2004年03月12日

ビジネスチャンス発見の技術このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加


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・ビジネスチャンス発見の技術
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私たちはデータの山に埋もれて暮らしている。

ECサイトの商品の購買履歴、コミュニティの投稿ログ、Webサイトのアクセスログ、過去数年分のメール、ブラウザーに残ったWeb閲覧履歴など、普通に働いて生活しているだけでも、膨大なデータの山が身近に幾つも見つかる。

個人や会社が保有する膨大なデータやテキストは、コンピュータで徹底分析したら、実はとてつもない有益な知識が発見されるのではないか?。そんな予感を多くの人が持つようになった。ハードやソフトも廉価になったことで、データマイニングやテキストマイニングに関心を持つ人が増えている。

例えばWebサイトのアクセスログを分析すれば、ナビゲーションの不備がみつかって、経路誘導を改善することでページの閲覧数が増える。ECサイトで商品Aを買うお客は、高い確率でBも買っていることが分かれば、Aを買ったお客にBを薦めることで売り上げを伸ばす。掲示板のログを分析することでコミュニティで一番話題になっているテーマが見つかり、マーケティングに取り入れる。そういったことがデータマイニングやテキストマイニングを行うことで実現できる、ということになっている。

実際にはそれを達成するには幾つもの壁がある、ときちんと専門家は言うべきだと、私は感じている。

分析処理の過程で統計計算や社会学の知識が求められたり、高い値段のツールが必要だったりする。分析した結果の相関や分布マップが、どのような現実的意味を持っているのかを読み取るためのノウハウや発想も求められる。そもそもマーケティングは創造行為であって、過去の分析ができれば未来のヒット商品を開発できるとは限らない。こうした壁に次々に遮られてマイニングに取り組んだ人の多くは、途中で諦めたり、結果に失望して終わることも少なくない。

データを放り込めば思いもよらない結果が自動的にでてくるブラックボックスとして、データマイニングを考えるのは、無理がある。マイニングはツールであって、それ自体がソリューションではないからだ。他のビジネスプロセスと同様に、自分がやっていることを理解できていなければ、結果が出ることはほとんどないし、仮にまぐれ当たりがでても、繰り返し成功することはない、はずなのだ。ツールとノウハウがセットではじめて機能するものだと思うのだが、ノウハウの方はあまり語られることが少ない。これはその数少ない本のひとつ。

この本は、まずマイニングの目的をビジネスの「チャンス発見」とした点が興味深い。従来のマイニングは、計算の目的ではなくビジネスの目的が明確でないものが多かったからだ。

著者は本の前半で以下のように述べる。


実際に起きたさまざまな事象の中から、珍しいけれど重要な事象を見出して自分にとっての価値を理解するためにはどうしたらよいだろうか。事象を観察して集めたデータを解析すればそれでよいのか?つまりチャンス発見を自動化できるだろうか?

この問いにははっきり「ノー」と答えておきたい。人が強く介在しないとチャンス発見は不可能なのだ。

著者は、アカデミズムの世界では著名なデータマイニングの研究者で、テキストからキーワードを抽出し、文書に含まれるキーワードの発生パターンから、潜在ニーズを発見するソフトウェア「KeyGraph」の開発者として知られている。この本もKeyGraphを使った分析画面例が多数使われている。こうしたツールの分析結果から何を読み取っていくべきか、どのような態度で望むべば結果が出やすいか、著者の企業との共同研究の体験を中心に語られる。

この本の経験では、分析する人とツールが対等の関係にある。繊維業界の展示会来場者の声を分析し、関係地図にする話では、生地の名前の部分に実際の生地を貼り付けて、分析者が手触りを確かめられるようにした。そのようにして、はじめて本質が見えたという。そこには「きれい目系」「着古し系」というふたつのクラスタがいるように見えたが、実は同じお客が、ふたつのスタイルをTPOに応じて着替えたいという変身願望を持っていることに気がついたのだ。この他にも、ホワイトボードを使った分析のアイデアだし、分析の会議にはどのように臨めばよいのかの成功例などが次々に紹介される。

アイデアや発想の発見のためのデータマイニングは、まだ始まったばかりの試み。どこまでをツールは自動化でき、人間は何をすればよいのか、という切り分けが、最も重要な知識になると思う。この本は、その分野の最前線のドキュメンタリとして大変興味深く読めた。

・チャンス発見コンソーシアム
http://www.chancediscovery.com/チャンス発見のための研究を行うコンソーシアム

・著者の大澤 幸生氏のサイト
http://www.gssm.otsuka.tsukuba.ac.jp/staff/osawa/Japanese.html

・KeyGraphコミュニティ
http://www2.kke.co.jp/keygraph/link.html
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KeyGraphのダウンロード、販売情報など


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Posted by daiya at 2004年03月12日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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