2009年7月アーカイブ

・ドラゴンクエスト スライムスピーカースタンド
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ニンテンドーDSi、ニンテンドーDS Lite用のスピーカー兼スタンド。子供の誕生日プレゼント用として買いましたが、観賞用マスコットとしてもドラクエプレイ期間は楽しめます。実物大?スライムは柔らかい素材なので、パームレストとして機能します。

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DSをプレイするときには専用スタンド部品を上に取り付けます。スピーカー端子をDSに接続すると準備が完了。ゲームサウンドが大音量で流れます。スピーカーは単三乾電池4本が必要。

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使わないときにDSを置いておくスタンドとして常用できそうです。充電もできるようにしてくれたらなおさらよいのですけどね。

・ドラゴンクエストIX 星空の守り人 と 東京ディズニーリゾート便利帖
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/07/ix.html

・明るい部屋 写真についての覚書
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ロラン・バルトが晩年に書いた写真論。写真の本質を現実≪それはかつてあった≫であると定義するが、それが真実≪これだ!≫と結びついたとき狂気の真実とも呼べる希有な感動を呼ぶという理論。

写真には二つの根源的な要素があるという。

1 ストゥディウム(一般的関心)
2 プンクトゥム(突き刺すもの)

である。1は一般的関心や文化コードであり、大半の写真はこれだけで構成されていると言える。撮影者の芸術的意図や政治的意図も含まれる。言葉で言い当てられるものである。ありふれている。一方で2を持つ写真は稀である。

「ごく普通には単一のものである写真の空間のなかで、ときおり(といっても、残念ながら、めったにないが)、ある≪細部≫が、私を引きつける。その細部が存在するだけで、私の読み取りは一変し、現に眺めている写真が、新しい写真となって、私の目にはより高い価値をおびて見えるような気がする。そうした≪細部≫がプンクトゥム(私を突き刺すもの)なのである。」

ある写真家が写した肖像写真でアンディ・ウォーホルは両手で顔を隠している。ウォーホルは写真を見る者に自分の手を読み取らせようと試みたわけだが、その隠れん坊行為はストゥディウムである。偶然カメラがとらえてしまった「へらのように反り返り、やわらかで垢が黒くたまっている爪という、いささか胸くその悪くなる素材」こそプンクトゥムなのだと具体例で挙げてみせる。

「私が名指すことができるものは、事実上、私を突き刺すことができないのだ。」。突き刺すとは感動と同義である。ロラン・バルトは写真に写った亡き母の姿を見たとき、自己の内側から立ち上がってくる感覚を分析していく。形容詞を無限に連ねていくしかないような感覚を感じて驚く。そのきっかけもまた一見ありふれたような構図と被写体の写真の中の、バルトだけにわかる細部なのである。

「写真が心に触れるのは、その上等的な美辞麗句、≪技巧≫≪現実≫≪ルポタージュ≫≪芸術≫等々から引き離されたときである。何も言わず、ただ細部だけが感情的意識のうちに浮かび上がってくるようにすること。」

人を感動させる写真というのは、撮影者の意図的な表現を超えたところに存在するということなのだ。社会や芸術に飼い慣らされた写真はつまらないとバルトは批判しているのである。必要なのは狂気でありエクスタシーだ。「写真」と「俳句」は共に激しい不動の状態だと言っている。

「狂気をとるか分別か?「写真」はそのいずれをも選ぶことができる。「写真」のレアリスムが、美的ないし経験的な習慣(たとえば、美容院や歯医者のところで雑誌のページをめくること)によって弱められ、総体的なレアリスムにとどまるとき、「写真」は分別のあるものとなる。そのレアリスムが、絶対的な、もしこう言ってよければ、始源的なレアリスムとなって、愛と恐れに満ちた意識に「時間」の原義そのものを思い起こさせるなら、「写真」は狂気となる。」

イメージ論として秀逸。技巧的に上手い写真ではなく、半端でなく人を感動せせる写真を考えたい人に。

・植田正治 小さい伝記
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/03/post-726.html

・写真家の引き出し
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/03/post-728.html

・心霊写真―メディアとスピリチュアル
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/06/post-1016.html

・いま、ここからの映像術 近未来ヴィジュアルの予感
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-952.html

・植田正治の世界
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/03/post-717.html

・不許可写真―毎日新聞秘蔵
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/03/post-724.html

・写真批評
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005242.html

・土門拳の写真撮影入門―入魂のシャッター二十二条
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004954.html

・東京人生SINCE1962
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005034.html

・遠野物語 森山大道
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005029.html

・木村伊兵衛の眼―スナップショットはこう撮れ!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004923.html

・Henri Cartier-Bresson (Masters of Photography Series)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004931.html

・The Photography Bookとエリオット・アーウィット
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004958.html

・岡本太郎 神秘
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004986.html

・マイケル・ケンナ写真集 レトロスペクティヴ2
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005007.html

・絶対貧困 世界最貧民の目線
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「物乞う仏陀」に続いて読んだこれも当たりですっかり石井光太ドキュメンタリのファンになってしまった。

世界の5人に1人は1日1ドル以下で暮らしている。物乞い、物売り、ストリートチルドレン、売春婦...路上やスラムに暮らす世界最貧民の実情を生々しくレポートする。その貧困の悲惨さを強調するのではなく、彼らがどんな生活をして、日々何を考えているのか、を潜入取材による同じレベルの目線で明らかにしていく。

・男女はどんな恋愛をしているか
・どんなセックスをしているか
・出産や葬儀はどうしているか
・トイレはどのようになっているか
・路上でどのように、いくらくらい稼ぎ、そして巻き上げられているか
・貧困女性が多く従事する性産業の実態

など。大きくスラム編、路上生活編、売春編の3章構成。知らないことの連続。

「しかし、スラムだって路上だって、売春宿だって、そこで生きているのは、私たちと同じ人間なのです。恋もすれば、嫉妬もするし、自慰だって不倫だってするわけで、かならずしも涙に暮れた純粋無垢な被害者しかいないわけではないのです。」

マクロばかりみて理解したつもりでも、貧困層の人生を内側からの目線でも考えなければ、貧困問題の真の問題解決にならないということがよくわかる。いや外側、内側と言うより上半身でも下半身でも、といったほうが正しそうだ。ここに赤裸々に綴られた下半身の事情が、失業率や犯罪発生率の数字よりも、読む物の心に迫ってくるものがある。

「今後、世界のグローバル化はますます加速していくはずです。その時に大切なのは、海外での出来事を自分たちのこととして考えることです。「遠い国の出来事」として見て見ぬふりをするのではなく、我が身に降りかかってくる問題として受け止め、行動をしていくことです。」

まさに実践者である。シモネタ事情を中心に語っていても、著者の貧困層を見る目が温かいから下品には落ちない。ツカミの効いた読み物として読ませ、後からじっくりと考えさせる。素晴らしいノンフィクション。

・物乞う仏陀
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/post-935.html

・石井光太オフィシャルサイト
http://www.kotaism.com/

・現代の若者
http://kotaism.livedoor.biz/

・最底辺の10億人 最も貧しい国々のために本当になすべきことは何か?
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/08/10-10.html

・アニマルスピリット
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ノーベル経済学賞受賞者ジョージ・A・アカロフと『投機バブル根拠なき熱狂』著者ロバート・シラーという二人の著名な学者が、経済におけるアニマルスピリット(行動への突発的な衝動)の本質的な役割を明らかにする。翻訳は山形浩生で解説も書いている。

最近流行の行動経済学は人間の不合理さ(あるいは不合理に見える合理、合理に見える不合理)を強調しているが、そもそもマクロ経済学の父であるケインズが、アニマルスピリットの重要性を指摘していた。

