日本文化論のインチキ

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・日本文化論のインチキ
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『菊と刀』『甘えの構造』『中空構造日本の深層』『陰翳礼讃』『タテ社会の人間関係ー単一社会の理論』『共同幻想論』『空気の研究』などなど、名著、ベストセラーとされる日本文化論、日本人論の100冊以上をメッタギリにする痛烈な日本文化論・論。私も日本文化論は好きで、このブログでも多く取り上げてきたが、そのほとんどが槍玉に挙げられている。

なにがイケナイのか?。これは日本独自のものだというもののほとんどが外国にもある、そもそも文化の本質などという"ないもの探し"をするのがおかしい、という論旨で、多くの日本文化論をインチキと認定していく。

「要するに、西洋の歴史から何か普通名詞、つまりカテゴリーを作り上げ、それに日本の歴史を当てはめようとするのが間違いなのだ、と普通には考えられるが、実際はそうではなくて、歴史に法則性や、何か深い原因のようなものを探ろうとする行為自体に、非科学的なものが潜んでいるのである。」

高名な学者が専門とは別に日本文化論をやるケースも多いから、そもそも社会科学の理論としてはいい加減なものが多いのは事実だろう。安易な比較文化論にも警鐘を鳴らす。

「比較文化論というもののもう一つの落とし穴は、日本人が、西洋を一枚岩的にとらえがちなところにある。少しでも西洋文化をまともに勉強した人なら、西洋も国によってだいぶ文化が異なり、国同士であれこれと比較をして、他国をバカにしたりしていることを知っているはずだ。」

著者の言いたいことはよくわかるが、私はこれまで日本文化論を社会科学として読んだことがなかった。文化論と言うのは、血液型性格診断と似ているのじゃないかと思う。A型は几帳面で、と言われると、多くの読者がそうかもと思う。だから売れる。そして科学的根拠はなくとも、みんながそう思うと、そう行動するようになるという面がきっとあるだろう。

だから、日本人は勤勉で礼儀正しい民族で、日本語は曖昧で非論理的な言語で、日本の天皇制は海外に類例のないユニークなものだという日本文化論が人気が出れば、実際に人々はそう自己評価し、そうなるように行動するだろう。文化論は分析でなくオピニオンであり、その提唱者は研究者ではなくて、オピニオンリーダーそのものなのだと私は考える。であるから、インチキもトンデモもなくて、成功した文化論と失敗した文化論があるだけだと思う。

私はこの本は、科学的体裁を整えて信憑性を高める戦略に出たが失敗した(実際にはよく売れたから成功したという見方もできると思うのだが)文化論の指摘のように思えた。学術的価値の確認の仕方が参考になる。

日本文化論が好きな人はぜひ読むといいと思う。文化論について客観的、多面的な見方を与えてくれる。そして何より著者の歯に衣着せぬ現代思想家、評論家への攻撃が痛快である。

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このページは、daiyaが2010年6月 2日 23:59に書いたブログ記事です。

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