2011年8月アーカイブ

・知性誕生―石器から宇宙船までを生み出した驚異のシステムの起源
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語彙、記憶力、計算、論理思考、反応時間テスト、空間テスト、迷路など、多数の被験者に多様な知的作業をやらせると成績は全体として正規分布を描く。そして何十、何百の項目において正の相関関係がみられる。あることがとても上手にできる人は、べつのことも上手であることが多いのだ。たとえば国語(他の科目でも良いが)ができる子は、算数も英語も社会もできる子である可能性が高い。俗に言う地頭の良さ、要領の良さである。

実験心理学の創始者チャールズ・スピアマンは、無数の能力の相関を調べ上げ、人間の知能には二種類の要素があることを発見した。取り組むどんなことにもその人が用いる一般因子gと、音楽のように他の要素と相関を持たないsである。地頭の良さ、要領の良さは、高いgの賜なのだ。一方、音楽家はいくら作曲や演奏の才能sがあっても、数学や国語ができるとは限らない。sは異なる種類がいっぱい、ばらばらにあるのだ。

ある人物が一般的な仕事をうまくこなせるかどうかは、ある程度、gをみる知能検査の結果で予測できるということになる。次のような凄い事実が紹介されていた。

「考えうる多くの仕事を集めてリストを作り、それらの仕事がどのくらい望ましいか順位を付けるように一般の協力者に頼む。そして、その人たちがどれくらいその仕事に就きたいかに関して、一位から最下位まで仕事の順位表を作成する。次に、実際にそれぞれの仕事に就いている人たちの平均IQの順位で、もう一つの順位表を作成する。何が分かるかというと、この二つの順位はほぼ完全に一致するということだ。さらに言えば、二つの相関は0.9を超える。ある特定の仕事が、一般の協力者が就きたいものであればあるほど、仕事は実際にgの点数が高い人が就いている。」

とすると...。

ある程度、若い頃に自分はgが高いのかどうか見極めて進路選択、職業選択をすることは重要なのかもしれないと思った。gが低いのであれば、sをみつけて伸ばし、芸術や職人や専門的な職業へいくなど、なりたいものと、なりやすいもののすりあわせを早期にすることが大事なのではなかろうか。今の学校教育は絶対にそんなふうに子供を指導しないわけだけれども、この本がとりあげた知能測定と統計分析の科学が正しいのならば、gとsを知ることは可能性を伸ばすことだと考える。

Sink

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・Sink 1
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・Sink 2
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日常と非日常の切断がテーマの漫画作品。

作者も版元も、よくこの難しい作品を出版したなと感心しながら読んだ。漫画というのはかなり商業色の強い表現形態であって、普通は一般の読者が容易に理解でき、そして楽しめることを前提に描かれているものだ。なのにこの二巻組の大作はまったく読者の理解を突き放し、娯楽性も投げ捨てて、わかるひとにわかればいいを貫いてしまっている。娯楽のエログロナンセンス作品が勢い余って前衛的になってしまったというパターンではなくて、最初からこの方向性で描いたらしいから、相当にキレている取り組みだ。

登場人物たちを取り巻く日常の中に少しずつ非日常の異質さが現れる。それは最初は妙に手や首が長くて、狂ったデッサンみたいな人物だったり、スパッと鋭利な刃物で切られた物だったり、何度も同じことが繰り返される錯覚だったりする。そうした非日常がやがて日常を決定的に侵し始めて世界は破綻して行く。

わかるひとにはわかる漫画が好きというひとにはおすすめの奇書だ。作者にも少しは良識が残っていたのか、前衛とは言っても一応、オチはあるので、ある程度安心して読んでいいのだが、根本的には理解を拒む、狂気に満ちた禍々しい作品。

いがらしみきおは不気味だ。『ぼのぼの』の人なのに。こんなのもかけるのか。

・【アイ】 第1集
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/08/i-1-1.html
いがらしみきおを見直すきっかけの一冊。

アライバル

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・アライバル
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ショーン・タンという作家が書いた文字のない長編物語の絵本『アライバル』。同氏はこの本で世界各国29の賞を受賞、ショート・アニメーション『The Lost Thing』が、第83回アカデミー賞短編アニメーション賞受賞。

これは20分ほどで読めてしまう大型絵本ですが、読み返すのが3回目です。移民を決意した一家の父親が、単身で船に乗って、異国に入っていく。異文化と格闘しながら、自らの場所を築いていく。モチーフは第二次世界大戦の頃のアメリカ移民ですが、実は結婚にせよ就職にせよ、新しい文化に入っていく、そこで新たな価値観を受容して生きていくっていうことは、社会を生きる人間にとって普遍的な体験だと思うのですね。その普遍を幻想的な寓話として、本当にうまく描いているな、天才だなと感じて何度も読み返す、魅力的な本です。

まったく文字を使わない表現でメッセージを表現する。移り変わる雲のかたちを何十コマも続けて描いて長い時間の経過を表したり、地球にはいない動物を登場させて異国を表す。そういう表現の工夫も素晴らしいし、なにより丁寧に描かれた見開きの絵のページなんかは額縁に入れて飾っておきたいほどのアートのクオリティをもっています。見惚れてしまったページが何枚もありました。

アニメ『つみきのいえ』が好きな人なんかに特におすすめですよ。

以下は大人の絵本系のおすすめ

・ぼくがラーメンたべてるとき
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/03/post-1407.html
・どんなかんじかなあ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/01/post-1364.html
・『終わらない夜』と『真昼の夢』
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/08/post-1049.html
・なおみ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/12/post-895.html
・大人な絵本 「天才の家系図」「裁判所にて」
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-812.html
・「平家物語 あらすじで楽しむ源平の戦い」と「繪本 平家物語」
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-823.html
・ちいさなちいさな王様
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/01/eel.html
・「百頭女」「慈善週間または七大元素」
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/06/post-771.html
・アウトサイダー・アート
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-739.html

・ツリーハウス
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これは大傑作、たいへんおすすめ。

舞台は新宿にある大衆中華食堂 翡翠飯店。昭和、平成三代に渡る家族の歴史がミステリ風に語られる。

ぱっとしないこの店は、戦後、満州から引き揚げてきた祖父母が、空いている土地を勝手に使って、見よう見まねで立ち上げた店であった。平成の現在は祖母、店を切り盛りする父母、息子の良嗣、万年居候の叔父 大二郎らが、店に一緒に住んでいる。叔母が近くで水商売店を経営しているが、その他の親戚と言うのをみたことがない。

良嗣は、いきあたりばったりで、困難から逃げるような一族の生き方に、内心疑問を持ちつつも、自身も流されるような生き方を始めようとしている。祖父の葬式後、高齢の祖母が突然、かつて生活していた中国の街に行きたいと言い出す。大二郎と良嗣はその旅行につきあって、祖母の思い出の地をめぐりながら、自分たちの家族の生き方のルーツを知る。