アニマルスピリットの5つの側面として安心、公平さ、腐敗と背信、貨幣錯覚、物語が挙げられている。これら5つの要因が絡み合って、19世紀以降の大恐慌の大きな原因となってきたいう歴史的な説明がとてもわかりやすい。

「本当の問題は、これまで何度も見たように、現在の経済学の相当部分が根底に持っている通念だ。マクロ経済学やファイナンスの専門家のあまりに多くが、「合理的期待」や「効率市場」の方向性を推し進めすぎて、経済危機の根底にある最も重要な力学を考えなくなっている。アニマルスピリットをモデルに導入しないと、問題の本当の原因が見えなくなってしまうのだ。」

なぜ経済は不況に陥るのか、なぜ中央銀行は経済に対して力を持つのか、なぜ仕事を見つけられない人がいるのか、など効率市場の仮説ではうまく答えられない8つの問題に対して、アニマルスピリットの理論を統合すると、腑に落ちる答えが提示される。

人間はとかく物事を物語(アニマルスピリットの一つ)として理解しようとする性質があり、それが経済のダイナミズムを形成する要因となるという話が特に面白かった。現代人にとって財布のひもを緩ませるのは、直接的欲望というよりは、意味のある物語であろう。

「人類は物語をもとに考えるよう創られている。つまり、内的な論理や力学を持ったひと続きの事象で統合された全体として見えるようなものに頼りたがる。おかげで、人間の動機の相当部分は、自分の人生の物語を生きることから生じている。それは自分が自分に言い聞かせる物語であり、それが動機の枠組みとなるわけだ。そういう物語なくしては、人生は「あれこれいろいろ降ってくるばかり」でしかなくなる。同じ事が国や企業や制度に対する安心についても言える。偉大な指導者というのは、まず何よりも物語を作り出せる人物なのだ。」

・QZoom
http://www.vector.co.jp/soft/winnt/util/se472661.html
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便利。

授業やプレゼンで画面の一部を拡大表示したい時がある。Macだと簡単らしいのだが、と思っていたらWindowsでも簡単に実現するソフトがあった。QZoom (WindowsでMac OS Xのズーム機能を実現するソフト)は、画面の拡大縮小ユーティリティ。

拡大:Win + Alt + ^
縮小:Win + Alt + -
キャンセル:Esc

または

拡大:Controlキー + マウスホイールを上へ
縮小:Controlキー + マウスホイールを下へ

というキー操作でコントロールできる。全画面でなめらかに実行。

使い方がよくわかる動画が公開されている。

USBメモリに入れて動作させることができるそうだ。

・Nikon AF-S DX NIKKOR 35mm f/1.8G AFSDX35 1.8G
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久々にレンズを購入。ニコン一眼レフ用。

私は同じニコンの50mm F1.4を愛用してきたのだが、50mmはやや画角が狭いため、絵作りを考えないといけない感覚があった。写真の練習用としてはそれで素晴らしかったのだが、気楽なスナップショット目的でもっと気楽に使える標準レンズがほしかった。

そこへ単焦点 35mm F1.8の発売。35mmというのはアナログ時代の標準50mmに近い。単焦点のレンズの出来のよさとお気楽な使い勝手のバランスが取れていて、とても使いやすい。購入して数カ月だが、使用頻度が一番高いレンズになっている。

一眼レフの単焦点交換レンズというのは、各メーカーが技術力の見せ場として競い合うため、投資対効果が実に高いなあと今回も思った。

・Nikon バヨネットフード HB46(AF-S DX NIKKOR 35mm F/1.8G用)
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暗闇に浮かぶバースデーケーキ
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シャッター速度: 0.025 sec (1/40)
絞り: f/3.2

・スナップ写真
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・妻に5メートルくらい離れて撮影してもらった。距離感はこんなかんじ。
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・FlickrのNIKKOR 35mm f/1.8Gのプール
http://www.flickr.com/groups/1068360@N21/pool/

・Print2Flash
http://www.print2flash.com/
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インストールすると仮想的なプリンタとして登録される。アプリケーションから印刷の出力先として選択すれば、紙で出てくる代わりに、Flashに変換される。ネットでプレゼン資料を公開するのに便利だ。ファイル化する際にWeb公開に必要なHTMLも自動生成してくれる。

・変換したサンプル
http://www.ringolab.com/note/daiya/print2flash/flashsample01.html
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パワーポイントをFlashに変換してみた。プリンタ出力と同等なので、1ページに複数枚のスライドを含める「配付資料」の形式でも出力できる。

・配付資料1ページに4枚のスライドで同じファイルを出力
http://www.ringolab.com/note/daiya/print2flash/print2flashsample02.html

生成されるFlashファイルは、表示の拡大縮小、検索などの機能がついたビューアーに埋め込まれている。検索も日本語で可能なようだ。

・ドラゴンクエストIX 星空の守り人 と 東京ディズニーリゾート便利帖
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連休にディズニーランドへ行った。ドラクエ9の"すれちがい通信"をするために。

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ドラクエ9はニンテンドーDSの無線LAN機能を使って呼び込みモードにしておくと、近距離(10メートルから30メートル)にいるプレイヤーを自分のゲーム世界に迎えることができる。呼び込み人数に応じてゲーム内"宿屋"が大きくなる。

アトラクションやパレード待ちをしていると次々に釣れる、釣れる。一度に3人ずつしか呼び込めない仕様のため、かかったかなー?と頻繁にDSの蓋を開けて"ホイホイチェック"しないといけないのだが、さすが天下のディズニーランド入れ食いである。しかもプロフィールを見ると全国からプレイヤーが集まっている。

「夜のパレードが楽しみ」「水をかけられてびしょぬれになっちゃいましたー」などディズニーランドに関する情報をメッセージに書き込んでいる人が多い。

いやあ、すごいな。最終的には50人も捕まえることができた。ディズニーランド作戦は大成功である。いったい何人くらいのドラクエユーザーがランド内にはいるのだろう?。ちょっと推定してみた。まず世の中に出回ったドラクエ9の本数だが、

・ドラクエ9:予約200万本 ゲーム市場の再活性化なるか
http://mainichi.jp/select/biz/news/20090712k0000m020103000c.html

日本の人口は1.3億人で、そのうち200万人がドラクエ9を持っている。これは65人に1人の割合である。この日のディズニーランドはやや混みレベルだから入場者数は約4万人程度であると見積もる。待ち時間で暇なランドにDSを持ち込む率は多いと考えると、ドラクエ保持者は園内に600人くらいいることになる。そのうちの10分の1とすれ違ったことになる、のだろうか?。

で、すれちがいモードにしているとゲームは遊べないので、並びながら読んでいたのがディズニーが絶対に推奨しないであろう辛口&裏技ガイドブックのこれ。

・東京ディズニーリゾート便利帖
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「絶対並んではいけないトイレは。人気レストランが空く時間帯は。ファストパスを使いこなすには。バカ混みの日の回りかた。幼児が喜ぶすごく楽しい回りかた。先払いのレジで失敗しない方法。エレクトリカルパレードを2回見る方法。昼のパレードを最高の場所で見る。花火を至近距離で楽しむ裏技など、空前絶後の大調査。いますぐ使える、前人未踏、抱腹絶倒の超ガイドブック。 」

やや情報が古くなりつつあるが、クチコミの集積を持ち歩ける感じだ。読み物としてもかなり面白い。この本をたった独りで書いているのは偉大だ。

・頻出 ネット語手帳
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「"ネット語"とはインターネットで生まれた言葉のこと。ネット社会の現代において、このネット語を理解できなければ、コミュニケーションはもはや不可能ともいえる。本書はそんなネット語のなかでも頻出の約350語を解説する。 」

