2009年5月アーカイブ

・なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか 記憶と時間の心理学
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なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか?。10歳の子供にとって1年間はこれまでの人生の10分の1だが、50歳の人間には50分の1に過ぎない。だから年をとるにつれて時間は短く感じるようになる。これはジャネの法則と言われる有名な説だが、主観的描写に過ぎず、説明ではない。

加速する時間については

1 望遠鏡効果
一般に人は過去の出来事に実際より最近の日付をつけることが実験でわかっている。

2 レミニセンス効果
年少の頃は「はじめて」で印象的な出来事が多く、利用できる時間標識が多いため想起する量も多く、結果として最近の事だと感じてしまう。

3 体内の生理時計のリズム
体内メトロノームが加齢にともない減速していく。

が本当の原因であると著者は心理実験データを根拠に解説している。記憶と想起にかかるバイアスの種類と原理がよくわかった。

ある実験では18歳以上のアメリカ人に「国家的に、あるいは国際的に重要な出来事」を挙げさせると、大恐慌や第二次世界大戦、ケネディ大統領暗殺、ベトナム戦争など幅広い答えが返ってきた。だが年齢別で分析すると各年齢層が20代の頃に起きた事柄を挙げていることが判明する。つまり「世界を揺るがす出来事は20歳のときに起きる」という見方ができる興味深い結果である。

青年期と成人初期はその後の人生に影響を与える重要な選択があると同時に、社会に出て「はじめてのこと」に満ちている。後から思い出すと人生のクライマックスになるわけである。10代後半から20代前半までがやはり青春なのだな。

ほかにこの本では、なぜ1歳までの記憶がないのか、既視感がおきるのはなぜか、臨死体験時の人生の走馬燈レビューが人類共通なのはなぜか、サヴァン症候群の驚異的記憶力の秘密、匂いと記憶の強い結びつきなど、記憶と心理に関する研究がバラエティ豊かに、一般向けにやさしく解説されている。

・大人の時間はなぜ短いのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-854.html

・「時間」を哲学する―過去はどこへ行ったのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/07/post-110.html

・マインド・タイム 脳と意識の時間
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/01/post-689.html

5歳の息子がノートに漫画を描くようになった。日々ストーリーは進歩していくのだが、登場人物の胴が一本の線で描かれていて単調なのは変わらない。絵を上達させる方法はないかなあと思っていたところへ、この本とゲームを見つけた。

まず本がこれ。

・1日10分でえがじょうずにかけるほん 小学校低学年対象
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これは絵というよりも上手なラクガキ、へたうまな描画能力を育成する絵本だ。会議でホワイトボードにこれくらいの絵をさらっと描けると、ビジネスシーンでも役立つはずだ。ジャンル別に絵と描き順が掲載されている。

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しかし本だと実際にはなかなか練習しないものだ。DSソフト版を買ってきたら、どんどん描いてみるようになった。DSの2画面を使って、上の画面のお手本を、下の画面で描く。色を塗る。

・1日10分でえがじょうずにかけるDS
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絵は自由に描くべきというコンセプトなので点数がついたりはしない。作成した絵はジオラマモードで動いたり、ミニゲームの中で使うことが可能。遊んでいるうちにワニとかパンダとかカブトムシとかを描けるようになった(親の私がですが。)。

こどもの場合、ラクガキであっても描けるバリエーションを一杯持っていれば活用シーンが増える。得意意識が本格的な作画の能力開発への入り口になっていく、ということはあるのかもしれない。線と丸だけの針金人間脱出用にこのゲームは役だった。

・オフィシャルサイト
http://www.agatsuma-toys.com/1d10m/
ゲームを疑似体験できる。

お得な方眼メモ付き!サンスター BINDER BALL バインダーボールメモセット

最近、携帯している便利メモ。

私の場合、メモを取ろうと思ったときペンがない、あるいはペンはあるけど紙がない、ということが多い。別々に持っているから悪かったのだ。このバインダーボールペンは、軸の部分に書類を綴じるバインダー機能があり、メモを綴じて固定することができる。常に紙とメモが一緒になる。

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バインダーを開くとペンの芯が自動的に引っ込む仕組みがあり、携帯中にインクで服や鞄が汚れないようにできている。書き心地はあんまりよいとは言い難いが、とにかくメモ魔にはそれを上回る機能性が嬉しい。

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スーツのポケットに入れていると歩行中や電車内で思いついた事柄をこまめにメモれるようになった。

・美女の骨格 名画に隠された秘密
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骨格をめぐる美術解剖学入門。遺骨から生前の顔を復元する復顔技術があるように、外観の美しさというのは皮一枚の問題ではなく、皮膚の下にこそ隠されている。

巻頭カラーで紹介されているのだが、日本の中世の肖像画や江戸時代の浮世絵など日本美術史における人物の絵画には陰影がなく立体感に乏しい絵がほとんどだ。それに比べて西洋画は骨格的特徴が強調され立体的な表現が多い。そもそも西洋での人体解剖は医師ではなく、自身の作品に構造を反映させようとした芸術家によって始められたそうだ。

人間の顔の見方には「光と影の中に骨格を意識し、立体として顔を捉える見方」と「顔の表面にある諸器官(目、鼻、口、耳)と、眉などのかたちや色、配置を捉える見方」の二つがあると著者は説明する。日本人は主に後者で人の顔を見てきたから、陰影を描いてこなかったのだとする。

なぜそういう見方が定着したかといえば、日本人が平板な顔だからである。舞妓や歌舞伎役者では、まず顔を白く塗ることで平らなキャンバスをつくり骨格の欠点を隠す。その上に化粧で自由に美しい顔を描く。欧米人の彫りの深い顔には向かない芸当である。

欧米人の顔と日本人の顔を白黒のポートレート写真で見ると両者の魅力の違いがはっきりする。彫りが深い欧米人の顔は陰影が濃くなって圧倒的に面白くなる。

・BW Side Light Portrait on Flickr
http://www.flickr.com/groups/bwsidelitportrait/pool/

日本人にも大きくわけて縄文顔と弥生顔の2種類の骨格がある。著者曰く

縄文顔の美女の典型 宮崎あおい
弥生顔の美女の典型 藤原紀香

であるそうだ。こう教えてもらえると典型がイメージしやすくなった。

そして現代の小顔美人の秘密は顎であるという話が興味深い。咀嚼回数が減ると顎が萎縮する。頭骨全体が顎の骨と噛み合うようにできているせいで、顎が小さくなると顔全体が小さくなるというのだ。

現代人の小顔は柔らかいものばかりを食べて顎が脆弱化した成果なのである。遺伝もあるわけだし健康との兼ね合いもあるが、小顔美人を育てるには柔らかいものを食べさせた方が良いということになりそうである。

ちょっと笑えたのが、鼻は始終つまんでいれば本当に高くなるという話。骨格も細胞でできているから新陳代謝による変化の余地があるのだそうで。

美人と骨格。視点がユニークな新書。

・他人と深く関わらずに生きるには
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先日主催したイベントにスピーカーとして登壇いただき参加者から大好評だった池田清彦先生の本。痛快。

こういうことが学べる。

・濃厚なつき合いはなるべくしない
・車もこないのに赤信号で待っている人はバカである
・心を込めないで働く
・他人を当てにしないで生きる
・おせっかいはなるべく焼かない
・自力で生きて野垂れ死のう

