業は、そうした仕組みの知識を持ち、それに備えることで、破壊的技術と持続的技術の両方を持つという解決が可能だと説く。100年以上市場のリーダーとして君臨し続けるような企業。ジェームズ・C. コリンズが「ビジョナリー・カンパニー」と呼び、トム・ピーターズが「エクセレント・カンパニー」と呼んだような超企業になるには、こうした木でなく森を見る目を持てということだろう。

この本を高く評価した前述の私の友人たちには共通の属性がある。大企業の社員(多くは幹部候補)か、または元社員だったというプロフィールである。逆にベンチャー企業の経営者仲間は有益な本だと評価しつつも、心からピンときている人が少なかったように思う。それは彼らが今の勝者に入れ替わろうと狙う新興企業の担い手だからだろう。

私もこれは名著であると思いつつ、最後の結論には少し違和感も持つ。大企業のイノベーションのジレンマを回復するために、それを気づいた個人が組織の内側から浸透させるコストは巨大なのではないだろうか。特に日本の伝統的企業にとっては努力の価値がどれほどあるのか、分からない。もしも、それだけの知見と行動力を持つビジネスマンならば、独立して新興企業として市場へ打って出たほうが、幸せなのではないか。イノベーションのジレンマの背後には、個人と組織のジレンマがもうひとつあるような気がしてならない。

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2005年01月12日

知財戦争

・知財戦争
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知財(特許、著作権)の日本及び世界の動向について日経の編集委員がまとめた本。大変よく状況と展望が整理されていて、これ一冊で知燒竭閧ェ分かった気になる。

最近、ちょうど関連するニュースが報道されている。

・青色LED訴訟、総額8億4000万円支払いで和解・東京高裁
http://it.nikkei.co.jp/it/news/keiei.cfm?i=2005011103493j4

1年前の一審で200億円という巨額の発明対価を払えと裁判所が企業に命じた青色LED訴訟が、逆転の和解。発明対価として6億800万円と遅延損害金約2億3000万円の計8億4000万円を支払うことで決着した。発明対価を巡る訴訟としては国内史上最高額とはいえ、当初の200億円と比較するとあまりに小さい。発明者の貢献度も一審の50%から5%にまで低く評価されてしまった。当事者の中村教授はこれでは日本の研究者は報われないと憤っている。

■「21世紀は卓越した1人の天才が10万人を食べさせる時代」?

この本に引用された韓国サムスングループ会長の言葉。「21世紀は卓越した1人の天才が10万人を食べさせる時代」。個人がうみだした知財が企業に何百億円、何千億円を生み出した場合でも、日本では僅かな手当てしか受け取っていなかった。青色LEDの場合は2万円だったらしい。これはあまりにひどい。

しかし、企業はひとつの特別な知財をうみだすために、その他の多数の研究にも投資している。100の研究に投資して1つが大当たりを出すような先端分野へ投資してきたのであれば、大当たりを出した社員一人の貢献度が50%というのは高すぎるという大手企業の経営者の意見にもうなずける部分がある。

また、どのような契約があったにせよ、後から訴えればその契約を無効にできる現在の裁判所の考え方は企業にとっては頭が痛い。会社規定の手当てという形で十分に支払ったつもりでも、発明者が後から不十分だったと訴えたのが、今回の青色LED事件でもあった。2万円というのが極端だったが、いわゆる高給取りだったとしても訴訟はあったかもしれない。貢献度評価の方法が過去の判例ではケースバイケースだったため、5%なのか50%なのかが事前には予測できない。これでは大企業の研究開発は経営上、リスキーである。
大学時代に習ったトマス・クーンの科学史観、パラダイム論を思い出す。科学の進歩には地道に知を積み重ねる「通常科学」の時代と、行き詰まりが高潮に達したときに現れる「科学革命」の二つの時期があるという説だ。通常科学はたくさんの科学者が関わるが、科学革命には「卓越した1人の天才」が大きな力を持つことが多い。

■事前の個別契約

この本で紹介されていたが、米国特許庁商標庁のあった商務省ビル入り口には「特許制度は天才の火に、利潤という燃料を注いだ」というリンカーンの言葉が刻み込まれているそうだ。だが、天才の火が革命という爆発をするには通常科学が必要で、ニュートンも自らの業績は「巨人(過去の科学者の業績)の肩の上に乗って」こそ達成できたと認めている。クーンのパラダイム論はマクロの科学史を論じたものなので、企業の研究進歩の比喩として完全に合致するかは私には確信がないが、似たようなことは言えるのではないだろうか。「卓越した1人の天才」だけを報いるだけでは不十分な気もする。

天才も、その発明を可能にした企業も、双方が納得する算定基準を作る必要がある。企業が納得して200億円を払うような状況が理想だ。

著者は「個別契約をすすめるべし」と提言している。従来の発明裁判は交通事故と同じロジックで裁かれてきたという。交通事故では、加害者と被害者があらかじめは分からないので、幼児の事故なら67歳まで働き続けたと仮定して生涯の逸失利益を算定する。しかし、発明裁判では当事者が分かっているのだから、事前の個別契約を決めて、それを元に算定すれば良いのではないかという意見。これならば企業側も納得できる。研究者誘致に好条件の待遇を企業が競うようになれば、優秀な研究者は助かりそうだ。

私が思うに、もうひとつは研究者の実績評価方法を特許申請の数で行わないというのも有効なのではないかと考える。この本によると特許請求の半数は「同じ発明が既になされている」などで拒絶査定されており、民間研究開発投資11兆5000億円のうち、6兆円は無駄な重複研究なのだという。特許を申請しないと仕事をしたと評価されない現場の事情が、企業にとっても国にとっても、研究者の人生にとっても、無駄を生んでいると思う。結果として特許のハズレ率が高すぎるので、特許がたまに大当たりしたときには、それは環境に長期間投資してきた企業側の寄与率が高いと経営者は思ってしまうのではないか。

この本には、このほか遺伝子スパイ事件、漫画喫茶とブックオフ、レコード輸入問題、ミッキーマウス保護法、ウィニー事件など、よく話題になる知財問題が丁寧に解説されている。特許庁の旧態依然とした業務の批判と見直し提言や、中国、米国、欧州、韓国・台湾の知財事情などの国際比較もある。幅広く、知財をめぐる諸問題を2時間くらいで俯瞰できて良い本だった。

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2004年11月15日

中国経済 超えられない八つの難題 「当代中国研究」論文選

中国経済 超えられない八つの難題 「当代中国研究」論文選
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著名中国経済学者が投稿する米国発行の学会誌「当代中国研究」から選りすぐりの投稿論文を集めた本。言論の自由が制限されているため、一度、海外の学会誌を経由しないと、本当のことが書けないという現状が冒頭で嘆かれている。

中国は毎年7%、8%のGDP成長率を達成していると発表されている。これが中国の経済成長への期待の核心にあることは間違いない。だが、いきなり、この本では高成長率はまやかしであるという意見が展開されている。7、8%というのは数字ではなくて高成長していなければならないという意味の「記号」に過ぎないと書かれている。

そもそもこの数字は高成長必須という国家政策の圧力のもとで、各地方が実態よりも大きい数字を報告して合算した結果なのだと指摘がある。特に製造業の数字は調査で検証しやすいが、サービス業の数字については虚偽報告がばれにくい。国家統計局もある程度水増しを見抜いて計算するものの、まだまだ水分の多い数字であるというのだ。

また、この国の成長率は確かに高いようだが、不完全な市場経済国家と他の先進諸国の成長率を並べて比べるべきではないという学者もいる。彼らによると中国の経済成長率7,8%は先進諸国の3%成長と同レベル。つまり、普通の経済成長が維持できる最低限のレベルと同じ水準でしかないという。

現在、2008年の上海オリンピック、2010年の万国博が国家的プロジェクトとして経済の牽引力となっているが、過去の大型イベントの後に経済が落ち込んだ開催都市が多い事実もあるそうで、2010年以降の中国経済は破綻の可能性さえ見え隠れするという学者もいた。
株式市場では企業の虚偽報告がまかり通っており、投資では特定利益集団が形成され、株価操作が日常的に行われている様が報告される。いわゆる仕手筋の存在なのだが、これなしには市場が存在し得ないくらい大きな役割を果たしている。一般投資家は仕手筋につながって踊ることでおこぼれをもらう。このようなカジノ市場では長期投資はほとんどなく、短期の投機ばかりになる。

投資バブルの一方で内需や雇用が逆に低迷していることはたくさんの学者が指摘している。世界の工場から世界の消費の中心へ変貌するというのが中国経済のバラ色の未来イメージなわけだが、このままでは消費は増えてはいかない。

都市部と農村部の経済格差がこの本でも強く指摘されている。統計上は平均すると高成長でも、その恩恵を受けているのは政策上優遇された都市部のエリートのみであって、農村部はいまだ前時代的な経済水準にある。人口の7割を占める農民だが広い国土に分散しており、教育水準の低さや組織力のなさにより、都市住民と比較して政治的な声を持たないのも原因だという。彼らの所得が上がらないため消費は伸びず、内需は一向に拡大しないわけである。

話を総合すると一部のエリート層が利益形成を活発に行っており、不動産市場と株式市場のバブルが全体を強烈に牽引している、いびつな全体構造が浮かんでくる。この状況は海外投資家にとって、コネ(関係)と情報を持っているなら短期で買いだし、長期では逃げろというのが正しい戦略といえるだろう。

