非属の才能

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・非属の才能
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私は人から「橋本さんって本当に変わった人ですね」と言われるのが好きだ。そのために生きているといってもいいくらい快感だ。だから学生や後輩を褒めるのにも「君は変わってるねえ」とか「お前は変人だからなあ」という言葉遣いをする。私としては最上級の賛辞のつもりなのだが、ときどき真意が伝わらず、困った顔をされてしまうことがある。みんなもっと変わっていることに自信を持てばいいのに、と思う。

自他共に認める変人指向の人は、この本をすぐ読むべきだと思う(そうではない人は読まない方が良い)。変わり者であることに自信のない人は勇気づけられるし、うまくいっていない人はどうすべきかのヒントを学ぶことができる。

世の中のマジョリティはいかに良い群れに属するかを競っている。高学歴、高収入、良い家柄、「みんなが認めるタグには価値がある」という画一的価値観に染まっているから行列に並ぶ。非属の才能を持つ人間は行列の最後尾に並ぶのではなくて、自分の後ろに行列ができてくれないかなと願う。

漫画家という非属の代表格のような職業で活躍する著者は、自分の人生を振り返り、見つめ直し、変わり者であることの価値を再確認する。その上で異端児ならではの幸福論を話す。熱いメッセージが感動的だ。

「変わり者のいない群れは、多数決と同じでいつも同じ思考・行動をくり返し、環境や時代の変化に対応できず、やがて群れごと淘汰されてしまう。学校や会社などでは、変わり者は「百害あって一利なし」とまで言われてしまうが、皮肉なことに、停滞した群れの未来はたいがいこの手の「迫害されがちな才能」にかかっている。」

この本は前半で非属系の読者にそれでいいのだと自信を持たせ勇気づける。後半ではそうした非属系が世の中と折り合いをつけて才能を開花させるためのアドバイスがある。決して単純な独りよがりを礼賛する本ではない。非属人間にとっては耳が痛い記述も多い。

「人間は自分を認めてくれる人を認めたがるし、謙虚な人を褒める生き物なのだ。」

「...この自意識というやっかいなものは、他人にとっては本当にどうでもよく、うっとうしいものなのだ。ひと言でいえば、非属の才能を持ちながらみんなとうまくやっている人は、この自意識のコントロールのうまい人間である。」

という非属が陥りがちな傾向に対する警句がある。一番心に響いたのはこれである。

「僕が出会った非属の人たちの多くは、自分の世界を大切にしているだけでなく、その自らの世界をエンタテイメントとして相手に提供する術を知っていた。自分のなかにある非属をみんなのためにわかりやすく翻訳したり、調理したりすることが、幸福な人生を送るためには必須なのだ。嫌われる変人はここで怠けている。どこにも属さないということは、はじめから受けいれてもらうのが困難なところにいるということであり、それなりの努力はつきものなのだ。」

結局のところ、異端で変人でオタクでも、話が面白ければいいのである。世の中にわかってもらえる価値を作り出せれば、そのユニークさゆえに価値が倍増して見えるのである。幸せな孤独者として生きるには、群れずにつながれ、という著者のメッセージに深く感銘した。

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このページは、daiyaが2009年5月13日 23:59に書いたブログ記事です。

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