サイバービア ~電脳郊外が"あなた"を変える

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・サイバービア ~電脳郊外が"あなた"を変える
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「人間とは終わりのない情報ループを進むメッセンジャーである」というサイバネティクスの視点で、現代のデジタルコミュニケーションの生態系を眺める内容。サイバービア(電脳郊外)という言葉ははじめて聞いた。人々がネットワーク上で長時間を過ごす"巨大な電子情報ループ"を著者はサイバービアと名づけた。ソーシャルネットワークやブログや動画投稿サイト、あるいはセカンドライフのような電脳コミュニケーション空間のことだ。

「サイバービアでは電子的な弱いつながりによって、かつての直接的な関係という強いつながりよりもはるかに素早く情報を世界中に伝えられる。だがどのような情報が伝わるのだろうか?。より強い関係ではもみ消されていたはずの悪い噂も、弱いつながりのネットワークでは簡単に流される。サイバービアでは人々同士の関係が確かに弱く、後述するように、さまざまなつながりが生まれたことによってそれが強くなるわけでもない。むしろその反対だ。より強大になるのはサイバービアそのものである。」

こうした情報ループの囚人して鎖でつながれてしまう危険性も指摘されている。イギリスのユーザーの3人に2人がネットを閲覧しながら「自分は何を探しているのだろう?」と疑問に思っているだとか、4人に1人がネット利用の30%を電子的な空想に耽って過ごすという興味深いデータが挙げられている。インターネットはもはや人間関係ネットワークなので、みんなが何をしているか覗きたくなったり、自分のしていることを見せたくなったり、あるいは仲間の圧力によって一緒に行動をすることになったり、する。

本書の探究の軸には、ノーバート・ウィーナー、スチュアート・ブランド、マーシャル・マクルーハンという3人のサイバネティクス系の思想がある。コミュニケーションによるフィードバック機構が系を制御するのだから、問題はテクノロジーではなく、人間がそれをどう利用するかであるという考え方だ。サイバービアを有益な共創空間にするのも、過激な暴走システムにするのも、そこで行われるコミュニケーションの質にかかっている。
マクルーハンは、人間が道具を作るのではなく、道具が人間を作るという逆転の発想をした。デジタルコミュニケーションのツールは、人間が作ったものだが、それを使った情報ループに慣れ親しむうちに、人間の考え方の方が変わっていく。郵便と電子メール、電話とチャットでは用途も作法も内容も変わっていく。

本書で取り上げられたような

「多重性=複数の出来気が常に同時進行する」
「非線形=物語の進行もなければ最終的な目的もない」
「フィードバック=一部のコンテンツが過剰に注目される」
「ネットワーク効果=ネットワークの力が個人を凌駕する」

といった"非人間的"な性質も、当初はオールドタイプに批判されるが、やがては万人にとって当たり前のものとして常態化する。本書副題の「電脳郊外が"あなた"を変える」が表しているように、住み処はそこに棲む住人の意識を自然に変えてしまうからだ。

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このページは、daiyaが2009年9月27日 23:59に書いたブログ記事です。

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