2ちゃんねるやオタクのコミュニティに出入りすることの多い一般人向けのネット語解説書。350語あるが、全部知らなくても、全部知っていてもやばい。漏れ、スルー、妊娠(任天堂信者)、ゆとり、儲(信者)、情弱、カオス、orz、餅つけ、ピザ、ごくり、黒歴史、スイーツ(笑)、映画化決定、痛車、炎上、虹、乙、w、炊く、粘着、チラ裏、厨房、などなど。

各語に解説、用例、類義語、関連語などが載っていて親切。

だいたいこういう言葉は生半可な理解で使うと恥ずかしいエピソードが発生する。以下、実話ベース...。

エピソード1 リア充

先日、物知りな同僚が『リア充』という言葉を知らなかったので、私はここぞとばかりに「え、リア充も知らないの?リア充っていうのはさあ」と、とくとくと意味を教えてやったのだが、彼はモテ系であるが故に「リア充」を知らないのは当然なわけで、負けたのは私か?。

エピソード2 空気嫁

『空気嫁』。この言葉をチャット上で最初に見たとき、私は「長年連れ添って空気のように感じられる嫁さんみたい」の意として誤解し、「その彼女って空気嫁みたいな感じ?」なんて誤用をしたのですが、それなりに話が通じてしまい、後で意味を知って独り笑いました。

エピソード3 小一時間問い詰めたい

先日、会議で話題になった若者のミスについて私は「本当のところオマエどうなっているんだとその学生を小一時間問い詰めたい」と笑いながら言ったところ、同席者から「1時間も問い詰めるとパワハラになりますよ」と諭された。いやマジに受け取られても困るのですが。

【今使うとかなり痛い!】ビジネス・IT用語
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20090721-00000001-spa-ent

・パターン、Wiki、XP 時を超えた創造の原則
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一緒に集合知プロジェクトの仕事をした江渡さんの新刊『パターン、Wiki、XP 時を超えた創造の原則』を読んだ。名著『ゲーデル、エッシャー、バッハ』の如く、シンプルな着眼点で異な物を結びつけ、普遍の道理に導く手際に感動した。

建築家のクリストファー・アレグザンダーが1960年代に考え出した思想が、形を変えて現代のソフトウェア開発手法や、Wikipediaで花開いたWiki型の共創コミュニティに受け継がれてきていることを解明した本である。

アレグザンダーは都市計画によって作られた「人工都市」と、長い時間をかけて生成された「自然都市」を区別した。人工都市はどこかよそよそしく、自然都市は落ち着いた感じがある。ひと言で言い表すことができないけれど、自然都市にはある種の美しさ、「無名の質」とでも呼べるような価値が備わっていることに注目したのだ。

そしてアレグザンダーは、住みやすい自然都市に無名の質を生み出しているのは、繰り返し現れる構造=パターンであることを指摘する。たとえば建物の入り口に何らかの場面転換部を置く「入り口での転換」、建物外縁部のひさし付きの道「アーケード」、大きな共用部屋の周囲にぽこっと奥まった小さな落ち着く部屋「アルコーブ」など。うまくいくパターンを集めると、住みやすい建築や町ができあがることに気がついた。最終的にアレグザンダーは232個のパターンを集めて解説書「パタン・ランゲージ」を発表している。

パターンは、一つまたはいくつかの機能要求に対応した部品とは異なる。機能部品を積み上げて作るのはゼネコン流の計画都市のやり方だ。要求に単純に対応する部品には、同時にいくつもの住民の要求を満たすパターンの柔軟さがない。だから「都市はツリーではない」のです。木構造に還元できないのだ。

「アレクサンダーは、人工都市がツリー構造になってしまう原因は、人間の認識能力の限界にあるとしました。人工都市は少数の建築家が全体を設計するため、複雑に絡み合った条件を必然的に少数の要素に還元して考えます。つまり要素間の関係性は半ば必然的にツリー構造に還元されてしまいます。それに対して長い年月を経てできあがる自然都市は、そのようなツリー構造を持ちません。1つの場所が複数の役割を同時に担うセミラティス構造を持っています。」

そしてアレグザンダーは、利用者と建築家の共通言語として「パタン・ランゲージ」を作った。少数の建築家による壮大な設計図から作るのではなく、住民とのインタラクションによって常にパターンを組み替えていく、生きた建築の原理を提唱した。

アレグザンダーの「時を超えた創造の原則」の原型は次の6つの原理である。


1 有機的秩序の原理
計画や施工は全体を個別的な行為から徐々に生み出していくようなプロセスによって導かれること

2 参加の原理
建設内容や建設方法に関するすべての決定は利用者の手に委ねること

3 漸進的成長の原理
各予算年度に企画される建設は、小規模なプロジェクトに特に重点を置くこと。

4 パターンの原理
すべての設計と建設は、正式に採択されたパターンと呼ばれる計画原理の集合によって指導されること。

5 診断の原理
コミュニティ全体の健康状態は、コミュニティの変遷のどの時点でも、どのスペースが生かされ、どのスペースが生かされていないか、を詳しく説明する定期的な診断に基づいて保護されること。

6 調整の原理
最後に、全体における有機的秩序の緩やかな生成は、利用者の推進する個々のプロジェクトの流れに制御を施す財政的処置によって確実なものとされること。

第二部では現代のソフトウェアの開発プロセスXP(エクストリームプログラミング)とパタン・ランゲージの共通点が指摘されている。ハードの建築でもソフトの開発でも普遍的な秘訣がみつかる。

XPとは、瞬時のフィードバック、シンプルの採用、インクリメンタルな変更、変化を取り入れる、質の高い作業を重視する行動指針だ。うまくいくパターン集なわけである。
XPと似た手法のアジャイルマニフェストは(説明としてわかりやすいので例として)

・プロセスやツールよりも、人と人との交流を
・包括的なドキュメントよりも、動作するソフトウェアを
・契約上の交渉よりも、顧客との協議を
・計画に従うことよりも、変化に適応することを

というような原理を重視して進めるソフトウェアの先端的な開発技法である。アレグザンダーとどこか似ている。そしてXPもまた新たな社会構造を作るという野心を秘めている。

第三部ではWikipediaのベースになった知のコラボレーションシステムWikiの誕生から現在に至るまでの歴史解説。ウォード・カニンガムによるWikiの設計思想もアレグザンダーの思想の直系子孫なのだ。インターネットの世界に開かれた創造の原理が拓く未来を江渡さんは展望していく。

「Wikiは、誰もが自由に、ほかの人の記述も含めてどこでも書き換えられます。それが非常にラジカルで、すごいことなのですが、その代わりにそのような環境を維持するためには非常に大きな努力が求められます。議論を通じて合意や共通理解に到達することに価値を認め、おのおのが実践していくという文化を作り上げることが、Wikiにとっては非常に重要なのです。」

実際の建築家としてのアレグザンダーは、その優れた創造原理を十分に実践することはできなかった。現実の建築の仕事には多くの制約があったからだ。しかし、インターネット上の人々の住処=仮想コミュニティのソフト設計は、まさに創造原理が究極の形で発現しうる場なのだろうと思う。そこでは、利用者と建築家が常時パタンランゲージのやりとりを行いながら次代の形態を模索していくことが可能だからである。

そうした未来の生成プロセスへの予感で本書は閉じられる。これまでもやもやとしていたネット集合知の原理解明に、視点、突破口ができたぞ、という読後感。

・琵琶法師―"異界"を語る人びと
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「最後の琵琶法師」の記録映像のDVD(8cmDVD)が付録についた岩波新書。本文では琵琶法師の歴史的な位置づけ、平家物語の成立の経緯を解説する。映像では語り手の主体が消失し、自己同一的な発話主体を持たず、物語中の登場人物に転移していく"モノ語り"の実演を見ることができる(この映像背景、かなり生活感漂うのだが...本物だからか)。

