プロジェクトファシリテーション

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・プロジェクトファシリテーション
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創業125年の老舗大企業 古河電工。人事総務部門の担当者とコンサルティング会社のコンサルタントが二人で書いた業務革新の一大プロジェクトの回顧ノンフィクション。構成のアイデアが素晴らしい。同じ場面を担当者の視点と、コンサルタントの視点が交互に描いている。それぞれの言動がそのとき相手の立場からはどのように見えていたか、そして何を考えていたかが明らかになる。

コンサル会社側は得意のファシリテーションで円滑に進めるべく準備万端で挑んだ会議でも、クライアント側では「なんで、ひとつの会議に三人もコンサルタントがいるんだ?これじゃあお金かかるよなぁ」などと思っていたりもするわけだ。現場目線の素直な心理描写から、ビジネスの発注側、受注側の両者の心の動きが再現されている。

古河電工は09年3月時点で従業員数3万7427人の大企業。多数の工場と子会社を抱える。多くは独自に発達してきた人事制度や給与体系を持つ。残業する社員には栄養補給にパンを配るなどという時代錯誤な仕組みもあるが、労組の反対もあって容易にはやめられない。120年間も個別最適でやってきた大組織に、業務集約センターを設立して効率化をはかろうというのが本プロジェクトの目的。業務改革やITシステム導入は、当然のことながら各方面からの抵抗も多い。

著者らプロジェクトメンバー達は2300回の会議、3万通のメール、111のシステムとの連携、年間220日の出張で、全国の部署と交渉と調整を行って理解を得ながら、ついにシステム稼働にこぎ着ける。5年間の長大な人間ドラマである。

その成功に至るプロセスでコンサルタントにも社員にも、スーパーマン的な人物は一人も出てこない。状況は「当たり前のことを当たり前じゃないレベルでやりきる」という担当者の言葉が表している。徹底したコミュニケーションと信頼構築によって、大企業の不可能を可能にしていく。

"ファシリテーション"というと会議の盛り上げ方みたいな小手先の技術と誤解しがちであるが、本書のテーマはもっと長期的で本質的な組織論である。クライアントとコンサルタントの幸福論である。組織でビジネスをする人、プロジェクトをやる人はぜひ読むと良いと思う。いっぱい気づきがあるはず。

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このページは、daiyaが2009年10月14日 23:59に書いたブログ記事です。

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