中国は経済の外部にこそ正常な成長モデルへの転進の鍵がありそうだ。基本は政治と密接に結びついた統制経済であるから、部分的な市場経済部分だけを見て判断してはこの国は正しく見ることができない。この論文誌が海外でしか発行できない理由であるとか、貧困にあえぐ農村部の実態などに、どう中央政府が改革を行えるかが、長期的展望を決めていくことになる。

この本の内容は真実なのか、それも実は分からないのが悩ましい。一流の経済学者による論文であることは確かなようだし、中国内では政府発表を真っ向から否定する意見は出版されない。少なくとも中国の急成長は目に見える部分は本当だろうが、何十年に渡って急成長を続けるという国家の予測は根拠がないだろう。どちらにも真実と嘘がありそうだ。
両者の意見をバランスを取りながら、自分なりの中国経済観をつくるために、おすすめの一冊。

眠れる獅子は本当に起きたのだろうか?。

・Passion For The Future: 中国人の心理と行動
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002517.html

・Passion For The Future: 中国経済大予測
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002482.html

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2004年11月09日

中国経済大予測

中国経済大予測
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中国経済について白紙から短期間で学習する必要があり、とっかかりに買ってみた本。最初に読む本としては大正解だったかもしれない。中国経済の本はたくさん本屋に並んでいるのだが、どれも著者独自のミクロ視点が売り物であって、基礎知識のない私には全体像を読む解くのが難しかった。この本はマクロ視点で中国経済の現状説明と未来予測が、多数の統計、グラフを用いながら49項目に分けられて説明されていく。

著者は第一生命経済研究所経済調査部主任アナリスト(海外経済担当)。全般的に数字の分析主体の調査報告書であり、現地に入ったら実態がどうでしたとか、誰々さんはこんなことを言っている、というミクロな話はほとんどない。その代わり、各項目でよく選ばれたデータを軸に、この要素はGDPに何パーセント影響する、ここ数年の動きはこうなっている、日本と比較するとこうだ、という私が欲しい情報が集められていた。

この本では中国経済は2010までは毎年7%以上の高成長率が続くと予測されている。2008年に北京オリンピック、2010年に上海万博があり、それが大きな牽引力となるからだが、それ以降は鈍化する可能性が大きいとされている。

問題は投資主導の高成長が続いていること。2003年度で固定資産投資の伸びが前年比30%増に対して、GDPの半分を占める個人消費は10%増にとどまっている。このままでは需給バランスが崩れてインフレ、デフレも懸念されている。

しかし、市場の大きさとその潜在は他国と比べ物にならない。13億人の国のことなのでとにかく数字が大きくて唖然とする。今は安くモノを作っている国という印象があるが、10年以内に世界消費の主役となることは間違いないようだ。

気になった情報メモ:

・高い経済成長率と低い株価
決算虚偽報告の蔓延による、株式市場に対する投資家の不信が主要因とされている。

・巨大な潜在市場
既にビールは米国を抜き世界最大市場でこのまま拡大。自動車は2010年に400万台を突破。2010年に携帯電話ユーザ8億人。

・家電業界でベトナムへの工場移転進む
沿岸部の所得増大により人件費の割安感が減る。安い労働力のある内陸部へ移転すると輸送コストがかさむために南のベトナムへ移転するということ。

・香港国内観光が爆発的に増大、儲かっている観光産業
香港への個人旅行解禁。リピータ率高い。個人観光客の5割以上が2,3ヶ月に一度訪問する。大半はブランド高額商品のショッピングをする。2005年末に香港ディズニーランド開園予定で中国人の60%が興味を持っているという。

・都市部と農村部の所得格差は3.2倍
実際にはもっと大きく世界最悪との説もある。都市部で外資企業勤務が高所得。

・国有企業の人材流出
給与が1.4倍高い民間、外資系企業へ転職進む。40台で有能な管理職が流出の中心で、1998年から2003年の間に国有企業の10%以上の人数が離職している。

・日本より急速に進む高齢化と男性結婚難
一人っ子政策の効果がありすぎて人口ピラミッド崩壊。2000年時点では65歳以上人口は6.8%に過ぎないが、2040年には21.8%(5人に1人)に達する猛スピードの高齢化。一人っ子政策で女子が密かに間引きされたようで、2000年の新生児の男女比が118:100になっている(世界平均105:100)。地域ではさらに顕著。9歳未満では男子が1200万人以上も多く、結婚であぶれてしまう。

・BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の経済は2035年にG7の規模を超える
中国はそれまでにG7入りしてしまいそうだが、とにかくこの4カ国の成長振りは目覚しいようだ。2000ねんん時点ではBRICs:G7は10:1だが、これが逆転するという。

・2010年には日本の最大輸出国に
2000年時点では6.8%だが2015年には29.8%に増加と予測。というわけでビジネスをしている限り中国とのつきあいは米国以上に増えることになりそう。私の息子は英語より中国語ができたほうが良いのかもしれない?


他にもメモしきれないたくさんの情報を得た。さて、だいたい背景が分かったので、ミクロな本も読んでみよう。

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2004年07月20日

天才数学者、株にハマる 数字オンチのための投資の考え方

天才数学者、株にハマる 数字オンチのための投資の考え方
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仕事で株式市場のメカニズムについて意見を求められているので読んでみた本。

これは名著。

■株式投資理論なんて似非科学でしょう?

株式投資の世界でよく知られた理論には「ファンダメンタル分析」と「テクニカル分析」のふたつのアプローチがある。ファンダメンタル分析は、企業の基礎的条件(業績、財務内容)を分析して未来を予測する方法。テクニカル分析は、市場の株価の過去の動きを分析して未来を予測する方法。おおざっぱに言えば、会社を分析するか、株式市場を分析するかの違いだと言って良いだろう。

社会科学は科学か?というレベル以前に、アナリストたちが提唱する多くの投資理論は、どこか怪しいとずっと思っていた。

ファンダメンタル分析では、PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)、ROE(株主資本利益率)など、株価や財務諸表の各種データを組み合わせた指標を分析ツールとする。また”材料”として「提携」「新製品」「合併」などの事実も評価する。今の株価が適正なのか(もしくは過剰、過少評価か)どうかを知ることが主眼である。

だが、そもそも指標など経営者が操作できるものだ。成熟産業と新興企業では評価方法が違うといっても、それを分けるものは何か。”材料”をどう見るのか。適正株価が分かったところで、結局、売りなのか買いなのか決める段階になると俄然説得力が弱くなる傾向もある。

一方、テクニカル分析では「ダブルボトム(ダブルトップ)」などという分析手法がある。株価には二度、安値をつけてから反発する動きが見られるという話。他にも「ヘッド・アンド・ショルダー型」、「ソーサートップ型、ソーサーボトム型 」、「V字トップ型、V字ボトム型 」など多数の株価変動パターンがある。

多くのテクニカル分析の理論は複雑である。株価は波であるから、関数で描ける。最初はシンプルな関数で描けるように説明するが、それでは説明不能な例外が出てくる。そこで、実はこの波は二つの波の複合形として説明できるとして、関数がふたつになる。やがて、3つめ、4つめの関数も必要になってくる。数百、数千の関数を持ち出せば、過去何十年の株価の波をすべて説明することは可能であろうが、それにどれほどの意味があるだろうか?。

以上が、私がこの本を読む前に抱いていた問題意識である。株式投資理論は占い以上の価値はないのではないか、ということ。

■共有知識ネットワークと急変する市場

この本で最初に共有知識が取り上げられる。

共有知識とは、この本から引用すると、


ある情報について、グループの構成メンバーがそれぞれ皆その情報を知っており、他のメンバーがその情報を知っていることを知っており、さらに他のメンバーがその情報を知っていると自分が知っていることを知っており云々、以下同様に続くという場合、この情報は共有知識であるという。

ということであり、皆が知っている情報=相互情報よりも条件が多い情報である。

株式取引の意思決定は、普段は相互情報をベースに行われているかもしれない。こうした相互知識行動の中では、皆が同じ知識を元に判断を下しているが、何をしているのかは分からない。ここに権威あるもの(証券取引委員会のデータや公式見解)の意見が、情報に正しさの根拠を与えた途端、互いの行動の帰結が丸見えになり、行動ルールが変わる。その結果、市場が急変することがある。

市場はカオスであり複雑系なのだ。

■平均では金持ち、可能性ではほとんど貧乏

この本の面白さのひとつに、数学ゲームに対して私たちは、知っているようで知らないという事実の紹介がある。私たちは現実の取引を前にすると、感情が働いて期待値の計算をしばしば間違うという事例が多数出てくる。

「平均ではお金持ち、可能性ではほとんど貧乏」の項目は特に面白かった。

さて、あなたは1万ドルを持っている。公開企業の半分は1週間で80%上昇し、もう半分は60%下落する、激しい市場に1年間、毎週一回手持ち金額を投資するケースを考えてみる。市場全体では上げ相場になる。2回に一回は80%儲け、一回は60%損をする。これを繰り返した場合に、どのような儲け具合になるものだろうかという質問がある。

市場の平均は毎週10%儲かることになる。毎週10%の儲けは1年後には140万ドルになる。一見、素晴らしい投資環境だと思ってしまう。

だが、2週目の投資家の手持ち金額を計算すると、分布は既にこうなっている。

4分の1の投資家 32400ドル 1.8*1.8
4分の1の投資家 7200ドル 1.8*0.4
4分の1の投資家 7200ドル 0.4*1.8
4分の1の投資家 1600ドル 0.4*0.4

実は2週目の段階で実に4分の3は損をしている。1年で見ると、平均的な運の持ち主は80%上がるを26週、60%下がるを26週繰り返す。この結果、最も多い確率で起きうるのは、最終日にたった1.95ドルしか持っていない状況なのである。これはごく一部の運の良い人を億万長者にし、ほとんどの人を一文無しにするシステムだったのだ。

これは億万長者の儲けが平均を大きく引き上げるため、一見、儲かる市場に見える典型例だろう。

株式変動は平均の大きな目で見ると、明日上がるか、下がるかは2分の1の確率で起こる。大きく動くことは稀で、小さく動くことは多い。変動の幅の分布はべき乗則に従うことが分かっている。これよりは幾分緩やかであろうけれど、実はデイトレーダー的な頻繁な株式取引はごく一部の人を儲けさせる仕組みであることを示唆していると言えそうだ。

■結局どうすれば儲かるのか?


