私たちはいかに蟹工船を読んだか

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・私たちはいかに蟹工船を読んだか
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読書感想文というものに興味があって研究として読んだ本。

2008年、2009年の蟹工船ブームに拍車をかけた一要素として小林多喜二の出身校である小樽商科大学と白樺文学館多喜二ライブラリー共催の「Up To 25『蟹工船』読書エッセーコンテスト」(2008年1月開催)があったようだ。

このイベントは「30分で読める・・・大学生のためのマンガ蟹工船』(東銀座出版社)と、その原作小説「蟹工船」が評論対象で、応募資格は25歳以下の青少年対象のUpTo25部門と制限がないネットカフェ部門の2つがあった。この本には選者(精神科医 香山リカ、島村輝女子美大教授、由里幸子朝日新聞前編集委員など)の講評と共に120編の応募作の中から選ばれた優秀作が収録されている。

他人の読書感想文というものをのぞいてみたくて手に取った。

予想通り「根本的に今までも何も変わっていないのではないか」「私の兄弟たちが、ここにいる」「現代の「浅川監督」とは一体誰か」というように、プロレタリアート文学に対するものとして「正しい」連帯的憤り系の反応は多い。

基本的には「他人に干渉しない、ひたすらに自己責任に縛られたまま出口のない孤独の日々をふわふわと泳いでいる。そうだ、私たちは、支配者に闘いを挑む怒りを剥奪されている!」という風に、現代社会をいかにして、もうひとつの蟹工船に見立てるかのコンテストなのでもあった。

しかし、一方で「このエッセーは私のようなものが書くより、貧しくて一生懸命バイトしながら奨学金を貰って大学行って勉強している人が、「みんなで世界を変えていこう」と呼びかけるようなものを期待していると私は書く前考えていた。私もウソをついて、そういうものを書こうと思ったが、できるだけ本当のことを書くことにした。」というような、淡々と状況を客観する文学部生もいた。

登場する労働者たちの性欲に着眼して評論した人、チャップリンの映画との共通点を挙げた人、仮想テレビ番組内の鼎談形式にした人。選ばれているだけあってみんな実にいろいろな文体芸風を編み出している。10代前半とは思えぬ深い内容を書いてくる早熟な少年もいる。

多くの応募者はマンガと小説の両方を読んでいるが、特にマンガ読書体験に直截的で強い印象を持った書いている人が目立つ。彼らは小説を後で読むことで一層の理解を深めている。こうした反応を見るとやはりマンガ版の存在が今回のブームの大きな原因だったと言えるのじゃないかと思った。

・蟹工船・党生活者
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/05/post-754.html

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このページは、daiyaが2010年5月14日 23:59に書いたブログ記事です。

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