再起動せよと雑誌はいう

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『CITY ROAD』『WIRED日本版』『季刊・本とコンピュータ』の元編集者で、「本と出版の未来」を考えるウェブサイト『マガジン航』編集人の仲俣 暁生さんの本。POPEYE、ユリイカ、文芸春秋、東洋経済、NUMBER、OZマガジン、ぴあ、などさまざまなジャンルの30種類以上の雑誌をとりあげて批評する。

全記事が雑誌愛に満ちた批評で楽しい。今イケてる雑誌はどれか、ダメなのはどれか、意外な人気メディア、新しいビジネスモデルなど幅広い話題が盛り込まれている。1つのジャンルで必ず複数の雑誌をとりあげて、特徴比較をしている。歴史的に果たした役割も説明されている。通読すると雑誌メディアの全体を俯瞰する視点が得られる。

「いま思えば、かつての『POPEYE』は、現在のインターネットのような存在だった。書き手と読者の距離を近く感じさせるカジュアルな文体による短いコラムや、スナップ写真のようなグラフィックに添えられた短いキャプション。これはいまのブログとツイッターで行われているコミュニケーションの形態とよく似ている。」

雑誌が売れなくなったのはやはりネットのせいなのだろうと私も思う。雑誌は今でも月に5,6誌を買うが、ネット以前はもっと買って読んでいた。かつて雑誌に費やした時間やお金や好奇心を今はネットに注ぎ込んでいる。

iPadの登場で、寝転がりながら読めるメディアとしての雑誌という需要も、だいぶ電子化の浸食が進んだ。レイアウトやフォントの美しさ、プロの加工する写真やイラストという強みも、デジタルツールとソーシャルパワーで、デジタルメディアが急速に追いついてきている。

ただ本質は利便性や機能の優位というよりも、紙のメディアが時代の先端を共有する場ではなくなったというのが、最大の凋落の要因だろう。情報感度が高いキーマンたちが、読み手としても書き手としても、紙の雑誌の編集部界隈から、ネット界隈へと移民してしまった。彼らにとって紙は原稿料をもらえるからやる割り切った仕事に堕しつつある。あの雑誌に原稿を書きたい、登場したいと思われなくなった。

コンピュータ雑誌、音楽雑誌、ゲーム雑誌...。学生の頃むさぼるように読んだ雑誌の魅力とは、誌面の向こう側に私が知らない凄い世界が広がっているという感覚だった。編集者やライター達が編集後記に書くぼやきや裏話がまぶしかった。若い読者の私はそんなにふうにぼやいてみたかった。その感覚が今の紙の雑誌では薄れている。いまや「大変だ」なんてぼやきを見ると、本当に大変なんだなあ、と気の毒、可哀そうになってくる。先端をつくりだす余裕が感じられない。

サブカルとカルチャーの間をつなぐような紙の雑誌が読みたい。

「さきの「ブルータス30年目の真実!?」のなかで都築氏が、彼が在籍した時代には編集会議など一度もなかった、と話している。逆にいまの誌面から感じられるのは、編集会議やマーケティングのしすぎではないか、と思えるほどの「現実」に対する後追い感覚だ。文化を扱う特集も、かつてのような遊び心から生まれたものではなく、いかにも生真面目なお勉強路線、いいかえるなら実利志向が目につく。」

と仲俣さんが書いているが、雑誌はかつてのようにトレンドをつくりだす現実歪曲空間であってほしいと思う。出版不況で売れる雑誌をつくらねばならないという環境がそうしているのであろうが、それだけでは「再起動」は果たせないだろう。

この本からは、カメラ雑誌や山岳雑誌などオヤジ趣味の女子化、ローカル雑誌復活の可能性など、雑誌のトレンドがを10個くらい教えてもらった。知らない雑誌の発見もあった。雑誌連載がベースらしいので、ぜひ記事が貯まったら続編も出してほしい。

そういえば、欄外に多数詰め込まれた注釈記事が楽しかった。本文ではわざわざ書かなくてもいいようなことが書いてあったりするとニヤリとする。こういう遊び心と余裕が、雑誌の本来の魅力なのでもあったな、と。

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このページは、daiyaが2012年3月 8日 23:59に書いたブログ記事です。

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