ブルー・ロージス―自選作品集

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原子力発電所の危険性。今思えば先見の明はいくつもあったのでした。

『日出処の天子』、『アラベスク』、『妖精王』などで知られる少女漫画家 山岸凉子の自選作品集。

冒頭収録作の『パエトーン』は1988年に少女漫画雑誌に掲載された異色作。

原発の危険性を直接的に問題提起している。発表時期はチェルノブイリ原発の事故から二年後。広瀬隆の『危険な話』を読んで原発問題に関心を持った漫画家が、情報を調べて、とてもわかりやすく具体的に、事故の怖さを読者に訴えかけていた。

ギリシア神話の半神パエトーンは神の子であることを仲間に見せつけたいために、太陽神にしか御すことができない日輪の馬車を走らせた結果、暴走させる。制御を失った炎の車が世界を焼き尽くしてしまう。人間にとって、原子力はまだ操ることがゆるされないものなのだ、即時停止すべきです、というメッセージ。

原子炉の仕組み、放射能とは何か、原発事故が起きた際の放射能汚染について、用語解説と図解を多用して説明している。ギリシア神話の寓話を描いた冒頭8ページ以降は、少女漫画のスタイルを大きく破っており、山岸涼子っぽさがまったくない。まるでいまテレビでやっている解説みたいである。当時これを雑誌に掲載するのは勇気がいったのではないか、よほどこのメッセージを世に問いたかったのだろうなあ。

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ところで、漫画の中で解説されているのですが、東京電力のロゴは核分裂を表しているって知っていましたか。東京電力は事故対応が落ち着いたら、ロゴも変えるべきでしょうね。

他の収録作品は女性の心の揺れを描く一般的な少女漫画作品。

淫らな血縁関係を描いた『星の素白き花束の』や、何かに化かされて歩いても、歩いても帰宅できないホラー『化野の・・・』など読み応えのある作品がある。

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このページは、daiyaが2011年3月29日 23:59に書いたブログ記事です。

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