ナンパを科学する ヒトのふたつの性戦略

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・ナンパを科学する ヒトのふたつの性戦略
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進化心理学の研究書。頻繁にナンパされる女性は何が違うのか。異性にモテるとは科学的にはどういうことか。心理学や行動科学の実験で解き明かす。ちょっと女顔の男性がモテる、ひっかけられやすい歩き方、セックス頻度を決める要素、異性の10秒の動作で決まる性的印象、ヒモ男性の戦略など、興味深いデータがいっぱいある。

街角でのナンパのフィールド調査や、密室に何も知らない男女二人を残して去った後の様子を観察する「待合室状況での出会い実験」など多くの研究が引用され、非言語的求愛シグナルをあやつる主導権は女性にあるということが実験によって明らかにされる。

ナンパをアプローチするのは男性からのようにみえるが、すべての女性がナンパをされるわけではない。一部の女性に偏る。女性の持つ何らかの要素が男性のナンパを誘発していると理解できる。だがそれは美人だとか露出度が高いとか色目を使っているというような「女性にスキがある」からという見方は因子分析で否定される。

鍵は女性のセルフモニタリングの高さとテストステロンの濃度にあるという。セルフモニタリングの高さとは対人状況における感情表出の制御の度合いのこと。この度合いが高い人は意識的に自分を飾って見せようとする。そうした性質は短期的配偶戦略をとる際に有利に働く。

これには女性の体内のテストステロン(男性ホルモン)の量が関係しているという分析がある。同一の女性でも時期によって配偶戦略が変化する。これも性ホルモンの影響だ。異性のパートナー探し市場における女性の支配戦略としては「良い遺伝子」を求める戦略と「良い父親」を求める戦略の二つがあると説明される。

「妊娠しにくい普段の時期には性質のよい男性を手元に置いて保護や資源の提供を求め、妊娠しやすいときには一転してよい遺伝子男とのセックスを志し、子どもはアバンチュール相手とのものを残そうとするような適応戦略が、女性には一般的に備わっている」

実験では男性の短期的配偶戦略(プレイボーイ)を男女ともに敏感に見抜いたが、女性の短期的配偶戦略は男性のみが見抜くことができた。基本的に非言語コミュニケーション能力が高いはずの女性が同性の戦略を見抜けないのだ。男性のみができるのは、性的にアプローチが容易で関係に伴うリスクやコストが少ない(あとくされがないってことか)を見抜けるように獲得した進化的適応能力ではないかという。

「セクシーでかつ性格のよい男性を選べばよいではないかと思われるかも知れないが、そんな男性はどうどこにでもごろごろ転がっているわけではないし、女性側の方も皆が皆、最上級の男性の心を射止められるだけの魅力を備えているわけではない。そうするとどうなるだろうか。そう、「よい父親」男を求める女性と、「よい遺伝子」男を求める女生徒に分かれるのである。 類は友を呼ぶ。長期的な配偶戦略指向の男性は長期的な配偶戦略指向の女性をパートナーに選ぶ傾向があることがわかっている。また男性は女性に浮気されて血縁のないライバルの子どもに対して知らないうちに投資させられたりしないように、女性の性的な浮気の可能性に関して敏感で、厳しい態度で望む。そこで、多くの女性は「貞淑な妻」戦略をとり、パートナーがぱっとしない男性であったとしても、より魅力的な男性に目移りをするような心理的反応を放棄する替わりに、男性からの長期的な援助を期待すると考えられる。」

男性も配偶戦略を変更している。必ずしも一生プレイボーイやヒモではないのだ。長期的な性的パートナーができる、子どもができる、定期的にセックスをするといった状況になると男性体内のテストステロン濃度が下がり、プレイボーイは良いお父さんになってしまう。自然の仕組みはよくできている。

人間には性ホルモンが支配する動物のオスメス的な部分が強く残っていること、男女関係はマクロで見れば市場メカニズムやゲーム理論そのものだということ、男女の非言語コミュニケーションを分析することで性的関心の度合いはかなりわかってしまうという事実など、興味深い事実が多かった。

・ウーマンウォッチング
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-958.html

・愛の空間
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/oso.html

・性の用語集
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004793.html

・みんな、気持ちよかった!―人類10万年のセックス史
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005182.html

・ヒトはなぜするのか WHY WE DO IT : Rethinking Sex and the Selfish Gene
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003360.html

・夜這いの民俗学・性愛編
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002358.html

・性と暴力のアメリカ―理念先行国家の矛盾と苦悶
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004747.html

・武士道とエロス
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・男女交際進化論「情交」か「肉交」か
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このページは、daiyaが2009年4月20日 23:59に書いたブログ記事です。

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