オークションの人間行動学 最新理論からネットオークション必勝法まで

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・オークションの人間行動学 最新理論からネットオークション必勝法まで
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オークションの研究から人間の不合理性が次々に明らかになる。面白い。

冷静に考えれば、オークションにおいては、自分にとっての私的価値を明確に持ち、他の参加者がどんな入札をしようとも、自分の評価値を超えたら入札しない、というのが支配的戦略のはずである。そして早期入札は避けるべきだ。ライバルに情報を与えず、競り上げを回避するためには、終了直前の狙い撃ち入札がベストの方法になる。早めに入札することで買い手が得をすることはほとんどないといってよい。

ところが、実際のオークションは早期入札と競り上げ現象によって沸騰している。落札者がオークション後に高値落札を後悔する現象「勝者の呪い」はあまりに一般的だ。入札者の評価値は大抵の場合は漠然としていて入札中に変動してしまう。私もよくネットオークションには買い手として参加する。この支配戦略のことは頭では理解しているのに、いつのまにか不合理な入札を繰り返してしいる。

この本はこうした現象について、

「買い手が商品ついて確固たる価値を付けられない状況は、共通価値モデル、もしくは採掘権モデルと呼ばれる数学的なモデルで表すことができる。採掘権モデルは、原油採掘権がオークションにかけられたとき、採掘者は確実な利益を得ることができる一方、買い手は油田に対して見込んだ利益しか手にいれることができないという状況から名前が付いた。買い手は原油採掘から得られる本当の価値とランダムに作用するノイズから成るシグナルを入手すると考えることができる。共通価値モデルでは、買い手の評価値が相互依存しているという点が重要である。言い換えると、買い手の価値は統計的にみると相関しており、早い段階で公にされた入札額は、他の人にとって有用な情報をもたらすのである。」
と説明している。これで自分の不合理な行動の理由が分かった。

私の場合、入札するのは中古フィルムカメラだ。この商品には希少性によって決まる機種別の相場がかなり明確にあるのだが、個体のコンディションによっても価格がかなり上下する。入札の公開情報だけでは確固たる価値の算定がなかなか難しいのだ。迷いがある。そこへ早期入札者が現れて高い価格をつけると、私の私的価値に強烈な影響を及ぼしてしまう。IDを調べれば商品に詳しい人物(多くは業者)かどうかが分かる。すると、そうそう、これはこのくらいの価値はあるよなと思えてきて、再度入札してしまうのだ。

・競争相手に負けたくない
・一時的にせよ最高の入札者になるのが気分が良い
・明日は忙しくて入札できないかもしれない

などの心理も過剰な入札につながる。

この本には、ネットオークションを分析した結果、

・オークション開催期間は1週間で週末に終わる設定が買い手に有利(週末効果)
・買い手は送料のことは忘れていることが多い(心の勘定)
・ネットオークションにも(米国なのでほとんどがイーベイの事例)買い手の談合などの不正が蔓延している

ことなどが紹介されている。売り手、買い手が不合理を積み上げた結果、オークションは盛り上がっているということなのかもしれない。

プリンストン大学コンピュータサイエンスの教授が、行動経済学、実験経済学、ゲーム理論を総動員して、オークションの不合理性の正体を次々に明らかにしていく。そして、効用や均衡などの考え方から、買い手、売り手にとって何が最適な戦略かを分析する。数学モデルも明解に提示される。人間の欲望や感情による不合理性が計量化されているのだ。

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このページは、daiyaが2008年10月28日 23:59に書いたブログ記事です。

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