とても共感した。

コミュニケーションに悩んで鬱になったり自殺したりするのは不幸だと思う。端から対人関係など気にしないで生きていけばよいわけである。私たちは子供時代に人口密度の高い教室に10年以上閉じこめられ、隣人と仲良くならなければいけないものだと信じ込む。友達を作れないことは悪いことであり欠陥だと思い込んでしまう。

だが池田先生曰く

「人間は社会的な動物であり、ひとりでは生きられない、とよく言われるが、それは現在の社会システムが強い分業体制になっているからであって、人は本来生きようと思えばひとりで生きていけるのである。」

他人と深く関わらずに生きる幸福について、歯に衣着せぬ持論を展開されている。もともとグループの外に立っていたいタイプの人間には共感ポイントの連続である。人を寄せつけない生き方に、ついつい引き寄せられてしまう。

「私は何を言いたいのか。他力を頼まず自力で生きて、力が尽きたら死ぬのが最も上品な生き方だ、ということだ。」

孤高な生き方は究極的な上品なのだ。他人とのつきあいに悩んで死ぬより、そもそも深くはつきあわないで果てる生き方もいいじゃないかと思う。逆説的だが、上品な孤高を守る人の周りには、この先生のように、人が集まってきてしまうもののようだ。

この本が"歯に衣着せぬ"というのは本当である。やりすぎなんじゃと思うところもあるがそれがまた魅力。

「たとえば、新しく引っ越してきた人に、「この町内会のしきたりはこうなっているんだから、さしでがましいとは思いますが、かくかくしかじかのようにした方がいいですよ」と言う。本当にさしでがましいと思うなら黙ってろ。町内会など知ったことか。バカヤロウ。矢でも鉄砲でも持ってこいって。私ならすぐケンカだな。」

わはは。

・やがて消えゆく我が身なら
http://www.ringolab.com/note/daiya/2005/03/post-212.html

白蝶花

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・白蝶花
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白蝶花(はくちょうばな)は、白い蝶のような花をたくさんつけるが、風に吹かれて、すぐに枝から落ちてしまう。しかし次の日にはまた新しい花を咲かせる植物。

大正から昭和の激動の時代に生きた5人の女達の命懸けの恋愛を描いた官能ロマン。デビュー作「花宵道中」でR-18文学賞大賞を受賞した宮木あや子の受賞後第一作。花宵では遊郭という世界にとらわれた哀しい女達の一途な恋愛模様だったが、本作でも、因習や制度に縛られた女達の連続ドラマという点では共通している。

組長の性の玩具にされていた妾が、組員とできたのがばれて折檻される話。女学校に通う娘が親の借金のために資産家に売られていく話。知事の家の女中として奉公に入った田舎娘が知事の娘にねちねちといじめられる話。女達は運命を受け容れて愛さぬ男に身体を差し出すが、心は密かに愛する男に一途に捧げる。心だけは自由に生きようと抗う。

やがて時代は少しずつ女性の解放へと向かっていくが今度は戦争が男達を奪い去っていく。「もう一度抱いて。ずっと忘れられないように。私の身体に刻んで。」。だから女達は心から愛する男とつかの間の激しい愛を交わす。

「花宵道中」の官能表現の過激さは本作でも満開。というか、最初はそれ目当てで読みはじめるわけだが、過激でありながら文学性を失わない文体にこの作家の凄さを再認識させられる。

映画にならないかな、これ。


・花宵道中
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/post-936.html

これがデビュー作。

作者は違うが宿業の女達の年代記という点では下記2つもおすすめ。

・べっぴんぢごく
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-843.html

・赤朽葉家の伝説
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005047.html

・借金の底なし沼で知ったお金の味 25歳フリーター、借金1億2千万円、利息24%からの生還記
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25歳年収240万円のフリーターが、欲に目がくらんであっという間に1億2千万円、利息24%の借金を背負う。過酷な取り立てに追い込まれるが、自己破産することも許されない無間地獄の日々。生々しい。すべて著者の体験した実話だそうだ。借金体験記は世の中にいくらでもあるのだろうが、人気メールマガジンの作者なだけあって、リードから読ませるのがうまい。

この人の借金は完全に自業自得だし、債権者との訴訟における著者の言い分もいまひとつ同情できる内容ではない。だがどん底に陥ってもあきらめず、意識的な勉強によって復活のためのファイナンスインテリジェンスを身につけていく。したたかな生き方には学べる内容も多い。

著者は借金を完済しただけでなく、現在は行政書士事務所、不動産会社とホテルチェーンの経営者として成功しているらしい。お金持ちになる心構えとして脱「働くおじさん」を挙げている。

テレビ番組「働くおじさん」は私の世代では有名な教育番組だったのだが。

「その社会見学は、「労働の現場」は教えても、「働かせるおじさん」の側について解説することは決してありませんでした。本当は「働くおじさん」と「働かせるおじさん」が対になって会社組織が成り立っているわけですが、取り上げられるのはいつも「働くおじさん」ばかり。そして、技術とかモノ造りを賛美して、子供に労働者になることの素晴らしさを教える番組が毎週放映されていました。」

これは今も大して変わらない。「プロジェクトX」や「プロフェッショナル 仕事の流儀」も現場やモノ作りの尊さばかりを取り上げる。経営の視点というのはしばしば悪者だ。著者は学校とは国家の政策と企業の成長に奉仕する労働者の養成機関であるという本質を改めて指摘している。

「学校の教師は、労働者としての道を歩むのに必要な情報を提供はしても、お金持ちになるための情報は提供しませんし、またそのノウハウも持ち合わせていません。彼らが提供するのは、すでに色褪せて、今はもう期限切れで使えなくなった学歴という成功への切符だけです。なぜなら、教師自身が、労働者であり、お金持ちになるための勉強をしてこなかったからです。」

面白い本だなと思う。

フリーターや派遣労働者の問題を本当に解決するのは、経済支援や職業教育ではなくて、こういうお金の教育かもしれない。

・「多様な意見」はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき
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集合知の現象をモデル化して、なぜ多様な意見が正解をみつける鍵になるのかを解明しようとする意欲的な研究書。群衆の叡智、集合知という言葉は流行しているが、その原理に踏み込んだ研究本はまだ少ない。「多様性が一様性に勝る」。「多様性が能力に勝る」。その理由を解明していく。

著者はまず集合知を4つのツール要素に分解する。

多様な観点:状況や問題を表現する方法
多様な解釈:観点を分類したり分割したりする方法
多様なヒューリスティック:問題に対する解を生み出す方法
多様な予測モデル:原因と結果を推測する方法

集合知を4つの組み合わせによる「ツールボックス」として考える。このツールボックスの中身が集団の知能を意味する。衆愚と集合知の違いを、それぞれのツールの数学的モデルも使って説明していく。

もちろん群衆の叡智や多数決が万能という意味ではない。むしろ限定的である。著者は集合知の働く条件を以下のように結論している。

1 問題が難しいものでなければならない
2 ソルバーたちが持つ観点やヒューリスティックが多様でなければならない
3 ソルバーの集団は大きな集合の中から選び出さなければならない
4 ソルバーの集団は小さすぎてはならない

条件1から4が満たされれば、ランダムに選ばれたソルバーの集団は個人で最高のソルバーからなる集団より良い出来を示す。専門の科学者達が解けないでいる問題を、多様なツールボックスを持つ非専門家集団が解いてしまうことがありえる、ということになる。

観点の多様性は特に重要そうだ。本書で取り上げられる法則の一つに「ある問題を解くのがどれほど難しいかは、その問題を符号化するのに使う観点に左右される。」という難しさの主観性の法則がある。複雑に考えすぎていた物事が、異なる観点から眺めると簡単な問題であったときづくことがあるという意味だ。

