ビッグバンの父の真実

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・ビッグバンの父の真実
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キリスト教の司祭でビッグバンの父と呼ばれる物理学者のジョルジュ・ルメートルの伝記である。理論の核となるアイデアを提唱したにも関わらず、ビッグバン理論の歴史書におけるルメートルの扱いは不当に小さい。定常宇宙論の提唱者でビッグバンという名前をつけたフレッド・ホイルや、ルメートルの「原初的原始」という着想を発展させた破天荒な科学者ジョージ・ガモフの方が有名かもしれない。

ルメートルの仕事は近年の物理学、天文学の進展によって、画期的なものであったと再評価が進んでいる。サイモン・シンのビッグバン宇宙論でも肯定的な記述が多かった。ルメートルはアインシュタインと親交を結びよく議論した人物だ。

・ビッグバン宇宙論 (上)(下)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004613.html

アインシュタインは相対性理論で宇宙の成り立ちを数学的に説明するときに、当初は宇宙定数Λ(ラムダ)を導入した。この定数を式に組み込まないと宇宙の構造が安定しないマジックナンバーであった。しかし、その値は当時は観測に基づくものではなく、式を成立させるための道具的で、恣意的な要素であったため、アインシュタインは後年、Λの導入は大きなミスであったと自説を否定した。

一方、ルメートルはアインシュタインが翻意したあとも、それは恣意的な要素ではなく、まだ観測されていないだけの本質的な要素であると考えて強く支持していた。近年、宇宙観測の技術が進歩し、宇宙背景放射が確認されるに至って、はじめてその考えの正しさが証明されつつある。

ルメートルの名前が科学史に埋もれがちな理由のひとつが、彼が科学者であると同時に宗教家であったからだといわれる。高エネルギーから宇宙が生まれたとするビッグバンは神の創造を連想させる。ルメートルの言うことは、非科学的なのではないかと疑われてしまうのだ。

しかし、ルメートル自身はそのキャリアの最初から、科学と宗教を厳密に切り分けてきた。宗教との関係についてこう発言している。


 聖書の執筆者は皆、人間の救済という問題について何らかの答えを得ていました。それがどの程度の水準だったかは人によって違ったでしょうが。それ以外の問題については、彼らの同時代人たちと同じ程度に賢明、あるいは無知だったのです。ですから、聖書のなかに、歴史的・科学的事実に関する誤りがあるとしても、それは何の意味もないものです。その誤りが、それについて書いた人が直接観察したのではない事柄についてのものである場合は、特にそうです。
 不死や救済の教義に関して彼らが正しいのだから、ほかのすべての事柄についても正しいに違いないと考えることは、聖書がいったいどうしてわたしたちに与えられたのかということを正しく理解していない人が陥る誤解です。

だから、時の教皇ピウス12世が、ローマ教皇庁科学アカデミー議長もつとめたルメートルらの発見は神の創造を科学的に証明したものだと発言した際には、頭を抱えてしまった。後に、それとこれとは関係ないのですと教皇に進言しさえもした。

・ジョルジュ・ルメートル - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%AB

そしてルメートルはコンピュータを使いこなす「ハッカー」の草分けであったとも言われる。晩年はビッグバン宇宙論の前線からは退いて、当時まだ珍しいコンピュータによる数値計算の分野で業績を上げた。謙虚な性格であったためか、コンピュータの歴史でもあまり登場しないのは残念だ。

この本では、ルメートルの視点から見た、もうひとつのビッグバン宇宙論の歴史が語られている。ビッグバン宇宙論とは科学の言葉で書かれた現代の神話であると思う。科学と宗教の中間にいながら、自己矛盾することなく、その神話の創造に参加した稀有なバランス感覚の天才だったようである。

・ガリレオの指―現代科学を動かす10大理論
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002797.html

・はじめての“超ひも理論”―宇宙・力・時間の謎を解く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004230.html

・ホーキング、宇宙のすべてを語る
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004047.html

・奇想、宇宙をゆく―最先端物理学12の物語
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003562.html

・科学者は妄想する
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003473.html

コメント(1)

k-takahashi :

ニュートン誌の今月号(12月号)がたまたまインフレーション宇宙論特集なのですが、ルメートルについても簡単に触れられていました。

 ハッブル以前に相対論を使って「過去の宇宙は小さかった」という結論に到達していた人、という位置づけです。

 御参考まで。

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このページは、daiyaが2006年11月 6日 23:59に書いたブログ記事です。

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