時間の分子生物学 時計と睡眠の遺伝子

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時間の分子生物学 時計と睡眠の遺伝子
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講談社出版文化賞科学出版賞 受賞作品。睡眠のメカニズムを遺伝子レベルに探る。

■10分を検出できる体内時計

時計がなくとも朝は目覚め、夜は眠くなる。

脳の視床下部にあるSCNという器官に、24時間周期の生物時計(いわゆる体内時計)があるという。SCNの神経細胞はガラス板の上で培養しても、24時間周期の電気活動リズムを維持して変化するそうで、機械の時計のように自律的な発振器の役割を果たしている。この生物時計は概ね正確に24時間周期で動いているが、狂うこともあり、その場合には朝に強い光を浴びたりすることで調整が可能になっている。

この時計は案外高い精度で働いている。たくさんの被験者に、指示した時間に起きてもらう依頼をした実験結果が紹介されていた。朝6時に起きろといわれた集団では6時に、8時と言われた集団でも8時に、だいたい多くの被験者は起きることができている。そしてこのとき被験者の身体では、起床1時間前からコルチゾールというホルモンの量が増加していた。これは起きる準備が1時間前から始まっていた事実を示す。正確な起床時間は生物時計が10分から15分程度の時間経過を、睡眠中も感じることができるという証明になる。目覚ましが鳴る直前に目が覚めるという人の場合には、分単位で時間を感じている可能性もあるそうだ。

■なぜ眠るのか、なぜ眠くなるのか

人はなぜ眠るのか?その理由はいまだ分かっていない。だが、生存に不可欠であるのは明らかで、医師である著者は不眠症の患者に「眠らなくても死にはしませんから」と慰めたりするそうだが、本当は寝ないと死ぬのだそうだ。動物を眠らせないでおく断眠実験を行うと1週間から数週間で、衰弱し多臓器不全で死んでしまうそうだ。免疫系を損傷するのが原因であるらしい。

では身体の疲労回復のために眠っているのかというと、そうでもないようだ。横になって眼を閉じただけの安静状態の方が、実際に睡眠に入るよりも、代謝率が低い。身体の休息という意味では睡眠より安静にしているほうが良い戦略かもしれないという。睡眠は身体ではなく脳の休息が本質的な目的なのだ。

なぜ夜になると眠くなるのか?も完全には解明されていない。最新の理論では脳に睡眠物質が増えるから眠くなるのではなく、生物時計が発信する覚醒信号が夜になると弱まるからなのではないかと著者は考えている。これは夜型体質の改造に役立つ知識だ。覚醒信号を制御する生物時計を朝型に調整するには、朝の強い光を浴びることがまず有効なので、夜型を朝方に直すには「早寝、早起き」ではなく、「早起き、早寝」が正解だという。いくら早く寝ても生物時計を調整することはできないからである。

オレキシンという脳内物質が覚醒効果の原因であることが近年発見されたらしい。オレキシンは食欲と睡眠に同時に影響する。これは生きるために食物を探せるように覚醒レベルを上げておく、ということと関係がある。夜中にお腹がすいて眠れないのも、食べ過ぎると眠くなるのもオレキシンが原因のようだ。

いくつか本に出てきた睡眠のついての知識を引用してみたが、睡眠は意外にも謎だらけのようである。私は子供の頃、眠る瞬間を意識でとらえたいと思って毎晩のように、眠気と戦ってみたことを覚えている。当たり前だがいつのまにか眠りに落ちてしまう。睡眠に入る境界はみつからなかった。なんてバカな実験をしてたのだろうと大人になってから思ったのだが、訓練次第では夢を覚醒しながら見る覚醒夢というのがあるそうだ。あのまま続けていたら夢を制御できるようになったのだろうか。惜しいことをした。

・ヒトはなぜ、夢を見るのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001062.html

・人はどうして疲れるのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000877.html

・朝10時までに仕事は片づける―モーニング・マネジメントのすすめ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000651.html

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昨日の記事に関連してなのだが、「時間の分子生物学 時計と睡眠の遺伝子」という本の書評があったので、紹介しておきます。 続きを読む

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このページは、daiyaが2005年1月19日 23:59に書いたブログ記事です。

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