エリート専門家集団は似たもの同士であるが故に、画一的なツールボックスしかもっていない。構成員が固定観念を避けアイデンティティの多様化を心掛けることで、集合的な知性を飛躍的に高めることができるそうだ。

この研究書は、集合知について分析対象を広げすぎている気もするが(数学などを持ち込んでいる割に結論がぼけた)、糸口となるキーワードや観点がたくさん見つかる。「「みんなの意見」は案外正しい」の先をじっくり自分で考えてみたい人の良い材料になると思う。

・「みんなの意見」は案外正しい
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/05/post-381.html

・大ぐるめ―おとなの週末全力投球!悪魔のような激旨101店128品
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ここ数年、コンビニで毎月買っているグルメ雑誌『おとなの週末』。

辛口な自腹レポートが読み応えがあり、カテゴリ別に点数評価のランキングが掲載されるので参考になる。都内最新スポットの店の紹介やホリエモンの連載も面白い。だが何よりこの雑誌の魅力は冒頭の大きなグルメ写真である。撮影も印刷もよくて、A4の見開きいっぱいに食材の質感が伝わってくる。夜中に読み始めると後悔する。

それでこのムックはおとなの週末の冒頭の特集部分を編集したもの。いいとこどり。どれもこれもがシズル感を誘うビジュアルの連続である。ほとんどの料理はA4まで拡大してしまうと実物大を超える文字通りの"大"迫力。うまそうと思える店をみつけるのに最適な本である。

それにしても通常版「おと週」の表紙の変遷を見ると、日本の不況ぶりがよくわかる。もともとこの『おとなの週末』は、寿司とか鉄板焼きとか、ちょっと高級グルメ指向の雑誌だったのだが、この1年くらいは焼き鳥やハンバーグが表紙になり、B級グルメの特集記事も多くなった。

・おとなの週末 2009年 06月号
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景気観測にも使えるグルメ雑誌。

・RSS速報
http://www.osadasoft.com/

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RSSの新着情報をデスクトップ上にテレビのニュース速報のような形式で表示するソフトウェア。チェックしたいRSSのリストをあらかじめ登録しておく。指定した時間間隔でRSSはチェックされて新しい記事が見つかればヘッドラインがデスクトップに一度だけ現れる。

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アラート情報を見逃さない。大切な友人や知人のブログ更新を知った瞬間にメッセンジャーやメールで速攻で感想を書いてあげれば、嬉しがられる(あるいは不気味がられる)。Twitterユーザー同士がお互いのRSSを登録しておくと、デスクトップ上にメッセージを送りあう独特のコミュニケーションツールになる。


表示のフォントやサイズ設定ができるほか、特定の文字列がある場合は表示しないようにフィルタリングしたり、表示形式をカスタマイズすることもできる。タスクトレイのバルーン表示に変更することもできる。

冷たい肌

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・冷たい肌
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『カタルーニャ文学』というから構えて読んだが、まずホラー小説として一級の面白さ。そして人間の相互理解という普遍的テーマについて深く考えさせる。今年読んだ小説でベスト3に入るなあ。100点。

解放運動の夢破れた主人公は絶海の孤島での気象観測の仕事に志願する。前任者と交代するべく島に上陸すると、灯台には何かに取り憑かれたような正体不明の男がいた。対話をひたすらに拒む男に主人公は当惑する。そして日が沈んだとき島は、人間ではない異形の何かの襲撃を受ける。死の危険を前にして、二人の生き残りをかけた戦いが始まる。

私たちヒトは五感で世界を認識しているがヒトにはない感覚を持つ動物も多い。コウモリは超音波を認識できるし、アゲハチョウは紫外線を認識できる。逆に感じることができないものもある。ハエは50センチ以上先は見えなかったり、ワニは動いているものしか認識していない。モンシロチョウは赤が見えない。イヌは色が分からないので、盲導犬は信号を認識することはできない。種が異なれば、感覚できるものとできないものがある。

そしてヒトも動物も生存に必要なものしか見ようとしない。ハエは50センチの視野で食べ物と光しか見ていないだろうから、ヒトが見る部屋の認識とはまるで別物の世界に住んでいる。種ごとに固有の"環世界"が構成されている。

異種間だけでなく同種間での世界観の違いだってかなり大きい。現代のネットワーク社会は異なる"環世界"を持つ人々を時期尚早に結びつけてしまった。宗教と価値観、経済格差、情報格差、言語や文化。世界が自然にひとつに融和するにはまだ何世紀もかかるはずだったところを、テクノロジーがいきなり全体をつないでしまったのだと思う。

人間だから話し合えばいつか理解できるという考え方は、もはや安易で危険でさえあるかもしれない。そもそも話し合いは何語でやるのか?。誰が参加するのか?。話し合いで有利に立てるのは、多数派であり強者であることに、弱者は気がついてしまう。わかりあえる日はこないが、共存する方法を探すということが大切なのではないか?。

などと、人間の相互理解とは何かを考えさせられるパニックホラー小説。

・うつろ舟―渋澤龍彦コレクション
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渋澤龍彦が書いた怪異短編集。表題作他全八編。どれも古典素材の見事な換骨奪胎。幻想ホラー作家としての澁澤龍彦の凄さを知った。

うつろ舟(うつぼ舟ともいう)という江戸時代の伝説がある。ある日、浜に不思議な形の舟が流れ着いて、中には妖しい異国の女性がいたが、役人達は面倒を嫌ってまた海に戻してしまったという話。『南総里見八犬伝』の滝沢馬琴がまとめた怪異物語集『兎園小説』に『虚舟の蛮女』として伝わり、後世に多くの物語の題材に取り上げられている。舟の異様な形態から当時のUFOの目撃談だったのではないかと考える人もいる。

渋澤龍彦の小説でも、舟には異国の女が乗っていて正体不明の箱を抱えていたという筋は伝承に近い形で採用しながらも、より大きな仏教的世界観の別の物語と共鳴させて発展させていく。説話のように道徳を説くでもなく、かといって娯楽作品というわけでもなく、ただただ不思議な怪異として終わらせる手際が見事。

諸星大二郎の漫画のファンに特におすすめ。なお「うつろ舟」は漫画妖怪ハンターシリーズでも取り上げられていた。

・妖怪ハンター (水の巻)
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この巻の「うつぼ舟の女」がそれ。

セミナーのお知らせです。司会をやります。

今年はイノベーションをテーマにこのシリーズを連続開催する予定です!。
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先端研究集団オーバルリンク 公開セミナー 2009年度第1回

『Augmented Reality(拡張現実)とイノベーション』
電脳フィギュア × 未来楽器 × 位置情報エンジン
http://blog.ovallink.jp/2009/05/20091-augmented-reality.html

現実の世界に新たな情報の次元を加える「Augmented Reality(拡張現実)」。従来SFの世界の話と思われていた技術が、いまブロードバンド、モバイルの先にある未来として、生活シーンの中での実用化が始まっています。本セミナーではAR分野の第一人者たちを招いて拡張現実の技術が生み出すビジネス、コミュニティ、テクノロジーにおけるイノベーションを多角的に分析してみたいと思います。