なお、本書のどこにも、具体的な投資アドバイス、新しい千年紀のトップ10銘柄、いますぐ始められる401(k)5つの賢い方法、いますぐやれる3つの良いこと、そういう話はまったく出てこない。要するに金融ポルノみたいなドギツイ話はしないつもりだ。

と冒頭にあるが、実際の運用アドバイスは一切ない。株式市場を数学モデルに見立てて、科学的、数学的に結論できることを探す内容になっている。

株式市場の動きはカオスであり複雑系であると言われる。同じパターンが大きさを変えて現れるフラクタル構造のようなパターンを描くことがあるが、今、自分の投資対象がフラクタル構造の大きな波の中にいるのか、小さな波の中にいるのか、特定ができない。よって、テクニカル分析は内部的にも限界があるということになるだろう。

オプション、ファンド、デリバティブ商品についても検討されている。金融商品についての深い知識があれば、投資家は選択肢が増えることで、リスクを減らすことはできるかもしれない。だが、こうした知識を持ってしても、市場のカオスを見通して、勝ち続けることはできないようだ。

最終的に「未来を予測できる超越的投資家」は原理的に存在し得ないと、秘密の常勝戦略を否定している。存在してもルール事態が一層複雑化するだけであるからだ。面白くないのだが、結局、数学的には、絶対に儲かる秘密の方法などないということになる。

ただ、数学的には常勝戦略がないということが、直ちに実際の投資戦略にも常勝戦略がないと同じことかというと、まだ分からないのではないかと私は期待している。相関ではなく因果を握ることで、儲けている人たちがごく僅かにいるように思えるからだ。

この本を最後まで読んで、私の結論。

・分散投資によってリスクを取り除くことは可能である
・インサイダー取引は犯罪だが、儲かる可能性が高い
・巨額の資金を使って相場自体を操作できる可能性がある

ということは、無難かもしれないが、最低限言えそうだと思った。

■3つ目のアイデア

そして、友人とこの本の話をして思いついたりしたアイデアが3つある。

1 インフレ仮説による分散投資長期保有戦略

人間の欲望がある限りインフレ傾向は長期的に続くと仮定して、分散ポートフォリオで幅広い銘柄を買って長期保有するのが安定した戦略なのではないか?

2 マスメディア分析による投資戦略

マスコミは企業を持ち上げては落とす傾向がある。またマスメディア露出の多さは変動率の高さと相関する可能性が感じられる。このふたつの仮説をもとにニュース記事に登場するキーワード傾向(ポジティブワード、ネガティブワード、発生頻度)から投資戦略を編み出すことができるのではないか?

以上。


おい、アイデアは、3つじゃないのかって?

そうなのですが、3つ目は本命ですので、ここで書いてしまうと相互知識化して、私が儲けられないじゃないですか。

でも、知りたいという方は、標題を「究極の投資情報希望」として

datasection@gmail.com

までメールをください。期間限定で情報を送ります。

そのメールには私が考えているのはこういうことじゃないの?という、あなたの推測を書いてください。知識を交換することで、私の損を減らします。ただし、私が差し上げるのは回答そのものではありません。

メールへの返信として5つのキーワードを箇条書きにしただけのヒントメールを差し上げます。

私はある金融商品(取引手法)を考えてみたのですが、これはノーリスクで、ほぼ確実に儲かるのではないかとたくさんの本を読んだ結果、結論したものです。無論、私は金融の専門家ではありませんから、どの程度正しいのかは不明です。でも、確信しています。ご興味のある方はご連絡ください。

なお、私は少し忙しいので返信はゆっくりになるかもしれません。ご了承ください。

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2004年07月15日

現代消費のニュートレンド―消費を活性化する18のキーワード

現代消費のニュートレンド―消費を活性化する18のキーワード
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■マーケティングのネタ本として使える情報満載

この本は電通のニュースレター「トレンドボックス」の内容を元に、現代消費のキーワードを解説する本。根拠となる調査データのグラフが豊富に掲載されており、マーケティングの仕事のネタ本に重宝する。

・電通 消費者情報トレンドボックス
http://www.dentsu.co.jp/trendbox/index.html

目次は以下のとおり。なるほどと実感した項目を太字にしてみた。

Part1 ポジティブ消費者を探せ!
 01 "遊ぶ大人"が消費をリードする
 02 "癒されたい"から"元気になりたい!"
 03 いまどきの若返り術。
 04 "わたしづくり"の文化消費
Part2 新しい消費ユニットを狙え!
 01 新しい消費単位としての"平成拡大家族"
 02 "週末二人暮らし"カップルの"新・おうち消費"に大注目!!
 03 アクティブ大ママ進化論
 04 飼い犬の家族かが掘り起こす"D.O.G"市場
Part3 消費者の世代特性を掴め!
 01 平成型中学生のユニット感覚
 02 "キャラばーゆ族"が変えるワークスタイル
 03 仕事モードも、ボクモード。
 04 インビシブル30代の底力
 05 ほっと!なママは"してみたい族"
 06 "ソフトボイルド"な男たち
Part4 新しい消費者像を描け!
 01 "ユビキタス"消費の可能性
 02 拡大するワガママ消費!!
 03 センスでこなす!主婦は食品オカイモノ達人
 04 ドリンクはココロの鏡?!

Part5 座談会「消費者研究の最前線」

■セグメンテーションの終焉と多自由構造な生活

統計の専門家、社会心理学の専門家だからといって、必ずヒット商品を作れるわけではない。市場の傾向や、個別のお客の声をマイニングすることで”改善案”は分かるだろうが、パラダイム革新は起こせないものだと思う。

高度成長期のように、豊かさに共通基準があり、”大衆”がそのベクトルへ動こうとしていた時代は終わってしまった。次に出てきた特徴を共有する集団、分衆的な考え方も、多様化によって分析対象として意義が薄まってきているようだ。データベースマーケティングやデータマイニングも、期待されたほど成果をあげていないように思う。

第5章の対談から引用。


上條 日本人はセグメントされるのを嫌がりますし、されるほど特異性もありませんから、企業がこれまでのようなセグメンテーションでターゲットを設定することには限界が来ているかもしれませんね。

マーケティング的にいうと、昔はクラスター分析が分かりやすかったけど、いまはクラスターで分けた人びとの実像が掴みにくくなっている。そこで私たちは、昨年のヒット商品の分析の際に、消費も多重構造になったことを捉えて「多自由構造な生活」と呼びました。

たとえば、自動車は高級車を買うけれども、サングラスは1000円でいい。そうした「二重消費」が数年前まで目立ちましたが、現在はもっと自由で多重な消費行動になっているというわけです。

私の読みでは、多様な物語性を抱えた個人が主役の時代になったのだと感じている。データベースマーケティングやデータマイニングでは、物語性を抽出できない。購買履歴やアンケートから、属性やキーワードが幾つか分かったところで、個人の抱えた感動ドラマは見えてこないのだ。最大公約数や平均による分析も物語性を殺してしまう一因になるだろう。

ではマーケティングはこれから何もできないのか?そんなことはないと思う。

よく言われる「現代の消費者はきまぐれになった」は嘘だと思う。個人は物語の中では比較的合理的に振舞っているのだと思う。多自由構造の中で、物語を生きる個人の合理的選択をうまく捉えられるマーケティング分析手法がこれから求められているのではなかろうか。

アイデアとしては、情報科学における、制約条件によるストーリー生成の研究などは、マーケティングに応用がありえるかもしれないと思う。

■物語の交差点に生まれるもの

個人的なことを書くと、結婚と子供の誕生は、大きく消費内容を変えるなあと実感している。私は4年前に結婚して、2年前に東京から、地方都市の実家近くに引っ越し、そして1年前に子供が生まれた。消費内容はこの間ガラっと変わった。それまでは都内のトレンドの店やコンビニ、秋葉原にお金を落としていたが、今はデパートや郊外の大型ショッピングモールが消費の中心になった。

子供の誕生以来、休日の外出は家族単位が基本。父母や妹家族と出かけることも多くなった。でかける先の選択には、小さな子供がいても安心して過ごせる場所であることが絶対条件になっている。具体的には、授乳室や広いトイレ、騒いでも大丈夫な環境、ベビーカーを通しやすい通路あることなどである。電通の本で言えば、新おうち消費型から、平成版拡大家族型になったのだ。

マーケティングに対する感性も当然、変わった。独身時代はあまり意識しなかったが、デパートや大型ショッピングモールはこれらの条件を完璧に満たしている。こういう場所は、物語の交差点とも言えることに気がついた。

たとえばアイスクリームひとつにも物語性がある。

・アイスクリームを孫に買ってあげたい祖父母
・アイスクリームは子供の年齢から与えるのはまだ早いと考える両親
・アイスクリームに関心のある子供自身
・とにかく売りたい店員

構成員全員にアイスクリームに対する過去の想いもある。この葛藤、制約を解消して、皆が幸せになるような商品とサービスの組み合わせが求められている。物語は感動を生み、感動は人に話され、伝播する。深い感動は大抵は、ヒトとモノではなく、ヒトとヒトの、物語の交差点上のインタラクションから生まれるものだ。

物語の交差点はどこか?
物語Aと物語Bが交差すると何が起きるか?
ハッピーエンドへ向かう起承転結の転は何か?

