明るい部屋 写真についての覚書

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・明るい部屋 写真についての覚書
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ロラン・バルトが晩年に書いた写真論。写真の本質を現実≪それはかつてあった≫であると定義するが、それが真実≪これだ!≫と結びついたとき狂気の真実とも呼べる希有な感動を呼ぶという理論。

写真には二つの根源的な要素があるという。

1 ストゥディウム(一般的関心)
2 プンクトゥム(突き刺すもの)

である。1は一般的関心や文化コードであり、大半の写真はこれだけで構成されていると言える。撮影者の芸術的意図や政治的意図も含まれる。言葉で言い当てられるものである。ありふれている。一方で2を持つ写真は稀である。

「ごく普通には単一のものである写真の空間のなかで、ときおり(といっても、残念ながら、めったにないが)、ある≪細部≫が、私を引きつける。その細部が存在するだけで、私の読み取りは一変し、現に眺めている写真が、新しい写真となって、私の目にはより高い価値をおびて見えるような気がする。そうした≪細部≫がプンクトゥム(私を突き刺すもの)なのである。」

ある写真家が写した肖像写真でアンディ・ウォーホルは両手で顔を隠している。ウォーホルは写真を見る者に自分の手を読み取らせようと試みたわけだが、その隠れん坊行為はストゥディウムである。偶然カメラがとらえてしまった「へらのように反り返り、やわらかで垢が黒くたまっている爪という、いささか胸くその悪くなる素材」こそプンクトゥムなのだと具体例で挙げてみせる。

「私が名指すことができるものは、事実上、私を突き刺すことができないのだ。」。突き刺すとは感動と同義である。ロラン・バルトは写真に写った亡き母の姿を見たとき、自己の内側から立ち上がってくる感覚を分析していく。形容詞を無限に連ねていくしかないような感覚を感じて驚く。そのきっかけもまた一見ありふれたような構図と被写体の写真の中の、バルトだけにわかる細部なのである。

「写真が心に触れるのは、その上等的な美辞麗句、≪技巧≫≪現実≫≪ルポタージュ≫≪芸術≫等々から引き離されたときである。何も言わず、ただ細部だけが感情的意識のうちに浮かび上がってくるようにすること。」

人を感動させる写真というのは、撮影者の意図的な表現を超えたところに存在するということなのだ。社会や芸術に飼い慣らされた写真はつまらないとバルトは批判しているのである。必要なのは狂気でありエクスタシーだ。「写真」と「俳句」は共に激しい不動の状態だと言っている。

「狂気をとるか分別か?「写真」はそのいずれをも選ぶことができる。「写真」のレアリスムが、美的ないし経験的な習慣(たとえば、美容院や歯医者のところで雑誌のページをめくること)によって弱められ、総体的なレアリスムにとどまるとき、「写真」は分別のあるものとなる。そのレアリスムが、絶対的な、もしこう言ってよければ、始源的なレアリスムとなって、愛と恐れに満ちた意識に「時間」の原義そのものを思い起こさせるなら、「写真」は狂気となる。」

イメージ論として秀逸。技巧的に上手い写真ではなく、半端でなく人を感動せせる写真を考えたい人に。

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このページは、daiyaが2009年7月30日 23:59に書いたブログ記事です。

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