【スピーカー】

■芸者東京エンタテイメント株式会社 代表取締役CEO 田中 泰生氏
http://www.geishatokyo.com/
もち肌ビジネスマン奮闘記(ブログ)

http://www.reveal-lab.com/mt/taisei/

電脳フィギュアとは
http://www.geishatokyo.com/jp/ar-figure/figure.html

■クウジット株式会社 代表取締役社長 末吉 隆彦氏
http://www.koozyt.com/
ロケーションウェアの「空」と「実」
CNETJapanブログ)

http://japan.cnet.com/blog/sueyoshi/

『ロケーション・アンプ for 山手線』ビデオ集
http://service.koozyt.com/movies/locationamp/


■Nucode代表 中井ナオト氏
http://www.nucode.net/
未来楽器コンセプト(叩き台メモ)
http://www.nucode.net/2009/04/post-030e.html

司会:オーバルリンク代表理事 橋本大也(デジタルハリウッド教員)
http://www.datasection.co.jp/

情報考学 Passion For The Future(ブログ)
http://www.ringolab.com/note/daiya/

日時 5月29日(金) 20時開始(19時45分開場) -22時
場所 >場所 デジタルハリウッド大学 メインキャンパス
参加費 3000円(デジハリ学生は無料)

お申し込みはこちら
http://blog.ovallink.jp/2009/05/20091-augmented-reality.html

・快楽の本棚―言葉から自由になるための読書案内
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作家 津島佑子の自伝的な読書案内。太宰治の娘であるが故に、母親は娘を文学から遠い場所で生きるように導こうとした。文学は暗くて危険なものだと思い込ませた。結果として娘は本当のことを知りたい欲望から文学の世界へと引き寄せられていく。

性への好奇心が文学の入り口となり源氏物語、好色一代男、発禁処分の『チャタレー夫人の恋人』を英文で読んだ。長大な里見八犬伝を「壮大なでっちあげ」への感動で読破する。読んではいけない本、見てはいけない映画に夢中になる。あらゆるものから自由になるために。

「「背徳的」とはつまり、自分の生きている世界をしつこく疑い続けること、おとなたちが隠したがっていることを知りたがることなのだ」

凄く分かる気がする。私も自分の中学高校時代を振り返るとマルクスの資本論やジェイムズ・ジョイスのユリシーズなんかを訳も分からず読んでいた。危険な思想や難解な文学に憧れたからだが、教師から教養のために読めと言われていたら絶対に読む事なんてなかっただろう。

子どもに読書をすすめる上で大変参考になる記述があった。彼女の母親は小説の世界から遠ざけるべく、教育ものの本や図鑑ばかりを小学生の娘に読ませようとした。だが、太宰に惚れた女でもあった母親は、ふとしたはずみに画家北斎の浮世絵を娘に見せながら生き生きとその放縦な生き方を語ることがあったという。

「子どもは親の言葉など聞いてはいない。その顔しか見ていない。そして親の気持を読みとろうとする。私の母は本当にうれしそうに、北斎の話をしていたのだった。それで私も北斎のファンになった。それどころか、自分の生き方の手本として考えるようにさえなった。」

子どもに読ませたいなら、親が本当にうれしそうに読むところを見せると良いのだ。そして読ませたい分野があったら、そういう本は読んではいけないよ、危ないからと禁じておくべきなのだ。子供の健全な好奇心がやがてそうした本ばかりを自主的に開くようになる。知的好奇心とは本質的に天の邪鬼なものなんじゃないか。そんあ気づきを与えてくれる読書案内本であった。

古典のおすすめ本も多数。

・電気馬
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-968.html

銅で作られた贅沢なしおり ブックダーツ。

このレトロなデザインの缶の中に50枚のブックダーツが入っている。


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蓋を開けると青い下地の内部に輝く銅のダーツが重なっている様子がまず美しい。


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先端がとがっているので、ブックマークしたい行を示すことができる。


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とても薄く(0.1ミリ)できているが紙と比べれば硬い。銅製だから経年変化で錆びたりもするそうだ。本に跡や汚れをつけてしまう可能性は否定できない。缶入りではあるが電車の中などで取り出すには向いていない。経年変化を楽しむ愛蔵書に使うのがよいのだろう。価格も紙の栞とは比べて高額。贅沢な余裕の読書人のためのブックマークなのである。

誰かに資料や本を渡す時、"ここを読んで"とブックダーツが挟まっていたらかっこいいかもしれない。高級手帳とも相性がよさそう。

・19×19 トクトク―日本人のアタマをもっとよくする2桁かけ算
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ITにおけるインド躍進の背景にはユニークな数学教育があったと言われている。インドの九九は9×9で終わらず、20×20まで憶えさせるというあれである。これはインド式掛け算を教えるメソッド本だ。

10の段と11の段、それから20×20の段は簡単なので省略され、12×12~19×19を学習することになる。A×BとB×Aは同じなので逆順もまた省略される。暗記項目の数は案外に少ない。これなら小学生が高学年で九九に加えて憶えてしまえばいいというレベル。

まず12から19にキャラクターが割り当てられる。各キャラクターの絵とプロフィールを右脳的に記憶することから始まる。この数字の語呂+キャラクターの掛け合わせで生まれてくるストーリーを暗記していくのである。

12はトリだ。トリはニワトリだが好奇心旺盛な勉強家で好物は煮干しで空を飛び忍者を目指しているという性格が設定されている。

12×12(トリトリ)=144(ピヨヨ)

12×12はトリが2羽いるからピヨヨである。トリトリピヨヨを語呂とそのイメージで記憶する。

13はトミさんで、ハイテクを駆使する50歳の資産家で骨董好きで女性には興味なし。勝負事には弱い。武士に憧れるというお金持ちの紳士の絵柄。トミさんが財布からお札をトリに渡そうとするイメージで、

12×13=(トリトミ)=156(イチコロ)

トリトミイチコロを憶えるわけである。

日本的な漫画キャラクターのキャラクターが親しみやすく、イラストを眺めながら語呂を暗唱していくと、不思議と頭に入ってくる。暗記が苦手な私だが、やってみたらたくさん憶えられてびっくりした。短期記憶への刷り込みは十分な効果が見込めるメソッドだと思う。長期記憶に定着させられるかが今後の課題だが。

・CapturePaint
http://www.vector.co.jp/soft/winnt/edu/se472633.html

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プレゼンや授業中に、画面に注目箇所を書き込みしてみせたいとき便利なアプリケーション。CapturePaintを起動すると、デスクトップ画面全体がキャプチャされて、その上に自由に線や図形、文字列を書き込みできるようになる。

デュアルディスプレイに対応しているのでとても実用的だ。操作用画面をキャプチャして、投影用画面へ写して説明することができる。アンドゥ・リドゥ機能があるので間違っても大丈夫。

注目範囲を拡大縮小してみせることもできる。小さい文字列でもばっちり。

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書き込んだ画面はファイルとして保存できるので、授業後の配布資料作成や配布にも便利である。

#画面サンプルとして(勝手に)使わせていただいた

・ビストロパパ ~パパ料理のススメ~
http://blog.livedoor.jp/tuckeym/

はワークライフバランス系で、今大変人気のおすすめサイトです。

滝村さん創業おめでとうございます!

・文才がなくても書ける小説講座
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文才がなくても書ける小説講座

身も蓋もないタイトルに思わず噴き出した。

文才がないのに小説を書く意味があるのか?

面白くない小説など存在価値がないではないか。

書けない人が書く必要がないジャンルなのではないか?