先日、人工知能学会全国大会で講演するため飛行機で高松に出かけた。機内でこの本を予習読書。イベント翌日に平家物語ファンとして、市内にある平家物語歴史館を訪問してみた。(高松には源平合戦ゆかりの屋島がある)。

・平家物語歴史館
http://www.heike-rekishikan.jp/
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かなり大がかりなミュージアムだが、工場地帯の一角にあり観光客には不人気?なのか、私以外のお客さんがいなかった。ここでは蝋人形で平家物語の有名シーンを再現している。もちろん琵琶法師による語りが大音響で場内に流れている、唯一の客である私だけのために!。随分贅沢な気分になったが一人で何百体の蝋人形館を回るのは実は不気味な体験でもあることが判明。人形が結構よくできているので怖いのである。おまけに冷房が効きすぎて寒い。

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平家物語が好きな人にはかなり楽しめる博物館なのだが、それ以外の人にはどうなんだろうなあ。なかなか微妙なところだよなあ、前半の四国ゆかりの著名人の蝋人形群が実はビジネスなんだろうなあなどと、と独り言を言いながら「好きなだけどうぞ」と勧められた写真撮影をして展示をゆっくり回る。

・安徳天皇の入水のシーン。
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琵琶法師の語る世界観にどっぷりと1時間浸ることができた。マニアックなB級スポットとして、なかなか。

それと琵琶法師の平家物語の絵本化としてはこの本も素晴らしかった。子供に平家物語をインストラクションするのに最適である。

・祇園精舎
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琵琶法師が集まってきた聴衆に栄枯盛衰の物語をおどろおどろしく語る。「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす おごれる人も久しからず ただ春の世の夢のごとし たけき者も遂には滅びぬ 偏に風の前の塵に同じ 」を絵本にした。

・「平家物語 あらすじで楽しむ源平の戦い」と「繪本 平家物語」
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-823.html

・安徳天皇漂海記
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/09/post-445.html
平家物語のバリエーション。

・まだある。大百科 お菓子編―今でも買える昭和のロングセラー図鑑
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「橋本さんってお菓子、好きですよね」と同僚にまた言われた。

そう、私は仕事をしながら、ボリボリお菓子を食べている派である。職場だけでなく、自宅のブログ用机の上もお菓子だらけ。糖分を補給し、顎を動かすと、脳が活発に動くからである。

これは「今でも買える昭和のロングセラー」を写真とエッセイで紹介する人気のシリーズのお菓子編の集大成である。お菓子なけに、懐カシい、なんちゃって。お菓子のデータをよく調べた上で子供時代の思い出と絡めて書かれた長文エッセイが素晴らしい。子供時代の風景が蘇ってきて、実にいい感じの本なのだ。著者は1967年生まれなので、30代から40代くらいに響く内容。

発売年代によって1940年代、1950年代、1960年代前半、1960年代後半、1970年代前半、1976年以降という区切りで、数百のお菓子が紹介されている。三ツ矢サイダー、名菓ひよ子、ボンタンアメ、ゴーフル、中村屋の月餅、ミルキー、バヤリース、フエガム フエラムネ、モロッコフルーツ ヨーグル、フィンガーチョコレート、チェリオ、ジューC、ありあけのハーバー、キャラメルコーンなど定番商品から、駄菓子屋のニッチまでかなり網羅的に取り上げられている。

私が読んだ後で妻にも読ませた。面白かったのは、関東出身の私と関西出身の妻では一部に話が通じないお菓子があることである。ナボナ(関東)、ありあけのハーバー(関東)は妻は知らないといい、バナナカステラ(関西)を私は知らなかった。

ほぼ同じ菓子なのに東西で名称を変えているものもあった。とポテコ(少し太い)なげわ(少し細い)はどちらも東ハトの商品だが、流通量は東のポテコ、西のなげわだったそうだ。私は確かにポテコの記憶がある。

・ポテコ、なげわ
http://tohato.jp/products/potenage/

メーカーは今は両者をあわせてポテなげとして広告している、のだなあ。こういうお菓子に関するトリビアが満載の本で読み応えがある。ボリボリ。

・世界中のお菓子あります
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/06/post-408.html

花まんま

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・花まんま
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第133回(2005年)直木賞受賞作の表題作を含む朱川 湊人の短編集。昭和30~40年代の大阪の町を舞台に、当時子供だった主人公の不思議体験を綴った郷愁幻想小説集。ファンタジー40%、ノスタルジー60%。

6編中好きなのはこの3編かな。

【花まんま】
ある日、妹が妙に大人びた口を聞くようになった。まるで誰かの生まれ変わりであるように、別の家や家族の記憶を語る。不可思議な記憶の正体をつきとめようとする兄妹の物語。

【トカビの夜】
本当は好きだったのに、仲間と調子を合わせて、いじめていた近所の朝鮮人の少年が死んだ。その夜から近辺の家に不思議な現象が起き始める。やはりあれは少年の幽霊なのだろうか。

【送りん婆】

臨終間近で苦しむ人たちを安らかな気持ちで送り出す呪文を知っているのが「送りん婆」。婆に跡継ぎとして指名されてしまった少女は、見習いとして臨終の現場を一緒に回ることになる。

独特の異世界を確立している。科学的に霊魂の存在があるとかないという議論は不毛だなと思う。愛憎、人情があるところで、人間が死ぬと、残された人たちの心に自然と霊が生まれてくる。

6編とも共通した世界観で描かれていて、どれも根底に暖かい感情があって、続けて読みやすい。昭和の空気がたっぷりだ。こういうのは平成生まれが読むとどう感じるのだろう。

・パーマネント野ばら
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漁師町に一軒だけのパーマ屋「野ばら」にやってくる近所のおばちゃん達と主人公の井戸端コメディ。外国人ホステスを雇ってキャバレーを経営したり、夫と血みどろの大げんかをしたり、たくましすぎるように見えるおばちゃん達にも、それぞれに秘めた恋物語があって、しみじみ。

・いけちゃんとぼく
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西原理恵子の初の絵本。少年の前にあらわれた謎の生物のいけちゃん。少年は落ち込むと、いけちゃんがでてきて、やさしく慰め、励ましていく。少年はやがて成長するにつれ、いけちゃんのことを忘れていく。大人と子供では感想が大きく違う絵本だ。そして2回読みたくなる構造になっている。1回目と2回目で感想が違う絵本でもある。


『毎日かあさん』のアニメ化と『いけちゃんとぼく』の実写映画化で広く人気を得たが、最近の西原理恵子の作品は本当にすごいと思う。元夫との死別前後(『毎日かあさん4』)から深みを増してきた。西原が復縁した鴨志田穣が末期ガン亡くなったのは2007年3月。「パーマネント野ばら」「いけちゃんとぼく」は共に2006年9月の出版だが、共に愛する人との別れを念頭に描いていたのだろう。ほのぼのさせながら、最後に泣かせる。

・この世でいちばん大事な「カネ」の話
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/01/post-909.html

・かちかちかうんたー
http://www.vector.co.jp/soft/win95/art/se347447.html
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いつか使いそうなツール。

なかなか使う機会がないが、あれば相当に便利そうだ。

かちかちかうんたーは画像内のモノの個数を数え上げるツール。

たとえばこんな写真があったとして、花は何枚あるか数えるのは面倒な作業だ。

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かちかちカウンターはクリックするたびに印をつけ(3色まで分けることもできる)てカウントアップする。かちかちとクリックしていくだけで、いくつあるのか集計ができてしまうのだ。

上の写真で数えてみたが数分で252本の花が写っていることがわかった。なんだか嬉しい。

複数枚の画像の集計結果をプロジェクトとして比較表示できるので、本格的に活用できそうである。コントラストや色彩色相の調整機能で、見えにくいモノも浮き立たせることができる。