ある程度はヒューリスティックなアプローチで解を導き出せそうな気もする。従来のマーケティング理論が扱う物語や体験は、静的で類型化され過ぎていたと思う。もっとライブでリアルな物語を見出す技術が必要だと考える。

行くと皆が幸せになるドラマが起きるように設計された不思議なお店。インターネットのショップにもそんなサイトがあったらいいなと思う。

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2004年06月08日

〈快楽消費〉する社会―消費者が求めているものはなにか

〈快楽消費〉する社会―消費者が求めているものはなにか
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P96 表3−1消費者行動に求められる快楽の変遷 より。

高度経済成長期(1960年代)
・余暇活動を通じての楽しさ
・機能的な合理性による満足感

バブル期(1980年代後半)
・高額の出費を伴う消費行動を通じての「お楽しみ」
・経済的な合理性による満足感(好みの多様化に伴って)

バブル崩壊後(1990年以降)
・定額の出費を伴う消費者行動を通じてのささやかな楽しみや喜び
・経済的な合理性による満足感(より切実な問題として)

炊飯器や洗濯機が売れた時代から、ヘリコプターで遊覧ツアーが人気の時代を経て、「デパ地下」「自分にご褒美」「マイ・ブーム」「癒し」の時代へ変遷してきた。消費行動の内容も、経済的合理性や機能の合理性を追求するのではなく、消費体験が大きな意味での快楽となるから買うというように、変容してきたと著者は言う。

学者が書いた本なので学説紹介が面白い。まず快楽を定義するまでに1章使う。

感情心理学者のラッセル、メーラビアンらは、あらゆる感情は、2つの軸(覚醒水準高い-覚醒水準低い、快楽-不快)の上にマッピングできるとした。嬉しさや幸福や歓喜は、覚醒度が高い快楽で、平静や安らぎは覚醒度は低いが快楽である。そして、これらを覚醒水準(A:Arousal)(P:Pleasure)と符号化し、(D:Dominance、自分で制御できるかどうかの度合い)要素も追加して、感情をそれぞれの強さの度合いで数式的に、記述できるという。

この方式を使うと、たとえば、「心地よい」は+0.38P-0.06Aで、「感銘を受けた」は+0.56P+0.07A-0.13Dなどと表記できる。詳細はラッセル、メラービアンの論文にあるようだが、この方法論は、インターネット上のコミュニティの発言などを、一枚の平面上に、感情を軸に分布させるような、分析手法を開発できそうである。

快楽とはこの感情のマップの上で快楽度が高いエリアに入るもので、楽しさ、おもしろさ、喜び、美的な満足、感動、興奮、熱狂など従来の快楽消費論の対象以外にも、癒し、和み、リラックス、懐かしさ、好奇心、元気づけられることなども含まれるとする。快楽消費の取り扱い範囲を広げていく。

快楽消費が従来の古典経済学と異なる点のひとつに限界効用逓減の法則が働かないことが挙げられている。贅沢な生活に慣れればもっと贅沢がしたくなる。マイブームにハマればさらに深くハマっていく。「快楽には、自ら快楽への欲求を強める傾向がある」ということ。食欲のように「もうおなかいっぱい」にはならない。限界快楽は逓減しないのだ。

飽くなき快楽消費スパイラルにはまっている日本人の消費行動の実態が、後半では分析されている。贅沢品を日常的に消費するシルバー層などマーケッターが作り上げた妄想ではないか、とか、節約自体が快楽となっていることだとか、経済的に苦しくても快楽消費する不況の中の消費者像など、マーケティングに役立ちそうな新しい視点が幾つもある。

快楽消費における統計データの紹介が興味深い。不況下ではさまざまな家計の切り詰めが行われるが、高所得者と低所得者の切り詰め方が異なる商品サービスがある。高所得者は、高額ファッションと、文化的催しの支出予定が多いのだそうである。お金持ちに会いたければ、高級ブティックやコンサート会場へ行けということか。起業家ならば、そういった場所でプレゼンすることで、投資家を見つけることができるのかもしれない。

学説中心の前半が特に勉強になった。機能が豊富で安い商品を作っても必ずしも売れないよということは、マーケティングの世界でも言われていることであるが、それを理論的に解説してくれた。

この本では著者が詳しくないためか、取り上げられていないが、快楽的消費の代表例がアキバ的消費なのではないかと思う。秋葉原は最近、家電販売の街からオタク、マニアの街に変容していると言われる。

・AKIBA PC Hotline!
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/

・ASCII24 - Akiba2GO!
http://db.ascii24.com/akiba/

・価格.com - アキバ総研
http://www.kakaku.com/akiba/

・アキバBlog(秋葉原ブログ)
http://blog.livedoor.jp/geek/

アキバの快楽消費者としては、自作PCパーツ系と美少女同人系の2パターンあると思う。どちらも、必要以上に高機能なパーツ、より萌え萌えなコンテンツに何万円、何十万円を落とす、快楽消費の典型パターンだと思う。こちらは高額所得者というよりは、他の消費を犠牲にしても買ってしまう、デジタル、萌えエンゲル係数が高い特殊な集団なのかもしれないが、国際的な都市であり、ユニークな特徴を持ち、再開発計画による変化も起きようとしている。快楽系でイッパツ当てる(下品だなあ)のには、アキバが今後、要注目かなあと思う。

・秋葉原の研究
http://homepage1.nifty.com/straylight/main/akihabara.html


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2004年05月18日

「格付け」市場を読む

「格付け」市場を読む
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AAAだとかBBB-だとか、企業の格付け情報を金融系ニュースでよく目にする。企業経営の質を表す投資家向けの指標なのだろうと漠然と考えていたが、この本を読んで、やっと意味を理解できた。

・格付け一覧 ムーディーズ
http://www.moodys.co.jp/ssl/list/ratlist.asp

ムーディーズ、スタンダードアンドプアーズ(S&P)、フィッチが格付け企業としては、御三家で、他にも日本系のR&I、JCRや、独立系の三國事務所などがあるそうだ。シェアは御三家の外資系が、圧倒している。

最近では、民間企業だけでなく、大学や病院、自治体などに対しても格付けを行っているらしい。怖いのは指標の過剰評価と独り歩きである。もともと、これらの格付け情報は、企業の未来の成長可能性、大学の難易度やブランド力やサービスレベル、病院なら生存率を示しているわけではない。格付け作成にはいくつものパラメータが使われるが、主に債務不履行(デフォルト)のリスクを判断してつけた指標である。だが、金融に詳しい知識のある人以外は、こうした格付け情報が一般ニュースに混ざって報道されると、組織の持つ総合力を評価したものと勘違いしやすいのではないだろうか。私はだいぶ誤解していた。

儲けるための投資判断材料としても、正しくはないらしい。債務不履行に陥らないような慎重な経営は、短期的な高い成長率にはつながらないことを意味する。むしろ、格付けの一般化した米国では、格付けが低く「投機的」なジャンク債に、投資家の人気が集まったりもするらしい。日本は格付けが神格化されてしまい、格付けの低い金融機関は信用問題を起こして、すぐにつぶれてしまったりするのとはだいぶ様子が違うようだ。日本のように、格付け情報が未来を操作するようでは、本末転倒だろう。

「勝手格付け」が主流になってきているそうだ。企業に格付け費用をもらって格付けを行う依頼格付けではなく、一般人と同じレベルで入手できる公開情報から、”勝手に”格付けを行うやり方のこと。

この本ではムーディーズの格付けの方針が要約紹介されている。

1 専門のアナリストが分析するが主観的な要素は入る
2 格付けは複数のアナリストによって決定される
3 長期的な視野に立って格付けは行われる

できる限り客観に近い主観を提供しますという方針。ムーディーズのサイトに詳細が掲載されている。

・格付けとは(ムーディーズジャパン)
http://www.moodys.co.jp/ssl/general/toha.asp
格付けについての丁寧なガイドで読み応えあり。

読んで思ったのは、格付けビジネスは、モラルが重要だということ。企業から格付け料金をもらう代わりに高い格付けを与えるということも実際にあるらしいのだが、やりすぎると格付け自体が信用を失う。企業体としての利益追求と、中立性のバランスが肝であるらしい。

後半ではアナリストのプロフィールや格付けに見る日本の未来といった話題が続く。格付けについて総合的に理解できる良い入門書だった。

この本は金融業界の格付け企業の話だったが、情報社会において、格付けというのは至る所で重要視されていると思う。ネットオークションのユーザの格付け、オンライン書店のユーザレビューによる書籍格付け、グルメサイトのレストランやラーメンの格付けなど。どれも比較して判断する時間を短縮するために使われているようだ。

米国で面白い格付けビジネスがある。ベケットという会社で、統計の博士が創業した。野球選手やポケモンなどトレーディングカードの希少性を評価して格付けをし、ベケット値と呼ばれる値段を発表する。そのベケット値でカードを取引する流通や、オンラインストア、情報誌を発行するビジネスで大成功している。ネットオークションでもベケット値が参考値になるので、値崩れが起こらず、明らかにレイティングによるバリューを生み出している。ネット上で流通するもので、格付けに専門家の目利きが必要な種類の商材には、まだまだ同じようなビジネス展開が可能なのではないだろうか。

