うぬぼれる脳―「鏡のなかの顔」と自己意識

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・うぬぼれる脳―「鏡のなかの顔」と自己意識
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大きくテーマは3つ。

・セルフ・アウェアネス
・心の理論
・自己認識の右脳局在

他者の心的状態を推察する能力=心の理論を調べるスマーティ・テストの話が面白い。


スマーティ・テストでは、子どもAにスマーティというお菓子の箱を見せて、箱の中に何が入っていると思うかとたずねる。Aは当然、「お菓子」と答える。そこで研究者は箱を開けて、実は鉛筆が入っているのを見せる。研究者は鉛筆を箱に戻してから「これからお友達のBちゃんがこの部屋に入ってくるんだけど、Bちゃんはこの箱の中に何が入っていると思うかな?」とたずねる。もしAが、「鉛筆」と答えたら、それはAがBの考え、あるいは心的状態を理解できないというしるしである。AがBの心的状態を推察できるなら、正解は「お菓子」になるはずだ。

このテストでは三歳児は合格せず、四歳児は合格するという一貫性のある結果が出るという。実験後、「最初にこの箱を見たとき、箱を開ける前は、なかに何が入っているとあなたは思っていた?」とたずねると、50%以上の三歳児は最初から鉛筆が入っていると思っていたと答えるという。

三歳児ではまだ自分の思考をモデル化できていない。だから他者の思考をモデル化することができない。心の理論には高度なセルフアウェアネスが必要なのである。この能力の獲得に前後して嘘をつくこと(欺瞞)も覚えるらしい。欺瞞もまた自己と他者の認識を必要とする。

こんな実験がある。数字が面白い。こどもの気をそそるおもちゃを置いた部屋に三歳前後の子どもを入れ、そのおもちゃに触ってはいけないと言い聞かせて、一人で部屋に残す。すると一人になった子どもの88%がおもちゃに触った。しかし、触ったことを認めた子どもは3分の1だけで、66%の三歳児が嘘をついたという。

さらに心の理論課題(他者の心を推察する能力)で高成績な子どもの97%が嘘をつき、成績の悪い子どもでは56%しか嘘をつかなかった。発達すればするほど嘘をつく。しかも、これほど低年齢で高率に発現するということは、人間はうまれつき嘘をつく動物なのではないかと著者は述べている。

著者は自己認識には右脳が強く影響していると述べている。左利きの人(右半球優位)は右利きの人よりも、欺瞞の検知に優れているのだという。多数の特異な脳の障害事例とともに、自己認識における右脳のはたらきが示される。

「うぬぼれる」には高度な自己認識が要る。うぬぼれることができるのは人間くらいなのである。

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このページは、daiyaが2006年7月 6日 23:59に書いたブログ記事です。

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