花火―九つの冒涜的な物語

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・花火―九つの冒涜的な物語

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サマセット・モーム賞を受賞し、ブッカー賞の審査員もつとめたイギリスの作家アンジェラ・カーターの短編集。アンジェラは1969年から数年間、日本に滞在した経験がある。この作品集には、現代的な日本、伝統的な日本、「ガイジン」から見たエキゾチックな日本のイメージが散りばめられている。9本あるがゴシックとポルノ風味の幻想文学が多い。

アンジェラは飽くまで「ガイジン」の立場で日本を異質なものとして見ている。作家の分身らしきイギリス人女性が主役の作品では、日本人男性と愛し合い交わるが、決して同化しようとはしない。ヨーロッパ的感性から見た日本文化論として読める部分もある。

「この国は偽善を最高の様式まで高めた。侍を見ても、殺人者だとは思わないし、芸者を娼婦だとは思わない。こうした侍や芸者の壮麗さはほとんど人間離れしている。彼らは偶像の世界にのみ生きていて、そこで儀式に参加している。その儀式は、生きることそれ自体を馬鹿げていると同時に心を動かす一連の荘重な身振りに変えてしまうのだ。」(日本の思い出)

日本に限らず異文化とは、異質なものの目からは「偽善の最高の様式」に見えるものなのではないだろうか。作品中には日本の周縁文化が多く取り上げられている。刺青、盆栽、ラブホテル、花火、文楽、浅間山荘事件。アンジェラというイギリスのゴシックオタクが、日本のゴシックに通じるものを感じて、物語が生まれていく。同時にそれは違和感の連続でもある。

「...この街の暮らしは外国人にとって、夢の謎の持つ透明さ、読み解くことができない透明さを持つように思われる。そして、それは自分で見ることのできないような夢である。よそから来た者、外国人は、自分を掌握していると思っている。だが、実際は、誰か他人の夢の中に投げ込まれているのだ。」(肉体と鏡)

「ガイジン」のガイジンによるガイジンのためのエキゾチックジャパンを、敢えて日本語に翻訳したときの違和感を楽しむ。刺激的で不思議な9編の短編集。

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このページは、daiyaが2010年11月22日 23:59に書いたブログ記事です。

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