・Welcome to Beckett.com!
http://www.beckett.com/estore/

関連情報:

・2ちゃんねる格付け板
http://that3.2ch.net/ranking/subback.html
芸能人のランキングから、「強そうな駅名」などおかしなものまで

・製品、サービスの格付けサイト PTP
http://www.ptp.co.jp/top.php3
家電、PC、から映画まで

・戒名の格付け
http://sogi-iso.jp/jouhou/sougi18/18_1_4.html
戒名にもランキングが

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2004年05月11日

ブックオフの真実――坂本孝ブックオフ社長、語る

・ブックオフの真実――坂本孝ブックオフ社長、語る
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■ブックオフ社長、マツモトキヨシ会長、松野まさよし

ジャーナリスト村野まさよし氏編者で、マツモトキヨシ会長の松本和那氏を交えてブックオフ社長の坂本孝氏との対談をまとめた本。帯には「出版文化の敵なのか?それとも書籍流通者の先駆者か?創業社長がいま、すべての疑問に答えます。」とある。

ブックオフは、近刊本を中心に状態の良い古書を集めて、売れ筋は定価の半額、それ以外は100円で売るというコンセプトの近刊中心の古書店。全国に700店舗を展開し、株式は上場。売り上げ300億円(この本の出版時点)で急成長中の企業。利益の秘密は定価の1割以下で買取り、5割で売る粗利の高さにある。

通常の書店は再販制度の規制や取次ぎ流通の睨みにより、定価販売が義務づけられているため、それにとらわれないブックオフは、書籍をよりやすく買える場として独走を続ける。店舗と商品のキレイさへのこだわりや、マニュアル徹底によって、1年生店長やアルバイトを活用し、効率経営で足腰もしっかり固めている。

で、あるが故に、出版不況の中で、とても目立つ「出る杭」であるブックオフは、通常の新刊書店が売れなくなるだとか、古書販売の利益が著作権者に還元されないフリーライダーであるなどの、激しい業界バッシングを受けている立場。

経営者としての坂本氏はとても面白い。松本氏もさすがである。創業から現在に至る道のりを、ブックオフとマツモトキヨシがどうアイデアで乗り越えてきたかの詳細が語られる。ブックオフはかなりマツモトキヨシを参考にしたらしく(店舗の盗撮まで!)、この経営者二人はとてもよく似た考え方をしているなあと思った。

坂本氏はイーブックオフ以前は中古ピアノの販売で一旗あげていたらしい。中古ピアノの買取のアイデアがいい。「同額相当の最新ステレオと交換します」とチラシで宣伝して、成功したという。ピアノを売るのは倒産等の理由で家庭の経済が傾いた、元々は裕福な家であることが多いそうだが、この宣伝文句でマイナスをプラスとして感じさせ、格好の売る言い訳を作ってあげたわけだ。

かたや、マツモトキヨシは、敢えて素人のアルバイト女性を使うことで、風邪薬と同時にマスクやうがい薬、栄養剤までつけて売る。ここで敢えて薬剤師などのプロが販売に出ると風邪には睡眠以外の特効薬はないと知っているため、セット販売を考えないらしい。結果として、人件費が安いアルバイトのほうが、お客にも親切に思われ、たくさん売れるのだという。その他、レシートに彼氏の名前を書いて店長に破いてもらうと恋が成就するという噂をコギャルに流す(レシートであるのがポイント)などの工夫をしたらしい。

こういうアイデアを必要なときにその場で思いつける二人はやはり天才だなと思う。この本にはそういった成功体験、失敗体験も満載で、口コミの達人の武勇伝も厚みがある。同時にそれは、徹底したお客様指向ということでもあり、「ただ売るだけ」と思われがちな小売店という存在を、どうやってバリュークリエイターに変身させるかの努力の積み重ねでもあったのだとわかる。

古書販売=リサイクル産業であるが、ブックオフは単純に業態がリサイクル販売というだけではない。そのマーチャンダイジングもリサイクル発想だ。キレイな近刊本(発売3ヶ月)だけを定価の1割で買い取る。キレイでない本は引き取っても廃棄する。汚い本を並べた途端、店が汚くなり、お客も汚い本を売りにくるのだという。キレイな本を並べて売ると、お客もキレイな本を売りに来る。このサイクルが大切なのだそうだ。

絶好調のブックオフだが、急成長の大きな理由が再販制度にあったわけで、これが廃止された場合、新刊書店も価格競争が可能になる。坂本氏らの読みでは、部分的な廃止から、少しずつ全面廃止になるのではないかということだが、それまでにどれだけ出版業界における勢力を拡大しておけるかが重要なポイントになりそうだ。

■問われる再販制度の存在意義

再販制度については、昔から、いろいろな論者が議論紛糾状態なわけであるが、(あるとするならだが)私が最も強く感じている存在意義は、流通販売業者の保護というよりは、学術書の出版のような、少数だが出版されるべき本を世に出すための文化育成の一環という側面ではないかと考えている。

社団法人 日本書籍出版協会 再販関係
http://www.jbpa.or.jp/saihan.htm
再販制度についての出版業界側の考え方、再販契約書のPDFなどがある

一方、坂本社長は、再販制度が価格を固定した結果、小売店の基本である価格調整の経営努力ができず書店を弱体化させてきたと指摘する。ここでは、再販制度は流通と小売を保護するものという視点のみで考えて、もはやそれは時代遅れであると断じる。それゆえに、坂本社長と、古い出版業界は、今後もこの問題について平行線をたどるだろう。

確かに、流通と小売の業界の成長を保護するフィルターとしては意味がないような気はする。成熟産業である出版業界が、この種のアファーマティブアクションで守られる必要はもはやないだろう。幸いにして日本語の壁があるため、海外からの外圧がかからず、自由市場に残ったいびつな壁とみなすことも可能だ。

だが、一気に撤廃すると出るべき本がでなくなるのではないか?という一抹の不安は残る。売れる本、ベストセラーは安くなる代わりに、読者は少ないが価値ある本や学術書が出なくなる、異様に高額になるのは読者として困る。今までも、再販制度の部分的な解除、自由価格設定は試されているが、大抵は昔の本に限られるので実験としては有効とは思えないレベルである。

この本では触れられていなかったが、価値があるが少数しか売れない本については、電子書籍の市場が担うようになるというのも、考えられる方向性ではないかなと思った。もともと少数しか売れないのであればビジネスとしてはおいしくないから出版社としても注力すると経営を危うくする分野でもあるだろう。著者だって専門家としてもっと高い印税利益を持っても良いはずだ。印刷版が欲しい人は、追加料金で手にすることができる道を残せば、新たな印刷ビジネス需要も起きるかもしれない。なんにせよ、米国には再販制度はないわけで、なくても正常に機能する可能性はあるのだ。

■吼える坂本社長にしびれる最終章

坂本社長は本心かどうかは分からないが、既存の出版業界に対して「ソフトランディング」、共存共栄を望んでいることを繰り返し発言している。米国の2倍もある本屋の数や、取次ぎの肥大という業界のシェイプアップは、ブックオフという脅威を見ずとも、避けられない課題であると思う。その必要な変革にブックオフはこれからどう関わっていくか、動向が注目される。

特に最終章「坂本社長にあえて聞きたい ブックオフへの20の質問」では、「新刊本が売れないのはブックオフのせいですか?」「再販の下に咲いたあだ花とかパラサイトといわれますが実際のところどうでしょう?」などの辛らつな質問や、再販撤廃後の出版業界についてどう考えるかという本質的な質問が、遠慮なく投げかけられた。これに対して、ここまでは比較的大人の対応をしていた坂本社長も、ついに体制側の対して、吼えてみせる。この社長、すべてを敵に回してでも革命を起こすくらいの気概の人だと確信。しびれた。

なにはともあれ、書籍全体の売り上げ1兆円に対して、ブックオフは300億円だそうである。3%に対して、伝統的な業界が恐れをなしている図式を作り出した。このベンチャー企業、やはりただものではない。足元にも及ばないけれど、同じベンチャー起業家として坂本氏の発言のひとつひとつにワクワクした。もうちょっとこの会社について企業研究してみようと思った。

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2004年04月02日

知の教科書 批評理論

知の教科書 批評理論
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これで100冊目の書評になる。読んだ本について書くという作業を、100回も繰り返していると、書評とは何か?、批評とは何か、と考えてしまう。大辞林 第二版によると、批評とは「事物の善悪・優劣・是非などについて考え、評価すること。」と定義されている。分かったような分からないような気になる。

「この本は面白い」「面白くない」。そう書くだけなら感想に過ぎない。けれども、本について、それ以上の何かを書こうとすると、何が面白かったのか、何故面白かったのか、どのように面白かったのか、と続けることになる。これが批評行為が発生する瞬間であると思う。そして批評を書くプロセスの中で、本当の読解が始まり、書評が書けてはじめてその本を読んだ気になれる。

冒頭の章に「批評理論というのは、テクストの可能な読み方を創出していくものなのです。」という一文がある。読むためには観察しなければならないから、光を当てるということでもある。テクストに対しての様々な光の当て方が考えられる。この本では文学批評を題材に、近代〜現代の代表的な光の当て方が紹介される。題材は文学であるが、よく考えると、それ以外のテクストに対しても同様のアプローチができることに気がつく。

