いつか、すべての子供たちに――「ティーチ・フォー・アメリカ」とそこで私が学んだこと

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アメリカ一流大学卒業生の人気就職先ベスト10にランク入りした非営利団体Teach for America(TFA)のファウンダー ウェンディ・コップの自伝。21歳の女子大生がアメリカの教育に大きな一石を投じることになった最初の10年間のサクセスストーリー。

・TFA
http://www.teachforamerica.org/

アメリカでは所得の格差は教育の格差となり、貧困を次の世代に遺伝させてしまうことが大きな問題になっている。

「生徒は通常、非常に不利な状況を抱えて、彼らのもとにやって来る。多くの生徒は、小学校一年生になったその日から遅れている。よい入学前プログラムに通っていなかったり、十分な栄養を取っていなかったりするからだ。子供が成長するにつれ、貧困から生じる問題により、優れた学業成績をあげることはさらにむずかしくなる。」

「低所得地域の子供たちは九歳の時点で、高所得地域の同い年の子供と比べて、算数では一~二学年遅れ、読解では三~四年遅れている。その後、このギャップは広がる一方で、ロサンジェルスの中南部で育った子供が大学を卒業する確率は、ビバリーヒルズで育った子供の約七分の一になる。」

「いつか、この国のすべての子供たちに、優れた教育を受ける機会が与えられること」。教育の不平等を解消するという夢を実現するために、大学生だったウェンディ・コップは、TFAプログラムを考案した。長い苦労の末、TFAは最も成功した現代のNPOのひとつとなった。

TFAは全米の劣悪な環境にある公立学校に、一流大学を卒業したばかりの新米教員を派遣する。2008年度の実績ではハーバード大学の卒業生の9%が、TFAの教員に応募したという。

誰でもTFA教員になれるわけではない。厳しい採用試験がある。2万5千人の応募者のうち合格は3600人の狭き門である。合格しても任期は2年間。年収は約2万5千ドルというから経済的な報酬は若きエリートにとって決して魅力的なものではないはずだ。純粋な動機が選別される。

こうして選ばれた優秀な頭脳と高い意欲を持つTFA教員は、全米各地で短い間に底辺校をトップ校に作り替えていく。彼ら自身も優秀教員として表彰されている。その型破りな活動は、当初は古い教育界から疑問視する声もあがったが、今では米国大統領や著名な経営者にも賞賛されるものになった。

「従来の先生には、教師という仕事が「生計を得るためのジョブ」となっている人たちが多い。それに対して、TFA教師たちを突き動かしているのは「使命感」なんです。」と解説にあるが、それが本質であろう。

興味深いことに、この本のほぼ半分はウェンディが自転車操業のNPOを存続させるために、全米を飛び回りながら資金調達を行った最初の10年間が描かれている。恐らく経営者の彼女にとってこの10年間は組織のためにカネを集めることがトップ・プライオリティの日々だったのだろう。

夢を実現するために必要な金も同時に追いかける。当初は情熱一辺倒の彼女が次第に経営リーダーとして成長しいていくのがわかる。理想と現実の間を埋めるためのマネジメント、ファンドレイズ、それができたことがTFAと彼女の成功の要因だっただろう。持続可能な経営と財務の基盤を築けない、ひ弱な社会起業家ではダメなのだ。

・アメリカ下層教育現場
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/post-923.html

・未来を変える80人 僕らが出会った社会起業家
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/05/80.html

・誰が世界を変えるのか ソーシャルイノベーションはここから始まる
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-821.html

・ビジョナリーカンパニー【特別編】
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/06/post-403.html

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このページは、daiyaが2009年4月 7日 23:59に書いたブログ記事です。

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