でも、よく考えてみると、ありである。

少なくとも書いてみたい人間にとってはオオアリクイである。

才能があるかないかは書いてみなければわからないからである。
(ダジャレも言わなきゃ受けるかどうかわからないからである。)

文学的に読む価値がある作品か否かはともかく、まず一遍の作品を完成させることを重視した講座である。著者が高校教師なだけあって、論理的で明解に指導してくれる。説明の流れに説得力がある。

まず最初に何か書く。すると「こう書いた以上は、次にこう書かないとまずいよな」という不足を埋める必要が生じる。ひらめきではなく論理で埋めていけ、というのが著者が教える基本的な書き方。

「書くことを、情緒や感性と結びつけて考える人がいます。それらが豊かでなければ、すなわち特別な才能がなければ、書くことはできないというのです。これは誤りです。書くことに必要なのは不足を見きわめる目と、それを慎重に埋めようとする論理の働きです。書くことは私たちが思う以上に、即物的な行為なのです。」

有名作家の絶妙な例文を用いて、文豪の文章でさえ案外に論理的な生成の働きで綴られていることが示される。これなら自分でも書けるかなあと思えてくる。文章術の本にはやり方を示すと同時に、書ける・書きたいというその気にさせる要素も大切だろう。その点、この新書はかなりの高得点である。

最初の一作をものにするための手ほどき本だ。

何を書いたらいいかわからない、書きたいことがないという人でも大丈夫だとフォローする。「書きたいことが事前に想定されていなくても、書き継ぐことによって、書きたいことは見えてきます。」。文才がなくて書きたいこともなくても大丈夫だという、ハードルの低い小説家への案内本。

万年小説家志望の私としては、やはり何か書いてみよう、とまたしても思った。

・一億三千万人のための小説教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/03/post-721.html

・物語の作り方―ガルシア=マルケスのシナリオ教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005281.html

・2週間で小説を書く!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004901.html

・人生の物語を書きたいあなたへ ?回想記・エッセイのための創作教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001383.html

・小説の読み書き
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004878.html

・書きあぐねている人のための小説入門
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001082.html

非属の才能

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・非属の才能
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私は人から「橋本さんって本当に変わった人ですね」と言われるのが好きだ。そのために生きているといってもいいくらい快感だ。だから学生や後輩を褒めるのにも「君は変わってるねえ」とか「お前は変人だからなあ」という言葉遣いをする。私としては最上級の賛辞のつもりなのだが、ときどき真意が伝わらず、困った顔をされてしまうことがある。みんなもっと変わっていることに自信を持てばいいのに、と思う。

自他共に認める変人指向の人は、この本をすぐ読むべきだと思う(そうではない人は読まない方が良い)。変わり者であることに自信のない人は勇気づけられるし、うまくいっていない人はどうすべきかのヒントを学ぶことができる。

世の中のマジョリティはいかに良い群れに属するかを競っている。高学歴、高収入、良い家柄、「みんなが認めるタグには価値がある」という画一的価値観に染まっているから行列に並ぶ。非属の才能を持つ人間は行列の最後尾に並ぶのではなくて、自分の後ろに行列ができてくれないかなと願う。

漫画家という非属の代表格のような職業で活躍する著者は、自分の人生を振り返り、見つめ直し、変わり者であることの価値を再確認する。その上で異端児ならではの幸福論を話す。熱いメッセージが感動的だ。

「変わり者のいない群れは、多数決と同じでいつも同じ思考・行動をくり返し、環境や時代の変化に対応できず、やがて群れごと淘汰されてしまう。学校や会社などでは、変わり者は「百害あって一利なし」とまで言われてしまうが、皮肉なことに、停滞した群れの未来はたいがいこの手の「迫害されがちな才能」にかかっている。」

この本は前半で非属系の読者にそれでいいのだと自信を持たせ勇気づける。後半ではそうした非属系が世の中と折り合いをつけて才能を開花させるためのアドバイスがある。決して単純な独りよがりを礼賛する本ではない。非属人間にとっては耳が痛い記述も多い。

「人間は自分を認めてくれる人を認めたがるし、謙虚な人を褒める生き物なのだ。」

「...この自意識というやっかいなものは、他人にとっては本当にどうでもよく、うっとうしいものなのだ。ひと言でいえば、非属の才能を持ちながらみんなとうまくやっている人は、この自意識のコントロールのうまい人間である。」

という非属が陥りがちな傾向に対する警句がある。一番心に響いたのはこれである。

「僕が出会った非属の人たちの多くは、自分の世界を大切にしているだけでなく、その自らの世界をエンタテイメントとして相手に提供する術を知っていた。自分のなかにある非属をみんなのためにわかりやすく翻訳したり、調理したりすることが、幸福な人生を送るためには必須なのだ。嫌われる変人はここで怠けている。どこにも属さないということは、はじめから受けいれてもらうのが困難なところにいるということであり、それなりの努力はつきものなのだ。」

結局のところ、異端で変人でオタクでも、話が面白ければいいのである。世の中にわかってもらえる価値を作り出せれば、そのユニークさゆえに価値が倍増して見えるのである。幸せな孤独者として生きるには、群れずにつながれ、という著者のメッセージに深く感銘した。

・日本人の好きなもの―データで読む嗜好と価値観
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すし、みそ、緑茶、ビール、キャベツ、いちご、アイスクリーム、和風一戸建て住宅、カジュアル、靴、ダイヤモンド、食事の支度、国語、国語、テレビを見る、プロ野球、ボウリング、読売ジャイアンツ、浦和レッズ、イチロー、温泉・湯治、ラジオ・テレビ欄、ニュース・ニュースショー、氷川きよし、オーストラリア、北海道、富士山。四万十川、犬、桜、桜、うぐいす、演歌・歌謡曲、モーツァルト、ゴッホ、司馬遼太郎、ピアノ、ありがとう、昭和(戦後)、織田信長、小泉純一郎、20代、野菜を多くとる、温泉・スパ、男はつらいよシリーズ、ローマの休日、春、4月、土曜、21から24時、白色、「7」、南、心。

調査で判明した、日本人が一番好きなもの各ジャンルトップのリストである。

この本はNHK放送文化研究所が2007年に実施した「日本人の好きなもの調査」のデータ解説本である。全国16歳以上の国民を対象に、住民台帳から層化無作為抽出法による300地点、有効数2394人のアンケート調査であった。アンケートでは好きな食べ物、動物、自然、スポーツ、余暇の過ごし方、季節、言葉、音楽、色、数字など54項目において、複数選択肢(一部質問は自由記入形式)から「好きなもの」を選ぶ形式の質問が提示された。

好きな料理のベスト10は 1位 すし、2位 刺身、3位 ラーメン、4位 みそ汁、5位 焼き魚、6位 焼き肉・鉄板焼き、7位 カレーライス、8位 ギョーザ、9位 サラダ、10位 豚汁、けんちん汁だそうだ。すしは73%に、刺身は67%に、ラーメンは62%に支持された。これだけの数字があるから国民食といえるだろう。

この本には、全項目の上位ランキングと支持率、一部項目で男女比、年代別比、分布図などが掲載されている。マーケティング担当者ならば一度は目を通しておくべき基本データだと思う。データだけでなく親切な解説記事があるので、リファレンスとしてだけでなく読み物としても楽しめる。

経済学の世界でシェリングポイントという概念がある。コミュニケーション手段がない場合に人々が適当に行動した場合、自然に落ち着くであろう、確からしい解決策のことである。たとえば友人と大きな駅で10年後の再会を約束して別れたとする。その後10年間音信不通であった。二人は再会の日にどういう行動を取るだろうか。おそらく"正午"あたりに"中央口""改札"あたりへ行くはずなのである。

そうしたみんなの期待値の焦点をいろいろな点で予測できれば、コミュニケーションでも戦略意志決定でも有利に働く。こうしたランキングの知識はそういう能力のベースになるのではないかと思う。初対面の相手で話題に困ったとき、相手の年代の7割が好むキーワードを知っていれば、まずすべらないであろう。