第二次世界大戦、満州引き揚げ、学生運動、浅間山荘、オウム真理教事件と、激動の昭和平成を生きる家族の姿。戦争に翻弄されて必死に生きた祖父母、戦後の高度成長に弱いものどうしが助け合いながら生きた父母、迷いながらいきる子供の世代。祖母からはじめて語られるルーツ。死にそうになったら逃げろ、逃げて生きていいんだという一族の人生の指針の本当の意味を知る。

"根なし草"の人生なんてない、必死に生きる人はみんな主人公だという力強いメッセージが、根を張りにくい現代都市生活者にはすごく響く。各世代のキャラクターの描き方が秀逸で、ミステリーとしてもひきこまれる。

第22回伊藤整文学賞。

BugMe! Reminders - Ink Notepad & Alarms
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iPhoneのホーム画面に付箋を貼り付けられるアプリ。リマインダー機能もある。

まず手書きか、テキスト入力で付箋を書く。背景色を変更したり、背景に写真を使うこともできる。こうして作成した付箋は管理画面で一覧することができる。

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作成した付箋は、

1 メールで送信する
2 ツイートする
3 ホームスクリーンに保存する
4 壁紙に設定する
5 コンタクトピクチャーに設定する

という活用ができる。

付箋にはリマインド設定をすることができる。設定した時刻になるとバッジなどで通知される。

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ホームスクリーンに付箋メモを表示する機能はちょっと驚きだ。

これはいったん付箋を画像としてWeb上で生成し、ユーザーがそのURLをブックマークすることで実現する。正体はWebブックマークなのだが、やはり付箋は、こうしていつも見る場所にあると便利だ。

BugMe! Reminders - Ink Notepad & Alarms - Electric Pocket

シュナの旅

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・シュナの旅
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宮崎駿の隠れた名作。『風の谷のナウシカ』と同時期に描かれた初期作品。ナウシカはアニメになったが、シュナはマンガである。チベットの民話をベースにした地味な企画ということで、アニメ化を断念することになったが、宮崎自身は相当思い入れがあった作品だそうだ。たしかに地味だが、ドタバタや奇抜が少ないから、しっかりメッセージや世界観が伝わってきてすごくよかった。

貧しい国の状況を憂う辺境の国の王子シュナは、畑に実りをもたらす「金色の種」を求めて、豊かな西へ旅にでる。だが、シュナが訪れた世界の人間は、作物を育てることをやめてしまっていた。支配者層の人々は、人間狩りで捕まえた奴隷を「神人」に売り飛ばし、麦と交換する。もはや自ら作物を育てようとせず、金色の種さえ持ってはいなかった。シュナは奴隷の姉妹を救い出した後、奴隷を買い集める謎の「神人」の国へと向かう。

神人の国は『ナウシカ』などでみられる宮崎ファンタジーの独特な異界。文明批判のメッセージ性や、少年少女の成長物語など、その後のジブリのファンタジーの源流をみるような展開。『もののけ姫』や『ゲド戦記』の原点と評価されているそうだ。

そういえば『コクリコ坂から』なかなか観に行けないな。

・こみれぽ - 電車混雑リポート iPhoneアプリ
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電車の混み具合や遅延状況を、乗客が投稿して共有しようという画期的な集合知アプリケーション。全国の路線、駅に対応している。これはかなり面白い。みんなが使えば使うほど精度がよくなるので紹介したい。

標準でも位置情報を使って周辺駅の情報が表示されるが、まずはMY路線、MY駅に自分の使う路線と駅を選択する。これですぐによく使う路線状況を把握できるようになる。

投稿ベースなので誰も乗っていない路線、誰も利用していない時間帯の情報はでてこない。乗客数が多い首都圏の駅が有利だ。「余裕で座れる」とか「10分遅延」などの定型情報の他に"暑い"などのコメント情報が投稿される。

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もちろん自分から、乗っている電車の状況を投稿することもできる。Twitterにつぶやきを送ることも可能だ。このとき「満員電車」「各停」「急行」とか「遅刻」などよく使う言葉が入力支援の辞書に登録されているため、混んでいる電車でも簡単に投稿を作成できる。

こみれぽ - 電車混雑リポート(路線/駅毎の混雑状況や遅延などの運行情報をみんなで投稿) - NAVITIME JAPAN CO.,LTD.

真贋

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・真贋
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吉本隆明の論考集。文学、批評、戦争、生き方、才能、日本。わかりやすく、話し言葉風に語っているので、読みやすいのだが、10ページおきくらいに、さらっと深いことが書いてあって気が抜けない本である。この思想家は老いてからのほうが、一般読者にとって魅力を増していると思う。

いくつか私が感銘したポイントを文学論中心に抜き出してみる。

■俺だけにしかわからない価値

「文句なしにいい作品というのは、そこに表現されている心の動きや人間関係というのが、俺だけにしかわからない、と読者に思わせる作品です。この人の書く、こういうことは俺だけにしかわからない、と思わせたら、それは第一級の作家だと思います。とてもシンプルな見分け方と言ってよいでしょう。」

読者に「俺と作者にしかわからない」と思わせる作家は超一流で、「俺たちの世代にしかわからない」レベルがそれに次ぐ一流で、それ以外は全部普通の作家であるという。吉本隆明の文学批評の評価軸が鮮明にわかる。

■文学の有効性

「結局、初めは自分を慰めるだけのための密かに書いたものが、何となくいつの間にか人の目に触れるようになって、固定の読者も増えていく、そうして、その固定の読者にとってもまた、作品がその人を慰めるために役立つというのが、文学の本質的な有効性ではないでしょうか。」

文学の価値とは、自分の慰めが他者の慰めになるということ。それ以上でもそれ以下でもない。エンタテイメントの基本ともいえる定義だ。まず自分が楽しい表現の営為に始まる。最初から大衆に迎合して表現するようなのは二流、三流だということでもある。

■本の毒

「小説によっては、犯罪や人間失格的なものに価値を見出す内容のものもあります。それを読んで心を動かされることはあり得るでしょう。そして、現実世界でも人間失格的なものを目指そうとする。これを、毒がまわったととるか、人間として高度になったと解釈するか、人によって意見は分かれるかもしれません。ただ、どちらにしても確実なのは、何かに熱中するということは、そのことの毒も必ず受けるということです。」

だから文学を読めば感性が豊かになるとばかり考えていると間違うぞという。豊かにもなろうが毒も回るから、毒とのつきあいかたも覚えておかないと死ぬぞと脅す。昔は自分の思想を読んで運動に身を投じて死んだ若者がいたわけだし、三島由紀夫も自らの毒がまわって死んだんだと、時代を背負っていた思想家の迫力の論が続く。文学や思想のもつ毒の役割を強調する。善悪二元論で割り切るな、と。


人間の生き方は思春期の頃の母親との関係性で大方決まってしまうとか、明るい社会は滅びに向かう特徴で世相は暗いくらいがいいとか、三島みたいに人工的なのは無理があるとか、吉本孝明の、ちょっと偏った気がしないでもないが、歯に衣着せぬストレートな物言いが心地いい。

