2004年05月11日

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・ブックオフの真実――坂本孝ブックオフ社長、語る
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■ブックオフ社長、マツモトキヨシ会長、松野まさよし

ジャーナリスト村野まさよし氏編者で、マツモトキヨシ会長の松本和那氏を交えてブックオフ社長の坂本孝氏との対談をまとめた本。帯には「出版文化の敵なのか?それとも書籍流通者の先駆者か?創業社長がいま、すべての疑問に答えます。」とある。

ブックオフは、近刊本を中心に状態の良い古書を集めて、売れ筋は定価の半額、それ以外は100円で売るというコンセプトの近刊中心の古書店。全国に700店舗を展開し、株式は上場。売り上げ300億円(この本の出版時点)で急成長中の企業。利益の秘密は定価の1割以下で買取り、5割で売る粗利の高さにある。

通常の書店は再販制度の規制や取次ぎ流通の睨みにより、定価販売が義務づけられているため、それにとらわれないブックオフは、書籍をよりやすく買える場として独走を続ける。店舗と商品のキレイさへのこだわりや、マニュアル徹底によって、1年生店長やアルバイトを活用し、効率経営で足腰もしっかり固めている。

で、あるが故に、出版不況の中で、とても目立つ「出る杭」であるブックオフは、通常の新刊書店が売れなくなるだとか、古書販売の利益が著作権者に還元されないフリーライダーであるなどの、激しい業界バッシングを受けている立場。

経営者としての坂本氏はとても面白い。松本氏もさすがである。創業から現在に至る道のりを、ブックオフとマツモトキヨシがどうアイデアで乗り越えてきたかの詳細が語られる。ブックオフはかなりマツモトキヨシを参考にしたらしく(店舗の盗撮まで!)、この経営者二人はとてもよく似た考え方をしているなあと思った。

坂本氏はイーブックオフ以前は中古ピアノの販売で一旗あげていたらしい。中古ピアノの買取のアイデアがいい。「同額相当の最新ステレオと交換します」とチラシで宣伝して、成功したという。ピアノを売るのは倒産等の理由で家庭の経済が傾いた、元々は裕福な家であることが多いそうだが、この宣伝文句でマイナスをプラスとして感じさせ、格好の売る言い訳を作ってあげたわけだ。

かたや、マツモトキヨシは、敢えて素人のアルバイト女性を使うことで、風邪薬と同時にマスクやうがい薬、栄養剤までつけて売る。ここで敢えて薬剤師などのプロが販売に出ると風邪には睡眠以外の特効薬はないと知っているため、セット販売を考えないらしい。結果として、人件費が安いアルバイトのほうが、お客にも親切に思われ、たくさん売れるのだという。その他、レシートに彼氏の名前を書いて店長に破いてもらうと恋が成就するという噂をコギャルに流す(レシートであるのがポイント)などの工夫をしたらしい。

こういうアイデアを必要なときにその場で思いつける二人はやはり天才だなと思う。この本にはそういった成功体験、失敗体験も満載で、口コミの達人の武勇伝も厚みがある。同時にそれは、徹底したお客様指向ということでもあり、「ただ売るだけ」と思われがちな小売店という存在を、どうやってバリュークリエイターに変身させるかの努力の積み重ねでもあったのだとわかる。

古書販売=リサイクル産業であるが、ブックオフは単純に業態がリサイクル販売というだけではない。そのマーチャンダイジングもリサイクル発想だ。キレイな近刊本(発売3ヶ月)だけを定価の1割で買い取る。キレイでない本は引き取っても廃棄する。汚い本を並べた途端、店が汚くなり、お客も汚い本を売りにくるのだという。キレイな本を並べて売ると、お客もキレイな本を売りに来る。このサイクルが大切なのだそうだ。

絶好調のブックオフだが、急成長の大きな理由が再販制度にあったわけで、これが廃止された場合、新刊書店も価格競争が可能になる。坂本氏らの読みでは、部分的な廃止から、少しずつ全面廃止になるのではないかということだが、それまでにどれだけ出版業界における勢力を拡大しておけるかが重要なポイントになりそうだ。

