ウェブ人間論

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・ウェブ人間論
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Web進化論の梅田望夫と芥川賞作家の平野啓一郎の対話。インターネットの時代に人間はどう変わるか、どう生きるかを、スタンスが異なる二人が真正面から意見をぶつけている。その違いが緊張感を保ちつつ、二つの視点交差が時代を立体的にとらえている。読みやすくて、同時に読み応えもある同時代論。

対話の内容は多岐に渡る。特に気になった部分だけを取り出してみた。

梅田氏がネットから受ける刺激は、何時間もかかる読書よりも身近だし手軽で、良いものだという趣旨のことを言ったのに対して、平野氏は、

「ネットには何故飽きないかというと、自分で情報を取捨選択しているからなのでしょう。本は面白くない箇所もありますから、途中でイヤになることもあるけれど、実はそここそが、肝だったりする。良くも悪くも、情報をリニアな流れの中で摂取するしかない。ネットはどうしても、面白いところだけをパパッと見ていく感じでしょう。それで確かに、刺激はありますけど、なんとなく血肉になりきれない感じというか。」

と述べている。私の意見は平野氏に近い。(梅田氏も実際には何時間もかけて本を読んでいる人のはずである。平野氏の意見を引き出したくて、そう言ってみただけのような気もする。)

好きなものばかり食べている人と、苦手も克服しながら食べる人の違いだ。栄養バランスの観点では後者のほうが優れていると私は思うのだけれど、梅田氏は新しい考え方をする人だ。人間の「居場所」についての対話で、こうも述べている。「でもある年齢になれば、ある程度逃げていくことだってできるでしょう。そこは自分で選択していけばいいんじゃないかな。僕の場合、時間の制約ということを痛烈に意識しはじめた四、五年前から、付き合いたくない人とは付き合わないということを最優先事項にして生きようと決めました。」と語る。

食わず嫌いは悪いことではなく、自分が好きな能力を好きなだけ徹底的に伸ばす方がいい、という考え方を梅田氏は持っているようである。

この本で一番スリリングだったのは、世の中における自分の居場所との関わり方について

梅田「努力して、自分に適した場所に移るということですよ。ネットの情報がそのきっかけになるということかもしれないでしょう。それはいけませんか?

平野「合わないから移る、というのはいいと思いますけど、変えるべき現状があって変えないというのはどうですか?これは、政治の問題まで含めて。」

というあたり。

流動性が高く能力主義のシリコンバレーを選んだ梅田氏と、日本語の芸術家であるが故に日本にこだわりを持つ平野氏の生き方、哲学の違いを強く感じた。全体的な論調としては新しい生き方2.0を打ち出す梅田氏に対して、平野氏は古くて新しい価値で返していて、決して防戦にまわった印象がない。

この対話を読んでどちらを支持するかを問われたら私は僅差で平野氏に一票を入れたい。技術や経済を中心に考える梅田氏に対して、平野氏は文化や社会まで広い視野で今と行く末を語っているからだ。

しかし、梅田氏は、敢えて異なる視野を持つ平野氏を対話の相手に選んで、話の幅が広がるように仕掛けたのだと思う。そしてこの本も売れている。結局、勝ち組は梅田氏ではあるのだが。

このブログ記事について

このページは、daiyaが2007年1月31日 23:59に書いたブログ記事です。

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