昭和の思想の深さを見直す文庫本としては
・人間の建設
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/05/post-1222.html
もよかったなあ。

・怪しい世界の歩き方
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著者が体験した危ない海外旅行体験のカラー漫画が16本。おもしろかった。

「アメリカでは、1日に3回銃で撃たれそうになった日がありました。
ドイツでは、ゲイのオヤジに襲われました。
メキシコでは、子どもたちに身ぐるみ剥がされそうになりました。
タイでは、ガス事故に巻き込まれて死ぬかと思いました。
スイスでは、レマン湖のほとりで心霊体験をしました。」

グローバル化の時代、多様性が大事とか異文化理解が大切とかいうが、異文化コミュニケーションとは、本質的に危険で不快な経験の集合であるという事実を再認識させられる漫画である。

この著者の話にヤバイ体験が多いのは、自ら危険地帯を好んで怪しい場所へ突入していくからでもある。タイで現地の怪しいタトゥーショップで刺青を入れたり、ワニのプールに手を突っ込んでみたり、オランダではチンピラに襲われる前に自ら手を出して大騒ぎになったり、かなり自業自得でヤバイ体験を発生させている。そして持ち前の語学力と武道(空手有段者)で修羅場を乗り越えるのがパターン。

自分ではもはやできない怪しい海外旅行を紙上で体験できるのが楽しかった。

この著者は体験ベースで原作を書いたのと同時に、自分で絵まで描いているようだ、才能だなあ。

第6回 コミック新人賞受賞  海東鷹也さんインタビュー
http://www.artbox-int.co.jp/competition/kekka/kaitoutakaya.html

超かんたん英語塾 ブラック・モンキー
プロの英語講師によるお気楽まんが英文法ブログ
http://ameblo.jp/bla-mon446/

著者のブログ。漫画の作風がわかる。

・暗算・算数に遊びながら強くなる びっくりサイコロ学習法―変形12面体&20面体サイコロつき
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受験指導のプロがつくった学習玩具。

「算数ができる生徒とそうでない生徒の差は何か。それは、暗算ができるかできないかの違いなのです。」

ということで、学習目的で開発した変形12面体&20面サイコロがこのサイコロン。このパッケージには計5個が入っている。複数のサイコロを振って出た目で四則演算をして遊ぶうちに、暗算が速くなる、とのこと。

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正20面体サイコロ(1~20)があるとなにがいいかというと、いわゆるインド式九九である20×20までの掛け算の問題が練習できることである。正20面体サイコロは3個あるので理論的には20×20×20までできるわけでもあるが...。

さらに2個入っている変形12面体サイコロは0~12の数字と∞(無限大)が印刷されているのが特徴。これにより計算問題に変化がつく。

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正20面体と変形12面体サイコロを組み合わせることで複雑な計算問題がつくることができるようになる。答え合わせが簡単にできるように、20×20までの計算結果表などのシートが付属している。もともと数字が好きな小学2年生の息子は、このサイコロで夢中になって遊んでいる。私は暗算が苦手なので、計算結果表がついていて助かった、ふー。

・即興の解体/懐胎 演奏と演劇のアポリア
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即興芸術の本質とはなにか?。音楽のインプロビゼーション演奏と前衛演劇の表現を題材にしながら批評家 佐々木敦が「驚くべきことは、いかにして起こるのか?」を考え抜く。

優れた即興演奏は聴く者の期待を裏切ると同時に満足させる。音楽の約束事やありがちなパターンから自由でありつつも、音楽であることを止めてはいけない。演奏者と演奏者、そして演奏者と聴取者の想像力のせめぎあいの中から、即興は生まれてくる。それは「支離滅裂」や「破綻」や「台無し」とは違う定型なき形成だ。

「「即興」には常に「予測を予測する」というメタ的な審級がある。それはいわば「先読み」のひたすらな連鎖である。「演奏者」は「聴取者」の現前の認知によって、そのような「メタ予想」の交錯に巻き込まれざるを得なくなるし、逆に「聴取者」の方もまた、刻々と脳裏に浮かぶ自らの「予測」を「演奏者」がどこかで「予測」しつつ音を紡いでいることを忘れるわけにはいかない。こうして両者の「予測」と「メタ予測」(と「メタメタ予測」......)が激しいフィードバックを繰り返しながら、ある一度ごとの「インプロ」は生成されているのである。」

そもそも完全に自由な即興なんてあるのかという問題がある。表現者はあらかじめたくさんのイディオム、語彙を持っていて、適宜繰り出すだけではないのか?。実はイディオムの介在こそが非イディオムを可能ならしめるものなのだと著者はいう。

1)「イディオム」の編成/収斂を極力拒絶し、安定的な「構造」の成立を阻害しつつも、しかし「破綻」だけは回避し、広義の「構造」化への傾向性は担保すること

2)その場に存在する「他者」との応接、関わり合いを、一方的/根底的に反故にしないこと。

演奏=クリエイション、演奏=コミュニケーションという二つの制約条件に縛られながら、共同体の文法や言語体型、価値判断からの逃走と闘争を指向する。予定調和と思われないギリギリのラインでの破壊的創造が即興なのである。

即興やライブの魅力はデジタル複製コンテンツの時代にあって、むしろ希少性と言うか「本物」として価値は高まっていくものだと思う。

「演劇もダンスも僕が興味があるものって実は同じものなのかもしれなくて、それは要するに演劇もダンスも「今ここで一回しか起きない」っていう、「今ここ」っていうものに繋ぎ止められている。基本的には可能性の縮減の方だと思うんですよ。制限。今ここで起きた事をもう一回やってって言われても、もうそれって同じじゃないじゃんというのがあるわけじゃないですか。それがもう決定的で、そこの部分っていうのをどういう風に考えるかっていうのが、いわゆる複製芸術とかって言われるものとの違いだと思うんですよ。」

言語による即興の本質の解体は難しい。DVDや録画で後からでも見られるのにライブで見たいと思う心理は万人にある。それは即興ライブへの経験に基づく期待であり、即興の価値を証明することがいかに難しくても、それは必ず存在しているはずだ。

・話題率グラフが楽しい ツイッターでテレビ放送を追いかける iPhoneアプリ tuneTV
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各局のツイッターのハッシュタグを監視して、いま盛り上がっている局は何チャンネルかを、棒グラフで可視化するiPhoneアプリ。現在は首都圏のキー7局のみ対応。1分単位で変化する話題率グラフが楽しい。どんなことがつぶやかれているかをすぐに読むことができるので、テレビのザッピングのお供によい。テレビリモコンにこれがついていてもよいなあ。

ちょうど記事執筆時点ではフジテレビが韓流やりすぎ問題で一般的に叩かれているため、今放送中の番組に限らず#fujitvのつぶやきが増えてしまっている。平常時はリアルタイムに放送中の番組の話題グラフとして充分に機能しそう。Twitterアカウントを登録すると、ユーザーが投稿することができるようになる。

