べっぴんぢごく

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・べっぴんぢごく
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女の悲しい性を描かせたら当代一の岩井 志麻子。作家の得意であるに加えて、美女と醜女が代々交互に生まれる因縁の一族という設定が秀逸だ。読み始めると止められない。

明治の終わり、岡山の寒村で一番の分限者の家に育ったシヲは妖艶な美女であったが、村人達から呪われた出自を噂されている。シヲの娘のふみ枝は牛蛙とあだ名される醜女でシヲとは折り合いが悪い。ふみ枝の娘の小夜子は祖母に似て美貌にうまれつき、母より祖母になついた。美醜は当時の女の運命を決めた。

「男を期待させ、焦らし、ひっくり返すのは、なんと楽しいことであるか。母はきっと、一度もこんな気分は味わっていないだろう。そう考えれば、小夜子は母が哀れになる。たっぷりと知っていそうな祖母が、かすかに小憎らしくなる。」

美しい女達は禍々しいほどの魅力で男をひきつけ愛欲に溺れた。淫蕩な性質も共通であり、身体が男なしには生きられなかった。醜く生まれた女達も家の資産を受け継ぐために血筋を絶やすことはなかった。そして小夜子の娘、孫、曾孫が宿業を背負って生まれてくる。すべては一族の祖先に取り憑いた怨念の仕業であった。

シヲの半生が語られる序盤が終わると、そこからは代ごとに章がわけられている。「第一章 シヲ七歳」~「第十二章 シヲ百四歳」という風に、シヲの年齢で物語は仕切られている。あのシヲの時代から今が何年というのを読み手に強く意識させる。そのせいか厚い本ではないのだが、読後に壮大な大河ドラマを読み切った満足感がある。

・赤朽葉家の伝説
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005047.html
宿命の女達の年代記という点で似ている。これに匹敵する傑作。

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このページは、daiyaが2008年10月 3日 23:59に書いたブログ記事です。

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