眠れる美女

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・眠れる美女
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川端康成の官能小説3編収録。それぞれが書き出しから大いにひきつける(下記にそれぞれの作品冒頭部を引用)。

■「眠れる美女」
「たちの悪いいたずらはなさらないで下さいませよ、眠っている女の子の口に指を入れようとなさったりすることもいけませんよ、と宿の女は江口老人に念を押した。」

江口老人(65歳)は若い娘が一晩裸で添い寝してくれる館に通う。女は薬で昏睡させられている。その身体は男の思うままであるが、客は枯れ果てた老人ばかりで、飽くまで添い寝を楽しむのが趣旨である。一線は越えないことになっている。ところがこの江口老人には男の部分がまだ少し残っているのであった。眠れる美女の身体を見るたびに若い頃に抱いた女達のことを思い出す。

6人の昏睡した女がでてくる。江口老人と女の間に会話はない(寝言はあるが)にも関わらず、女の身体描写だけで6種類の官能的な夜の模様が、ちゃんと書き分けられているのが凄いと思う。川端流6種類のそそり方がある。

■「片腕」

「片腕を一晩お貸ししてもいいわ」と娘は言った。そして右腕を肩からはずすと、それを左手に持って私の膝においた。 「ありがとう」と私は膝を見た。娘の右腕のあたたかさが膝に伝わった。」

妙齢の娘から片腕を借りた男は家に持ち帰って愛でる。腕なのだけれど心が通じて話ができる。男は自分の腕をはずして付け替えて血の通うのを楽しんでみたりする。腕というのは女の腕でも社会生活の中で見えている部分だ。単体では嫌らしいものではなかろう。しかし、男が家にそれを一人で持って帰るという状況が、いきなり淫靡な雰囲気を醸し出していくのだ。

■「散りぬるを」

「滝子と蔦子が蚊帳一つのなかに寝床を並べながら、二人とも、自分達の殺されるのも知らずに眠っていた。」

眠っている間に顔見知りの侵入者によって殺された二人の知人女性のことを振り返る小説家の独白。犯人や被害者の心理を妄想して物語化する衝動が抑えられない小説家の深い業が主題といえる。この登場人物は川端康成自身のことだろう。メタ視点で短編集が終わる。

解説は三島由紀夫。表題作について「『眠れる美女』は、形式的完成美を保ちつつ、熟れすぎた果実の腐臭に似た芳香を放つデカダンス文学の逸品である」と評した。川端康成の奇想と官能が短編で3つ味わえるお得な文庫本。

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このページは、daiyaが2008年10月 9日 23:59に書いたブログ記事です。

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