私は、雑談のネタとしてリアルな場で話題にしやすいテレビ番組を見ておきたいという、やや不純な動機があるので、ソーシャルで盛り上がっている番組から順に見るというのはとても効率がいい。このシンプルなツールはすごく気に入った。

ネットで盛り上がっている生放送をみつけて、テレビのチャンネルを切り替えるというスタイルは、これから広がっていくような気がする。ネットのコミュニケーションを楽しむためにテレビを見るのか、テレビを楽しむためにネットのコミュニケーションをするのか、どっちかわからなくなってきた。テレビとネットが本格的に融合をはじめたということだと思う。

テレBingにこの機能がついたら最強だなあ。

・iPhone/iPadでテレビ番組表 マイクロソフトが開発 テレBing
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/08/iphoneipadbing.html

tuneTV/テレビが楽しくなる無料アプリ - genesix

乱紋

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・乱紋〈上〉
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先週は夏休みをとって滋賀県へ家族旅行。長浜市で開催されている『江・浅井三姉妹博覧会』のバスツアーや、浅井家と縁の深い琵琶湖の竹生島に行ったり、彦根城にのぼったり、近江八幡で近江牛を食べたり淀君が増築したという石山寺を訪れたり、した。

それで、この旅の移動中に読んだ本が、直木賞作家 永井路子が浅井三姉妹を書いたこの小説。NHK大河ドラマ原作の『江(ごう) 姫たちの戦国』(田渕 久美子)とはかなり違った設定が楽しめる。茶々と初は美人で勝気で嫉妬深い女性、江は無表情でおとなしく、愚鈍にさえ思われる女性として描かれる。

江に限らず戦国時代の姫たちの実態は史料が不足していて、よくわかっていないのが現実らしい。NHK大河ドラマではアクティブな狂言回し的な扱いになっているが、本作では江には沈黙させ、ミステリアスなキャラクターに設定しておくという描き方をしている。茶々、初との軋轢と葛藤は、この小説の方がリアルな気もする。大河ドラマは姉妹の仲が良すぎる。

乱紋〈下〉
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無表情で無口な主人公では話が進まないので、主に江の侍女おちかの視点で語られていく。おちかは、静かな江の心情を推し量って代わりにやきもきしたり、商人でスパイかもしれない「ちくぜん」と恋仲になったり、ドタバタと忙しい。タイトルと上下巻のボリュームからは、もうすこし重厚な長編を期待させるが、軽いノリで進行する長編ドラマである。大河ドラマに影響されて、もうひとつの三姉妹の話を読みたい人は、楽しめる内容。

以下旅行記。

・Charatter (きゃらったー)
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専用ソフトをインストールしたiPhoneあるいはPCにつなぐと、ツイッターのタイムラインを音声で読み上げるロボット。くまキャラ「つぶやくま」は、読み上げに合わせて口をパクパクする。音声で聴くツイッターはまるで別のメディアのよう。新しい"ソーシャルラジオ"として考えたらいいのかもしれない。

英数字や記号の読み上げが冗長で、ふつうにタイムラインを読み上げさせると目立つのが欠点。常時使うには新聞など文章がこなれていて問題のない情報ソースのアカウントを選ぶべきかもしれない。

読み上げ対象となるアカウントを指定できるので、○○アラートとしても使える。地震速報は嫌だが、新商品の新発売とか、楽しい話題だとよさそう。自作プログラムと連動させて、ブログが○○ページビューを達成するとつぶやく、ECサイトが売り上げを達成するとつぶやく、とか、役立ち系にすることもできそう。

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くまキャラ「つぶやくま」はデザイン的には微妙である。ゆるキャラを狙っているわけだろうから微妙なのが当然でもあるが、2千円くらい高くしていいから、顔の部分を小型液晶にして、ツイッターアカウントのプロフィール写真を表示できるようにしたら、さらに面白いと思う。

読み上げと少し違うが、原稿の仕事が進まない時に、書きかけの文章を読んで、関連する話題を話しかけてくれる、質問したりしてくれるエージェントが個人的にはほしい。その対話の内容をだらだら書き出していくうちに草稿ができあがっちゃうようなもの、欲しいな。そういうときに編集者の顔写真で話しかけられると怖いが...。

・I【アイ】 第1集
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東北の地で神様を探す。いがらしみきお渾身の大作漫画 第1集。

大傑作になるかもしれない。断定しないのはまだ序盤だから。だがここまでは完璧。

昭和29年、宮城県の田んぼだらけの田舎の村に生まれたイサオは、酒乱の叔父に虐待されながら豚小屋で育てられた。不気味な雰囲気を持ついじめられっ子のイサオは小学5年生の時、その叔父が謎の死を遂げて身寄りを失う。そして河原で独り暮らしをするが、生き倒れになって、医師の家に引き取られる。その家の長男で同い年の雅彦がもうひとりの主人公。

雅彦は一緒に育てられるうちに、イサオの特異な能力にきがつく。イサオは触れたものの魂を乗り移らせるような不思議な現象を起こすことができた。見えないものを見る力を持っていた。幼少のころから魂とは何かに強い関心を持っていた雅彦は、イサオに強く惹かれて、二人で家出の旅にでる。イサオがうまれたときに見たというカミサマ「トモイ」を探すために。

第1集発売記念として『いがらしみきお特別インタビュー』という紙がはさまれていた。
ここで「宗教というものは科学と同じで、いつも「1」から始まってると思うんですね。でも、私がずっと問い続けているのは「0」のことなんです。」と著者は言っている。

キリスト教の「○○はこういうふうに言った」ではなくて、科学の「宇宙はビッグバンで始まった」でもなくて、じゃあ神様やビッグバンが世界を創造する前はどうだったのだ?というレベルで、存在論に近い探究が、雅彦とイサオの行動によって描かれていく。

東北仙台在住で被災者でもある著者が「幼い頃からずっと考えてきた、生と死のこと。命の意味。その先にある"答え"を、今なら描ける気がする」と満を持しての表現であり、壮大な予告編的な第1集のつづきが大変気になる。


下記イベントに登壇します。

第1回クラウドコンピューティングカンファレンス
http://www.facebook.com/event.php?eid=115525798534889

時間 2011年8月20日 · 13:00 - 17:30
場所 東京都港区港南 2-16-3 品川グランドセントラルタワー(日本マイクロソフトセミナールーム)

第1回クラウドコンピューティングカンファレンス
~クラウドの先にあるもの~を行います。
場所は日本マイクロソフト様のセミナールームとなります。

■内容

1.ご挨拶&ご説明
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2.クラウドに関する潮流とビジネス
 * データセクション 橋本氏 http://www.datasection.co.jp/
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3.参加企業各社プレゼン

【クラウドコンピューティングベンチャー】
 * ミドクラ  様 http://www.midokura.jp/
 * データセクション 様 http://www.datasection.co.jp/
 * カディンチェ 様 http://www.kadinche.com/
 * エンジャパン 様 http://entreework.enjapan.com/
 * 日本技芸 様 http://gigei.jp/
 * キャスタリア 様 http://www.castalia.co.jp/
 * 情報プラネット 様 http://www.synclogue.com/
 * クリエーションライン 様 http://www.creationline.com/
 * HDE 様 http://www.hde.co.jp/

