ルート66をゆく アメリカの「保守を訪ねて」

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・ルート66をゆく アメリカの「保守を訪ねて」
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ニューヨーク、ワシントン、ロサンゼルス、サンフランシスコ...。米国の東海岸と西海岸の都市は世界にも知られたグローバルなアメリカだと言える。自由や民主主義、資本主義経済の優位性を世界に発信している。これに対して、保守、愛国のローカルとしてのアメリカはなかなか見えてこない。著者は保守の拠点であるアメリカの中央部、中西部を走るルート66を旅して、保守の代表的な人物たちにインタビューを行った。それはローカルとしての「本当のアメリカ」を見つける旅になった。

米国の保守の状況を伝える数字。1990年代の調査によると、週に一度は教会に行く成人の割合はイギリスで27%、フランスで21%なのに対し、米国では44%を占める。2005年の別の調査では宗教が「非常に重要」と考える米国人は57%、「まあまあ重要」は28%であり、合計で85%に達するという事実が紹介されている。

キリスト教の聖書では人間はサルから進化したことにはなっていない。中西部の州では、学校の授業で進化論を教えることを認めない、あるいは、進化論だけを教えることを許さない人たちがいる。伝統的には神が人間を直接創造したする創造説があるが、最近ではインテリジェントデザイン(ID)という概念も提唱されるようになった。

IDとは「宇宙や生物の成り立ちは自然淘汰などではなく、ある知的な要因(インテリジェント・デザイナー)によるものとするほうが、より良く説明できる」で、進化論者との対話を求める動きだそうだ。この論法ならば宗教ではないから、科学との論争の入り口に立てるということで、教育における進化論論争でよく使われるようになったという。自然科学の常識なら創造論は非科学、非合理である。アメリカの保守派はその非合理を合理的に主張するやり方を得たわけだ。

政治の中から現在の保守主義が生まれたという意見も紹介されている。民主党と共和党の打ち出す政策はかさなっている部分が多いため、人々をひきつけるには差異が必要であった。そこで共和党のとった戦略が、宗教的保守主義であり、実現の道具として中絶反対、同性結婚反対などの道徳・価値観が使われたとする意見である。

この共和党の戦略は近年の大統領選挙においても成功を収めており、イラク戦争でも経済でもなく、道徳・価値観を論点とすることで、保守派の組織票を集中させることができた。そうした政治基盤を持つブッシュは、外交政策、経済政策はともかく、内政的には彼らの主張に迎合している。

ルート66上の保守的な都市に住む人々へのインタビューでは、同じ保守と言っても、個別の政策やイラク戦争に対する意見はさまざまであった。個々の問題で賛成派、反対派がいる。それぞれの立場に立つ理由も十人十色であった。彼らが共通して支持しているのは、結局のところ、共和党か民主党か、レッドかブルーかという二元論ではなくて、アメリカという旗そのものなのだというのが、この本の結論であった。

そして、その旗への支持、愛国心の源が、ルート66に代表されるような古きよきアメリカの思い出であるらしい。そうした思い出は米国以外の国の人間は共有していないものである。ネオコン、KKK、キリスト教原理主義といった保守派の負のイメージは、わからないが故の不気味さの象徴として、諸外国の人間に印象づけられているように思った。

日本も諸外国も、特に知識人は留学先が多い東海岸と西海岸的視点で理解しがちである。アメリカをよく見るには、真ん中の人々の動向にもっと注意しておくべきだと気がつかされる。

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このページは、daiyaが2006年4月16日 23:59に書いたブログ記事です。

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