この本には7人の批評家が登場して、以下の7つの批評理論をまず解説する。

・読者反応論
・精神分析批評
・脱構築批評
・マルクス主義批評
・フェミニズム批評
・ポストコロニアル批評
・ニューヒストリズム批評

ユニークなのは、解説の後、それぞれの書き手がその理論を使って、実際に文学作品を批評してみせる実践の章がついているとことである。古典や現代の作品に批評理論を適用し、背後にある歴史・社会状況や、書き手の心理やイデオロギーがあぶりだされる。それぞれの理論は実践としてはどう書けば良いのかが明白になる。

例えば、脱構築批評では、デリダ、ソシュールらのロゴス中心主義や構造主義などのパーツを説明した上で、脱構築の批評が実践される。ここでは映画「地獄の黙示録」の原作である、ジョセフ・コンラッドの小説「闇の奥」が題材になる。狂人カーツ大佐が支配するアフリカ奥地に向かう若者マーロウの引用符だらけの独白の小説。俎上に上げられた素材は、解説の通りの道具で解体されて、新しい意味が創出される。この本の本当のテーマは、文明/野蛮、西洋/非西洋という二項対立の脱構築であり、その構造に19世紀の小説技法の挑戦的取りくみがあるのだ、などということになる。

その意義は分からないが、新しい意味が立ち現れる場として批評の空間はおもしろい。

簡単な書評を書いているに過ぎない私でも、ときどき「テクストの可能な読み方を創出していく」ことにどんな意味があるのか?。という疑問に陥る。この本の監修者も前半では批評の必要性はわからないとしている。しかし、そのおもしろさは全面的に肯定し、まずは感じよと書いている。

国語教育、受験教育的な考え方の世界では、テクストには「正解」があってそれを正しく読むことが大切だとされているが、そこにおもしろさはないと思う。これは、テクストをもっと面白く読むために、批評の意味や意義を考えてみるための本。

未消化な部分もあるが、この本を読んで考えたことを101冊目以降の書評に活かしていけたらいいなと思った。

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2004年03月15日

競争戦略論〈1〉

競争戦略論〈1〉
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原著は1998年出版だが既に古典扱いの経営戦略書。著者は、最年少でハーバードビジネススクールの正教授の職に就き、40歳でフォーチュン誌の表紙を飾り、天才の名を欲しいままにするマイケル・E・ポーター。20年以上にわたり、企業の競争戦略を専門として、研究してきた成果の論文5本をまとめたのがこの競争戦略論1である。

■競争を支配する5つの要因

ポーターの競争戦略論を読むと、市場における企業間の競争のダイナミックさが良く分かる。絶対的な能力値によって強者、弱者が決まるのではなく、環境への柔軟な適応力こそ、競争の勝者を決めるものなのだということを再認識させられる。

業界内部の競争を支配する要因として、著者は次の5つの力を挙げている。

1 新規参入の脅威
2 顧客の交渉力
3 代替製品・サービスの脅威
4 供給業者の交渉力
5 既存の競合企業どうしのポジション争い

1〜4のパワーゲームの世界の中心で、5のポジション争いが戦われているとする構図がある。

ポーターの考えが、従来の経営論と異なるとすれば「コアコンピタンス」や「オペレーショナルエクセレンス(業務効率)」が勝負の鍵ではないとするところであろうか。ポーターは、「生産性のフロンティア」という理論を提唱している。競争市場において、企業が顧客に提供する価格以外の価値とそれを生むコストは、ぎりぎりまで最適化された状態になっていることが当たり前の前提なのだとする。

企業は同じ行動を繰り返せば、やがて学習し、最適の業務効率を達成する。特に現代では、情報化、IT化、労働市場の流動化によって、経営や生産のスキルやノウハウは急速に伝播する。多くの組織でベストプラクティスが達成され、ノウハウは陳腐化してしまう。Web広告やメールマーケティング、売れるECショップのデザイン、サーチエンジン最適化など、自分にとって身近な部分を見ても、その通りだなと思う。

私は90年代前半の学生時代に日米の経営戦略の比較をテーマとする国際会議に参加したことがある。まだバブルの時代であり、日本企業の優位性を、米国の学生たちは必死に学び取ろうとしていた。そんな会議に象徴されるように、日本の生産管理や業務改善の仕組みは、90年代に米国企業に模倣吸収され、市場において業務効率が最大になっていることが当然の強い経済が米国にできあがったのだと考えられる。

■トレードオフとフィット

企業固有の模倣できない持ち味である「コアコンピタンス」が重要視された時代もあった。今もそれが大切とする学者もいるが、ポーターは、勝敗を決めるのはトレードオフとフィットというふたつの要素だとする。

ある企業がある戦略を取れば、それを模倣する企業が現れる。では、真似できない戦略、維持可能な戦略とはなんだろうか。トレードオフとは、一方を増やしたければ、他方を減らさなければならない選択のことである。

例えばこのブログの戦略ならば、質を落としても毎日ブログを更新するか、質の高い記事を週に1回更新するか、といったトレードオフの選択肢が考えられる。ブログ業界は競争の激しい市場である。すべてのプレイヤーが頑張りと工夫で「生産性のフロンティア」を実現しているとする。手を抜けば、読者獲得競争から置いていかれる、としよう。この場合、私は他と差別化して生き残るために、選択肢のどちらかを選ぶことになる。

質か量に特化することで、どちらか一方を期待する読者セグメントに対してのみサービスを提供する。市場のポジショニングを明確化することになる。トレードオフの選択はリスクを伴うため、他のプレイヤーは容易に模倣する判断ができない。

こうしたトレードオフの戦略をいくつも実行する。すると、戦略同士の一貫性、相乗効果、戦略の組み合わせの最適化という「フィット」の要素が今度は大切となる。活動間のフィットは大幅なコスト削減と強力な差別化につながる。こうして「強固に絡み合った一連の活動」は対抗するのが困難で維持可能な戦略となる。

■教科書として必読か

この本には、他にも情報技術が競争に及ぼす影響や、戦略なき日本企業の分析、衰退産業における終盤戦略などのテーマの論文が収録されている。ポーターがこの本で語ったことはMBAの教科書的な基本理論である。新理論の本を読みこなすための基礎知識として、この戦略論は必読のような気がした。さすがに天才学者だけあって論旨が明快で、分かりやすい。

イノベーションのジレンマ」や「プロフィットゾーン経営戦略」が好きな人には特におすすめ。

#なお「競争戦略論2」は、別のテーマ、グローバル経済における地域の役割や立地の競争における重要性、国境を越えた競争などがテーマの論文集である。1だけでも完結する。

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2004年01月15日

ブック革命―電子書籍が紙の本を超える日

・ブック革命―電子書籍が紙の本を超える日
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電子書籍の最近の動向や可能性、外部からでは分かりにくい、業界事情をジャーナリスト視点で解説してくれる。出版業界の返本率は4割。本と雑誌の売り上げ減少が7年続く出版不況の中で、電子書籍が注目されている。大手出版社が電子書籍に乗り出したものの、業界団体の電子書籍コンソーシアムは、意見対立で瓦解、分裂し、形式の標準化は相変わらず統一できていない。そういった経緯の裏側にある、プレイヤーの思惑を、著者は目に見えるように説明する。

やはりビジネスマンとして興味深かったのは、唯一儲かっている電子辞書の話。

辞書出版の市場では2002年の段階で、電子辞書の売り上げ(420億円)が紙の辞書の売り上げ(250億円)を抜いてしまったそうだ。本来、年間1000〜1200万冊は売れるはずだった紙の辞書は、800万冊しか売れず、単価の高い電子辞書は390万台も販売されたとのこと。百科事典も同様の傾向があるらしい。検索して読むタイプの書籍の電子化は自然なことのように思える。

専用端末を使ってネットワーク配信される電子書籍を読むというモデルは、また最近注目されている。

・2004年は“電子書籍元年”に? ソニーが本格参入
http://www.itmedia.co.jp/news/0311/13/nj00_pub.html

構図としてはソニーと松下のシグマブックとの戦いである。

・シグマブック(松下)
http://www.sigmabook.jp/
記憶型液晶と省電力設計により数ヶ月間電池交換不要というのが素晴らしい。電源を落としても液晶に表示が残る液晶を使う。読書中は電源が切れていて良いという逆転発想。

どちらも紙と比べたら持ち運びしやすいとは言えない。まだまだ技術革新が必要な気がする。以前より注目されながらなかなか実用にならない、紙のように薄く折り曲げられるディスプレイe-Inkは期待できそうだ。電源部や操作部も含めて紙のように薄く柔軟ならば電子書籍リーダーは本当に普及するかもしれない。

・e-Ink
http://www.eink.com/index.html
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■本はなくなるのか?