現在計9社を予定しております。
クラウドコンピューティング関係の会社様でプレゼンテーションをしたい方は、その旨事前にお知らせ下さい。
枠はわずかですが検討させて頂きます。
(追記:既に枠は一杯となりました)

発表時間:7分~10分/社
①サービス内容発表
②デモ画面
③クラウドコンピューティングに絡めた内容を含む
④Problem(会場で解決できること)
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4.Microsoft様よりBizsparkのご案内とクラウドへの姿勢

* 日本マイクロソフト  福地氏
 (デベロッパー&プラットフォーム統括本部/パートナービジネス部)
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5.閉会のご挨拶
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6.懇親会(軽食検討中:約1時間) 
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詳細はこちら
http://www.facebook.com/event.php?eid=115525798534889

・ウルトラ怪獣DVDコレクション(1)
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もうすぐウルトラQが総天然色で復刻ということでウルトラマン再フィーバーするかもという時期ですが、本屋で思わず表紙買い。

初代ウルトラマンでバルタン星人が登場する
・ウルトラマン2話(侵略者を撃て)
・ウルトラマン16話(科特隊宇宙へ)
DVD約60分(30分番組2話収録+特典映像付)が付録のシリーズ・ムック本第1巻。
関係者へのインタビューや蘊蓄記事が面白い。たとえばバルタン星人といったらセミでしょ?という私の先入観にはやや間違いがあったことがわかった。

『ウルトラマン』の撮影に当たって前シリーズ『ウルトラQ』の反省から、コストダウンのために登場キャラクターの着ぐるみの再利用が図られた。『ウルトラQ』にでてきた遊星人Q(セミ人間)を改造して生まれたのがウルトラマン放送第2話のバルタン星人なのだそうである。フォッフォッフォッの声は東宝映画「マタンゴ」の声の流用でもある。

で、やっぱりベースはセミなのかとったら当時のプロデューサーが「当時、人類が滅びたあと生きのこるだろうといわれていたのが、ザリガニだったんです。その生命力を持っているということで、ザリガニのイメージをバルタン星人には投影させています。」と話している。セミをベースにザリガニ風にしたのが正解なのか。

バルタン星人はこうみえて科学技術に強い宇宙人で、核実験で故郷の星を汚染してしまい、宇宙船に乗って永住先を探している。母船には20億3000万人もいるのだが、大部分はバクテリアの大きさに縮小されていて、一体だけがノーマルサイズで船外活動をしているなんて事実もわかる。

このDVDを観てから先週土曜日に滋賀県長浜市の「海洋堂フィギュアミュージアム黒壁」に行ってきた。バルタン星人は撮り忘れたが、

・海洋堂フィギュアミュージアム黒壁
http://www.ryuyukan.net/
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ウルトラマンシリーズの怪獣の造形もたくさん展示されていた。ウルトラマンの怪獣は表面(皮膚?)の質感が独特であると思う。当時の特撮用の着ぐるみの素材の質感が、怪獣のイメージを決めている。意図的なデザインもあるが、まさに時代がつくりだしたキャラクターなんだなあと改めて思った。

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iPhoneカメラの映像を漫画風にリアルタイムに変換するアプリ。

変換がたいへんよくできていて味のあるが画像をつくることができて楽しい。機能はシンプルで、基本的にはカメラ映像を見ながら、フィルターを選択するだけ。撮影済みの写真を変換するだけではなく、リアルタイム映像変換が可能なのがおもしろい。インタフェースも手書き風。

たとえば顔写真を変換してみるとこんなかんじ。Facebookのプロフィール写真にいいかもしれない?。
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うまく味のある写真に変換するには輪郭が抽出しやすい元画像があること。人やモノは白や黒っぽい背景で撮影するとうまくいくことが多いようだ。建物はちゃんと光が当たって輪郭がきちんととれていると美しい作品になる。

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iPhone/iPad用テレビ番組表アプリはよいなと思えるものが見つかっても、サービスが長期間続かなかったりして、なかなか定番がない。最近登場したテレBingは、とても使いやすいうえに、Microsoft製だからすぐに打ち切ることはないだろうということで、定番最有力候補。

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地域を指定すると番組表が表示される。地上波とBSに対応している。個別詳細を見たり、カテゴリや検索から番組を探すことができる。番組表閲覧の操作はとても軽快。曜日選択メニューがユニークなところ以外は、とてもオーソドックス、無駄のないインタフェース設計。

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番組でつながるがテーマのアプリなので、番組の情報をFacebookとTwitterにつぶやくことができる。Twitterでは番組についてのつぶやきを見ることもできる。ながらTwitter派には大変おすすめのアプリだ。

アラーム機能つき。

テレBing - Microsoft Corporation

・必ずできる!iPadプレゼンテーション
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この本は賞味期限が短いだろうが、今が旬な本だ。iPadでプレゼンしたい人必見。

このブログをいつも読んでいただいている方にはおわかりのように、iPad大好き人間である。毎日持ち歩いて、毎日何時間も使う。iPadをいじるのが心地よくて、すべてこれでやってしまいたいと思っているくらいだが、プレゼンだけは例外だったのだ。

初代iPadをプロジェクターにつなげてプレゼンを何度か経験したが、まだまだ大事なシーンで使える代物ではない。著者も書いているが、

1 パワーポイントで作成した資料をKeynoteに変換するとフォントやレイアウトが崩れてしまう
2 画面投影のプレゼン中に突然ソフトが落ちる、不安定

という既知の大問題があるからだ。

この本はいかにこの2つの問題を回避して、安定したプレゼンを行うかのノウハウ本だ。たとえばパワーポイントをPDFに変換したり、スライドを全画面、写真に変換してからスライドショウで投影したりなどの涙ぐましい工夫がいっぱいだ。

解説書がほとんどないGoodReader2ScreensKeynoteの使い方が、ビジュアルに詳しく解説されており、大変に参考になった。著者は徹底してプレゼンをやるという目的に特化しているので、記述に無駄がない。逆に言うとある程度iPadやプレゼンがわかっている中級以上の読者向けともいえる。

iPad2ではプロジェクター投影機能が強化されているようだが、特定のアプリでなければ投影できない初代iPadユーザーは特にこの本がおすすめである。はやくこういう抜け道ノウハウ、バッドノウハウが不要なアップデートがくるといいのだが、いまは読むべき本である。

・次世代インターネットの経済学
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まっとうな経済学者が書く、うわつかない次世代インターネット経済学。

ベストセラーになった「フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略」などは「情報通信経済学の専門家の立場からは、荒唐無稽な主張である」とばっさり切って捨てる。デジタル経済ではデジタルのものは遅かれ早かれ無料になるというのが「フリーミアム」だが、著者曰く限界費用がゼロになるからといって価格がゼロになる必然性はなく、企業は差別化や独自ブランドによってベルトラン競走から逃れようとする。そもそも限界費用ゼロといっても商品が競争市場で勝てるだけの付加価値を生むには、相当に大きな固定費用が現実には必要なはずだと指摘する。