集合写真に何人写っているか、イベント写真から来場者数の推定、この駐車場に何台の車が止まっているか、など調べる用途は、業務や研究で、いっぱいあるんじゃないかな。

・MailStore Home
http://www.mailstore.com/en/mailstore-home.aspx
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MailStore Homeはメールのバックアップソフト。対応メールソフト(サービス)はMicrosoft Outlook、Exchane、Mozilla Thunderbird、Gmail、POP3、IMAPなど多数。アーカイブをCD/DVDに焼く機能もある。

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なによりGmailに対応しているのが嬉しい。IDとアカウントを指定すると、サーバからメールを一通ずつダウンロードする。保存したいメールをフォルダや期間で限定することもできる。

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ダウンロードしたメールデータのエクスポート機能もついていて、Gmailのメールを、Firefoxに入れるということもできる。

"Gmailと相性が悪くて文字化けしてしまうメーリングリストに対しては、このメールソフトで投稿管理したい"というときに便利だ。(随分具体的なのは私にそういうニーズがあったから)

J. W. Waterhouse

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・J. W. Waterhouse
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前から気になっていたラファエル前派の画家J.W.ウォーターハウスの画集を買った。実はここ数年で注目されている?。大型本、洋書。日本語版もあるが、洋書とサイズはほぼ同じでありながら、値段がかなり高いので、絵の鑑賞ならばこのオリジナルで十分である。そもそも文字が多すぎて、日本語だと鑑賞の邪魔になる気がする。

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ウォーターハウスは妖艶で官能的な女性の美しさを描くことで知られる。ヘラクレスの使者のヒュラスを水の妖精達が誘惑する『Hylas and the Nymphs』などは特徴的である。そしてこの美少女達の誘惑に負けたヒュラスは水にに引き込まれて果てる運命にある。実は怖い美少女達なのである。

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画集を繰り返し見ていて、ウォーターハウスの絵に登場する女性に共通する点があるように思えたので、絵のどこに魅了されるのかを言語化してみることにした。

・上目遣い
・凝視する瞳
・色白の肌
・赤い唇
・半開きの口
・髪をいじる
・後ろ髪を両手でかきあげる姿勢
・上気した頬
・少女体型
・手に持った物を両手で差し出す姿勢
・ひざまづく姿勢
・薄手のワンピース
・水辺のシチュエーション

こうした要素が、無防備で可憐な少女のイメージを強調しているのだ。だが、ただ蠱惑的なだけでなくて、そうした魅力で水底に引き込むような暗さ、怖さも感じさせるのがウォーターハウスの絵の魅力だなあと思う。

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ウォーターハウスが面白いのはこの画家の生年は 1849-1917。中世の絵のようにも見えるが、実は現代の作家だと言うこと。であるが故に当時は復古趣味というか時代遅れな画風だとも評されていたらしい。

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・Wikipediaの解説
http://commons.wikimedia.org/wiki/John_William_Waterhouse

・J.W.Waterhouse オフィシャルサイト
http://www.johnwilliamwaterhouse.com/home/

・科挙―中国の試験地獄
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世界史好きに超おすすめの本です。

「宋代以後、科挙は三段階をとり、まず地方で郷試(解試)を行ってその合格者を中央におくり、中央政府で会試(貢挙)を行い、続けて天子みずから行う殿試で最終的に決定するのがたてまえである。しかし後世になると、だんだんこの三段階の本試験に附属する小試験が追加され、清代になると非常に複雑なものになってきた。」

人類史上最難関の官吏任用試験である中国の科挙。第一回の587年から最後の1904年までの1300年間、その第一関門ともいえる郷試は3年に1度のペースで挙行された。試験場の南京の貢院には2万人もの受験者が押し寄せて、幾晩も独房に閉じこもって、世紀の難試験に必死の思いで取り組んだ。最盛期の科挙で最終合格者の進士になれるのは約3000人に1人。合格者は中央政府の高級官僚となり、権勢も財産も手に入れることができ、一族の繁栄が約束された。

四書五経ほか古典43万字の丸暗記と、詩作の技能などを試される。試験官にアピールすすためには、解答内容が完璧なだけではなくて、印刷したかのような明瞭な文字で答案を記述することも求められた。答案用紙を汚せば失格。雨漏りをする部屋で、受験者は夜通し必死で答案用紙を守ったという。すべての試験を通じて、天子と現王朝の祖先の名前のついた文字を絶対に答案に書き込んではならない(替え字が用意されている)という、落とし穴にも気をつけなければならなかった。

科挙は中国の政治体制を築く礎となった。これだけ広大な領土の国家を皇帝が長期間、独裁統治することができたのは、地方の貴族勢力を廃して、天子が任命した優秀な官僚を派遣することができたからである。また家柄も血筋も問わず万人に出世の門戸を開放したことで、人民に希望を与え、厳しい競争を勝ち抜く有能な人間を登用することができた。

科挙は究極の試験制度でもある。不正防止のための仕組みが何重にも織り込まれている。答案審査は姓名を隠し、座席番号だけを見て行われるし、審査員は答案そのものに手を触れず、写しをみるのみである。筆跡で受験者が特定されるのを避けるために数万枚の答案をすべて厳密な管理の下で職員に筆写させていたのである。試験官達は試験期間は、外部との連絡を禁じられて、試験場に数週間も缶詰状態であった。

しかし、非人間的なほど過酷な試験制度は、受験者の心や社会に歪みを生んだ。一握りの超エリートを選抜する一方で、数十年間の浪人生活の果てに絶望する大量の敗残者を生み出した。度重なる試験の失敗に嫌気がさして、民衆の反乱のリーダーになった者もいた。いくら対策が厳しくても、裏口入学や試験管買収などの不正が後を絶たなかった。過酷な試験場で幽霊や祟りを体験する話も多く伝わっている。

人類史上最難関の試験実施の実態と、関係者の悲喜こもごものエピソードが満載で、大変読み応えのある濃い内容であった。これを読んでしまうと、日本でいくら大学受験が加熱したところで、たいしたことなかったんだなあと思える。試験制度が極限まで行った姿が科挙なのである。

・傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学
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驚き。食品包装用ラップで傷が治る?。2001年よりインターネットで傷を消毒しない、乾かさない「湿潤治療」を啓蒙する医師の書いた本。コペルニクス的な転回が面白い。

・新しい創傷医療 「消毒とガーゼ」の撲滅を目指して
http://www.wound-treatment.jp/

1 傷を消毒しない。消毒薬を含む薬剤を治療に使わない。
2 創面(キズ)を乾燥させない

という二つの原則を守るだけで傷(擦り傷、切り傷、火傷など)が驚くほど早く、痛くなく治ってしまうという。そして消毒薬は、傷を治すどころか、人間の細胞膜タンパクまで破壊してしまうから使うべきではないとする。これまでの医療の常識を覆す最新治療法である。

傷が乾いてカサブタができたら治るというのもウソだと教える。

「カサブタは要するに、中にばい菌を閉じ込めて上から蓋をするようなものである。だから、カサブタになるといつまでも治らないし、閉じ込められたばい菌が暴れだせば化膿することになる。」

傷口のジュクジュクは人体細胞の培養液なので浸出液を乾かさない方が傷が治るというのだ。常識に反するやり方だが、非情に多くの多くの治療例や読者の実践によって検証されている。

傷口を水で洗ってから、くっつかず浸出液を外に出さないもので覆えばいいのだが、ほかになければ食品包装用ラップでかまわないらしい。市販のハイドロコロイド被覆剤として「キズパワーパッド」も紹介されている。

・バンドエイド キズパワーパッド フツウ
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市販品があるというのは安心である。早速注文した。

著者は医学の歴史をひもとき、かつて瀉血療法や水銀療法のようなトンデモ治療が医学の常識として行われてきたことを指摘する。そしていまこそ創傷治療のパラダイム転換の必要だと訴えている。

この治療の話が面白いのは、がんや難病の話ではなくて、日常的な擦り傷、切り傷や火傷の治療だということだ。しかも入手困難な薬が要らず、サランラップでまにあう。誰でもほいほいと気軽に試すことができる。そして試した人々からはてきめんの効果があったと報告が集まっている。


・治療をためらうあなたは 案外正しい EBMに学ぶ医者にかかる決断、かからない決断
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/11/-ebm.html

・HEALTH HACKS! ビジネスパーソンのためのサバイバル健康投資術
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/health-hacks.html

・風邪の効用
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/01/32009.html

・快適睡眠のすすめ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-848.html

・運動神経の科学 誰でも足は速くなる
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-826.html

・呼吸入門
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/05/post-751.html

こんなイベントを開催します!

