人は皆「自分だけは死なない」と思っている -防災オンチの日本人

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・人は皆「自分だけは死なない」と思っている -防災オンチの日本人
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防災コンサルタントとして40年以上活動し、数々の災害現場を歩いた著者が、災害時生き残る正しい判断・行動とは何かを語る。いま必要な知識を得られるよい本である。「自分だけは死なない」と思っていると死んでしまうのだから。

冒頭で明かされる生き残りの方法はシンプルである。とっとと逃げろということだ。現実の災害や事故では、異変に気づいても、警報を聞いても、多くの人間が様子を見るだけで逃げなかったが故に死んでいる。恐ろしいのは人間心理の集団同調性バイアスであり「皆がいるから大丈夫」という客観的合理性に欠ける判断だ。自分の五感が危険を感じたら、周りが騒いでいなくても、ひとりで(できれば呼びかけて)とっとと逃げるのが正解なのだ。

「火事だ」とか「津波がくる」とか「原発が爆発した」と知らせたら、パニックが起きるのではないかという懸念がリーダーによる情報公開を遅らせて、結果として多くの犠牲者を出してしまった事例が多い。だが、現実のパニックは稀であり、パニックが起きるとしたら、情報が与えられたからではなくて、情報不足により人々が冷静な判断力を失った時である、という。

「一般に災害が発生すると人間はパニックに陥ると信じられているが、それは間違いである。今は昔と違って情報過多の時代なので、ひとつの誤報やデマでその場の全員がパニックに陥るケースは少ない。最も危険なのはパニック神話を恐れるあまり、持っている危機情報を公開しないことである。正しい情報が入ってこないと分かったときに、本当のパニックは起こる。」

災害については情報の経路によって評価が異なるという話も興味深い。私は最近、地震や停電が多いので、地域の防災無線をよく聴くようになったが自分の状況に直結した緊急性が高い情報のように感じて、聴き耳を立てて聴く。これは普遍的な心理であるらしい。

「ナローキャストである地域の防災無線で津波警報を受け取った人は心の非常スイッチをすぐオンにでき、テレビ・ラジオなどのブロードキャストで受け取った人は、心の非常スイッチがオンにならなかった」

ではうまく非常スイッチがオンになったらどうすればいいか。たとえば火災ならば、

1 知らせる
2 消す
3 助ける
4 逃げる(逃がす)

の順でで行いなさいとアドバイスしている。消すのが最初ではなくて、周りに火事だと伝え、消防へ通報することが重要なのだ。この何かトラブルが発生したらまず「知らせる」が、火災に限らず防災危機管理の優先順位だという。

地震が起きたら机の下に隠れてはいけない、というのも目からうろこであった。多くの自治体や企業の震災対応マニュアルが間違っていることになる。家がつぶれないような地震はほとんど被害もないのだから机の下にもぐる必要はなく、逆に机の下にもぐると危険予知や危機回避の対応が遅れてしまうし、家がつぶれれば机もつぶれるという実験結果もあるから、である。

そして現代の災害では携帯や電話のしくみには詳しい方がいいという。「情報孤立が発生した場合、通信システムや緊急連絡方法の知識の有無が不安感や焦燥感の強弱に比例する」からだ。必要な相手と連絡が取れず、情報もとれなくなることが、冷静な判断力を失う原因となる。だから、地震の直後は輻輳防止のための通信規制がかかること、電話回線は一般加入電話より公衆電話回線が優先されること、電話がつながらなくてもインターネットはつながることがあることなどを知っておくことが重要なのだ。

実に多くの危機対応の方法が語られていて、とても今の状況にマッチした本である。

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このページは、daiyaが2011年4月12日 23:59に書いたブログ記事です。

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