先日のスティーブバルマーの講演では20年後に紙の本はないというスピーチがあった。世界最大のソフトウェア産業のリーダーとして、ないと言い切る勇気を尊敬するけれど、紙は数百年の技術の集積がある枯れたハイテクでもあり、完全にデジタル文書でリプレイスできるとは思えない。

レコードはCDによって事実上なくなってしまった。ビデオテープも、DVDやHDDレコーダーによって近い将来なくなってしまうだろう。コンピュータのプログラム記憶メディアとして紙テープが消え、カセットテープが消え、8インチや5インチのフロッピーが消えた。今の3.5インチフロッピーもなくなりそうだ。あるメディアを、新しいメディアが一掃することはよくある。古いメディアの機能を完全に上回り、コストも安くなれば完全なリプレイスが起きる。

しかし、テレビが登場しても長い間ラジオは残っている。シャープペンがあっても鉛筆がある。クーラーと扇風機、エアコンとストーブ。同じ用途でも、若干の違いによって長く生き残る技術も多い。紙は電子書籍に対してすべてのメンで「ローテク」ではないので、ビデオやフロッピーのような推移にならないと考える。

書籍、雑誌、新聞がシェアを少なくすることはあっても完全なリプレイスはないのではないか。この本では、角川書籍事業部部長の「近い将来に日本の出版物の20%までは電子書籍になるのではないか」という意見が紹介されているが、さすがに妥当な意見と思う。

最近面白かった本に、「「紙」というデバイスを200%使いこなす!! 」と表紙に書かれたこの本がある。紙とデジタル文書の良いところをどちらも使いましょうという趣旨で、電子化のツールや両方の活用法を提案する本である。

・パソコン+スキャナの賢い使い方『職場の書類』はこうして作る
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■紙の電子化

結局、紙の電子化が進むというオチになりそうな気がする。紙に書かれたコンテンツがデジタル化されるという意味ではなく、紙という素材が電子化していくのだと考える。既に子供向け絵本には薄いスピーカーが搭載されて音の出る絵本など当たり前のように売られているが、さらに高度な展開を予感させる研究と技術もたくさん見つかる。

・日立ミューチップ
http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/030902a.html
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世界最小クラス0.4mm角のアンテナ内蔵型の非接触ICチップ「ミューチップ」。紙に埋め込める。「0.4mm角のチップのみで、受信した電波を動作電力として非接触でID番号を読み取り機に送信することができます。このため、紙幣や商品券をはじめとする有価証券にそのまま埋め込むことが容易になるほか、これまでの非接触のICタグでは難しかった非常に小さなもの、薄いものに装着することも可能です。」

・Active Book
http://fig.ele.eng.tamagawa.ac.jp/~siio/projects/activebook/indexj.html

ここではバーコードを印刷した絵本と専用リーダーによるマルチメディア絵本の試作例だが、次のような用途は提案されている。「(1) テレビ番組雑誌に適用して、赤外リモコンインタフェース経由で録画予約を行なったり、チャンネルを切り替える、(2) 地図帳に適用して、ナビゲーションシステムに目的地や現在地を入力する手段として使う、(3) ビデオテープタイトルやカラオケ曲名のメニューブックに応用して、目的のコンテンツの再生を行なう、などの応用が可能である。 」

・ActivePaper
http://fig.ele.eng.tamagawa.ac.jp/~siio/projects/fieldmouse/indexj.html
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・FieldMouse による実世界指向インタフェース
http://pitecan.com/papers/JSSST2001/JSSST2001.pdf

紙で家電制御のリモコンを作ったりする例。こういう方向が進んでいくと、私たちは自分の使いやすい画面設計でアプリケーションの絵を描くだけで、それがPC上で動いたりもしそうだ。

結局、パピルスが羊皮紙になり、パルプ紙になった次には、e-Paperになる。そういうことなのではないだろうかと、この本を読みながら、自分の考えをまとめていた。

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2003年12月24日

起業人 成功するには理由がある

・起業人 成功するには理由がある
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漫画コラムニストの夏目房之助氏による、ITベンチャー創業者23人へのインタビュー集。発売直後に増刷決定だそうだが、なるほど今までの投資家視点のビットバレー起業家インタビュー集とは一線を画す。

■ヒトに焦点を当てた深い洞察

前書きにこうある。

「本書はIT起業家という、ある種の専門家を、誰でも理解できる「ヒト」の部分で扱っている。タイトルを「起業人」とした由縁である。ITにもビジネスにもまったくド素人、門外漢の私が、ただ「ヒトの面白さを見る技術」だけを武器に、ITベンチャーの現場の人々を取材した、いわば「起業人の人間学」なのである。

私は門外漢だが、ヒトの面白さを見つけ、ナゼそうなのか、どこがポイントなのかを見出すことについていえば、プロである。長年そういう仕事をしてきたし、インタビューによって、その人自身が知らない部分を引き出すことにも自信がある」

ITベンチャーへの取材であるにも関わらず、会員数やページビューがいくらだとか、技術のアルゴリズムがどうだという話はまったく触れられていない。いや、そもそも何のサービスを提供している会社なのかの会社説明も、あっさり各章末に数行で要約されるのみである。徹底的に「人」に焦点が当てられている。

■投資家が重要視する経営者の人柄

以前、私の会社の事業を、ヒアリングしにきた百戦錬磨のベンチャーキャピタリストに、私は逆に「投資する側は会社のどこを見ているんですか?」と聞いたことがある。「実は重視しているのは社長の人柄や性格なんだよね」という答えが返ってきた。ビジネスモデルや実績も大切だが、投資の経験則では、社長の人格の方が起業の繁栄の成否を分ける、最重要要素なのだという。

この本では、その「社長の人格」が、著者の鋭い人間観察眼によってむき出しにされてしまう。著者はインタビューに際して、綿密な資料分析も踏まえて、経営者の性格特徴を引き出すための質問を、慎重に選んでいる。雑談を装いながら、精神分析を仕掛けている。この質問者の戦略は、取材を受ける側にとっては怖い。

著者のインタビューは、まず育った環境や夢中になったものなど、経営者が話しやすいことを探る。軽口を繰り出しながら場を盛り上げる。話し言葉そのままを記録したりはしない。声の抑揚や表情、話し言葉の行間を、著者は呆れるほど丁寧に分析し、活き活きとした人物像を構築していく。

私は、この本で取り上げられた創業者たちの半数と面識がある。中には今一緒に会社を経営している人もいる。初対面のはずの著者が、2時間のインタビューセッションの中で、各経営者の人柄や考え方を的確にキャプチャーできていることに驚かされる。

■人物像を浮き彫りにする、練られた構成の妙

この本は構成も練られている。年代別の章立て、1ページ使った写真、経営者自ら埋めた履歴書は、インタビューを深く読む際の手がかりになる。これらの著者の仕掛けは成功していると言えそうだ。

1980年代生まれから1940年代生まれまで、年代順でインタビューが並ぶ。若い層はITとの出会い感は薄い。ITは子どもの頃から生活の中に既に存在していたからだ。逆に年配の経営者はITをキャリアのどこかで発見し、その社会的意味を深く考察していることが、窺える。時代が色濃く映る、「育ちの環境」に順応した人もいれば、反発した人もいる。

モノクロながら1ページ使った写真には多様な意味がある。経営者の眼差し、身体の表情、身につけているものから、生き方の一端が垣間見える。顔は微笑みながらも眼が笑っていない人も結構いるなあ。

履歴書はその内容よりは、経営者が限られたスペースをどう埋めたか、という視点で読むといい。ここぞとばかりにキャリアと事業実績を並べる人もいれば、あっさり学校の卒業年度と事業開始年度だけで済ます人もいる。年代別ということもあるのだが、女性経営者まで生年が書き込まれているのは珍しい。

■インター・ビューの仕事の参考として

この本は投資家や起業志望者はもちろんのこと、インタビューの仕事をする人にもお薦めである。私もよくライターの仕事をする人間だが、インタビュー記事の執筆と言うのは難しい。普通にやるとテープ起こしのまま、企業の広報資料みたいになってしまう。著者くらいの年代にならないと、この手の人間観察は難しいのかもしれないが、その視点と手法から学べることは多そうだ。インタビューは本来「Inter-View」であって双方向のものだ。一方的に聞くだけでは書き手の仕事をしたことにならないぞ、と、この本から私は教えてもらった気がする。

余談ながら、著者の夏目房之助氏は、作家夏目漱石の孫にあたる。日本を代表する文豪の子孫が今日、どんな視点で、どんな文章を書いているか、という興味で読んでも十分に面白い。

参考URL:

・いい電子
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4757702353/daiya0b-22/
ゲーム業界ド素人の書いた突撃取材漫画として私は全冊読んでいる。笑える。

・過去の関連記事 その夢はいつやるんですか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000383.html

注意:この本は出版社メディアセレクト社から献本を受けました。同社の代表者と私は関係があります(リンゴラボ代表者と同一人物)が、書評執筆に当っては、そのことを意識しないよう努めました。純粋に、読んで素直な評価としました。このブログの書評はまじめに書きたいという思いから一応付記致します。

