ガダラの豚

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・ガダラの豚 1
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「アフリカにおける呪術医の研究でみごとな業績を示す民族学学者・大生部多一郎はテレビの人気タレント教授。彼の著書「呪術パワー・念で殺す」は超能力ブームにのってベストセラーになった。8年前に調査地の東アフリカで長女の志織が気球から落ちて死んで以来、大生部はアル中に。妻の逸美は神経を病み、奇跡が売りの新興宗教にのめり込む。大生部は奇術師のミラクルと共に逸美の奪還を企てるが...。超能力・占い・宗教。現代の闇を抉る物語。まじりけなしの大エンターテイメント。日本推理作家協会賞受賞作。」

中島らもの大傑作小説。圧倒的に凄いものを読んだ感じがする。

中島らもといえば1984年から10年間も朝日新聞に連載された「明るい悩み相談室」が有名だ。本人には深刻だが一般的にはどうでもよい悩みの相談に対して、親身に相談に乗りながら、いつのまにやら常識とズレた落とし所に話を持ていって、読むものを笑わせるという内容。コピーライターとして活躍したこともある中島らもの明るい表の顔であった。

一方で、中島らもは、作家でロックアーティストで劇団主宰というエッジの立った表現者であり、学生の頃からひたすらに放蕩人生を生きた。アル中であり、フリーセックス、フリードラッグを地でいった。そして晩年は大麻で逮捕投獄された揚句に、泥酔して飲み屋の階段から落ちて死んでしまった享年52歳。世の中の光も闇も知り尽くした芸術家であった。

・ガダラの豚 2
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ガダラの豚は冷静に物語の全体構造を設計する表のらもと、人間の心の闇を知り尽くした裏のらもが、総力をあげて作り上げた大作だ。娯楽作品であると同時に深い闇がある。

主人公は大槻教授と吉村教授を足して2で割ったような、超常現象をテレビで否定する役割をこなしながら、呪術のフィールドワークを行う大学教授である。超能力者や似非教祖らとの激しい論争の中で、だましのからくりを次々に暴いていく。第1部は実際の事件や人物がモチーフになっていて、ぐいぐいひきこまれる。

第2部では教授たちはテレビ番組制作のために、調査チームを結成してアフリカへフィールドワークの旅にでかける。そこで遂に、教授にも正体が暴けない強力な呪術が登場する。人が人を呪い殺す魔術は本物なのか偽物なのか。やがて旅の一行は死の呪いとの決死の戦いを余儀なくされる。

・ガダラの豚 3
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ガダラの豚は大傑作と呼ぶべき代表作だが、第3部で突然ドタバタ劇になってしまうのは少し残念だ。映像化しやすい娯楽作品として完結させようとしたのだろうか。第1部と第2部のような、じわじわと迫りくる凄みが第3部にはない。スピーディーなハリウッド映画のような、わかりやすくて派手なエンディングで物語は幕を引く。評論家の間でも、第3部については賛否両論があるようだ。

しかし、作品全体としては100点満点で、

第1巻 120点
第2巻 120点
第3巻  60点

という感想で、全体としては満点である。フレーザーの呪術研究あたりに興味のある人には絶対的におすすめである。読まないと損である。

・図説 金枝篇
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/05/post-563.html

・中島らも オフィシャルサイト
http://www.ramo-nakajima.com/top.html

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このページは、daiyaが2008年6月 4日 23:59に書いたブログ記事です。

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