小さいおうち

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古き良き昭和モダンの設定+メタレベルの仕掛けがよく効いている。面白かった。

「わたしが奉公に上がった時代、昭和の初めになれば、東京山の手のサラリーマン家庭では、女中払底の時代になっていたのだから、「タキや」と呼びつけにされるようなことは一切なく、かならず「タキ」さん」と、「さん」づけで呼ばれ、重宝がられていたものだ。東京のいいご家庭なら、だいたいそうであろう。わたしがその仕事についた時代は、「よい女中なくしてよい家庭はない」と、どの奥様だって知っておられたものだ。」

昭和初期、赤い三角屋根の小さなおうちで住み込み女中をしていたタキが、60年後に遠い昔を振り返る回想録がこの作品の大半を占める。とてもお上品な「家政婦は見た」。この家の女中であることに満足し、終の棲家とまで考えていたタキは奉公先で大切にされて、家族同様に暮らす。

だが、美しい奥様、玩具会社常務の旦那様、手のかからないおぼっちゃまと4人で過ごした幸せな日々に、やがて戦争の暗い影が忍び寄る。小さなおうちの一家にも激動の時代が訪れ、そのうねりの中で、やがてタキは、幸せそうな家族が内に秘めていた感情を知ることになる。

女中タキの長い昔話。よく再現された昭和モダンの懐古作品としても非常に味わい深いものがあるのだが、最終章でこの語りの本当の意味が明かされる。最終章がなくても80点の小説だが、メタレベルのラストが作品に奥行きを与えて、見事100点となる。納得の直木賞受賞作。

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このページは、daiyaが2010年8月24日 23:59に書いたブログ記事です。

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