・サブリミナル・マインド―潜在的人間観のゆくえ

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・サブリミナル・マインド―潜在的人間観のゆくえ
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百式田口さんに教わったWeb上の手品のサイト。今日のテーマと微妙に関係あり。

・Pick A Card(オモシロイのでとりあえずクリックをおすすめ)
http://www.caveofmagic.com/pickcrd1.htm

5枚のトランプのカードが提示されるので1枚を選ぶ。そして、選んだカードを強く念じてクリックしていくと、あら不思議!というもの。

潜在意識への働きかけ、サブリミナル効果をうまく使った手品だと思う。

■潜在意識が意思決定に大きく影響している

著者はカリフォルニア工科大学生物学部教授。1999年、『〈意識〉とは何だろうか――脳の来歴、知覚の錯誤』(講談社現代新書1439、講談社、1999/02)によりサントリー学芸賞思想・歴史部門を受賞。

純粋に、映画「RAMPO」などで話題になったサブリミナル効果についての本かと思って読み始めた。漫画風イラストが随所に挿入されていたりして、マーケティングや感性評価の軽めの話題なのかとパラパラめくった段階ではあたりをつけていた。

違った。

読み進むにつれ、認知心理学、社会心理学、発達心理学、脳科学、そして哲学を学際的に横断し、サブタイトルにある「潜在的人間観」を描き出そうとする哲学書なのだと納得した。講義録形式で、第一講から第九講まで、緻密に構成が練られている。各講の情報量がかなり多い。若干の消化不良を起こしつつも、知的好奇心を刺激され、次の講義で論が進んで分かったりもする。こんな講義を実際に受けてみたい。

トビラの解説を引用すると、「人は自分で考えているほど、自分の心の動きをわかっていない。人はしばしば自覚がないままに意思決定をし、自分の取った行動の本当の理由には気がつかないでいるのだ」ということを、科学的根拠や事例を多数参照しながら語る本。

■見えなくても見えている

米国の心理学者ザイオンスの有名な単純接触効果の実験。これはマーケティングの世界でも良く知られている。人はその接触内容とは無関係に、会えば会うほど、親しみや好感度を高めていく効果のことだ。だから選挙宣伝でポスターを貼りまくったり、名前を連呼するというのは、一見、無駄のようでありながら、有権者の意識へ働きかける知恵である。繰り返し同じコマーシャルを消費者に短期間に見せるのも効果がある。知っているものは確率論的には親近感が沸き、好きになる場合が多いのだ。

この本では学者ボーンシュタインの実験紹介でさらにこの説が詳しく解説される。最初500ミリ秒という短時間、ある図形を被験者に見せる。この時間であれば見たことが分かる。時間を少しずつ短くする。最終的には5ミリ秒という知覚が不可能な一瞬だけ、図形を呈示する。その後、図形に対する好感度を試験すると、知覚できていないはずの時間の図形に対する好感度も上がっているのだ。見覚えはないが、なんとなく見知っている気がする、好感を持つという結果が出るそうだ。

その他無数に、見えなくても記憶しているという実験例、臨床例がこれでもかといわんばかりに登場する。盲目なのに見えているように振舞える盲目視の謎の解明など、人間の感覚と意識は思ったより大きくずれていて、そのずれは意識できていないことが分かる。

■首無し鶏マイク、身体に分散した記憶の謎

この本に紹介される断頭実験による研究は残酷で気分は良くないのだが脳にすべての思考や知識があるわけではないことの証明として、興味深くはある。ゴキブリやカエルに電気刺激を使った学習を行った後、頭部を切断して刺激を与えると、学習した動きを再現し続けるという。微妙な判断もするらしい。イヌのような高等動物の例も出ていた。一般にはかなり知的な学習内容と思えることも、学習を記憶しているかのように身体が振舞える。
この話を聞いて昨年見たテレビの内容を思い出した。英語の熟語で「running around like a headless chicken」というのがある。首のないニワトリのように走り回る。ものすごく忙しいという意味だが、これに似た実話があるのだ。

首を切られた鶏が18ヶ月もの間普通に生きていたという話。しかも育ったのだ。

・Mike The Headless Chicken
http://home.nycap.rr.com/useless/headless_chicken/
・奇跡の首無し鶏 マイクの残したもの
http://x51.org/archives/000454.php
X51.orgより引用

反射作用の大分部を司る脳幹が依然マイクの体内に残存していたために、マイクは至って健康なままであったという。そしてその後マイクは18ヶ月に及び生き続け、「驚異の首無し鶏」としてその奇跡的な生涯を全うすることになるのである(首を切られた当時2ポンド程だったその体はその後8ポンドになるまで成長したという。)。

私たちは自分の行動を、自分の脳で考えて決めていると思いがちだけれど、身体(末梢神経レベル)でも記憶し、ある程度インテリジェントに動作を行うことができるということが分かる。

この本では投げられた速いボールを咄嗟に受けとめた人に「今どちらからボールが飛んできました?」と聞くと方向を間違うことがあるという事例が紹介されている。行動した後に自分の体位から、方向を大まかに判断していたりする。サブリミナルCMによる好感度評価と同様に、咄嗟の行動も意識がベースになっていないのだ。

■サブリミナルな新しい人間観

視覚に一瞬入っただけで、見た記憶はないもの。憶えていないけれど昔に通り過ぎたもの。そういう意識にのぼらないものに、人間の意思決定が大きく依存していることが、この本を読めば読むほど分かってくる。

後半では、裁判における意識的判断と犯罪の量刑(例えば末必の故意の問題)という観点から、現代社会が人間のサブリミナルをどう捉えているか、という問題。そして、動物が過密に増えた場合の個体数調整の現象(自殺や子殺し、不妊や同性愛の増加)を人類の都市の人口現象になぞらえる話など、社会学、自然科学などを総動員して、人間存在の根源へと切り込んで行く。スリリングな展開。

恐らく著者は最終章で語るサブリミナルな新しい人間観という哲学を語るために、すべての章を書き下ろしていたのだと最後に分かった。終章のまとめ方は秀逸。

なにかいい方向にこの研究がITにも使われるといいなと思う。毎日ニュースを読んでいるだけでモチベーションが上がるポータルとか、仕事が好きになるメールソフトとか、自然に技能が向上してしまうデスクトップとか。

参考URL:
・PositiveNews
http://www.positivenews.org.uk/mainframeset.html

ポジティブな内容のニュースだけの新聞社。

サブリミナルとはちょっと違うか。

#最初のトランプ手品のネタバレはこのブログのコメントに分かっても書かないでくださいねえ。

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コメント(1)

aranxp :

これは面白いですね。ぎょ!と思って思わず2回目やってしまいました。潜在意識の話も面白いですが、この手品を作るセンスがすごい。

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このページは、daiyaが2004年1月20日 23:59に書いたブログ記事です。

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