コンニャク屋漂流記

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・コンニャク屋漂流記
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「これはコンニャク屋と呼ばれた漁師一族の漂流記である」

2001年『転がる香港に苔は生えない』で第32回大宅壮一ノンフィクション賞受賞した女性作家が先祖たちの軌跡をたどる。一族の古い墓に刻まれた見知らぬ名前を発見して、正体を調べていくうちに、五反田(東京)、御宿・岩和田(千葉)、加田(和歌山)を結ぶ400年のザ・ルーツの壮大な物語が浮かび上がってくる。

「私は町工場の娘であり、漁師の末裔である。祖父は外房の漁師の六男で、祖母はやはり外房の農家の侍女だった。祖父が東京に出て町工場を始めたため、いうなれば漁農工が三分の一ずつといったところだろう。在京漁師三世。あるいは漁師系東京人三世といった感じだろうか。体のどこかに漁師の血が流れていることは感じる。」

古いものが好きな著者は、生まれ育った五反田の町工場が消えていく様子を悲しく思う。祖母の他界を機に、祖父が晩年に書き遺していた手記をたよりにして、房総半島の漁師町 岩和田をたずねる。すべてが消えてしまう前に一族の歴史を書きのこすために。土地に残る伝承や記録から、徳川家康の時代の先祖の様子が垣間見える。そしてルーツはさらに奥へたどれることがわかる。房総には紀州と同じ地名がいくつもある。数百年前に紀州の多くの漁民が、房総へ移民した記録が残っているのだ。紀州の取材旅行でコンニャク屋400年の漂流記が完結する。

この著者、文章の端々に、物書きとしての自分が一族の物語を書き遺さなければいけないという強い使命感が感じられる。同じ物書き指向の私としてはすごく共感してしまうところがあった。私もいつかこういう一族にとっての記録係をしたいなあ、と思うのだ。

3年に渡って雑誌に連載された記録なので、10ページで一話進むスタイルだから長編でも読み進めやすいのもよかった。

読んでいて似ている本を2冊連想した。ルーツをたどる傑作ノンフィクションというと、中国残留孤児だった父の半生を追った『あの戦争から遠く離れて』(城戸久枝)が印象に残っているが、むしろ、フィクションだが新宿にある大衆中華食堂の三代に渡る家族の歴史を書いた『ツリーハウス』に、この本の内容は近い気がした。

・あの戦争から遠く離れて 私につながる歴史をたどる旅
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/12/post-683.html

・ツリーハウス
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/08/post-1498.html

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このページは、daiyaが2011年11月22日 23:59に書いたブログ記事です。

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