渋滞学

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・渋滞学
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「自己駆動粒子」の研究。

自己駆動粒子とは、自分の意志を持って自発的に動く粒子のことで、道を歩く人間は典型例である。自己駆動粒子の動きは、ニュートン力学の3つの法則(慣性の法則、作用=反作用の法則、運動の法則)で動くニュートン粒子とは異なる。意識を持った人間は、近づいてくる他人をよけようとするし、前が空いていれば早足になる。水や空気の流れはニュートン粒子の流体力学で分析できるが、交通渋滞やインターネットの混雑の場合には、異なる分析アプローチが必要なのだ。

自己駆動粒子系の理論モデルとしてASEP(非対称単純排除過程、エイセップ)が近年注目されているという。ASEPとは、右か左か進む方向が決まっていて(非対称)、一人分の空間には一人の人しか入れない(排除)という、シンプルなルールでモデル化される過程である。ASEPのシミュレーションには、横に並べた箱の列に複数の玉を入れ、ルールに従って順次に動かしていくセルオートマトン法が適用できる。

最初に適当に箱の列に玉を入れておく。単位時間あたりに一回、すべての玉を動かすものとする。進行方向にある前の箱が空なら玉をひとつ動かす。前が埋まっていたら動かせないで一回休み。玉の数が増えるとお互いが邪魔で動けない玉の集団(クラスター)が発生する。これが大規模になると渋滞クラスターになる。遅れは後ろへ伝播する。箱の数に対して玉の数が半分を超えると、渋滞は発生するそうで、

「自由相から渋滞相への相転移の臨界密度は2分の1である」

というそうだ。つまり道の半分以上が埋まっていることが渋滞発生の条件といえる。この基本条件は、前が空なら2回に1回移動するというような移動確率を設定しても、2分の1という数字は不変だそうで、系の普遍的な性質であるらしい。

もちろん現実の交通渋滞にはその他の要素もたくさん影響している。運転手は考えながら車を走らせているので、車間距離を混雑状況に合わせて調整している。渋滞の直前には混んでいるけれども速く走ることができる「メタ安定状態」が見られる。渋滞回避への協調行動の成果である。しかし、その持続時間は通常は短いため、すぐに渋滞に陥る。メタ安定状態を長時間維持できる仕組みが発明されれば、素晴らしい渋滞ソリューションになりそうである。

追い越し車線がある場合には、混み始めると車線変更をする車が増えるが、追い越し車線のほうが遅いという逆転現象が起きる。だんだんと混んできた状況では走行車線を走る方がよいらしい。信号が青になって動き出す時間は1台あたり1.5秒で、前に10台いたら自分が動けるのは15秒後であるなどの実用的で面白い数字も明かされている。渋滞の大きな原因である「サグ部」の謎などは初めて知った。

人気店舗の待ち行列や、インターネットのパケット交換の渋滞など、車以外の渋滞の分析例も後半で多数扱われている。セルオートマトン法で分析する渋滞学はコンピュータ計算と相性がよいため、ITエンジニアが問題解決に貢献できそうな分野である。これからは、渋滞や長蛇の列に巻き込まれたら、この問題をじっくり考えてみよう、と思った。

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このページは、daiyaが2006年11月12日 23:59に書いたブログ記事です。

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