この本で紹介される経営者のリストは以下の通り。

第1章 1980年代生まれの起業人

伊藤正裕(株式会社ヤッパ)
自分で勝手に情報を処理する自己完結系なんです

第2章 1970年代生まれの起業人

石田宏樹(フリービット株式会社)
目標や意義が納得できないとなにもできない

上田祐司(株式会社ガイアックス)
効率は愛――。これすごく大切なことだと思う

園田智也(うたごえ株式会社)
ゼロからできるという例を作りたかった

第3章 1960年代生まれの起業人

高須賀宣(サイボウズ株式会社)
重要なのは、速度、単純、魂

加治木紀子(株式会社オフィスノア)
面白いと思ってやっているうちに、後からつじつまが合う

堀主知ロバート(株式会社サイバード)
いちばん重要なのは、問題解決能力だ

原口豊(株式会社ベイテックシステムズ)
絶対、常に上昇してないといけない

關信彦(キュービットスターシステムズ株式会社)
コンピュータのネットワークで、みんなが自分を表現していく

宇野康秀(株式会社有線ブロードネットワークス)
本質的には商人と武士と両方できなきゃいけない

宋文洲(ソフトブレーン株式会社)
日本にばかりいられない。グローバルにやんないと、やられちゃうからね

安哲秀(アン研究所)
地道な方法は時間がかかるけど、最後には必ず勝ちます

舩川治郎(デジット株式会社)
最後には国連に代わる機構をつくるかもしれない

神原弥奈子(株式会社ニューズ・ツー・ユー)
スタッフが50人を超えて、待つことの大切さがわかった

竹内宏彰(株式会社コミックス・ウェーブ)
ノウハウはマンガ編集者から学んだ

市川啓一(株式会社レスキューナウ・ドット・ネット)
人のニーズに応えることが得意だったんです

南場 智子(株式会社ディー・エヌ・エー)
やっちゃった以上、成功するしかない

川上陽介(株式会社セルシス)
誰もやりたがらないことだから、やりたいんです

第4章 1950年代生まれの起業人

金丸恭文(フューチャーシステムコンサルティング株式会社)
勝つためには健全な臆病さがいる

杉山知之(デジタルハリウッド株式会社)
エンジニアの自覚は、自然に身についた感覚ですね

ティム・ブレイ(アンタークティカ・システムズ)
自分の才能がどこにあるかを探すことは、とても重要

第5章 1940年代生まれの起業人

三野明洋(株式会社イーライセンス)
10のうち8を失敗しても、成功した2を伸ばすべき

栗村信一郎(アリエルネットワーク株式会社)
若い人をサポートして生かしていく

Posted by daiya at 23:59 | Comments (0) | TrackBack

2003年10月24日

ザ・プロフィット 利益はどのようにして生まれるのか

・ザ・プロフィット 利益はどのようにして生まれるのか
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私はビジネスで黄色いリーガルパッドを好んでよく使う。会議では人が話すことや自分の次に話すことをメモしたりする。いろいろ試したが、ケンブリッジのレポート用紙タイプが好きだ。色合いと紙質がいい。

・ケンブリッジリーガルパッド
70シート・カナリーシート
ミシン目付・レポート用紙タイプ
http://www.maruzen.co.jp/home/bungu/mead_e/mead_e.html

そもそも、リーガルパッドを使うようになったのはこの本がきっかけだった。

これは企業活動にとって最も重要な利益についての本だ。

ベストセラービジネス小説。場所はマンハッタンのダウンタウン。大企業デルモアで働く若者スティーブが毎週土曜日、ビジネスの賢者チャオに企業の利益について教えを請う。繰り返される問答の中、現代のビジネスを網羅する23の利益モデルが語られていく。ひとつひとつの利益モデルをチャオは、リーガルパッドに図として書きなぐって、スティーブに渡す。

ITビジネスの利益モデルも含まれる。例えば、「デファクトスタンダード利益モデル」。かつてのミニコンのように互換性と標準のない世界ではユーザは高いコストを支払わざるを得ない。これはインストールベース利益モデルの世界。ベンダーは自社固有のシステムで顧客を縛り、しばらく利益を挙げる。ユーザは支払う高いコストだけでなく、次のモデルはどうなるの?とイライラを募らせる。実は高いコストではなく、このイライラによって、このモデルは破綻するもしれない。ユーザはこうした状況では、業界標準モデルを欲するようになる。こうしてデファクトスタンダードが登場する。

デファクトスタンダードを確立した上で、マイクロソフトならウィンドウズ3.1、95、98、2000、ME、XP、データベースのオラクルなら5.0、6.0、7.0、7.1、7.2、7.3と、バージョンアップを続けていくことで、これらの会社が莫大な利益を確保できる理由をチャオはスティーブに問う。

答えは、予測可能性、アップグレード、アプリケーション、マーケティングコストの大幅削減
事実上の標準の上でならばベンダーもユーザも未来を予想しやすくなり、予期しない出来事に対応するコストを軽減できる。ベンダーは、アップグレードにより定期的で予想可能な利益を継続して確保し、さらには標準上で動くアプリケーションを販売してさらに利益をあげる。ほおっておいても顧客がマーケティングを肩代わりしてくれるので、販売及びマーケティングコストを大幅に圧縮する。

こういった利益モデルに関する、質問と回答が23回繰り返される。チャオの質問のくだりで、毎回しばし読むのをやめて、スティーブになった気持ちで回答を考えてみると、この本は2倍楽しめる。こうすると、チャオの答えの深さ、教育的配慮、優しさが見えて、こんなビジネスの師から23枚のリーガルパッドを手渡してもらえたらなあ、と思った。

考えながら読める工夫が秀逸。著者は「デジタルビジネスデザイン戦略」を書いたエイドリアン・スライウォッキー。20代後半から30台前半くらいのビジネスマンなら特に必読と思った。利益モデルごとに章が分かれた、小説だから、忙しいビジネスマンでも読みやすい。

評価:★★★☆☆

Posted by daiya at 23:58 | Comments (2)

2003年10月05日

デジタル・ビジネスデザイン戦略―最強の「バリュー・プロポジション」実現のために

・デジタル・ビジネスデザイン戦略―最強の「バリュー・プロポジション」実現のために
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ITを導入して画期的に変わる企業、変わらない企業、その違いはどこにあるのかを、デジタルビジネスデザイン戦略(DBD)により成功している企業事例をベースに研究した本。デジタルイノベーターとしてケース分析されるのは、デルコンピュータ、セメックス、チャールズシュワブ、シスコシステムズ、DBDを推進する巨大企業としてGEとIBM。

デジタルビジネスデザインのマトリクス

A ドットコム企業(高いデジタル化、劣ったビジネスデザイン)
B ビジネスデザインの貧弱な企業(低いデジタル化、劣ったビジネスデザイン)
C デジタルビジネスデザイン企業(高いデジタル化、優れたビジネスデザイン)
D ビジネスデザインのリインベンター企業(低いデジタル化、優れたビジネスデザイン)

著者によると、いかなる組織も上記のマトリクスのどこかに位置づけられる。大半の企業がBに分類されるが、現代の華々しい実績を誇るごく少数の企業はCのDBD企業のエリアにある。

成功したDBD企業は、デジタル化したビジネスによって、効率を上げ、顧客にユニークな価値の提案(バリュープロポジション)を達成しているのだという。

たとえば、今では当たり前になってきたが、デルが最初に顧客に提供した、PCのカスタムオーダーWebサイトが事例として挙げられる。この「チョイスボード」システムは顧客に便利を与えただけではない。デルはこの仕組みによって、リアルタイムに販売や流通の状況と、顧客の求める商品機能が分かる。在庫を余分に持たず、既知のデータに基づく正確な予想で生産を最適化し、吸い上げたニーズを短期間に商品開発に活かせるようになった。従来のリテール方式では、販売後何ヶ月もまたなければ販売数や顧客の声が分からなかったのに。チョイスボードはデルのビジネスデザインの根本的な仕組みとなった。

DBD戦略企業は単にPCやネットワークやデータベースを導入しただけの企業とは違うのだ。チョイスボードに続いて幾つもの、デジタルビジネスデザインのキーコンセプトが紹介されていく。後半のGEやIBMでは巨大企業が、改革の痛みを乗り越え、この組織の根本的なビジネスのデジタル化をどう推進しているかが語られる。

著者はDBD企業の特徴をFAME=迅速(FAST)、正確(ACCURATE)、可変(MORPHABLE)、外的(EXTERNAL)な、4つの性質を帯びていることと結論している。これを実現するには一社だけでなく、サプライチェーン全体がデジタル化を危機的な命題として取り組む必要がある。

当たり前だが、本業が冴えないからWebで販売を始めてみようか、ERPを導入してみようか、といった小手先のIT導入では成果は期待できない。そういう話を、実例ベースの、強い説得力で整理してくれる名著である。

評価:★★★☆☆

Posted by daiya at 03:56 | Comments (0) | TrackBack

2003年09月23日

図解 「儲け」のカラクリ―知って得する原価の秘密!


・図解 「儲け」のカラクリ―知って得する原価の秘密!
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キャッチコピーは「世の中のすべてのお値段、お教えします」。50以上のビジネスの原価率や粗利、どうやると儲かるか、のカラクリが見開きの図解で解説されている。

個人経営の喫茶店で400円のコーヒーを注文すると、およそ原価率は20%で、320円分は店主の利益なのだよ

だとか、

100円ショップの原価は60円から70円くらいだよ

だとか、

キャバクラの女の子のギャラは50%で「延長」が勝負の分かれ目だよ

といった調子。1円の桁まで細かく具体的にモデル店舗の数字が、費用ごとに円グラフで明示される。他人の商売の懐具合をのぞくという、ちょっと下世話な趣味が感じられなくもないのだけれど、新規事業を考える際には、「勘定を合わせる」ってすごく重要なことですものね。事例としては飲食店や小売店が多く、ハンバーガーチェーンは、100円バーガーで粗利40円、利益5円の世界。店舗で薄利多売の客商売ってのはやはり大変なのだなと思いました。

ところで私、経営者であるにも関わらず、会計は詳しくないのですが、会社の決算報告から、こういうカラクリを読み取るコツはいくつかの単語だけ意味を知っていればよいのだと、最近ある人に、教えてもらいました。

当たり前の知識なのでしょうけど、

1 売上高−売上原価=売上総損益(粗利)
2 売上総損益−販売管理費=営業損益
3 営業損益−営業外損益=経常損益

ということだと。これだけ暗記して、IR情報を読んでいます。

・日経総合企業情報 IRデータファイル
http://ir.nikkei.co.jp/index.asp

このIR検索は複数の企業の決算データを比較できる機能(財務データ比較検索)があったりして大変便利です。営業に行く前に、クライアントの情報を把握しておくとそれなりに役立ちます。

Posted by daiya at 04:19 | Comments (4) | TrackBack