夜のプロトコル・オーバルリンク共催:夏の特別講座開催決定!!!

microblogの猛者たちがおらが世界のコミュニケーションを熱く語ります。

あの娘、ぼくがリブログ決めたらどんな顔するだろう
フライヤーフルバージョン(PDF)

出演:夜のプロトコル(津田大介、いしたにまさき、速水健朗)、オーバルリンク(橋本大也)
ゲスト:id:otsune、id:ku、id:gamella、えふしん(交渉中)、及び交渉中のゲスト数名。また、シークレットの可能性あり

1部:夜のプロトコルパート

tumblr編(司会:いしたにまさき
「使う人、見る人によって違う顔を見せるtumblr。司会のいしたにを含めた4人のプレゼンでいろいろな角度から、その魅力にせまります。」(いしたにまさき)

プレゼン登壇予定:id:otsune、id:ku、id:gamella いしたに

twitter編(司会:津田大介
※現在いろいろなついったらーにオファー中! ゲストにOKをもらえ次第順次発表の予定。
「なぜtwitterは我々を魅了してやまないのか、いろいろなついったらーと語っていきたいと思います。」(津田大介)

2部:オーバルリンクパート(司会:橋本大也

「Twitter&タンブラー 次世代Webコミュニケーションサービスの未来を考える」&橋本大也 VS 神田敏晶 Web7.0激トーク

世界で一番Twitterな放送局 神田敏晶のTwitter&Tumblr系オモシロサービス、キーワードを軸に、Webの未来を想像するセッションです。


■日時:2009年7月17日、19:45開場(20:00開演)
場所:デジタルハリウッド大学、メインキャンパス(秋葉原・ダイビル7F)
千代田区外神田1-18-13秋葉原ダイビル7階

定員:100名
会費:2000円(懇親会別)、デジハリの学生さんは無料
主催:夜のプロトコル オーバルリンク 共催



イベントの申し込みは夜のプロトコルよりお願いします。

http://www.yorutoko.com/2009/07/no_04we-love-tw.html


薄暮

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・薄暮
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日経新聞夕刊文化面の連載作品の単行本化。

篠田節子の得意とする美術ミステリだが、「神鳥―イビス」など同系統の作品によく登場してきた超常現象やカルト教団といった要素が出てこない(新興宗教は少し出てくるが重要な役割ではない)。本作では正統派のミステリ長編として勝負している。オカルトなしでも、いや、なしのほうが読み応えがあって、面白かった。美術界主流から外れた雑誌の編集者が、埋もれた郷土画家を発掘したことに始まる一連の騒動と関係者の愛憎劇を描く。

亡き画家の作品の権利を受け継いだ糟糠の妻と、貧しかった画家を支え続けた地元の頒布会の人々、地域活性化のネタに使おうと考えた市役所の担当者、暗躍する美術ブローカー。メディアに取り上げられることで、それまで無価値だった絵画に高額の値がつく。画家に対する善意と支援の輪だったはずの人々の関係に、新たに生じた利益や名誉によって、ひびわれが生じてやがて大きく瓦解していく。

有名な芸術家の死後に妻が作品の権利を相続し管理するケースは現実にもあるわけだが、権利者は理由なしに無条件に著作物の利用を拒む強い権利を持つ。妻の意向次第で、広く人々に愛された作品を作品を闇に葬ることもできるという、著作権法の問題点が浮き彫りにされる作品でもあった。

篠田節子の作品は、しばしば登場する芸術家と地方の役人の描き方がリアルなのだが、「東京学芸大卒業後、八王子市役所に勤務」という経歴を読んで、なるほどなと思った。自身の体験からくるものなのか。

篠田節子の作品の過去の書評。

・夏の災厄
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/07/post-802.html

・レクイエム
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/05/post-752.html

・カノン
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-740.html

・弥勒
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005292.html

・ゴサインタン―神の座
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005260.html

・神鳥―イビス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005177.html

・ハイスクール・ミュージカル トリロジー・ボックス [Blu-ray]
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単純であるが故に妙にはまってしまい、結局3部作通して見てしまった全米沸騰の学園ミュージカル。ディズニーチャンネルが制作。米国の若者文化を知るのにも良い材料かも。高校バスケ部のヒーロー少年トロイと、転校生で秀才の少女ガブリエラの恋愛を中心に、仲間との友情やライバル同士の駆け引きを描いた青春ミュージカル。第58回プライムタイム・エミー賞で6部門にノミネート、2部門で受賞した。

・オフィシャルサイト
http://www.disneychannel.jp/program/dcom/hsm/

登場人物は当然だが若い。主役のトロイ役は1987年生まれ、スポーツ万能で歌も上手い人気者。知的でエキゾチックな魅力のヒロイン、ガブリエラ役のヴァネッサは1988年生まれ、フィリピン人、中国人、スペイン人、アイルランド人、ネイティブ・アメリカンなどの血を引いているとのこと。二人は私生活でも恋人同士だそうだ。

3枚のBlu-Rayに収録された特典映像では、新人だったキャスト達がこのドラマ第1作(元はテレビ番組)が大ブレイクした後、2,3と全米のスターになっていく過程が見られる。だんだんと落ち着きや風格がでて成長してきている様子も見所。

全編がディズニーらしいポジティブメッセージで包まれている。仲間同士に多少の確執はあっても、結局最後は全員が協力するなかで和解で、大きな目標を達成していく。それぞれが自分の才能や役割を見出して評価される。単純に前向きな気持ちになりたいときに、励まされる内容。ファミリーでも安心して見られる。

主要メンバーは3で卒業してしまったが、新メンバーでの4作目が2010年公開予定で制作中とのこと。Wiiのゲームも発売されている。

・ハイスクール・ミュージカル DANCE!
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若いって良いなあ、まぶしいなあ、なんて考えるオヤジになってしまったのだなあ、まあいいか(開き直り)。

ふしあな

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・ふしあな
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「女とは 残酷でわがままでうそつきで... でも切ないくらい可愛いもの。」

そうか、こういう手があったか!。

全編が浮世絵タッチで描かれた時代劇漫画。江戸時代の恋物語が6編。

浮世絵にしてみましたという実験に終わらず、男女の情愛を描いたストーリーも味わい深くて、名作である。そもそも浮世絵は現代の漫画にあたる位置づけでもあったようだから、それを使って役者や遊女の風俗を描いた本作は、超正統派の和風漫画といえるのかもしれない。

現代のメジャーな漫画と大きく違うのは登場人物の顔と目が小さいことだろう。表情や瞳を描きこむことができない。だから微妙な感情表現を人物の姿勢やジェスチャーで表すことになる。そこで典型的な浮世絵の構図が使われるわけだ。慣れると案外、いいのだこれが。

次は全編カラーで出版して欲しいなあ。

この作品、浮世絵ということで男女のからみシーンは多いのだが、完全露出の春画は出てこないので、そういうのを期待してはダメである。山本周五郎の時代小説などが好きな人に特におすすめだ。ほろっとさせたり、ぐぐっときたりさせられる人情物語集である。

