もう一つの日本 失われた「心」を探して

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産経新聞記者二人が海外取材を通して日本の変容をみつめる。

第一部は「日本人より日本人らしい」ブラジル日系人たちの取材レポート。日系人は150万人を超えるものの、大国ブラジルでは全人口の1%にも満たないマイノリティでもある。だからこそ2世、3世と世代交代してもアイデンティティとしての「日本人気質」を大切に生きている人たちが多い。

ブラジルには教育勅語を奉読する日本語学校があり、演歌をカラオケで歌う人たちが居て、天皇陛下や小泉首相を慕う人々がいた。勤勉実直で、年配者を敬い、礼儀正しいことを良しとする。現代日本では捨て去られてしまった「昔の日本人の美徳」が遠い国の日系社会では未だに守られていることに記者は感嘆する。

ブラジルに続いてパラオ、そしてスペインへ。日本からの移民達が作りだした日本の「親類文明」を旅するうちに、現代日本が経済的豊かさと引き換えに失ったものが明らかになっていく。

第二部はもうひとりの記者がブータンへ飛んだ。このヒマラヤ山麓の小さな国ではGNPではなくGNH(国民総幸福量 Gross National Happiness)という指標で国づくりを進めている。幸せ=財÷欲望。財を大きくして幸福になろうとするのが欧米式、欲望を小さくして幸福になろうとするのが東洋・仏教式。GNHの研究者は「例えばペットボトルの水が売れればGNPは上がるが、川の水が飲める国になればGNHが上がると私たちは考える」という。

ブータンの一人当たり国民所得は日本の五十分の1以下だが、人々はのんびりとした生活を日本人以上に幸福に暮らしている。ヒマラヤの自然と地域社会のつながりに囲まれていれば、過労死や自殺、ストレスとは無縁でいられる。顔つきも似ているブータンの人々の素朴な生活は、かつての日本の農村社会を連想させる。

ブラジル、パラオ、スペインの日系移民の社会とブータンの前近代的な村社会。意外な国で、日本人が自分を見つめ直すための鏡がふたつみつかった。彼らは根っこが我々と同じなのだから、今の日本の良いところも悪いところも客観的に指摘することができる。私たちは歴史的に欧米知識人に学ぼうとしがちだが、各国へ出て行った移民こそ格好の教師になりえるのかもしれないと思った。

現地日系人達の日本へのまなざし、受け止め方(例えば小泉首相がへりで降りた場所に着陸記念碑が建立されてしまうノリ)にも驚かされた。著者の二人は新聞記者らしい取材能力によって象徴的、印象的な事柄を次々に見つけて指摘する。産経新聞連載企画に大幅加筆したものだそうだが、新書というまとめ方でパッケージングされても、なかなか面白く読めた。

古き良き貧しい日本と、失ったものは大きいけれど豊かな日本。ま、何事もトレードオフということだとは思うのですけどね。

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このページは、daiyaが2009年1月13日 23:59に書いたブログ記事です。

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