ブラッド・メリディアン

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・ブラッド・メリディアン
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現代アメリカ文学の巨匠コーマック・マッカーシーの長編。

アメリカ開拓時代、インディアン討伐隊に加わった少年が体験する無法と殺戮の旅路。

インディアンを殺して持ち帰った頭皮の数だけ、町から報奨金をもらうという契約を結んだならず者たちは、インディアンを見つけ次第に惨殺しながら荒野を前進していく。力だけがすべてのような世界で、「判事」と呼ばれる2メートル超の巨漢の男は哲学や科学の知識で信望を集める。しかし同時に判事は冷酷な殺戮者でもあり、邪魔なものはインディアンでも仲間でも容赦なく消していく。

少年がたどる荒野の旅路という点では『ロード』と同じなのだけれど、同行するのが息子をどこまでも守ろうとする父親ではなく、怪物的な判事であるという点が違う。このどこの判事なのか定かでない通称の「判事」は、ヨーロッパ的な知性の化けの皮をはがしたようなものとして描かれている。

「倫理というのは強者から権利を奪い去る弱者を助けるために人類がでっちあげたものだ、と判事は言った。歴史の法則はつねに倫理規範を破る。倫理を重んじる世界観は究極的にはどんな試験によっても正しいとも間違っているとも証明できない。決闘に負けて死んだからといってその人間の世界観が間違っていたとみなされるわけではない。むしろ決闘という試行に参加したこと自体が新たな広い物の見方を変えが採用したことの根拠になる。」と判事は言う。

話せばわかるという前提ではなくて、話せば殺しあいになる世界で、勝ったからといって善とも悪ともいえないということ。「生か死か、何が存在しつづけ何が存在をやめるかという問題の前では正しいかどうかの問題など無力だ。この大きな選択に倫理、精神、自然に関する下位の問題はすべて従属しているんだ」と判事。世界の本質的などうにもならなさをむきだしにする衝撃作品。うなった。

・ザ・ロード
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-831.html

・ザ・ロード 映画
http://theroad-movie.com/
今年日本公開が決定している。

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このページは、daiyaが2010年2月23日 23:59に書いたブログ記事です。

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