感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ

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・感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ
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脳科学と哲学の融合。

悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しくなる。楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しくなる。恐怖は身体がこわばるから心が怖いと感じること。心の動きを感情、身体の動きを情動と定義したとき「感情の前に情動がある」とダマシオはいう。

情動と感情の関係は、一般的には逆のように考えられている。内面的な動きが原因となって、外面の動きがあると私たちは考えがちである。だが、進化的には情動が先行して存在し、感情は後からできたものであることは疑いない。人間以外の動物には複雑な感情がないからだ。神経科学や心理学の実験でも、身体の反応(反射)が、意識される感情よりも時間的に早く出てくることがわかっている。

いま身体がどのような状態にあるかを知覚することが感情の主な内容なのだと著者は説明する。脳には身体の感覚マップがあり、そのニューラルパターンが、心的イメージである感情を喚起する。この情動と感情のプロセスを引き起こすのは外的要因だけではなく、人間の場合は記憶が引き金になることもある。悲しい思い出を想起すると、人間はバーチャルに泣くことができ、それは本当の悲しさを感じるときの身体反応を引き起こす。

感じるということが、考えるということよりも本質的な作用ということになる。同じことを17世紀半ばにオランダで考えたのが哲学者のスピノザであった。スピノザは主著「エチカ」のなかで「心は身体の観念からなる」といい、「人間の心は、その身体の変化(刺激状態)の観念によって以外、いかなる物体も現実に存在するものとして知覚しない」と述べた。身体の存在なしには、心はありえないということだ。

「人間の心はひじょうに多くのものごとを知覚することができる。また、その身体がひじょうに多くの影響を受けるとき、それに比例して心が知覚するものも多くなる」とも述べている。刺激の多い場所ほど豊かな思考が成り立つ。

著者もスピノザも、情動→感情プロセスの引き金として外部の刺激だけではなく、過去の記憶や想像が大きな役割を果たすことを認めている。人間はネガティブな感情を意識的にポジティブに変換することができる。情動が感情を支配しているということは自由意志を否定するものであるかのように思えるが、人間は自らの思考でこの過程を制御できる。「理性は道を示し、感情は決断をもたらす」。

有名な脳科学者が書いたこの本、前半は脳科学の研究で、次第にスピノザ哲学と融合し、最後は完全に哲学で終わるという構成になっている。ふたつの世界の架け橋として大変勉強になる一冊だった。

・ユーザーイリュージョン―意識という幻想
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001933.html

・脳はなぜ「心」を作ったのか―「私」の謎を解く受動意識仮説
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004066.html

・脳のなかの幽霊
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003130.html

・脳のなかの幽霊、ふたたび 見えてきた心のしくみ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003736.html

・脳のなかのワンダーランド
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002735.html

・マインド・ワイド・オープン―自らの脳を覗く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002400.html

・脳の中の小さな神々
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001921.html

・脳内現象
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001847.html

・快楽の脳科学〜「いい気持ち」はどこから生まれるか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000897.html

・言語の脳科学―脳はどのようにことばを生みだすか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000718.html

・脳と仮想
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002238.html

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このページは、daiyaが2006年2月 7日 23:59に書いたブログ記事です。

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