フリーミアムは経済の一面しかみていないのだ。現代のデジタル経済で重要なのは両面市場の経済学だという。「ネットワーク効果をレバレッジとして効かして、一方で無料で他方で有料で、二種類のユーザを共通のプラットフォームでつなぐようなビジネス・モデルを両面市場(Two-sided Market)という。Googleのビジネス・モデルは、両面市場の経済学として明解に説明できる。」。だから一方の価格の効果だけみていてはだめで、両側の分配比率に気をつける必要があるのだ、というわけ。

経済学者が、バズわーどに踊らされず、経済学的に確実にいえることは何かを冷静におさえながらデジタル経済を現実的に語る本だ。規模の経済やネットワーク効果という基本的な理論を、現在の市場にあてはめて解説してくれる。ロックインと経路依存性の話もITビジネスでよく発生する問題を理解するヒントになる。なぜ市場ではしばしば良貨を悪貨が駆逐してしまうのかのワケ。

「デジタル経済では、主流派経済学が想定してきたような予定調和型均衡は成立しない。正のフィードバックのために、複数均衡の中の最適均衡に収束する保証はなく、いち早くクリティカル・マスを獲得した非効率的な技術が普及し(過剰転移)、そのまま長期間ロックインする(過剰慣性)かもしれない。」

・過剰慣性
「非効率な旧ネットワーク技術が既に普及し、ユーザがロックインしてしまうために、効率的な新ネットワーク技術が阻害される。」
・過剰転移
「非効率な新ネットワーク技術が将来普及すると予想されるために、効率的な旧ネットワークを駆逐してしまう。」

要するに、ネットワーク製品やサービスは、良い物を作れば必ず売れるわけではない。現状の市場の状況をみて戦略を打ち出していく必要があるということだ。当たり前なのだが、市場でプレイヤーとして戦っていると忘れがちな事実をたくさん指摘して貰ったような気がする本だった。

・友達の数は何人?―ダンバー数とつながりの進化心理学
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集団サイズと新皮質の大きさは比例する。研究の結果、人類の脳が扱う最適な集団の人数は150人。ロバート・ダンバーは、部族社会の村や氏族、軍隊の中隊、成功している工場など、人類の基本的集団の構成員が150人前後であることを明らかにした。これが気のおけない人間関係を維持する認知限界なのだ。(ダンバーはその前後規模の集団も認め、5,15,50,150,500,1500、5000とネットワークは3の倍数になるともいう。Facebookの5000人上限はこれに由来したりして?)

人間が他者を思いやる能力の基礎には「心の理論」がある。他者の心のうちを客観的に想像する能力のこと。この能力があるから、小説も科学も宗教も成り立つわけだが、意識水準の高次化が人間の高度な文化を生み出しているという。

自分の意図を認識することが一次志向意識水準。自分の意図を認識したうえで、相手の意図を見透かすのが二次志向水準。サルや三歳児は相手を欺くことができるが、せいぜい二次である。人間はゴッコ遊びができるようになって少しずつ水準が上がっていく。物語は高次意識水準の産物だ。登場人物が増えたり、観客を意識したりすれば、さらに高次の志向水準が必要になってくる。シェイクスピアの戯曲ではおよそ第6次水準あたりまで脳を駆使することになるそうだ。

「もっともほとんどの人は、五次志向水準までが能力の限界だろう。偉大なストーリーテラーは、その限界ぎりぎりのところまで観客を押しやって心を揺さぶり、感情をかきたてる。そのためには作者自身が六次志向意識水準まで持つ必要があるが、それができる人間は全体の四分の一もいるかどうか。やっぱりシェイクスピアは天才なのだ。」

生物の脳が進化する理由の一つが性淘汰で有利になるためだが、人間の脳が発達したのは一雌一雄関係を保つためではないかと著者は考えている。ひとりのパートナーと長く安定した関係を続けることが脳を進化させた。事実「浮気好きな種の脳は小さい」からだ。高次の意識志向水準がもてる人は、話が面白いだろうし、思いやりが深くて優しい人ということにもなるか。

脳の大きさ、認知の限界、人間関係の複雑さ、集団の数というロジックでダンバー数150は導き出される。有名な150人説だけでなく、進化人類学の観点から、人間集団に現れるパターンや性質を多様な視点から一般向けにわかりやすく論じている。

・日本「再創造」 ― 「プラチナ社会」実現に向けて
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明解なヒントに満ちた本。

元東京大学総長で三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏が提唱する「プラチナ社会」とは

エコで低炭素な社会を実現していく「グリーン・イノベーション」
活力ある高齢化社会を実現していく「シルバー・イノベーション」
ITを効果的に活用して人が成長する「ゴールデン・イノベーション」

という3つが有機的にむすびついた未来社会のイメージである。

市場競争で飽和した普及型需要から、これまでにない創造型需要で未来を切り開く国になるには、日本は課題先進国から課題解決先進国へと変身することだと説く。いま日本が直面している問題は近い将来にアジアや世界の国々にも生じる問題の先取りだからだ。

物事の本質をみる着眼点がユニークだ。

たとえば各国のインフラの整備度合いを、2010年までの一人当たりセメント投入量累計でみる。アメリカなら約16トン、フランス22トン、日本29トン。急速に追い上げる中国ではすでに14トンに達しており、直近では年に1.3トンのペースで増えている。2年後にはアメリカに追いつく。

「中国とアメリカの国土面積はほぼ同じで、人口は中国が4.5倍ある。2012年に人口当り投入量が同じということは、中国の国土にアメリカの4.5倍の密度でセメントが投入されることを意味する。高速道路や飛行場やビルなどのインフラ投入の総量が4.5倍になるわけだ。 したがって、今後もしばらく中国が年率10%もの高成長を続けるとすれば、道路や港湾、ビルなどのインフラは予想以上に早く建設され、早ければ二年、どんなに遅くとも10年以内で飽和状態に達するのは確実である。」

物質は飽和する。投入した物質の量をみて状態を測る。いわれてみればとてもシンプルで本質的な考え方だ。

物質は有限だが欲望は無限だ。人類の情報スピードが「神の見えざる手」を超えてしまい、市場は均衡せずに暴走するかもしれない。プラチナ社会を実現するための具体策として、

1 エネルギー効率を3倍にすること
2 物質循環システムを構築すること
3 非化石エネルギーの利用を二倍にすること

といった施策が掲げられている。効率が3倍になれば使用エネルギーが3倍に増えても問題がない。循環システムがあれば無駄がない。非化石エネルギーによってCO2排出量を抑えられる。

ではわたしたち具体的にはなにから手をつけたらいいか?

