ペルセポリスI イランの少女マルジ

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・ペルセポリスI イランの少女マルジ
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この漫画は素晴らしい。内容も絵柄も強いカルチャーショックを受けた。日本からは物理的にも精神的にも遠いイスラーム社会の空気、生活感が、漫画という慣れ親しんだメディアによってちゃんと伝わってきた。

1979年のイランのイスラーム革命とイラン・イラク戦争という激動の時代を、テヘランに暮らす少女マルジ(6歳から14歳まで)の視点で描いた漫画。著者の自伝である。マルジは次第に宗教色が強められていく革命情勢下にあって、反対デモに参加する進歩的思想を持った両親の下で育てられている。当時のイラン女性としては珍しく欧米風な考え方を身につけていった。

宗教革命によって自由な言論と女性の権利はますます失われていく。抑圧的な世の中や不合理な出来事に対して少女なりに疑問を持ち、怒り、そして悲しむ日々。少女ならではのささやかな心の中の抵抗が漫画の主要な内容だ。だが、大人のあからさまな抵抗は死を意味する。弾圧により友人や親戚が拷問にかけられたり、処刑されたりしていくのを、少女は目の当たりにするようになる。

革命があって戦争があってということは描かれるが、当時の政治背景の詳細はほとんど説明されない。だが、少女が目にしたもの、体験したことを通して、どういう時代であったのかが、しっかりと伝わってくる。日本の漫画にはない独特の絵も魅力だ。明確な輪郭線とベタ塗りの画風は、抑制された感情生活を淡々と描く内容と見事にマッチした。


・ペルセポリス
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この漫画は映画化されている。2007年カンヌ映画祭審査員賞受賞映画『ペルセポリス』。

・テヘランでロリータを読む
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/12/post-498.html

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このページは、daiyaが2009年9月10日 23:59に書いたブログ記事です。

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