1983年に行われた前回調査との違いも紹介されるので、四半世紀で日本人の好みがどう変わったのかがよくわかるのが面白い。実はあまり変わっていないのである。前回調査と厳密に同じ比較ができる13項目のうち11項目でトップは同じものだったのだ。変化したのは項目ではなく支持率だった。多くの項目でトップの支持率が低下したのである。

日本人は好きなものが特にない人が増えた、こだわりを持つ人が減った、「融通無碍」で「付和雷同」な層が増えた、と調査チームは総括している。犬を連れて、桜を愛でて、すしを食うのが好きなのは変わらないが、総じてこだわりは減った。その時々の状況でよいものがあれば、梅でも猫でもカレーでも乗り換える。「空気を読んで」状況に応じた言動をするようになったようだ。

この結果には日本人が、無気力・無関心でエネルギーが失われたのだと悲観する人もいるだろう。だが、こだわらなくても満足できて入手可能な選択肢が増えた、ということなんじゃないかと私は考える。かつての強いこだわりには精神的な保険のような側面があった気がするのだ。その保険が必要ないくらい豊かな多様性に暮らせるようになったことを喜んでも良いのではないだろうか。

名人

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・名人
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1938年、川端康成は名人 本因坊秀哉の引退碁の観戦記を新聞に連載した。この歴史的名勝負は、リーグ戦を勝ち抜いてきた木谷實七段を相手に、持ち時間が40時間という異例の長さに設定され、史上初の「封じ手」を導入した大一番であった。6月に開始された対戦は1日数時間ずつ数日おきに打ち継がれ、会場となる旅館を移動しながら、12月に木谷の五目勝ちとなるまで続いた。この間、対戦から離れられない二人には死力を尽くすような緊張状態が続いた。碁の世界では、新しいやり方で、終身名人制において最後の世襲名人が敗れるという新旧世代交代の象徴となる出来事だったらしい。

この現実の取材経験を川端康成は小説「名人」として作品化した。重病に倒れながらも勝負に挑もうとする執念、飄々としていながらも自然とあらわれる名人の威風、そして囲碁の世界以外を知らない純粋さ。川端は名人を「一芸に執して、現実の多くを失った」人として描写した。文学者としての道を極めつつあった川端自身の人生と、重ね合わせていることは間違いないなさそうだ。道を極めることの厳しさ、尊さ、孤独、悲しさ、滑稽さを、円熟の筆致で描いている。

川端康成というと女性の描写が魅力の作品が多いが、「名人」は二人の対局者を中心に男性ばかりの世界が描かれる。新聞に連載した観戦記を作品化したというのも、川端康成の作品の中では異色の作品といえる。淡々としていながら緊張感が張り詰めた語り口が続く。この小説自体が対局の再現であるかのような凄みがある。

#なお、この作品は少しだけ囲碁のルールを知っていた方が楽しめる。

・セックスと科学のイケない関係
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気鋭の女性科学ジャーナリストによる性科学の最先端レポート。読み応えあり。

テクノロジーで人間のセックスを探究する真面目な科学者達の話だが、実験観察の現場を想像すると可笑しくなる。

「"ドライ・ペニス・スキャン"では、被験者はベッドにうつぶせになり、別途に開いた穴から人工ヴァギナにペニスを挿入します。"ヴァギナ"は(人体に無害な)澱粉のゲルでできています」。

他にも登場する科学者は、セックスしている男女をMRI装置に入れて性器の状態を調べるとか、膣にペニス型カメラを挿入する。形状の異なる男性器と女性器を使い「男性器の亀頭の張り出しは自分の精液を放出する前にライバルの精液を掻き出すためにある」ことを証明する。男性被験者の禁欲的協力で精子は5日ごとに"在庫一掃"が望ましい(1週間で劣化する。毎日では薄くなる)ことがわかったり。

だがそうした苦労の甲斐あってさまざまな事実が判明する。

イカせやすい女性とそうでない女性がいるという研究がある。膣口とクリトリスの距離が近いと男性のピストン運動から快楽が得られやすく、遠いと得られにくいことが実験調査で分かった。身長と外陰部各部位の距離は相関があるので、背の高い女性は「イカせにくい」ことになるらしい。

古典的なパブロフ型条件付けで「ブーツフェチ」を誕生させることに成功した話も凄い。男性の性的嗜好はつくることができるという話だ。

「五人の男性にペニス外径測定装置を着けてもらい、ヌードの女性や挑発的な衣装を次々と見せる合間に、ファーの内張りのついた膝丈の婦人物ブーツの写真も見せた。結果は上場だった。五人の内三人のペニスは、ブーツの写真を目にしただけで、女性の写真を見たときと同じように怒張したのだ。」

ちなみに女性の性器は性行為の映像全般に無差別に反応するが、男性の性器は自分の性的嗜好や興味に沿った映像にのみ反応するそうである。オタクは男性に多いが、性的な部分でも男性はマニアックにできているのだ。

他にも著者が取材した研究事例は、バイアグラの効用や処方箋が必要なバイブレーターの開発、オーガズムの正体の探究、自慰など幅広い。性のあらゆる側面に対する科学的アプローチを紹介している。

定期的オーガズムの経験が寿命を延ばすのだという。週に二度オーガズムを味わう男は一ヶ月に一度の男よりも10年以内死亡率が50%低いそうだ。生命を生むだけでなく死なないためにも性の科学は重要なのである。

・ナンパを科学する ヒトのふたつの性戦略
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-972.html

・ウーマンウォッチング
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-958.html

・愛の空間
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/oso.html

・性の用語集
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004793.html

・みんな、気持ちよかった!―人類10万年のセックス史
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005182.html

・ヒトはなぜするのか WHY WE DO IT : Rethinking Sex and the Selfish Gene
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003360.html

・夜這いの民俗学・性愛編
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002358.html

・性と暴力のアメリカ―理念先行国家の矛盾と苦悶
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004747.html

・武士道とエロス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004599.html

・男女交際進化論「情交」か「肉交」か
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004393.html

・ゲゲゲの女房
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よく読む水木しげるについて読書。

水木しげる夫人が語った夫唱婦随の半世紀。水木には子供時代~青年時代までの自伝的作品が結構あるが、奥さんの視点が加わって、妖怪漫画家の人生が表裏で見えてくる。基本的に夫を立てる書き方なのではあるが、前半は苦労話が多い。

水木しげるとはお見合い結婚だったそうだが、仲人から、

「当時は、戦後の復興期がすぎ、国民所得倍増計画が発表された時代でしたが、大学卒の初任給でもまだ1万8000円くらいでした。でも、その人は貸本マンガを月に一冊描いていて、それが一冊で三万円になり、その上、戦争で片腕を失ったので、その恩給まであると聞かされました。」

という話で結婚して、東京の水木の住む家に着いたら、予想をはるかに超えたひどいあばら屋で驚く。夫が家や結婚どころではない厳しい経済状態にあることがわかって愕然としたと振り返っている。そして妖怪漫画家との夫婦生活が始まった。質屋に着物を入れてミルク代を捻出した時代もあった。

「穏やかな表情で、飄々と生きている水木のどこからそんな怖い話が生まれてくるのか、不思議でならないほどでした。もうちょっと普通のマンガを描いてくれたらいいのにと思ったりもしました。」