・本文化の模倣と創造―オリジナリティとは何か
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/05/post-756.html

・日本という方法―おもかげ・うつろいの文化
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/01/post-508.html

・模倣される日本―映画、アニメから料理、ファッションまで
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003155.html

・共視論―母子像の心理学
http://www.ringolab.com/note/daiya/2005/10/post-295.html
浮世絵構図の研究

・アイデア・スイッチ 次々と発想を生み出す装置
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楽しい発想ツールのカタログ本だ。ファシリテーターに特におすすめ。

「創造手法の専門家たちは、これまでに、さまざまな「アイデア創出方法」を見いだしています。つまり「発想装置」を起動するための「スイッチ」が、実は存在しているのです。おもしろいことに、このスイッチには複数の種類があります。「即効系」のものは短時間で次々と発想させてくれますし、「深考系」のものはステップを踏んで確実に創造的なアイデアを発想させてくれます。」

前半で即効系、後半で深考系のツールが紹介される。

・10分間で3つ以上のアイデアを引き出す「Scamper」
・技術的な視点からアイデアを引き出す「USITオペレータ」
・多様な観点でアイデアを引き出す「6観点リスト」
・多様なひねり方でアイデアを引き出す「12変化リスト」
・「それ、どうやって実現するか」を発想する「智慧カード」
・ノート一つで100以上のアイデアを引き出す「エクスカーション」
・アイデア創出専用の「はちのすノート」
・TRIZ系の発想ツール「9Windows」
・新事業発想法「531ストレンジ」

など、ツールが満載。

発想法というのは新鮮な気持ちで真剣に取り組むときに一番の効果がでるものだと思う。逆に方法に慣れてしまうと効果が薄れたりもする。アイデアマンは多様な発想法を知っていると良い。これ一冊分で数年は持つだろう。

初めて知った発想法では新規事業の発想法「531ストレンジ」は早速試してみた。これは「基本的な用件を取り除き、新たな可能性を作り出す」というものだ。まず既存事業の基本用件をリストアップして、重要な要素を取り除く。

たとえば新聞社のビジネスを考えるときには「記者がたくさんいる、そして日々取材し情報を得ている」という基本用件をなしにして成立する事業を考えてみる。その事業が意味をなすとしたら、どのようなものかを想像するのだ。

48の問いかけにより発想を生み出す「SCAMPER」と、マインドマップとマンダラートの良いとこどりの「はちのすノート」は、ツールが製品化されているようだ。早速注文してみた。

・ブレイン・ペーパー04 【SCAMPERボード】
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SCAMPERは「代用可能な部分は何か?」「そのままで、何か他へ使えないか」「頻度をどれくらい増やせるか」など48の質問項目に次々に反射的に答えていくことで、脳に短時間で強制的にアイデアをはき出させるツール。

・ブレイン・ペーパー05 はちのすボード A3
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頭の中のもやもやを、はちのす状に広がるマス目に書き出していく。アイデアを考えるときメモを書くのが苦手な人でも、適当に書き出すと、自分が考えていることの全体像や構造が見えてくる仕組み。

と、こんなツールが多数紹介されていて新鮮だった。長期的にアイデアが出やすい体質を作る「アイデアマラソン」と組み合わせて利用するとよさそうだ。

・仕事ができる人のアイデアマラソン企画術
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-967.html

・「金のアイデアを生む方法 "ひらめき"体質に変わる本
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/03/post-538.html

・企画がスラスラ湧いてくる アイデアマラソン発想法
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/01/eaexxnae-acfaz.html

・ベガーズ・イン・スペイン
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プロバビリティ3部作で知られるSF作家ナンシー・クレスの中短編を7本収録。読み応えのある作品ばかりで満腹。

表題作の『ベガーズ・イン・スペイン』は21世紀初頭を舞台に、遺伝子改変技術によって睡眠を必要としない天才児たちの第一世代を描いた近未来SFだ。凡人の努力では到達できない資質を自然に身につけてしまう彼らは、一般人から妬まれ孤立する。

人生の3分の1を自由に使えるのだから、それだけでも無眠人は有利である。(そういえばドラえもんにもあったなそういう話が...。)。不眠不休の天才児達は少数であったが、成長するにつれ社会に大きな影響力を及ぼし始める。

「新しいテクノロジーは、解放的であると同時に危険でもある。しかし、長期的に見れば、社会的束縛は新しいテクノロジーに屈服するにちがいない。」というフリーマン・ダイソンの言葉(本書中の扉に引用されている)がある。自然を征服するつもりが技術に屈服するのが人間の運命なのかもしれない。

この作品はヒューゴー賞、ネビュラ賞ほかSF文学賞を総ナメにした。

『密告者』

社会的に共有された現実こそ真の現実であるという異星人たちのもうひとつのリアリティ「共有現実」というコンセプトに引き込まれた。バーチャルとリアルという軸ではなく、ソーシャルとパーソナルという軸に、真実をマッピングしたわけだが、その共有現実って結局、私たちの「常識」と同じものかもしれない。プロバビリティ三部作の原型になった作品。

『ダンシング・イン・エア』

遺伝子改良技術で華麗な演技を可能にするバレリーナ達の話。この世界で少女達は"能力強化"テクノロジーによって骨の形状を最適化し、一般人には不可能な舞踏を演じることができる。そんな時代にあっても敢えて能力強化を使わずオーガニックな芸術を指向するバレエ団の話。


このハードSF作品集は7本とも素晴らしかった。さすが早川。SFファンおすすめ。

・トランスフォーマー リベンジ
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川崎にIMAXデジタルシアターができたと聞き、オープニング上映作『トランスフォーマー リベンジ』をKNNの神田さんと一緒に観に行った。大人一般2000円。国内有数のデジタル映画体験ができる場所。

・IMAXデジタルシアター 109 シネマズ川崎
http://www.109cinemas.net/imax/

平日の夜(20時開始の回)だがお客は結構入っていた。予告編は通常フィルムのせいかIMAX設備の良さがまったく感じられない。神田さんと「大画面にしょぼい映像が出ている感じで、なんだかイマイチですね、この画面」という会話をしていると、映画本編に突入。まったくの別世界の大画面高精細映像の世界に魅了される。この画質の対比を見せつけるために予告編はIMAX映像を敢えて使わない方針なのかもしれない。

・トランスフォーマーリベンジ トランスフォーマームービー RD-01 メガトロン
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前作を超える大迫力のロボット大活劇。前作と比べて敵側のロボットが巨大で凶悪化している。前半は少しはドラマもあったが後半は、大戦闘シーンの連続でILMのSFXを心ゆくまで堪能することができる。もうSFXはお腹一杯になっても許してもらえない長すぎるジェットコースター状態。巨大ロボットの変形と戦闘シーンだけを期待した私は大満足でしたが、神田さんは「ドラマがないよねえ」とちょっと不満気味。いや、なかなか良かったと思いますけどね、私は。

・トランスフォーマー/リベンジ [Soundtrack]
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SFX以外に良いところというと音楽。ニュー・ディヴァイド/リンキン・パーク他が効果的に使われていた。有名どころでは21ガンズ/グリーン・デイも。

とりあえず3に続きそうな展開で終わっていたので次回作が楽しみ。リベンジではよく許可が取れたなあと思える有名な世界遺産を破壊するのですが、これを超えるSFXとなると次は何を破壊するつもりだろう?