人々が最新のエコ家電に買い替えることで、日本の産業は復活し、海外に輸出する製品が磨かれ、効率社会も実現される。だから最新の家電の買い替えが、一般市民ができる第一歩としてよいらしい。買いますかね。

・つなみ―THE BIG WAVE
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家族や家を津波に奪われながらも、海に生きることを決して諦めない日本の漁民の生き方を、ノーベル賞作家のパールバックが力強く描いた傑作。1947年初版。新版からついた黒井健のイラストもいい。

丘の上に住む農家の少年キノの家に、津波で家も家族も失った友人のジヤが身を寄せる。キノの両親も村人も孤児になったジヤを温かく見守り、同年代のジヤとキノを兄弟のように育てた。復興していく村で同じように生きていた二人だが、大人になってもジヤは海の民としての生き方を忘れることができない。

なぜ人は津波があった場所に戻るのか。

効率や安全だけを考えるなら、戻らない方が合理的なはずだ。三陸海岸も歴史的に何度も津波にすべてを奪われた土地だ。今回の津波でまた対策を立てるのだろうが、これまでも高い堤防や避難訓練など、充分といえる備えがあった。でも駄目だった。これから、どんなに堤防を築いても、また想像を絶する高さの津波がきて、間に合わない可能性がある、だろう。

しかし、それでも人々はその場所に戻って再建を続けるのだろう。私は漁民ではないが、パールバックのこの短編を読んで、理屈ではなく、情緒的に、よくわかった気がする。危険があろうと、自分の人生があると思う場所へ、人が戻るのは当たり前のことなのだ。ジヤは結婚して構えた新居で海に向かって窓を開く。すべてを奪った、そして、多くを与えてくれる海をじっくりと見るために。

殺人や強盗のような犯罪発生率が高い都市に住むのとなにが違うのだろう。警察官や消防士のように危険を伴う職業に就くのとなにが違うのだろう。100年に一度死ぬかもしれないリスクがある?だからなんだ?、大切なものがある場所に人が住むことは人間的で、合理的で当たり前のことだと思わせる、そんな作品である。

・読書感想文がラクラク書けちゃう本―宮川俊彦のオタスケ授業 (日本一の教え方名人ナマ授業シリーズ)
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ドラえもんとのび太くんととっちゃまんによる小学校中・高学年向きの参考書。低学年の息子に読書感想文の書き方を教えてやろうと思って父親視点で読み始めたが、読書感想ブロガーの私が参考になってしまった。なかなか、いいことが書いてある。

書きだしのテクニックや「感想ワード」や「展開ワード」を使って、子供たちがまずは原稿用紙を埋める方法を教える。「本との出会いから入る」「もしも」「主人公への手紙」「ベタボメ」「セリフ抜き出しの術」「表紙がいいとかまわりからせめる」など。

そして、起承転結的な、たくさんの構成テンプレートを紹介している。11項目からなる「とっちゃまん式組み立て理論」など、大人でも本の紹介に役立ちそうな形式がある。

小手先のテクニック指導だけじゃないのも好印象だ。

たとえば、例文として

「ぼくは『マッチ売りの少女』を読んだ。こいつってばかじゃん、と思った。」

とか

「『桃太郎』は、みんながよく知っているむかしばなしで、桃太郎がおにたいじに行く話だ。 この本のテーマは、「おにたいじをすることが正義だ」「正義の味方の桃太郎はエライ」ということなのかな。ぼくはちがうと思う。桃太郎は、みんなにほめてほしかっただけで、正義の味方なんかじゃないと思う。」

で始めていいんだよ、自分なりの感性を伸ばしていく延長にいい感想文があるよと教えている。巻末FAQの「先生にほめてもらえる感想文が書きたい!」という質問への答えが気が効いている。著者の答えは「「いい子ちゃん感想文」を書くか、書きたいように書くかだ」。ちなみに「いい子ちゃん感想文」とは、たとえうそでも感動したと書いて、自分の気持ちと主人公の気持ちをかさね合わせ、反省と目標を書く。テーマは家族、友情、自然破壊などにし「これから~したい」という文章を入れて、いちゃもんをつけないことだよ、と、ちゃんと教えている。

ドラえもんがあんまり活躍していないのが気になるが、とっちゃまんはなかなか為になることをいう。正体は国語作文教育研究所所長らしい。なるほどね。

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ATOKと一太郎で知られるジャストシステム創業者の浮川夫妻が、再起業して開発したのがこのiPhone用の日本語入力アプリ。私はフリック入力が1分間で68字入力できて、結構速いので、手書きなんか要らないと思っていたのだが、KNN神田さんに薦められて試してみたら、あら、これ、なかなかいいじゃないですか、と思って紹介。

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手書き入力だがとにかく認識精度が高い。かなり適当に殴り書きしても認識してくれて驚いてしまう。もちろん誤認識も出るわけだが、その修正の方法も洗練されているので、結構いいスピードで、手書きテキスト入力が可能になる。考えながら書くときは、フリックよりも手書き入力の方がしっくりくる。

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iPhoneで撮影した写真のトリミング、サイズの縮小、回転が簡単にできるアプリ。Evernoteへの登録機能が優れている特に優れている。画像加工アプリはたくさんあるが、よく使う機能だけのシンプルさと無料なのがよい。

サイズ縮小はよく使われる画面のタテヨコ比率が10段階用意されているのがありがたい。
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切り取る範囲のサイズを数値で確認しながらトリミングができる。FacebookやTwitterのプロフィール用顔写真を切り抜くのにも便利。

iPhoneで撮影した写真はなぜか縦で撮影したつもりが横になっていたりすることがあるので、回転の修正もよく使う。

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設定にEvernoteアカウントを登録しておくと、起動中はバックグラウンド実行でEvernoteへ送信してくれる。ノートブックの選択、写真へのタイトル、タグ、メモ、位置情報の自動設定が可能。

任意の縮小サイズや回転角度を登録できる有料版のPlusもある。

EverClipper - Tea Leaves, LLC.

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iPadの画面上に、付箋とマジックを使って、自由度の高いブレインストーミングを展開するツール。iPhoneからアイデアの付箋をiPadのボード上に投稿することもできる。

使い方は自由だが、ブレストとして基本はアイデアを付箋に書いてペタペタと貼る。色を変更することができる。付箋の配置でグルーピングや重みづけをおこなうとわかりやすい。

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楽しいのは自由に背景にペンでらくがきができること。グルーピングした際の境界線を描いてもいいし、イラストを描いてもいい。ビジュアルな表現が得意な人なら、これでプレゼン資料をつくれそうだ。

複数のiPhoneと無線で通信して、アイデア投稿を受け付けることができる。iPhoneユーザーがいっぱい集まった時にブレインストーミングすると盛り上がるだろうなあ。

機能はシンプルでわかりやすいが詳しくはビデオを参照。

iBrainstorm - Universal Mind

・いつだって大変な時代
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歴史を振り返ると人はつねに「いまは大変な時代だ」と言い続けてきた。現在意識は常に大変だということを自覚しないとなにか間違うよ、と指摘する堀井憲一郎(落語論、ずんずん調査、ディズニーリゾート便利帖などウィット効きすぎなエッセイスト)の論考集。
つねに「大変な時代」になってしまう理由がいくつも挙げられているが、たとえばひとつは自分が大切という意識だ。

