2005年05月16日

アマゾン・ドット・コムの光と影―潜入ルポこのエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加


スポンサード リンク

・アマゾン・ドット・コムの光と影―潜入ルポ
4795843422.09.MZZZZZZZ.jpg

アマゾン配送センター、倉庫内での梱包及び軽作業、時給900円、2ヶ月で契約更新のアルバイト。流通業界のフリー記者である著者は、約半年間、この仕事に潜入した。マスコミに対して秘密主義で知られるアマゾンの心臓部の配送センター。徹底的なコスト競争力維持のため極限まで機械化された労働環境。

見習いアルバイトが最初に担当するのはピッキング。カードに書かれた商品を棚を回って集める単純作業。ノルマは1分間3冊。アルバイトの作業実績はコンピュータで集計され、2ヵ月後の契約更新の参考とされる。配送会社とアマゾン正社員の監視、監督の下、黙々と作業を続けるアルバイトたち。

米国アマゾンの2004年の決算発表では売り上げ70億ドルで、アマゾンジャパンを含む国際部門はそのうち31億ドル。ジャパンの売り上げは国際部門でトップであるという。著者は朝礼で聞いた配送センターの1日当たりの出荷数と、平均客単価の掛け算で、2003年度の売り上げを500億円。2004年は1000億円を超えると著者は報道資料などと推測している。

これが事実ならば、業界トップの紀伊国屋、丸善に次ぐ書店業界ナンバー3のポジションをネット書店一店舗が占めていることになる。一般書店の平均客単価は1500円程度に対してアマゾンでは3000円前後。返品率は業界平均で30%台後半であるが、アマゾンは一桁台。何が売れるかの予測精度の確かさにもとづくバイイングパワーと、送料無料、24時間以内配送の低コスト即時配送のオペレーションがアマゾンを支えていると言われてきた。

しかし、実態は長い間秘密のベールに包まれてきた。著者は配送センターの末端で働きながら、記者としての観察眼を活かして、アマゾンを支える配送センターの労働実態を分析する。細部の数字を積み上げることで、アマゾンジャパンやアマゾン全体の規模や動向が見えてくるのが面白い。経営幹部にインタビューする他のアマゾン研究本にはない視点が盛りだくさん。

センターのホワイトボードにあったベンダーコード一覧に「BookOff」の文字があることや、ダンボールの中で見つけたベストセラー版元糸井重里事務所との取引メモ(掛け率65%、50冊、買取り)、1年間で2000万円の在庫エラーと盗難事件の関係。こうした小さな日常の出来事から、著者はアマゾンのグローバルビジネスを分析してみせる。

使い捨ての安価な労働力をシステムに組み込みフル稼働させることで、1クリック、送料無料、即時配送が実現されていることもよくわかる。1クリックの先には慌しく駆け回る幾人もの配送センターのアルバイトの労働があるのだ。アマゾン正社員、取次社員、契約社員、アルバイトという厳密なヒエラルキー。アルバイトに昇進の出口はない。著者はこの状況を資本家による搾取として批判気味。

気に入らなければ職場を移ればよいのだから、この批判が妥当かどうかは分からない(実際、著者の同僚はこの労働環境を問題としていないようだ)。少数の知識集約型エリートによる上層部と、システマチックに管理される多数の単純作業アルバイトという組み合わせは珍しくはない。ただ、日本的経営で盛んな現場知識の吸い上げはまるで行われていないようだ。そもそも配送センターで働くアルバイトはアマゾンのオンラインショップを使わない層なのだという指摘もある。

この本はアマゾンの強さの秘密という「光」と、その強さを支える工場労働者の悲哀という「影」を同時に語ろうとするIT企業分析本としては異色のアプローチ。取材ではなく潜入だから知ることができた情報が多数盛り込まれていて、大変面白く読むことができた。


スポンサード リンク

Posted by daiya at 2005年05月16日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
Daiya Hashimoto. Get yours at bighugelabs.com/flickr
Comments
Post a comment









Remember personal info?