だが水木が漫画を描くのに没頭する姿勢に感動し何も言えなくなったという。

「左腕がないために体をねじって左の肩で紙をおさえるので、自然に顔は紙のすぐ上。汗が流れ落ちて原稿にシミがつかないように、タオルの鉢巻をして、その体勢のまま、ひたすら描き続けていました。」

障害を抱えたが故のこの姿勢が、水木の鬼気迫る妖怪画を生んだのかもしれない。

その不気味なマンガが売れて、お金が入ると水木の自宅改築道楽が始まって、10回の改築でトイレ5カ所、風呂3カ所もある迷路のような家にしてしまったという。半生を奇妙な迷宮建設に費やした「シュヴァルの理想宮」のフェルディナンド・シュヴァルに通じる偏執的なクリエイティビティを感じる逸話。

そして妖怪ブーム。猛烈な忙しさがやってくる。多数のアシスタントを雇い寝る間も惜しんで仕事をする夫。つげ義春や池上遼一がアシスタントをしていたという事実をはじめて知った。池上遼一の絵のうまさに舌を巻いた水木がスカウトしたそうだが、どの作品で手伝っていたのだろう。人を多く雇えば心配も増える。

「水木はずっと順調に仕事をしてきたわけではありません。人気商売ですから、やはり波はありました。中でも、仕事が急に落ち込んだのが昭和五六(一九八一)年ごろからの数年間です。前年には二本あった連載が、その年、一本になり、新たな連載の依頼が途絶えてしまいました。」

水木の経歴を、受賞歴だけで振り返ると、1965年、第6回講談社児童まんが賞、1989年、第13回講談社漫画賞、1996年、第25回日本漫画家協会賞文部大臣賞の各賞を受賞、1991年、紫綬褒章を受章となっているから、途中で幾度か厳しい無風の時代があったことがわかる。

そして再びゲゲゲの鬼太郎や妖怪はブームになる。水木の地元には妖怪ロードもできて、紫綬褒章も受賞でこの本の副題「人生は...終わりよければすべてよし!!」となりつつあると書いている。

・お父ちゃんと私―父・水木しげるとのゲゲゲな日常
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水木しげるの娘が書いた父親伝もある。

・フロッピーキューブ
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ルービックキューブを一層だけにカットした形状の立体パズル。国際パズルパーティーのコンペティション入賞作品。

ある程度いじりまわしていると解けるのが嬉しい。一般的な3×3のルービックキューブが難しすぎるという人、短時間に楽しみたい人に向いている。構造が単純なので、ここをこうすればこうなる、という仕組みが理解しやすい。

ルービックキューブは誰でも知っているため、それをスライスした形のこれは反応する人が多い。机の上に出しておくと「それちょっといいですか」と声がかかる。意表を突いて「だめです」と笑わせると会話がはずみそうではずまない微妙なコミュニケーションツールにもなる。

ルービックキューブ系立体パズルはいっぱいあることを知った。美しいので並べてみる。
・ルービックキューブ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%96
Wikipediaが超充実している。

【ルービックキューブのN×N】

正当なルービックキューブのバリエーション。基本的にはN×Nの数が増減する。4×4や5×5って一体どういう内部構造になっているのか気になってしょうがない。

・ルービックの2×2 キューブ
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・ルービックキューブ 3×3
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・ルービックリベンジ 4×4
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・プロフェッサールービックキューブ 5×5
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【2×2系】

シンプルな2×2を連結したタイプ。

・2×2×2 Cube Double キューブダブル ( Key付き )
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・2×2×2 Cube Triple キューブトリプル
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・2×2×2 Cube Quadruple キューブ クワドラプル
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【変形系】

変形させたり分割方法を変えたりしたパズル。

・スキューブ
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・Void Cube - ボイドキューブ
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・RUBIK'S ミラーブロックス
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・ピラミンクス プロ
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・デカミンクス
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・ゲオ・グローブ
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・パノラマ島綺譚
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「少女椿」で知られる丸尾末広が江戸川乱歩の作品を見事に漫画化。既にベテランだが第13回手塚治虫文化賞「新生賞」を受賞した。丸尾末広というとガロ系でエログロ・マニアックのイメージが強い。だが、この作品では、その持ち味をいかしつつ抑えるところは抑えて(性交や性器描写は美を損ねないように描かれる。)、より幅広い層にアピールする出来になっている。

中年の三文作家の男が、元同級生で自分と瓜二つの容貌を持つ大富豪が死んだことを知る。男は本人になりすまし大富豪として生き返る。そして莫大な資産を使い、夢のテーマパーク「パノラマ島」の建設に乗り出すというストーリー。おなじみの名探偵明智小五郎も登場する乱歩のシリーズ作の一つ。

暗く退廃的な前半部に対して後半のパノラマ島の描写が幻想的で美しい。とても丁寧に描かれている。フルカラーだったら額に入れて飾っておきたいような印象的なコマも多くある。

乱歩作品の魅力を引き出して見事に映像化している。江戸川乱歩の作品というのは得体の知れない怪しさが魅力だと思う。丸尾末広の描く大正ロマン調の絵柄は現代において時代錯誤でいかにも怪しい雰囲気を醸し出す。この取り合わせで幻惑がテーマのパノラマ島というのは相性がばっちりだったのだ。暗い部屋で一本の傑作幻灯映画を見たような気分になる。

新世界より

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・新世界より 上
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・新世界より 下
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1000年後の日本を描いた未来SF小説。『黒い家』(第4回日本ホラー小説大賞大賞)の貴志祐介。第29回日本SF大賞受賞作品。

とにかく面白い。そして深く考えさせられる。同時代性と娯楽性を兼ね備えた大傑作。上下巻1000ページ超の長編だがSF小説ファンは躊躇せずに読んだ方が良い。(私は今年のGWまで挑戦を先延ばしにしてきたのをちょっと後悔)。

未来の人間は科学技術の文明を捨てて、代わりに強大な呪力(超能力)を手に入れていた。彼らは日本の各所に小規模な共同体を作って平和に暮らしている。学校で呪力を習得した大人達は、思念を送ることで物体を自由自在に遠隔操作することができる。達人になれば莫大なエネルギーを炸裂させて、大規模に地形を変えてしまうことさえ可能だった。

呪力を身につけるために学校に通う子供たちが物語の主人公。呪力は生活に役立つと同時に危険な能力だ。子供達は厳密な管理教育と通過儀式によって能力を習得すると同時に安全にその力を行使することを教えられる。仲間達と競い合ったり、助け合いながら能力を開花させていく子供達。学園生活を語る上巻はまるで和製ハリーポッターのよう。

そして主人公達はさまざまな体験を通して自分たちが生まれ育った平和な共同体の闇の部分、教育の内容の矛盾に気がつき始める。共同体を囲む結界の外側に出てはならない理由は?。外の世界に棲息する異様な動物たちは何者か。

一人の人間がコミュニティを壊滅させる力を潜在的に持っている社会。

これって現代社会の縮図なのだと思う。9.11テロを例に出すまでもなく現代人はその気になれば一人で大勢を殺すことができる。飛行機を乗っ取ってビルに激突させる、炭疽菌を送りつける、銃を乱射する。知識や設備があれば爆弾や強力な毒ガスで何万人、何十万人を殺傷することも考えらる。国防核兵器のスイッチを押す権限を持つ為政者であれば、一人で地球規模の破壊を行うこともできるかもしれない。

