集中力

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・集中力
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「火事場の馬鹿力」という言葉があるが、身体的に危急な状況に置かれた場合にも私たちは通常の能力を超えた働きをする。集中力が高まるからである。

知的作業のパラメータとしても「集中力」は重要な係数であると思う。

興味があること、やる気があることに対しては、私たちは特別な力を発揮できるものだと思うからだ。同じ仕事をするにしても、特に知的作業は、集中力のあるなしによって、アウトプットの質と量は変わってくる。この本は、認知心理のさまざまな実験データを使って、集中力の秘密を解き明かしていく。

■内発的動機と外発的動機

著者によると、集中力の動機づけには、内発的動機と外発的動機の2種類があるという。内発的動機とは、自分自身の中から発する目標達成への動機づけであり、以下の3つに分類できる。

内発的動機
  感性動機
    環境刺激を求める
  好奇動機
    感覚的に環境を経験しようとする
  操作動機
    自己の行為を通じて環境を知ろうとする

内発的動機は、単純な刺激に対する欲求(刺激のなさを嫌う気持ち)や、好奇心、こうしたらどうなるだろう?という探究心等から発する。

これに対して外発的動機とは、達成することにより報酬(金銭や賞など)が与えられる場合に起きる動機づけのことである。

心理学の実験では、内発的動機の方が一般に優勢で、報酬による外発的動機の成果を上回ることが多いと、この本では述べられている。

例えば、被験者集団にパズルを解かせるという実験(E.L.ディシ)で、成果に対して報酬を与える、与えないという実験群と統制群を使って、外発と内発の効果を計った。すると、意外にも、内発的動機に一貫した方(完全無報酬)が、そうでない方(1日目は無報酬、2日目は有報酬、3日目無報酬)を上回る成果をあげた。報酬があるせいで、逆に内発的な動機を失わせてしまう効果があると結論されている。

確かに報酬体系だけで集中力が引き出せるのであれば、すべての組織が能力に応じた報酬体系になっているだろうし、企業ならストックオプション制度を使ってスーパーカンパニーとなることができるはずだ。だが、実際には必ずしもそうならないのは、報酬が集中力やモチベーションを、むしろ、減少させることがあるという事実と関係があるのかもしれない、と思った。

■高次レベルの欲求と集中力の関係

有名なマスローの要求5段階説も集中力と関係すると言う。

第一段階 生理的欲求
第2段階 安全を求める欲求
第3段階 所属と愛の欲求
第4段階 自尊の欲求
第5段階 自己実現の欲求

人間は5つのレベルの欲求を持ち、前の段階の欲求が満たされると、次の高次の欲求を求めるという、よく知られた説。自己実現にはその前のすべての段階の充足を必要する。

ローゼンサールのピグマリオン効果の実証実験の話も興味深い。

「各学校からランダムに二割の児童を選んで、担任教師に「この児童は急激に伸びる可能性がある」という情報を伝えた。そして八ヵ月後、再び知能検査を実施したところ、有望であるという情報を与えられた児童の得点が、図17に示すように明らかに向上していたのである」。人は期待されていると認知すると、それに応えようとする、それが集中力を高める効果があるということ。

このほか、気がのる、気が乗らない、気になる、気が散るの意味や、疲れる、飽きるとはどういうことか、記憶力と集中力などのテーマが、認知心理学アプローチで説明が続く。やる気という曖昧な事象が数字やグラフで解明されていくのが面白い。

「やってみせ、言ってきかせて、させてみて、誉めてやらねば人は動かじ(山本五十六)」「好きこそ物の上手なれ」「三つ子の魂百まで」など、一般に使われている格言、名言が、人間心理の特性をかなり正確に言い当てているのだなとわかる。

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このページは、daiyaが2004年3月23日 23:59に書いたブログ記事です。

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