「私たちは、とにかく「自分が特別だ」とおもいたいのである。ほかはともかく自分だけは別だ。これが、いまの私たちのとても大事な支えである。アイデンティティと言ってもいい。その延長上として、「特別な自分が生きているいま」は特別であってもらわないと困るのです。」

確かに我々は同時代を歴史の大きな転換期とみなしたがる。顕著に大きな変化がない場合には「過渡期」なんて言葉に言い換えたりする。この特別だと思いたい人々の心理をうまく操るのが政治家であったりもするから気をつけないといけないのだ。

そして、著者はこんなこともいっている。これも共感した。

「日常生活は、ふつう、自分やその周辺のことだけで手一杯になってしまう。でも、社会とつながっていたくない、と言うわけにはいかず、自分も社会の一員だということを示そうとするとき、手っ取り早いのが「いまは大変な時代ですね」という言葉なのだ。日常を維持して、毎日を過ごしていくためには、いまは大変な時代だ、と考えていたほうがラクなのである。それは生きて行く活力としてとても必要なものなのだ。 ただ、それを「じっくりとものを考えるとき」にスライドしないほうがいい、という話でもある。」

大変な時代と言うのは掛け声に過ぎないのに、本当に状況を大変だと認知してしまうと、客観的な見方ができなくなってしまう。経済恐慌が起きようが、原発が爆発しようが、まあそういうこともあるだろうくらいに構えて、メディアや為政者に踊らされない余裕を、3.11後の私たちは身につけるべきなのかもしれない。

現代を客観化、相対化して、批判的に読み解くエッセイ集。ムーミンでいうならスナフキンみたいな人だ。

・落語論
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/08/post-1050.html

・東京ディズニーリゾート便利帖
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/07/ix.html

・自分で掘り出せザックザク!! 宝石発掘キット
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先日、息子の誕生日だったがプレゼントに予定していた『スーパーポケモンスクランブル』の発売日が直前に延期になってしまった(なんてことするんだ任天堂)。本人曰く発売まで待つとのことであったが、誕生日当日に、仮のプレゼントとしてなにかあげとこうということで、本屋に連れて行き好きな本を選ばせたらこれになった。

ああ、これか。私も発掘キットというのは気になっていた。私の子供時代にはなかったが最近の科学系玩具のコーナーではメジャーな商品になっている。砂に埋まった宝石や骨を道具を使って掘り出す知育玩具。類似品には恐竜の骨発掘キットがある。

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(この写真はiPhoneで撮影してPhotoshakeでレイアウトしました)

新聞紙を敷かないと砂だらけになってしまうので注意。付属の木ベラと刷毛を使って、砂に埋まった宝石の原石を掘り出していく。砂の塊は明らかに人工的につくったもので、おむすびみたいな形をしている。これを木ベラでガシガシと削る。

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半分くらい削ると原石が見えてくるから、傷つけないように慎重に掘る。掘り出したらハケで砂を払ってきれいにする。ダイヤモンドの原石、ターコイズブルーストーン、アメジスト、シトリン、タイガーアイの5種類のうち3種類が入っている。運がいいとダイアモンドの原石が入っている。

いかにもゴッコっぽい発掘遊びなのだが、出てくるのは本物の原石なので美しい。眺めていて飽きない。宝石の発掘って本当にこんな感じなのだろうかと大変に疑問は残るが、子供はおもしろがっていたし石の名前を覚えるのには役立ったから、まあいいか。

・国家は破綻する――金融危機の800年
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過去800年間の各国の記録を精査して国家の金融危機(ソブリン・リスク、デフォルト、銀行危機)を分析した研究書。

長い歴史のスパンで見ると国家はひんぱんに破綻している。公的対外債務のデフォルト、国内債務のデフォルト、そして銀行危機、インフレ、通貨暴落。この本にあるデータをみれば国家は破綻しないなどというのは幻想であることがわかる。世界の半分近い国がデフォルト中ということが歴史上何度も起きているのだ。デフォルト回数の記録保持者はスペインだが、世界のほぼすべての国が新興市場国だったころに一度は対外債務のデフォルトをしている。

国内債務のデフォルトよりも、公的対外債務のデフォルトが起きやすい。これは「国がデフォルトを起こす主な原因は、返済能力ではなく返済の意思である」という理由で説明できるそうだ。債権国が債務国を武力で脅して回収するという発想は費用便益分析的に考えて、現実的ではない。だから債務国にしてみれば、いろいろデメリットはあるものの、ある程度の体力を残した状態でデフォルトしてしまい、交渉で債務の一部不履行やリスケジューリングへと持ち込むことにも合理性がある。

統計的にみると国内債務の方がデフォルトの許容限界が高い。この場合、打ち出の小づちとして政府は、通貨発行ができるが制御不能のインフレをまねく可能性がある。事実上のデフォルトがインフレという形をとることもある。

「なぜ政府は、インフレで問題を解決できるときに、わざわざ国内債務の返済を拒否するのだろうか。言うまでもなく一つの答えは、インフレがとくに銀行システムと金融部門に歪みを生じさせるから、というものである。インフレという選択肢があっても、支払い拒絶の方がましであり、少なくともコストは小さいと政府が判断することもある。」

対外、国内どちらにせよ、国がデフォルトを起こす主な原因は、返済能力ではなく返済の意思であるということになる。むろん一人前の国家はデフォルトを選ばない。

「高所得の先進国の多くは1800年以来、対外債務のデフォルトを起こしていない。
現在の先進国は公的債務のひんぱんなデフォルトや年率20%以上の高インフレからは卒業したが、銀行危機から卒業したとは言い難い。」

後半では、先進国で発生しやすいのは銀行危機であり、いかにそれが一般的でよく起きるかを数字で示している。つまり、国家と言うのは先進国、高所得国になっても破綻するときには破綻するものなのである。構造改革も、技術革新も、よい政策も、健全なファンダメンタルズも、国家の破綻を完全に防ぐことはできない。しかし、専門家はしばしば「今回は違う」シンドロームに陥って、状況を見誤ってきたというのもこの本が明らかにする歴史の一面だ。

著者は公的対外債務危機、公的国内債務危機、銀行危機、通貨暴落、インフレ急騰の5種類の危機が、その年に起きているかどうかで国家の金融危機度を測る総合指数(BCDI指数)を開発した。1種類が起きると1、5種類ならば最も深刻な5になる。

2007年の米国のサブプライムショックとそれに続く「第二次大収縮」は、第二次世界大戦以降で最悪の深刻度を持つものであったということがわかる。国家はしばしば破綻するものだが、歴史的に見てもあれは相当やばかったのだよ、といいたいらしい。

そして今日は2011年の8月1日である。

米国はどうやら今回の債務危機を回避できるらしい。この本の過去のデータ的にも米国がこの状況でデフォルトする確率は低そうだし、「国がデフォルトを起こす主な原因は、返済能力ではなく返済の意思である」なのであるから、当然といえば当然か。

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