最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか

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・最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか
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チェルノブイリ原発事故、スペースシャトル・チャレンジャー号爆発事故、スリーマイルアイランド原発事故、エールフランスのコンコルド墜落事故、ハッブル宇宙望遠鏡の主鏡研磨失敗、アポロ一号の火災事故など、古今東西数十件の世紀の大事故をケースとしてとりあげ、事故の発生メカニズムと人的要因を分析した本。

研究書だが事故の前後の描写がドキュメンタリタッチで生々しく描写されていて、読み物としてスリリングである。現代の大事故は巨大なマシンが引き起こすものばかりだ。それを操る人たちは快適な制御室で計器類の前に座っている。計器上の数値から巨大マシンの状態を読み取る際に、重責のプレッシャーや長時間労働の疲れ、仕事への慣れなどの原因によって、認知や判断に誤りが生じ破滅へ至るケースが多い。

前兆のない大事故は皆無であるという。それにも関わらず事故の例では現場も管理者も、不具合の兆候を見逃してしまう。チャレンジャー号の事故などいくつかの例では、事前に危険の警告を訴えていた人間もいたが、出発の度重なる延期によるプレッシャーによって、上司は大した問題ではないと誤った判断を下してしまう。

これらの大事故をまねく物質の組み合わせがあるという分析がある。水と電気と酸素である。水が電気回路をショートさせ、酸素が火災や爆発を引き起こす。巨大な石油掘削装置オーシャンレンジャーを沈没させたのは、嵐の夜に窓から入ってきて制御室を濡らした少しの海水であった。

最初の小さな障害が複雑なシステムに連鎖的な障害を引き起こしていくことも多い。すると人々はパニックに陥り、手っ取り早い問題解決のためにマシンのスイッチを切ったり、レバーを逆に入れてしまったりする。設計段階で予想できなかった異常な操作は、機能するはずだった安全機構を無効にしてしまう。大事故はほとんどが人災なのである。

最終章には最悪の事故を未然に防いだ人たちの事例が紹介される。彼らは英雄のはずなのだが、事故は起きなかったわけだから報道されることがない。事故防止では、失敗例は多いが成功例は語られないが故に少ないのである。

ベテランの経験を持ち、自ら考えて判断することができる副操縦士的な人が現場にいると、大事故は回避されやすいようだ。マニュアルの遵守も重要だが、大事故の原因はマシンの設計・企画段階につくられて潜在化していることがあるため、マニュアル遵守だけでは防げないのである。

なぜ完璧なはずの巨大システムが破綻したのか、とても明快に説明されていて、失敗学に関心のある人におすすめの本である。

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このページは、daiyaが2007年2月 7日 23:59に書いたブログ記事です。

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