■問われる再販制度の存在意義

再販制度については、昔から、いろいろな論者が議論紛糾状態なわけであるが、(あるとするならだが)私が最も強く感じている存在意義は、流通販売業者の保護というよりは、学術書の出版のような、少数だが出版されるべき本を世に出すための文化育成の一環という側面ではないかと考えている。

社団法人 日本書籍出版協会 再販関係
http://www.jbpa.or.jp/saihan.htm
再販制度についての出版業界側の考え方、再販契約書のPDFなどがある

一方、坂本社長は、再販制度が価格を固定した結果、小売店の基本である価格調整の経営努力ができず書店を弱体化させてきたと指摘する。ここでは、再販制度は流通と小売を保護するものという視点のみで考えて、もはやそれは時代遅れであると断じる。それゆえに、坂本社長と、古い出版業界は、今後もこの問題について平行線をたどるだろう。

確かに、流通と小売の業界の成長を保護するフィルターとしては意味がないような気はする。成熟産業である出版業界が、この種のアファーマティブアクションで守られる必要はもはやないだろう。幸いにして日本語の壁があるため、海外からの外圧がかからず、自由市場に残ったいびつな壁とみなすことも可能だ。

だが、一気に撤廃すると出るべき本がでなくなるのではないか?という一抹の不安は残る。売れる本、ベストセラーは安くなる代わりに、読者は少ないが価値ある本や学術書が出なくなる、異様に高額になるのは読者として困る。今までも、再販制度の部分的な解除、自由価格設定は試されているが、大抵は昔の本に限られるので実験としては有効とは思えないレベルである。

この本では触れられていなかったが、価値があるが少数しか売れない本については、電子書籍の市場が担うようになるというのも、考えられる方向性ではないかなと思った。もともと少数しか売れないのであればビジネスとしてはおいしくないから出版社としても注力すると経営を危うくする分野でもあるだろう。著者だって専門家としてもっと高い印税利益を持っても良いはずだ。印刷版が欲しい人は、追加料金で手にすることができる道を残せば、新たな印刷ビジネス需要も起きるかもしれない。なんにせよ、米国には再販制度はないわけで、なくても正常に機能する可能性はあるのだ。

■吼える坂本社長にしびれる最終章

坂本社長は本心かどうかは分からないが、既存の出版業界に対して「ソフトランディング」、共存共栄を望んでいることを繰り返し発言している。米国の2倍もある本屋の数や、取次ぎの肥大という業界のシェイプアップは、ブックオフという脅威を見ずとも、避けられない課題であると思う。その必要な変革にブックオフはこれからどう関わっていくか、動向が注目される。

特に最終章「坂本社長にあえて聞きたい ブックオフへの20の質問」では、「新刊本が売れないのはブックオフのせいですか?」「再販の下に咲いたあだ花とかパラサイトといわれますが実際のところどうでしょう?」などの辛らつな質問や、再販撤廃後の出版業界についてどう考えるかという本質的な質問が、遠慮なく投げかけられた。これに対して、ここまでは比較的大人の対応をしていた坂本社長も、ついに体制側の対して、吼えてみせる。この社長、すべてを敵に回してでも革命を起こすくらいの気概の人だと確信。しびれた。

なにはともあれ、書籍全体の売り上げ1兆円に対して、ブックオフは300億円だそうである。3%に対して、伝統的な業界が恐れをなしている図式を作り出した。このベンチャー企業、やはりただものではない。足元にも及ばないけれど、同じベンチャー起業家として坂本氏の発言のひとつひとつにワクワクした。もうちょっとこの会社について企業研究してみようと思った。


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Posted by daiya at 2004年05月11日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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Comments

松戸悪人退治連盟
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Posted by: 松戸悪人退治連盟 at 2006年07月04日 15:23
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