流線形シンドローム 速度と身体の大衆文化誌

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・流線形シンドローム 速度と身体の大衆文化誌
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「滑らかで淀みがなく、抵抗を排してムダがなく、モダンで先進的であり、趣味が良くて優雅である。そして、なにより美しい。流線形イメージとは、そうした言葉たちを集約したところに成立してくるなにものかである。」

1930年代の自動車、飛行機にはじまり日用品や家電、衣服や建築、女性のボディラインなどあらゆる分野で理想的なデザインとしての流線形が急速に浸透していった。自然界の無謬性は説得力があった。当初は物理学の専門用語だった流線形は、人工物の規範として世界中に感染して20世紀前半の時代精神となる。本書には無数の流線形デザインの採用例が時代別、国別(米国、ドイツ、日本)に解説されている。

「簡単にいえば流線形の正しさは自然が証明しているというメッセージだ。じつは、流線形がたんなる専門用語から、時代のキーワードになっていく変容の過程にとって、自然による流線形の根拠付けというこの系譜こそ、重要な意味をもつことになるのである。」

流線形シンドロームは、最初は自動車や飛行機の設計者が自然界の魚や鳥の流線形のシルエットを高速化に有利な構造として取り入れることに始まった。だが実際に空気力学的な効果が得られるものはわずかだったようだ。曲線的な先端や円い窓といったデザインの多くは効率的、合理的、都会的、未来的にみえるからという理由で採用されていった。

やがてその言葉の指す対象は拡大していき、人工物のみならずサービスにも適用された。たとえばカフェの看板に「流線形サービス」、ハイセンスな「流線型アベック」、昭和10年の流行歌「流線型ぶし」など、流線形という最強ミームの増殖はとどまることをしらなかった。

流線形シンドロームは危険な優生学的メッセージを内包していたと著者は指摘する。たとえばミスコンテストは、理想的なボディラインに適合する女性を選び出すプロセスだし、流線形の最新の車は富裕層の乗る高級車であった。流線形に対応しないものを時代の効率化プロセスから落ちこぼれたものとして排除する構造がうまれていく。何かを優れたかっこいいと決めつけると一方で劣ったかっこわるいものが生まれる。それはまさにナチスドイツ台頭と同時代に起きていたのだった。

表象文化論の専門家である著者は20世紀前半の流線形シンドロームを分析することで「科学イメージの神話作用」のメカニズムを説き明かそうとする。膨大な量のデータで時代の推移を検証していく緻密な分析に圧倒される。

この流線形シンドロームは21世紀まで続いていると考えて良いのではないだろうか。エヴァンゲリオンでもスターウォーズでも、未来の都市イメージはいまだに流線形の建築や乗り物、人で構成されている。その方が無骨な四角いデザイン世界よりもなんだか納得できるからだ。逆に言えば、私たちは無意識のうちに流線形以外の未来の可能性を排除してしまっているということでもある。

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このページは、daiyaが2008年8月12日 23:59に書いたブログ記事です。

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