・無趣味のすすめ
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薄いけれどもぐっとくる。村上龍の箴言集。感銘した箇所を3カ所コメント付きで紹介。
3位

「現在まわりに溢れている「趣味」は、必ずその人が属す共同体の内部にあり、洗練されていて、極めて完全なものだ。考え方や生き方をリアルに考え直し、ときには変えてしまうというようなものではない。だから趣味の世界には、自分を脅かすものがない代わりに、人生を揺るがすような出会いも発見もない。」

何事も真剣にやったらプロになる。趣味の世界に本物はないということ。昨日、友人に橋本さんの趣味って?と聞かれ「ブログ...」と答えてしまったが、いいんですよ、私はプロのブロガーになるんだから。出会いも発見もあります。

2位

「「好き」は理性ではなくエモーショナルな部分に依存する。だからたいていの場合、本当に「好きなこと」「好きなモノ」「好きな人」に関して、わたしたちは他人に説明できない。なぜ好きなの?どう好きなの?と聞かれても、うまく答えられないのだ。「好き」が脳の深部から涌いてくるもので、その説明を担当するのは理性なので、そこに本来的なギャップが生まれるからだが、逆に他人にわかりやすく説明できるような「好き」は、案外どうでもいい場合が多い。」

本当に好きなことを他人にわかりやすく説明しようとすると、何かがこぼれ落ちるというのは誰しも体験することだと思う。要素に還元できるような単純なつながりではなくて、自分自身の内面から引きはがせないくらい魂につながった何かが情熱の素なのだなあ。

1位

「問題はメモを取る行為そのものではなく、メモを取らなければいけないほど重要な情報に常に飢えているかどうかだ。」

その通りで、情報に飢えている人こそ『情報力』の高い人なのだと思う。情報飽食の時代にあって人は飢えることの方が難しいのだ。飢えているからこそ咀嚼して意味を見出すことができるのだし、ツールの達人にもなるのだと思う。

村上龍は村上春樹と間違われることがあるらしいが、私は断然龍のファンだなあ。特にこの手の箴言に刺さる言葉が多い。

・「個」を見つめるダイアローグ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/05/post-391.html

・MoZA 【もざ】
http://www.fine-view.com/jp/mini/index.html
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ブログを書いていると、ときどきセキュリティやプライバシー保護のために画像にモザイク処理をする必要がある。Photoshopなどの汎用的な画像処理ツールは、重たいし、操作が面倒である。やり方を忘れてしまったりするものだ。

モザイクをかけるだけのソフトがMoZA。モザイク処理をしたい部分をなぞるだけ。ブラシやモザイクの大きさは変更できる。目線を入れたり、局部を隠したり、ナンバープレートを隠す処理が3秒もあれば完了する。

あまりに簡単なのでどんどんモザイクをかけられるが、どんな写真も処理した途端に怪しくなるから不思議である。

・Ginipic
http://www.ginipic.com/download
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Web上から網羅的に画像をキーワード検索で探して利用するツールとして、完成度が高いのがこのGinipic。Google、YAHOO!、Flickr、Picasa、Photobucketなど世界の主な画像検索や写真共有サイト、SNSを横断的に検索する。ローカルコンピュータ内の画像も検索対象になる。

検索結果は重複が省かれて、一画面に大量のサムネイルで表示される。このインタフェースが軽快なので、大量の画像の中から探している画像を素早く発見していくことができる。

検索結果内の各画像は拡大表示させた上で、保存したり、取り置き場所のLightboxや各種サービスへ送ることが可能。

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・性欲の文化史 1
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1.遊廓の形成と近代日本――「囲い込み」と取締り
2.性教育はなぜ男子学生に禁欲を説いたか――1910―40年代の花柳病言説
3.出口王仁三郎の恋愛観・男女観――『霊界物語』を中心として
4.日本女性は不淫不妬?――中華文人の日本風俗観察小史
5.女装男娼のテクニックとセクシュアリティ
6.「胎内十月」の見世物を追って
7.「人体模倣」における生と死と性
8.兄妹性交の回避と禁止

・性欲の文化史 2
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1.桂離宮にエロスを読む
2.神仙の証――中国古代房中術にみるセックスと飛翔
3.韓国整形美人事情
4.摩登上海にうかぶ女体の群れ
5.映画のなかの性――戦後映画史における性表現と性意識の変遷
6.「ギャル男」のいる光景
7.男から生まれた女
8.ホステスたちは、何を売る?

井上章一を編者に複数の研究者が性欲の文化史をあらゆる視点から論考する。

「われわれの性感は、文化によって拘束されている。何に感じ、そそられるかは、時代により民族により、ことなっている。たとえばパンツでわくわくする文化史もあれば、そうでもない文化だってある。」「人間の性感を、生物学あるいは生理学的な性欲だけで論じきるのは、まちがっている。」(井上)。

いわゆる"パンチラ"を見た方が歓び、見られると恥ずかしがるというのは日本のローカルな文化なのである。アメリカでは見られた女性がウィンクして去っていくし、中国では「パンツをはいているから平気」なのである。「えへへ」「いやーん」なのは日本だけ(というわけでもないだろうが)文化が性感を作り出している例だ。

「性教育はなぜ男子学生に禁欲を説いたか――1910―40年代の花柳病言説」は、近代の性教育の言説戦略の考察。男子学生に男らしくあれと教えながら同時に禁欲を説いた理由が解明される。そこには結婚前に性交渉すると花柳病に罹患して破滅して志した事業に失敗した上、子供を作ることもできなくなるぞという脅しが含まれる。

「よりよき将来の「男らしさ」の発揮(立身出世と一家をなすこと)に、現在の一時的な「男らしさ」の抑制(性的卓越性の抑制)が貢献する仕組み」を織り込んだ巧みな言説だった。勉強して知識を得ることと子をなすことという近代社会の個人に対する要請に応えるための、国家戦略として性教育が形成されていたのだ。

このほか、魏志倭人伝から女装男娼まで、日本文化と性の歴史が多彩なテーマで多くの話者によって語られている。性欲、性感は自然な本能的な欲求だという見方が、いかに間違っているかを教えられる論考集である。

・日本の女が好きである。
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/06/post-1010.html

・愛の空間
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/oso.html

・性の用語集
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/11/post-482.html

・刺青とヌードの美術史―江戸から近代へ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/07/post-807.html

・ナンパを科学する ヒトのふたつの性戦略
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-972.html

・ウーマンウォッチング
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-958.html

・身体地図情報検索システム
http://www.cipec.jp/project/index.html
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1歳以上の子どもの死亡原因の1位は、昔は感染症だったが現在は不慮の事故だそうだ。事故予防は親や教育者にとって重要な仕事である。どういう状況でどういう怪我が起きるのかを把握するソフトを産総研がリリースしている。

国立成育医療センターで収集した子供の身体上の傷害部位のデータから、条件(例:「性別」が「男」、「怪我の種類」が「熱傷」など)を設定して検索を行えるソフトウェア。3Dの身体マップに怪我の頻度が色分けされて表示される。

絞り込み項目には性別、発達段階、月齢、事故の種類、事故が起きた場所、怪我の種類、事故に関連した製品がある。もっと詳しく見ると、

・事故の種類
転倒、転落、肘内障、やけど、交通事故、切る、はさむ

・事故が起きた場所
駐車場、家庭、道路、小学校・中学校・高校、保育園・幼稚園、公共施設、公園、児童館、友人宅、山川海など自然環境

・怪我の種類
挫傷、打撲傷、挫創、擦過傷、肘内障、裂傷、熱傷、スポーク外傷、切傷、爪剥離、刺傷、捻挫、脱臼

・事故に関連した製品
自転車、階段、小物類、椅子、遊具、ドア、ベッド、テーブル、おもちゃ、ソファ、調理器具、お茶・コーヒー・味噌汁、家具、ベビーカー

というリストだ。

たとえばベッドで起きる子供の怪我を可視化すると、こんなふうだ。頭が多い。

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やけどをするのはどこが多いのかを調べるとこんなかんじ。膝のあたりが多いとは意外である。熱い食べ物をこぼすということだろうか。

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