そして国際化した世界では国境という結界が無効になって、異なる価値観、世界観を持つ異種族、異教徒達と共生しなければいけなくなった。もはや個々の共同体内部の伝統ルールは通じないが、統一ルールを制定しようにも、コミュニケーションの言葉のレベルで議論は紛糾する。そして気がつけばパワーゲームの強者のルールが正当化されている。弱者の不満の圧力は一層高まり、一人のテロリストを産む下地が着々とできあがっていく。

異者との共存、異文化理解、科学と宗教など現代的で重いテーマを幾つも抱えつつも、ミステリあり冒険とパニックあり、恋愛ありと娯楽性もたっぷりに最後までぐいぐい引きつける大作。

・講談社オフィシャルサイト
http://shop.kodansha.jp/bc/books/topics/newworld/
ビジュアル資料あり。

・エア
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-842.html
同時代性という点ではこの小説もおすすめ。

・Jaangle
http://www.jaangle.com/
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音楽ファイルに関連した情報をネット上から幅広く取得して表示する音楽プレイヤー。アルバムジャケット画像やアーティストのプロフィール、関連楽曲などを外部Webサービスからかき集めてくる。情報の精度は100%ではないが、iTunesでは得られないデータが多数見つかる。

楽曲を選択した状態から右クリックでGoogle、Youtube、GoogleVideo、AllMusicから関連情報や映像を探すことができる。

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日本人アーティストでも十分に使えるのだが、基本はグローバルサービスであるため、ちょっと面白いことになっている。日本のアーティストMr.Childrenの日本語の歌"Hanabiの"詞を見ると英語とローマ字なのだ。海外のサイトで翻訳されているらしい。

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このほか再生楽曲に関する統計情報(再生回数や時間)やタグ管理など多くの機能が搭載されているが動作は軽快である。

・ポメラDE読書
http://kataline.com/softindex.htm
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Pomeraは扱うテキストファイルのサイズが7500文字以下でなければならないという妙な仕様がある。原稿を執筆時には章や段落ごとに書いていけばよいのであまり問題はない。しかし、Pomeraを読書端末として使おうと思っているときには、巨大テキストファイルを分割しておく必要がある。

ポメラDE読書は7500字を超えたセンテンス毎にファイルを分割するツール。ファイル名は元のファイル名+連番の形で保存する。分割したいファイルを選び出力フォルダを指定すると自動的に連番ファイルが保存される。

同じサイトで配布されている「ポメラ用早見表」も便利。用紙サイズ、特別番号、都道府県の県庁所在地・人口、和暦・年齢・西暦・干支、春の七草、誕生石、の早見表。自分で独自に拡張していくとよさそう。

・悪意のあるソフトウェアの削除ツール
http://www.microsoft.com/japan/security/malwareremove/default.mspx
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悪意のあるソフトウェアの削除ツールは名前の通り悪意のあるソフトウェアを検出して削除するソフトウェア。マイクロソフトが無償で提供している。常駐して監視する機能はないので、市販ウィルス対策ソフトの代替にはならないが、クリーンかどうかを簡易チェックできる。

多数のPCを持っていると休眠中のPCがあって、多くの場合ウィルス対策ソフトも期限切れになっているものだ。そういうときに、とりあえずこのツールを使えば汚染されていないかチェックして安心できる。

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ちょっとひとつ気になったのはマイクロソフトの配布ページ。セキュリティ対策ソフトを無償配布するのは素晴らしいことなのだが、

「説明を読まずにツールをダウンロードする」

というリンクがある。

マイクロソフト社は親切のつもりでつけたリンクなのだろうけれど、教育的見地からすれば、ユーザーには説明をよく読んでファイルをダウンロードさせるべきではないだろうか。読まないでダウンロードするという行為を推奨するのは、この種のソフトについては、よろしくないのではあるまいか。

・新レインボー 写真でわかることわざ辞典
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百聞は一見にしかず。ことわざや慣用句を写真で説明するビジュアル辞典。基本的に児童学習用。

たとえば、苦労しないでたくさん儲ける「ぬれ手であわ」の項目では、実際に水にぬらした手で粟をつかむとどうなるかを、粟がべったりと着いた手のひらの写真で見せる。どれほど濡れ手に粟がうまいやり方なのか実感できる。

特に動物ネタが楽しい。ことわざや慣用句が作られた頃は人間と一緒に暮らしていた動物も今は生活空間で見ることができないものがほとんどだ。子供に教えるとき、こうしたビジュアルブックがあると便利である。

たくさんの人や物が一箇所に集まる「目白おし」の項目には野鳥のメジロが木の枝の上におしあうようにびっしりと並んだ写真がある。「おなじ穴のむじな」ではムジナが何なのかよくわかった。「蛇足」は実在するものだという発見もあった。「ねこの額」は本当に狭い。「虎視眈々」獲物を狙うトラの目つきは本当に鋭い。瓜を真っ二つにして「うり二つ」を検証する。

実は、私はこの本で数十年来の大きな誤解に気づいた。

「灯台もと暗し」

灯台は海辺の灯台ではないのである。灯台は部屋の中で油を使って火をともす照明器具のことなのである。知ってましたか?写真を見て愕然としましたよ私は。

子供だけでなく、一緒に見ている大人も楽しい本である。

・Pomera
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IT業界の人間として、いまさらレビューするのも何なのだが、私は昨年11月発売直後に買っていた。半年近く原稿仕事に使ってみた結論として「これはかなりイイ!」と感じている。日常ですっかり利用が定着しているし、今後も長く愛用することになりそうだ("2"が出なければですが...)。

PomeraはPDA道を歩んできた玄人向けの割り切りマシンだ。この手のデジタルガジェットに散在したことがない一般ピープルは手を出すべきじゃない気がする。ドスモバ、モバギ、カシオペアとか一通りやってきたIT系の人間で原稿を執筆する仕事がある人におすすめである。

Pomeraは仕様からすると、回収目途のない趣味で買うには割高(9800円が妥当と思う)な金額だが、ライターにとっては「原稿一本書けば買えちゃう」という絶妙な価格設定でもある。Googleで「Pomera」を検索すると50万件以上もヒットする。レビュー記事が多い。最近は減ったが発売当初は雑誌にも紹介記事が目立った。これはパソコンやITのライターが、"元を取るため"にレビュー記事を書いているから、だと思う。

1 大きなキーボード
2 高速起動、長時間電池駆動のモバイル性
3 ATOKで文章を書く以外に機能はない

というのが3大特徴だと考えている。

欠点もある。1の大きなキーボードはいいのだが、折りたたみがスムーズではない。強い力でガチャというまで閉めないと収納できない。2のモバイル性は2秒起動は本当だが、重量は370グラムと案外重たい。PCとの接続はUSBケーブルまたはMicroSDカード経由なので、便利というにはほど遠い仕様だ(Eye-Fiを利用可能にしてほしい)。

そんな困難にも関わらず私が愛用している最大の理由は3だ。書く以外の機能が一切ないことだ。ネットもメールもできないことだ。

原稿執筆の仕事の最大の敵は、メールとウェブとSNSなのである。そういうものをついつい見ちゃうから、いつまでたっても原稿書きが終わらないのである。Pomeraだけを持って喫茶店や会議室に閉じこもれば、逃げ場がないのでホテルに缶詰め同等のセルフ追い込み効果がある。

私はPomeraとのつきあいから、ライターたるもの「ネットを見なければ原稿が書けない」という思い込みを捨てるべきだという真理も学んだ。細かいデータがなくても全体のアイデアがあれば原稿は9割型書ける。データがなければ書けないというのは言い訳にすぎないのだ。わかったか>オレ。

・Pomeraオフィシャルサイト
http://www.kingjim.co.jp/pomera/

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