考える道具(ツール)

| | トラックバック(0)

考える道具(ツール)
kangaerudogu01.jpg

考える道具というタイトルから、以前書評した「考具」に似た本が連想されるのだが、内容的にはまったく異なる教養本。ビジネス実践の知恵ではなくて、古今東西の哲学者たちの、思想の中心となる考え方=ツールを紹介する。ソクラテス、プラトンからベーコン、デカルト、カント、そしてチューリング、ドーキンス、デリダ、古代から現代まで登場人物は多彩。哲学者というのは、根源的なことを考えるプロである。この本はそのエッセンスを抽出した「突き詰めて考えると現れる思考パターン集」と言えそう。

同じことを説明するのならば単純な理論のほうが良いとする「オッカムの剃刀」や、道徳を計量的に考える指針「ベンサムの最大多数の最大幸福」、異なる見方の衝突から高いレベルの総合解決を見出す「ヘーゲルの弁証法」など25の道具が登場する。各章ではそれらの道具を作った哲学者たちの生涯が語られ、どのような文脈の中で生まれた思想なのかも明らかにされているのが良い。ひとつの章が10ページ程度なのも読みやすい。

翻訳はインターネットの哲学サイトポリロゴスの運営者。内容を理解して翻訳しただけでなく、日本語版独自の読書案内が章ごとに追加された。各哲学者についてもっと知りたいときにはこの和書を読みなさいという案内で、よくできている、見事。

・Polylogos
http://nakayama.org/polylogos/

こういう本を読むと、それぞれの哲学について深く学んでみたいと思うが、現実はなかなか、難しい。最近の書籍の売れ筋のひとつに古典を要約した「あらすじ本」があるが、この本もそうした系統の一冊である。知のサプリメント。サプリメントで栄養素だけを補充して健康を維持するのと同じように、多忙な現代人は、要約本で教養を維持したいと思う人が多いから、売れるのだと思う。自然に食物で摂った方が栄養のバランスが良いように、本当は、真面目に勉強したほうが身につくのだろうなあと思いつつ、「飲まないよりは良い」ということで、サプリ本にまた手を伸ばしてしまう今日この頃。

最近、私の弟は企業を辞めて大学院に戻ったらしいのだが、ちょっと羨ましい。ああ、まとまった勉強がしたいなあ。

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 考える道具(ツール)

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.ringolab.com/mt/mt-tb.cgi/1295

このブログ記事について

このページは、daiyaが2004年5月19日 23:59に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「「格付け」市場を読む」です。

次のブログ記事は「PHP‚̃tƒŠ[ŠJ”­ŠÂ‹«@PHP Editor」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

Powered by Movable Type 4.1